(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0014】
図1は、本実施形態におけるポテンショメータ1の検査装置100が電動パワーステアリング装置20に接続された状態を示す構成図である。
【0015】
電動パワーステアリング装置20は、ステアリングホイール(図示せず)に連結されて車輪(図示せず)を操舵する操舵機構2と、入力トルクを検出するトルクセンサ3と、操舵機構2にアシストトルクを付与する電動モータ4と、トルクセンサ3の検出信号が入力されるとともに電動モータ4の出力を制御するモータ制御装置5と、を備える。
【0016】
操舵機構2は、ステアリングホイールに連結されるステアリングシャフト6と、ステアリングシャフト6に形成されるピニオン7と、ピニオン7に噛み合うラック8と、を備える。ステアリングシャフト6の回転によってピニオン7が回転すると、ピニオン7に噛み合うラック8が軸方向(車両の左右方向)に移動し、ラック8に連結されるタイロッド(図示せず)を介して車輪が操舵される。
【0017】
操舵機構2はさらに、ステアリングシャフト6に連結されるウォームホイール9と、ウォームホイール9に噛み合うウォーム10と、を備える。ウォーム10は、電動モータ4の出力軸に連結される。電動モータ4がウォーム10を回転駆動すると、ウォームホイール9が回転駆動されることで、ステアリングシャフト6にアシストトルクが付与される。
【0018】
トルクセンサ3は、ステアリングシャフト6の途中に介装され、運転者がステアリングホイールを介してステアリングシャフト6に付与する入力トルクを検出する。ステアリングシャフト6は、ステアリングホイールに連結された入力シャフト11と、入力シャフト11に一端が連結されたトーションバー12と、トーションバー12の他端に連結された出力シャフト13と、から構成される。
【0019】
トルクセンサ3は、変位センサとしてのポテンショメータ1から構成され、ステアリングホイールを介してステアリングシャフト6に付与される操舵トルクによるトーションバー12の捩れ角変位を検出する。ポテンショメータ1は、トーションバー12の捩れ角変位に応じた電圧信号をモータ制御装置5に出力する。
【0020】
モータ制御装置5は、トルクセンサ3から入力された電圧信号に基づいて適切なアシストトルクを演算し、電動モータ4に印加する電流をフィーバック制御する。
【0021】
ポテンショメータ1の検査装置100は、入力シャフト11に検査用の操舵トルクを付与するアクチュエータ31と、ポテンショメータ1から出力される信号を受信するとともに信号を演算処理するコントローラ32と、を備える。ポテンショメータ1の検査装置100は、電動パワーステアリング装置20が工場において生産され出荷される前に、ポテンショメータ1が正常に動作することを検査するために用いられる。
【0022】
次に、ポテンショメータ1の検査装置100による検査手順について説明する。
【0023】
初めに、電動パワーステアリング装置20のポテンショメータ1にコントローラ32を接続する。さらに、入力トルクを付与できるようにアクチュエータ31を入力シャフト11に連結させる。
【0024】
続いて、入力シャフト11にアクチュエータ31によって入力トルクを付与するとともにコントローラ32による演算処理を行う。アクチュエータ31は、入力シャフト11に対して一定の時間勾配で連続して変化するスイープ入力を与える。
【0025】
図2は、コントローラ32の処理内容を示すフローチャートである。
【0026】
数列データ取得部としてのステップS1においてコントローラ32は、スイープ入力に応じて出力される電圧値としての出力値の数列データVm(T)を取得する。スイープ入力のサンプリング周波数Fs(回/Nm)は、ポテンショメータ1の正常判定を行う際に用いる周波数よりも十分に高い値に設定される。
【0027】
図3Aは、横軸を入力トルク(T)とし縦軸を出力電圧(V)として数列データVm(T)をプロットした線図である。ポテンショメータ1は1次線形出力センサであり、数列データVm(T)は入力トルクが大きいほど出力電圧が比例して大きくなる直線性を有する。
【0028】
図3Aのスケールでは、数列データVm(T)がほぼ完全な直線性を有するように見えるが、実際にはポテンショメータ1内の摺動部において発生するノイズ等の影響により、ある入力トルクにおける出力電圧の値が理想値より高く又は低く出力される。これにより、
図3Aの線図は微小な振幅の上下方向のズレ(以下、これを「非直線性誤差」と称する)を含む。
