【実施例】
【0024】
以下に本発明の実施例について説明する。
【0025】
〔実施例1〕
本発明の半導体式ガス検知素子の製造方法を以下に説明する。
アンチモン(Sb+5)を0.1モル%ドープして所定の電導度を得た酸化スズ(SnO
2)半導体のペーストを、白金コイルに塗布して直径が約0.5mmの球状になるように形成し、乾燥後、白金コイルに通電してジュール熱により加熱し、650℃で1時間、酸化スズを焼結させた。
【0026】
酸化スズの半導体に、1モル/Lのモリブデン酸アンモン水溶液の液滴を含浸させ、
20℃で60分乾燥させた。乾燥後、白金コイルに通電(1時間)して約600℃で加熱分解処理を行い、モリブデン酸化物をガス感応部の表面に担持させた半導体式ガス検知素子を作製した。このようにして得られた半導体式ガス検知素子(本発明例1)をブリッジ回路に組み込み、被検知ガスに対する感度評価に使用した。
【0027】
〔実施例2〕
本発明例1の半導体式ガス検知素子(ガス感応部に2モル%のモリブデン酸化物を添加)と、比較例1として酸化スズを主成分とするガス感応部を有する半導体式ガス検知素子(ガス感応部にモリブデン酸化物を添加しない)とにおいて、各種ガスの検知感度(DC2.4V通電時(10オーム負荷))を調べた。使用したガスは、エタノール、メタン、イソブタン、水素、一酸化炭素、トルエン、アセトン、酢酸エチルであった。
【0028】
本発明例1の半導体式ガス検知素子による測定結果を
図3、比較例1の半導体式ガス検知素子による測定結果を
図4に示した。
【0029】
図3より、本発明例1の半導体式ガス検知素子では、におい成分であるエタノール、トルエン、アセトン、酢酸エチルに対するガス感度は、メタン、一酸化炭素に比べて増感されたと認められた。一方、
図4より、比較例1の半導体式ガス検知素子では、何れのガスのガス感度も明確に増感せず、におい成分と可燃性ガスとにおいて、ガス感度の明瞭な差異は認められなかった。
よって、本発明の半導体式ガス検知素子は、ガス感応部にモリブデン酸化物を添加することにより、におい成分を感度よく検出することができるものと認められた。
【0030】
〔実施例3〕
本発明例1の半導体式ガス検知素子と、比較例1の半導体式ガス検知素子とにおいて、シリコーンガス(OMCTS:Octamethylcyclotetrasiloxane、10ppm)が存在する環境におけるガス感度の変化を調べた。検知対象のガスは、空気、エタノール(5〜100ppm)とした。
【0031】
本発明例1の半導体式ガス検知素子による測定結果を
図5、比較例1の半導体式ガス検知素子による測定結果を
図6に示した。
【0032】
図5より、本発明例1の半導体式ガス検知素子では、シリコーンガス存在下であっても安定した(ほぼ一定の)ガス感度が得られるものと認められた。一方、
図6より、比較例1の半導体式ガス検知素子では、特にシリコーンガスの曝露初期において、ガス感度が急変するため、シリコーンガス存在下では不安定なガス感度を示すものと認められた。
【0033】
〔実施例4〕
実施例1で説明した本発明例1の半導体式ガス検知素子の作製方法において、使用した酸化スズの半導体ペーストを酸化インジウム(In
2O
3)の半導体ペーストに替えて半導体式ガス検知素子を作製した。このようにして得られた半導体式ガス検知素子(本発明例2:ガス感応部に2モル%のモリブデン酸化物を添加)をブリッジ回路に組み込み、被検知ガスに対する感度評価に使用した。
【0034】
〔実施例5〕
本発明例2の半導体式ガス検知素子と、比較例2として酸化インジウムを主成分とするガス感応部を有する半導体式ガス検知素子(ガス感応部にモリブデン酸化物を添加しない)とにおいて、各種ガスの感度(DC2.4V通電時(10オーム負荷))を調べた。使用したガスは、エタノール、水素、トルエン、アセトン、酢酸エチルであった。
【0035】
本発明例2の半導体式ガス検知素子による測定結果を
図7、比較例2の半導体式ガス検知素子による測定結果を
図8に示した。
【0036】
図7より、本発明例2の半導体式ガス検知素子では、におい成分であるエタノール、トルエン、アセトン、酢酸エチルに対するガス感度は増感されたものと認められた。一方、
図8より、比較例2の半導体式ガス検知素子では、何れのガスのガス感度も殆ど増感せず、におい成分と可燃性ガスとにおいて、ガス感度の明瞭な差異は認められなかった。
【0037】
〔実施例6〕
実施例1で説明した本発明例1の半導体式ガス検知素子の作製方法において、酸化スズの半導体を、モリブデン酸アンモン水溶液に含浸させる工程の後に、0.5モル/Lの硝酸鉛水溶液の液滴を含浸させる工程を追加し、乾燥後、白金コイルに通電して加熱分解処理を行い、モリブデン酸化物および鉛酸化物をガス感応部の表面に担持させた半導体式ガス検知素子を作製した。このようにして得られた半導体式ガス検知素子(本発明例3:ガス感応部に2モル%のモリブデン酸化物、0.5モル%の鉛酸化物を添加)をブリッジ回路に組み込み、被検知ガスに対する感度評価に使用した。
【0038】
また、実施例1で説明した本発明例1の半導体式ガス検知素子の作製方法において、酸化スズの半導体をモリブデン酸アンモン水溶液に含浸させる工程に替えて、0.5モル/Lの硝酸鉛水溶液の液滴を含浸させる工程を行い、乾燥後、白金コイルに通電して加熱分解処理を行い、鉛酸化物をガス感応部の表面に担持させた半導体式ガス検知素子を作製した。このようにして得られた半導体式ガス検知素子(比較例3:ガス感応部に0.5モル%の鉛酸化物を添加)をブリッジ回路に組み込み、被検知ガスに対する感度評価に使用した。
