特許第5906115号(P5906115)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5906115
(24)【登録日】2016年3月25日
(45)【発行日】2016年4月20日
(54)【発明の名称】光走査装置及びレーザ加工装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 26/12 20060101AFI20160407BHJP
   B23K 26/082 20140101ALI20160407BHJP
   H01L 31/0445 20140101ALI20160407BHJP
【FI】
   G02B26/12
   B23K26/082
   H01L31/04 530
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-75830(P2012-75830)
(22)【出願日】2012年3月29日
(65)【公開番号】特開2013-205685(P2013-205685A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2015年3月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中澤 睦裕
(72)【発明者】
【氏名】高原 一典
(72)【発明者】
【氏名】大串 修己
【審査官】 山本 貴一
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭52−056547(JP,A)
【文献】 特開昭61−203421(JP,A)
【文献】 特開2002−116401(JP,A)
【文献】 特開平11−125778(JP,A)
【文献】 特開2005−070204(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 26/10,26/12
B23K 26/08,26/082
H01L 31/0445
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を投光中心周りに角移動させながら放射する投光手段と、
前記投光手段からのレーザ光を反射して落射する放物面を有する反射手段と、を備え、
前記投光中心が、前記放物面の焦点に配置され、
前記投光手段は、レーザ光の回転角が前記放物面の頂点で反射するときの回転角である基準角から離れているほどレーザ光の角速度が小さくなるように、レーザ光を非等速で角移動させながら放射する、光走査装置。
【請求項2】
前記投光手段が、複数の反射面を有する回転多面鏡を備え、
前記回転多面鏡に入射したレーザ光が前記複数の反射面のうちの1つを通過する間に1本の走査線が形成され、前記1本の走査線が形成される間に前記回転多面鏡の回転角が前記基準角を通過する、請求項1に記載の光走査装置。
【請求項3】
レーザ光の回転角が前記基準角であるときに、レーザ光が前記複数の反射面のうちの任意の反射面の中間点に入射する、請求項2に記載の光走査装置。
【請求項4】
前記焦点と前記頂点との距離をa、レーザ光の走査速度をv、レーザ光の回転角が前記基準角である時点から経過した時間をt、レーザ光の角速度をωとした場合、前記投光手段は、ω=v/a{1+(v×t/2a)}を満たすように、レーザ光を角移動させながら放射する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光走査装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光走査装置を備え、前記反射手段からレーザ光をワークに落射し、該ワークに加工ラインを形成する、レーザ加工装置。
【請求項6】
ワークを一定の搬送速度で搬送方向に搬送する搬送装置を備え、
前記放物面が前記搬送方向に対して交差する方向に延びて配置されており、
前記搬送装置でワークを搬送しながら前記投光手段を連続運転し、それによりワークに前記搬送方向に対して直角となる走査方向に延びる複数の加工ラインを前記搬送方向に並べるようにして形成する、請求項5に記載のレーザ加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光を走査する光走査装置、及び、このような光走査装置を備えてワークにレーザ光で加工ラインを形成するレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜太陽電池の生産工場では、ガラス基板の片面に金属膜やシリコン膜等の半導体を成膜して成るワークに、レーザ加工装置を用いてパターニング処理が行われる。パターニング処理では、レーザ光がワークの薄膜層の表面上で直線的に走査され、レーザ光の走査線に沿って薄膜層を部分的に除去することで直線状の溝(スクライブ線)が形成される。
【0003】
一般に、パターニング処理用レーザ加工装置では、微細加工を行えること、熱的影響を抑えやすいこと等に照らして、レーザ光にパルスレーザが適用される。レーザ光にパルスレーザを適用した場合、あるタイミングで発振されたレーザ光の照射領域を1パルス幅だけ前に発振されたレーザ光の照射領域とワーク上で部分的にオーバーラップさせるようにレーザ光が走査され、それによりスクライブ線の連続性が担保される。なお、隣接する2パルスのレーザ光の照射領域同士がオーバーラップする領域は、「被り代」と称される。
