(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、日照センサでは、車両の前後及び左右方向において、低抑角(例えば、抑角30°以下)特性の向上が要求されている。これについて、車両前方の低抑角感度を得るためには日照センサの受光面を前方に傾斜させて実装すればよいが、車両後方の低抑角感度が低下してしまう。そのため、車両の前後方向の低抑角感度を確保するためには、受光面が水平となるように日照センサを実装することが必要となる。
【0005】
しかしながら、従来の日照センサでは、受光面が水平となるように実装すると、受光レンズと空気層との界面において日射光が全反射し、特に低抑角の日射光が受光素子に到達しないといった問題が生じ得る。そこで、従来では、受光レンズと受光素子との空気層にシリコーン樹脂を充填し、全反射を抑制するといった対策が講じられていた。しかし、シリコーン樹脂に含まれるシロキ酸が絶縁不良などといった不具合発生の原因となり得るため、シリコーン樹脂の使用は好ましくない。そのため、日照センサにおいては、シリコーン樹脂を用いずに車両の前後及び左右方向における低抑角特性の向上が図れる構造の実現が望まれている。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、車両の前後及び左右方向における低抑角特性の向上を図れる光学素子及び日照センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題の解決を図るために鋭意研究を重ねた結果、受光レンズの形状と、入射した日射光を受光素子に出射する凹部の構造及び配置位置とが車両の前後及び左右方向の低抑角特性に大きく影響することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明に係る光学素子は、車両に搭載される日照センサに設けられ、入射した日射光を受光素子に出射する光学素子であって、日射光が入射する非球面状の受光面を有する受光部と、受光部の外周縁部から外側に張り出し、受光面から連続する平坦面を有する鍔部と、を有し、受光部には、日射光の出射側に向かって開口する凹部が形成されており、凹部は、開口部が略矩形形状を呈していると共に、4つの第1〜第4内面により開口部側から受光面側に向かって先細り状に形成されており、凹部を車両の前後方向に沿った断面で見たときに、互いに対向する第1及び第2内面は湾曲しており、凹部を車両の左右方向に沿った断面で見たときに、互いに対向する第3及び第4内面は湾曲しており、凹部は、車両の前後方向に沿った断面で見たときに、車両の前方側寄りに位置していることを特徴とする。
【0009】
この光学素子では、受光面が非球面状であると共に、受光面の外周縁部に平坦面を有する鍔部が設けられている。本発明者らの研究により、車両の左右方向における低抑角特性の改善には、受光面を非球面状とすることが有効であることが見出された。また、受光面の非球面化に伴い、受光部の縁部に平坦面を有する鍔部を設けることにより、車両の左右方向における低抑角特性の向上を図ることができる。一方、車両の前後方向の低抑角特性について、凹部の構造に関して試行錯誤した結果、凹部の内面構造及び凹部と受光素子との位置関係が、車両の前後方向の低抑角特性の向上と、車両の左右方向の抑角特性とに影響することを見出した。そこで、本発明では、凹部を形成する各内面を湾曲形状とすると共に、凹部の位置を、車両の前後方向に沿った断面で見たときに車両の前方側寄りとしている。これにより、車両の前後方向の低抑角特性の向上を図ることができ、且つ、車両の左右方向における低抑角の感度が高くなり過ぎることを抑制できる。以上のように、本発明では、車両の前後及び左右方向における低抑角特性の向上を図れる。
【0010】
第1〜第4内面は楕円面である。このように、楕円面により凹部が形成されることにより、低抑角にて入射した光が空気層との界面で全反射することを抑制でき、低抑角特性をより好適に実現できる。
【0011】
受光部の受光面と鍔部の平坦面との境界部分が湾曲している。このような構成により、車両の左右方向における低抑角特性をより好適に実現できる。
【0012】