【0039】
〔実施例7〕
本発明例3の半導体式ガス検知素子を使用して、各種ガスの感度(DC2.4V通電時(10オーム負荷))を調べた。使用したガスは、エタノール、メタン、イソブタン、水素、一酸化炭素、トルエン、アセトン、酢酸エチルであった。結果を
図9に示した。
【0040】
図9より、本発明例3の半導体式ガス検知素子では、におい成分であるエタノール、トルエン、アセトン、酢酸エチルに対するガス感度は、可燃性ガスのメタン・イソブタン・水素や、一酸化炭素に比べて増感されたものと認められた。よって、本発明の半導体式ガス検知素子は、ガス感応部にモリブデン酸化物および鉛酸化物を添加することにより、可燃性ガスの感度を低下させ、におい成分をより感度よく検出することができるものと認められた。
【0041】
また、他のにおい成分として、1−ブタノール、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ジエチルケトン、酢酸、キシレン、トリメチルアミン、メチルアミンについてもガス感度を調べた(
図10)。その結果、これらにおい成分についても、本発明の半導体式ガス検知素子によって感度よく検出することができるものと認められた。
【0042】
比較例3の半導体式ガス検知素子を使用して、各種ガスの感度(DC2.4V通電時(10オーム負荷))を調べた。使用したガスは、エタノール、水素、トルエン、アセトン、酢酸エチルであった。結果を
図11に示した。
【0043】
図11より、比較例3の半導体式ガス検知素子では、何れのガスのガス感度も殆ど増感せず、におい成分と可燃性ガスとにおいて、ガス感度の明瞭な差異は認められなかった。即ち、比較例3の半導体式ガス検知素子のように、ガス感応部に鉛酸化物を添加しただけではにおい成分に対する感度の増感は殆ど認められず、モリブデン酸化物を添加することでにおい成分に対する感度の増感が認められる(
図3,5,7,9)ことが判明した。
【0044】
〔実施例8〕
本発明例1の半導体式ガス検知素子において、ガス感応部に添加するモリブデン酸化物の有効濃度を調べた。
【0045】
ガス感応部の表面に担持されるモリブデン酸化物の含有量が0.001〜30モル%となるように、11種類(表1)の半導体式ガス検知素子を製造した。これら半導体式ガス検知素子について、におい成分であるエタノール100ppm、アセトン100ppmをそれぞれ検出した場合のガス感度を調べた。結果を表1および
図12示した。
【0046】
【表1】
【0047】
この結果、モリブデン酸化物の含有量が0.1モル%以上、特に0.5モル%以上において優れたガス感度を有するものと認められた。
【0048】
また、上記11種類の半導体式ガス検知素子において、シリコーンガス(OMCTS)が存在する環境におけるガス感度の変化を調べた。ガス感度の変化は、半導体式ガス検知素子をシリコーンガス10ppmに対して20時間曝露したときの、エタノール100ppmの感度変化率(20時間暴露時の測定値/初期測定値の比)で表した。結果を表2および
図13に示した。
【0049】
【表2】
【0050】
半導体式ガス検知素子がシリコーンガスに曝露した前後において、ガス感度の変化率は1.0〜1.5程度であれば、良好なガス感度を有するものと認められる。モリブデン酸化物の含有量が0.5〜10モル%の場合に、ガス感度の変化率が1.0〜1.5の範囲に収まるものと認められた。また、モリブデン酸化物の含有量が1〜10モル%の場合に、ガス感度の変化率が1.0〜1.2の範囲に収まるため、より良好なガス感度を有するものと認められた。
従って、モリブデン酸化物の含有量が0.5〜10モル%であれば、シリコーンガスが存在する環境でもにおい成分を正確に検出できることが判明した。
【0051】
〔実施例9〕
本発明の半導体式ガス検知素子において、ガス感応部に添加する鉛酸化物の有効濃度を調べた。
【0052】
ガス感応部の表面に担持されるモリブデン酸化物の含有量を、0.5,2.0,10モル%とした場合に、鉛酸化物の含有量を0.005〜5モル%の範囲となるようにそれぞれ7種類(表3)の半導体式ガス検知素子を製造した(合計21種類)。これら半導体式ガス検知素子について、エタノール100ppm、水素100ppmをそれぞれ検出した場合のガス感度を調べた。実施例7より、ガス感応部にモリブデン酸化物に加えて鉛酸化物を添加した場合、可燃性ガスの感度を低下させ、におい成分をより感度よく検出することができるものと認められている。そのため、鉛酸化物の有効濃度は、におい成分の選択性が優れている範囲を適用すればよい。におい成分の選択性が優れている範囲は、可燃性ガス感度/エタノール感度の比を1以下とする。結果を表3に示した。
【0053】
【表3】
【0054】
この結果、鉛酸化物の含有量を0.01〜1モル%の範囲とすれば、水素感度/エタノール感度の比が1以下となるものと認められた。尚、鉛酸化物の含有量の上限値は、例えば、におい成分(エタノール)の最高感度(モリブデン酸化物の含有量が0.5モル%、鉛酸化物の含有量が0.5モル%の場合の感度170mV)の50%以上を有する感度となる鉛酸化物の含有量のうち、最大ものとしてもよい。
【0055】
従って、鉛酸化物の含有量が0.01〜1モル%の範囲であれば、可燃性ガスの感度を低下させ、におい成分をより感度よく検出することができることが判明した。