【0004】
従来、偏向器からのレーザ光を弧上に取り付けたミラーで反射し、レーザ光をこのミラーからワークに落射するように構成されたレーザ加工装置があり(例えば、特許文献1参照)、このレーザ加工装置では、偏向器の偏向中心が弧の中心に配置されている。この構成により、偏向器の回転角に関わらずレーザ光がワークに略垂直に入射させることや、偏向器の回転角に関わらず偏向中心からワークまでの光路長を略一定にすることが試みられている。そして、ビームと同軸にカメラの画像撮影軸が配置され、その画像から得られた加工対象の位置及び種別情報に基づきレーザ光の位置と出力が制御される。また、ワークの落射範囲にマスクをかざすことで多彩な加工を可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−000625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示されるレーザ加工装置においては、偏向器を駆動するモータに運動性のよいモータが使用されるが、偏向器の動作速度及びレーザ光の走査速度についての考慮がなされていない。そこで仮に特許文献1に開示されたレーザ加工装置を用いて直線的な加工ラインを形成しようとした場合に、偏向器を単純に等速で回転駆動すれば、偏向器から放射されるレーザ光は等速で角移動する。すると、弧の頂点付近から落射したレーザ光の走査速度と、弧の頂点から離れた箇所から落射したレーザ光の走査速度に違いが出る。このようにレーザ光が非等速で走査されると、1本のスクライブ線内で場所により被り代の大きさが変化し、加工ムラを生じてしまう。
【0007】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものであり、レーザ光の入射角を極力垂直にしてレーザ光を走査線上で極力合焦させ続けながらも、レーザ光の走査速度を極力等速にすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る光走査装置は、レーザ光を投光中心周りに角移動させながら放射する投光手段と、前記投光手段からのレーザ光を反射して落射する放物面を有した反射手段と、を備え、前記投光中心が、前記放物面の焦点に配置され、前記投光手段は、レーザ光の回転角がレーザ光を前記放物面の頂点で反射するときの回転角である基準角から離れているほどレーザ光の角速度が小さくなるように、レーザ光を非等速で角移動させながら放射する。
【0009】
仮にレーザ光が等速で角移動したならば、レーザ光の回転角が基準角の近傍であるときのレーザ光の走査速度が比較的小さくなる。逆に、レーザ光の回転角が基準角から離れているときのレーザ光の走査速度が比較的大きくなる。このように、レーザ光の走査速度がレーザ光の回転角に応じて変化してしまう。
【0010】
これに対し、前記構成によれば、レーザ光が非等速で角移動する。しかも、レーザ光の回転角が基準角から離れているほど、レーザ光の角速度は小さい。このため、レーザ光の走査速度の変化を小さくすることができる。したがって、レーザ光の走査速度を極力等速にすることが可能となる。また、投光中心を放物面の焦点に配置しているので、レーザ光の回転角に関わらずレーザ光の入射角を垂直にすることが可能となるし、レーザ光の回転角に関わらず投光中心から走査線までの光路長を一定に保つことができる。また、放物面は比較的製作が容易であるので、光走査装置の製作コストが高くなるのを抑えることができる。
【0011】
前記投光手段が、複数の反射面を有する回転多面鏡を備え、前記回転多面鏡に入射したレーザ光が前記複数の反射面のうちの1つを通過する間に1本の走査線が形成され、前記1本の走査線が形成される間に前記回転多面鏡の回転角が前記基準角を通過してもよい。
【0012】
前記構成によれば、レーザ光の角速度を変化させながら回転多面鏡(ポリゴンミラー)を同じ方向に回転させることにより、複数本の走査線に沿ってレーザ光を走査することができる。
【0013】
レーザ光の回転角が前記基準角であるときに、レーザ光が前記複数の反射面のうちの任意の反射面の中間点に入射してもよい。
【0014】
前記構成によれば、隣接する反射面同士が繋がる稜部をレーザ光が通過するときに、レーザ光の角速度を連続させることができる。
【0015】
前記焦点と前記頂点との距離をa、レーザ光の走査速度をV、レーザ光の回転角が前記基準角である時点から経過した時間をt、レーザ光の角速度をωとした場合、前記投光手段は、ω=V/a{1+(V×t/2a)}を満たすように、レーザ光を非等速で角移動させながら放射してもよい。
【0016】
前記構成によれば、レーザ光を等速で直線移動させることができる。なお、レーザ光の回転角が基準角である時点から経過した時間tは、正の値でも、ゼロでも、負の値でもよい。tが負の値である場合、tは、レーザ光の回転角が基準角になるまでの所要時間を意味する。
【0017】
本発明に係るレーザ加工装置は、前述したような光走査装置を備え、前記反射手段からレーザ光をワークに落射し、ワークに加工ラインを形成する。
【0018】
