(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記極性基は、(a)カルボキシル基、(b)カルボン酸無水物基、(c)アルコキシカルボニル基、および(d)アシルオキシ基からなる群から選択される少なくとも1種の置換基であることを特徴とする請求項1に記載の圧力容器ライナー用熱可塑性樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の圧力容器ライナー用熱可塑性樹脂
組成物は、前述した特性(1)〜(
5)を有することを特徴とする。また、本発明の圧力容器及びその製造方法は、ライナー材で形成された中空容器と、該中空容器の外層に設けられた補強材で形成された補強材層とを有し、かつ少なくとも1つの口金部材を有する圧力容器において、ライナー材が上記熱可塑性樹脂
組成物からなる層を少なくとも1層有することを特徴とする。
以下に、本発明を項目毎に詳細に説明する。
【0022】
1.圧力容器の構造
本発明の圧力容器は、例えば特開2008−164131号公報に開示されたものと基本的には同様の構造を有する。
本発明に係る圧力容器は、合成樹脂製ライナー材で形成された中空容器1(内側壁)と、該中空容器の外層に補強材で形成された補強材層(外側壁)とで構成され、該中空容器の少なくとも一方の端部には、高圧ガスの充填、排出用のノズル取付けのための口金部材を有し、中空容器と該補強材とは、接着または溶着してなる。
【0023】
2.圧力容器構成部材の材料
以下に、本発明で使用される原材料について具体的に詳述する。
(1)ライナー材
中空容器を形成するライナー材は、圧力容器に充填された高圧ガスを収納する。当該ライナー材は、充填されたガスが漏洩しないガスバリア性を有することが好ましい。また、ライナー材は、形状保持性が高いものが好ましく、単層材、積層材、複合材のいずれで構成されていてもよい。
【0024】
中空容器を形成するライナー材は、下記の特性(1)〜(4)を有する熱可塑性樹脂
組成物である。中でも、本発明においては、特性(4)を具備することが特に重要である。
特性(1):密度が0.900〜0.970g/cm
3である
特性(2):温度190℃、荷重2.16kgにて測定されるメルトフローレート(MFR)が0.01〜100g/10分である
特性(3):示差走査熱量測定(DSC)にて測定される高温側のピーク温度が120℃以上である
特性(4):極性基の量が2〜30重量%である
さらに、本発明の熱可塑性樹脂
組成物は、下記の特性(5)を有することが好ましい。
特性(5):DSCにて測定される100℃以上での不融解成分の割合が20〜75%である
【0025】
以下に、特性(1)〜(5)のもつ技術的意義等について説明する。
1.特性(1)
本発明の熱可塑性樹脂
組成物は、密度が0.900〜0.970g/cm
3であり、好ましくは、0.905〜0.965g/cm
3、さらに好ましくは、0.910〜0.960g/cm
3の範囲であることが、容器の形状保持のために望ましい。なお、密度は、JIS K7112に準拠して測定されるものである。
熱可塑性樹脂
組成物の密度は、目的とする圧力容器の性能に応じて適宜選択することが可能であるが、密度が0.900g/cm
3未満では、剛性が不足しタンク口部強度の剛性が不足し、また、密度が0.970g/cm
3を超えるものは耐久性が低下するおそれがある。
【0026】
2.特性(2)
本発明の熱可塑性樹脂
組成物は、温度190℃、荷重2.16kgにて測定されるメルトフローレート(MFR)が0.01〜100g/10分であり、好ましくは0.02〜80g/10分、さらに好ましくは0.05〜50g/10分であることが、中空容器の成形性の観点から望ましい。なお、MFRは、JIS K6922−1(温度190℃、荷重2.16kg)に準拠して測定されるものである。
熱可塑性樹脂
組成物のMFRは、目的とする圧力容器の成形方法に応じて適宜選択することが可能であるが、MFRが0.01g/10分未満では、流動性が低く成形が難しくなり、成形樹脂圧力が上昇し押出特性が低下する。100g/10分を超えると衝撃性、耐久性が低下するおそれがある。
【0027】
3.特性(3)
本発明の熱可塑性樹脂
組成物は、示差走査熱量測定(DSC)にて測定される高温側のピーク温度が120℃以上であり、好ましくは125℃以上である。この要件を満足することが、容器の形状保持性及び耐熱性の観点から、特に中空容器への補強材のワインディング時の形状保持性の観点から望ましい。
DSCにて測定される高温側のピーク温度は、結晶化温度の指標であり、高温側のピーク温度を120℃以上とすることにより、成形時の容器形状を確実に保持することができ、120℃未満では、成形時の容器形状を十分保持しにくくなる傾向がある。
