【文献】
金子昌司 他,マイクロ波アシストブレイクダウン分光法の研究,自動車技術会 学術講演会 前刷集,2009年 5月20日,No.18-09,pp.1-4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
空間中の物質にエネルギーを与えてプラズマ状態にした初期プラズマを生成し、該初期プラズマに電磁波を所定の時間に亘って照射してプラズマ状態を維持するプラズマ生成手段と、
上記電磁波により維持される電磁波プラズマ領域内の分析対象物質から発せられる光の発光強度の時間積分値を用いて、上記分析対象物質を分析する光分析手段とを備え、
上記電磁波プラズマから発せられる光の発光強度の時間積分値が、上記初期プラズマから発せられる光の発光強度の時間積分値よりも大きくなるように、上記プラズマ生成手段が制御されることを特徴とする分析装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の分析装置では、パルスレーザー光だけを用いて分析対象物質をプラズマ化するので、プラズマが形成されている時間が短い。このため、プラズマから発せられる光の発光強度の積算値がそれほど大きな値にならず、高精度の分析を行うことが困難であった。また、分析精度を向上させるためには、高性能の分光器を使用する必要があった。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、プラズマから発せられるプラズマ光を分析することにより分析対象物質を分析する分析装置において、分析精度を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、分析対象物質にエネルギーを瞬間的に与えて該分析対象物質をプラズマ状態にした初期プラズマを生成し、該初期プラズマに電磁波を所定の時間に亘って照射してプラズマ状態を維持するプラズマ生成手段と、上記電磁波により維持される電磁波プラズマから発せられる光の発光強度の時間積分値を用いて、上記分析対象物質を分析する光分析手段とを備えている分析装置。
【0008】
第1の発明では、初期プラズマに所定の時間に亘って電磁波が照射されるので、電磁波の照射の停止直後までプラズマが維持される。電磁波の照射時間は容易に制御できるので、電磁波プラズマの存在時間は容易に制御できる。この第1の発明では、存在時間を制御可能な電磁波プラズマの発光強度の時間積分値が、分析対象物質の分析に用いられる。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、上記電磁波プラズマから発せられる光の発光強度の時間積分値が、上記初期プラズマから発せられる光の発光強度の時間積分値よりも大きくなるように、上記プラズマ生成手段が制御される。
【0010】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、上記電磁波プラズマから発せられる光に分子の発光が含まれ、その分子の発光強度のピークを検出できるように、上記電磁波照射手段から照射される電磁波の単位時間当たりのエネルギーが調節される。
【0011】
第3の発明では、電磁波プラズマによるプラズマ光に分子の発光が含まれ、その分子の発光強度のピークを検出できるように、電磁波照射手段から照射される電磁波の単位時間当たりのエネルギーを調節している。
【0012】
第4の発明は、第1乃至第3の何れか1つの発明において、上記分析対象物質が、流体に含まれる粒子状の物質、又はガス状の物質であり、上記光分析手段は、上記電磁波プラズマの形成領域内において上記初期プラズマの形成領域よりも大きい領域から取り込んだ光の発光強度の時間積分値を用いて、分析対象物質を分析する。
【0013】
第4の発明では、電磁波プラズマの形成領域内において初期プラズマの形成領域よりも大きい領域から取り込んだ光の発光強度の時間積分値を用いて、分析対象物質を分析する。ここで、分析対象物質が流体に含まれる粒子状の物質、又はガス状の物質である場合に、特定の物質の物質量が場所によって偏っているおそれがある。そのような場合に、小さい領域の成分を分析すれば、分析する度に分析結果に違いが生じ、分析結果の信頼性を確保することができない。そこで、ある程度の大きい領域の成分を分析することが考えられる。しかし、レーザープラズマから発せられたプラズマ光を分析したのでは、プラズマ形成領域が小さいので、大きい領域の成分を分析することができない。それに対して、第4の発明では、電磁波によりプラズマが拡大するので、初期プラズマの形成領域よりも大きい領域から取り込んだ光を分析することができる。従って、初期プラズマの形成領域よりも大きい領域から取り込んだ光の発光強度の時間積分値を用いて、分析対象物質が分析される。
【0014】
第5の発明は、第1乃至第4の何れか1つの発明において、上記分析対象物質の相状態に応じて、上記プラズマ生成手段により照射される電磁波の単位時間当たりエネルギーと該電磁波の照射継続時間との少なくとも一方が制御される。
【0015】
第5の発明では、分析対象物質の相状態に応じて、電磁波の単位時間当たりエネルギーと該電磁波の照射継続時間との少なくとも一方が制御される。
【0016】
第6の発明は、第1乃至第5の何れか1つの発明において、上記プラズマ生成手段が、所定の動作周期でプラズマの生成と消滅とを繰り返し、上記光検出手段は、上記プラズマ生成手段によりプラズマが生成される度に、上記電磁波プラズマから発せられる光の発光強度の時間積分値を用いて上記分析対象物質を分析し、上記動作周期を短くするほど、上記プラズマ生成手段により照射される電磁波の単位時間当たりエネルギーを高くする。
【0017】
第6の発明では、プラズマ生成手段の動作周期を短くするほど、それに対応して動作する光分析手段の動作周期が短くなる。つまり、分析装置の時間応答性が高くなる。分析装置の時間応答性を高くするほど、電磁波の単位時間当たりエネルギーは高くなる。ここで、プラズマ生成手段の動作周期を短くするほど、電磁波プラズマが形成されている期間を短くせざるを得ない。そのため、電磁波の単位時間当たりエネルギーが一定であれば、プラズマ生成手段の動作周期を短くするほど、電磁波プラズマの発光強度の時間積分値が小さくなる。そこで、第6の発明では、プラズマ生成手段の動作周期を短くしても、電磁波プラズマの発光強度の時間積分値が大きな値になるように、プラズマ生成手段の動作周期を短くするほど、電磁波の単位時間当たりエネルギーを高くしている。
【0018】
第7の発明は、第1乃至第6の何れか1つの発明において、前記プラズマ生成手段は、前記プラズマ生成手段がプラズマを維持するプラズマ維持期間中に、初期プラズマが生成される空間に設けられた放射アンテナから、電磁波を連続波で放射する。
