特許第5905968号(P5905968)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5905968
(24)【登録日】2016年3月25日
(45)【発行日】2016年4月20日
(54)【発明の名称】シリンジ
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/32 20060101AFI20160407BHJP
【FI】
   A61M5/32 530
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-532669(P2014-532669)
(86)(22)【出願日】2012年8月31日
(86)【国際出願番号】JP2012072112
(87)【国際公開番号】WO2014033898
(87)【国際公開日】20140306
【審査請求日】2014年11月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080159
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 望稔
(74)【代理人】
【識別番号】100090217
【弁理士】
【氏名又は名称】三和 晴子
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(72)【発明者】
【氏名】今井 正臣
(72)【発明者】
【氏名】冨家 滋晃
(72)【発明者】
【氏名】有延 学
【審査官】 藤田 和英
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2008/0154198(US,A1)
【文献】 国際公開第2006/007629(WO,A1)
【文献】 特開2002−095748(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/125561(WO,A1)
【文献】 特開2009−233286(JP,A)
【文献】 特表2006−519079(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/00 − 5/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に注射針を刺入して被検体内に薬液を注入するシリンジであって、
内部に薬液を収容するシリンジ本体と、
前記シリンジ本体の先端部に配置され、被検体の皮膚に接触する平坦な皮膚接触面を有するフランジ部と、
前記シリンジ本体の先端部に配置され且つ前記フランジ部より前方へ突出する注射針と
を備え、
前記フランジ部の皮膚接触面に、前記皮膚接触面からの圧力が外側に向かって逃げるように、前記注射針の近傍から前記フランジ部の外縁まで延び且つ前記注射針から離れるほど幅が拡がる形状の少なくとも1つの凹部が形成され
前記凹部は、前記注射針に対して前記皮膚接触面よりも基端側に位置する底面を有し、
前記凹部の側壁は、前記皮膚接触面に対して垂直となることを特徴とするシリンジ。
【請求項2】
前記凹部は、前記注射針の近傍から互いに反対方向を向いた2方向にそれぞれ延びるように形成、あるいは、前記注射針の近傍から互いに直交する4方向にそれぞれ延びるように形成される請求項1に記載のシリンジ。
【請求項3】
前記凹部は、前記注射針の近傍から外側に向かって1方向に延びるように形成される請求項1に記載のシリンジ。
【請求項4】
前記皮膚接触面は、少なくとも一部にエンボス加工が施されている請求項1〜3のいずれか一項に記載のシリンジ。
【請求項5】
前記皮膚接触面は、被検体との接触面積が低下するように形成された少なくとも一つの窪みを有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のシリンジ。
【請求項6】
前記凹部は、前記皮膚接触面にシールを貼付することにより形成された段差から構成される請求項1〜5のいずれか一項に記載のシリンジ。
【請求項7】
