特許第5906192号(P5906192)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5906192
(24)【登録日】2016年3月25日
(45)【発行日】2016年4月20日
(54)【発明の名称】被コーティング織物製品
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/235 20060101AFI20160407BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20160407BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20160407BHJP
【FI】
   B60R21/235
   B32B27/00 J
   B32B27/18 Z
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-539010(P2012-539010)
(86)(22)【出願日】2010年11月12日
(65)【公表番号】特表2013-510769(P2013-510769A)
(43)【公表日】2013年3月28日
(86)【国際出願番号】US2010056503
(87)【国際公開番号】WO2011060245
(87)【国際公開日】20110519
【審査請求日】2013年11月8日
(31)【優先権主張番号】61/260,526
(32)【優先日】2009年11月12日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】590001418
【氏名又は名称】ダウ コーニング コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】DOW CORNING CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100179866
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 正樹
(72)【発明者】
【氏名】マリータ バース
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム ブラックウッド
(72)【発明者】
【氏名】ヴィットリオ クレリッチ
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー ウィリアム マウントニー
【審査官】 森本 康正
(56)【参考文献】
【文献】 特表2003−502522(JP,A)
【文献】 特開2009−190171(JP,A)
【文献】 特表2002−518603(JP,A)
【文献】 特表2002−520183(JP,A)
【文献】 特表2007−501081(JP,A)
【文献】 特開2008−111222(JP,A)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ポリマーバインダーに分散した少なくとも1つの固体潤滑剤を含むブロッキング防止コーティングで上塗りされている、有機樹脂を含む硬化したコーティングを有するエアバッグであって、
前記ブロッキング防止コーティングが、乾燥量基準で0.5〜10重量%の湿潤剤と、
乾燥量基準で3〜80重量%の固体潤滑剤と、
乾燥量基準で2〜50重量%の有機ポリマーバインダーと、
乾燥量基準で最大5重量%の接着促進剤と、
乾燥量基準で5〜40重量%の難燃剤と、
を含み、
前記有機樹脂が、ウレタンポリマーまたはハイブリッドウレタン樹脂であり、当該ハイブリッドウレタン樹脂は、アクリレート、ビニルおよび/またはシリコーンと混合したポリウレタンを含み、
前記ブロッキング防止コーティングのコーティング量は、乾燥量基準で1〜15g/mであり、
前記湿潤剤が、シロキサンポリエーテルまたはシリコーングリコールであり、
前記固体潤滑剤が、フッ素ポリマー、固体炭化水素ワックス、タルク、モンモリロナイト、二硫化モリブデン、黒鉛、硫化亜鉛、リン酸三カルシウムおよびこれらの混合物から選択されることを特徴とする、有機樹脂を含む硬化したコーティングを有するエアバッグ。
【請求項2】
