特許第5906101号(P5906101)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5906101
(24)【登録日】2016年3月25日
(45)【発行日】2016年4月20日
(54)【発明の名称】防振吊り減震構造体
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/04 20060101AFI20160407BHJP
   F16F 1/12 20060101ALI20160407BHJP
   F16B 37/10 20060101ALI20160407BHJP
   F16B 2/22 20060101ALI20160407BHJP
【FI】
   F16F15/04 B
   F16F15/04 H
   F16F1/12 H
   F16B37/10
   F16B2/22 A
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-30572(P2012-30572)
(22)【出願日】2012年2月15日
(65)【公開番号】特開2013-167294(P2013-167294A)
(43)【公開日】2013年8月29日
【審査請求日】2015年1月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000224994
【氏名又は名称】特許機器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(72)【発明者】
【氏名】寺村 彰
【審査官】 塚原 一久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−115594(JP,A)
【文献】 特開平08−014651(JP,A)
【文献】 特開2008−050784(JP,A)
【文献】 特開平08−145031(JP,A)
【文献】 特開2011−141013(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3020928(JP,U)
【文献】 国際公開第2004/070218(WO,A1)
【文献】 特開2005−331049(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/00 − 15/36
F16F 1/12
F16B 2/00−2/26
F16B 37/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
設備機器を天吊り支持する構造体であって、天井躯体に設けられた固定具に対して上端部が螺着された複数の吊りボルトと、複数の前記吊りボルトの下端部にそれぞれ設けられ、前記設備機器に固定された連結片に対して連結された連結具と、を備え、
前記吊りボルトは、前記天井躯体側に配設され、上端部が前記固定具に螺着された第1吊りボルトと、前記設備機器側に配設されると共に、前記連結片に形成されたスリット孔の開口を通じて該スリット孔内にスライド挿入自在とされ、前記連結具を介して該連結片に固定された第2吊りボルトと、を有し、
前記第1吊りボルトの下端部と前記第2吊りボルトの上端部とを、前記吊りボルトのボルト軸方向に相対移動可能に連結させると共に、該相対移動に伴って入力された振動の振動エネルギーを消費して、前記吊りボルトに作用する振動負荷を低減させる振動低減連結ユニットを備え、
前記連結具は、互いに分離可能に組み合わされると共に、その組み合わせに伴って前記第2吊りボルトに対して径方向の外側から噛合可能とされた複数の分割体を有するクリップを備え、
前記複数の分割体は、回動可能に連結されると共に回動操作によって互いに組み合わせ可能とされ、前記クリップは、組み合わされた前記複数の分割体の結合状態を保持及び解除可能なロック機構を備え、
前記ロック機構は、前記複数の分割体のうちの1つに形成され、前記第2吊りボルトに対する噛合状態において側面視C形状で他の分割体側にC形状を向けた筒状部材とされた第1係合部と、前記複数の分割体のうち隣接する他の1つに形成された弾性変形自在な2つの突起片を有する側面視矢印形状とされて前記2つの突起片を前記側面視C形状の第1係合部内に嵌め込み自在とした第2係合部を有していることを特徴とする防振吊り減震構造体。