前記フランジ部は、前記シリンジ本体に一体に配置されている請求項1〜6のいずれか一項に記載のシリンジ。
【請求項8】
前記フランジ部は、前記シリンジ本体に着脱自在に配置されている請求項1〜6のいずれか一項に記載のシリンジ。
【請求項9】
前記シリンジ本体は、先端部の一部に薬液を封止するための封止体を含み、前記注射針が前記フランジ部を貫通して前記フランジ部に固定された両頭針から構成され、前記シリンジ本体の先端部に前記フランジ部が接続されて前記注射針の一端が前記封止体に刺入して貫通することにより、前記注射針が前記シリンジ本体の先端部に設置される請求項8に記載のシリンジ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、シリンジに係り、特に、被検体の皮膚に接触して押圧するためのフランジ部を有するシリンジに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、医療分野において、注射で薬液を患者の体内に直接投与することにより疾患の治療が行われている。注射に使用されるシリンジは、様々な種類のものが存在し、薬液の種類や治療目的などによってこれらが使い分けられている。例えば、糖尿病やリウマチなどの疾患で用いられるシリンジは、5mm程度の長さの注射針を有し、体内に注射針を刺入するとその先端が皮下組織まで到達するように構成されている。注射針の先端から皮下組織に注入された薬液は、皮下組織内を緩やかに移動して毛細血管等に吸収されるため、その効果を長時間にわたって維持することができる。
【0003】
しかしながら、上記のような皮下注射では、一般的に、1回に注射される薬液の量が例えば1mL程度と少ないため、シリンジは細長い形成を有し、操作性の低さが問題となっていた。例えば、シリンジを指で操作して薬液の注入を行う際に、シリンジが細いために確実に把持できず、シリンジの姿勢を維持することが困難であった。特に、リウマチ等の疾患では、医師ではなく、患者自身が注射を行うことが多く、シリンジの扱いが未熟な者、さらには疾患により手が不自由な者でも注射作業を容易に行うことができるシリンジが求められている。
【0004】
そこで、注射する際のシリンジの操作性を向上する技術として、例えば特許文献1に提案された自己注射器補助具では、シリンジを補助具内に挟み込んで固定し、その固定されたシリンジの先端側にシリンジの姿勢を安定させるためのフランジ部を設置することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第3143302号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の自己注射器補助具では、平坦に広がる皮膚接触面がフランジ部に形成されており、注射をする際に、この皮膚接触面が患者の皮膚に広く接触することにより、シリンジの姿勢を安定させることができる。
しかしながら、例えばシリンジの姿勢をさらに安定させるために皮膚接触面で患者の皮膚を押圧するなど、一連の注射作業において患者の皮膚が皮膚接触面により押圧されることがある。特許文献1では、皮膚接触面が注射針をほぼ囲むように形成されているため、この皮膚接触面で患者の皮膚を押圧すると、薬液の注入位置を囲むように生体組織が圧迫されてしまう。その結果、組織内に注入された薬液は注入位置から拡散されずにその場に停滞し、所定量の薬液をスムーズに体内に注入することが困難であった。また、薬液が注入位置に停滞した状態で体内から注射針を抜き取ると、薬液が体外に漏れて所定量の薬液を投与できないおそれもあるため、例えば注射後には薬液が拡散するまでの時間をおいて注射針を体内から抜き取るなどの対応がなされていた。なお、特許文献1において、フランジ部には皮膚接触面を切り欠いた導入部が形成されているが、この導入部はシリンジの針キャップを受け入れるためのもので、その内部に針キャップを留めるために外縁に近づくほど幅が狭くなるように、すなわちシリンジから離れるほど幅が狭くなるように形成されており、この導入部を介して皮膚接触面の押圧による圧力を外側に逃がすことは困難である。