前記構成によれば、ワーク上でのレーザ光の走査速度を極力等速にすることが可能となるし、レーザ光のワークへの入射角度をレーザ光の回転角に関わらず垂直にすることができるし、レーザ光の回転角に関わらず投光中心からワークまでの光路長を一定に保つことができる。このため、加工ムラを抑えながら加工効率を向上させることができる。
【0019】
ワークを一定の搬送速度で搬送方向に搬送する搬送装置を備え、前記放物面が前記搬送方向に対して交差する方向に延びて配置されており、前記搬送装置でワークを搬送しながら前記投光手段を連続運転し、それによりワークに前記搬送方向に対して直角となる走査方向に延びる複数の加工ラインを前記搬送方向に並べるようにして形成してもよい。
【0020】
前記構成によれば、ワークを搬送しながら加工ラインを形成することができるので、タクトタイムを短縮することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、レーザ光のワークへの入射角を極力垂直にしてレーザ光をワーク上で極力合焦させ続けながら、ワーク上におけるレーザ光の走査速度を極力等速にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態に係るレーザ加工装置の構成を概念的に示す斜視図である。
図2図1に示すレーザ加工装置の概要構成を示すブロック図である。
図3】ワークの搬送方向Yと、スクライブ線の加工方向Xと、レーザ光の実走査方向X´との関係性を示す概念図である。
図4】スクライブ線の加工方向Xを横軸、レーザ光の落射方向Zを縦軸にとった二次元直交座標系において示すレーザ走査ヘッドの概念図であって、放物線ミラーとポリゴンミラーの投光中心との位置関係を示すとともに、レーザ光の加工方向Xにおける位置と、レーザ光の加工方向Xにおける走査速度と、ポリゴンミラーの回転角度と、ポリゴンミラーの角速度との関係性を示す概念図である。
図5図1に示すレーザ加工装置の動作の一例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。同一の又は対応する要素については、全ての図を通じて同一の符号を付し、重複する詳細な説明を省略する。
【0024】
(レーザ加工装置の概要構成)
図1は、本発明の実施形態に係るレーザ加工装置10の構成を概念的に示す斜視図である。本実施形態に係るレーザ加工装置10は、例えば薄膜太陽電池の生産工場でパターニング処理に好適に利用される。レーザ加工装置10をパターニング処理に利用する場合、ワーク90に、基板91の片面に薄膜層92を成膜して成る板状又はフィルム状部材が適用され、レーザ光は、薄膜層92の表面とは反対側の面(以降、「入射面90a」と称す)に入射する。薄膜層92には、基板91の片面上に直接成膜される透明電極層や、透明電極層の表面上に成膜される光電変換層などが含まれる。
【0025】
本実施形態に係るレーザ加工装置10は、入射面90aと平行な面内における一方向Y(以降、「搬送方向Y」と称す)にワーク90を定速で搬送する。同時に、入射面90aに対し垂直な方向Z(以降、「落射方向Z」と称す)にレーザ光を照射し、当該レーザ光をワーク90上で直線的に走査する。これにより、レーザ光が基板91を透過し、薄膜層92の表層がレーザ光の照射箇所において除去され、薄膜層92に直線状の溝93(以降、「スクライブ線93」と称す)が形成される。レーザ光の走査は、搬送方向Yに位置を変えながら複数回行われ、それにより単一のワーク90に複数本のスクライブ線93が形成される。複数本のスクライブ線93は、搬送方向Yに等間隔をおいて配置され且つ搬送方向Yに直交する方向X(以降、「加工方向X」と称す)に平行に延在するように形成される。
【0026】
本実施形態では、入射面90aを水平に向けた状態にしてワーク90が搬送され、そのため、加工方向X及び搬送方向Yが水平、落射方向Zが鉛直である。以降の説明では、このワーク90の姿勢を前提とするが、この姿勢は一例に過ぎず適宜変更可能である。
【0027】
図1に示すように、本実施形態に係るレーザ加工装置10は、主として、搬送装置11、レーザ発振器12及びレーザ走査ヘッド13を備えている。
【0028】
搬送装置11は、ワーク90を支持してワーク90を搬送方向Yに搬送する搬送機構21と、搬送機構21を駆動する搬送アクチュエータ22(図2参照)とを備えている。例えば、搬送機構21は、加工方向Xに延び且つ搬送方向Yに並ぶ複数の回転シャフト23と、各回転シャフト23に設けられて対応の回転シャフト23と共に回転するローラ24とを備えている。ワーク90は、入射面90aを下に向けて薄膜層92を上に向けた姿勢でローラ24の周面上に載置される。搬送アクチュエータ22は、例えば電気モータであり、複数の回転シャフト23を同期して回転駆動する。すると、ローラ24上のワーク90が、搬送方向Yに搬送されていく。
【0029】
レーザ発振器12は、ミリ秒〜マイクロ秒オーダーのパルス幅(すなわち、キロヘルツ〜メガヘルツオーダーの周波数)でパルスレーザを発振し、レーザ光をレーザ走査ヘッド13に向けて出射する。なお、レーザ光は、固体レーザでも液体レーザでも気体レーザでもよい。レーザ発振器12から入射面90aに至るまでの光路上には、レーザ光が薄膜層92で焦点を結ぶことができるように、レンズ15が設けられている。図1では、レンズ15をレーザ発振器12とレーザ走査ヘッド13との間に設けた場合を例示しているが、レンズ15の配置は特に限定されない。
