【実施例1】
【0021】
図1(A)は、この発明の一実施の形態として、液晶レンズとして動作するデバイスの基本構成を断面から見た構成を示している。透明な電極21は第1の基板11の上に形成され、第2の基板12を所定の厚みを保つための図示されていないスペーサを介して重ね合わせることで液晶セルを構成する。第1の基板11と前記第2の基板12の間には、電極21と対向するように収容された、液晶分子を一方向に配向させた液晶層31を備える。
【0022】
前記第1の基板11の前記液晶層31に接する面には液晶分子を一方向に配向させる効果を有する配向膜61が配置されている。
【0023】
また、第2の基板12の液晶層に面する側には電極群220〜230が形成されて
おり、さらに透明な絶縁層51、透明な高抵抗層として透明な高抵抗膜41、および配向膜62がそれぞれ積層されている。なお、この透明な高抵抗膜41はいずれの電極とも接続されておらず、直接電圧を印加していない。
【0024】
前記配向膜61及び配向膜62には一方向にラビング処理を行うことで、液晶分子の長軸方向に対応するダイレクタがプレティルト角と呼ばれる基板面から1度程度傾いた角度をなして配向するような状態となっている。
【0025】
図1(B)は、
図1(A)の液晶レンズを平面的に見た図であり、前記第2の基板12に形成されている同心円状のパターン電極群の中で電極220と電極230の間に第1の電源81から第1の電圧V1を加える。また、前記電極21と第2の電極230の間には第2の電源82から第2の電圧V2を印加することができるように配置されている。
【0026】
パターン電極群220、221、〜230各々の間には前記第1の電圧により流れる電流により生じる電圧降下を利用して各々の電極が所定の電位となるように、それぞれ図示されていない所定の抵抗値を有する抵抗が接続されている。なお、中心の電極220に電圧を加えるためには、他の電極群と絶縁された引き出し線を使用する方法や、第2の基板12に微細な穴をあけて基板外に引き出し線を通して電圧を印加する方法などを適用することができる。
【0027】
ここで
図1に示した構成から透明な絶縁層51、透明な高抵抗層として高抵抗膜41を除いた構成とした場合について説明する。前記引き出し線を通して電極220と230の間に電圧V1が印加されると、各電極の間における電圧降下により、中心の電極220から半径方向に電圧分布が形成される。
【0028】
電極21と前記電極230との間に第2の電源82から第2の電圧V2が印加されると、液晶層31には半径方向に変化する電界が加わり、液晶分子は各々の電界強度に依存して配向する。
【0029】
初期状態として、液晶分子の長軸方向に対応するダイレクタが電極面につけた配向膜面に対してプレティルト角である1度程度傾いて一方向に配向しているホモジニアス配向になっている場合を考える。V1およびV2を0、すなわち電圧が加えられていないときは液晶層における実効的な屈折率は基板面内方向で一様になっている。
【0030】
次に、V1およびV2を適宜選定することで液晶のしきい値以上の電界が加わるようにすると、電界強度が大きいところでは液晶のダイレクタが配向膜面に垂直方向にある角度をなして立ち上がり、電界強度が弱いところではダイレクタが配向膜面から立ち上がる角度が小さくなる。配向膜面に対してダイレクタが傾く角度が大きくなると、実効的な屈折率が小さくなり、角度が小さくなると共に実効的な屈折率が大きくなる。つまり、電界強度に依存してダイレクタが配向膜面になす角度が異なり、配向膜面すなわち基板面に対して分布する結果として、実効的な屈折率が分布しているという状態が得られる。
【0031】
同心円状のパターン電極群の中心の電極220の電界が最も小さく、半径方向で電極230に向かって電界が次第に大きくなるような電界分布となる電圧を印加すると、実効的な屈折率が中心から周辺部に向かって次第に小さくなるような屈折率分布特性となり、液晶層は液晶のダイレクタの方向に偏光した入射光に対して収束する凸レンズ機能が得られる。逆に、パターン電極群の中心の電極220の電界が最も大きく、半径方向で電極230に向かって電界が次第に小さくなるような電界分布となる電圧を印加すると、実効的な屈折率が中心から周辺部に向かって次第に大きくなるような屈折率分布特性となり、液晶層は液晶のダイレクタの方向に偏光した入射光に対して発散する凹レンズ機能が得られる。
