(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
空気を圧縮する圧縮機と、前記圧縮機で圧縮された空気と燃料とを燃焼させて燃焼ガスを生成する燃焼器と、前記燃焼器で生成された燃焼ガスで駆動されるタービンを備え、前記タービンは、前記燃焼ガスを受けて回転する複数の動翼と、前記動翼を回転させた燃焼ガスの静圧を回復させる複数の静翼とを有し、高温部分を冷却した冷却後空気を主流に放出するオープン冷却方式のガスタービンにおいて、
前記動翼は、前縁から後縁にのびる負圧面と、前記負圧面と反対側に位置して前記前縁から前記後縁までのびる圧力面と、前記負圧面の上端と前記圧力面の上端に囲まれたチップ面とで構成される翼形部と、前記負圧面の下端と前記圧力面の下端に接続されるエンドウォール部とを備え、
前記複数の動翼間のエンドウォール部の、負圧面側かつ前縁側に凸形状を有し、
前記複数の動翼間のエンドウォール部の、圧力面側かつ前縁側に凹形状を有することを特徴とするガスタービン。
請求項2または4のガスタービン動翼またはガスタービンにおいて、前記圧力面側の凸形状が、前記前縁と前記後縁の中間近傍に配置されていることを特徴とするガスタービン動翼またはガスタービン。
空気を圧縮する圧縮機と、前記圧縮機で圧縮された空気と燃料とを燃焼させて燃焼ガスを生成する燃焼器と、前記燃焼器で生成された燃焼ガスで駆動されるタービンを備え、前記タービンは、前記燃焼ガスを受けて回転する複数の動翼と、前記動翼を回転させた燃焼ガスの静圧を回復させる複数の静翼とを有し、高温部分を冷却した冷却後空気を主流に放出するオープン冷却方式のガスタービンの運転方法において、
前記動翼が、前縁から後縁にのびる負圧面と、前記負圧面と反対側に位置して前記前縁から前記後縁までのびる圧力面と、前記負圧面の上端と前記圧力面の上端に囲まれたチップ面とで構成される翼形部と、前記負圧面の下端と前記圧力面の下端に接続されるエンドウォール部とを備え、
前記複数の動翼間エンドウォール部上の、負圧面側かつ前縁側に凸形状を有し、
前記複数の動翼間のエンドウォール部上の、圧力面側かつ前縁側に凹形状を有し、
前記複数の動翼のエンドウォール部近傍を流れる前記燃焼ガスを前記動翼の平均径方向へ導く形状の動翼を用いることにより、前記燃焼ガスの主流の流れを利用して前記燃焼ガスの流れを整流することを特徴とするガスタービンの運転方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1はガスタービンの断面図を示す。
図1に示したガスタービンは、回転軸3まわりに回転するロータ1と、静止体であるステータ2とを備えている。ロータ1には複数の動翼4が配置されている。この動翼4に対応するように、ケーシング7には複数の静翼8が配置されている。
【0013】
ガスタービンにはさらに、空気を圧縮する圧縮機5と、圧縮機5で圧縮された圧縮空気と燃料とを燃焼させて燃焼ガスを生成する燃焼器6と、燃焼器6で生成された燃焼ガスで駆動されるタービンとを備えている。タービンは、燃焼ガスを受けて回転する複数の動翼4と、動翼4を回転させた燃焼ガスの静圧を回復させる複数の静翼8を有している。燃焼器6で生成された高温ガスは、静翼8を介して動翼4に吹き付けられ、ロータ1を駆動する。高温ガス中にさらされる動翼4や静翼8は、必要に応じて冷却する必要がある。冷却媒体には、圧縮機5で圧縮された圧縮空気の一部が利用されることがある。
【0014】
図2aは、動翼4の拡大図を示す。また
図2bは、
図2aで示した動翼4を含むタービンの拡大図を示す。動翼4はタービンロータ1に取り付けられている。動翼4は、回転軸3に対して内周側、すなわちタービンロータ1側に位置する内周側エンドウォール部10と、このエンドウォール部の外周面10aから径方向外側にのびる翼型部12とを有している。翼型部12の径方向で最も外側の閉局面であるチップ面13と、その外側に位置する静翼8のエンドウォール部16との間には、流体が流れる間隙17が形成されている。また翼型部12には、冷却媒体を流して内部から翼を冷却するための中空部が形成されたものもある。
図2示すように冷却媒体は入口9から流入し、矢印の方向に流れる過程で翼型部を冷却する。
【0015】