分散した固体潤滑剤は、フッ素ポリマーおよび/またはタルクを含む、ことを特徴とする、請求項1に記載のエアバッグ。
【請求項3】
分散した固体潤滑剤は、ポリテトラフルオロエチレンを含む、ことを特徴とする、請求項2に記載のエアバッグ。
【請求項4】
固体潤滑剤は、ポリウレタンバインダーに分散している、ことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のエアバッグ。
【請求項5】
ブロッキング防止コーティングは、1〜3のアルキルポリ(エチレンオキシ)シロキサン基(i)および1〜4のアルキルシロキサン基(ii)を有するシロキサンポリエーテルを包含する湿潤剤を含む、ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のエアバッグ。
【請求項6】
有機樹脂組成物でコーティングされたエアバッグまたはエアバッグ織物に、少なくとも1つの分散した固体潤滑剤の水性分散液を含むブロッキング防止コーティング組成物で上塗りし、
前記ブロッキング防止コーティングが、乾燥量基準で0.5〜10重量%の湿潤剤と、
乾燥量基準で3〜80重量%の固体潤滑剤と、
乾燥量基準で2〜50重量%の有機ポリマーバインダーと、
乾燥量基準で最大5重量%の接着促進剤と、
乾燥量基準で5〜40重量%の難燃剤と、
を含み、
前記有機樹脂が、ウレタンポリマーまたはハイブリッドウレタン樹脂であり、当該ハイブリッドウレタン樹脂は、アクリレート、ビニルおよび/またはシリコーンと混合したポリウレタンを含み、
前記ブロッキング防止コーティングのコーティング量は、乾燥量基準で1〜15g/mであり、
前記湿潤剤が、シロキサンポリエーテルまたはシリコーングリコールであり、
前記固体潤滑剤が、フッ素ポリマー、固体炭化水素ワックス、タルク、モンモリロナイト、二硫化モリブデン、黒鉛、硫化亜鉛、リン酸三カルシウムおよびこれらの混合物から選択されることを特徴とする、エアバッグまたはエアバッグ織物をコーティングするプロセス。
【請求項7】
ブロッキング防止コーティング組成物は、有機ポリマーバインダーの水性分散液に、分散した固体フッ素ポリマーおよび/またはタルクを含む、ことを特徴とする請求項6に記載のプロセス。
【請求項8】
前記有機樹脂が、ウレタンポリマーを含む、ことを特徴とする請求項6または7に記載のプロセス。
【請求項9】
前記有機樹脂が、前記ハイブリッドウレタン樹脂を含み、前記ハイブリッドウレタン樹脂の少なくとも1つの成分は20℃以下のガラス転移温度を有する、ことを特徴とする請求項8に記載のプロセス。
【請求項10】
ブロッキング防止コーティングは、1〜3のアルキルポリ(エチレンオキシ)シロキサン基(i)および1〜4のアルキルシロキサン基(ii)を有するシロキサンポリエーテルを包含する湿潤剤を含む、ことを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項11】
請求項6〜10のいずれか1項に記載のプロセスを用いて、請求項1〜5のいずれか1項に記載のエアバッグを製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアバッグのコーティングに関するものであって、自動車等の乗り物の乗員を保護する安全性の目的のために使用され、エアバッグを製造することを意図するエアバッグ用織物に使用される。特に本発明は、エアバッグのブロッキング防止組成物で上塗りし、有機樹脂を含む組成物でコーティングしたエアバッグ織物に関する。「有機樹脂」または「有機ポリマー」とは、ポリマー鎖を形成する原子の50%以上が炭素原子であることを意味する。
【0002】
一般的に、エアバッグは、少なくともその1つの側面がエラストマー層で被覆された合成繊維からできている織布または編地、例えばナイロン−6,6またはポリエステル等のポリアミドから形成されている。エアバッグは、コーティングされ、縫合された平織物からできていて十分な機械的強度を提供するか、または継ぎ目のない状態に1枚に織ることができる。縫い合わされたエアバッグは、通常、エアバッグの内側に被コーティング織物の表面があるように構成されている。1枚に織られたエアバッグは、エアバッグの外側がコーティングされている。
【0003】
