特許第5906531号(P5906531)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5906531
(24)【登録日】2016年4月1日
(45)【発行日】2016年4月20日
(54)【発明の名称】半導体式ガス検知素子
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/12 20060101AFI20160407BHJP
【FI】
   G01N27/12 C
【請求項の数】1
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-27709(P2012-27709)
(22)【出願日】2012年2月10日
(65)【公開番号】特開2013-164349(P2013-164349A)
(43)【公開日】2013年8月22日
【審査請求日】2014年12月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190301
【氏名又は名称】新コスモス電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107308
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 修一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100126930
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 隆司
(72)【発明者】
【氏名】大石 達也
(72)【発明者】
【氏名】三橋 弘和
【審査官】 櫃本 研太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−003310(JP,A)
【文献】 特開2008−241430(JP,A)
【文献】 特開平08−271465(JP,A)
【文献】 特開平08−122288(JP,A)
【文献】 特開2001−318069(JP,A)
【文献】 特開平05−087758(JP,A)
【文献】 特開平05−045319(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貴金属線材を覆って焼結させた酸化スズあるいは酸化インジウムを主成分とし、被検知ガスと接触するガス感応部を備えた半導体式ガス検知素子であって、
前記ガス感応部にモリブデン酸化物および鉛酸化物を添加し、
前記モリブデン酸化物の含有量が0.5〜10モル%であり、前記鉛酸化物の含有量が0.01〜1モル%である半導体式ガス検知素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貴金属線材を覆って焼結させた酸化スズあるいは酸化インジウムを主成分とし、被検知ガスと接触するガス感応部を備えた半導体式ガス検知素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体式ガス検知素子のガス感応部の主成分として、酸化スズや酸化インジウムを使用するものが知られていた(特許文献1)。この半導体式ガス検知素子は、ガス感応部に白金などの触媒を添加して一酸化炭素ガスを検出していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2−263148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されたような半導体式ガス検知素子を使用してエタノールやアセトン等のにおい成分を含有するガスを検出する場合、当該におい成分だけでなくメタンやプロパンといった可燃性ガスも検出してしまい、におい成分を特に感度よく検出するのは困難であった。
また、シリコーンガスが存在する環境では、半導体式ガス検知素子のガス検知感度が低下したり、選択的に検出すべきにおい成分に対してガス検知感度が上昇して誤作動し易くなるため、におい成分を正確に検出するのは困難であった。これは、被検知ガス中に含まれる揮発性の高いシリコーンガス(有機シリコーンガス)がガス感応部にまで達し、当該ガス感応部にシリコーンガス又はその分解物等が付着することで、半導体式ガス検知素子のガス検知特性が変化すると考えられる。
【0005】
従って、本発明の目的は、におい成分を感度よく検出でき、シリコーンガスが存在する環境でもにおい成分を正確に検出できる半導体式ガス検知素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明に係る半導体式ガス検知素子は、貴金属線材を覆って焼結させた酸化スズあるいは酸化インジウムを主成分とし、被検知ガスと接触するガス感応部を備えた半導体式ガス検知素子であって、その第一特徴構成は、前記ガス感応部にモリブデン酸化物および鉛酸化物を添加し、前記モリブデン酸化物の含有量を0.5〜10モル%とし、前記鉛酸化物の含有量を0.01〜1モル%とした点にある。
