特許第5906167号(P5906167)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5906167金属酸化物触媒、その製造方法及びアルカジエンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5906167
(24)【登録日】2016年3月25日
(45)【発行日】2016年4月20日
(54)【発明の名称】金属酸化物触媒、その製造方法及びアルカジエンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/22 20060101AFI20160407BHJP
   C07C 5/48 20060101ALN20160407BHJP
   C07C 11/167 20060101ALN20160407BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20160407BHJP
【FI】
   B01J23/22 Z
   !C07C5/48
   !C07C11/167
   !C07B61/00 300
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-222368(P2012-222368)
(22)【出願日】2012年10月4日
(65)【公開番号】特開2014-73462(P2014-73462A)
(43)【公開日】2014年4月24日
【審査請求日】2015年3月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000105567
【氏名又は名称】コスモ石油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098682
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 賢次
(74)【代理人】
【識別番号】100131255
【弁理士】
【氏名又は名称】阪田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100125324
【弁理士】
【氏名又は名称】渋谷 健
(72)【発明者】
【氏名】高崎 倫子
(72)【発明者】
【氏名】大塩 敦保
(72)【発明者】
【氏名】嶋村 将希
【審査官】 西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−520586(JP,A)
【文献】 特表2005−536498(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカンからアルカジエンを製造する気相接触酸化的脱水素反応用の触媒であって、バナジウムと、マグネシウムと、ランタン及びセリウムのうちの少なくとも1種と、を含有し、
バナジウム、マグネシウム、ランタン及びセリウムの原子換算の合計モル数に対するバナジウムとマグネシウムの原子換算の合計モル数の割合(((V+Mg)/(V+Mg+La+Ce))×100)が、90〜99.9モル%であり、
バナジウム、マグネシウム、ランタン及びセリウムの原子換算の合計モル数に対するランタン及びセリウムの原子換算のモル数の割合(((La+Ce)/(V+Mg+La+Ce))×100)が、0.1〜10モル%であること、
を特徴とする金属酸化物触媒。
【請求項2】
ランタン及びセリウムのうちの少なくとも1種を含有するオルトバナジン酸マグネシウム複合酸化物を含有することを特徴とする請求項1記載の金属酸化物触媒。
【請求項3】
バナジウム源と、マグネシウム源と、ランタン源及びセリウム源のうちの少なくとも1種と、が水に溶解又は分散されている原料混合液を調製し、次いで、得られた原料混合液中の水を蒸発させて除去して、原料混合物粉体を得、次いで、得られた原料混合物粉体を焼成することを特徴とする請求項1又は2いずれか1項記載の金属酸化物触媒の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2いずれか1項記載の金属酸化物触媒の存在下、400〜600℃で、アルカンの気相接触酸化的脱水素反応を行うことを特徴とするアルカジエンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカンからアルカジエンを製造する気相接触酸化的脱水素反応に用いられる金属酸化物触媒及びその製造方法に関する。また、本発明は、該金属酸化物触媒を用いたアルカンの気相接触酸化的脱水素反応によるアルカジエンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブタジエンを製造する方法としては、n−ブタンやn−ブテンを直接脱水素化する方法がある。直接脱水素化する方法は吸熱反応であるため、高温の反応温度を維持するために多くのエネルギーが必要とされ、また、触媒表面に炭素沈積物(コーク)が形成されるため触媒の活性を低下させるという問題がある。