ある種のエアバッグの使用においては、加圧ガスを織物のエンベロープに比較的長時間保持する必要がある。この要件は、例えば自動車産業のサイド・カーテン・エアバッグの場合に要求される。サイド・カーテン・エアバッグは、一般的なエアバッグと同様に、接触時に膨張するように設計される。サイド・カーテンが広がることで、乗客と車体の側面、例えば窓の間でクッション性のあるカーテンとなる。従来の運転席用および乗客用エアバッグの場合のように、単に衝突そのものの衝撃に対するクッション性でなく、乗客を保護することを意図して設計され、例えば車の走行中、サイド・カーテン・エアバッグが十分に加圧されていることが重要である。従来の運転席用および乗客用エアバッグは、ほんの一瞬、圧力を維持する必要があるのみ一方で、サイド・カーテン・エアバッグは数秒間、適度な圧力を保持することが望ましい。一定のガス圧力を比較的長期間保持するため、加圧された織物構造が望ましい場合、例えば航空用の緊急避難用シュートまたはゴムボートに同じように応用される。したがって、シリコーンゴム塗料による少ないコーティング量で、気密性が改良された、柔軟性および高温耐性を有する被コーティング織物の要望がある。
【0004】
コーティングに好ましいエラストマーの中で、エアバッグまたはエアバッグ織物に使用されるのは、ウレタンポリマーである。
【背景技術】
【0005】
米国特許第5110666号明細書には、新規ポリカーボネート−ポリエーテルポリウレタンでコーティングされた運転席用および乗客用サイドエアバッグとして使用するための織物基材が記載されている。
【0006】
米国特許第6169043号明細書には、ポリウレタンおよびポリアクリレートの混合物を構成要素として含み、織物の表面上に低透過性のコーティングがあるエアバッグコーティング組成物が記載されている。
【0007】
米国特許第7543843号明細書には、ハイブリッド樹脂をエアバッグコーティングとして使用することが記載されている。ハイブリッド樹脂は、アクリレート、ビニルおよび/またはシリコーンと混合されたウレタンであって、少なくとも1つの成分のガラス転移温度が20℃以下である。ウレタンとしては、ポリカーボネート、ポリテトラメチレングリコール、ケイ素系ジオールまたはオレフィン系ジオールの種が好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5110666号明細書
【特許文献2】米国特許第6169043号明細書
【特許文献3】米国特許第7543843号明細書
【特許文献4】米国特許第5945185号明細書
【特許文献5】米国特許第6239046号明細書
【特許文献6】米国特許第6177365号明細書
【特許文献7】米国特許第6177366号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ウレタンポリマー系コーティングがエアバッグ上にのみある場合、この下地コーティングの表面特性により、ブロッキング(保管の際および自動車にエアバッグをぎっしり詰めた際、特に高い環境温度で、ウレタンポリマーコーティングされた表面が互いに付着する現象)や、エアバッグ膨張時の非常に高いストレスを生じる。エアバッグ膨張時のストレスは、膨張時の裂けや、または織物からのウレタンポリマー下地の剥離による不具合が生じる。エアバッグ製造の際、ウレタンポリマーでコーティングされた織物をロール状に保管する場合、ウレタンポリマー表面の間のブロッキングも問題となる。
【0010】
米国特許第5945185号明細書には、シロキサン含有量5−40重量%であるシリコーン変性熱可塑性ポリウレタン樹脂から製造されたエアバッグが記載されている。前記エアバッグは、ブロッキングの危険性が低いが、乗り物の製造業者は被コーティング織物エアバッグを使用することが好ましい。
【0011】
米国特許第6239046号明細書は、編物、織物または不織の繊維基材を、粘着性ポリウレタン層とその上のエラストマー性ポリシロキサン層でコーティングされていることが記載されている。空気を保持することに優れていて、耐熱性に優れたエア・カーテンまたはエアバッグは、その後、被コーティング繊維基材から形成される。
【0012】
米国特許第6177365号および第6177366号明細書には、少なくとも2つの互いに離間した層を有するエアバッグコーティングが記載されている。エアバッグ表面と接触する第1層目(下地)には、ポリウレタン、ポリアクリレート、ポリアミド、ブチルゴム、水素化ニトリルゴムまたはエチレン酢酸ビニル共重合体のノンシリコン組成物が含まれる。第2層目(上塗り)は、シリコーン材料である。