【0032】
さらに、半径方向での実効的な屈折率分布が2次関数を軸の周りで回転した放物面状となるようにすると、収差が小さいレンズ特性を得ることができる。これらの液晶レンズの動作原理の詳細については特許文献3および特許文献4に開示されている。
【0033】
つぎに、具体的な実施例について説明する。
図1において、第1の基板11は300μm厚の透明ガラス板であり、液晶層31に接する内面側に、インジウム・スズ系の酸化物(ITO)からなる透明な電極21が形成されている。第2の基板12は300μm厚のガラス基板であり、第2の基板12の液晶層31に接する側には複数の透明なパターン電極群となるITO電極220〜230が同心円状に形成されている。これらのパターン電極群220〜230の間には、各々の電極の電圧がそれぞれ
図2に示したような値となるように調整された抵抗が接続されている。
【0034】
特にこの液晶レンズでは、パターン電極群を有する第2の基板12と液晶層31の間に透明絶縁層
51および透明な高抵抗層として高抵抗膜41を配置している。また、液晶層31の液晶材料としてはMLC−6080(メルク社製)を使用し、液晶層を挟む電極や高抵抗層の面には配向膜61,62としてポリイミド膜を約150nmの厚みに塗布し、熱処理を行い安定化させた後に一方向にラビング処理が施されている。
【0035】
ラビング処理を行った場合には、一般にラビング方向に対して液晶分子の長軸方向が基板面からプレティルト角と呼ばれる数度程度の小さな角度傾いた配向状態となることが知られている。したがって、対向する基板上の配向膜に対するラビングの方向をそれぞれ逆向きとなるように処理した場合(アンチパラレルと呼ばれる)は、液晶分子は基板面に一様にプレティルト角度傾いた配向状態となっている。
【0036】
なお、液晶層31を所定の厚みに保つために図示していないが直径が30μmの球状スペーサを接着剤に分散したものを用い、また図示していないが各基板の周辺部等は接着剤により液晶が封止されている。
【0037】
透明絶縁膜51としては、1μm厚のアモルファス石英膜を使用したが、絶縁が保たれる範囲で薄くすることもできる。また、他の有機系・無機系を問わず絶縁材料や、または誘電率が大きな材料であっても使用することができる。
【0038】
透明な高抵抗層41としては厚みが約25nmの酸化亜鉛系の薄膜を使用したが、導電性微粒子を分散した樹脂系の導電膜、たとえば三菱マテリアル電子化成株式会社製の導電膜TWH−1(1μm)なども使用することができる。本実施例で使用した酸化亜鉛系の高抵抗膜の抵抗は面抵抗値として1Mオウム〜10Gオウム程度であった。さらに、他の無機系薄膜、たとえば抵抗値を最適な値に設定したITOや酸化チタン、硫化亜鉛、又はこれらの材料の混合系などの透明な薄膜を使うこともできる。
【0039】
直径が10mmの円形領域内に11個の輪帯(円帯)状のパターン電極群を設け、液晶層には
図2のような電圧が加わるように、中心の電極220と外側の電極230の間にV1として3ボルトの電圧を印加し、電極21と外側の電極230の間にV2として4ボルトの電圧を印加した。ここで、V1およびV2はいずれも1kHzの正弦波で同位相であり、液晶材料であるMLC−6080のしきい電圧1.49ボルトで正規化されている。また、光源としてはヘリウム−ネオンレーザ光(波長633nm)を用いている。
【0040】
図1に示した構成から透明な絶縁層51および透明な高抵抗層としての高抵抗膜41を除いた構成の液晶セルを作製し、
図2に示した電圧分布となる電圧を印加した場合に液晶層に生じる光学位相差分布特性について、直径方向の断面での位相差分布特性を
図3に示した。
図3から分るように、階段状の電圧分布に対応した階段状の光学位相差分布特性となっており、良好な光学特性を有する液晶光学デバイスを構成することが困難であった。