DSCの高温側のピーク温度を120℃以上とするためには、融点が120℃以上の材料を選択することが重要であるが、選択に際しては、補強材との接着性についても考慮しなければならない。
DSCは、示差走査熱量測定(differential scanning calorimetry)を意味し、示差走査熱量計を用いて測定され、結晶化温度、結晶化度等が測定される。DSCは、試料及び基準物質を加熱又は冷却によって調節しながら等しい条件下におき、この二つの間の温度差をゼロに保つに必要なエネルギーを時間又は温度に対して記録する方法に基づいて測定される。
DSCの測定では、試料を底の平らな金属容器につめ、精秤して試料量を求めたのち蓋で覆い、測定装置に設置し、経時に熱量変化量(ΔH)を測定し、高温側のピーク温度を求める。
【0028】
4.特性(4)
本発明の熱可塑性樹脂
組成物は、極性基の量が2〜30重量%、好ましくは3〜25重量%、さらに好ましくは4〜20重量%である。
極性基の量が2重量%未満では、ライナー材と補強材との接着性が不十分となり、30重量%を超えると耐久性が低下する傾向がある。
極性基とは、電気的に極性を有する置換基をいうが、好ましくは(a)カルボキシル基、(b)カルボン酸無水物基、(c)アルコキシカルボニル基、および(d)アシルオキシ基からなる群から選択される少なくとも1種の置換基が、補強材との接着性、圧力容器としての耐久性等の観点から好適である。
【0029】
(a)カルボキシル基は、カルボン酸の特性基であり、−COOHである。
(b)カルボン酸無水物基は、カルボン酸のカルボキシル2個から1分子の水が失われて、二つのアシル基が1個の酸素原子を共有する化学構造の基であり、−CO−O−CO−を意味する。
(c)アルコキシカルボニル基は、−COORを意味し、本発明において、RはC
nH
2n+1−(nは1〜6)を意味し、nは、好ましくは1〜4である。具体的には、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基が挙げられる。
(d)アシルオキシ基は、−OCOR
1を意味し、本発明において、R
1はC
nH
2n+1−(nは1〜6)を意味し、nは、好ましくは1〜4、さらに好ましくは1である。具体的には、アセチルオキシ基(アセトキシ又はアセトキシル基ともいう)が挙げられる。
【0030】
当該極性基の量は、熱可塑性樹脂
組成物を製造する際に使用されたラジカル重合性酸コモノマー、アクリル酸エステルコモノマー、メタクリル酸エステルコモノマー、カルボン酸ビニルエステルコモノマー等の量から求めることができ、IR及びNMR解析等により測定することができる。
【0031】
本発明の熱可塑性樹脂
組成物は、ポリエチレン(A)25〜75重量%、及びエチレンとラジカル重合性酸コモノマー、アクリル酸エステルコモノマー、メタクリル酸エステルコモノマー、またはカルボン酸ビニルエステルコモノマーから選択される少なくとも1種のコモノマーとの共重合体(B)75〜25重量%からなる組成物であることが好ましい。
さらに好ましくは、ポリエチレン(A)30〜70重量%、及び上記した共重合体(B)70〜30重量%からなる組成物であることが好ましい。
組成物の組成割合が当該範囲内であると、容器の形状保持性並びに補強材との接着性がともに優れたものとなるので好ましい。組成物の組成割合は、ポリエチレン(A)及び共重合体(B)の各性状及び物性に応じて選択して決定されるが、好適な割合とするために、特に後述する特性(5)の要件を満足するようにすることが重要である。
【0032】
5.特性(5)
本発明においては、熱可塑性樹脂
組成物は、DSCにて測定される100℃以上での不融解成分の割合が20〜75%、好ましくは21〜70%であることが容器の形状保持性及び耐熱性の観点から、特に中空容器への補強材のワインディング時の形状保持性の観点から望ましい。
DSCにて測定される100℃以上での不融解成分の割合は、熱可塑性樹脂
組成物に含まれる結晶性成分量の指標であり、当該割合の範囲内とすることにより成形品形状を十分に保持することができ、当該範囲外では、成形品の形状を保持しにくくなる傾向がある。
DSCは、示差走査熱量測定(differential scanning calorimetry)を意味し、示差走査熱量計を用いて測定され、結晶化温度、結晶化度等が測定される。DSCは、試料及び基準物質を加熱又は冷却によって調節しながら等しい条件下におき、この二つの間の温度差をゼロに保つに必要なエネルギーを時間又は温度に対して記録する方法に基づいて測定される。
DSCの測定では、試料を底の平らな金属容器につめ、精秤して試料量を求めたのち蓋で覆い、測定装置に設置し、経時に熱量変化量(ΔH)を求める。