【0013】
さらに、有機樹脂系の下地、特にウレタンポリマー系下地またはアミノ樹脂とともに硬化した下地に、硬化性液体シリコーンゴムの上塗りを塗布することで、不快な悪臭が放出されることが見出された。
【0014】
本発明の1つの態様によると、有機樹脂でコーティングされたエアバッグは、有機ポリマーバインダーに分散した少なくとも1の固体潤滑剤を含む、ブロッキング防止コーティングで上塗りされている。
【0015】
本発明の他の態様によると、バッグまたは織物が有機樹脂でコーティングされたエアバッグまたはエアバッグ織物をコーティングするプロセスは、エアバッグが少なくとも1の分散した固体潤滑剤の水分散液を含む、ブロッキング防止コーティング組成物で上塗りされていることを特徴とする。
【0016】
ブロッキング防止コーティングに存在する固体潤滑剤には、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素ポリマー、ポリオレフィンワックス等の固体炭化水素ワックス(例えば微粉化されたポリプロピレンワックス)またはPTFEおよびワックスの混合物を含む。固体潤滑剤は、付加的にまたは選択的にタルク等の無機系潤滑剤を含んでいてもよく、無機化合物系の潤滑剤としては、タルクミクロスフィア、モンモリロナイト、二硫化モリブデン、黒鉛、硫化亜鉛またはリン酸三カルシウムまたはこれら2以上の混合物の形態が使用できる。無機系潤滑剤、例えばタルクおよびモンモリロナイトは、エアバッグ表面でブロッキングを減少するのに効率的であり、PTFEを固体潤滑剤の一部または全部を置換するために使用することができる。
【0017】
フッ素ポリマーおよびタルクの組み合わせは、コーティングされたエアバッグ表面のブロッキングを減少させるために特に効率的であることを見出した。
【0018】
水性分散液由来の有機樹脂を含む組成物で前もってコーティングされたエアバッグまたはエアバッグ織物は、それぞれ、固体潤滑剤コーティング組成物を塗布することが好ましい。コーティング組成物は、固体潤滑剤のエアバッグ織物の付着性を高めるため、通常はバインダーを要する。バインダーは、例えば有機ポリマーバインダーである。有機ポリマーバインダーの好適例としては、ポリウレタン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アミノホルムアルデヒド樹脂、ビニル樹脂(例えばポリビニルブチラール)およびポリアミドイミド樹脂が挙げられる。ポリウレタンの好適例としては、ポリエステルポリオールと芳香族ジイソシアナートまたは脂肪族ジイソシアナートの共重合体が挙げられる。フェノール樹脂の好適例としては、フェノールとホルムアルデヒドの共重合体およびフェノール、ホルムアルデヒドおよびクレゾールの共重合体が挙げられる。エポキシ樹脂の好適例は、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンの共重合体である。したがって、エアバッグ織物の表面に存在するコーティングは、有機ポリマーバインダーに分散した固体潤滑剤を含む。有機ポリマーバインダーのレベルは、例えばブロッキング防止コーティング組成物(乾燥量基準)の2または3重量%〜50重量%、即ち、乾燥量基準で潤滑性コーティング組成物の2〜50重量%、或いは3〜50重量%である。有機ポリマーバインダーのレベル、例えばコーティング組成物の(乾燥量基準)5または10重量%〜35重量%、即ち5〜35重量%、或いは10〜35重量%が通常好適である。組成物の総重量%は、常に合計して100%とする。コーティングの乾燥量基準での組成物の参考範囲は、水および共溶媒の重量を除いて算出された重量を意味する。
【0019】