【0041】
次に、
図1に示したように透明な絶縁層51および透明な高抵抗層としての高抵抗膜41を付与した構成の液晶レンズに、同様に
図2に示した電圧分布となる電圧を印加した場合に液晶層に生じる光学位相差分布特性を
図4に示した。ここで、透明な絶縁層として1μm厚のアモルファスの石英膜および透明な高抵抗膜として25nm厚で抵抗率が10オウムmの酸化亜鉛膜を使用した。これらの透明絶縁層および透明高抵抗層を使用することで、階段状の光学位相差分布特性が平滑化され、滑らかで連統的な放物線状の位相差分布特性が得られており、極めて良好なレンズ特性を得ることができた。
【0042】
さらに、印加電圧の周波数を1桁変化しても光学位相差特性における平滑効果が得られるなど、広範な周波数域で使用することが可能である。透明な絶縁層および透明な高抵抗膜の二重層を使用し、印加電圧として交流電圧を加えた場合には、パターン電極群と液晶層との間に透明絶縁層および高抵抗膜の存在による誘電結合が生じる結果として、階段状の電位分布が平滑化されて滑らかな電位分布特性が得られることになる。このとき、液晶MLC−6080のしきい電圧が約1.5ボルトであるので、V1およびV2がそれぞれ実効値で4.5ボルトおよび6ボルト程度となり、低電圧駆動が可能となるとともに、400Hz〜6kHzの広い周波数範囲で良好なレンズ特性が得られた。
【0043】
本実施例では、透明絶縁層及び高抵抗膜があるので、透明絶縁層による静電容量成分および高抵抗膜による抵抗成分に基づく空間における電位分布の平滑効果により、階段状の電圧の分布が平滑化されて液晶層には滑らかに分布した電圧が加わるため、光学位相差分布も平滑化されて滑らかになり、良好なレンズ特性が得られる。さらに、透明絶縁層が薄いので液晶層に及ぼす電界効果が大きくなり、実効値で数ボルト程度の低電圧で駆動することができる。
【実施例3】
【0047】
さらに、他の実施例について説明する。同一の基板上に複数の液晶光学デバイスを組み込んだ揚合に、隣り合うデバイス間の間隔が狭くなると、相互の干渉効果等が生じるなど、デバイス間の分離が不十分となるという問題が生じる。一例として、直径が10mmの2個の液晶レンズを0.33mmの間隔で配置した。この2個の液晶レンズの各液晶層に
図6に示したような電圧が加わるように、各々の液晶レンズの中心の電極と外側の電極の間にV1として3ボルトの電圧を印加し、電極21と外側の電極230の間にV2として4ボルトの電圧を印加した。ここで、V1およびV2はいずれも1kHzの正弦波で同位相であり、液晶材料であるMLC−6080のしきい電圧1.49ボルトで正規化されている。また、光源としてはヘリウム−ネオンレーザ光(波長633nm)を用いている。
【0048】
同一の基板上に2個の液晶光学デバイスを組み込み、液晶層に
図6に示した電圧が印加された揚合の光学位相差分布の断面図を
図7に示した。ここで、透明なインピーダンス層として抵抗率が5オウムmの酸化亜鉛薄膜を使用し、酸化亜鉛層が2個の光学デバイス間で連続している場合の光学位相差分布特性を
図7(A)に示した。図から分かるように、2個の光学デバイス間の相互作用により、隣り合う領城で光学位相差の極小値が所定の値よりも持ち上がっており、デバイス間の分離が良好な特性が得られていない。この効果は各光学デバイス間の間隔が狭くなるほど大きくなるため、デバイス間の分離を良くするためにはデバイス間の間隔をある程度広く取っておく必要があるという問題が生じる。
【0049】
隣り合うデバイス間を分離し、互いに干渉しないようにするために、透明なインピーダンス層として用いた透明高抵抗層を分割し、境界領城における抵抗値を大きくした場合の光学位相差分布の断面図を
図7(B)に示した。ここで、各光学デバイスにおける透明高抵抗層として抵抗率が5オウムmの酸化亜鉛薄膜を用い、境界領城においては抵抗率が30オウムmの酸化亜鉛薄膜を使用している。
図7(B)から、2個の光学デバイス間の相互作用が弱くなり、隣り合う領域で光学位相差の極小値が所定の値近くまで下がっており、各デバイス相互の分離が良好な特性が得られていることが分かる。このとき、V1およびV2はそれぞれ実効値で4.5ボルトおよび6ボルト程度となり、低電圧駆動が可能となるとともに、400Hz〜6kHzの広い周波数範囲で良好なレンズ特性が得られた。