動翼4への冷却空気供給源として圧縮機5からの圧縮空気を用い、高温部分を冷却した冷却後空気を主流に放出するオープン冷却方式のガスタービンの場合、冷却空気はロータ1に設けられた冷却空気導入孔を用いて導入される。このようなオープン冷却方式のガスタービンの場合、回転体と静止体の間隙を通過する冷却媒体の流量を制限するシール機構20を備えている。
【0016】
動翼4の冷却用として入口9から導入された冷却空気は、動翼4に設けられた排出孔15を通りガスパス路へ排出される。動翼4の冷却に用いられない空気の一部は、ロータ1を冷却した後、静翼8と動翼4の隙間から主流ガス流路に混入する。
図2bで矢印で示すように、動翼4の上流側からの混入18と下流側からの混入19がある。動翼4は回転体であるため、特に動翼4の上流側からの混入18は翼型部12の内周側前縁から発生する渦を強くしてしまう。この渦の影響で、翼間でのエネルギーが散逸してしまう。本発明の実施例として後述する各実施例では、このような高温部分を冷却した冷却後空気を主流に放出するオープン冷却方式のガスタービンを前提とし、動翼4の上流側からの混入18による影響を低減可能な例を説明する。
【0017】
図3は翼型部12の断面形状を示す。翼型部12は翼弦方向に凹形状をなす圧力面12c、翼弦方向に凸形状をなす負圧面12d、翼前縁12aと翼後縁12bとを有している。すなわち翼形部12は、前縁12aから後縁12bにのびる負圧面12dと、負圧面12dに対向して前縁12aから後縁12bまでのびる圧力面12cと、負圧面12dの上端と圧力面12cの上端に囲まれたチップ面13とで構成される。なお、負圧面12dの下端と、圧力面12cの下端にはエンドウォール部10が接続されている。
【0018】
翼型部12は、翼厚みが前縁側より中央側に向かうにしたがい徐々に大きくなり、その後、後縁側に向かうにしたがい徐々に小さくなるように形成されている。翼型部12の内部には中空部9a、9bを有し、中空部に冷却媒体を流して翼を内部から冷却するように形成されている場合もある。なお
図2中で線矢印は冷却空気の流れを示し、枠どり矢印は高温ガス、すなわち主流作動ガスの流れを示している。なお、負圧面12dは翼背側部、圧力面12cは翼腹側部である。中空部9a、9bにはフィンを設けて熱変換を良好にしてもよい。熱変換が良好になれば冷却媒体の量そのものを減らすことができ、冷却媒体の漏れによる影響も減らすことができる。
【0019】
図4aは、動翼4のエンドウォール近傍の翼断面における翼面マッハ数を示した図である。横軸は翼前縁12aから翼後縁12bまでの翼表面位置を示し、縦軸はマッハ数を示す。エンドウォール部10近傍における負圧面12dの翼面マッハ数をMsで示し、エンドウォール部10近傍における圧力面12cの翼面マッハ数をMpで示している。
【0020】
図4aに示すように、負圧面12dの翼面マッハ数は、翼前縁12aと翼後縁12bの中間部で最大翼面マッハ数M_maxを示し、中間部から翼後縁12bにかけて大きく減少している。これは複数の動翼4によって構成された翼列の入口から出口にかけて、主流流体が流れるとき、主流流体のガス膨張が行われるためである。M_min は圧力面12cにおける最小翼表面マッハ数を示す。M_maxとM_minの差が大きいほど、翼型部に作用する最大圧力と最小圧力の差が大きいということになり、翼に掛かる負荷が大きくなる。
【0021】
翼にかかる負荷が大きい翼では、内周側、外周側であるタービンケーシング側によらずエンドウォール近傍で二次流れが大きくなる。二次流れとは、主流ガスの流れに対して垂直な断面での流れである。エンドウォール近傍で発生する二次流れは、流体が圧力の小さい負圧面側に引き寄せられるために生じる。エンドウォール付近では流体の粘性の影響により流速が低下し、流体に作用する遠心力が小さくなって圧力勾配による影響が過大になるためである。
【0022】
二次流れが大きくなることでエンドウォール近傍の流量が減少し、その分、流路中央である平均径付近での流量が増加し翼負荷が増大する。翼負荷が増大することはマッハ数が大きくなることを意味する。マッハ数が大きくなると、壁面での摩擦損失が大きくなってしまったり、超音速領域では衝撃波による衝撃波損失が大きくなってしまったりする。その結果、全圧損失の増大を招く。
【0023】
図4bに比較のため、翼負荷が小さくなった場合の翼面マッハ数分布を点線で