本願発明において、100℃以上での不融解成分の割合は、熱可塑性樹脂組成物試料のDSCの100℃以上の熱量変化量(ΔHw)及び組成物の成分であるポリエチレン(A)のみの試料のDSCの熱量変化量(ΔHa)を測定し、ΔHw/ΔHaの割合(百分率)として求められる。
【0033】
(1−1)ポリエチレン(A)
本発明に係るポリエチレン(A)は、エチレン単独重合体あるいはエチレンとα−オレフィンとの共重合体を指すものであり、密度0.900〜0.970g/cm
3、好ましくは密度0.905〜0.965g/cm
3、より好ましくは0.910〜0.960g/cm
3の範囲であることが、容器の形状保持のために望ましい。
ポリエチレン(A)の密度は、目的とする圧力容器の性能に応じて設定することが可能であるが、密度が0.900g/cm
3未満では、剛性が不足しタンク口部強度の剛性が不足し、また、密度が0.970g/cm
3を超えるものは耐久性が低下するおそれがある。なお、当該密度は、JIS K7112に準拠して測定される。
【0034】
本発明に係るポリエチレン(A)は、温度190℃、荷重2.16kgにて測定されるメルトフローレート(MFR)が0.01〜100g/10分であり、好ましくは0.02〜80g/10分、さらに好ましくは0.05〜50g/10分であることが、中空容器の成形性の観点から望ましい。
ポリエチレン(A)のMFRは、目的とする圧力容器の成形方法に応じて設定することが可能であるが、MFRが0.01g/10分未満では、流動性が低く成形が難しくなり、成形樹脂圧力が上昇し押出特性が低下する。100g/10分を超えると衝撃性、耐久性が低下するおそれがある。なお、当該MFRは、JIS K6922−1(温度190℃、荷重2.16kg)に準拠して測定される。
【0035】
上記ポリエチレン(A)のα−オレフィンとしては、直鎖または分岐鎖状の炭素数3〜20のオレフィンが好ましく、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセンを挙げることができる。またそれらを2種類以上組み合わせて使用しても良い。これら共重合体の中でも、エチレン・1−ブテン共重合体、エチレン・1−ヘキセン共重合体、エチレン・4−メチル−1−ペンテン共重合体、エチレン・1−オクテン共重合体が経済性の観点から好適である。
上記ポリエチレン(A)は、特に製造触媒、プロセス等に限定されるものではなく、非特許文献1(成書『ポリエチレン技術読本』(松浦一雄・三上尚孝編著、工業調査会刊行、2001年)のp.123〜160、p.163〜196等)に記載されている方法により製造することが可能である。
即ち、チーグラー系触媒、クロム系触媒、シングルサイト系触媒等や、スラリー法、溶液法、気相法の各重合様式にて、各種重合反応器、重合条件、触媒にて製造することが可能である。
【0036】
(1−2)共重合体(B)
本発明に係る、エチレンとラジカル重合性酸コモノマー、アクリル酸エステルコモノマー、メタクリル酸エステルコモノマーまたはカルボン酸ビニルエステルコモノマーから選択される少なくとも1種のコモノマーとの共重合体(B)は、特定のエチレン−極性コモノマー共重合体であり、この特定の共重合体を用いることが、本発明の特徴の一つでもある。
【0037】
共重合体(B)のラジカル重合性酸コモノマーとしては、具体的には、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸等のα,β−不飽和ジカルボン酸またはこれらの無水物、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ビニル酢酸、ペンテン酸等の不飽和モノカルボン酸等が挙げられ、中でも無水マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸が好ましい。
共重合体(B)のアクリル酸エステルコモノマーとしては、具体的には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル等が挙げられ、中でもアクリル酸メチル、アクリル酸エチルが好ましい。
共重合体(B)のメタクリル酸エステルコモノマーとしては、具体的には、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル等が挙げられ、中でもメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルが好ましい。
共重合体(B)のカルボン酸ビニルエステルコモノマーとしては、具体的には、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル等が挙げられ、中でも酢酸ビニルが好ましい。
【0038】