【0019】
第7の発明では、プラズマ生成手段が、電磁波のエネルギーによりプラズマを維持するプラズマ維持期間に電磁波を連続波(CW)で放射する。分析対象物質が存在するプラズマ領域では、電磁波のエネルギーが電磁波パルスのように脈動することなく安定的に与えられる。従って、プラズマ維持期間にプラズマ領域で電磁波に起因する衝撃波が生じることが抑制される。
【0020】
第8の発明は、第7の発明において、前記プラズマ維持期間に前記電磁波プラズマ領域に前記分析対象物質を移動させる。
【0021】
第9の発明は、第7又は第8の発明において、前記プラズマ生成手段は、電圧値が一定のパルス信号を受けて前記放射アンテナから電磁波を放射し、前記光分析手段は、前記プラズマ維持期間のうち、プラズマ光の発光強度の変動量が所定値以下の発光強度一定期間内で分析期間を設定し、前記分析期間のプラズマ光の発光強度に基づいて前記分析対象物質を分析する。
【0022】
第10の発明は、第7乃至第9の何れか1つの発明において、前記分析対象物質は、粉状の物質であり、前記プラズマ生成手段では、前記プラズマ維持期間の電磁波の出力が、前記分析対象物質が飛散しない値に設定されている。
【0023】
第11の発明は、第10の発明において、前記プラズマ生成手段では、前記初期プラズマの発光強度の最大値より、前記プラズマ維持期間のプラズマの発光強度の最大値の方が大きくなるように、前記プラズマ維持期間の電磁波の出力が設定されている。
【0024】
第12の発明は、第7乃至第11の何れか1つの発明において、前記光分析手段は、前記プラズマ維持期間のプラズマ光を分析して、前記分析対象物質中に含まれる成分の混合比を検出する。
【0025】
第13の発明は、第7乃至第11の何れか1つの発明において、前記光分析手段は、前記プラズマ維持期間のプラズマ光を分析して、前記電磁波プラズマ領域内のガスの温度を検出する。
【0026】
第14の発明は、分析対象物質にエネルギーを瞬間的に与えて該分析対象物質をプラズマ状態にした初期プラズマを生成し、該初期プラズマに電磁波を所定の時間に亘って照射してプラズマ状態を維持するプラズマ生成ステップと、上記電磁波により維持される電磁波プラズマから発せられる光の発光強度の時間積分値を用いて、上記分析対象物質を分析する光分析ステップとを備えている分析方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明では、存在時間を制御可能な電磁波プラズマの発光強度の時間積分値を用いて、分析対象物質が分析される。電磁波プラズマは、例えばパルスレーザー光だけを用いてプラズマを形成する場合よりも長い時間維持できる。従って、発光強度の時間積分値として大きな値を取得することが可能になるので、高性能の分光器を用いることなく、高精度の分析を行うことができる。
【0028】
また、上記第3の発明では、電磁波プラズマによるプラズマ光に分子の発光が含まれ、その分子の発光強度のピークを検出できるようにしているので、分子を分析可能な分析装置を実現することができる。
【0029】
また、上記第4の発明では、電磁波によりプラズマが拡大するので、初期プラズマの形成領域よりも大きい領域から取り込んだ光の発光強度の時間積分値を用いて、分析対象物質が分析される。従って、分析対象物質が流体に含まれる粒子状の物質、又はガス成分である場合に大きな領域の成分を分析可能な分析装置を実現することができる。そして、分析対象物質が流体に含まれる粒子状の物質、又はガス成分である場合に、信頼性の高い分析を行うことができる。
【0030】
また、上記第6の発明では、プラズマ生成手段の動作周期を短くしても、電磁波プラズマの発光強度の時間積分値が大きな値になるように、プラズマ生成手段の動作周期を短くするほど、電磁波の単位時間当たりエネルギーを高くしている。従って、プラズマ生成手段の動作周期を短くしても、つまり、分析装置の時間応答性を高くしても、高精度の分析を行うことができる。
【0031】
また、上記第7の発明では、プラズマ維持期間において、プラズマ領域に電磁波のエネルギーが安定的に与えられるので、電磁波に起因する衝撃波が生じることが抑制される。光分析手段が分析を行う分析期間は、プラズマ維持期間に存在している。そのため、粉状の物質を分析対象物質とする場合に、分析期間にプラズマ領域内の分析対象物質が飛散することを抑制することができる。プラズマ領域内の分析対象物質を物質の移動がほとんどない状態で分析することができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
《実施形態1》
【0034】
実施形態1の分析装置10は、
図1に示すように、プラズマ生成装置11、キャビティー12、光分析装置13及び制御装置14を備えている。制御装置14は、プラズマ生成装置11及び光分析装置13を制御する。なお、本実施形態1の分析装置10は、プラズマ生成装置11によりプラズマ状態にすることができる物質であれば、固体、液体、及び気体の相状態を問わず、分析対象物質として分析することができる。
−プラズマ生成装置の構成−
【0035】
プラズマ生成装置11は、レーザー光源21、集光光学系22、マイクロ波発振器23、マイクロ波伝送路24〜27、アンテナ28、及びパルス電源29を備えている。プラズマ生成装置11は、分析対象物質15にエネルギーを瞬間的に与えて分析対象物質15をプラズマ状態にした初期プラズマを生成し、初期プラズマに電磁波を所定の時間に亘って照射してプラズマ状態を維持するプラズマ生成手段を構成している。レーザー光源21及び集光光学系22は、分析対象物質15にエネルギーを与えて分析対象物質15をプラズマ状態に変化させる初期プラズマ生成手段を構成している。マイクロ波発振器23、マイクロ波伝送路24〜27、アンテナ28、及びパルス電源29は、初期プラズマ生成手段により生成された初期プラズマに電磁波を所定の時間に亘って照射してプラズマ状態を維持するプラズマ維持手段を構成している。
【0036】
レーザー光源21は、分析対象物質15をプラズマ状態にするためのレーザー光を発振する。レーザー光源21から発振されたレーザー光は、集光光学系22を通過し、集光光学系22の焦点に集光される。集光光学系22の焦点は、キャビティー12内に位置している。なお、レーザー光源21には、例えば、Nd:YAGレーザー光源が用いられる。集光光学系22には、例えば、凸レンズが用いられる。
【0037】
プラズマ生成装置11は、集光光学系22の焦点に集光されたレーザー光のエネルギー密度が分析対象物質15のブレイクダウン閾値以上になるように構成されている。すなわち、レーザー光の出力は、焦点に存在する分析対象物質15がプラズマ化するのに必要な値以上に設定されている。