【0007】
後述の実施例2,5において、ガス感応部にモリブデン酸化物を添加した半導体式ガス検知素子(本発明例1,2)と、ガス感応部にモリブデン酸化物を添加しない半導体式ガス検知素子(比較例1,2)とについて、におい成分の検知感度を調べた。
この結果、比較例1,2の半導体式ガス検知素子では、におい成分と可燃性ガスとにおいて、ガス感度の明瞭な差異は認められなかったのに対して(図4,8)、本発明例1,2の半導体式ガス検知素子では、エタノール、トルエン、アセトン、酢酸エチルといったにおい成分の検知感度を増感できたと認められた(図3,7)。
【0008】
また、後述の実施例3において、シリコーンガスが存在する環境におけるガス感度の変化を、本発明例1および比較例1について調べた。
この結果、比較例1の半導体式ガス検知素子では、特にシリコーンガスの曝露初期において不安定なガス感度を示す(図6)のに対して、本発明例1の半導体式ガス検知素子では、シリコーンガス存在下であっても安定した(ほぼ一定の)ガス感度が得られるものと認められた。
【0009】
従って、本構成の半導体式ガス検知素子は、ガス感応部にモリブデン酸化物を添加することにより、におい成分を感度よく検出することができ、かつ、シリコーンガスが存在する環境でもにおい成分を正確に検出できる。
【0010】
本発明では、前記ガス感応部に鉛酸化物を添加してある
【0011】
後述の実施例7において、ガス感応部にモリブデン酸化物および鉛酸化物を添加した半導体式ガス検知素子(本発明例3)について、におい成分の検知感度を調べた。この結果、本発明例3の半導体式ガス検知素子では、におい成分であるエタノール、トルエン、アセトン、酢酸エチルに対するガス感度は、可燃性ガスのメタン・イソブタン・水素や、一酸化炭素に比べて増感されたものと認められた。
【0012】
従って、本構成の半導体式ガス検知素子は、ガス感応部にモリブデン酸化物および鉛酸化物を添加することにより、可燃性ガスの感度を低下させ、におい成分をより感度よく検出することができる。
【0013】
本発明では、前記モリブデン酸化物の含有量を0.5〜10モル%としてある
【0014】
実施例8において、ガス感応部に添加するモリブデン酸化物の有効濃度を調べた。その結果、モリブデン酸化物の含有量が0.5〜10モル%であれば、特に優れたガス感度を有し、かつシリコーンガスが存在する環境でもにおい成分を正確に検出できるものと認められた。
【0015】
本発明では、前記鉛酸化物の含有量を0.01〜1モル%としてある
【0016】
実施例9において、ガス感応部に添加する鉛酸化物の有効濃度を調べた。その結果、鉛酸化物の含有量を0.01〜1モル%の範囲とすれば、可燃性ガス感度/エタノール感度の比が1以下となり、可燃性ガスの感度を低下させ、におい成分をより感度よく検出することができるものと認められた。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の半導体式ガス検知素子の概略図である。
図2】ブリッジ回路の概略図である。
図3】本発明例1(酸化スズ−モリブデン酸化物)の半導体式ガス検知素子による各種ガスの測定結果を示したグラフである。
図4】比較例1(酸化スズ)の半導体式ガス検知素子による各種ガスの測定結果を示したグラフである。
図5】シリコーンガス存在下において、本発明例1の半導体式ガス検知素子による各種ガスの測定結果を示したグラフである。
図6】シリコーンガス存在下において、比較例1の半導体式ガス検知素子による各種ガスの測定結果を示したグラフである。
図7】本発明例2(酸化インジウム−モリブデン酸化物)の半導体式ガス検知素子による各種ガスの測定結果を示したグラフである。
図8】比較例2(酸化インジウム)の半導体式ガス検知素子による各種ガスの測定結果を示したグラフである。
図9】本発明例3(酸化スズ−モリブデン酸化物,鉛酸化物)の半導体式ガス検知素子による各種ガスの測定結果を示したグラフである。
図10】本発明例3(酸化スズ−モリブデン酸化物,鉛酸化物)の半導体式ガス検知素子による各種ガスの測定結果を示したグラフである。
図11】比較例3(酸化スズ−鉛酸化物)の半導体式ガス検知素子による各種ガスの測定結果を示したグラフである。
図12】本発明例1の半導体式ガス検知素子によってエタノールおよびアセトンをそれぞれ検出した場合のガス感度を調べたグラフである。