共重合体(B)の具体例としては、二元系共重合体として、例えば、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタアクリル酸共重合体、エチレン−無水マレイン酸共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸エチル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体が挙げられる。
三元系共重合体として、例えば、エチレン−アクリル酸−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸−メタクリル酸エチル共重合体、エチレン−メタクリル酸−酢酸ビニル共重合体、エチレン−無水マレイン酸−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−無水マレイン酸−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−無水マレイン酸−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−無水マレイン酸−メタクリル酸エチル共重合体、エチレン−無水マレイン酸−酢酸ビニル共重合体が挙げられる。
さらに、上記のコモノマーを組み合わせた多元系の共重合体も挙げられる。
上記共重合体の中でも、特に、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタアクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−無水マレイン酸−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−無水マレイン酸−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−無水マレイン酸−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−無水マレイン酸−メタクリル酸エチル共重合体が好ましい。
上記のコモノマーの含有量は、極性基の量が5〜40重量%となるようにすることが好ましい。極性基の量が5重量%未満では、ライナー材と補強材との接着性が不十分となり、40重量%を超えると耐久性が低下する傾向がある。
共重合体(B)は、チューブラー反応器、オートクレーブ反応器等を使用して高圧ラジカル重合法等により製造することができるが、イオン重合により製造されるものであってもよい。具体的には、特開昭60−240705号公報、特開平8−113680号公報等の実施例に記載の共重合体の製造方法に準じて製造することができる。
【0039】
本発明の共重合体(B)は、温度190℃、荷重2.16kgにて測定されるメルトフローレート(MFR)が0.01〜100g/10分のものが好ましく、さらに好ましくは0.02〜80g/10分、さらに好ましくは0.05〜50g/10分であることが、中空容器の成形性の観点から望ましい。
MFRは、目的とする圧力容器の成形方法に応じて適宜選択することが可能であるが、MFRが0.01g/10分未満では、流動性が低く成形が難しくなり、成形樹脂圧力が上昇し押出特性が低下する。100g/10分を超えると衝撃性、耐久性が低下するおそれがある。なお、MFRは、JIS K6922−2(温度190℃、荷重2.16kg)に準拠して測定される。
【0040】
合成樹脂製ライナー材は、上記熱可塑性樹脂の単層体、複層体、複合材料とから構成されていても良い。複合材や積層材としては、例えば、上記熱可塑性樹脂に、エンジニアリングプラスチック、金属部材、無機充填剤等が分散された複合材などが挙げられる。また積層材では、熱可塑性樹脂層/接着材層/バリア層を含む多層構造からなる積層体としてもよい。
上記エンジニアリングプラスチックとしては、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン11、ナイロン12などの各種ポリアミド(PA)樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリビニルアルコール(PVA)などの水酸基含有各種樹脂、ポリエチレンテレフタラート(PET)やポリブチレンテレフタラート(PBT)などの各種ポリエステル樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合樹脂(ABS)、アクリロニトリル−スチレン共重合樹脂(AS)、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリアセタール(POM)樹脂やポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、芳香族ポリエステル樹脂(液晶樹脂)などが挙げられる。