【0038】
マイクロ波発振器23は、マイクロ波伝送路24〜27を介してアンテナ28に接続されている。マイクロ波伝送路24〜27は、マイクロ波発振器23に接続された導波管24と、導波管24に接続されたアイソレータ25と、アイソレータ25に接続された同軸導波管変換器26と、同軸導波管変換器26に接続された同軸ケーブル27により構成されている。また、マイクロ波発振器23は、パルス電源29に接続されている。マイクロ波発振器23は、パルス電源29から電力の供給を受けるとマイクロ波を発振する。
【0039】
アンテナ28は、同軸ケーブル27に接続されている。アンテナ28の先端は、集光光学系22の焦点位置に向けられている。マイクロ波発振器23から発振されたマイクロ波は、マイクロ波伝送路24〜27を経て、アンテナ28から集光光学系22の焦点位置に向けて照射される。
【0040】
なお、マイクロ波発振器23には、例えば、2.45GHzのマイクロ波を発振するマグネトロンが用いられる。また、アンテナ28には、マイクロ波発振器23から発振されたマイクロ波に対して十分な利得を有するアンテナとして、例えば、3/4波長モノポールアンテナが用いられる。また、パルス電源29には、例えば、インバータ方式の電源装置が用いられる。
【0041】
キャビティー12は、マイクロ波の共振構造を有する略筒状の容器であり、マイクロ波が外部へ漏洩することを阻止する。キャビティー12には、分析対象物質15を支持する支持部材(図示省略)が設けられている。キャビティー12には、レーザー光源21から発振されたレーザー光を導入するための導入窓が設けられている。キャビティー12には、レーザー光源21から発振されたレーザー光が入射される。キャビティー12の内側では、レーザー光により分析対象物質15がプラズマ状態になる。また、キャビティー12の内側では、プラズマ状態の分析対象物質15にアンテナ28からマイクロ波が照射される。
−プラズマ生成装置の動作−
プラズマ生成装置11は、制御装置14の指示に従って、分析対象物質15をプラズマ状態にしてプラズマ状態を維持するプラズマ生成維持動作を行う。
【0042】
プラズマ生成維持動作では、パルス電源29が、制御装置14から出力された開始信号を受けるとマイクロ波発振器23への電力の供給を開始する。これにより、マイクロ波発振器23はマイクロ波の発振を開始し、アンテナ28からキャビティー12内の分析対象物質15にマイクロ波が照射される。キャビティー12内では、マイクロ波が共振し定在波を形成する。分析対象物質15のレーザー照射面付近は、定在波の腹となって強電場領域となる。
【0043】
続いて、レーザー光源21が、制御装置14から出力された発振信号を受けるとパルス状のレーザー光を1発だけ発振する。レーザー光は、マイクロ波の照射開始直後に発振される。レーザー光源21から発振されたレーザー光は、集光光学系22により分析対象物質15の表面に集光される。分析対象物質15には、瞬間的に高密度のエネルギーが与えられる。
【0044】
分析対象物質15の表面では、レーザー光の照射領域のエネルギー密度が上昇して分析対象物質15のブレイクダウン閾値を超える。そうすると、
図2に示すように、レーザー光の照射領域の物質が電離し、プラズマ状態になる。すなわち、分析対象物質15を原料とするプラズマが生成される。なお、以下では、レーザー光により生成されるプラズマを「レーザープラズマ」という。レーザープラズマは、初期プラズマに相当する。
【0045】
レーザー発振終了の直後は、マイクロ波の照射が継続されている。従って、レーザープラズマは、
図2に示すように、マイクロ波のエネルギーを吸収して拡大する。拡大したプラズマは、マイクロ波により維持される。以下では、マイクロ波により維持されるプラズマを「マイクロ波プラズマ」という。マイクロ波プラズマは、電磁波プラズマに相当する。
【0046】
その後、パルス電源29が、制御装置14から出力された停止信号を受けるとマイクロ波発振器23への電力の供給を停止する。これにより、マイクロ波発振器23はマイクロ波の発振を停止する。マイクロ波発振器23は、レーザー光の発振後に停止される。マイクロ波の照射は、レーザー光の発振の終了から例えば5秒後に停止される。そうすると、電子の再結合が起こり、マイクロ波プラズマが消滅する。
【0047】
なお、パルス電源29は、開始信号を受けてから停止信号を受けるまでの間に亘って、パルス波(又はバースト波)を繰り返しマイクロ波発振器23へ供給する。パルス電源29は、所定のデューティー比(オン/オフのデューティー比)で電力をマイクロ波発振器23へ供給する。マイクロ波発振器23は、マイクロ波の発振と停止を所定のデューティー比で繰り返す。マイクロ波プラズマは、熱プラズマになることがなく、非平衡プラズマで維持される。本実施形態1では、マイクロ波の発振開始は、最初のパルス波を受けた時点であり、マイクロ波の発振終了は、最後のパルス波を受けた時点である。開始信号を受けてから停止信号を受けるまでの間は、マイクロ波の照射期間としている。また、マイクロ波の単位時間当たりのエネルギーは、マイクロ波の照射期間に亘って、調節されることなく一定に保たれる。
【0048】
また、本実施形態1では、マイクロ波の発振開始タイミングは、レーザー光の発振前であるが、レーザープラズマが消滅する前であればレーザー光の発振後であってもよい。
【0049】
ここで、プラズマが形成されている期間において、プラズマから発せられるプラズマ光の発光強度の時系列変化を見ると、
図3に示すように、まずレーザープラズマによる発光強度のピークが瞬間的に見られ、発光強度がゼロ近くの極小値まで低下する。そして、発光強度が極小値となった後、マイクロ波プラズマにより発光強度が再び増加し、マイクロ波プラズマの消滅が開始されるまで、発光強度がある程度一定の強さに保たれる。
【0050】
なお、本明細書では、レーザープラズマによる発光強度のピーク直後の極小値までのプラズマを「レーザープラズマ」と定義し、極小値以降のプラズマを「マイクロ波プラズマ」と定義する。本実施形態1では、レーザープラズマの方がマイクロ波プラズマよりも発光強度の最大値が大きくなるように、プラズマ生成装置11が構成されている。レーザープラズマよりもマイクロ波プラズマの方がプラズマにおけるエネルギー密度が高くなるように、レーザー光源21の出力とマイクロ波発振器23の出力が設定されている。
−光分析装置の構成−
【0051】
光分析装置13は、プラズマ生成維持動作中にマイクロ波プラズマから発せられるプラズマ光だけを分析する。光分析装置13は、電磁波により維持される電磁波プラズマから発せられる光の発光強度の時間積分値を用いて、分析対象物質15を分析する光分析手段を構成している。光分析装置13は、ビームサンプラー30、第1パワーメータ31A、第2パワーメータ31B、光学素子32、光ファイバー33、分光器34、光検出器35、及び信号処理装置36を備えている。