【請求項2】
前記第2係合部の矢印形状の係合部を前記設備機器に固定された連結片側に向けて前記連結具が前記第2吊りボルトの上端部に装着されたことを特徴とする防振吊り減震構造体。
【請求項3】
前記振動低減連結ユニットにコイルバネが組み込まれ、コイルバネの内側にtanδが0.5以上の材料からなる減衰管が組み込まれていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の防振吊り減震構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、設備機器を天吊り支持する防振吊り減震構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マンションやビル等の建築物内には各種の設備機器が設置されており、その用途や設置状況等に応じて、天井から吊下げた状態で支持される設備機器が数多く存在する。例えば、空調機器の室内ユニット、照明機器、空調ダクトや配管等が挙げられる。この場合、図8及び図9に示すように、設備機器Wは天吊り構造体100によって天吊り支持される場合が一般的である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この天吊り構造体100は、天井構造物101に取付けられたインサート102に対して上端部が螺着され、且つ下端部が設備機器Wに固定された連結金具103に対して連結された複数の吊りボルト104を具備している。このように構成された天吊り構造体100によって、設備機器Wは安定した天吊り支持がなされている。
【0004】
ところで、地震は、地球の誕生後、およそ46億年に亘って該地球の内部構造の活動に関連して発生する不可避な自然現象である。そして、自然を制圧し克服するという西洋科学技術思想の下で様々な地震対策が従来からなされてきた。
例えば、その1つとして耐震構造が知られている。これは、強度をもって地震に対抗することを目的としたものであり、例えば上記した天吊り構造体100そのものの強度(剛性)を向上させて、保護対象物である設備機器Wを地震の振動から守る構造方式である。
【0005】
また、従来における他の地震対策として免震構造が知られている。これは、地震の影響を限りなく零にすることを目的としたものであり、保護対象物を鉛直方向に支持しつつ、且つ水平方向に柔軟に変位可能なアイソレータやスライドレール等の免震機構を設置し、該免震機構がゆっくり移動することにより地震の振動が保護対象物に伝わらないようにするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−166711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、従来の天吊り構造体100は、上述したように耐震構造の方式を採用しているが、想定される地震の規模に応じて、過大な変形(移動距離)抑制と衝撃力の緩和という観点に欠けていたため、過大な加速度が設備機器Wに作用した際に該設備機器Wを保護するという点においては十分なものではなかった。
【0008】
具体的には、図9に示すように、地震が発生することで設備機器Wに対して加速度による力Fが作用した場合には、その影響によって吊りボルト104に曲げ変形が生じる。このとき、大きな地震であると過大な加速度が作用するので、吊りボルト104の曲げ変形も増大し、図10に示すように、例えばインサート102との結合部分である吊りボルト104の上端部側に大きな曲げモーメントが発生し易かった。そのため、吊りボルト104に破断や変形等が生じ、設備機器Wを保護することが難しかった。なお、図中のM図は、吊りボルト104に作用する曲げモーメントの応力図である。

また、吊りボルト104の曲げ変形に伴って、図11に示すように、連結金具103の変形(こじれ等)や、連結金具103と吊りボルト104との間の緩み等も発生する場合があり、この点においても設備機器Wを保護することが難しかった。
【0009】
