特許第5906942号(P5906942)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5906942
(24)【登録日】2016年4月1日
(45)【発行日】2016年4月20日
(54)【発明の名称】フラーレン多量体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 31/02 20060101AFI20160407BHJP
   C07D 307/93 20060101ALI20160407BHJP
   C07D 319/14 20060101ALI20160407BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20160407BHJP
【FI】
   C01B31/02 101F
   C07D307/93
   C07D319/14
   !C07B61/00 300
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-117685(P2012-117685)
(22)【出願日】2012年5月23日
(65)【公開番号】特開2013-245117(P2013-245117A)
(43)【公開日】2013年12月9日
【審査請求日】2015年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005979
【氏名又は名称】三菱商事株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】橋口 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】林 寛幸
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−193861(JP,A)
【文献】 特開2004−313886(JP,A)
【文献】 特開平10−279302(JP,A)
【文献】 特開平10−001306(JP,A)
【文献】 Masahiko HASHIGUCHI,Facile fullerene modification: FeCl3-mediated quantitative conversion of C60 to polyarylated fullerenes containing pentaaryl(chloro)[60]fullerenes,Organic & Biomolecular Chemistry,2011年 8月 1日,Volume 9, Number 18,Pages 6417-6421
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 31/00 − 31/36
C07D 307/93
C07D 319/14
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラーレンおよび/またはその誘導体(以下「原料FLN類」と記す)から複数のフラーレン環を一分子中に有するフラーレン多量体を製造する方法であって、該原料FLN類が無置換のフラーレンであり、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、1,2−ジクロロエタン、及び1,1,2,2−テトラクロロエタンよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の溶媒の存在下で原料FLN類を、3価の鉄原子を含む鉄含有化合物と接触させることを特徴とするフラーレン多量体の製造方法。
【請求項2】
前記鉄含有化合物がハロゲン化第2鉄を含むことを特徴とする請求項に記載のフラーレン多量体の製造方法。
【請求項3】
前記ハロゲン化第2鉄が塩化第2鉄であることを特徴とする請求項に記載のフラーレン多量体の製造方法。
【請求項4】
前記原料FLN類中のフラーレン環が、炭素原子数60及び70のフラーレン環のいずれかを含むことを特徴とする請求項1ないしのいずれか1項に記載のフラーレン多量体の製造方法。
【請求項5】
前記原料FLN類と鉄含有化合物との接触の際の温度が100℃〜300℃であることを特徴とする請求項1ないしのいずれか1項に記載のフラーレン多量体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラーレンおよび/またはその誘導体から、一分子中に複数のフラーレン環を有するフラーレン多量体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1985年に発見されたフラーレンは、60個あるいはそれ以上の炭素原子が球状に結合した、第三の炭素同素体である。C60、C70に代表されるフラーレン類は、その特異な分子形状から、電子材料部品、医薬、化粧品などの新規機能材料として注目されている。
【0003】