【0030】
レーザ走査ヘッド13は、レーザ発振器12からのレーザ光を偏向しながらワーク90にレーザ光を照射し、レーザ光をワーク90上又はワーク90内で直線に延びる走査線に沿って走査する。本実施形態では、レーザ走査ヘッド13は、搬送機構21よりも下に配置されており、レーザ光の落射方向Zが鉛直上向きである。レーザ光は、回転シャフト23を避けるように下から上に向けられ、入射面90aに下から入射する。
【0031】
レーザ走査ヘッド13は、レーザ光を投光中心C周りに角移動させながら放射する放射部30と、放射部30からのレーザ光を反射してワーク90に落射する放物面を有した反射部とを備える。より具体的には、レーザ光を走査する光学系を構成する素子として、入射したレーザ光を投光中心C回りに角移動させるポリゴンミラー31と、ポリゴンミラー31からのレーザ光を反射する放物線ミラー32とを備えている。放物線ミラー32からのレーザ光は、落射方向Zに延びる光路を上向きに通り、入射面90aに下から垂直に入射する。レーザ走査ヘッド13は、ポリゴンミラー31を回転駆動する偏向アクチュエータ33と、ポリゴンミラー31及び放物線ミラー32を内蔵する筐体34とを更に備えている。ポリゴンミラー31及び偏向アクチュエータ33は、投光部30を構成しており、放物線ミラー32は、反射部を構成している。
【0032】
ポリゴンミラー31は、正多角柱状の外形を有し、複数の反射鏡面41〜46がポリゴンミラー31の側面それぞれに設けられている。図1では、ポリゴンミラー31が6つの反射鏡面41〜46を有し、これら反射鏡面41〜46がポリゴンミラー31の中心軸線方向に見たときに正六角形を成す場合を例示しているが、ポリゴンミラー31の反射鏡面数は6に限定されない。偏向アクチュエータ33は、例えば電気モータであり、ポリゴンミラー31をポリゴンミラー31の中心軸線周りに回転駆動する。
【0033】
レーザ発振器12からのレーザ光は、筐体34内で落射方向Z順側(鉛直方向上側)に向けられ、ポリゴンミラー31に下から入射する。入射したレーザ光が或る一つの反射鏡面を通過する間、ポリゴンミラー31は、360/N[deg]回転する(N:反射鏡面数)。「レーザ光が或る一つの反射鏡面を通過する間」とは、レーザ光が、当該反射鏡面(例えば、面41)と、当該反射鏡面にミラー回転方向順側に連続する反射鏡面(例えば、面46)とが成す始点稜部(例えば、稜部41a)に入射した時点から、当該反射鏡面(例えば、面41)と、当該反射鏡面にミラー回転方向逆側に連続している反射鏡面(例えば、面42)とが成す終点稜部(例えば、稜部41b)に入射した時点までの期間であり、レーザ光が当該反射鏡面(例えば、面41)において反射する期間を意味する。この間、レーザ光は、回転している当該反射鏡面で反射し、当該反射鏡面上に位置した投光中心C周りに360×2/N[deg]の回転角度範囲で角移動する(N:反射鏡面数)。レーザ光が或る一つの反射鏡面(例えば、面41)を通過し終えると、レーザ光は、当該反射鏡面(例えば、面41)とミラー回転方向逆側に連続した反射鏡面(例えば、面42)を通過し始める。このため、隣り合う2つの反射鏡面が成す稜部(例えば、稜部41b)は、ミラー回転方向順側の反射鏡面(例えば、面41)にとっては終点稜部に相当し、ミラー回転方向逆側の反射鏡面(例えば、面42)にとっては始点稜部に相当する。
【0034】
放物線ミラー32は、ポリゴンミラー31の中心軸線方向に見たときに放物線を成す反射鏡面32aを有している。このように反射手段を構成する放物線ミラー32は、放物面を成す反射鏡面32aを有するが、ここでいう「放物面」は、いわゆる回転放物面ではなく、断面が放物線を成した面を言う。ポリゴンミラー31及び放物線ミラー32は、投光中心Cが放物面の焦点F(より具体的には、当該放物面の断面形状である放物線の焦点。以下「放物線の焦点F」と称す)上に位置するように、また、放物面の頂点V(より具体的には、当該放物面の断面形状である放物線の頂点。以下「放物線の頂点V」と称す)を以下、中心Cに結ぶ直線(すなわち、放物線対称軸)が落射方向Zに延びるように配置されている。
【0035】
このため、投光中心Cが始点稜部41aと終点稜部41bとの中間点に位置している場合には、レーザ光は、投光中心Cから落射方向Z逆側(鉛直方向下側)へ放射され、放物線ミラー32の反射鏡面32a上であって放物線の頂点Vで反射する。投光中心Cが中間点よりも始点稜部41a側に位置している場合には、レーザ光は、放物線の頂点Vよりも加工方向X上流側(図1紙面右下側)で反射する。投光中心Cが当該中間点よりも終点稜部41b側に位置している場合には、レーザ光は、放物線の頂点Vよりも加工方向X下流側(図1紙面左上側)で反射する。
【0036】
放物線ミラー32で反射したレーザ光は、その反射した位置に関わらず(すなわち、ポリゴンミラー31の回転角度に関わらず)、落射方向Z順側(鉛直方向上側)に向けられ、入射面90aに下から垂直に入射する。また、投光中心Cが放物線の焦点Fに位置しているので、投光中心Cから入射面90aまでに至る光路長は、放物線ミラー32での反射位置に関わらず一定である。なお、レーザ光は、筐体34の上面に設けられたスリット34aを通り、筐体34の内部から外部へと出射される。