【0052】
ビームサンプラー30は、レーザー光源21におけるレーザー光の出射部と集光光学系22との間に配置されている。ビームサンプラー30は、レーザー光源21から発振されたレーザー光の一部を分離する。第1パワーメータ31Aは、ビームサンプラー30により分離された光を受光する。第1パワーメータ31Aの出力信号は、信号処理装置36に入力される。一方、第2パワーメータ31Bは、レーザー光源21に対してキャビティー12の反対側に配置され、キャビティー12を通過したレーザー光を受光する。第2パワーメータ31Bの出力信号は、信号処理装置36に入力される。
【0053】
光学素子32は、光が透過するレンズ等により構成されている。光学素子32には、例えば、集光光学系のものが使用される。その場合は、光学素子32は、その焦点がマイクロ波プラズマの形成領域に位置するように配置される。
【0054】
分光器34は、光ファイバー33を介して光学素子32に接続されている。分光器34には、光学素子32に入射したプラズマ光が取り込まれる。分光器34は、回折格子又はプリズムを用いて、入射したプラズマ光を波長に応じて異なる向きに分散させる。
【0055】
ここで、本実施形態の分光器34の入口には、プラズマが形成されている期間においてマイクロ波プラズマから発せられるプラズマ光だけが分析されるようにプラズマ光を分析する時間を区切るための分析時間区切手段として、シャッター37が設けられている。シャッター37は、制御装置14により、分光器34に光が入射することを許容する開状態と、分光器34に光が入射することを禁止する閉状態との間で切り替えられる。なお、制御装置14が、光検出器35の露光タイミングを制御できる場合には、制御装置14が分析時間区切手段を構成してもよい。
【0056】
光検出器35は、分光器34により分散された光のうち所定の波長帯域の光を受光するように配置されている。光検出器35は、制御装置14から出力された指令信号に応答して、受光した波長帯域の光を波長毎に電気信号に変換して出力する。光検出器35には、例えば電荷結合素子(Charge Coupled Device)が用いられる。光検出器35から出力された電気信号は、信号処理装置36に入力される。
【0057】
信号処理装置36は、光検出器35から出力された電気信号に基づいて、波長毎に発光強度の時間積算値を算出する。信号処理装置36では、シャッター37が開状態になっている間に分光器34に入射したプラズマ光に対して、波長毎の発光強度の時間積分値(発光スペクトル)が得られる。信号処理装置36は、
図4に示すような波長毎の発光強度の時間積分値を示すグラフを作成する。また、信号処理装置36は、波長毎の発光強度の時間積算値から、発光強度が強い波長成分を見つけて分析対象物質15の成分を同定する。
【0058】
また、信号処理装置36は、第1パワーメータ31Aの出力値と、ビームサンプラー30によるレーザー光の分離率とを用いて、レーザー光源21から発振されたレーザー光のエネルギーを検出する。また、信号処理装置36は、第2パワーメータ31Bの出力値を用いて、キャビティー12を通過したレーザー光のエネルギーを検出する。信号処理装置36は、レーザー光源21から発振されたレーザー光のエネルギーと、キャビティー12を通過したレーザー光のエネルギーとの差から、プラズマに吸収されたエネルギーを検出する。
−光分析装置の動作−
【0059】
光分析装置13は、制御装置14の指示に従って、プラズマから発せられるプラズマ光を分析する光分析動作を行う。光分析動作は、プラズマ生成維持動作に連動して行われる。また、プラズマ生成維持動作では、制御装置14により、マイクロ波プラズマが形成されている期間だけ開状態になるようにシャッター37が制御される。
【0060】
具体的に、光分析装置13では、
図3に示すシャッター37が開状態の期間だけ、マイクロ波プラズマから発せられるプラズマ光が、光学素子32、光ファイバー33を順番に通過して分光器34に入射する。分光器34では、入射したプラズマ光が波長に応じて異なる向きに分散される。そして、所定の波長帯域のプラズマ光が光検出器35に到達する。光検出器35では、受光した波長帯域のプラズマ光が波長毎に電気信号に変換される。信号処理装置36では、光検出器35の出力信号に基づいて、波長毎に発光強度の時間積算値が算出される。信号処理装置36は、波長毎の発光強度の時間積算値から、発光強度が強い波長成分を見つけて分析対象物質15の成分を同定する。
【0061】
なお、信号処理装置36は、
図4に示すような波長毎の発光強度の時間積算値を示すグラフを作成し、そのグラフを信号処理装置36のモニターに表示してもよい。分析装置10の使用者はこのスペクトル図を見ることにより、分析対象物質の成分分析として、分析対象物質に含まれる原子を同定することができる。
【0062】
また、分析装置10は、検量線を用いて、特定した原子の含有量を算出してもよい。原子の含有量を算出する場合は、信号処理装置36は、レーザー光源21から発振されたレーザー光のエネルギーの検出値を用いて、発光スペクトルから得た原子の含有量を補正してもよい。また、信号処理装置36は、プラズマに吸収されたエネルギーの検出値を用いて、発光スペクトルから得た原子の含有量を補正してもよい。
【0063】
ところで、本実施形態の分析装置10は、原子だけでなく、分析対象物質15に含まれる分子の同定、及び分子の含有量の算出を行うことができる。ここで、レーザー光プラズマから発せられるプラズマ光を用いて分析対象物質を分析する場合は、レーザーのエネルギー密度が高すぎて、分析対象物質に含まれる分子のほとんどが分解されて原子になってしまう。そのため、分子の発光が弱く、分子の発光のピークを検出することができない。それに対して、本実施形態1では、アンテナ28から照射するマイクロ波の単位時間当たりのエネルギーが、マイクロ波プラズマから発せられる光に分子(例えば、OHラジカル)の発光が含まれ、その分子の発光強度のピークを検出できる値以下に調節される。従って、マイクロ波プラズマ内において、多くの分子が分解されずに残り、分析装置13にて検出される発光スペクトルから、分子の発光強度のピークを検出できる。
−実施形態1の効果−
【0064】
本実施形態1では、存在時間を制御可能なマイクロ波プラズマの発光強度の時間積分値を用いて、分析対象物質15が分析される。マイクロ波プラズマは、パルスレーザー光だけを用いてプラズマを形成する場合よりも長い時間維持できる。従って、発光強度の時間積分値として大きな値を取得することが可能になるので、高性能の分光器を用いることなく、高精度の分析を行うことができる。