フラーレン類の合成方法としては、アーク放電法、抵抗加熱法、レーザー蒸発法、燃焼法、熱分解法などが知られており、いずれの製造方法においてもフラーレン類を含有する煤が生成する。有機溶媒に可溶なC60、C70、C76、C78、C82、C84などのフラーレン類は、この煤を有機溶媒で抽出することによって得られる。さらにこれらのフラーレン類を化学修飾することにより、有機溶媒あるいは水への溶解性を向上させることが可能である。
【0004】
一分子中に2個のフラーレン環を有するフラーレン二量体をはじめとするフラーレン多量体は、溶解性や製膜性、あるいは電子状態などが、フラーレン単体とは異なる独特の特性を発現することが期待されており、その製造方法が検討されてきた。
【0005】
非特許文献1には、固相反応において金属触媒を利用することによりフラーレン二量体を合成する方法が報告されている。また、非特許文献2には、プラズマ法によるフラーレンポリマーの合成方法について報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Carbon,2000年,38巻,1529〜1534頁
【非特許文献2】Journal of Materials Science,2002年,37巻,1043〜1047頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1に記載の方法は汎用的なフラーレン二量体の合成方法であるが、C60転化率が低いという問題があった。
また、非特許文献2に記載の方法はプラズマを必要とするため、特殊な装置が必要となり、製造コストも高くなってしまう問題があった。
【0008】
本発明は、フラーレンおよび/またはその誘導体を原料として、安価で取扱い容易な試薬のみを用いて、有機溶媒を用いた汎用的な合成条件で、フラーレン多量体を高い転化率で製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、置換基を有していてもよいフラーレン分子に、鉄含有化合物を作用させることにより、同一分子内に複数のフラーレン骨格を有するフラーレン多量体を製造する方法を開発した。
【0010】
本発明はこのような知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0011】
[1] フラーレンおよび/またはその誘導体(以下「原料FLN類」と記す)から複数のフラーレン環を一分子中に有するフラーレン多量体を製造する方法であって、該原料FLN類が無置換のフラーレンであり、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、1,2−ジクロロエタン、及び1,1,2,2−テトラクロロエタンよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の溶媒の存在下で原料FLN類を、3価の鉄原子を含む鉄含有化合物と接触させることを特徴とするフラーレン多量体の製造方法。
【0013】
] 前記鉄含有化合物がハロゲン化第2鉄を含むことを特徴とする[]に記載のフラーレン多量体の製造方法。
【0014】
] 前記ハロゲン化第2鉄が塩化第2鉄であることを特徴とする[]に記載のフラーレン多量体の製造方法。
【0017】
] 前記原料FLN類中のフラーレン環が、炭素原子数60及び70のフラーレン環のいずれかを含むことを特徴とする[1]ないし[]のいずれかに記載のフラーレン多量体の製造方法。
【0018】
] 前記原料FLN類と鉄含有化合物との接触の際の温度が100℃〜300℃であることを特徴とする[1]ないし[]のいずれかに記載のフラーレン多量体の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明のフラーレン多量体の製造方法によれば、フラーレンおよび/またはその誘導体に鉄含有化合物を作用させることにより、同一分子内に複数のフラーレン環を有するフラーレン多量体を、有機溶媒を用いた汎用的な合成条件で、簡便かつ効率的に、高い転化率で製造することができる。
本発明により製造されたフラーレン多量体は、塗布法や蒸着法によりウェーハなどに製膜することも可能であり、これを利用した有機薄膜太陽電池などのダイオードを製作するなど、幅広い用途に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】C60フラーレンのIRスペクトル(KBr法)チャートである。
図2】フラーレン多量体のIRスペクトル(KBr法)チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明の実施の形態について説明する。
【0022】
本発明のフラーレン多量体の製造方法は、フラーレンおよび/またはその誘導体(以下「原料FLN類」と記す)から複数のフラーレン環を一分子中に有するフラーレン多量体を製造する方法であって、原料FLN類を、鉄含有化合物と溶媒の存在下で接触させることを特徴とする。
【0023】
1.フラーレン多量体
本発明で製造されるフラーレン多量体とは、複数のフラーレン環を一分子中に有するものであって、例えば、次のようなものが挙げられる。
(1)複数のフラーレン環が共有結合により直接結合したもの