【0029】
非直線性誤差は、各点における出力値として単独ではポテンショメータ1のセンシングの精度低下につながる。さらに、非直線性誤差が周期性を有している場合には以下のような問題が生じる。すなわち、モータ制御装置5は、トルクセンサ3から入力される電圧信号に基づいて電動モータ4に印加する電流をフィーバック制御しているので、電圧信号が周期的に変動するとフィードバック制御系においてシステム発振が生じる可能性がある。特に、操舵補助トルクのアシスト制御時の操舵フィーリング又は応答性を向上させるため、トルクセンサ3のゲインを上げてフィードバック制御系の感度を上げた場合にシステム発振が生じる可能性がある。
【0030】
そこで、本実施形態では、数列データVm(T)に含まれる周期的な変動成分を抽出して非直線性誤差が許容範囲内であるか否かを検査装置100によって判定することでポテンショメータ1の品質管理を行う。
【0031】
図2に戻って、差分演算部としてのステップS2においてコントローラ32は、局所直線性評価を行う。局所直線性評価は、ある出力評価点において、評価ピッチN
LIN離れた点との出力傾きを抽出する処理である。具体的には、コントローラ32は以下の式(1)に基づいて、数列データVm(T)のn番目(n=1、2、3・・・)の値であるVm(n)とn番目から所定の評価ピッチN
LINだけポイントを進めた点の値であるVm(n+N
LIN)との差分を演算して直線性評価数列Lm(T)を導出する。
【0032】
Lm(n)=Vm(n+N
LIN)−Vm(n) ・・・(1)
直線性評価数列Lm(T)の演算に際して数列データVm(T)のランプ成分がオフセットとして重畳するため、上記差分を演算した後、得られた数列データの平均値を各点のデータから減算することで直線性評価数列Lm(T)として設定する。なお、評価ピッチN
LINは、サンプリング周波数Fsより小さい値であり、例えばサンプリング周波数Fsの1/10に設定される。
【0033】
図3Bは、横軸を入力トルク(T)とし縦軸を出力電圧(mV)として直線性評価数列Lm(T)をプロットした線図である。数列データVm(T)が理想的なランプ特性である場合には
図3Bの線図は一定の直線となるが、実際には非直線性誤差を含んでいるので
図3Bに示すように上下に変動する線図となる。
【0034】
図4Aは、横軸を周波数(回/Nm)とし縦軸を振幅(dB)として直線性評価数列Lm(T)の数列データをプロットした線図であり、
図3Bの線図の周波数特性を示す。
図4Aに示すように、直線性評価数列Lm(T)の数列データは、所定の周期で増幅ピークを持つ特性として表わされる。
【0035】
ここで、ポテンショメータ1の評価対象とする周波数を
図4Aに示す周波数領域Aに設定する。評価対象となる周波数領域Aは、ポテンショメータ1のタイプとポテンショメータ1が搭載される電動パワーステアリング装置20のタイプとの組み合わせによって生じる発振現象に応じて、適宜設定する必要がある。そこで、事前に別個の解析装置においてポテンショメータ1の入出力特性を解析し、その結果に基づいて検査装置100の評価対象とする周波数領域Aを設定しておく。さらに、評価ピッチN
LINは、
図4Aにおいて1次増幅ピーク周波数が周波数領域A内に収まるように設定される。
【0036】
図2に戻って、第1移動平均演算部としてのステップS3においてコントローラ32は、移動平均によるローパスフィルタ(LPF)処理を行う。具体的には、コントローラ32は以下の式(2)に基づいて、n番目(n=1、2、3・・・)のデータLm(n)を中心とする所定数N
LPF点の移動平均を演算して低周波成分抽出数列Lm
LPF(T)を導出する。
【0037】
Lm
LPF(n)=(Lm(n−N
LPF/2)+...+Lm(n)+...+Lm(n+N
LPF/2−1))/N
LPF ・・・(2)
なお、所定数N
LPFは、直線性評価数列Lm(T)の高周波成分を効率的に減衰させることができる程度の値に設定される。
【0038】
図3Cは、横軸を入力トルク(T)とし縦軸を出力電圧(mV)として低周波成分抽出数列Lm
LPF(T)をプロットした線図である。
図3Cに示すように、低周波成分抽出数列Lm
LPF(T)は、移動平均によるLPF処理により、
図3Bに示される直線性評価数列Lm(T)と比べて高周波成分が低減している。
【0039】
図4Bは、横軸を周波数(回/Nm)とし縦軸を振幅(dB)として低周波成分抽出数列Lm
LPF(T)の数列データをプロットした線図であり、
図3Cの低周波成分抽出数列Lm