図4aに加えた図を示す。
図4aと同様に、負圧面12dの翼面マッハ数をMs’で示し、圧力面12cの翼面マッハ数をMp’で示す。また同様に、翼負荷が小さくなった場合の最大翼面マッハ数をM’_maxと、最小翼表面マッハ数をM’_min として示す。
図4aで示した翼負荷の大きな動翼に比べると、
図4bに追加した翼負荷の小さい動翼の方が、M’_maxとM’_minの差が小さくなっていることが分かる。
【0024】
上述のような、翼にかかる負荷の大きな翼で全圧損失が大きくなってしまうことに対し、タービン翼のエンドウォール面の形状を非軸対象にする方法がいくつか提案されている。これらの方法によれば、翼列における全圧損失を低減可能である。例えば特許文献1に開示されたように、エンドウォールを圧力面側に凸面、負圧面側に凹面の対を持つ曲面とする方法がある。
【0025】
図5に、動翼4をタービンに配置したタービン動翼列を示す。周方向に並んだ動翼4の間において、負圧面12dと圧力面12cで挟まれた領域における二次流れ抑制を図る場合、エンドウォール形状を変更するための指針として、圧力勾配に着目して形状を定義することが考えられる。この指針は、流体に作用する遠心力と圧力勾配との不釣合いにより流体が負圧面側に引き寄せられ二次流れが発達するとの考えに基づく。この指針に基づきエンドウォール形状を定義した場合、圧力面12c側のエンドウォール形状が凸型、負圧面12d側のエンドウォール形状が凹型になるように決定される。この方法では圧力面12c、負圧面12dで挟まれた領域で二次流れを抑制する効果がある。
【0026】
ところが発明者らは、この考えだけでは前縁12aから発生する馬蹄形渦の増大を抑制することができないという知見に至った。すなわち上記方法では、翼前縁12a近傍におけるエンドウォール形状定義の指針とならないため、馬蹄形渦の影響が大きい翼型の二次流れ抑制効果が小さくなってしまうといえる。
【0027】
図6に、動翼4の翼前縁12aから発生する渦を示す。動翼4の翼前縁12a近傍かつエンドウォール部の外周面10a近傍で発生する渦30は、馬蹄形渦と呼ばれる。馬蹄形渦30は、翼後縁12bに向けて発達する。この馬蹄形渦30は、翼前縁12a近傍で発生する渦である。前述した、動翼4の上流側からの混入18として冷却空気が混入し、翼型部12の内周側前縁から発生する渦を強くしてしまうような翼列のタービンでは、この馬蹄形渦の影響が大きくなる。
【0028】
またこのような翼列で、ハブ側であるエンドウォール部の外周面10aの上流側から冷却空気等が混入してきた場合には、エンドウォール部10での入口、出口の圧力差が小さくなり主流流体の減速が更に大きくなる。その結果、エンドウォール部10の翼断面における全圧損失は更に大きくなってしまう。
【0029】
以下、翼前縁12aで発生する馬蹄形渦30の増大を抑制しつつ、負圧面12dと圧力面12cで挟まれた領域における二次流れをも抑制できるタービン動翼の実施例について説明する。なお各実施例では凸形状や凹形状等に関し、各動翼4のエンドウォール部10上の位置に関しての記載がある。これらは各動翼4をセグメント状に組み上げた際にその位置になるような各動翼4のエンドウォール部10上の位置、という意味である。
【実施例1】
【0030】
図7は、本発明の実施例1のタービン動翼4であり、翼型部12の負圧面12dを斜視した図である。
図8は本発明の実施例1のタービン動翼4を示し、翼型部12の圧力面12cを斜視した図である。主流ガスの流れ13を矢印で示す。前縁12a側が主流ガスの流れに対して上流側、後縁12bが下流側である。横軸は回転軸3に平行な方向における位置を示し、前縁12aとエンドウォール部の外周面10aとの接点の位置を0%、後縁12bとエンドウォール部の外周面10aとの接点の位置を100%としている。縦軸のRは半径位置を表す座標軸である。翼型部12の半径方向内周側にはエンドウォール部10が位置する。以降各実施例において、外周側とは、この動翼4をガスタービンに組み込んだときに翼型部12に対してロータ1から遠い側を意味し、内周側とは、ロータ1側を意味する。また、外とは外周側、内とは内周側を意味する。径方向とは、ロータ1の断面である円の半径方向を示すものとする。
【0031】
本実施例の動翼4は、