【0003】
一方、n−ブテンの酸化的脱水素反応は、直接脱水素化反応とは異なり、低温で反応が進行し、また、発熱反応であるため、エネルギー供給を抑制することができる。さらに、脱水素反応で酸化剤を添加することより、炭素沈積物の生成が抑制されるという長所がある。使用される酸化剤としては、酸素、硫黄化合物、二酸化炭素、水蒸気などがある。
【0004】
ブテンの酸化的脱水素反応には様々な種類の金属酸化物が触媒として使用されており、ビスマス酸化物とモリブデン酸化物の複合体であるビスマス・モリブデンの複合酸化物触媒が検討されてきた(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−230836
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ビスマス・モリブデン触媒は、反応活性と1,3−ブタジエンの収率は高いが、触媒系が複雑なことから、商業規模での調整が困難であるという問題があった。
【0007】
従って、本発明の目的は、アルカンからアルカジエンを製造する気相接触酸化的脱水素反応に用いられる、アルカジエンの収率や選択率等の触媒性能が高い新たな触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記従来技術における課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、バナジウム及びマグネシウムを必須成分として含み、且つ、ランタン及びセリウムのうちの少なくとも1種を必須成分として含む金属酸化物触媒は、アルカンの酸化的脱水素反応において、アルカジエンの選択性と収率のどちらも高くなるという優れた触媒性能を示すことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明(1)は、アルカンからアルカジエンを製造する気相接触酸化的脱水素反応用の触媒であって、バナジウムと、マグネシウムと、ランタン及びセリウムのうちの少なくとも1種と、を含有し、
バナジウム、マグネシウム、ランタン及びセリウムの原子換算の合計モル数に対するバナジウムとマグネシウムの原子換算の合計モル数の割合(((V+Mg)/(V+Mg+La+Ce))×100)が、90〜99.9モル%であり、
バナジウム、マグネシウム、ランタン及びセリウムの原子換算の合計モル数に対するランタン及びセリウムの原子換算のモル数の割合(((La+Ce)/(V+Mg+La+Ce))×100)が、0.1〜10モル%であること、
を特徴とする金属酸化物触媒を提供するものである。
【0010】
また、本発明(2)は、バナジウム源と、マグネシウム源と、ランタン源及びセリウム源のうちの少なくとも1種と、が水に溶解又は分散されている原料混合液を調製し、次いで、得られた原料混合液中の水を蒸発させて除去して、原料混合物粉体を得、次いで、得られた原料混合物粉体を焼成することを特徴とする本発明(1)の金属酸化物触媒の製造方法を提供するものである。
【0011】
また、本発明(3)は、本発明(1)の金属酸化物触媒の存在下、400〜600℃で、アルカンの気相接触酸化的脱水素反応を行うことを特徴とするアルカジエンの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、アルカンからアルカジエンを製造する気相接触酸化的脱水素反応に用いられる、アルカジエンの収率や選択率等の触媒性能が高い触媒を提供することができる。特に、本発明によれば、n−ブタンの気相接触酸化的脱水素反応により、高い選択性及び収率で1,3−ブタジエンを製造することができる高性能の触媒を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1の粉末X線回折チャートである。
図2】実施例2の粉末X線回折チャートである。
図3】比較例1の粉末X線回折チャートである。
図4】比較例2の粉末X線回折チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の金属酸化物触媒は、アルカンからアルカジエンを製造する気相接触酸化的脱水素反応用の触媒であって、バナジウムと、マグネシウムと、ランタン及びセリウムのうちの少なくとも1種と、を含有することを特徴とする金属酸化物触媒である。
【0015】