【0037】
本実施形態では、投光中心Cが始点稜部41aに位置する場合におけるレーザ光の照射位置が、スクライブ線93の始点93Aに相当し、投光中心Cが終点稜部41bに位置する場合におけるレーザ光の照射位置が、スクライブ線93の終点93Bに相当し、レーザ光が或る一つの反射鏡面を通過する間に、始点93Aを終点93Bに結ぶ1本のスクライブ線93が形成される。レーザ光は、スクライブ線93のどの位置をとっても垂直に入射するので、加工効率が向上する。また、レーザ光の光路長は、スクライブ線93のどの位置をとっても同じであるので、レーザ光の焦点距離をポリゴンミラー31の回転角度に応じて変化させる手段がなくても、レーザ光が入射面90a上で合焦し続ける。
【0038】
図2は、図1に示すレーザ加工装置10の概要構成を示すブロック図である。なお、図2では、レーザ光を実線、機械的接続を二重線、電気的接続を点線でそれぞれ示している。図2に示すように、レーザ加工装置10は、搬送アクチュエータ22、レーザ発振器12及び偏向アクチュエータ33を制御するコントローラ14を備えている。パターニング処理に際し、コントローラ14は、搬送アクチュエータ22、レーザ発振器12及び偏向アクチュエータ33を同時に作動させる。これにより、ワーク90を搬送方向Yに搬送しながらレーザ光が入射面90a上で走査され、複数本のスクライブ線93がワーク90に形成される。
【0039】
コントローラ14は、ワーク90が一定の搬送速度で搬送されるように(すなわち、回転シャフト23及びローラ24が当該搬送速度に対応する一定の角速度で回転するように)搬送アクチュエータ22を制御する。コントローラ14は、一定の周波数でパルスレーザが発振されるようにレーザ発振器12を制御する。コントローラ14は、レーザ光がワーク90上又はワーク90内で一定の走査速度で走査されるように偏向アクチュエータ33を制御する。そのため、コントローラ14は、レーザ光の角速度(ポリゴンミラー31の角速度と対応関係がある)がレーザ光の回転角(ポリゴンミラー31の回転角と対応関係がある)に応じて変化するように、偏向アクチュエータ33を制御する。
【0040】
(加工方向と実走査方向との関係)
図3は、ワーク90の搬送方向Yと、スクライブ線93の加工方向Xと、レーザ光が実際に走査される方向X´(以降、「実走査方向X´」又は「対地走査方向X´」と称す)との関係性を示す概念図である。本実施形態に係るレーザ加工装置10は、ワーク90を一定の搬送速度Vで搬送方向Yに搬送しながらレーザ光を入射面90aに照射し、それにより加工方向Xに延びるスクライブ線93をワーク90に形成する。よって、レーザ光は、搬送されているワーク90から見たときに加工方向Xに走査されるようにすべく、筐体34を設置している地上から見たときには入射面90aと平行な面内において搬送方向Yにも加工方向Xにも傾斜する実走査方向X´に走査される必要がある。なお、ワーク90から見たときも地上から見たときも、落射方向Zは同一の方向(例えば、鉛直方向)であり、そのためXY平面(すなわち、入射面90aと平行な平面)も同一の姿勢(例えば、水平姿勢)である。
【0041】
レーザ光をこのように走査するため、ポリゴンミラー31(図1参照)は、その中心軸線が実走査方向X´に直交する方向に向くように配置される。放物線ミラー32(図1参照)は、実走査方向X´に延びるように配置される。
【0042】
以降の説明では、地上から見たときにおけるXY平面内でのレーザ光の走査経路を「実走査線95」と称す。実走査線95は、XY平面内でスクライブ線93と傾斜角φを成しており、スクライブ線93の始点93Aから搬送方向Yの下流側へと傾くようにして実走査方向X´に延びている。本実施形態では、搬送速度Vとともにレーザ光の加工方向Xにおける走査速度Vも一定とする。このため、実走査線95上でのレーザ光の走査速度(以降、「実走査速度VX´」又は「対地走査速度VX´」と称す)も一定である。よって、傾斜角φの正弦は、式(1)を用いて表される。
【0043】
【数1】
【0044】
式(1)を満たしていれば、ワーク90を搬送方向Yに定速で搬送しながらレーザ光を実走査方向X´に定速で走査することで、加工方向X(搬送方向Yに直交する方向)に延びるスクライブ線93をワーク90に定速で形成することができる。
【0045】
本実施形態では、レーザ光がポリゴンミラー31の或る一つの反射鏡面を通過する間、搬送されているワーク90には、始点93Aを終点93Bに結ぶスクライブ線93が形成される。この間、地上から見たレーザ光は、実走査線95の始点95Aから終点95Bまで、実走査方向X´に延びる実走査線95に沿って走査される。
【0046】
この場合、或る一つの反射鏡面の終点稜部は、ミラー回転方向逆側に連続する反射鏡面の始点稜部と同一である。このため、レーザ光は、或る一つの反射鏡面を通過し終えて実走査線95の終点95Bに達すると同時に、実走査線95の始点95Aに戻って次の反射鏡面の通過を開始する。この新たに開始される走査に対応した実走査線95の始点95Aは、当該新たに開始される走査に対応したスクライブ線93の始点93Aと一致する。一方、当該実走査線95の始点95Aは、前回の走査に対応したスクライブ線93の始点93Aから間隔Lだけ搬送方向Yに離れる。この間隔Lは、隣り合う2本のスクライブ線93同士の搬送方向Yの距離(以降、「スクライブ間隔L」と称す)に相当する。スクライブ間隔Lは、1回の走査を開始してから終了するまでのワーク90の搬送距離に等しく、当該搬送距離は、XY平面内におけるスクライブ線93の終点93Bから実走査線95の終点95Bまでの距離に等しい。このため、スクライブ線93の加工方向Xの長さ(すなわち、搬送されているワーク90から見たときの走査方向における走査線の長さに相当。以降、「スクライブ長」と称す)をLとすると、傾斜角φの正接は、式(2)を用いて表される。