【0065】
また、本実施形態1では、マイクロ波プラズマによるプラズマ光に分子の発光が含まれ、その分子の発光強度のピークを検出できるようにしているので、分子を分析可能な分析装置10を実現することができる。
−実施形態1の変形例1−
【0066】
変形例1の分析装置10は、流体に含まれる粒子状の物質、又はガス状の物質を分析対象物質として分析する装置である。光分析装置13では、マイクロ波プラズマ形成領域に焦点を合わせた光学素子32を使用せずに、マイクロ波プラズマの形成領域内においてレーザープラズマの形成領域よりも大きい分析対象領域から発せられた光を取り込むことができる光学素子32が用いられる。その場合、分析対象領域から発せられたプラズマ光が分光器34に取り込まれ、分析装置13にて、その分析対象領域の発光強度の時間積分値が算出され、その時間積分値を用いて分析対象物質の成分が分析される。
【0067】
変形例1では、マイクロ波によりプラズマが拡大するので、レーザープラズマの形成領域よりも大きい領域から取り込んだ光の発光強度の時間積分値を用いて、分析対象物質が分析される。従って、分析対象物質が流体に含まれる粒子状の物質、又はガス状の物質である場合に大きな領域を分析可能な分析装置を実現することができる。そして、分析対象物質が流体に含まれる粒子状の物質、又はガス状の物質である場合に、信頼性の高い分析を行うことができる。
−実施形態1の変形例2−
【0068】
変形例2では、分析対象物質の相状態に応じて、マイクロ波発振器23から発振されるマイクロ波の単位時間当たりエネルギーが調節される。
【0069】
具体的に、分析装置10には、分析対象物質の相状態を入力する入力部が設けられている。分析装置10の使用者は、分析対象物質15に応じて入力部を操作する。分析装置10では、入力部の出力信号に応じて、パルス電源29が出力するパルス波の最高電圧が設定される。その結果、マイクロ波発振器23から発振されるマイクロ波の単位時間当たりエネルギーが、分析対象物質の相状態に応じた値になる。例えば、気体よりも固体の方が、ブレイクダウン閾値が高い。従って、気体よりも固体の方が、マイクロ波の単位時間当たりエネルギーが大きな値に設定される。
【0070】
なお、入力部の出力信号に応じて、マイクロ波発振器23から発振されるマイクロ波の照射継続時間を調節してもよい。これにより、分析対象物質の相状態に応じて、マイクロ波発振器23から発振されるマイクロ波の照射継続時間が調節される。
−実施形態1の変形例3−
【0071】
変形例3の分析装置10は、使用者が分析時間間隔を設定可能になっている。また、使用者により設定された分析時間間隔が短いほど、マイクロ波発振器23から発振されるマイクロ波の単位時間当たりエネルギーが高い値に調節される。
【0072】
この分析装置10では、プラズマ生成装置11が、入力された分析時間間隔を動作周期として、プラズマの生成と消滅とを繰り返す。また、光分析装置13は、プラズマ生成装置11に連動して動作し、プラズマ生成装置11によりプラズマが生成される度に、マイクロ波プラズマから発せられる光の発光強度の時間積分値を用いて分析対象物質の成分を分析する。このように、分析装置10では、使用者により設定された分析時間間隔で、分析対象物質を分析する光分析動作が行われる。
【0073】
変形例3では、分析時間間隔を短くしてもマイクロ波プラズマの発光強度の時間積分値が大きな値になるように、分析時間間隔を短くするほど、マイクロ波の単位時間当たりエネルギーを高くしている。従って、分析時間間隔を短くしても、つまり、分析装置10の時間応答性を高くしても、高精度の分析を行うことができる。
《実施形態2》
【0074】
実施形態2は、初期プラズマ生成手段が実施形態1とは異なる。
【0075】
実施形態2では、分析対象物質をプラズマ状態に変化させるのに、放電装置(例えば、スパークプラグ)が用いられる。具体的に、
図5及び
図6に示すように、プラズマ生成装置11は、パルス電圧生成器51、マイクロ波発振器23、混合器52、整合器53、及びスパークプラグ54を備えている。
図5に示すように、パルス電圧生成器51、混合器52、整合器53、及びスパークプラグ54は、一体化されて点火ユニット58を構成している(
図5において整合器53の記載は省略している)。
【0076】
パルス電圧生成器51は、外部の直流電源60から直流電力の供給を受ける。パルス電圧生成器51は、制御装置14から出力された放電信号を受けると、高電圧のパルス電圧を生成して出力する。パルス電圧は、ピーク電圧が例えば6kV〜40kV程度のインパルス状の電圧信号である。パルス電圧の諸元は、スパークプラグ54にパルス電圧を印加した場合に絶縁破壊を生じるように適宜設定すればよい。
【0077】
混合器52は、パルス電圧生成器51からパルス電圧を受けると共に、マイクロ波発振器23からマイクロ波を受ける。混合器52は、パルス電圧とマイクロ波とを混合した混合信号を生成して出力する。混合信号は、整合器53を介してスパークプラグ54に伝送される。整合器53は、混合器52から出力されたマイクロ波のインピーダンス整合がとる。
【0078】
スパークプラグ54では、放電電極54aと接地電極54bの間に放電ギャップが形成されている。スパークプラグ54では、混合信号の印加を受けると、放電が生じると共に、マイクロ波が放射される。その結果、スパークプラグ54の先端の放電ギャップでは、放電により小規模の放電プラズマ(初期プラズマ)が形成され、その放電プラズマがマイクロ波のエネルギーを吸収して拡大する。拡大したプラズマは、マイクロ波プラズマとなる。マイクロ波は、所定の時間に亘って照射される。
【0079】
なお、本実施形態2では、マイクロ波の発振開始タイミングは、スパーク放電前であるが、放電プラズマが消滅する前であればスパーク放電後であってもよい。
【0080】
本実施形態2では、
図5に示すように、放電ギャップに分析対象物質15が配置される。分析対象物質15は、支持部材(図示省略)により支持されている。
【0081】
プラズマ生成維持動作では、プラズマ状態の分析対象物質15から発せられた光が、分析対象物質15に対面するように配置された光学素子32に入射し、実施形態1と同様に、光分析装置13において分析対象物質15の分析が行われる。
《実施形態3》
【0082】
実施形態3の分析装置10は、粉状の物質を分析対象物質100として、その分析対象物質100の成分分析を行う装置である。分析装置10は、例えば不純物の検出に利用される。分析装置10は、
図1に示すように、分析対象物質100を移動させるベルトコンベア101に対して設置されている。分析装置10は、プラズマ生成装置111、キャビティー112、光分析装置113及び制御装置114を備えている。