本発明の好ましい一態様において、前もって有機樹脂を含む組成物でコーティングされたエアバッグ織物に塗布されたブロッキング防止コーティング組成物は、固体潤滑剤の水性分散液、例えばフッ素ポリマーおよび/またはタルクまたはモンモリロナイトが有機ポリマーバインダー中に分散している。有機ポリマーバインダー分散液は、必要に応じて水性混和性の有機共溶媒を含む水性溶液であるか、または、水性エマルジョン若しくは懸濁液である。係るエマルジョンまたは懸濁液は、通常、少なくとも1つの界面活性剤で安定化され、非イオン性、アニオン性、カチオン性および両性の界面活性剤、およびこれらの2つ以上のもの、から選択される混合物である。適切な非イオン性界面活性剤の例としては、アルキルエトキシレート(エトキシル化脂肪アルコール)またはアラルキルエトキシレート、例えば(t−オクチルフェノキシ)ポリエトキシエタノールが挙げられる。適当なアニオン性界面活性剤の例は、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムである。
【0020】
ブロッキング防止コーティングは、有機ポリマーバインダー分散液中に固体潤滑剤を分散させるか、固体潤滑剤の分散液を有機ポリマーバインダー分散液と混合させるか、または固体潤滑剤の分散液中に有機ポリマーバインダーを分散させて調製される。前記方法を組み合わせて用いてもよく、例えばフッ素ポリマー固体潤滑剤の分散剤は、有機ポリマーバインダーおよび無機系潤滑剤と混合することができ、例えば生成される懸濁液にタルクを混合してもよい。
【0021】
ブロッキング防止コーティング組成物は、乾燥量基準で、好ましくは3または5重量%以上、より好ましくは10重量%以上、90重量%以下、より好ましくは80重量%以下の固体潤滑剤を含み、例えば、3〜90重量%、3〜80重量%、5〜90重量%、5〜80重量%、10〜90重量%、或いは10〜80重量%の固体潤滑剤を含む。例としては、乾燥量基準で50重量%または60重量%の固体潤滑剤を含む組成物が挙げられる。最も好ましくは、織物のブロッキング防止コーティングは、20または30重量%以上、75または85重量%以下の固体潤滑剤を含む。コーティングは、例えば乾燥量基準で3〜50重量%の有機ポリマーバインダーを含むことができる。組成物の総量を100%とする。
【0022】
無機系潤滑剤、例えばタルクの量は、保管の際、実質的にタルクが沈降を生じないように、あまり多くしないことが好ましい。PTFE固体潤滑剤を含有するか、含有しないコーティングに存在するタルクの量は、PTFE固体潤滑剤と共に存在する場合、乾燥量基準でコーティングの好ましくは5または10重量%〜30または40重量%、例えば5重量%〜30重量%、5重量%〜40重量%、10重量%〜30重量%、或いは10重量%〜40重量%であり、PTFE固体潤滑剤の非存在下において80または90重量%以下、例えば5重量%〜90重量%、5重量%〜80重量%、10重量%〜90重量%、或いは10重量%〜80重量%である。エアバッグに粉末としてタルクを塗布し、ブロッキングを阻害する場合、本発明によるブロッキング防止コーティング中のタルクの使用は、ダスト・コントロールに伴う課題を回避する。
【0023】
ブロッキング防止コーティング組成物は、接着促進剤を含み、コーティングの接着性を改良し、有機樹脂系のコーティングを硬化する。好ましい接着促進剤としては、エポキシシラン、例えば3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のエポキシアルキルトリアルコキシシラン、メタクリオキシプロピルトリメトキシシラン等の(アルク)アクリルオキシアルキルトリアルコキシシランまたは(エチレンジアミンプロピル)トリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノアルキルアルコキシシラン、N−フェニルアミノメチルジメトキシメチルシラン、N−シクロヘキシルアミノメチルジメトキシメチルシラン、N−メチルアミノメチル−ジメトキシメチルシラン、N−エチルアミノメチルジメトキシ−メチルシラン、N−プロピルアミノメチルジメトキシメチルシラン、N−ブチルアミノメチルジメトキシメチルシラン、(メタクリロイル−オキシメチル)−ジメトキシメチルシラン、N−(ジメトキシメチル−シリルメチル)−O−メチルカルバミン酸、アミノメチルジメトキシメチルシランをマイケル受容体、例えばマレイン酸ジエステル、フマル酸ジエステル、シトラコン酸ジエステル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、桂皮酸エステル、イタコン酸ジエステル、ビニルホスホン酸ジエステル、ビニルスルホン酸アリルエステル、ビニルスルホン、ビニルニトリル、1−ニトロエチレンと反応させたマイケル付加反応の生成物、クネーファナーゲル縮合の生成物であって、例えばマロン酸ジエステルおよびホルムアルデヒド、アセトアルデヒドまたはベンズアルデヒド等のアルデヒドを含む。