【0047】
【数2】
【0048】
スクライブ長L及びスクライブ間隔Lは、製品の仕様に応じて比較的早期に決定可能であり、傾斜角φもこれに応じて式(2)から決めることができる。搬送速度V及び実走査速度VX´は、式(1)を満たすように、傾斜角φに応じて適宜の値に決定される。なお、走査速度Vは、傾斜角φの余弦を用いて式(3)で表される。
【0049】
【数3】
【0050】
このように本実施形態では、レーザ光の実走査方向X´が加工方向Xにも搬送方向Yにも傾斜している。これにより、ワーク90を連続搬送し且つポリゴンミラー31を連続回転しながら(すなわち、投光部30を連続運転しながら)、複数本のスクライブ線93を搬送方向Yに間隔をおいて並べるようにして形成することができる。つまり、搬送アクチュエータ22及び偏向アクチュエータ33の起動及び停止を繰り返すような制御を行うことなく、複数本のスクライブ線93を形成可能になる。したがって、パターニング処理のタクトタイムが向上する。
【0051】
なお、レーザ光にはパルスレーザが適用されるので、レーザ光の走査速度V及び実走査速度VX´は、被り代を設けるように設定される。このように、走査速度V及び実走査速度VX´は、タクトタイムの向上とスクライブ線93の連続性の担保のため、スクライブ長L、スクライブ間隔L、傾斜角φ及び搬送速度Vだけでなく、パルスレーザの周波数及びワーク90上でのレーザ光のサイズも考慮して、適宜の値に設定される。
【0052】
(レーザ走査ヘッドの配置)
図4は、放物線ミラー32と投光中心Cとの位置関係を示すとともに、レーザ光の加工方向Xにおける位置と、レーザ光の加工方向Xにおける走査速度Vと、レーザ光の回転角θと、レーザ光の角速度ωとの関係性を示す概念図である。なお、図4では、説明の便宜のため、スクライブ線93の加工方向X(すなわち、搬送されているワーク90から見たレーザ光の走査方向)を横軸、レーザ光の落射方向Zを縦軸にとった二次元直交座標系(いわゆるワーク座標系)を用いている。
【0053】
図4に示すように、ここでは、スクライブ線93が横軸に平行な直線:Z=w(w<0)で表され、放物線ミラー32が上に凸であると考える。すなわち、落射方向Z逆側(鉛直方向下側)を縦軸方向上側に示し、落射方向Z順側(鉛直方向上側)を縦軸方向下側に示す。また、原点Oに投光中心C及び放物線の焦点Fが位置し、放物線の対称軸が縦軸上に位置すると考える。焦点Fと頂点Vとの距離がaであれば、頂点Vを座標(0,a)、準線Dを直線:Z=2a、放物線を曲線:Z=−X/4a+aとして表すことができる(a>0)。スクライブ線93の始点93Aと終点93Bの中間点は縦軸上に位置するので、始点93Aの座標を(−L/2,w)、終点93Bの座標を(L/2,w)として表すことができる(L>0)。
【0054】
投光中心Cが或る反射鏡面における始点稜部と終点稜部との中間点に位置する場合、投光中心Cから放物線ミラー32に向かうレーザ光は、縦軸上の光路を通る。以降の説明では、このときのレーザ光の回転角を0[deg]とし、基準角と称す。また、レーザ光の回転角が基準角である場合のポリゴンミラー31の回転角も基準角と称す。本実施形態では、ポリゴンミラー31の反射鏡面数が6であるので、ポリゴンミラー31が1回転する間に、60度おきに離れた6つの基準角が存在することになる。
【0055】
レーザ光の回転角が基準角である場合、レーザ光は頂点Vで反射し、縦軸上の光路を通って入射面90aに垂直に入射し、スクライブ線93上における始点93Aと終点93Bとの中間点を照射する。
【0056】
回転中心Cが終点稜部に位置する場合、レーザ光の回転角は、前記回転角度範囲の半分値である最大角θMAXとなる。すなわち、式:θMAX[deg]=(360×2/N)/2=360/Nを満たす(θMAX>0,N:反射鏡面数)。この場合、投光中心Cから放物線ミラー32に向かうレーザ光の光路100Bは、原点Oを通過する右肩上がりの直線(傾き:tan(90−θMAX))として表され、縦軸と当該直線とが成す角が最大角θMAXに相当する。レーザ光は、当該交点で反射した後、縦軸に平行な光路を通って入射面90aに垂直に入射し、スクライブ線93の終点93Bを照射する。よって、光路100Bと放物線の交点のX座標は、スクライブ線93の終点93BのX座標と同じ(L/2)である。
【0057】
回転中心Cが始点稜部に位置する場合、縦軸に関して線対称で上記同様のことが生ずる。すなわち、レーザ光の回転角が負の最小角θMINとなり、最小角θMINの絶対値が最大角θMAXと等しい(θMIN=−θMAX)。回転中心Cから放物線ミラー32に向かうレーザ光の光路100Aは、原点Oを通過する右肩下がりの直線(傾き:tan(90−θMIN))として表される。光路100Aと放物線の交点で反射したレーザ光は、縦軸に平行な光路を通って入射面90aに垂直に入射し、スクライブ線93の始点93Aを照射する。