【0083】
キャビティー112は、マイクロ波の共振構造を有する容器である。キャビティー112は、下側が開放された略円筒状に形成されている。キャビティー112は、メッシュ状の部材により構成されている。キャビティー112は、後述する放射アンテナ128からキャビティー112の内部空間へ放射されたマイクロ波が外部へ漏れないように、メッシュの大きさが設定されている。キャビティー112の上面には、レーザー用プローブ123及びアンテナ用プローブ126が取り付けられている。また、制御装置114は、プラズマ生成装置111及び光分析装置113を制御する。
−プラズマ生成装置の構成−
【0084】
プラズマ生成装置111は、空間中においてプラズマを生成し、放射アンテナ128から放射するマイクロ波のエネルギーによりプラズマを維持するプラズマ生成手段を構成している。プラズマ生成装置111は、空間中の物質に瞬間的にエネルギーを与えて、その物質をプラズマ状態にした初期プラズマを生成し、その初期プラズマにマイクロ波を所定の時間に亘って照射してプラズマ状態を維持する。
【0085】
プラズマ生成装置111は、
図7に示すように、レーザー発振装置115と電磁波放射装置116とを備えている。レーザー発振装置115は、レーザー光源121、光ファイバー122、及びレーザー用プローブ123を備えている。電磁波放射装置116は、マイクロ波発振器124、マイクロ波伝送線路125、及びアンテナ用プローブ126を備えている。
【0086】
レーザー光源121は、制御装置114からレーザー発振信号を受けると、初期プラズマを生成するためのレーザー光を発振する。レーザー光源121は、光ファイバー122を介してレーザー用プローブ123に接続されている。レーザー用プローブ123の先端には、光ファイバー122を通過したレーザー光を集光させる集光光学系127が設けられている。レーザー用プローブ123は、その先端がキャビティー112の内部空間に望むようにキャビティー112に取り付けられている。集光光学系127の焦点は、キャビティー112の下側の開口より少しだけ下側に位置している。レーザー光源121から発振されたレーザー光は、レーザー用プローブ123の集光光学系127を通過して、集光光学系127の焦点に集光される。
【0087】
なお、レーザー光源21には、例えば、マイクロチップレーザーが用いられる。集光光学系127には、例えば、凸レンズが用いられる。
【0088】
レーザー発振装置115では、集光光学系127の焦点に集光されたレーザー光のエネルギー密度が分析対象物質100のブレイクダウン閾値以上になるようにレーザー光源121の出力が設定されている。すなわち、レーザー光源121の出力は、焦点に存在する分析対象物質100がプラズマ化するのに必要な値以上に設定されている。
【0089】
マイクロ波発振器124は、制御装置114からマイクロ波駆動信号を受けると、その電磁波駆動信号のパルス幅の時間に亘ってマイクロ波を連続的に出力する。電磁波駆動信号は、電圧値が一定のパルス信号である。マイクロ波発振器124におけるマイクロ波の出力は、粉状の分析対象物質100が飛散しないように、100ワット以下の出力値(例えば、80ワット)に設定されている。マイクロ波発振器124は、マイクロ波伝送線路125を介してアンテナ用プローブ126に接続されている。アンテナ用プローブ126には、マイクロ波伝送線路125を通過したマイクロ波を放射するための放射アンテナ128が設けられている。アンテナ用プローブ126は、放射アンテナ128の先端が集光光学系127の焦点を向くように取り付けられている。放射アンテナ128は、マイクロ波による強電界領域が集光光学系127の焦点を含んで形成されるように設けられている。
【0090】
なお、マイクロ波発振器124は、2.45GHzのマイクロ波を出力する。マイクロ波発振器124では、半導体発振器がマイクロ波を生成する。なお、他の周波数帯域のマイクロ波を発振する半導体発振器を使用してもよい。
−光分析装置の構成−
【0091】
光分析装置113は、プラズマ生成装置111がマイクロ波のエネルギーによりプラズマを維持するプラズマ維持期間に、プラズマ領域P内に位置するプラズマ状態の分析対象物質100から発せられるプラズマ光を分析して、分析対象物質100を分析する光分析手段を構成している。光分析装置113は、プラズマ維持期間のうち後述する分析期間のプラズマ光の発光強度の時間積分値を用いて、分析対象物質100を分析する。光分析装置113は、光学プローブ130、光ファイバー131、分光器132、光検出器133、及び信号処理装置134を備えている。
【0092】
光学プローブ130は、キャビティー112の内部空間のプラズマ光を導出するための装置である。光学プローブ130は、筒状のケーシングの先端部に、比較的広い範囲の光を取り込み可能なレンズを取り付けたものである。光学プローブ130は、プラズマ領域Pの全体から発せられるプラズマ光をレンズに導入できるように、キャビティー112の側面に取り付けられている。
【0093】
分光器132は、光ファイバー131を介して光学プローブ130に接続されている。分光器132には、光学プローブ130に入射したプラズマ光が取り込まれる。分光器132は、回折格子又はプリズムを用いて、入射したプラズマ光を波長に応じて異なる向きに分散させる。
【0094】
なお、分光器132の入口には、プラズマ光を分析する分析期間を区切るためのシャッターが設けられている。シャッターは、制御装置114により、分光器132に光が入射することを許容する開状態と、分光器132に光が入射することを禁止する閉状態との間で切り替えられる。なお、光検出器133の露光タイミングを制御できる場合には、光検出器133を制御して分析期間を区切るようにしてもよい。
【0095】
光検出器133は、分光器132により分散された光のうち所定の波長帯域の光を受光するように配置されている。光検出器133は、制御装置114から出力された指令信号に応答して、受光した波長帯域の光を波長毎に電気信号に光電変換して出力する。光検出器133には、例えば電荷結合素子(Charge Coupled Device)が用いられる。光検出器133から出力された電気信号は、信号処理装置134に入力される。
【0096】
信号処理装置134は、光検出器133から出力された電気信号に基づいて、波長毎に発光強度の時間積算値を算出する。信号処理装置134は、シャッターが開状態になっている分析期間に分光器132に入射したプラズマ光に対して、波長毎の発光強度の時間積分値(発光スペクトル)を算出する。信号処理装置134は、波長毎の発光強度の時間積算値から、発光強度が強い波長成分を検出し、検出した波長成分に対応する物質を分析対象物質100の成分として同定する。