また、上記金属部材としては、鉄、アルミニウム、銅、錫、亜鉛、ニッケル、チタンなどの金属類や、これらを含む各種合金が挙げられる。
また、無機充填剤としては、タルク、シリカ、炭酸カルシウム、雲母などが挙げられるが、剛性を確保する場合には、平均粒径が0.5〜10μmの板状晶構造を持つ微粉末タルクや微粉末雲母等が好適である。
【0041】
また、積層構造の合成樹脂製ライナー材としては、上記の熱可塑性樹脂層/接着材層/バリア層の3種3層構造、熱可塑性樹脂層/接着材層/バリア層/接着材層/熱可塑性樹脂層の3種5層構造の積層体、熱可塑性樹脂層/リグラインド層/接着材層/バリア層/接着材層/熱可塑性樹脂層の4種6層構造などの三層以上の積層体が挙げられるほか、熱可塑性層/接着材層の2種2層などからなる積層体等が挙げられる。
前記バリア材層に好適に使用される材料としては、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂等が挙げられる。
ここで用いる接着材層としては、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂等の公知の接着性樹脂を使用することができ、また特開2008−164131号公報記載の接着剤を使用することもできる。
これらの合成樹脂製ライナー材を用いて容器とする場合には、ブロー成形法、射出成形法、回転成形法、圧縮成形法などの成形法によって製造することができる。中でも、ブロー成形法によるのが好適である。
【0042】
(2)補強材
補強材層を形成する補強材は、合成樹脂ライナー材から形成される中空容器の外層を覆い、圧力容器の耐圧性能を向上させる役割を担うものであり、アルミニウム、チタン、軽合金等の軽量の金属材で構成しても良いが、成形加工性、軽量化等を考慮した場合においては、繊維強化プラスチック(FRP:fiber reinforced plastics)あるいは繊維強化金属複合材料(FRM:fiber reinforced metal)で構成するのが好適である。
すなわち、内側壁を構成する合成樹脂製ライナー材をブロー成形等で成形された筒状の容器の外周壁を覆うようにFRP製の外側壁を形成するためには、上記内側の筒状容器の外周壁に、フィラメントワインディング法やテープワインディング法等によって、ヘリカル巻層、フープ巻層、レーベル巻層など、樹脂を含浸させた補強繊維束の巻層を形成し、ついで樹脂を加熱して溶融または硬化させて成形することによって外側壁の補強材とすることができる。外側壁の強度は、巻層を形成する補強繊維の種類、巻付ける形態、巻付ける厚さ、樹脂の種類、樹脂の厚さなどを種々組み合わせることにより、目的に合った好適な範囲の補強材とすることができる。また、織物などのような連続した補強材に熱硬化性樹脂を含浸させて成形するプリプレグ法等他の方法で形成しても良い。
【0043】
巻層を形成するための補強繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、有機高弾性率繊維(例えばポリアラミド繊維)、無機繊維(金属繊維、ウイスカ、ボロン繊維、チラノ繊維)などが挙げられ、これらは1種類でも2種類以上を併用することもできる。
これらの補強繊維は、比強度、比弾性率に優れ、ワインディング時の糸切れや毛羽の発生がほとんどなく、生産性の向上、耐衝撃性能の低下防止などの観点から、炭素繊維が特に好ましい。
【0044】
補強材の形成用樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ユリア樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂ポリイミド樹脂などの熱硬化性樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ABS樹脂、ポリエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイドなどのエンジニアリングプラスチック、ポリプロピレン、ポリ4−メチル−1−ペンテン樹脂等の樹脂が挙げられる。これらの中でも、耐熱性、強度等の性能や経済性等の観点から一般的に熱硬化性樹脂が好ましい。
【0045】
(3)口金部材
本発明の口金部材は、高圧ガスの充填、排出用のノズル取付けのために設置されるものである。例えば、一端が円盤状の形状を有したものは、圧力容器の内側の中空容器と外側の耐圧性の補強材層で構成される円筒状容器の少なくとも一端に、該圧力容器の中空容器の内側の半球状の肩部に、口金部材の円盤部が埋設するようにインサートされ、好ましくは予め粗面化や下地処理剤を施しておいた口金部材の円盤部と中空容器の最内層の接着材層とを当接して接着または溶着することができる。