また、本発明に係る日照センサは、上述の光学素子と、光学素子から出射された日射光を受光する光検出部とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、車両の前後及び左右方向における低抑角特性の向上を図れる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0016】
図1は、一実施形態に係る日照センサを示す斜視図である。
図2は、
図1に示す日照センサの断面構成を示すII−II線断面図である。
図3は、
図1に示す日照センサの断面構成を示すIII−III線断面図である。各図に示す日照センサ1は、自動車などの車両V(
図4参照)に搭載されるものであり、空調の設定温度を調整するために用いられる日射光の照度を検出するセンサである。なお、
図2及び
図3では、受光レンズ3のみを断面で示している。
【0017】
図4は、日照センサが車両に搭載された状態の一例を示す図であり、車両を上から見た図である。
図4に示すように、日照センサ1は、車両Vのダッシュボードに配置される。日照センサ1は、車両Vのフロントガラスの下方において、例えば車両Vの前後方向と車両の左右方向(幅方向)との交点部分に配置されている。前後方向は、車両Vにおいて並設された2つの座席(例えば、運転席と助手席)間の中心を通る位置に設定されることが好ましい。なお、
図2におけるII−II線は、車両Vの前後方向に沿っており、
図3におけるIII−III線は、車両Vの左右方向に沿っている。また、
図2においては、右側が車両Vの「前」、左側が車両Vの「後」を示しており、
図3においては、右側が車両Vの「右」、左側が車両Vの「左」を示している。
【0018】
図1〜
図3に示すように、日照センサ1は、受光レンズ(光学素子)3と、受光ユニット(光検出部)5と、センサホルダ7と、を備えている。センサホルダ7は、筒状をなしており、受光レンズ3及び受光ユニット5を保持してユニット化する部材である。センサホルダ7は、その上端部において受光レンズ3と係合して受光レンズ3を保持すると共に、その内部に受光ユニット5を収容して保持する。センサホルダ7は、車両Vのダッシュボードに埋設される部分であり、その側部にダッシュボードに係止される係止爪7a,7bが設けられている。
【0019】
受光レンズ3は、受光部3aと、鍔部3bと、を有している。受光部3aは、断面が凸形状を呈しており、平面視において略円形形状を呈している。受光部3aは、日射光を入射する受光面ISと、受光面ISと反対側の面の光学面ESとを有している。受光面ISは非球面状であり、光学面ESは平坦面である。鍔部3bは、受光部3aの外周縁部の全周から外側に水平に張り出しており、外形が略円形形状を呈している。鍔部3bは、受光面ISに連続する平坦面FSを有している。なお、ここで言う平坦面FSとは、全体として平らな状態であればよく、例えばシボ加工が施されて表面に凹凸などが形成されている形態も含む。
図2に示すように、受光面ISと平坦面FSとの境界部分(つなぎ目)は、所定の曲率で湾曲した形状とされている。
【0020】
受光部3aには、凹部20が形成されている。凹部20は、受光面ISから入射した日照光の光束幅を広げたり狭めたりして、受光素子PDに向けて日射光を出射する。凹部20は、日射光の出射側、すなわち受光素子PDが配置される側に向かって開口している。
図5は、受光レンズを内側から見た図である。
図5に示すように、凹部20の開口部Kは、略矩形形状を呈しており、その四隅は円弧状(湾曲形状)となっている。なお、略矩形形状とは、四隅が屈曲、湾曲しているものを含む。
【0021】
凹部20は、
図2に示すように、車両Vの前後方向に沿ったII−II線断面で見て、頂部(先端部)が1つの山形(先細りの形状)を呈している。また、凹部20は、
図3に示すように、車両Vの左右方向に沿ったIII−III線断面で見て、頂部が2つの山形を呈している。凹部20の頂部は尖っている。
【0022】
上記の凹部20は、4つの第1〜第4内面20a,20b,20c,20dにより形成されている。
図2に示すように、互いに対向する第1及び第2内面20a,20bは、凹部20が先細りの状となるように開口部K(光学面ES)側から頂部側に亘って湾曲していると共に、鉛直方向に沿った軸周りの方向に湾曲しており、楕円面となっている。
図3に示すように、互いに対向する第3及び第4内面20c,20dは、凹部20が先細り状となるように開口部K側から頂部側に亘って湾曲していると共に、鉛直方向に沿った軸(中心軸AX)周りの方向に湾曲しており、楕円面となっている。第1〜第4内面20a〜20dの境界部分は、