図13】シリコーンガス存在下において、本発明例1の半導体式ガス検知素子によってエタノールを検出した場合のガス感度の変化率を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
本発明の半導体式ガス検知素子は、貴金属線材を覆って焼結させた酸化スズあるいは酸化インジウムを主成分とし、被検知ガスと接触するガス感応部を備えた半導体式ガス検知素子であって、ガス感応部にモリブデン酸化物を添加している。
【0019】
半導体式ガス検知素子として、熱線型半導体式ガス検知素子、基板型半導体式ガス検知素子が挙げられるが、これに限られるものではない。本実施形態では、熱線型半導体式ガス検知素子とした場合について説明する。
【0020】
図1に示すように、熱線型半導体式ガス検知素子Rsは、コイル状の貴金属線材1にガス感応部2が設けてある。貴金属線材1は、例えば白金、パラジウム、白金−パラジウム合金等の線材を使用できる。貴金属線材1の線径、コイル径、コイル巻数等は、従来の熱線型半導体式ガス検知素子に使用するものと同様で、特に限定されない。
ガス感応部2は、当該貴金属線材1に酸化スズあるいは酸化インジウムを主成分とする金属酸化物半導体を塗布して覆い、乾燥後、焼結成型したものである。例えば酸化スズを主成分とした金属酸化物半導体には、アンチモンを0.1モル%添加したものを使用できる。
【0021】
本発明の半導体式ガス検知素子は、ガス感応部にモリブデン酸化物(MoO2、MoO3)を添加している。モリブデン酸化物の含有量は、例えば0.5〜10モル%、好ましくは1〜10モル%とする。これにより、におい成分を感度よく検出することができ、かつ、シリコーンガスが存在する環境でもにおい成分を正確に検出できる。
におい成分とは、例えば、エタノール、トルエン、アセトン、酢酸エチル、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ジエチルケトン、酢酸、キシレン、トリメチルアミン、メチルアミン等が挙げられるが、これに限られるものではない。
【0022】
また、本発明の半導体式ガス検知素子は、ガス感応部にモリブデン酸化物に加えて鉛酸化物である酸化鉛(PbO)を添加してもよい。鉛酸化物の含有量は、例えば0.01〜1モル%とする。これにより、可燃性ガスの感度を低下させ、におい成分をより感度よく検出することができる。
【0023】
図2に示すように、熱線型半導体式ガス検知素子Rsは、固定抵抗R0,R1,R2とともにブリッジ回路に組み込んでガスセンサを構成できる。ブリッジ回路は電源Eによって常時または間欠的に通電してあり、熱線型半導体式ガス検知素子Rsが検知の際に適した温度となるようにしてある。また、熱線型半導体式ガス検知素子Rsは被検知ガスが吸着すると抵抗値が変化する。このため、本実施形態に係るガスセンサでは、熱線型半導体式ガス検知素子Rsの抵抗値の変化を偏差電圧をとして取り出し、これをセンサ出力Vとすることで被検知ガス(におい成分)の濃度を測定することができる。
【実施例】
【0024】
以下に本発明の実施例について説明する。
【0025】
〔実施例1〕
本発明の半導体式ガス検知素子の製造方法を以下に説明する。
アンチモン(Sb+5)を0.1モル%ドープして所定の電導度を得た酸化スズ(SnO2)半導体のペーストを、白金コイルに塗布して直径が約0.5mmの球状になるように形成し、乾燥後、白金コイルに通電してジュール熱により加熱し、650℃で1時間、酸化スズを焼結させた。
【0026】
酸化スズの半導体に、1モル/Lのモリブデン酸アンモン水溶液の液滴を含浸させ、
20℃で60分乾燥させた。乾燥後、白金コイルに通電(1時間)して約600℃で加熱分解処理を行い、モリブデン酸化物をガス感応部の表面に担持させた半導体式ガス検知素子を作製した。このようにして得られた半導体式ガス検知素子(本発明例1)をブリッジ回路に組み込み、被検知ガスに対する感度評価に使用した。
【0027】
〔実施例2〕
本発明例1の半導体式ガス検知素子(ガス感応部に2モル%のモリブデン酸化物を添加)と、比較例1として酸化スズを主成分とするガス感応部を有する半導体式ガス検知素子(ガス感応部にモリブデン酸化物を添加しない)とにおいて、各種ガスの検知感度(DC2.4V通電時(10オーム負荷))を調べた。使用したガスは、エタノール、メタン、イソブタン、水素、一酸化炭素、トルエン、アセトン、酢酸エチルであった。
【0028】
本発明例1の半導体式ガス検知素子による測定結果を図3、比較例1の半導体式ガス検知素子による測定結果を図4に示した。
【0029】
図3より、本発明例1の半導体式ガス検知素子では、におい成分であるエタノール、トルエン、アセトン、酢酸エチルに対するガス感度は、メタン、一酸化炭素に比べて増感されたと認められた。一方、図4より、比較例1の半導体式ガス検知素子では、何れのガスのガス感度も明確に増感せず、におい成分と可燃性ガスとにおいて、ガス感度の明瞭な差異は認められなかった。