【0007】
この発明は、このような従来の問題点を解消するためになされたもので、注射する際のシリンジの姿勢を安定させると共に所定量の薬液を患者の体内にスムーズに注入することができるシリンジを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係るシリンジは、被検体に注射針を刺入して被検体内に薬液を注入するシリンジであって、内部に薬液を収容するシリンジ本体と、前記シリンジ本体の先端部に配置され、被検体の皮膚に接触するための皮膚接触面を有するフランジ部と、前記シリンジ本体の先端部に配置され且つ前記フランジ部より前方へ突出する注射針とを備え、前記フランジ部の皮膚接触面に、前記皮膚接触面からの圧力が外側に向かって逃げるように、前記注射針の近傍から前記フランジ部の外縁まで延び且つ前記注射針から離れるほど幅が拡がる形状の少なくとも1つの凹部が形成され、凹部は、注射針に対して皮膚接触面よりも基端側に位置する底面を有し、凹部の側壁は、皮膚接触面に対して垂直となるものである。
【0009】
ここで、前記凹部は、前記注射針の近傍から互いに反対方向を向いた2方向にそれぞれ延びるように形成、あるいは、前記注射針の近傍から互いに直交する4方向にそれぞれ延びるように形成することができる。また、前記凹部は、前記注射針の近傍から外側に向かって1方向に延びるように形成してもよい。
さらに、第2の皮膚接触面は、凹部の底面により形成される構成にすることができる。また、第2の皮膚接触面は、第1の皮膚接触面に対して平行で且つ平坦な面により形成されてもよい。さらに、凹部の深さが1〜2mmであるという構成にすることができる。
また、前記第1の皮膚接触面は、少なくとも一部にエンボス加工を施すことができる。また、前記第1の皮膚接触面は、被検体との接触面積が低下するように形成された少なくとも一つの窪みを有することができる。
【0010】
また、前記凹部は、前記第1の皮膚接触面にシールを貼付することにより形成された段差から構成することができる。
また、前記フランジ部は、前記シリンジ本体に一体に配置することができる。
また、前記フランジ部は、前記シリンジ本体に着脱自在に配置してもよい。前記シリンジ本体は、先端部の一部に薬液を封止するための封止体を含み、前記注射針が前記フランジ部を貫通して前記フランジ部に固定された両頭針から構成され、前記シリンジ本体の先端部に前記フランジ部が接続されて前記注射針の一端が前記封止体に刺入して貫通することにより、前記注射針が前記シリンジ本体の先端部に設置することができる。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、皮膚接触面に注射針から離れるほど幅が拡がる形状の凹部が形成されているので、注射する際のシリンジの姿勢を安定させると共に所定量の薬液を患者の体内にスムーズに注入することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】この発明の実施の形態1に係るシリンジの構成を示す斜視図である。
図2】この発明の実施の形態1に係るシリンジの構成を示す断面図である。
図3】被検体に注射をする様子を段階的に示す断面図である。
図4】この発明の変形例に係るシリンジの構成を示す斜視図である。
図5】この発明の他の変形例に係るシリンジの構成を示す斜視図である。
図6】この発明のさらに他の変形例に係るシリンジの構成を示す斜視図である。
図7】実施の形態2に係るシリンジで用いられたフランジ部の構成を示す上面側斜視図である。
図8】実施の形態2に係るシリンジで用いられたフランジ部の構成を示す底面側斜視図である。
図9】実施の形態2に係るシリンジの構成を示す斜視図である。
図10】実施の形態3に係るシリンジの構成を示す断面図である。
図11】実施の形態3に係るシリンジで用いられたフランジ部の構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
実施の形態1