【0046】
口金部材の材料は、金属、樹脂いずれであってもよい。金属としては、アルミニウム、銅、ニッケル、チタンの合金、これらの複合材料、およびクロム・モリブデン合金等が挙げられる。樹脂としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリメチルペンテン、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンオキサイド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリオキシベンジレン、ポリスルホンなどの高剛性で耐熱性に優れたものが挙げられる。口金部材の材料は、これら例示したものに限定されるものではないが金属材料、特に軽量、機械的強度が高く、耐圧性で、比較的安価なアルミニウム、その合金などが好ましい。
【0047】
3.圧力容器の製造方法
以下に本発明の圧力容器の製造方法について具体的に詳述する。
本発明に係る圧力容器は、前述の通り、合成樹脂製ライナー材で形成された中空容器(内側壁)と、該中空容器の外層に補強材で形成された補強材層(外側壁)とで構成され、該中空容器の少なくとも一方の端部には、高圧ガスの充填、排出用のノズル取付けのための口金部材を有し、中空容器の熱可塑性樹脂と該補強材とは、接着または溶着してなる。
【0048】
本発明の好ましい製造方法の一例を示すと、以下の通りである。
成形用の支持台に係属する支持部の上下に、好ましくは予め表面処理または下地処理した口金部材´が支持され、ブロー成形機の多層ダイスから合成樹脂製ライナー材で形成される円筒状のパリソンを押出し、金型間に口金部材の円盤部を覆うようにパリソンを垂下させる。次いで、まだ十分パリソンがやわらかい状態で該金型を型閉めし、該パリソンを縮径し、口金部材の首部をパリソンと同時にピンチし、ブローアップしてパリソンを膨張させて金型内壁に押圧して中空容器を形成する。
一方、合成樹脂製ライナー材と、口金部材の円盤部とは、内圧により押圧されて密着し、接着または融着されて口金部材付中空容器が作製される。次いで中空容器の外周を、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂を含浸させた、カーボンファイバー糸や束、ガラス繊維糸や束等の繊維糸、束、マット等により、被覆して、硬化させて繊維強化材(CFRP,GFRP等)層を形成して、圧力容器を製造する。
【0049】
本発明の圧力容器の製造方法において、合成樹脂製ライナーで形成される中空容器及び接着材層の製造方法は、上記ブロー成形法に限定されるものではなく、射出成形、回転成形、圧縮成形等によって製造しても良いが、製造時に中空容器及び接着材層の形成と同時に口金部材が一体化でき、製造工程が簡単で、製造コストも安く、経済的であるため、多層ブロー成形法を採用することも可能である。
【0050】
4.圧力容器の用途
本発明に係る圧力容器は、これに充填されるガスの種類は制限されるものではなく、天然ガス、液化石油ガス、窒素、酸素、水素、ヘリウムガス、アルゴンガス、ロケット燃料などが挙げられ、補強材と合成樹脂製ライナー材で形成される中空容器との接着力が高く、気密性が優れるなどの点からいずれにも好適に使用できる圧力容器である。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限りこれら実施例によって制約をうけるものではない。なお、実施例および比較例において、物性の評価は次の通りである。
【0052】
1.測定法
(1)密度:
JIS K7112に準拠して測定した(単位:g/cm
3)。
(2)メルトフローレート(MFR):
JIS K6922−1(温度190℃、荷重2.16kg)に準拠して測定した(単位:g/10分)。
(3)示差走査熱量測定(DSC)にて測定される高温側のピーク温度:
示差走査熱量計を用いて測定した。試料及び基準物質を加熱又は冷却によって調節しながら等しい条件下におき、この二つの間の温度差をゼロに保つに必要なエネルギーを時間又は温度に対して記録する原理に基づいて測定した。DSCの測定では、試料を底の平らな金属容器につめ、精秤して試料量を求めたのち蓋で覆い、測定装置に設置し、経時に熱量変化量(ΔH)を測定し、高温側のピーク温度を求めた。
【0053】
(4)DSCにて測定される100℃以上での不融解成分の割合:
DSCの測定では、試料を底の平らな金属容器につめ、精秤して試料量を求めたのち蓋で覆い、測定装置に設置し、経時に熱量変化量(ΔH)を求めた。熱可塑性樹脂組成物試料のDSCの100℃以上の熱量変化量(ΔHw)及び組成物の成分であるポリエチレン(A)のみの試料のDSCの100℃以上の熱量変化量(ΔHa)を測定し、ΔHw/ΔHaの割合(百分率)として求めた。