本発明の金属酸化物触媒は、アルカンを気相にて酸化的に接触脱水素して、アルカジエンを製造する気相接触酸化的脱水素反応において、触媒として用いられる金属酸化物触媒である。アルカンは、炭素数4〜6、好ましくは4〜5のアルカンである。アルカンとしては、具体的には、例えば、n−ブタン、n−ペンタン、iso−ペンタン、シクロペンタン、n−ヘキサン、iso−ヘキサン、シクロヘキサン等が挙げられる。特に、本発明の金属酸化物触媒は、n−ブタンを酸化的脱水素して1,3−ブタジエンを製造する酸化的脱水素反応において、有利に用いられる。なお、本発明の金属酸化物触媒を用いる気相接触酸化的脱水素反応では、副生成物として、n−ブテン等のアルケン等が生成する。
【0016】
本発明の金属酸化物触媒は、バナジウムと、マグネシウムと、ランタン及びセリウムのうちのいずれか1種又は両方と、を含有する。本発明の金属酸化物触媒は、バナジウムと、マグネシウムと、ランタン及びセリウムのうちの少なくとも1種と、を共存させることにより、アルカジエンの選択性及び収率、特に選択性が高くなる。
【0017】
本発明の金属酸化物触媒中のバナジウムの含有量は、バナジウム、マグネシウム、ランタン及びセリウムの原子換算の合計モル数に対するバナジウムとマグネシウムの原子換算の合計モル数の割合(((V+Mg)/(V+Mg+La+Ce))×100)で、好ましくは90〜99.9モル%、特に好ましくは93〜99モル%、より好ましくは95〜98モル%である。また、マグネシウムの原子換算のモル数に対するバナジウムの原子換算のモル数の比(V/Mg)は、好ましくは0.5〜1.0、より好ましくは0.6〜0.7である。金属酸化物触媒中のバナジウム又はマグネシウムの含有量が、上記範囲にあることにより、アルカジエンの選択性及び収率、特に選択性が高くなるという効果が高まる。
【0018】
本発明の金属酸化物触媒中のランタン及びセリウムの含有量は、バナジウム、マグネシウム、ランタン及びセリウムの原子換算の合計モル数に対するランタン及びセリウムの原子換算のモル数の割合(((La+Ce)/(V+Mg+La+Ce))×100)で、好ましくは0.1〜10モル%、特に好ましくは1〜7モル%、より好ましくは2〜5モル%である。金属酸化物触媒中のランタン及びセリウムの含有量が、上記範囲にあることにより、アルカジエンの選択性及び収率、特に選択性が高くなるという効果が高まる。なお、本発明の金属酸化物触媒が、ランタンのみを含有する場合は、本発明の金属酸化物触媒中のランタン及びセリウムの含有量は、セリウムの含有量は「0」として計算され、また、セリウムのみを含有する場合は、本発明の金属酸化物触媒中のランタン及びセリウムの含有量は、ランタンの含有量は「0」として計算される。
【0019】
本発明の金属酸化物触媒では、バナジウム、マグネシウム、ランタン及びセリウムは、これらのうちの2種以上の金属からなる複合酸化物の状態で、あるいは、単一金属の酸化物の状態で、あるいは、単一金属の酸化物と複合酸化物の両方状態で、存在している。つまり、本発明の金属酸化物触媒では、各金属原子(バナジウム、マグネシウム、ランタン及びセリウム)がどのような状態又は構造で金属酸化物を形成しているかは、特に制限されず、例えば、(i)バナジウムとマグネシウムとランタン及びセリウムのうちのいずれか又は両方との複合酸化物であっても、(ii)バナジウムとマグネシウムとランタン及びセリウムのうちのいずれか又は両方との複合酸化物に、バナジウムの酸化物が担持されたものであっても、(iii)バナジウムとマグネシウムとの複合酸化物に、ランタンの酸化物及びセリウムの酸化物のいずれか1種又は両方が担持されたものであっても、(iv)バナジウムとマグネシウムとの複合酸化物に、バナジウムの酸化物とランタンの酸化物及びセリウムの酸化物のいずれか又は両方とが担持されたものであっても、(v)(i)〜(iv)の混合物であってもよい。
【0020】
バナジン酸マグネシウムは、複合酸化物であり、オルト体(Mg)、ピロ体及びメタ体が存在する。本発明の金属酸化物触媒は、バナジン酸マグネシウムの結晶相中のマグネシウムの一部がランタン又はセリウムで置き換わった複合酸化物、すなわち、ランタン及びセリウムのうちの少なくとも1種を含有するバナジン酸マグネシウム複合酸化物を含有することが好ましく、ランタン及びセリウムのうちの少なくとも1種を含有するオルトバナジン酸マグネシウムを含有することが特に好ましい。
【0021】
また、上記形態例(i)〜(v)において、バナジウムとマグネシウムとの複合酸化物としては、オルトバナジン酸マグネシウム複合酸化物が好ましい。
【0022】