図1および2に、この発明の実施の形態1に係るシリンジの構成を示す。このシリンジは、内部に薬液を収容するシリンジ本体1と、シリンジ本体1の先端部に一体に配置されたフランジ部2と、シリンジ本体1の先端部に配置され且つフランジ部2を貫通して前方へ突出する注射針3とを有する。
【0014】
シリンジ本体1は、薬液を収容するための筒状部4と、筒状部4内に沿って摺動可能に配置されたガスケット5と、先端部がガスケット5に装着されてガスケット5の摺動を操作するプランジャロッド6とを有する。
筒状部4は、例えば円筒形状を有し、その先端部7が閉じられるように構成されており、ガスケット5との間で薬液を収容する。なお、先端部7には、注射針3が貫通するように配置されており、この注射針3を介して筒状部4内に収容した薬液を排出することができる。
ガスケット5は、筒状部4内の薬液を押圧して注射針3を介して薬液を排出させるためのもので、筒状部4の内径とほぼ同じ径を有する円柱状の形状を有し、その外周面が筒状部4の内周面に密接しつつ筒状部4内を摺動するように形成されている。
プランジャロッド6は、ガスケット5との装着位置から筒状部4の中心軸に沿って後方に延び、その後端部が筒状部4の後端部から外部に突出するように構成されている。この外部に突出された後端部を操作者が指などで操作することにより、筒状部4内に配置されたガスケット5を摺動させることができる。
【0015】
注射針3は、被検体内に刺入するために先端が鋭く尖るように形成されると共に、その先端から後端まで延びる針孔8を有する。この針孔8が筒状部4内まで延びることで、針孔8を介して筒状部4内に収容された薬液を排出する。
【0016】
フランジ部2は、被検体に注射針3を刺入した状態で被検体に対してシリンジ本体1の姿勢を安定させるためのもので、シリンジ本体1の両サイドに拡がるように幅広に形成されている。そして、フランジ部2の裏側、すなわち注射針3が突出する側には、被検体の皮膚に接触する平坦な皮膚接触面9が形成されている。すなわち、皮膚接触面9は、シリンジ本体1の中心軸に対して垂直となるように形成されている。
フランジ部2の裏側に広がる皮膚接触面9には、注射針3の近傍からフランジ部2の外縁まで延び且つ注射針3から離れるほど幅が拡がる形状の凹部10が形成されている。凹部10は、注射針3の近傍から互いに反対方向を向いた2方向にそれぞれ延びるように形成されると共にこの2つの凹部10が注射針3の近傍において互いに連結されている。2つの凹部10が連結されて一体となることにより、フランジ部2から突出した注射針3の突出位置を通るように皮膚接触面9を横断して延びる形状となり、その一体形状の段差を形成する互いに対向した2つの側壁11が、注射針3の近傍から離れるほど両者の距離が離れるように滑らかに湾曲されている。このため、皮膚接触面9は、凹部10を挟んでフランジ部2の両サイドに広がるように配置されることになる。
また、フランジ部2の裏側から注射針3が突出する長さLは、皮膚接触面9が被検体に接触すると同時に注射針3の先端が目的の注射位置に到達するように形成される。例えば、皮下注射であれば、注射針3は3mm〜6mm程度の長さLだけフランジ部2から突出するように形成することができる。
さらに、フランジ部2の両サイドに位置する皮膚接触面9には、それぞれの中央部分に窪み12が形成されており、皮膚接触面9と被検体との接触面積を低下させている。
【0017】
次に、このシリンジを用いて被検体に注射する動作について説明する。
まず、図3(A)に示すように、一定量の薬液を収容したシリンジが被検体Sに対して垂直となるように配置されると、そのままの状態で注射針3が被検体Sに刺入され、注射針3が被検体S内の所定の注射位置Rまで刺入されていく。例えば、皮下注射であれば、所定の注射位置Rは3mm〜6mmの深さに位置することになる。そして、図3(B)に示すように、注射針3の先端が被検体S内の所定の注射位置Rに到達し、これと同時にフランジ部2の皮膚接触面9が被検体Sの皮膚上に接触する。