(2)複数のフラーレン環が、二価の官能基(原子団)を介して結合したもの
【0024】
フラーレン多量体の結合部位は、通常、フラーレン環上の6員環の二重結合が開いて形成され、上記(1)のタイプのフラーレン多量体では、この結合部位が直接共有結合で結合することによりフラーレン多量体となる。
また、(2)のタイプのフラーレン多量体では、この結合部位の間に二価の官能基が連結基として介在される。この場合、連結基となる二価の官能基としては特に制限はないが、例えば、−O−(エーテル結合)、−NH−(イミノ結合)、−(CH−(アルキレン結合)、或いはこれらを任意の組み合わせで2以上連結した基が挙げられる。ただし、フラーレン環同士の間に介在する原子数、即ち、連結基となる二価の官能基の連結鎖部分の原子数は3以下が好ましく、0(直接結合)又は1(−O−、−NH−、−CH−等)が好ましい。
【0025】
なお、本発明に係るフラーレン多量体は、フラーレン環の2箇所以上で他のフラーレン環と連結されていてもよい。また、フラーレン多量体が一分子中に有するフラーレン環の数は2以上であればよく、その上限には特に制限はないが、通常、100以下である。
【0026】
原料FLN類としてC60フラーレンを用いた場合、フラーレン環を一分子中に2個有するフラーレン二量体の具体例としては、例えば、以下のようなものが挙げられるが、何らこれらに限定されるものではない。
【0027】
【化1】
【0028】
2.原料FLN類
原料FLN類中のフラーレン環(フラーレン骨格)としては、C60、C70、C76、C78、C82、C84、C86、C88、C90、C92、C94、C96などが挙げられ、原料FLN類には特定の分子量を持つフラーレン単体、2つ以上の成分を有するフラーレン混合物、フラーレンを含有する煤などが含まれる。また、金属原子や水素分子などを内包した内包フラーレン、単層及び多層カーボンナノチューブやカーボンナノホーンなどのフラーレン類似の炭素クラスター、及びそれらとフラーレンとの混合物を用いることもできる。
好ましくは、本発明で用いる原料FLN類は、C60(炭素原子数60のフラーレン環)及び/又はC70(炭素原子数70のフラーレン環)を含むものであり、C60、C70、C60とC70の混合物、或いはC60とC70とC60及びC70以外の高次フラーレンとの混合物であってもよい。
【0029】
原料FLN類は、置換基を有さないフラーレンであってもよく、置換基を有するフラーレン誘導体であってもよい。
【0030】
フラーレン誘導体が有する置換基としては、炭素原子数1〜24の炭化水素基等、ヒドロキシル基、チオール基、エポキシ基、チオエポキシ基、アルデヒド基、チオアルデヒド基、炭素原子数1〜24の炭化水素基等で置換されていてもよいカルボニル基、炭素原子数1〜24の炭化水素基等で置換されていてもよいチオカルボニル基、炭素原子数1〜24の炭化水素基等で置換されていてもよいアルコキシ基、炭素原子数1〜24の炭化水素基等で置換されていてもよいチオアルコキシ基、炭素原子数1〜24の炭化水素基等で置換されていてもよいアリールオキシ基、炭素原子数1〜24の炭化水素基等で置換されていてもよいチオアリールオキシ基、炭素原子数1〜24の炭化水素基等で置換されていてもよいオキシカルボニル基、炭素原子数1〜24の炭化水素基等で置換されていてもよいシリル基などが挙げられ、またこれらの置換基はフラーレン骨格と、或いは置換基同士で環状構造を形成していてもよい。
【0031】
上記の炭素原子数1〜24の炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基等が挙げられ、アルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基などの鎖状(直鎖であっても分岐鎖であってもよい)アルキル基と、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などの環状アルキル基が挙げられる。また、アルケニル基としては、具体的には、ビニル基、アリル基などが挙げられ、また、アルキニル基としては、具体的には、エチニル基、プロパルギル基などが挙げられる。また、アリール基としては、具体的にはフェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基などが挙げられる。その他、ヘテロ原子を含むアリール基としてピリジル基、チオフェニル基、フリル基なども用いることができ、本明細書では、炭素原子数1〜24の炭化水素基とこれらのヘテロアリール基をまとめて「炭素原子数1〜24の炭化水素基等」と称す。
【0032】
上記の炭素原子数1〜24の炭化水素基等で置換されていてもよい、カルボニル構造を含有する基(本明細書では、これらをまとめて「カルボニル基」と称する。)としては、アセチル基、エチルカルボニル基等のアルキルカルボニル基、フェニルカルボニル基、トリルカルボニル基、ナフチルカルボニル基、アズレニル基等のアリールカルボニル基、アミド基、エステル基等が挙げられる。また、炭素原子数1〜24の炭化水素基等で置換されていてもよい、チオカルボニル構造を含有する基(本明細書では、これらをまとめて「チオカルボニル基」と称す。)としては、アルキルチオカルボニル基、アリールチオカルボニル基、チオアミド基、チオエステル基等が挙げられる。