なお、本発明の金属酸化物触媒は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の金属原子を含有してもよい。また、本発明の金属酸化物触媒は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記金属原子以外を不純物として含有することは許容される。
【0023】
本発明の金属酸化物触媒は、粉状又は粒状の金属酸化物であるが、そのような粉状又は粒状の本発明の金属酸化物触媒を、粉状又は粒状のまま用いてもよいし、あるいは、粉状又は粒状の本発明の金属酸化物触媒を圧縮成形等により成形して、成形体として用いてもよいし、あるいは、粉状又は粒状の本発明の金属酸化物触媒をバインダーを用いて成形して、成形体として用いてもよい。
【0024】
本発明の金属酸化物触媒をバインダーを用いて成形して、成形体として用いる場合、成形体全量に対するバナジウムのV換算量、マグネシウムのMgO換算量、ランタンのLa換算量及びセリウムのCeO換算量の合計の割合(((V換算量+MgO換算量+La換算量+CeO換算量)/成形体全量)×100)が、好ましくは50質量%以上、特に好ましくは70質量%以上である。成形体全量に対するバナジウムのV換算量、マグネシウムのMgO換算量、ランタンのLa換算量及びセリウムのCeO換算量の合計の割合が、上記範囲にあることにより、アルカジエンの選択率及び収率が高くなる。なお、本発明において、バナジウムのV換算量とは、成形体中に含有されているバナジウム原子が、全てVとして存在しているとして計算した場合のVの質量を指し、マグネシウムのMgO換算量とは、成形体中に含有されているマグネシウム原子が、全てMgOとして存在しているとして計算した場合のMgOの質量を指し、ランタンのLa換算量とは、成形体中に含有されているランタン原子が、全てLaとして存在しているとして計算した場合のLaの質量を指し、セリウムCeO換算量とは、成形体中に含有されているセリウム原子が、全てCeOとして存在しているとして計算した場合のCeOの質量を指す。
【0025】
本発明の金属酸化物触媒をバインダーを用いて成形して、成形体として用いる場合、成形体中の全金属原子の原子換算の合計モル数に対するバナジウム、マグネシウム、ランタン及びセリウムの原子換算の合計モル数の割合(((V+Mg+La+Ce)/成形体中の全金属原子)×100)は、好ましくは60モル%以上、特に好ましくは80モル%以上である。成形体中の全金属原子の原子換算の合計モル数に対するバナジウム、マグネシウム、ランタン及びセリウムの原子換算の合計モル数の割合が上記範囲にあることにより、アルカジエンの選択率及び収率が高くなる。
【0026】
本発明の金属酸化物触媒は、以下の本発明の金属酸化物触媒の製造方法により製造される。
【0027】
本発明の金属酸化物触媒の製造方法は、バナジウム源と、マグネシウム源と、ランタン源及びセリウム源のうちの少なくとも1種と、が水に溶解又は分散されている原料混合液を調製し、次いで、得られた原料混合液中の水を蒸発させて除去して、原料混合物粉体を得、次いで、得られた原料混合物粉体を焼成することを特徴とする金属酸化物触媒の製造方法である。
【0028】
本発明の金属酸化物触媒の製造方法では、先ず、バナジウム源と、マグネシウム源と、ランタン源及びセリウム源のうちの少なくとも1種と、が水に溶解又は分散されている原料混合液を調製する。
【0029】
バナジウム源、マグネシウム源、ランタン源、セリウム源とは、金属酸化物触媒を構成する金属原子の供給源となる金属原子源であり、バナジウム、マグネシウム、ランタン又はセリウムを含有する化合物である。このような金属原子源としては、例えば、バナジウム、マグネシウム、ランタン又はセリウムの塩化物、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、アンモニウム塩や、これらの金属原子のうちの2種以上からなる複合塩等が挙げられる。
【0030】
原料混合液を調製する方法としては、特に制限されず、各金属原子源を水に直接添加して撹拌混合してもよいし、あるいは、金属原子源を水に溶解又は分散させたものを水に添加して撹拌混合してもよい。原料混合液の調製の際には、必要に応じて、40〜60℃で加熱しながら撹拌混合を行う。
【0031】
原料混合液中の各金属原子の含有量は、製造目的とする金属酸化物触媒を構成する各金属原子のモル比により、適宜選択される。
【0032】
本発明の金属酸化物触媒の製造方法では、次いで、得られた原料混合液中の水を蒸発させて水を除去して、原料混合物粉体を得る。原料混合液中の水を蒸発させる方法としては、特に制限されず、常圧下又は減圧下で、原料混合液を加熱する方法が挙げられる。原料混合液中の水の蒸発を常圧下で行う場合、加熱温度は、特に制限されないが、好ましくは50〜150℃である。原料混合液中の水の蒸発を減圧下で行う場合、加熱温度は減圧度等に応じて、適宜選択される。また、水の蒸発操作を行った後、必要に応じて、乾燥を行うことができる。乾燥の際の乾燥温度は、特に制限されないが、好ましくは60〜150℃であり、また、乾燥時間は、6〜48時間程度であればよい。