【0054】
(5)極性基の量:
熱可塑性樹脂を製造する際に使用されたラジカル重合性酸コモノマー、アクリル酸エステルコモノマー、メタクリル酸エステルコモノマー、カルボン酸ビニルエステルコモノマー等の量から求めた。
(6)接着強度:
JIS K5600−5−6のクロスカット法に準じて測定し、分類0から2(良好で格段に優れているもの)を○、分類3から5のものを×とした。
(7)形状保持性:
ライナーの厚みが1mmであって、内容積が500mlの小型中空容器を成形し、当該容器を100℃の雰囲気中に1時間保管後、容器形状に変形が生じていないもの(良好で格段に優れているもの)を○、それ以外のものを×とした。
【0055】
2.使用原料
[ポリエチレン(A)]
PE(1):エチレン・1−ヘキセン共重合体、密度=0.945g/cm
3、MFR(温度190℃、荷重2.16kg)=0.03g/10分
PE(2):エチレン・1−ヘキセン共重合体、密度=0.937g/cm
3、MFR(温度190℃、荷重2.16kg)=0.20g/10分
PE(3):エチレン−プロピレン−1−ヘキセン共重合体、密度=0.901g/cm
3、MFR(温度190℃、荷重2.16kg)=2.0g/10分
【0056】
[共重合体(B)]
CP(1):エチレン−アクリル酸メチル共重合体、密度=0.943g/cm
3、MFR(温度190℃、荷重2.16kg)=2.0g/10分、アクリル酸メチル含有量=24重量%(メトキシカルボニル基含有量=16.5重量%)
CP(2):エチレン−アクリル酸エチル共重合体、密度=0.934g/cm
3、MFR(温度190℃、荷重2.16kg)=5.0g/10分、アクリル酸エチル含有量=20重量%(エトキシカルボニル基含有量=14.6重量%)
CP(3):エチレン−酢酸ビニル共重合体、密度=0.938g/cm
3、MFR(温度190℃、荷重2.16kg)=1.5g/10分、酢酸ビニル含有量=15重量%(メアセチルオキシ基含有量=10.3重量%)
CP(4):特開2008−164131号公報実施例記載の官能基含有ポリエチレン樹脂(X1)、密度=0.925g/cm
3、MFR(温度190℃、荷重2.16kg)=4g/10分、無水マレイン酸グラフトモノマー量=0.5重量%(カルボン酸無水物基含有量=0.34重量%)
【0057】
(実施例1〜
6、参考例7、比較例1〜5)
表1に示した熱可塑性樹脂
組成物を用いて、ライナー材として、厚みが1mmであって、内容積が500mlの小型中空容器を成形した。ライナー材としての評価結果を表1に示した。
【0058】
(実施例7)
[圧力容器の製造]
本願の実施例1〜6の熱可塑性樹脂をライナー材として使用し、下記に述べるように、特開2008−164131号公報の実施例に記載の圧力容器の製造方法に準じて、圧力容器を製造した。
表面の一部に接着剤を塗布した口金部材を支持部の上下にインサートし、口金部材を設置して、日本製鋼所社製NB150連続中空成形機を用い、成形温度210℃、ブロー圧力1.4MPa、金型温度20℃、吹込時間130secの条件で、ブロー成形機のダイスから熱可塑性樹脂層で形成された筒状のパリソンを押出し、金型間に垂下させ、まだ十分パリソンがやわらかい状態で該金型を型閉めし、該パリソンを縮径し、口金部材料の首部をパリソンと同時にピンチして、空気等の気体をブローしてパリソンを金型壁に押圧して合成樹脂ライナー材で形成された中空容器を形成した。一方、ライナー材の肩部と口金部材とが内圧により合成樹脂製ライナー材の内側の肩部に押圧して、融着され、層厚3mm、容積30リットルの中空容器を作製した。次いで中空容器の外周を、熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂を含浸させた、カーボンファイバー束を被覆巻回した後、加熱押圧して、中空容器とエポキシ樹脂を含浸させたカーボンファイバー繊維強化材(CFRP)を融着し、エポキシ樹脂を硬化させて補強材層を形成し、圧力容器を製造した。
その結果、外観良好な圧力容器が得られた。
【0059】
【表1】
【0060】
表1に示す結果から明らかなように、本発明の要件を満たす熱可塑性樹脂
組成物をライナー材として使用した
実施例1〜6では、補強材との接着強度が格段に向上し
、かつ成形時の形状保持性が良好であり、従来のような補強材とのファイバーずれが発生せず、均一にファイバーが巻回できるため補強効果が向上するばかりでなく、外観も良好な圧力容器が得られた。
一方、本発明の要件の一部又は全てを満たさない熱可塑性樹脂をライナー材として使用した
比較例1〜5、参考例7では、形状保持性または接着強度の面で著しい問題が発生した。