【0058】
仮にポリゴンミラー31が等速で回転していて回転中心Cから延びる光路が等速で角移動しているとすれば、レーザ光の回転角が基準角から離れていればいるほど(すなわち、ポリゴンミラー31の回転角が基準角から離れていればいるほど)、ワーク90上でのレーザ光の加工方向Xにおける走査速度が大きくなる。すると、パルスレーザの周波数が一定である限り、スクライブ線93の始点93Aに近ければ近いほど又は終点93Bに近ければ近いほど、被り代が小さくなる。被り代の大きさが変化すると、スクライブ線93の形成による薄膜層92の除去量が加工方向Xに勾配を持ってしまい、この勾配が加工ムラとなって現れる。
【0059】
そこで本実施形態では、コントローラ14は、レーザ光の回転角が基準角から離れているほどレーザ光の角速度が小さくなるように偏向アクチュエータ33を制御する。言い換えれば、偏向アクチュエータ33は、ポリゴンミラー31の回転角が基準角から離れているほどポリゴンミラー31の角速度が小さくなるように、ポリゴンミラー31を非等速で回転駆動する。これにより、ポリゴンミラー31が等速で回転している場合に生ずる走査速度の変化を小さくすることができる。したがって、加工ムラを抑えることができる。
【0060】
(レーザ光の角速度)
次に、図4を参照しながら、レーザ光の走査速度Vを一定にするためにレーザ光の角速度ωをどのように設定すべきであるかについて説明する。以降の説明では、レーザ光の回転角が基準角である時点から或る任意角度θになるまでの経過時間をtとする。また、レーザ光の回転角が当該角度θである場合に、投光中心Cから放物線ミラー32に向かうレーザ光の光路100と放物線との交点PのX座標をxとする。
【0061】
図4では、当該任意角度θを正の値とした場合を例示しており、そのため経過時間tも正の値になるが、経過時間tにはゼロ及び負の値を含めることもできる。例えば、レーザ光が始点稜部と終点稜部との中間点よりも始点稜部側で入射し、レーザ光の回転角が基準角に到達していない場合には、経過時間tを負の値とし、レーザ光の回転角が基準角に達するまでの所要時間として取り扱うことが可能である。
【0062】
前記交点Pから準線Dに垂線A1を引き、準線Dと当該垂線A1の交点Qを原点Oに結ぶ直線A2を引くと、放物線の定義より、当該直線A2は角度θの二等分線となる。準線Dは前述のとおり直線:Z=2aとして表されるので、点QのX座標は2a×tan(θ/2)として表される。点Qは点Pを通る垂線A1上にあるので、点PのX座標xは、式(4)で表されるように点QのX座標と等しい。なお、式(4)の逆関数は、式(5)で表される。
【0063】
【数4】
【0064】
【数5】
【0065】
角度θは経過時間tに応じて変化し、そのため点PのX座標xも経過時間tに応じて変化する。よって、レーザ光の角速度ωは、角度θを1階微分することにより得られる。すると、式(5)より、角速度ωは、式(6)で表される。
【0066】
【数6】
【0067】
点Pで反射したレーザ光は、縦軸に平行な光路を通って入射面90aに入射するので、レーザ光の照射位置のX座標は、点PのX座標xに等しい。当該照射位置のX座標は、時間tが経過する間に、レーザ光がワーク90上で加工方向Xに移動した距離にも相当する。本実施形態では、レーザ光の走査速度Vを一定とするので、xを式(7)で表すことができ、Vを式(8)で表すことができる。
【0068】
【数7】
【0069】
【数8】
【0070】
すると、式(6)〜(8)より、レーザ光の角速度ωは、式(9)で表される。
【0071】
【数9】
【0072】
式(9)において、a及びVは定数である。このため、レーザ光の角速度ωは、経過時間tにのみ依存し、レーザ光の回転角に応じて変化する。式(9)によれば、経過時間tの絶対値が大きければ大きいほど、すなわち、レーザ光の回転角が基準角から離れていればいるほど、ポリゴンミラー31の回転角が基準角から離れていればいるほど又は投光中心Cが稜部に近ければ近いほど、レーザ光の角速度ωが小さくなる。
【0073】
なお、レーザ光の回転角が基準角であるときのポリゴンミラー31の回転角をゼロの基準角とすると、ポリゴンミラー31の回転角はレーザ光の回転角の半分値に相当する。また、図4では説明の便宜のためワーク座標系を用いたが、地上から見たときには、レーザ光が加工方向Xに対して傾斜角φだけ傾斜した実走査方向(対地走査方向)X´に走査される。
【0074】
そこで、コントローラ14による偏向アクチュエータ33の制御を実行するにあたっては、ポリゴンミラー31の回転角とレーザ光の回転角との対応関係や、加工方向Xと実走査方向X´とが成す傾斜角φ等を考慮して式(9)を補正し、ポリゴンミラー31の角速度と経過時間tとの関係式が導出される。コントローラ14は、このように導出される関係式に従って偏向アクチュエータ33を制御する。例えば、スクライブ線93の始点93Aから現在位置までの搬送方向Yの対地距離をyとすると、当該現在位置におけるレーザ光の対地角速度ωを式(10)で表すことができる。
【0075】
【数10】
【0076】
(レーザ加工装置の動作)