一方、吊りボルト104を長くした場合には、免震構造としての働きを期待することができるが、大きな地震に対応するためには、吊り長さの確保に加え、設備機器Wを変位移動可能とさせる空間を大きく確保しておく必要がある。しかしながら、天井内の限られた空間内に、例えば複数の設備機器Wを天吊り支持する場合には、吊り長さ及び上記空間を十分に確保することが難しい。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、大きな移動可能空間を必要とせず、入力された振動エネルギーを小スペース内で効率良く吸収でき、設備機器を安定に天吊り支持して保護することができる防振吊り減震構造体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、この発明は以下の手段を提供している。
(1)本発明に係る防振吊り減震構造体は、設備機器を天吊り支持する構造体であって、天井躯体に設けられた固定具に対して上端部が螺着された複数の吊りボルトと、複数の前記吊りボルトの下端部にそれぞれ設けられ、前記設備機器に固定された連結片に対して連結された連結具と、を備え、前記吊りボルトは、前記天井躯体側に配設され、上端部が前記固定具に螺着された第1吊りボルトと、前記設備機器側に配設されると共に、前記連結片に形成されたスリット孔の開口を通じて該スリット孔内にスライド挿入自在とされ、前記連結具を介して該連結片に固定された第2吊りボルトと、を有し、前記第1吊りボルトの下端部と前記第2吊りボルトの上端部とを、前記吊りボルトのボルト軸方向に相対移動可能に連結させると共に、該相対移動に伴って入力された振動の振動エネルギーを消費して、前記吊りボルトに作用する振動負荷を低減させる振動低減連結ユニットを備え、前記連結具は、互いに分離可能に組み合わされると共に、その組み合わせに伴って前記第2吊りボルトに対して径方向の外側から噛合可能とされた複数の分割体を有するクリップを備え、前記複数の分割体は、回動可能に連結されると共に回動操作によって互いに組み合わせ可能とされ、前記クリップは、組み合わされた前記複数の分割体の結合状態を保持及び解除可能なロック機構を備え、前記ロック機構は、前記複数の分割体のうちの1つに形成され、前記第2吊りボルトに対する噛合状態において側面視C形状で他の分割体側にC形状を向けた筒状部材とされた第1係合部と、前記複数の分割体のうち隣接する他の1つに形成された弾性変形自在な2つの突起片を有する側面視矢印形状とされて前記2つの突起片を前記側面視C形状の第1係合部内に嵌め込み自在とした第2係合部を有していることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る防振吊り減震構造体によれば、地震発生等によって設備機器に対して外部から振動が入力されると、該振動は防振吊り減震構造体の全体に伝わりはじめるが、振動低減連結ユニットがその振動の振動エネルギーを例えば減衰、吸収によって消費する。
具体的には、振動によって設備機器と該設備機器を天吊り支持している吊りボルトとが相対変位すると、これに伴って、天井躯体側に取付けられている第1吊りボルトと、設備機器側に取付けられている第2吊りボルトと、が互いにボルト軸方向に相対移動する。すると、第1吊りボルトと第2吊りボルトとをボルト軸方向に相対移動可能に連結している振動低減連結ユニットが、その相対移動に伴って振動エネルギーを減衰、吸収して消費する。
【0013】
これにより、振動の総エネルギー量のうち吊りボルトに作用する振動エネルギー量を消費した分だけ低減でき、吊りボルトへの振動負荷を低減させることができる。つまり、減震させることができる。その結果、吊りボルトの破断や変形等の発生を抑制することができ、設備機器を安定に天吊りして保護することができる。
【0014】
また、吊りボルトを第1吊りボルト及び第2吊りボルトに分け、両吊りボルトを振動低減連結ユニットで連結する構成であるので、例えば吊りボルトを長くする等の対策により設備機器を大きく移動させることで振動を吸収させるといった従来の免震構造方式を採用する必要もない。従って、大きな移動可能空間を必要とせずに、上記した作用効果を奏効することができる。
更に、第1吊りボルトと第2吊りボルトとを振動低減連結ユニットで連結したままの状態であっても、第2吊りボルトをスリット孔内にスライド挿入することで、連結片に対して組み合わせることができるので、防振吊り減震構造体の設置作業性を向上することができる。
【0016】