よって、本発明の半導体式ガス検知素子は、ガス感応部にモリブデン酸化物を添加することにより、におい成分を感度よく検出することができるものと認められた。
【0030】
〔実施例3〕
本発明例1の半導体式ガス検知素子と、比較例1の半導体式ガス検知素子とにおいて、シリコーンガス(OMCTS:Octamethylcyclotetrasiloxane、10ppm)が存在する環境におけるガス感度の変化を調べた。検知対象のガスは、空気、エタノール(5〜100ppm)とした。
【0031】
本発明例1の半導体式ガス検知素子による測定結果を図5、比較例1の半導体式ガス検知素子による測定結果を図6に示した。
【0032】
図5より、本発明例1の半導体式ガス検知素子では、シリコーンガス存在下であっても安定した(ほぼ一定の)ガス感度が得られるものと認められた。一方、図6より、比較例1の半導体式ガス検知素子では、特にシリコーンガスの曝露初期において、ガス感度が急変するため、シリコーンガス存在下では不安定なガス感度を示すものと認められた。
【0033】
〔実施例4〕
実施例1で説明した本発明例1の半導体式ガス検知素子の作製方法において、使用した酸化スズの半導体ペーストを酸化インジウム(In23)の半導体ペーストに替えて半導体式ガス検知素子を作製した。このようにして得られた半導体式ガス検知素子(本発明例2:ガス感応部に2モル%のモリブデン酸化物を添加)をブリッジ回路に組み込み、被検知ガスに対する感度評価に使用した。
【0034】
〔実施例5〕
本発明例2の半導体式ガス検知素子と、比較例2として酸化インジウムを主成分とするガス感応部を有する半導体式ガス検知素子(ガス感応部にモリブデン酸化物を添加しない)とにおいて、各種ガスの感度(DC2.4V通電時(10オーム負荷))を調べた。使用したガスは、エタノール、水素、トルエン、アセトン、酢酸エチルであった。
【0035】
本発明例2の半導体式ガス検知素子による測定結果を図7、比較例2の半導体式ガス検知素子による測定結果を図8に示した。
【0036】
図7より、本発明例2の半導体式ガス検知素子では、におい成分であるエタノール、トルエン、アセトン、酢酸エチルに対するガス感度は増感されたものと認められた。一方、図8より、比較例2の半導体式ガス検知素子では、何れのガスのガス感度も殆ど増感せず、におい成分と可燃性ガスとにおいて、ガス感度の明瞭な差異は認められなかった。
【0037】
〔実施例6〕
実施例1で説明した本発明例1の半導体式ガス検知素子の作製方法において、酸化スズの半導体を、モリブデン酸アンモン水溶液に含浸させる工程の後に、0.5モル/Lの硝酸鉛水溶液の液滴を含浸させる工程を追加し、乾燥後、白金コイルに通電して加熱分解処理を行い、モリブデン酸化物および鉛酸化物をガス感応部の表面に担持させた半導体式ガス検知素子を作製した。このようにして得られた半導体式ガス検知素子(本発明例3:ガス感応部に2モル%のモリブデン酸化物、0.5モル%の鉛酸化物を添加)をブリッジ回路に組み込み、被検知ガスに対する感度評価に使用した。
【0038】
また、実施例1で説明した本発明例1の半導体式ガス検知素子の作製方法において、酸化スズの半導体をモリブデン酸アンモン水溶液に含浸させる工程に替えて、0.5モル/Lの硝酸鉛水溶液の液滴を含浸させる工程を行い、乾燥後、白金コイルに通電して加熱分解処理を行い、鉛酸化物をガス感応部の表面に担持させた半導体式ガス検知素子を作製した。このようにして得られた半導体式ガス検知素子(比較例3:ガス感応部に0.5モル%の鉛酸化物を添加)をブリッジ回路に組み込み、被検知ガスに対する感度評価に使用した。
【0039】
〔実施例7〕
本発明例3の半導体式ガス検知素子を使用して、各種ガスの感度(DC2.4V通電時(10オーム負荷))を調べた。使用したガスは、エタノール、メタン、イソブタン、水素、一酸化炭素、トルエン、アセトン、酢酸エチルであった。結果を図9に示した。
【0040】
図9より、本発明例3の半導体式ガス検知素子では、におい成分であるエタノール、トルエン、アセトン、酢酸エチルに対するガス感度は、可燃性ガスのメタン・イソブタン・水素や、一酸化炭素に比べて増感されたものと認められた。よって、本発明の半導体式ガス検知素子は、ガス感応部にモリブデン酸化物および鉛酸化物を添加することにより、可燃性ガスの感度を低下させ、におい成分をより感度よく検出することができるものと認められた。
【0041】