−分析装置の動作−
【0097】
分析装置10が分析対象物質100の成分分析を行う分析動作について説明する。分析動作は、ベルトコンベア101の動作中に行われる。分析動作では、プラズマ生成装置111によるプラズマ生成維持動作と、光分析装置113による光分析動作とが連動して行われる。
【0098】
まず、プラズマ生成維持動作について説明する。プラズマ生成維持動作は、プラズマ生成装置111がプラズマを生成して維持する動作である。プラズマ生成装置111は、制御装置114の指示に従って、レーザー光源121を駆動して初期プラズマを生成し、マイクロ波発振器124を駆動して初期プラズマにマイクロ波を照射してプラズマ状態を維持するプラズマ生成維持動作を行う。
【0099】
具体的に、制御装置114は、レーザー光源21へレーザー発振信号(短パルスの信号)を出力する。レーザー光源121は、レーザー発振信号を受けると、パルス状のレーザー光を1発だけ発振する。レーザー光源121から発振されたレーザー光は、集光光学系127により分析対象物質100の表層に集光される。分析対象物質100には、瞬間的に高密度のエネルギーが与えられる。
【0100】
分析対象物質100の表層では、レーザー光の照射領域のエネルギー密度が上昇して分析対象物質100のブレイクダウン閾値を超える。そうすると、レーザー光の照射領域の物質が電離し、プラズマ状態になる。すなわち、分析対象物質100を原料とするプラズマ(初期プラズマ)が生成される。
【0101】
続いて、制御装置114は、
図8に示すように、レーザー発振信号の立ち下がりの直後に、マイクロ波発振器124へマイクロ波駆動信号を出力する。マイクロ波発振器124は、マイクロ波駆動信号を受けると、マイクロ波の連続波(CW)を放射アンテナ128へ出力する。マイクロ波は、放射アンテナ128からキャビティー112の内部空間へ放射される。マイクロ波は、マイクロ波駆動信号のパルス幅の時間に亘って放射アンテナ128から放射される。なお、レーザー発振信号の立ち下がり時点から電磁波駆動信号の立ち上がり時点までの時間Xは、初期プラズマが消滅する前にマイクロ波の放射が開始されるように設定されている。
【0102】
キャビティー112の内部空間では、集光光学系127の焦点を中心とする領域が強電界領域(キャビティー112の内部空間において電界強度が相対的に強い領域)となる。初期プラズマは、マイクロ波のエネルギーを吸収して拡大し、ボール状のマイクロ波プラズマになる。キャビティー112の内部空間では、分析対象物質100の表層部を含むように、マイクロ波プラズマが存在するプラズマ領域Pが形成される。マイクロ波プラズマは、マイクロ波の放射期間Yに亘って維持される。マイクロ波の放射期間Yはプラズマ維持期間となる。
【0103】
その後、電磁波駆動信号の立ち下がりタイミングにおいて、マイクロ波発振器124がマイクロ波の出力を停止すると、マイクロ波プラズマが消滅する。マイクロ波の放射期間Yは、例えば、数十マイクロ秒から数十秒である。マイクロ波発振器124は比較的長い時間に亘ってマイクロ波を出力する場合であっても、マイクロ波プラズマが熱プラズマにならないように、マイクロ波の出力値が所定値(例えば、80ワット)に設定されている。
【0104】
ここで、初期プラズマの生成からマイクロ波プラズマの消滅までの期間において、プラズマから発せられるプラズマ光の発光強度の時系列変化を見ると、
図9に示すように、まず初期プラズマの発光強度のピークが瞬間的に見られ、発光強度がゼロ近くの極小値まで低下する。そして、発光強度が極小値となった後、マイクロ波プラズマの発光強度が増加する発光強度増加期間が見られ、その発光強度増加期間に引き続き、マイクロ波発光強度がほぼ一定値になる発光強度一定期間(プラズマ光の発光強度の変動量(増加量)が所定値以下の期間)が見られる。
【0105】
なお、本実施形態3のプラズマ生成装置111では、
図9に実線で示すように、マイクロ波の放射前のプラズマ光の発光強度の最大値より、プラズマ維持期間のプラズマ光の発光強度の最大値の方が大きくなるように、プラズマ維持期間のマイクロ波の出力が設定されている。これにより、分析対象物質100の飛散を防止しつつ、プラズマ光から大きな発光強度が得られるので、分析対象物質100の分析をより正確に行うことができる。ただし、十分な発光強度が得られるのであれば、
図9に破線で示すように、マイクロ波の放射前のプラズマ光の発光強度の最大値の方が、プラズマ維持期間のプラズマ光の発光強度の最大値より大きくなるように、プラズマ維持期間のマイクロ波の出力を設定してもよい。
【0106】
光分析動作は、光分析装置113がプラズマ状態の分析対象物質100から発せられる光(プラズマ光)を分析する動作である。光分析装置113は、制御装置114の指示に従って、プラズマ光を分光分析して分析対象物質100の成分分析を行う光分析動作を行う。また、光分析装置113では、プラズマ維持期間のうち前記発光強度一定期間内で分析期間が設定され、分析期間のプラズマ光の発光強度に基づいて分析対象物質が分析される。制御装置114は、発光強度安定期間の全体が分析期間に設定されるように、その分光器のシャッターを制御すると共に、光検出器133が光電変換を行う期間を制御する。なお、発光強度安定期間の一部を分析期間に設定してもよい。
【0107】
ところで、初期プラズマの生成時には、レーザー光による衝撃波により分析対象物質100が飛散する。しかし、ベルトコンベア101が動作しているので、分析対象物質100が飛散した箇所は、発光強度一定期間の開始時点ではプラズマ領域Pを通過している。発光強度一定期間の開始時点でプラズマ領域Pに存在している分析対象物質100は、プラズマ維持期間にプラズマ領域Pに入っている。プラズマ維持期間にプラズマ領域Pに入った分析対象物質100は、飛散による影響を受けておらず、物質の移動がほとんどない状態である。
【0108】
光分析装置113では、
図9に示す発光強度一定期間(分析期間)中だけ、プラズマ領域Pに位置するプラズマ状態の分析対象物質100から発せられるプラズマ光が、光学プローブ130、光ファイバー131を順番に通過して分光器132に入射する。
【0109】
分光器132では、入射したプラズマ光が波長に応じて異なる向きに分散される。そして、所定の波長帯域のプラズマ光が光検出器133に到達する。光検出器133では、受光した波長帯域のプラズマ光が波長毎に電気信号に光電変換される。信号処理装置134では、光検出器133の出力信号に基づいて、波長毎に発光強度一定期間(分析期間)における発光強度の時間積算値が算出される。信号処理装置134は、