また、第2吊りボルトに対して径方向の外側から噛合可能とされた複数の分割体を有するクリップを備えているので、第2吊りボルトをスリット孔内にスライド挿入した後、クリップを利用して第2吊りボルトと連結片とを一体的に連結することが可能である。特に、このクリップを取付ける場合には、複数の分割体を組み合わせるだけで、各分割体を第2吊りボルトに対して径方向の外側から噛合させることができるので、緩みを生じさせることなく強固に、しかもワンタッチで取付けることができる。従って、ナットを用いる場合とは異なり、防振吊り減震構造体の設置作業性をさらに向上することができる。加えて、ナットに比べてクリップは目立ち易いので、つけ忘れ等のヒューマンエラーを効果的に防止し易い。
【0018】
前記クリップは、組み合わされた複数の分割体の結合状態を保持及び解除可能なロック機構を備え、複数の分割体を回動操作のみで互いに組み合わせることができるので、クリップの取り付けを簡便に行える。また、ロック機構を具備しているので、工具等を用いることなく、容易に複数の分割体の結合状態を保持及び解除できる。
また、C形状の筒状部材とされた第1係合部と、弾性変形自在な2つの突起片を有する矢印形状でありC形状の第1係合部に嵌合自在とした第2係合部を備えているので、第1係合部と第2係合部の結合状態が目立ちやすく、つけ忘れ等のヒューマンエラーを効果的に防止し易い。
(2)上記本発明に係る防振吊り減震構造体において、前記第2係合部の矢印形状の係合部を前記設備機器に固定した連結片に向けて前記連結具が前記第2吊りボルトの上端部に装着されたことが好ましい。
(3)上記本発明に係る防振吊り減震構造体において、前記振動低減連結ユニットにコイルバネが組み込まれ、コイルバネの内側にtanδが0.5以上の材料からなる減衰管が組み込まれていることが好ましい。


【発明の効果】
【0019】
本発明に係る防振吊り減震構造体によれば、大きな移動可能空間を必要とせず、入力された振動エネルギーを小スペース内で効率良く吸収でき、設備機器を安定に天吊り支持して保護することができる。それに加え、設置作業を容易に行い易く、設置作業性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係る防振吊り減震構造体の一実施形態を示す外観斜視図である。
図2図1に示すA−A線に沿った断面図である。
図3図1に示す連結片の上面図である。
図4図2に示す振動低減連結ユニットの斜視図である。
図5図2に示すクリップの上面図である。
図6図5に示すクリップを矢印B方向から見た側面図である。
図7図4に示す吊りボルトを連結片のスリット孔内にスライド挿入させる直前の状態を示す図である。
図8】従来の防振吊り減震構造体の一例を示す全体斜視図である。
図9図8に示す防振吊り減震構造体の側面図である。
図10図8に示す状態から設備機器に外力が作用し、吊りボルトが曲げ変形した場合の簡略図である。
図11図8に示す状態から設備機器に外力が作用し、吊りボルトが曲げ変形した場合の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る防振吊り減震構造体の一実施形態について、図面を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態の防振吊り減震構造体1は、設備機器Wを天吊り支持(懸垂支持)するユニットであって、天井躯体F(例えば、天井コンクリート構造物)に埋設されたインサート(固定具)2に対して上端部が螺着された4本の吊りボルト3と、これら4本の吊りボルト3の下端部にそれぞれ設けられ、設備機器Wに固定された連結片4に対して連結された連結具5と、を備えている。
なお、図1では、連結具5及び後述する振動低減連結ユニット10の図示を簡略化している。
【0022】
また、本実施形態では、吊りボルト3は天井躯体Fから鉛直方向に垂下されている。そして、各吊りボルト3の中心を貫く軸をボルト軸Oといい、このボルト軸Oに沿って連結片4側から天井躯体F側に向かう方向を上側、その逆向きを下側という。また、ボルト軸Oに直交する方向を径方向という。更に、径方向のうち、設備機器Wを間に挟んで吊りボルト3が並ぶ方向を左右方向L1といい、径方向のうち、左右方向L1に直交する方向を前後方向L2とする。
また、上記設備機器Wとしては、特に限定されるものではないが、例えば空調機器の室内ユニット等が挙げられる。なお、設備機器Wの下面は、図示しない天井内装パネルに対して面一とされている。
【0023】