【0033】
上記の炭素原子数1〜24の炭化水素基等で置換されていてもよいアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等が挙げられる。また、炭素原子数1〜24の炭化水素基等で置換されていてもよいチオアルコキシ基としては、チオメトキシ基、チオエトキシ基、チオプロポキシ基等が挙げられる。
【0034】
上記の炭素原子数1〜24の炭化水素基等で置換されていてもよいアリールオキシ基としては、フェノキシ基、ナフトキシ基等が挙げられる。また、炭素原子数1〜24の炭化水素基等で置換されていてもよいチオアリールオキシ基としては、チオフェノキシ基、チオナフトキシ基等が挙げられる。
【0035】
上記の炭素原子数1〜24の炭化水素基等で置換されていてもよいオキシカルボニル基としては、アセトキシ基、ベンゾイルオキシ基等が挙げられる。
【0036】
上記の炭素原子数1〜24の炭化水素基等で置換されていてもよいシリル基としては、トリメチルシリル基等のトリアルキルシリル基、トリメトキシシリル基等のトリアルコキシシリル基、又はジアルキルアルコキシシリル基、アルキルジアルコキシシリル基等が挙げられる。
【0037】
フラーレン誘導体が有する置換基の数は1個以上であればよく特に制限はない。
また、フラーレン誘導体が2個以上の置換基を有する場合、2個以上の置換基は同一であってもよく、異なるものであってもよい。
【0038】
本発明で用いる原料FLN類には、置換基数や種類の異なる2種以上のフラーレン誘導体及び/又はフラーレンが含まれていてもよく、また、前述の通り、異なるフラーレン環(フラーレン骨格)のフラーレン誘導体が含まれていてもよい。
【0039】
3.鉄含有化合物
本発明のフラーレン多量体の製造方法において使用する鉄含有化合物は、0価ではない鉄原子を少なくとも1つ含むものであるが、鉄含有化合物に含まれる鉄原子は、求電子性を有し、フラーレンからの電子移動に伴う酸化還元反応を利用することにより、より効率的に多量体化反応を進行させる効果を有することから、3価の鉄原子であることが好ましく、また、本発明で用いる鉄含有化合物は、入手の容易さとコスト面で、鉄ハロゲン化合物であることが好ましい。従って、本発明の鉄含有化合物は、3価の鉄ハロゲン化合物であるハロゲン化第2鉄を含むことが好ましい。ハロゲン化第2鉄としては、具体的には、塩化第2鉄、臭化第2鉄などが挙げられる。
【0040】
なお、鉄含有化合物として、塩化第1鉄、臭化第1鉄など3価鉄以外の鉄含有化合物を使用することもできる。
また、鉄含有化合物は、鉄原子とハロゲン原子からなるものに何ら限定されるものではなく、例えば、酸化第2鉄、過塩素酸第2鉄などを用いることもできる。また、鉄含有化合物はアルキル基やアリール基等の置換基を1つあるいは複数有していてもよいし、価数の異なる2種類以上の鉄原子を含む錯体であってもよい。
【0041】
これらの鉄含有化合物のうち、好ましくは少なくとも一つのハロゲン原子を含むもの、より好ましくは入手のし易さとコスト面から鉄ハロゲン化合物、特に好ましくは塩化第2鉄、臭化第2鉄を用いるのがよい。
【0042】
これらの鉄含有化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0043】
鉄含有化合物の使用量は、原料FLN類と反応するのに必要かつ十分な量であることが重要であり、具体的には、原料FLN類に対し、0.01〜1000モル倍の鉄含有化合物を用いるのが好ましい。鉄含有化合物の使用量は、より好ましくは、原料FLN類に対して0.5〜500モル倍であり、特に好ましくは1〜200モル倍である。
【0044】
4.溶媒
本発明のフラーレン多量体の製造方法において、原料FLN類と、鉄含有化合物とを効果的に接触させるために、原料FLN類を溶媒に溶解あるいは懸濁させて反応を行うことが好ましい。
【0045】
反応に用いる溶媒としては、原料FLN類が可溶である溶媒、例えば芳香族炭化水素類、脂肪族炭化水素類、塩素化炭化水素類等の含ハロゲン溶媒などの有機溶媒が適しており、それらは環式、非環式のいずれでもよい。
【0046】
ここで、溶媒として使用する芳香族炭化水素類としては、分子内に少なくとも1つのベンゼン核を有する炭化水素化合物であり、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、n−プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン、n−ブチルベンゼン、sec−ブチルベンゼン、tert−ブチルベンゼン、1,2,3−トリメチルベンゼン(メシチレン)、1,2,4−トリメチルベンゼン、1,3,5−トリメチルベンゼン、1,2,3,4−テトラメチルベンゼン、1,2,3,5−テトラメチルベンゼン、ジエチルベンゼン、シメン等のアルキルベンゼン類、1−メチルナフタレン、2−メチルナフタレン等のアルキルナフタレン類、テトラリン等が挙げられる。