LPF(T)の線図の周波数特性を示している。
図4Bに示すように、低周波成分抽出数列Lm
LPF(T)は、
図4Aに示される直線性評価数列Lm(T)と比べて高周波成分が大幅に低減している。
【0040】
図2に戻って、第2移動平均演算部としてのステップS4においてコントローラ32は、移動平均による極低周波成分の抽出処理を行う。具体的には、コントローラ32は、以下の式(3)に基づいて、n番目(n=1、2、3・・・)のデータLm
LPF(n)を中心とする所定数N
VLPF点の移動平均を演算して極低周波成分数列Lm
VLPF(T)を導出する。
【0041】
Lm
VLPF(n)=(Lm
LPF(n−N
VLPF/2)+...+Lm
LPF(n)+...+Lm
LPF(n+N
VLPF/2−1))/N
VLPF ・・・(3)
なお、所定数N
VLPFは、所定数N
LPFより大きい値であって、低周波成分抽出数列Lm
LPF(T)の高周波成分を効率的に減衰させることができる程度の値に設定される。
【0042】
図3Cに示されるように、極低周波成分数列Lm
VLPF(T)は、低周波成分抽出数列Lm
LPF(T)と比べて、高周波成分がさらに低減している。
【0043】
図4Cは、
図4Aに示す局所直線性評価処理と
図4Bに示すLPF処理とを掛け合わせた状態を示す線図である。
図4Cに示す線図では、評価対象の周波数領域Aより低周波の成分が比較的大きな振幅で重畳している。ポテンショメータ1の局所直線性検査においてこの低周波成分はノイズとなるので、低周波成分を除去するため後述するステップS5の処理を行う。
【0044】
図2に戻って、移動平均減算部としてのステップS5においてコントローラ32は、波形演算による疑似ハイパスフィルタ(HPF)処理を行う。具体的には、コントローラ32は、以下の式(4)に基づいて、低周波成分抽出数列Lm
LPF(T)から極低周波成分数列Lm
VLPF(T)を減算してターゲット周波数抽出数列Lm
BPF(T)を導出する。
【0045】
Lm
BPF(n)=Lm
LPF(n)−Lm
VLPF(n) ・・・(4)
図3Dは、横軸を入力トルク(T)とし縦軸を出力電圧(mV)としてターゲット周波数抽出数列Lm
BPF(T)をプロットした線図である。
図4Dは、横軸を周波数(回/Nm)とし縦軸を振幅(dB)として極低周波成分数列Lm
VLPF(T)の数列データをプロットした線図であり、
図3Dのターゲット周波数抽出数列Lm
BPF(T)の線図の周波数特性を示している。
【0046】
図4Dに示すように、ターゲット周波数抽出数列Lm
BPF(T)は、疑似HPF処理により
図4Cに示される極低周波成分数列Lm
VLPF(T)の周波数特性と比べて、周波数領域Aより低周波側の振幅が小さくなっている。
【0047】
つまり、ステップS3〜S5の処理により、直線性評価数列Lm(T)にバンドパスフィルタ処理が施され、検査対象となる周波数領域A以外の成分が減衰された検査対象波形が抽出される。
【0048】
図2に戻って、判定部としてのステップS6においてコントローラ32は、波形評価を行う。具体的には、コントローラ32は
図3Dに示されるターゲット周波数抽出数列Lm
BPF(T)の線図において、振幅の最大値と最小値との差であるピークピーク値を演算し、ピークピーク値が所定の閾値より小さい場合、ポテンショメータ1の作動が正常であると判定する。所定の閾値は、フィードバック制御系においてシステム発振が生じない程度の値に予め設定される。
【0049】
以上の制御をまとめると、コントローラ32は、入力シャフト11にスイープ入力を与えてポテンショメータ1から得られる出力電圧の数列データの直線性評価を行い、非直線性誤差の中から検査対象となる周波数領域A内の周波数成分を抽出するように、低周波成分及び高周波成分をフィルタリング処理する。さらに、コントローラ32は、最後に残った検査対象波形のピークピーク値に基づいてポテンショメータ1が正常であるか否かを検査する。
【0050】
以上の実施形態によれば、以下に示す効果を奏する。
【0051】
ポテンショメータ1の出力電圧の数列データに対し、各点における所定の評価ピッチN
LINだけ離れたデータ間の差分を演算して直線性評価を行い、さらに移動平均処理を施すことで非直線性誤差の中から検査対象となる周波数領域A外の周波数成分を低減させる。これにより、差分と移動平均とを組み合わせて検査対象波形を抽出することができるので、簡易な演算処理によって変位センサの異常を判定することができる。よって、解析のために高度な装置やソフトウェアを必要としないので、ポテンショメータ1を安価に検査することができる。