このように、皮膚接触面9が被検体Sの皮膚に接触することで、シリンジ本体1の姿勢を被検体Sに対して安定させることができる。この皮膚接触面9は、シリンジ本体1の両サイドに広がるように形成されているため、例えばシリンジの扱いが未熟な者あるいは疾患により手が不自由な者であっても、シリンジ本体1の姿勢を容易に安定させることができる。また、皮膚接触面9は、シリンジ本体1に対して垂直となるように形成されているため、注射針3の刺入に伴ってシリンジ本体1の姿勢がずれた場合でも、皮膚接触面9が皮膚に接触すると同時にシリンジ本体1の姿勢を被検体Sの皮膚に対して垂直となるように修正することができる。さらに、皮膚接触面9には窪み12が形成されており、皮膚接触面9と被検体との接触面積を低下させることで皮膚接触面9が接触した時に感じる不快な冷覚を低下させることができる。また、窪み12のエッジを角張るように形成することにより、皮膚接触面9を皮膚に押し付けたときに窪み12のエッジが皮膚を圧刺激するため、注射針3の刺入による痛みを緩和させることも可能である。
【0018】
このようにして、被検体Sに接触させた皮膚接触面9により、例えばシリンジの姿勢をさらに安定させたい場合などにおいて、被検体Sを押圧することがある。この時、皮膚接触面9が注射針3を囲むように被検体Sを押圧すると注射した際に薬液が拡散されずにその場に停滞してしまうが、皮膚接触面9には注射針3から離れるほど幅が拡がる形状の凹部10が形成されており、皮膚接触面9の押圧による圧力を外側に向かって、すなわち注射針3から離れる方向に逃がすことができる。
ここで、皮膚接触面9が被検体Sを押圧する圧力が大きい場合には、その圧力に押された被検体Sの皮膚が凹部10内に入り込むことがある。その押圧力が大きくなるほど凹部10内に入り込む被検体Sの皮膚の量は多くなり、多量の皮膚が凹部10内に入り込むと、凹部10内の壁面が被検体Sを押圧してしまうなど、凹部10による圧力逃がしの妨げとなってしまう。そこで、本発明の皮膚接触面9は広い面積で被検体Sに接触するため、狭い面積で被検体Sに接触するものに比べて、小さい押圧力でシリンジ本体1の姿勢を安定させることができ、押圧力が必要以上に大きくなるのを抑制して、凹部10による圧力逃がしの効果が減少するのを抑制することができる。
【0019】
また、フランジ部2から突出する注射針3の長さLは、皮膚接触面9が被検体Sに接触すると同時に注射針3の先端が所定の注射位置Rに到達するように構成されているため、それ以上に皮膚接触面9を被検体Sに押し込む必要がない。これにより、凹部10内に被検体Sの皮膚が多量に入り込むことを抑制し、凹部10の圧力逃がしの効果が減少するのを抑制することができる。
さらに、凹部10の側壁11は、皮膚接触面9に対して垂直となるように形成するのが好ましい。これにより、皮膚接触面9に対して側壁11が緩やかに傾斜して接続される場合に比べ、凹部10内に被検体Sの皮膚が入り込み難くなり、凹部10内に多量の皮膚が入り込むことによって圧力逃がしの効果が減少するのを抑制することができる。
なお、凹部10は皮膚接触面9の押圧による圧力を逃がすことができれば良く、凹部10の深さは、例えば1mm〜2mm程度に形成することができる。
【0020】
続いて、薬液を被検体S内に注射する際には、図3(C)に示すように、シリンジ本体1の姿勢を被検体Sに対して安定させた状態で、プランジャロッド6が押し下げられ、これに伴いガスケット5が筒状部4の内周面に沿って押し下げられていく。ここで、図3(C)は、図3(A)および(B)に対して90度異なる方向からの断面図であり、凹部10が延びる方向の断面図である。このように、ガスケット5が押し下げられることにより、筒状部4内に収容された薬液が押圧され、押圧された薬液が注射針3の針孔8を介して所定の注射位置Rに位置する注射針3の先端部から被検体S内へと注入される。
この時、被検体Sが皮膚接触面9で押圧されている場合でも、その押圧力は皮膚接触面9に形成された凹部10により外側に向かって逃がされており、被検体S内に注入された薬液は、所定の注射位置Rから凹部10に沿って外側へと順次拡散されていく。このように、注射針3から注入された薬液が被検体S内に順次拡散していくため、薬液が所定の注射位置Rに停滞することを抑制し、スムーズにプランジャロッド6を押し下げていくことができる。
【0021】