図5は、図1に示すレーザ加工装置10の動作の一例を示すタイムチャートである。図5は、上から順に、レーザ光の回転角、レーザ光の角速度、レーザ光のワーク90上での加工方向Xにおける位置(以下、単に「X位置」とも称す)、レーザ光の走査速度の経時変化をそれぞれ示している。なお、ポリゴンミラー31の回転角はレーザ光の回転角と類似した傾向を示し、ポリゴンミラー31の角速度はレーザ光の角速度と類似した傾向を示す。図5の最上段では、ポリゴンミラー31に入射したレーザ光がどの反射鏡面で反射しているのかを時間軸に対応させて略示している。図5の最下段では、式(9)のtに代入されるべき数値を時間軸に対応させて略示している。
【0077】
レーザ光が第1面41の始点稜部に入射するとき、レーザ光の回転角が最小角θMINとなり、レーザ光のX位置がスクライブ線93の始点93Aとなる。レーザ光の回転角が基準角である時点からの経過時間tは、最小値tMINであり(tMIN<0)、レーザ光の角速度は、当該最小値tMINに応じて決まる最小値ωMINとなる。レーザ光の角速度は、時間の経過と共に、式(9)に従って非線形に変化する。これに伴い、レーザ光の回転角も非線形に変化する。
【0078】
レーザ光が始点稜部と終点稜部との中間点に入射するとき、レーザ光の回転角が基準角(0[deg])となり、レーザ光のX位置がスクライブ線93の始点93Aと終点93Bとの中間点となる。また、経過時間tは0となり、レーザ光の角速度は最大値ωMAXとなる。
【0079】
レーザ光が第1面41の終点稜部に入射すると、レーザ光の回転角が最大角θMAXとなり、レーザ光のX位置がスクライブ線93の終点93Bとなる。これにより、1本のスクライブ線93の形成が完了する。
【0080】
レーザ光が第1面41を通過する間、レーザ光の角速度ωは式(9)に従って変化し続け、それによりレーザ光の走査速度Vが一定で推移し、レーザ光のX位置が線形に変化する。したがって、放物線ミラー32を用いると共にパルスレーザの周波数を一定としても、被り代の大きさの変化を抑えることができ、加工ムラを抑えることができる。しかも、レーザ光は入射面90aに垂直に入射する。このため、加工効率が向上する。また、投光中心Cから入射面90aまでのレーザ光の光路長が、レーザ光の回転角に関わらず一定である。このため、レーザ光の焦点距離を可変にしなくても、レーザ光を薄膜層92で合焦させ続けることができる。
【0081】
第1面41と第2面42とが成す稜部は、第1面41にとっては終点稜部に相当し、第2面42にとっては始点稜部に相当する。このため、レーザ光が当該稜部に入射すると、レーザ光の回転角が、最大角θMAXから最小角θMINに変化し、レーザ光のX位置が、終点93Bから始点93Aに変化する。このように、レーザ光の回転角の基準角が、ポリゴンミラー31の反射鏡面毎に設定されているので、レーザ光が稜部に入射すると、経過時間tも最大値tMAXから最小値tMINへとリセットされる。そして、本実施形態では、レーザ光の回転角が基準角であるとき、レーザ光が始点稜部と終点稜部との中間点に入射する。このため、レーザ光の回転角の最小角θMINの絶対値が最大角θMAXと等しく、経過時間tの最小値tMINの絶対値が最大値tMAXと等しい(tMIN=−tMAX)。
【0082】
このため、式(9)のtにtMAXを代入して得られるレーザ光の角速度が、tにtMINを代入して得られる角速度と等しく、その値が最小値ωMINとなる。したがって、レーザ光が稜部を通過するときに、角速度が最小値ωMINで連続する。したがって、ポリゴンミラー31を連続回転させながら複数本のスクライブ線93を形成することを実現可能になる。
【0083】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記構成は一例に過ぎず、本発明の範囲内で適宜変更可能である。例えば、上記実施形態においては、反射鏡面を一杯に使って1本の走査線又はスクライブ線を形成するようにしているが、ポリゴンミラーの稜部を走査線又はスクライブ線の始点及び終点に必ずしも対応させなくてもよい。「レーザ光が或る一つの反射鏡面を通過する間に加工ラインを形成する」とは、反射鏡面を一杯に使って加工ラインを形成する場合に限定されず、当該反射鏡面の一部を使って加工ラインを形成して稜部にレーザ光が入射しているときには加工ラインを形成しない場合も含まれる。そして、本発明に係るレーザ加工装置は、レーザ光でワークに1本又は複数本の加工ラインを形成するという用途であれば、太陽電池のパターニング処理に限らず、その他の用途にも好適に利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明によれば、レーザ光の入射角を極力垂直にしてレーザ光を極力合焦させ続けながら、レーザ光の走査速度を極力等速にすることができるとの作用効果を奏し、ワークにレーザ光で加工ラインを形成するレーザ加工装置に適用すると有益である。
【符号の説明】
【0085】
10 レーザ加工装置
11 搬送装置
12 レーザ発振器
13 レーザ走査ヘッド(光走査装置)
30 投光部(投光手段)
31 ポリゴンミラー(回転多面鏡)
32 放物線ミラー
33 偏向アクチュエータ
90 ワーク
93 スクライブ線
C 投光中心
F 焦点
V 頂点
D 準線
図1
図2
図3
図4
図5