【0033】
本発明の金属酸化物触媒の製造方法では、次いで、得られた原料混合物粉体を焼成して、金属酸化物触媒を得る。焼成温度は、特に制限されないが、好ましくは400〜900℃、特に好ましくは500〜800℃である。焼成時間は、特に制限されないが、好ましくは3〜30時間である。原料混合物粉体の焼成では、一度焼成した物を、同じ温度又は異なる温度で焼成することにより、焼成を複数回行ってもよい。特に、オルトバナジン酸マグネシウム(Mg)相を形成させるためには、原料混合物粉体の焼成を、焼成温度を低温から高温に変えて2回以上行うことが好ましい。例えば、原料混合物粉体を、550〜580℃で6〜10時間焼成し、次いで、625〜635℃で49〜60時間焼成し、次いで、640〜650℃で60〜70時間焼成し、次いで、750〜770℃で15〜20時間焼成し、次いで、800〜810℃で15〜20時間焼成することにより、オルトバナジン酸マグネシウム(Mg)相を形成させることができる。ただし、高温での焼成による触媒のシンタリングによる影響を考慮すれば、焼成の最高温度は、750℃以下が好ましい。
【0034】
原料混合物粉体の焼成においては、焼成中に焼成対象を十分に磨砕して、焼成時の触媒成分の不均一化を抑制することが好ましい。磨砕には、乳鉢、ボールミル等が用いられ、手動式/自動式のいずれも使用可能である。
【0035】
本発明のアルカジエンの製造方法は、本発明の金属酸化物触媒の存在下、400〜600℃で、アルカンの気相接触酸化的脱水素反応を行うことを特徴とするアルカジエンの製造方法である。
【0036】
原料のアルカンは、炭素数4〜6、好ましくは4〜5のアルカンである。アルカンとしては、具体的には、例えば、n−ブタン、n−ペンタン、iso−ペンタン、シクロペンタン、n−ヘキサン、iso−ヘキサン、シクロヘキサン等が挙げられる。特に、本発明のアルカジエンの製造方法は、原料アルカンとしてn−ブタンを用いて酸化的脱水素反応を行い、1,3−ブタジエンを製造するのに、有利に用いられる。
【0037】
本発明のアルカジエンの製造方法において、酸化的脱水素反応の温度は、400〜600℃、好ましくは450〜550℃である。酸化的脱水素反応の反応温度が上記範囲にあることにより、CO又はCOの生成及びコークの生成が少なく、且つ、アルカジエンの選択性及び収率が高くなる。一方、酸化的脱水素反応の反応温度が、上記範囲未満だと、アルカンの転化率やアルカジエンの収率が低くなり、また、上記範囲を超えると、分解反応が多く起こるため、CO又はCOの生成やコークの生成が多くなる。
【0038】
本発明のアルカジエンの製造方法の形態例としては、例えば、触媒が充填されている固定床流通式反応装置を用いて、その反応装置に、加熱下、原料ガスを供給する方法が挙げられる。原料ガスは、例えば、アルカン、酸素源及び窒素又はヘリウムの混合ガスとして供給される。酸素源としては、純酸素又は空気が用いられる。原料ガスの供給量は、特に制限されず、触媒活性、触媒充填量、接触時間、圧力損失などにより、適宜調節される。原料ガスとして、アルカンと酸素の混合ガスを用いる場合、酸素過剰だと、アルカンの完全酸化によるCOの生成が多くなるため、酸素に対するアルカンの分圧比(アルカン/酸素)が0.5以上であることが好ましい。反応圧力は、特に制限されず、常圧、加圧のいずれでもよい。
【0039】
以下に実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに制限されるものではない。
【実施例】
【0040】
(実施例及び比較例)
<触媒の製造>
(実施例1)La−Mg−V−O触媒の調製
蒸留水410mlに、バナジン酸アンモニウム6.68gを溶解させ、更に、水酸化マグネシウム4.76gと、蒸留水20mlに硝酸ランタン6水和物1.748gを溶解させた水溶液を加えて撹拌して、原料混合液を得た。得られた原料混合液を、撹拌しながら60℃で加熱して蒸発乾固させ、次いで、得られた蒸発乾固物を110℃で12時間乾燥して、原料混合物粉体を得た。次いで、得られた原料混合物粉体を、空気中550℃で6時間焼成した。得られた焼成物を乳鉢で粉砕した後、700℃で10時間焼成することにより触媒Aを得た。
【0041】
(実施例2)Ce−Mg−V−O触媒の調製