上記吊りボルト3は、上記したようにその上端部がインサート2に螺着されることで天井躯体Fから垂下されている。この際、各吊りボルト3は、左右方向L1及び前後方向L2にそれぞれ間隔を開けて配置されている。
ところで、各吊りボルト3は、図2に示すように、天井躯体F側に配設され、その上端部が上記インサート2に螺着された第1吊りボルト3Aと、設備機器W側に配設されると共に第1吊りボルト3Aに対して同軸に配設された第2吊りボルト3Bと、で構成されている。従って、上記ボルト軸Oは、これら第1吊りボルト3A及び第2吊りボルト3Bを共通して貫く共通軸とされている。
【0024】
第2吊りボルト3Bは、連結片4に形成された後述するスリット孔(図1参照)6の開口を通じて、該スリット孔6内に左右方向L1の外側からスライド挿入自在とされており、上記連結具5を介して連結片4に固定されている。
【0025】
連結片4は、図1図3に示すように、例えば設備機器Wの四隅に固定された側面視Z形状の板片であり、設備機器Wの側面から左右方向L1の外側に向けて突出したフランジ部4aに上記スリット孔6が形成されている。このスリット孔6は、フランジ部4aにおける縁部側に開口しており、これにより上述したように第2吊りボルト3Bを左右方向L1の外側から該スリット孔6内にスライド挿入させることが可能とされている。
なお、フランジ部4aの縁部には、その全長に亘って下方に向けて折り曲げ加工された鍔部4bが形成されている。
【0026】
ところで、本実施形態の防振吊り減震構造体1では、図2に示すように、第1吊りボルト3Aの下端部と第2吊りボルト3Bの上端部とをボルト軸O方向である上下方向に相対移動可能に連結させると共に、該相対移動に伴って入力された振動の振動エネルギーを消費して、吊りボルト3全体に作用する振動負荷を低減させる振動低減連結ユニット10(減震器)を備えている。
【0027】
この振動低減連結ユニット10は、図2及び図4に示すように、上下方向に間隔を開けて向かい合わせに配設された天壁板11及び底壁板12と、これら天壁板11と底壁板12とを連結する連結片13と、を有する連結枠体15を備えている。
連結片13は、上下方向に延在した横断面視コの字状の部材であり、天壁板11と底壁板12とを一体的に連結している。天壁板11の略中央部には挿通孔11aが形成され、該挿通孔11aを通じて第1吊りボルト3Aが挿通されている。一方、底壁板12の略中央部にも挿通孔12aが形成され、該挿通孔12aを通じて第2吊りボルト3Bが挿通されている。
【0028】
なお、第2吊りボルト3Bのヘッド部と底壁板12との間には、高減衰ワッシャ17が介在されている。この高減衰ワッシャ17は、弾性と減衰とを併せ持つ材料(例えば、硬度40度で且つtanδが0.5以上となる材料)によって環状に形成された高減衰特性を有する部材である。
【0029】
また、天壁板11と底壁板12との間には、連結片13で案内されながら上下方向に移動可能とされた可動板16が配設されている。そして、この可動板16の略中央部には挿通孔16aが形成され、天壁板11を挿通した第1吊りボルト3Aがさらにこの挿通孔16a内を挿通している。
そして、第1吊りボルト3Aには、天壁板11の上方に位置する部分と、可動板16の下方に位置する部分と、にそれぞれナット18が螺着されており、これら2つのナット18によって天壁板11と可動板16との上下方向の間隔H(図2参照)が調整されている。なお、天壁板11とナット18との間には、天壁板11に対して離間不能に配された皿ばね19が介在されている。
【0030】
また、天壁板11と可動板16との間には、第1吊りボルト3Aに外挿されたコイルバネ20が圧縮状態で介在されている。これにより、天壁板11と可動板16とは、コイルバネ20による弾性力を受けて、互いに離間する方向に常時付勢されている。
しかしながら、天壁板11と可動板16とは、上記した2つのナット18によって間隔Hが調整されているので、該間隔H以上、離間することがない。一方、コイルバネ20の弾性力を超える外力が例えば連結枠体15に作用した場合、連結枠体15は可動板16と天壁板11とが接近する下方向に移動可能とされている。この場合、連結枠体15は、移動後に、コイルバネ20の弾性復元力によって逆方向(上方向)に移動する。
このように、連結枠体15、可動板16及びコイルバネ20等は、第1吊りボルト3Aと第2吊りボルト3Bとを上下方向に相対移動可能に連結している。