図4に示すような、波長に応じた発光強度の時間積算値を示すスペクトル図を作成する。信号処理装置134は、波長毎の発光強度の時間積算値から、発光強度のピークが現れる波長を検出し、検出した波長に対応する物質(原子又は分子)を分析対象物質100の成分として同定する。
【0110】
信号処理装置134は、例えば379.4mmに発光強度のピークが現れた場合は、分析対象物質100の成分としてモリブデンを同定する。例えば422.7mmに発光強度のピークが現れた場合は、分析対象物質100の成分としてカルシウムを同定する。例えば345.2mmに発光強度のピークが現れた場合は、分析対象物質100の成分としてコバルトを同定する。例えば357.6mmに発光強度のピークが現れた場合は、分析対象物質100の成分としてクロムを同定する。
【0111】
なお、信号処理装置134、
図4に示すようなスペクトル図を分析装置10のモニターに表示してもよい。分析装置10の使用者はこのスペクトル図を見ることにより、分析対象物質に含まれる成分を同定することができる。
−実施形態3の効果−
【0112】
本実施形態3では、プラズマ維持期間において、プラズマ領域Pにマイクロ波のエネルギーが安定的に与えられるので、マイクロ波に起因する衝撃波が生じることが抑制される。光分析装置113が分析を行う分析期間は、プラズマ維持期間に存在している。そのため、粉状の物質を分析対象物質100とする場合に、分析期間にプラズマ領域P内の分析対象物質100が飛散することを抑制することができる。プラズマ領域P内の分析対象物質100を物質の移動がほとんどない状態で分析することができる。
【0113】
また、本実施形態3では、粉状の物質をそのまま分析できる。ここで、従来は、粉状の物質を分析対象物質100とする場合に、粉状の物質をバインダで固めたペレットの状態で分析が行われていた。しかし、本実施形態3では、粉状の物質をそのまま分析できるので、バインダに起因するノイズが発光強度に表れることなく、ノイズを除去するフィルタを省略することができる。
【0114】
また、本実施形態3では、プラズマ維持期間のマイクロ波プラズマの強度がそれほど強くない。従って、放射アンテナ128を構成する金属がほとんど励起されることなく、そのような金属に起因するノイズを抑制することができる。
−実施形態3の変形例1−
【0115】
変形例1では、信号処理装置134が、分析対象物質100における複数成分の混合比を検出する。実施形態3のプラズマ生成装置111が維持するプラズマは、レーザー光だけで生成するプラズマに比べて大きい。従って、大きい領域のプラズマ光を取り込むことで、その領域の成分の混合比の検出が可能になる。
【0116】
信号処理装置134は、複数の物質に対して、発光強度と含有量の関係を示す検量線のデータを記憶している。信号処理装置134は、発光強度のピークが現れる波長に対応する物質を複数検出し、検量線のデータに基づいて、検出した物質の含有量を算出する。信号処理装置134は、発光強度のピークが現れる波長に対応する物質の含有量の比率を算出して、分析対象物質に含まれる成分の混合比を検出する。
【0117】
変形例1によれば、例えば分析装置10が薬品の品質管理に使用する場合に、薬品における特定成分の混合比が所定の範囲内にあるか否かを検出することができる。信号処理装置134は、例えば、薬品粉末に含まれるA成分及びB成分の各々に対応する波長の発光強度から、A成分及びB成分の含有量をそれぞれ算出する。そして、信号処理装置134は、A成分の含有量とB成分の含有量から、A成分に対するB成分の混合比(含有量の重量比)を算出する。
【0118】
なお、信号処理装置134は、電磁波放射装置116の放射アンテナ128におけるマイクロ波の反射波のエネルギーに基づいて、発光強度から得られる物質の含有量を補正してもよい。反射波が大きければ大きいほど、マイクロ波プラズマの維持に投入されるマイクロ波のエネルギーは少なくなり、発光強度は小さくなる。信号処理装置134は、マイクロ波の反射波のエネルギーが大きいほど、発光強度から計算される物質の含有量を大きな値に補正する。
−実施形態3の変形例2−
【0119】
変形例2では、光分析装置113が、プラズマ維持期間のプラズマ光を分析して、マイクロ波プラズマ領域P内のガスの温度を検出する。
《実施形態4》
実施形態4は、初期プラズマを生成する手段が実施形態3とは異なる。
【0120】
実施形態4では、初期プラズマを生成するのに、
図10に示すように、スパークプラグ223(放電器)が用いられる。制御装置114は、初期プラズマを生成する際に、パルス電圧生成器121にスパーク生成信号を出力する。そうすると、パルス電圧生成器121は、高電圧パルスをスパークプラグ223に出力し、スパークプラグ223の電極150間の放電ギャップでスパーク放電が生成される。スパーク放電の経路では、初期プラズマが生成される。なお、高電圧パルスは、ピーク電圧が例えば6kV〜40kV程度のインパルス状の電圧信号である。
【0121】
実施形態4では、放射アンテナ128がスパークプラグ223に埋設されている。制御装置114は、スパーク生成信号の立ち下がりの直後に、マイクロ波発振器124へマイクロ波駆動信号を出力する。マイクロ波発振器124は、実施形態3と同様に、放射アンテナ128からマイクロ波を連続波で出力する。その結果、スパーク放電により生成された初期プラズマは、マイクロ波のエネルギーを吸収して拡大する。なお、放射アンテナ128をスパークプラグ223とは別途に設けてもよい。
《その他の実施形態》
【0122】
上記実施形態は、以下のように構成してもよい。
【0123】
上記実施形態では、分析対象物質15の分析に用いる発光強度の時間積分値が、マイクロ波プラズマによる発光強度がほぼ一定に保たれている期間だけの発光強度の時間積分値であったが、マイクロ波プラズマにより発光強度が増加する期間(レーザープラズマによる発光強度のピーク後の極小値以降の増加期間)の発光強度の積分値を含んでいてもよいし、マイクロ波プラズマの消滅後に発光強度が減少する期間の発光強度の積分値を含んでいてもよい。
【0124】
また、上記実施形態において、レーザー光源21として、Nd:YAGレーザー光源以外の固体レーザー光源を用いてもよいし、液体レーザー光源、ガスレーザー光源、半導体レーザー光源、または、自由電子レーザー光源を用いてもよい。
【0125】
また、上記実施形態において、ブレイクダウンを生じさせるための手段(初期プラズマ生成手段)は、ブレイクダウンを生じさせるのに十分なエネルギーを与えることができればよく、レーザー光源21やスパークプラグ54以外に、グロープラグなどの熱電子生成器、レーザーダイオード若しくは高輝度発光ダイオード半導体発光素子などであってもよい。
【0126】
また、上記実施形態においては、マイクロ波発振器23として半導体発振器などの他の発振器を使用してもよい。