蒸留水410mlに、バナジン酸アンモニウム6.68gを溶解させ、更に、水酸化マグネシウム4.76gと、蒸留水20mlに硝酸セリウム6水和物1.748gを溶解させた水溶液を加えて撹拌して、原料混合液を得た。次いで、得られた原料混合液を、撹拌しながら60℃で加熱して蒸発乾固させ、次いで、得られた蒸発乾固物を110℃で12時間乾燥して、原料混合物粉体を得た。次いで、得られた原料混合物粉体を、空気中550℃で6時間焼成した。得られた焼成物を乳鉢で粉砕した後、700℃で10時間焼成することにより触媒Bを得た。
【0042】
(比較例1)Pd−Mg−V−O触媒の調製
蒸留水410mlに、バナジン酸アンモニウム6.68gを溶解させ、更に、水酸化マグネシウム4.76gと、蒸留水20mlにテトラアンミンパラジウムクロライド水和物1.06gを溶解させた水溶液を加えて撹拌して、原料混合液を得た。次いで、得られた原料混合液を、撹拌しながら60℃で加熱して蒸発乾固させ、次いで、得られた蒸発乾固物を110℃で12時間乾燥して、原料混合物粉体を得た。次いで、得られた原料混合物粉体を、空気中550℃で6時間焼成した。得られた焼成物を乳鉢で粉砕した後、700℃で10時間焼成することにより触媒Cを得た。
【0043】
(比較例2)Mg−V−O触媒の調製
蒸留水410mlにバナジン酸アンモニウム6.68gを溶解させ、更に、水酸化マグネシウム5.00gを加えて撹拌して、原料混合液を得た。次いで、得られた原料混合液を、撹拌しながら60℃で加熱して蒸発乾固させ、次いで、得られた蒸発乾固物を110℃で12時間乾燥して、原料混合物粉体を得た。次いで、得られた原料混合物粉体を、空気中550℃で6時間、625℃で49時間、640℃で60時間、750℃で15時間、800℃で15時間と、焼成温度を変化させて焼成することにより触媒Dを得た。なお、各焼成工程で焼成後、次の焼成工程を行う前に、得られた焼成物を乳鉢で粉砕してから、次の焼成工程を行った。
【0044】
<触媒の粉末X線回折測定>
得られた触媒の粉末X線回折測定はUltimaIV(Rigaku社製)を用いて以下の条件にて行った。結果を図1〜4に示す。
線源:CuKα
管電圧:40kV
管電流:40mA
サンプリング幅:0.02°
走査速度:2°/min
走査角度:5−90°
【0045】
【表1】
【0046】
<触媒性能の評価>
常圧固定床流通式反応装置を用い、下記のようにして酸化的脱水素反応を行い、触媒の性能評価を行った。
上記のようにして得られた触媒0.5gを反応装置に充填した。次いで反応装置にNを60ml/minで流通させながら、反応管内部の温度を450℃まで昇温させた。450℃に到達した後、空気31.5ml/minを加え、30分間流通させて、触媒の前処理(酸化処理)を行った。前処理終了後、n−ブタンを6.3ml/minで加えて流通させることにより、n−ブタン:空気:窒素(モル比)=1:5:9.5、全流量が97.8ml/minになるように、原料ガスを流通させて、n−ブタンの酸化的脱水素反応を45分間行った。反応結果を表2〜表5に示す。
【0047】
n−ブタン転化率、CO、CO、炭素数1〜3の炭化水素、ブテン及びブタジエン選択率、ブテン及びブタジエン収率を、以下のようにして計算した。
【0048】
転化率(%)=((原料ガス中のn−ブタン炭素モル数−生成ガス中のn−ブタンの炭素モル数)/原料ガス中のn−ブタン炭素モル数)×100
【0049】
生成物選択率(%)=(生成ガス中の各生成物の炭素モル数/(原料ガス中のn−ブタン炭素モル数−生成ガス中のn−ブタン炭素モル数))×100
*式中、各生成物の炭素モル数とは、選択率の対象となるCO、CO、ブテン、ブタジエンのそれぞれの炭素モル数である。
【0050】
ブテン収率(%)=(生成ガス中のブテン炭素モル数/生成ガス中の全炭素モル数)×100
【0051】
ブタジエン収率(%)=(生成ガス中のブタジエンの炭素モル数/生成ガス中の全炭素モル数)×100
【0052】
原料ガス及び生成ガスの分析を、TDCガスクロマトグラフ(ジーエルサイエンス GC−353B)及びFIDガスクロマトグラフ(ジーエルサイエンス GC−353B)を用いて行った。O及びNの分析には、モレキュラーシーブ13X、CO及びCOの分析には、Unibeads C充填カラム(ジーエルサイエンス社製)を用い、炭化水素化合物の分析には、HP−AL/Sキャピラリーカラム(Agilent technologies社製)を用いた。
【0053】
なお、以下の表中、C1〜C3は炭素数が1から3の炭化水素の合計を指し、n−Cはn−ブテンを指し、1,3−Cは1,3−ブタジエンを指す。
【0054】
【表2】
【0055】
【表3】
【0056】
【表4】
【0057】
触媒Cによるn−ブタンの酸化的脱水素反応では、CO、COの生成が進行していまい、ブタジエン選択性及びブタジエン収率が低くなった。
【表5】
図1
図2
図3
図4