図7に示すように内周側エンドウォール部10の外周側の面であるエンドウォール外周面10aが、翼型部12の負圧面12d側で外向き凸形状を有する。この凸形状は、翼前縁12a側に位置している。好ましくは翼前縁12aの近傍に位置している。より好ましくは、エンドウォール部外面10と接する翼型部の前縁12aをタービン回転軸方向の座標を基準として0%、後縁12bを100%としたとき、外向き凸形状の頂点が40%以下の範囲内に位置するように形成される。これは冷却空気混入が渦発生の要因となることに着目し、これに対処したためである。
【0032】
動翼4の前縁12a近傍領域において冷却空気が混入して翼前縁12aで衝突し、冷却空気が急激に減速すると同時に翼表面で巻き上げられ渦が発生する。この渦に引き込まれるように主流ガスも渦を形成する。この渦に対し、エンドウォール部の外周面10aの前縁12a近傍を外向き凸形状にすることで、流速を大きくして流体の減速を抑えている。この効果は、エンドウォール部の外周面10aを外向き凸形状にして流路を縮小することで、流速を急激に増加させることができ、冷却空気による渦発生を抑制できることによる。頂点があまりにも下流側にあると前縁12a近傍における凸形状がアールと同程度になってしまうことが懸念されるが、内向き凸形状の頂点を40%より小さい範囲に位置させれば、前縁12a近傍の渦発生に起因する問題を抑制する効果が確実に得られる。
【0033】
なお、特許文献1には本実施例とは逆に、圧力面側の前縁側のエンドウォール部外周面を外向き凸とした技術が開示されている。これは渦の発生がエンドウォール付近の圧力勾配と流体に働く遠心力の不釣合いにより生じるという考えによるものである。動翼4の翼間でも圧力面側から負圧面側に向けて圧力勾配があり、エンドウォール付近の流体要素は圧力面側から負圧面側に引き寄せられている。しかし、動翼は軸周りに回転する翼であることが特徴である。本実施例で前提としているような上流側から流体が混入する場合には、その流体は動翼前縁付近で負圧面に衝突し強い二次流れを誘起する。ここでの二次流れを誘起する力は圧力勾配よりはるかに大きい。そのため、本実施例のように冷却媒体が混入するような状況においては、特許文献1の技術ではタービン翼性能向上の効果は小さい。
【0034】
また本実施例の動翼4は、
図8に示す通り、エンドウォール部10の外周側の面であるエンドウォール外周面10aが、翼型部12の圧力面12c側で外向き凸形状を有する。この凸形状は前縁12aと後縁12bの中間近傍に位置している。一方で圧力面12c側の前縁12a近傍の径方向位置は、負圧面12d側の凸形状の頂点よりも内周側にある。なお圧力面12c側の後縁12b近傍の径方向位置は性能が良くなるように適宜決定できる。
【0035】
好ましくは圧力面12c側の凸形状の頂点は、30%以上80%以下の範囲内に位置する。この領域は動翼4間の圧力面12cから負圧面12dに向かう圧力勾配が最も大きいため、流速が急激に減少し、渦が発生しやすい領域である。この圧力勾配の大きさは、
図4でMsとMpの差として示した通りである。圧力勾配が大きいということは翼負荷も大きく、二次流れが強く主流ガスの減速も大きい。本実施例のように外向き凸形状を採用することで、流速を大きくし流速の急激な減少を抑制できる。外向き凸形状の頂点が30%より小さい場合、圧力勾配が大きい地点での外向き凸領域が小さくなってしまうため流速調整量が小さくなり二次流れ抑制効果が小さい。また、80%より大きい場合、外向き凸領域の下流側で急激な流速増加が発生し衝撃波損失により翼列性能が劣化するおそれがある。
【0036】
ここで、翼型部12とエンドウォール部10の接する箇所の構造について説明する。この箇所にはアールと呼ばれる丸みを帯びた領域31が存在する。すなわちエンドウォール部と翼型部12とは厳密に垂直に交わっているわけではない。ただしこのアール31の大きさは設計時には無視される値である。本実施例では、外周側エンドウォール部内面10と翼型部12との接点を基準に0%〜100%の点を定めているが、これは設計上の接点を意味するものであり、アールは考慮していないものとする。
【0037】