また、他のにおい成分として、1−ブタノール、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ジエチルケトン、酢酸、キシレン、トリメチルアミン、メチルアミンについてもガス感度を調べた(図10)。その結果、これらにおい成分についても、本発明の半導体式ガス検知素子によって感度よく検出することができるものと認められた。
【0042】
比較例3の半導体式ガス検知素子を使用して、各種ガスの感度(DC2.4V通電時(10オーム負荷))を調べた。使用したガスは、エタノール、水素、トルエン、アセトン、酢酸エチルであった。結果を図11に示した。
【0043】
図11より、比較例3の半導体式ガス検知素子では、何れのガスのガス感度も殆ど増感せず、におい成分と可燃性ガスとにおいて、ガス感度の明瞭な差異は認められなかった。即ち、比較例3の半導体式ガス検知素子のように、ガス感応部に鉛酸化物を添加しただけではにおい成分に対する感度の増感は殆ど認められず、モリブデン酸化物を添加することでにおい成分に対する感度の増感が認められる(図3,5,7,9)ことが判明した。
【0044】
〔実施例8〕
本発明例1の半導体式ガス検知素子において、ガス感応部に添加するモリブデン酸化物の有効濃度を調べた。
【0045】
ガス感応部の表面に担持されるモリブデン酸化物の含有量が0.001〜30モル%となるように、11種類(表1)の半導体式ガス検知素子を製造した。これら半導体式ガス検知素子について、におい成分であるエタノール100ppm、アセトン100ppmをそれぞれ検出した場合のガス感度を調べた。結果を表1および図12示した。
【0046】
【表1】
【0047】
この結果、モリブデン酸化物の含有量が0.1モル%以上、特に0.5モル%以上において優れたガス感度を有するものと認められた。
【0048】
また、上記11種類の半導体式ガス検知素子において、シリコーンガス(OMCTS)が存在する環境におけるガス感度の変化を調べた。ガス感度の変化は、半導体式ガス検知素子をシリコーンガス10ppmに対して20時間曝露したときの、エタノール100ppmの感度変化率(20時間暴露時の測定値/初期測定値の比)で表した。結果を表2および図13に示した。
【0049】
【表2】
【0050】
半導体式ガス検知素子がシリコーンガスに曝露した前後において、ガス感度の変化率は1.0〜1.5程度であれば、良好なガス感度を有するものと認められる。モリブデン酸化物の含有量が0.5〜10モル%の場合に、ガス感度の変化率が1.0〜1.5の範囲に収まるものと認められた。また、モリブデン酸化物の含有量が1〜10モル%の場合に、ガス感度の変化率が1.0〜1.2の範囲に収まるため、より良好なガス感度を有するものと認められた。
従って、モリブデン酸化物の含有量が0.5〜10モル%であれば、シリコーンガスが存在する環境でもにおい成分を正確に検出できることが判明した。
【0051】
〔実施例9〕
本発明の半導体式ガス検知素子において、ガス感応部に添加する鉛酸化物の有効濃度を調べた。
【0052】
ガス感応部の表面に担持されるモリブデン酸化物の含有量を、0.5,2.0,10モル%とした場合に、鉛酸化物の含有量を0.005〜5モル%の範囲となるようにそれぞれ7種類(表3)の半導体式ガス検知素子を製造した(合計21種類)。これら半導体式ガス検知素子について、エタノール100ppm、水素100ppmをそれぞれ検出した場合のガス感度を調べた。実施例7より、ガス感応部にモリブデン酸化物に加えて鉛酸化物を添加した場合、可燃性ガスの感度を低下させ、におい成分をより感度よく検出することができるものと認められている。そのため、鉛酸化物の有効濃度は、におい成分の選択性が優れている範囲を適用すればよい。におい成分の選択性が優れている範囲は、可燃性ガス感度/エタノール感度の比を1以下とする。結果を表3に示した。
【0053】
【表3】
【0054】
この結果、鉛酸化物の含有量を0.01〜1モル%の範囲とすれば、水素感度/エタノール感度の比が1以下となるものと認められた。尚、鉛酸化物の含有量の上限値は、例えば、におい成分(エタノール)の最高感度(モリブデン酸化物の含有量が0.5モル%、鉛酸化物の含有量が0.5モル%の場合の感度170mV)の50%以上を有する感度となる鉛酸化物の含有量のうち、最大ものとしてもよい。
【0055】
従って、鉛酸化物の含有量が0.01〜1モル%の範囲であれば、可燃性ガスの感度を低下させ、におい成分をより感度よく検出することができることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の半導体式ガス検知素子は、特に、におい成分の検知に利用できる。
【符号の説明】
【0057】
Rs 半導体式ガス検知素子
1 貴金属線材
2 貴金属線材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13