【0047】
また、脂肪族炭化水素類としては、環式、非環式のいずれも使用することができる。環式脂肪族炭化水素類としては、例えば、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン等の単環式脂肪族炭化水素類、また、その誘導体であるメチルシクロペンタン、エチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、1,2−ジメチルシクロヘキサン、1,3−ジメチルシクロヘキサン、1,4−ジメチルシクロヘキサン、イソプロピルシクロヘキサン、n−プロピルシクロヘキサン、tert−ブチルシクロヘキサン、n−ブチルシクロヘキサン、イソブチルシクロヘキサン、1,2,4−トリメチルシクロヘキサン、1,3,5−トリメチルシクロヘキサン等が挙げられる。また、多環式脂肪族炭化水素類としては、デカリン等が挙げられる。非環式脂肪族炭化水素類としてはn−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、n−ノナン、n−デカン、n−ドデカン、n−テトラデカン等が挙げられる。
【0048】
更に、含ハロゲン溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、1−クロロナフタレン等の塩素化炭化水素類、ジブロモメタン、ブロモホルム、ブロモベンゼン、ジブロモベンゼン等の臭化炭化水素類、フルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン等のフッ化炭化水素類などが挙げられる。
【0049】
また、有機溶媒として、炭素数6以上のケトン、炭素数6以上のエステル類、炭素数6以上のエーテル類、及び二硫化炭素等を使用してもよい。
【0050】
工業的観点から、これらの有機溶媒の中でも、常温で液体で、沸点が30〜300℃、中でも40〜250℃のものが好適に使用できる。なお、沸点が反応温度に近いか、又は反応温度より低い溶媒を使用する際は、例えば還流冷却器等を装着して反応させる等すればよい。
このような有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メチシレン、1−メチルナフタレン、1,2,3,5−テトラメチルベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼン等のアルキルベンゼン、テトラリン等のナフタレン誘導体等の芳香族炭化水素類や、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、1−クロロナフタレン等の塩素化炭化水素類などの含ハロゲン溶媒を用いることが好ましい。特に、含ハロゲン溶媒の中でもジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン等の塩素化炭化水素類を用いると、反応が進行しやすく好適である。
【0051】
これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上の混合溶媒として使用することもできる。
【0052】
溶媒の使用量については、特に制限はなく、反応系を過度に大容量とすることなく、原料FLN類を溶解させることができる程度であればよく、用いた溶媒に対する原料FLN類の溶解度によっても異なるが、通常、原料FLN類に対して重量比で1〜200倍程度とすることが好ましい。
【0053】
5.反応条件
本発明のフラーレン多量体の製造方法における反応温度(原料FLN類と鉄含有化合物を接触させる際の温度)は特に限定されないが、温度が高すぎると逆反応が起きやすくなり収率が低下し、一方温度が低すぎると、反応速度が低下し、溶解性も悪化するので、0℃〜300℃の範囲で実施することが好ましく、より好ましくは20℃〜200℃の範囲である。反応圧力(原料FLN類と鉄含有化合物を接触させる際の圧力)は、通常常圧でよいが、若干の加圧下又は減圧下で行うこともできる。
また、反応時間についても特に制限されないが、通常1〜480時間程度である。
【0054】
なお、反応時の雰囲気は特に限定されないが、酸素により原料FLN類が酸化される副反応を抑制するため、窒素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気で実施するのが好適である。
【0055】
6.反応後の処理
本発明のフラーレン多量体の製造方法では、鉄含有化合物を溶媒の存在下に原料FLN類と接触させた後、鉄含有化合物そのものあるいは鉄含有化合物に由来する物質(以下、両者を併せて「鉄含有化合物等」という)、および多量体化反応に伴う副生成物を系内から除去する必要がある。鉄含有化合物等及び副生成物が反応に使用する有機溶媒に不溶で、フラーレン多量体が可溶である場合、濾過、デカンテーションなどにより、有機溶媒に溶解しているフラーレン多量体と不溶な鉄含有化合物等および副生成物とに分離することが好ましい。より好ましくは、シリカショートパスやアルミナショートパス、あるいは分液操作を用いて、不溶な鉄含有化合物等および副生成物を除去する。