次に、前縁近傍、前縁と後縁の中間近傍に関し、具体的に挙げた数値について説明する。まず前縁近傍について、凸形状の頂点が40%より上流になると、上流側に続く凸領域の最大凸量が、翼型部12とエンドウォール部10に設けられたアールと同程度になり、凸領域の効果が無視できる程度になってしまう。このような理由から前縁近傍の凸形状の頂点は40%以下としている。次に中間近傍について、凸形状の頂点が30%より上流側になると、下流側の凸形状の最大凸量が、80%より大きくなると凸形状の最大凸量がアールと同程度になってしまう。そのため中間近傍に関し、凸形状の頂点は30%以上80%以下が好ましいとしている。
【0038】
以上のように、本実施例の動翼4は、タービンケーシング7に対向する側のエンドウォールであるエンドウォール部外面10の負圧面12d付近、前縁12a近傍に、ガスの流れの上流側から半径位置が大きくなる外向き凸形状を形成し、圧力面12c付近、中間近傍に、ガスの流れの上流側から半径位置が大きくなり外向き凸形状を形成されている。動翼4をこのような形状とすることにより、矢印13で示した主流方向において流れの急激な減速と増速を抑えて速度変化をなだらかに推移させることができ、好適な動翼4が提供できる。なお、各凸形状はエンドウォール上にあればよく、翼型部12に接していても離れていても同種の効果を得ることができる。
【0039】
このように構成されたガスタービンでは、タービン動翼4に向かって流入した主流流体は、翼前縁12aから流入し、翼型部12に沿って流れ、翼後縁12bから流出する。本エンドウォール形状にすることで二次流れが抑制され、翼型部負圧面12dに沿って流れる主流流体のエンドウォール付近の流れの減速が抑制され、動翼4の翼型部負圧面12dにおけるマッハ数の減少も小さくなる。その結果、動翼4の翼型部負圧面12dの翼断面における全圧損失を低減させることができる。そして翼にかかる負荷が高い場合においても、また混入する冷却流量が変化する場合においても二次流れが発生する機構は同じであるためハブの翼断面における全圧損失の増大を抑制させることができる。
【0040】
なお、エンドウォール部の外周面10aはガス流路面を形成する面である。エンドウォール部10の内周側には、エンドウォール部の外周面10aと対をなすエンドウォール部の内周面10bがある。このエンドウォール部外周面10aとエンドウォール部の内周面10bとの距離であるエンドウォール厚みは、一定であっても一定でなくても構わない。
【実施例2】
【0041】
次に実施例2を、実施例1とは別の角度から見た図を用いて説明する。実施例1と同様な部分は説明を省略する。
図9は、実施例2の動翼4のエンドウォール部10を外周側から見た図を示す。負圧面12d側の前縁12a近傍に設けられた横点線部は、半径位置が高くなるように、すなわち外周側に凸形状となるように形成されている。また圧力面12c側で前縁12a近傍に設けられた縦点線部は、半径位置が低くなる、すなわち外周側に凹な形状(内周側に凸な形状)であることを示している。主流ガスは、負圧面12d側のエンドウォール部10付近の流れ13a、圧力面12c側のエンドウォール部10付近の流れ13bとして
図9に示す通り、翼型部12の外形に沿って流れる。
【0042】
エンドウォール部の外周面10aの負圧面12d側では、流れ13a上において前縁近傍でロータ1の半径位置が大きくなる向きの凸形状の領域が存在する。また、圧力面12c側の流れ13b上においては前縁近傍で半径位置が小さくなる凹形状の領域が存在する。
【0043】
負圧面12d側の前縁12a近傍の凸形状により主流ガスが動翼上流のエンドウォール側から混入する空気の流れる向きを偏向することで、混入する冷却空気と動翼負圧面との衝突が緩和され、発生する二次流れを抑制することができる。またエンドウォール部10の負圧面12d側と圧力面12c側で凸面と凹面が一対になっている。このような構造によれば、負圧面12d側で流路断面積が減少させた分、圧力面12c側で流路断面積を増加させることができ、流路断面積を大幅に変えることなく同様の効果を得ることができる。
【0044】
このように本実施例のガスタービン動翼は、エンドウォール部10の負圧面12d側かつ前縁12a側となる位置に凸形状を有し、エンドウォール部10の圧力面12c側かつ前縁側12a側となる位置に凹形状を有することにより、動翼4のエンドウォール部10の前縁12aから冷却冷媒が混入するような場合でも、ガスタービン動翼4の前縁12a近傍での二次流れ渦30の発達を抑制することができる。動翼4をセグメント状に組み立てた場合には、複数の動翼4間エンドウォール部10に、上記凸形状および凹形状が位置するようにすればよい。ここで前縁側とは、前縁12aの方が後縁12bよりも近い位置を意味する。