エポキシおよびアルコキシ官能基を有する有機ケイ素化合物、例えば米国特許第3,455,877号明細書(参照して援用する)に記載されているものを使用してもよい。アルコキシラジカルは、すべて同一であっても異なっていてもよく、通常、1〜4個の炭素原子を有するアルコキシラジカルから選択され、例えばメトキシまたはエトキシがある。任意の他の置換基が存在する場合は、1〜8個の炭素原子を有するアルキル基から選択することが好ましい。適切なシランとしては、例えば9−(3,4エポキシシクロヘキシル)−エチルトリメトキシシランが挙げられる。接着促進剤は、好ましくはコーティング組成物の配合物に5重量%までで存在し、例えば0.2重量%から1重量%までまたは0.5重量%から1重量%までである。
【0024】
ブロッキング防止コーティング組成物は、硬化した有機樹脂系下地コーティング上に広がりやすくするため、湿潤剤を含有する。好ましい湿潤剤の1種としては、シロキサンポリエーテル、特にポリエーテル基が水酸基末端であるポリオキシエチレンシロキサン、他にはシリコーングリコールとして既知のものが挙げられる。該湿潤剤としては、アルキルシロキサン基と関連のあるアルキルポリ(エチレンオキシ)シロキサン基を含むシロキサン化合物であって、前記アルキル基は1−6個の炭素原子を含むものが挙げられる。これらは好ましくは低分子量の化合物であり、好ましくは2〜8個のケイ素原子を含む。例えば、湿潤剤は、1〜3個のアルキルポリ(エチレンオキシ)シロキサン基(i)および1〜4個のアルキル−シロキサン基(ii)を含む。或いは、湿潤剤は、1個のアルキルポリ(エチレンオキシ)シロキサン基(i)および2個のアルキル(一般的にメチル−および/またはエチル)−シロキサン基(ii)を含有するトリシロキサンでもよい。好ましくはアルキルポリ(エチレンオキシ)シロキサン基(ii)中のエチレンオキシ(EO)単位の平均数は、5〜12である。好ましくはアルキルポリ(エチレンオキシ)シロキサン基(ii)の末端ユニットは、アセトキシ、ヒドロキシルまたはアルコキシユニット(例えばメトキシ)である。例えば、下式の構造の化合物である。
【0025】
【化1】
【0026】
(式中、n=3−20、R=H,CH,CHCH,CHCO)
【0027】
他のR基使用してもよく、Si原子とEO鎖の間のアルキル鎖の長さは1〜12個の炭素原子であってもよく、例えば3個の炭素原子の場合、それによりSi原子とEO鎖の間にはプロピル結合が形成される。好ましい例としては、1,1,1,3,5,5,5−ヘプタメチル−3−ポリエトキシプロピル−トリシロキサンが挙げられるが、これに限定されるものではない。湿潤剤は、好ましくはコーティング組成物に10重量%以下の配合で、例えば0.5重量%〜3重量%または1重量%〜3重量%存在する。
【0028】
ブロッキング防止コーティング組成物は、難燃剤を含んでいてもよい。エアバッグは、燃焼を支持するものでないことが重要であり、エアバッグに適用される厳しい可燃性試験を通過するため、通常は、特に下地がシリコーンでなく有機樹脂の場合、エアバッグは、難燃剤の添加を必要とする。上塗りへの難燃剤の使用が最も効果的である。好ましい難燃剤の例は、アルミナ三水和物であり、好ましくは表面処理されていないものである。ブロッキング防止コーティング組成物は、例えば5〜40重量%のアルミナ三水和物を含む。織物へのコーティングは、例えば乾燥量基準で5〜55重量%のアルミナ三水和物を含む。
【0029】
ブロッキング防止コーティングが無機潤滑剤、例えばタルクを含む場合、それは増粘剤を含んでいてもよく、これによりタルクの沈降が阻害される。増粘剤としては、例えばヒュームド・シリカ、ベントナイト粘土またはポリビニルアルコール等のポリマー増粘剤が挙げられる。増粘剤は、好ましくはコーティング組成物中の配合物に乾燥量基準で5重量%以下、例えば0.2重量%〜1重量%または0.5重量%〜1重量%存在する。
【0030】