そして、図3(D)に示すように、ガスケット5が筒状部4内を完全に押し下げられることで、被検体S内に一定量の薬液が注入される。皮下注射であれば、例えば、1mL〜5mLの薬液が注入される。その後、注射針3は、被検体S内から抜き取られる。この時、被検体S内に注入された薬液は、凹部10に沿って被検体S内に順次拡散して所定の注射位置Rに停滞しないため、一定量の薬液を注入後、時間を置かずに注射針3を被検体Sから抜き取ることができる。
このようにして、被検体内に注入された一定量の薬液は、被検体内を緩やかに移動して、毛細血管等に吸収されていく。
【0022】
本実施の形態によれば、皮膚接触面9の接触によりシリンジの姿勢を安定させると共に皮膚接触面9の押圧による圧力を凹部10が外側に逃がすことで一定量の薬液を被検体S内にスムーズに注入することができる。
【0023】
なお、上記の実施の形態では、フランジ部2の凹部10は、注射針3の近傍から互いに反対方向を向いた2方向にそれぞれ延びるように形成されたが、注射針3の近傍からフランジ部の外縁まで延び且つ注射針3から離れるほど幅が拡がる形状の凹部が少なくとも1つ形成されていればよく、これに限るものではない。
例えば、図4に示すように、注射針3から離れるほど幅が拡がる形状の凹部13を注射針3の近傍から互いに直交する4方向にそれぞれ延びるように形成することができる。このように、凹部13が延びる方向を増やすことで、皮膚接触面9の押圧による圧力が逃げる方向を増やすと共に薬液が拡散する方向を増やし、よりスムーズに薬液を被検体S内に拡散させることができる。
また、図5に示すように、注射針3から離れるほど幅が拡がる形状の凹部14を注射針3の近傍から外側に向かって1方向に延びるように形成することもできる。このように、皮膚接触面9の押圧による圧力を逃がす方向を1方向とすることで、薬液が被検体S内を拡散していく方向を1方向に規制することができ、例えば被検体内に皮膚障害があるなどしてその障害部位の方向に薬液を拡散させたくない場合に、障害部位とは逆方向に一定量の薬液を拡散させることができる。
【0024】
また、上記の実施の形態では、凹部10は、皮膚接触面9に一体に形成されていたが、皮膚接触面9に取り付け可能に構成してもよく、例えば、皮膚接触面9にシールを貼付することにより形成された段差から凹部を構成することもできる。これにより、シリンジの使用目的に応じて凹部10を後から形成することができ、シリンジを幅広い目的で使用することができる。また、皮膚接触面9に対して凹部を所望の方向に延びるように形成することができる。
【0025】
また、上記の実施の形態では、皮膚接触面9に窪み12を形成することにより、皮膚接触面9と被検体Sとの接触面積を低下させて皮膚接触面9の温度が被検体に伝達されるのを抑制していたが、皮膚接触面9が皮膚に接触した時に感じる不快な冷覚を低下させることができればよく、これに限るものではない。
例えば、図6に示すように、皮膚接触面9は、少なくとも一部にエンボス加工が施されたエンボス加工部15を形成することができる。このエンボス加工部15により皮膚接触面9と被検体Sとの接触面積を低下させ、皮膚接触面9が皮膚に接触した時に感じる不快な冷覚を低下させることができる。さらに、エンボス加工部15が滑り止めとなり、皮膚接触面9が皮膚上からずれることを抑制し、シリンジ本体1の姿勢をさらに安定させることができる。また、エンボス加工部15に形成された凹凸部のエッジをそれぞれ角張るように形成することにより、皮膚接触面9を皮膚に押し付けたときにエンボス加工部15の凹凸部のエッジが皮膚を圧刺激するため、注射針3の刺入による痛みを緩和させることも可能である。
また、皮膚接触面9は、少なくとも一部を断熱材で構成することもできる。この断熱材により皮膚接触面9の温度が被検体に伝達されるのを抑制し、皮膚接触面9が皮膚に接触した時に感じる不快な冷覚を低下させることができる。断熱材としては、例えば、ウレタンフォームなどの発泡系断熱材を使用することができる。
【0026】