図5に示すように、湾曲形状をなしている。
【0023】
図2に示すように、凹部20は、車両Vの前後方向に沿ったII−II線断面で見て、車両Vの前方側寄りに位置している。すなわち、車両Vの前後方向において、凹部20の頂部と受光レンズ3の中心軸AXとは位置がずれており、凹部20が車両Vの前方側にオフセット配置されている。
【0024】
図5に示すように、受光レンズ3の光学面ES側には、受光ユニット5の受光素子PD(
図2参照)を位置決めするための位置決め部13が設けられている。この位置決め部13により、凹部20と受光素子PDとは、互いに対向して配置される。また、受光レンズ3には、一対の係合爪15a,15bが設けられている。一対の係合爪15a,15bは、受光レンズ3の縁部に互いに対向してそれぞれ配置されており、センサホルダ7と係合する。これにより、受光レンズ3は、センサホルダ7に固定保持される。
【0025】
なお、受光レンズ3の受光面ISには、シボ加工が施されていてもよい。シボ加工は、例えば皮、梨地、木目、布目など、搭載される車両Vの意匠性に応じて適宜加工が施されればよい。
【0026】
受光ユニット5には、受光素子PDが搭載されている。受光素子PDは、入射光を電気信号に変換して出力する例えばフォトダイオードであり、車両Vの左右方向において所定の間隔をあけて複数(ここでは2つ)並設されている。すなわち、本実施形態の日照センサ1は、いわゆるデュアル(2ch)日照センサとして構成されている。受光素子PDは、受光レンズ3の下方において、凹部20を臨む位置に配置されている。受光素子PDは、図示しないが、正面視で略矩形形状を呈している。
【0027】
受光ユニット5は、実装基板9に実装されており、実装基板9の配線(図示しない)と電気的に接続されている。実装基板9には、入出力端子11が設けられている。入出力端子11は、実装基板9の配線と電気的に接続されている。これにより、受光素子PDと入出力端子11とが電気的に接続されている。
【0028】
以上説明したように、本実施形態では、受光レンズ3が受光部3aと鍔部3bとを有しており、受光部3aの受光面ISは、非球面状である。このように、受光面ISを非球面状とすることにより、車両Vの左右方向における低抑角特性が改善できる。なお、本実施形態における抑角特性とは、日射光の抑角が45°のときの出力電流を100%、日射量が0のときの出力電流を0%としたときの相対感度で表されるものである。また、受光素子PDの受光面=抑角0°としており、低抑角とは例えば30°以下を示している。
【0029】
また、本実施形態では、受光面ISを非球面状とすることに加えて、受光部3aの外周縁部に、平坦面FSを有する鍔部3bを設けている。この構成により、以下のような作用効果が得られる。
図6は、鍔部が設けられた本実施形態の受光レンズと、鍔部が設けられていない従来の受光レンズとの左右方向の指向性相対感度の実測値を示す図である。従来の受光レンズとしては、受光面が非球面状であり、端面にR(湾曲)加工が施されているものを用いた。また、
図6に示す評価では、受光レンズ3及び従来の受光レンズのいずれにおいても、受光面にシボ加工を施している。
図6では、縦軸は及び横軸は相対感度[%]を示しており、左右方向軸上において左0°から右0°まで抑角10°ピッチで実測した結果を示している。
【0030】
図6に示すように、平坦面FSを有する鍔部3bを設けた本実施形態の構成では、鍔部が設けられていない従来の構成に比べて、左側及び右側のいずれにおいても低抑角感度(特に、10°〜20°付近)が向上している。したがって、受光レンズ3において平坦面FSを有する鍔部3bを設けることにより、車両Vの左右方向における低抑角感度の向上が図れる。
【0031】
また、本実施形態では、受光レンズ3の凹部20は、車両Vの前後方向に沿った断面で見て、車両Vの前方側寄りに位置している。
図7は、車両の前後方向における指向性相対感度のシミュレーション結果を示す図である。
図7に示すシミュレーション結果は、受光面ISを非球面状とし、凹部20の位置を車両Vの前方側にずらして配置した上述の構成としている。一方、比較例となる従来の構成については、受光面を非球面状とし、凹部の頂点が受光レンズの中心軸と一致している構成としている。