ブロッキング防止コーティングを、グラビア印刷、オフセット印刷、キス・ロール等のロール塗布によって、またはカーテン塗布によって、エア・アシステッドスプレー若しくはエアレス・スプレー等のスプレーによって、またはロール式ナイフ塗布によって、被コーティングエアバッグまたは被コーティングエアバッグ織物に塗布することができる。通常、ロール塗布が、均一に、低いコーティング量でコーティングするのに効果的な方法として好ましい。グラビア印刷における織物に塗布されるコーティング組成物の量は、ロール上への圧力および/またはエッチング部分の表面からの深さによって異なる。ブロッキング防止コーティングは、好ましくは硬化性有機樹脂系コーティングに乾燥量基準で1g/m〜10g/mまたは1g/m〜15g/mまでのコーティング量で塗布される。1g/mまたは2g/m未満のコーティング量が、ブロッキングの防止に有効であることを見出した。
【0031】
ブロッキング防止コーティング組成物中の水性希釈剤(水と、水と混合した任意の共溶媒)の量は、コーティングに求められる粘度およびコーティング量にしたがって調整することができる。通常、コーティング組成物は、固形成分含有量20〜75重量%、水性希釈剤80〜25重量%を総量100%に含む。
【0032】
エアバッグまたはエアバッグ織物に下地として塗布される有機樹脂系組成物は、上述された特許に記載された一般的な有機樹脂系コーティングである。好ましい有機樹脂の1種としては、ポリウレタンがある。ポリウレタン系コーティングは、織物に硬化する反応性ポリウレタンであって、例えばヒドロキシル基またはアミン基とイソシアネート基の反応、または熱可塑性ポリウレタンである。硬化性または熱可塑性のいずれかのポリウレタンは、一般的にポリイソシアネートとポリオールの生成物である。ポリオールとしては、例えばポリテトラメチレングリコールジオール、ポリエステル−ポリエーテルジオール、ポリカーボネート−ポリエーテルジオール、シリコーン−ポリエーテルジオールまたはポリアクリレートを含むヒドロキシル基等のポリエーテルジオールでもよい。ポリイソシアネートは、芳香族ジイソシアネートでもよいが、好ましくは脂肪族ジイソシアネートまたは脂環式ジイソシアネートである。有機樹脂系コーティングは、米国特許第7543843号明細書に記載されているように、アクリレート、ビニルおよび/またはシリコーンと混合されたポリウレタンを含むハイブリッドウレタンである。前記有機樹脂系コーティングは、様々な上塗り塗料で上塗りした場合、臭気問題を生じるが、本発明によるブロッキング防止コーティングを用いると臭気問題もなく、上塗りできることを見出した。
【0033】
或いは、下地は、アミノ樹脂、例えばメラミン−ホルムアルデヒド樹脂によって硬化可能なペンダントヒドロキシル基を有する硬化性ポリアクリレート、またはエチレン酢酸ビニルの共重合体を含んでいてもよい。下地は、有機樹脂、例えばポリアクリレートまたはエチレン酢酸ビニルとポリウレタンとの共重合体の混合物でもよい。
【0034】
有機樹脂系コーティングが硬化性の場合、一般的に、ブロッキング防止コーティングの塗布前に硬化されるが、別のプロセスにおいては、ブロッキング防止コーティング組成物は、非硬化性有機樹脂系コーティング上に塗布され、有機樹脂系コーティング組成物およびブロッキング防止コーティング組成物の組み合わせを熱硬化してもよい。
【0035】
ブロッキング防止コーティングが硬化性有機樹脂系コーティング上に塗布される場合、潤滑性コーティングは環境温度で硬化させてもよく、高温、例えば50〜200℃、特に100〜150℃で、より素早く硬化させてもよい。高温で硬化させる方法の一つは、有機樹脂系被膜の加熱硬化直後に、ブロッキング防止コーティングを、加熱した基材上、例えば被コーティングエアバッグまたはエアバッグ織物に塗布する工程を備える。
【0036】
本発明のブロッキング防止コーティングは、コーティングされた織物の表面のブロッキング、即ち保管の際および自動車にエアバッグをぎっしり詰めた際、コーティングされた表面が、互いに付着する現象を阻害する。前記ブロッキングは、エアバッグを膨張させたとき、非常に高いストレスを生じ、裂け、または、織物からのシリコーン系コーティングの剥離といった不具合を生じる。ブロッキング防止コーティングは、乗り物が使用される移動中に、コーティングされたエアバッグ表面での摩擦を減少させ、エアバッグの圧力保持を減少させるエアバッグの磨滅を減少させることができる。
【0037】