また、皮膚接触面9の少なくとも一部を柔軟素材で構成することにより、皮膚接触面9が皮膚に接触した時の皮膚への物理的な刺激を低下させることができる。また、この柔軟素材が滑り止めとなり、皮膚接触面9が皮膚上からずれることを抑制し、シリンジ本体1の姿勢をさらに安定させることができる。柔軟素材としては、例えば、ゴムなどの弾性体を使用することができる。
【0027】
実施の形態2
図1に示した実施の形態1では、フランジ部2がシリンジ本体1の先端部7に一体に配置されていたが、フランジ部をシリンジ本体1に着脱自在に配置することもできる。例えば、図7および8に示すように、フランジ部21は、シリンジ本体1の先端部に応じた大きさの貫通孔22と、フランジ部21の外縁から切り欠かれて貫通孔22に連結された切り欠き部23とを有する。また、貫通孔22と切り欠き部23の間には、両者の連結部分を閉じるようにロック部材24が設置され、このロック部材24が弾性的に変形されることにより、シリンジ本体1にフランジ部21を着脱させることができる。また、フランジ部21の裏面側には、皮膚接触面26が形成されると共に、フランジ部21の貫通孔22から離れるほど幅が拡がる形状の凹部27が1方向に延びるように形成されている。
図9に示すように、シリンジ本体1の先端部25は、フランジ部21の貫通孔22の径とほぼ同じ大きさの外周面を有する。先端部25は、フランジ部21の外側から切り欠き部23に沿って内側へと移動され、その外周面でロック部材24を弾性的に変形させて貫通孔22内へと移動される。そして、先端部25が完全に貫通孔22内に収まると同時に、ロック部材24により貫通孔22内にロックされる。このようにして、フランジ部21をシリンジ本体1の先端部に容易に配置することができる。
【0028】
フランジ部21が配置されたシリンジは、実施の形態1と同様にして使用することができ、フランジ部21の皮膚接触面26を被検体Sの皮膚に接触させることによりシリンジ本体1の姿勢を被検体Sに対して安定させることができる。また、皮膚接触面26の押圧により被検体Sに与えられる圧力は、凹部27によって外側に逃がされるため、プランジャロッド6を押し下げることにより被検体S内に注入された薬液は所定の注射位置Rから凹部27に沿って外側へと順次拡散されていく。このようにして、一定量の薬液をスムーズに被検体内に注入することができる。なお、切り欠き部23は、貫通孔22から離れるほど幅が拡がるように形成するのが好ましい。皮膚接触面9の押圧による圧力は、貫通孔22を閉じるように形成されたロック部材24により切り欠き部23が延びる方向に逃がすことは困難であるが、貫通孔22から離れるほど幅が拡がるように形成することで圧力逃がしを補助させることができる。
【0029】
また、注射を終了して、フランジ部21をシリンジ本体1から取り外す場合には、先端部25の外周面でロック部材24を弾性的に変形させて貫通孔22内から切り欠き部23側へと移動させる。そして、先端部25をそのまま切り欠き部23に沿って外側へと移動させる。このように、フランジ部21をシリンジ本体1から容易に取り外すことができる。
【0030】
本実施の形態によれば、フランジ部21をシリンジ本体1に着脱自在に構成することにより、注射の目的に応じてフランジ部21の種類を交換することができ、シリンジを幅広い目的で使用することができる。具体的には、薬液が投与される被検体Sの部位の大きさに応じてフランジ部21の大きさを変えたり、あるいは、注射される被験者の体の大きさに応じてフランジ部21の大きさを変える、例えば小児用には小さいフランジ部21を用いることが可能である。また、薬液の投与量が少ない場合には、高さが低いシリンジ本体1が用いられるため、皮膚に接触する表面積が小さいフランジ部21をシリンジ本体1に配置することが好ましく、薬液の投与量が多い場合には、高さが高いシリンジ本体1が用いられるため、シリンジ本体1の姿勢が安定するように皮膚に接触する表面積が大きいフランジ部21を配置することが好ましい。
【0031】
実施の形態3
また、図10に示すようにシリンジを構成することにより、シリンジ本体31にフランジ部32を着脱自在に配置することもできる。