【0056】
一方、鉄含有化合物等および副生成物が反応に使用する有機溶媒に可溶でフラーレン多量体も可溶である場合、晶析などによりフラーレン多量体を固体として析出させ、濾過、デカンテーションなどにより、固体のフラーレン多量体と有機溶媒に溶解している鉄含有化合物等および副生成物に分離するのが好適である。また、沸点が低い副生成物は、蒸留などによって分離除去することが好適である。
【0057】
7.フラーレン多量体の精製
本発明のフラーレン多量体の製造方法では、原料FLN類を鉄含有化合物と接触させて、複数のフラーレン環を一分子中に有するフラーレン多量体を得るが、本発明に係る多量体化反応では、必ずしも一種類のフラーレン多量体が生成するとは限らず、一分子中のフラーレン環の数や連結基が異なる複数種のフラーレン多量体が生成する場合もある。
【0058】
従って、反応生成物中には、一分子中のフラーレン環の数や連結基の異なる複数種のフラーレン多量体が混在する場合があり、このようなフラーレン多量体の混合物から、所望のフラーレン多量体を分離精製することが、目的物を各種用途に適用する上で好ましい。
【0059】
このフラーレン多量体の精製手段としては特に制限はないが、カラムクロマトグラフィーによる精製が好適である。
本発明によれば、所望の環数のフラーレン多量体を高い転化率で得ることができることから、分離精製されたフラーレン多量体を各種用途に好適に用いることができる。
【0060】
8.用途
本発明のフラーレン多量体の製造方法により製造されたフラーレン多量体及びこのフラーレン多量体を含む溶液やこのフラーレン多量体により形成された膜は、エッチング耐性、絶縁性、有機n型半導体としての優れた特性を生かして、各種ダイオード、フォトレジスト、ナノインプリンティング用の薄膜、層間絶縁膜、有機太陽電池、有機半導体薄膜、光導電性薄膜等の作成に有用である。
また、本発明のフラーレン多量体の製造方法により製造されたフラーレン多量体は加水分解反応等により、更なる修飾(置換基の導入)が可能であるため、任意の機能を付加することや、各種溶媒に対する溶解度を調整することができることから、各種の反応中間体としても様々な用途に利用できる。
【実施例】
【0061】
以下、本発明の作用効果を確認するために、反応に用いる原料FLN類と鉄含有化合物を適宜選択し、常圧で反応を行った実施例について詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例によって限定されるものではない。即ち、以下の実施例は、原料FLN類としてフラーレン環がC60であるものを用い、鉄含有化合物として塩化第2鉄(塩化鉄(III))を用いているが、本発明で用いる原料FLN類のフラーレン環はC60以外であってもよく、また、鉄含有化合物は塩化第2鉄以外の鉄含有化合物であってもよい。
【0062】
[実施例1:塩化第2鉄を用いたフラーレン多量体の合成]
【化2】
【0063】
2.0gのC60フラーレン(化合物1)を40mL(63.4g)の1,1,2,2−テトラクロロエタンに溶解させ、窒素雰囲気中、25℃で攪拌しながら、塩化第2鉄9.0g(C60に対して20モル倍)を添加後、150℃まで昇温し、6時間加熱撹拌した。高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)分析により反応がほぼ完了したことを確認した(C60反応率76.7%、化合物2選択率8.7%、化合物3選択率21.3%)。ここで、C60反応率はHPLC分析でのC60の面積の減少率から計算により求めた。また、選択率は、HPLC分析での化合物2および3の面積%により求めた。実施例2においても同様である。
水を加えて反応を停止し、反応液を濾過することで不溶分を除去し、フラーレン多量体をオルトジクロロベンゼンに溶解させ、抽出した。エバポレーターにて濃縮後、メタノール300mLを滴下して晶析を行い、150℃で真空乾燥を行い、120mgの黒色固体を得た。
不溶分はメタノール、酢酸エチルおよびアセトンで振り掛け洗浄を行い、150℃で真空乾燥させることにより、885mgの黒色固体を得た。
【0064】
HPLC分析および質量スペクトル(MS)分析により、オルトジクロロベンゼンに溶解した成分は、化合物2および化合物3の混合物であることが確認された。
【0065】
化合物2のエレクトロスプレーイオン化法質量分析(ESI−MS)測定
理論値m/z(C120O[M+H]):1458.3
測定値:1458.8
化合物3のESI−MS測定
理論値m/z(C120[M+H]):1473.3
測定値:1471.9
【0066】
また、赤外吸収スペクトル(IR)分析により、オルトジクロロベンゼンに不溶の成分は、フラーレン多量体であることが確認された。
原料のC60フラーレンと、生成物のフラーレン多量体のIRスペクトルチャートをそれぞれ図1,2に示す。
図2に示されるように、1430cm−1のピークを中心として、スペクトルが全体的にブロード化している。これは、非特許文献2でも報告されている通り、フラーレンがポリマー化していることを表している。
【0067】
[実施例2:