本発明のエアバッグの上塗りとしてのブロッキング防止コーティングの使用は、不快な臭いを生じることはない。本発明のブロッキング防止コーティングをウレタンポリマー系コーティング、例えば米国特許第7543843号明細書に記載されているようにアクリレート、ビニルおよび/またはシリコーンとウレタンポリマーを含むハイブリッドウレタン樹脂の混合物に塗布した場合、悪臭またはアンモニア臭が放出されない。
【0038】
本発明のブロッキング防止コーティングは、エアバッグの透過性または外観に有害な影響もなく、ブロッキングを阻害し、不快な臭いを防ぐ。ブロッキング防止コーティングは、特にブロッキング防止コーティングのコーティング量が5g/m超の場合、空気圧を失うことに対するエアバッグのシーリングの上昇にいくらか有利である。ブロッキング防止コーティングは、下地との作用によって、色変化を生じることはない。
【0039】
好ましくは、本明細書に記載されたエアバッグは、特にエアバッグへの利用に実用的であり、織物エンベロープ内で比較的長時間、例えば5秒超、特に自動車産業用のサイド・カーテン・エアバッグにおいては、加圧ガスを保持する必要がある。サイド・カーテン・エアバッグは、従来のエアバッグと同様に、衝撃の際、膨張するように設計される。サイド・カーテンは、開いて、クッション性のあるカーテンを、乗客および車体の側面、例えば窓の間に形成する。従来の運転席用および乗客用エアバッグの場合のように単に衝突そのものの衝撃に対するクッション性のみを意図するものではなく、乗客を保護するを意図しており、例えば車の走行中、サイド・カーテン・エアバッグが十分に加圧されることが重要である。従来の運転席用および乗客用エアバッグは、一瞬、適度な圧力を保有していればよいが、サイド・カーテン・エアバッグは、数秒間、適度な圧力を保持することが望ましい。一定のガス圧力を比較的長期間保持するため加圧された織物構造が望まれる場合として、例えば航空用の緊急避難用シュートまたはゴムボートに同様に応用される。したがって、シリコーンゴムコーティング量が少なく、しかし、優れた気密性を備え、柔軟性と耐熱性を有する被コーティング織物が望まれている。
【実施例】
【0040】
本発明を以下の実施例に例示する。部およびパーセントは、他に記載がない限り、重量部および重量パーセントを示す。
【0041】
<実施例1>
非イオン性界面活性剤によって安定化した水性の脂肪族ポリウレタン分散剤を、非イオン性界面活性剤によって安定化されたPTFE粉末の水性分散液と混合し、タルク、アルミナ三水和物、湿潤剤および接着促進剤と混合し、水50部、PTFE44部、ウレタンポリマー3.0部、(t−オクチルフェノキシ)ポリエトキシエタノール非イオン性界面活性剤3.0部、1,1,1,3,5,5,5−ヘプタメチル−3−ポリエトキシプロピル−トリシロキサン湿潤剤2.0部、エポキシシラン接着促進剤1.0部、タルク10パーツおよびアルミナ三水和物20部を含むブロッキング防止コーティングを形成した。
【0042】
エチレン酢酸ビニル共重合体と混合されたウレタンポリマーを含有するハイブリッドウレタン樹脂を含み得るMilliken&Co. of Spartanburg,SCから商標Patinaとして販売されているコーティング剤でコーティングしたナイロン織りエアバッグ織物の表面に、実施例1のブロッキング防止コーティング組成物をグラビアロールコーティングによって塗布し、硬化した。ブロッキング防止コーティングを140℃で加熱硬化した。他の実験において、ブロッキング防止コーティングを表1に記載された様々なコーティング量で塗布した。
【0043】
実施例1のブロッキング防止コーティングで上塗りした織物および3つの上塗りのされていないコントロールサンプルについて、50mm×50mmの被コーティング織物を向かい合わせに配置し、20lb(9kg)の重りを乗せて、織物を110℃で4時間静置する、ブロッキング試験を実施した。その後、織布の1つの角に50gの力をかけた。織物が60秒間で離れない場合、不合格とする。折布が60秒以下で離れた場合、ブロッキング試験に合格とする(表1ではISと記載される)。
【0044】
実施例1のブロッキング防止コーティングで上塗りされた織物および3つの上塗りのないコントロールサンプルについて、織物の端を炎にあてて、燃焼距離および燃焼時間を測定する、燃焼試験も実施した。全ての織物サンプルは、直ぐに炎を移動させると、自然と消火した(SE)。
【0045】
【表1】