シリンジ本体31の先端部33には、円筒形状の本体側接続部35が前方に突出するように形成され、この本体側接続部35の内部に、筒状体4内に収容された薬液を封止するための封止体34が埋められている。また、本体側接続部35の外周面には、フランジ部32と接続するための本体側嵌合部36が形成されている。
図11に示すように、フランジ部32は、皮膚接触面9とは反対側の表面に突出した円筒形状のフランジ側接続部37を有する。フランジ側接続部37には弾性的に外側に開くように複数のスリットが形成されると共に、フランジ側接続部37の内周面にはシリンジ本体32の本体側嵌合部36と嵌合するためのフランジ側嵌合部38が形成されている。
注射針39は、一端部に針頭Aおよび他端部に針頭Bを有する両頭針から構成され、フランジ部32を貫通した状態で固定されている。
【0032】
シリンジ本体31の先端部にフランジ部32を配置する場合には、シリンジ本体31の本体側接続部35をフランジ部32のフランジ側接続部37内に挿入し、本体側嵌合部35の外周面に沿ってフランジ側接続部37を移動させる。そして、フランジ側接続部37を弾性的に変形させながらフランジ側嵌合部38を本体側嵌合部36に嵌合させる。この時、フランジ部32に固定された注射針39の針頭Aが、本体側接続部35内に埋められた封止体34に刺入して貫通し、筒状部4内に挿入されることにより、注射針39がシリンジ本体31の先端部33に設置される。このようにして、フランジ部32をシリンジ本体31の先端部に容易に配置することができる。
【0033】
フランジ部32が配置されたシリンジは、実施の形態1と同様にして使用することができ、フランジ部32の皮膚接触面9を被検体Sの皮膚に接触させることによりシリンジ本体31の姿勢を被検体Sに対して安定させ、これと同時に注射針39の針頭Bが被検体内に刺入される。また、皮膚接触面9の押圧による圧力は、凹部10によって外側に逃がされるため、プランジャロッド6を押し下げることにより注射針39の針頭Bから被検体S内に注入された薬液は所定の注射位置Rから凹部10に沿って外側へと順次拡散されていく。このようにして、一定量の薬液をスムーズに被検体内に注入することができる。
【0034】
また、注射を終了して、フランジ部32をシリンジ本体31から取り外す場合には、フランジ側接続部37を弾性的に変形させることにより、フランジ側嵌合部38と本体側嵌合部36の嵌合を解除し、そのまま本体側接続部35の外周面に沿ってフランジ側接続部37を前方に移動させて、フランジ側接続部37が本体側接続部35から抜き取られる。このように、フランジ部32をシリンジ本体31から容易に取り外すことができる。
【0035】
本実施の形態によれば、フランジ部32をシリンジ本体31に着脱自在に構成することにより、注射の目的に応じてフランジ部32の種類を交換することができ、シリンジを幅広い目的で使用することができる。具体的には、薬液が投与される被検体Sの部位の大きさに応じてフランジ部21の大きさを変えたり、あるいは、注射される被験者の体の大きさに応じてフランジ部21の大きさを変える、例えば小児用には小さいフランジ部21を用いることが可能である。また、薬液の投与量が少ない場合には、高さが低いシリンジ本体1が用いられるため、皮膚に接触する表面積が小さいフランジ部21をシリンジ本体1に配置することが好ましく、薬液の投与量が多い場合には、高さが高いシリンジ本体1が用いられるため、シリンジ本体1の姿勢が安定するように皮膚に接触する表面積が大きいフランジ部21を配置することが好ましい。
【符号の説明】
【0036】
1,31 シリンジ本体、2,21,32 フランジ部、3,39 注射針、4 筒状部、5 ガスケット、6 プランジャロッド、7,25,33 先端部、8 針孔、9,26 皮膚接触面、10,13,14,27 凹部、11 側壁、12 窪み、15 エンボス加工部、22 貫通孔、23 切り欠き部、24 ロック部材、34 封止体、35 本体側接続部、36 本体側嵌合部、37 フランジ側接続部、38 フランジ側嵌合部、S 被検体、R 所定の注射位置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11