【0032】
図7に示すように、凹部20の位置を車両Vの前方向寄りにずらして配置した本実施形態の受光レンズ3では、従来の受光レンズに比べて、低抑角の相対感度が大幅に向上するというシミュレーション結果が得られた。左側特性では、特に10°〜30°の低抑角の相対感度が大幅に改善され、右側特性では、抑角の全域に亘って相対感度が改善される。したがって、受光レンズ3の受光部3aにおいて、凹部20を車両Vの前方側寄りにずれして配置することにより、車両Vの前後方向における低抑角特性の向上が図れることが確認された。
【0033】
以上のような結果を踏まえて、本実施形態に係る日照センサ1では、受光レンズ3は、非球面状の受光面ISを有する受光部3aと、受光部3aの外周縁部から張り出すと共に受光面ISに連続する平坦面FSを有する鍔部3bとを備えている。また、受光部3aに形成された凹部20は、車両Vの前方側寄りに位置している。このような構成により、受光レンズ3を備える日照センサでは、車両Vの前後及び左右方向における低抑角特性の向上が図れる。
【0034】
図8(a)は、本実施形態の受光レンズでの前後方向の指向性相対感度の実測値を示す図であり、
図8(b)は、従来の受光レンズでの前後方向の指向性相対感度の実測値を示す図である。また、
図9(a)は、本実施形態の受光レンズでの左右方向の指向性相対感度の実測値を示す図であり、
図9(b)は、従来の受光レンズでの左右方向の指向性相対感度の実測値を示す図である。
図10は、従来の受光レンズを備える日照センサの断面構成を示す断面図であり、
図11は、
図10に示す受光レンズを内側から見た図である。
図10及び
図11に示すように、従来の受光レンズ32には、鍔部が設けられていない。また、凹部34は、その頂部が受光レンズ32の中心軸AXと一致する位置に配置されている。なお、
図8及び
図9に示す評価では、本実施形態の受光レンズ3の受光面IS及び従来の受光レンズ32の受光面のいずれにも、シボ加工を施している。
【0035】
図8及び
図9に示すように、本実施形態の受光レンズ3では、従来の受光レンズ32に比べて、車両Vの前後及び左右方向の低抑角特性が大幅に改善されている。
図8(b)に示すように、従来の受光レンズ32では、抑角が40°以上では高い相対感度が得られているものの、低抑角に関しては相対感度が低い。これに対して、本実施形態の受光レンズ3では、
図8(a)に示すように、低抑角での相対感度を十分に得ることができる。
【0036】
また、
図9(b)に示すように、従来の受光レンズ32では、車両Vの左右方向においても、抑角が例えば45°以上では高い相対感度が得られているものの、低抑角に関しては相対感度が低い。これに対して、本実施形態の受光レンズ3では、
図9(a)に示すように、30°以下の低抑角において高い相対感度が得られている。したがって、本実施形態では、車両Vの前後及び左右方向の低抑角特性の向上を図れる。
【0037】
また、本実施形態では、凹部20が4つの第1〜第4内面20a〜20dにより先細り状に形成されており、第1〜第4内面20a〜20dは、楕円面である。このように、凹部20を形成する第1〜第4内面20a〜20dを楕円面とすることにより、第1〜第4内面20a〜20dと空気層との界面における全反射を抑制でき、低抑角特性を好適に実現することができる。
【0038】
また、本実施形態では、受光部3aの受光面ISと鍔部3bの平坦面FSとの境界部分が湾曲形状となっている。これにより、車両Vの左右方向における低抑角特性をより好適に実現できると共に、受光レンズ3の外観を良好にできる。
【0039】
また、本実施形態では、
図8及び
図9に示す結果のとおり、受光面ISにシボ加工を施した構成であっても、低抑角特性の向上が実現できる。
【0040】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、受光ユニット5において受光素子PDを2つ実装した形態について説明したが、日照センサは、受光素子PDを1つだけ実装した形態(シングル日照センサ)であってもよい。このような構成では、受光レンズの凹部の形状を、車両Vの左右方向に沿った断面で見て、頂部が1つの山形とすればよい。
【0041】
また、上記実施形態では、凹部20の頂部が尖った形状を一例に説明したが、凹部20の頂部の形状はその他の形状であってもよい。