【0031】
更に、天壁板11と可動板16との間には、第1吊りボルト3Aに外挿され、且つコイルバネ20の径方向の内側に位置する減衰管21が圧縮状態で介在されている。この減衰管21は、弾性と減衰とを併せ持つ材料(例えば、硬度40度で且つtanδが0.5以上となる材料)によって環状に形成され、且つ上下方向に伸縮自在とされた高減衰特性を有する部材とされている。従って、この減衰管21はコイルバネ20と相まって天壁板11と可動板16とを互いに離間させる方向に付勢している。
そして、上記した皿ばね19、コイルバネ20及び減衰管21等は、第1吊りボルト3Aと第2吊りボルト3Bとが相対移動した際に、それに伴って入力された振動の振動エネルギーを吸収する役割を果している。
【0032】
また、上記連結具5は、図2に示すように、第2吊りボルト3Bに対してワンタッチで取付け可能とされたクリップ30を具備しており、該クリップ30を利用して連結片4のスリット孔6内にスライド挿入された第2吊りボルト3Bを連結片4に対して固定することが可能とされている。
【0033】
このクリップ30は、図2図5及び図6に示すように、長ナットを2つに分割した部材とされ、互いに径方向に分離可能に組み合わされる第1ナット部材(分割体)31及び第2ナット部材(分割体)32を備えている。
これら第1ナット部材31及び第2ナット部材32は、ヒンジ片33を介して互いに回動可能に連結されており、回動操作によって組み合わせ及びその分離が可能とされている。そして、第1ナット部材31と第2ナット部材32とを組み合わせることで、第2吊りボルト3Bを径方向の外側から囲繞し、両ナット部材31、32のねじ溝を第2吊りボルト3Bに螺着させることが可能となる。
【0034】
また、第1ナット部材31には第1係合部35が取付けられ、第2ナット部材32には第1係合部35に係合する第2係合部36が取付けられている。
第1係合部35は、例えば側面視C形状の筒状部材とされ、第2ナット部材32側に開口している。第2係合部36は、例えば弾性変形自在な2つの突起片36aを有する側面視矢印形状の部材とされ、上記開口を通じて突起片36aが弾性変形しながら第1係合部35内に進入し、その後、突起片36aが内部で復元変形することで、第1係合部35に係合することが可能とされている。
これら第1係合部35及び第2係合部36は、組み合わされた第1ナット部材31及び第2ナット部材32の結合状態を保持及び解除可能なロック機構37として機能する。
【0035】
なお、図2に示すように、連結片4のフランジ部4aとクリップ30との間には、上記した高減衰ワッシャ17と同様の高減衰ワッシャ38が介在されている。また、フランジ部4aに形成された鍔部4bは、クリップ30の一部を左右方向L1の外側から覆う程度、下方に突出しており、例えばクリップ30の外れを抑制する機能を果している。
【0036】
このように構成された防振吊り減震構造体1によれば、地震発生等によって設備機器Wに外部から振動が入力されると、該振動は防振吊り減震構造体1の全体に伝わりはじめるが、振動低減連結ユニット10を利用してその振動の振動エネルギーを消費することができる。
具体的には、振動によって設備機器Wと該設備機器Wを天吊り支持している吊りボルト3とが主に上下方向に相対変位したとしても、これに伴って、第1吊りボルト3Aと第2吊りボルト3Bとを互いに上下方向に相対移動させることができる。すると、第1吊りボルト3Aと第2吊りボルト3Bとを上下方向に相対移動可能に連結している振動低減連結ユニット10がその相対移動に伴って振動エネルギーを減衰、吸収して消費することができる。
【0037】
より詳細には、第1吊りボルト3Aと第2吊りボルト3Bとが互いに上下方向に相対移動すると、連結枠体15が可動板16に対して相対的に下方向(接近方向)に移動するので、コイルバネ20及び減衰管21を圧縮させる。そして、移動後、連結枠体15はコイルバネ20及び減衰管21の弾性復元力を受けて元の状態に復帰させられるので、上方向に移動する。そして、連結枠体15はこれを繰り返すので、上下方向に往復移動する。このとき、コイルバネ20及び減衰管21が上下方向の衝撃力を減衰、吸収する。これにより、振動エネルギーを消費することができる。