【0045】
なお、上記で言及した凸形状および凹形状以外の箇所のエンドウォール形状は、上記凸形状および凹形状の効果を大幅に阻害しない限りは平面でも凹形状でもどんな形状でも構わない。
【実施例3】
【0046】
実施例3を
図10を用いて説明する。他の実施例と同様な部分は説明を省略する。
図10は実施例3の動翼4のエンドウォール部10を外周側から見た図を示す。
図9と同様な部分は説明を省略する。点線で示した曲線は等高線であり、外周側に凸な形状においては中心にいくほど外周側に、外周側に凹な形状においては中心にいくほど内周側に位置することを意味する。
【0047】
本実施例は
図9で示した例に加え圧力面12c側の中間近傍で外周側に凸な形状を有している。本実施例では中間近傍の凸形状により、実施例1と同種の効果に加え、中圧力勾配が最も大きく渦が発生しやすい領域に対し、流速を大きくし流速の急激な減少を抑制でき全圧損失を低減させることができる。このように、実施例2に加えてエンドウォール部10の圧力面12c側の凹形状の後縁12b側となる位置に凸形状を有することで、全圧損失を更に低減させることができる。動翼4をセグメント状に組み立てた場合には、複数の動翼4間エンドウォール部10に、上記凸形状および凹形状が位置するようにすればよい。ここで圧力面12c側の凸形状を前縁12aと後縁12bの中間近傍に位置するようにすれば、この効果をより確実に享受することができる。
【実施例4】
【0048】
図11に、実施例4として、前縁12a付近の外周側エンドウォール部内面10を形成する曲面を、タービン回転軸と垂直な平面(
図9で示したCD)で切断したときの断面図を示す。他の実施例と同様な部分は説明を省略する。このような曲面の断面を曲線L_endとし、翼型部12の負圧面との交点を点C、圧力面との交点を点Dとする。曲線L_endは交点Cから交点Dまで滑らかに延びている。曲線L_endの半径位置はDの方が高くCの方が低い。交点C、交点Dの半径位置、曲面L_endの形状は、設計すべきタービンの空力設計条件に基づいて、最適になるように選択される。
【0049】
なお
図11で示した実施例4では、曲面L_endは、負圧面12d側で外周側に凸の形状を有しているが、凸形状の頂部11は点ではなく、エンドウォールの外周側面10aからの距離が等距離な平面部である。このように頂部11は点である必要はなく、
図11で示す実施例4も実施例1と同種の効果を得ることができる。なお頂部は頂点を含む概念とする。
【0050】
曲線L_endは
図10の前縁12a付近のエンドウォール部付近で半径位置が同じ軸方向座標で同じ高さである領域もあるが、この半径位置が同じである条件がエンドウォール面の全領域で設定されるわけではない。仮に半径位置が同じである条件が全領域で設定される場合、回転軸方向の流路断面積の変化が大きくなるため、タービン翼の全圧損失増大に大きく影響する衝撃波が発生してしまう。そうすると翼の入口出口の圧力比の条件が小さくなりタービン翼の性能低下を引き起こす。
【0051】
図12は、翼型部12の径方向にわたる翼断面の全圧損失を示す図である。横軸に全圧損失、縦軸は翼型部12の径方向位置を示す。比較例として、エンドウォール部10が平面形状のものを想定している。実施例1の動翼4を用いたものを実線で、比較例を破線で示している。
【0052】
実施例1は実線で示すように、エンドウォール部10付近、すなわちハブ側において、特に顕著な全圧損失低減効果が得られる。実施例1のように、動翼4のエンドウォール部近傍を流れる燃焼ガスを動翼4の平均径方向へ導く形状の動翼を用いることにより、燃焼ガスの主流の流れを利用して燃焼ガスの流れを整流するようにガスタービンを運転することができる。その結果、翼型部の上下方向にわたってより均一な全圧損失を達成することができる。このことは、翼型部の上下方向にわたってより均等な膨張仕事が達成されていることを意味する。このように、それにより、タービン効率を向上させ、ガスタービンの燃費を削減することができる。