【0052】
さらに、差分後に得られる直線性評価数列Lm(T)に対し、所定数N
LPF点の移動平均を演算して低周波成分抽出数列Lm
LPF(T)を導出する。これにより、検査対象となる周波数領域Aより高周波の成分をより確実に除去することができるので、波形評価の際にノイズの影響により誤判定することを防止することができる。
【0053】
さらに、ステップS3における移動平均処理後に得られる低周波成分抽出数列Lm
LPF(T)からステップS4における移動平均処理後に得られる極低周波成分数列Lm
VLPF(T)を減算してターゲット周波数抽出数列Lm
BPF(T)を導出する。これにより、検査対象となる周波数領域Aより低周波の成分を除去することができるので、波形評価の際にノイズの影響により誤判定することを防止することができる。
【0054】
さらに、直線性評価数列Lm(T)は、各点における所定の評価ピッチN
LINだけ離れたデータ間の差分を演算することに加えて、差分後に得られる数列データの平均値を各点のデータから減算して直線性評価数列Lm(T)として設定される。これにより、数列データVm(T)にオフセットとして重畳されるランプ成分をキャンセルすることができるので、その後に行われるLPF処理及びHPF処理によって抽出される検査対象波形の精度を向上させることができる。よって、ポテンショメータ1の検査精度を向上させることができる。
【0055】
さらに、ターゲット周波数抽出数列Lm
BPF(T)の線図において、振幅の最大値と最小値との差であるピークピーク値が所定の閾値より小さい場合、ポテンショメータ1の作動が正常であると判定する。これにより、特定の入力トルクにおいて出力電圧が局所的に突出するような非直線特性をもつ場合であっても波形評価に反映することができるので、ポテンショメータ1の検査精度を向上させることができる。
【0056】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一つを示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0057】
例えば、上記実施形態では、変位センサとしてポテンショメータ1を例に挙げたが、リニアエンコーダなどの他の変位センサにも適用可能である。
【0058】
さらに、上記実施形態では、ステップS5においてHPF処理を行っているが、検査対象となる周波数領域Aより低周波の成分を除去する必要がない場合には、HPF処理を省略してもよい。
【0059】
さらに、上記実施形態では、高周波の除去を目的としてステップS3からS4にかけて移動平均によるLPF処理を1回行っているが、LPF処理を2回以上行って高周波成分をより確実に除去するようにしてもよい。
【0060】
さらに、上記実施形態では、ステップS6においてターゲット周波数抽出数列Lm
BPF(T)の線図における振幅の最大値と最小値との差であるピークピーク値に基づいてポテンショメータ1が正常であるか否かを判定しているが、ピークピーク値以外の値、例えばターゲット周波数抽出数列Lm
BPF(T)の線図における振幅の絶対値の平均値などに基づいて判定を行ってもよい。
【0061】
さらに、上記実施形態では、差分後に得られる数列データの平均値を各点のデータから減算して直線性評価数列Lm(T)として設定することで、数列データVm(T)にオフセットとして重畳されるランプ成分をキャンセルしているが、この減算処理はランプ成分のキャンセルが必要ない場合には行わなくてもよい。
【0062】
さらに、上記実施形態では、ポテンショメータ1が電動パワーステアリング装置20に搭載された状態でポテンショメータ1が正常であるか否かを判定したが、ポテンショメータ1単体で同様の検査を行ってもよい。
【解決手段】変位センサ1の出力特性に含まれる周期変動を検査する変位センサ1の検査装置100であって、変位センサ1に一定の時間勾配で連続して変化する入力を与えて出力値の数列データを取得する数列データ取得部S1と、数列データのある点における値と点から所定の評価ピッチ分だけ進めた点における値との差分を数列データの各点について求めた差分後数列データを演算する差分演算部S2と、差分後数列データのある点を中心とする所定のデータ数の移動平均を差分後数列データの各点について求めた移動平均後数列データを演算する移動平均演算部S3、S4と、移動平均後数列データの出力値の振幅の最大値と最小値との差が正常判定閾値より小さい場合、変位センサが正常であると判定する判定部S6と、を備える。