特に、コイルバネ20によって、振動入力時の最初の衝撃力を緩和することが可能であるうえ、2枚の高減衰ワッシャ17、38及び皿ばね19によっても振動エネルギーを減衰、吸収によって消費することもできる。
【0038】
従って、振動の総エネルギー量のうち、吊りボルト3に蓄積される振動エネルギー量を上記消費した分だけ低減できる。そのため、吊りボルト3に作用する振動負荷を低減させることができる。つまり、振動を減震させることができる。
その結果、吊りボルト3に生じる曲げ変形や破断等を効果的に抑制でき、設備機器Wを過度に揺らすことなく安定に天吊り支持して保護することができる。
【0039】
特に、吊りボルト3を第1吊りボルト3A及び第2吊りボルト3Bに分けて構成し、両吊りボルト3A、3Bを振動低減連結ユニット10で連結する構成であるので、例えば吊りボルト3を長くする等の対策により設備機器Wを大きく移動させることで振動を吸収させるといった従来の免震構造方式を採用する必要もない。従って、大きな移動可能空間を必要とせずに、上記した作用効果を奏効することができる。
【0040】
このように、本実施形態に係る防振吊り減震構造体1によれば、大きな移動可能空間を必要とせずに、入力された振動エネルギーを小スペース内で効率良く吸収でき、設備機器Wを安定に天吊り支持して保護することができる。
【0041】
更に、本実施形態に係る防振吊り減震構造体1によれば、第1吊りボルト3Aと第2吊りボルト3Bとを振動低減連結ユニット10で連結したままの状態であっても、第2吊りボルト3Bをスリット孔6内にスライド挿入することで、連結片4に対して組み合わせることができるので、設置作業を容易に行い易く、設置作業性を向上することができる。
【0042】
この点、具体的に説明する。
設置作業を行う場合には、図7に示すように、第2吊りボルト3Bを連結片4のフランジ部4aに形成されたスリット孔6内に左右方向L1の外側からスライド挿入して、連結片4に組み合わせる。この際、連結枠体15の底壁板12がフランジ部4aの上面に接するようにスライド挿入する。次いで、図2に示すように、高減衰ワッシャ38を間に介在させた状態で、クリップ30をフランジ部4aの真下に位置させ、その位置で回動操作により第1ナット部材31と第2ナット部材32とを組み合わせると共に、第1係合部35に第2係合部36を係合させて、第1ナット部材31と第2ナット部材32との組み合わせをロックする。
【0043】
これにより、第1ナット部材31及び第2ナット部材32のねじ溝を第2吊りボルト3Bに対して径方向の外側から噛合させることができ、第2吊りボルト3Bのねじ溝に噛み込ませて固着させることができる。従って、クリップ30を第2吊りボルト3Bに対して、緩みを生じさせることなく強固に、しかもワンタッチで取付けることができる。従って、ナットを用いる場合とは異なり、非常に簡便に設置作業を行うことができる。加えて、ナットに比べてクリップ30は目立ち易いので、つけ忘れ等のヒューマンエラーを効果的に防止し易い。
また、ロック機構37を利用して、工具等を用いることなく第1ナット部材31と第2ナット部材32との結合状態を保持及び解除できるので、この点においても設置作業を行い易い。
【0044】
なお、本発明の技術範囲は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更を加えることが可能である。
【0045】
例えば、4本の吊りボルト3を利用して設備機器Wを天吊り支持したが、設備機器Wの種類、用途等に応じて吊りボルト3の本数や配置を適宜変更して構わない。
また、上記実施形態では、クリップ30を利用して第2吊りボルト3Bを連結片4に対してワンタッチで取付けたが、クリップ30は必須なものではなく、例えば第2吊りボルト3Bをスリット孔6内にスライド挿入させた後、ナットを利用して連結片4に取付けても構わない。但し、設置作業性を考慮すると、クリップ30を用いることが好ましい。
【符号の説明】
【0046】
F…天井躯体
W…設備機器
1…防振吊り減震構造体
2…インサート(固定具)
3…吊りボルト
3A…第1吊りボルト
3B…第2吊りボルト
4…連結片
5…連結具
6…スリット孔
10…振動低減連結ユニット
30…クリップ
31…第1ナット部材(分割体)
32…第2ナット部材(分割体)
37…ロック機構
図1
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