【0050】
本実施例では、透明絶縁層及び高抵抗膜があるので、空間における電位分布の平滑効果により、各々の光学デバイスの液晶層には階段状の電圧分布が平滑された滑らかな分布の電圧が加わり、その結果滑らかな光学位相差分布が得られるが、隣接する光学デバイス間の高抵抗膜の抵抗値が非常に大きいため、デバイス間の分離特性を向上することができる。このため、光学デバイスとしてレンズ効果を有しているデバイスでは、隣り合う複数の独立したレンズを製造する場合に有用である。また、分離特性が良好であるので、それぞれのレンズに異なる特性を付与することや、独立した焦点調整等の制御を行うのに有効である。
【0051】
なお、
図7(B)では、隣り合う境界領城における透明高抵抗膜の抵抗値を各々の光学デバイスにおける値よりも大きくした場合について示したが、この領域で透明高抵抗膜を除去したスリットを設けると、同様にデバイス間の分離を行うことができる。なお、透明高抵抗膜を除去してスリットを設けることは、透明高抵抗膜の抵抗値を非常に大きくした揚合に対応することから、デバイス間の分離の効果をより強くすることができるが、電界分布が急峻になるため液晶分子配向の不連続に起因するディスクリネーション欠陥が生じ易くなるという問題点がある。
【0052】
上述したように、同一の基板上に構成した複数の液晶光学デバイスの隣り合う境界領城における透明高抵抗層の抵抗値を大きくすることで各光学デバイス間の分離を行うことができるが、個々の光学デバイスの中で透明高抵抗層を分離し、その抵抗値を大きくすることも可能であり、一つの光学デバイスの中に異なる特性を有する領城を形成することができる。また、特性を独立して可変できる複数のレンズを隣接して配置することも可能である。
【0053】
一方、同一の基板上に構成した複数の液晶光学デバイスの隣り合う境界領域における透明高抵抗層の抵抗値を小さくすると、それぞれの光学デバイス間の特性をゆるく結合することができるので、新たな特性を有する光学デバイスを構成することができる。また、この効果は、一つの光学デバイスの中においても同様に作用するため、同様に一つの光学デバイスの中で透明高抵抗層の値を可変することで新たな特性を有する光学デバイスを構成することができる。
【0054】
透明なインピーダンス層として透明高抵抗層の代わりに透明な強誘電体層を使用した場合には、境界領域において誘電率が小さい材料を用いることで同様なデバイス間の分離を行うことができる。
【0055】
本発明における液晶レンズを眼鏡レンズとして使用する場合に、レンズ効果を示す領城の中心、すなわち同心円状のパクーン電極の中心が前記透明な第1の基板の中心から周辺部、特に斜め下部のようにずれた位置に配置することで、主としてレンズの下部を使用する読書用などの揚合には凸レンズ状態とし、それ以外の場合では電圧除去による素通しの状態とするなどの切り替えを行うことができる遠近両用の眼鏡を構成することができる。本発明によると、透明高抵抗層を用いることで、低電圧で動作が可能であり、駆動電圧の周波数依存性が少なく、光学特性が優れた大口径の液晶レンズを構成することができるため、このような遠近両用の眼鏡レンズとして有用である。
【0056】
なお、具体的な実施例として、複数のパターン電極群として同心円の輪帯状(円帯状)電極を有する液晶レンズについて説明したが、本発明は液晶レンズのみに限定されるものではなく、他の形状のパターン電極を用いた収差補正デバイス等の種々の光学デバイス等にも適用することが可能である。
【0057】
また、この発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要索の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。また、液晶光学デバイスの数には制限がないため、複数が配列される構成であってもよい。また複眼のような液晶レンズの2次元的な配列であってもよい。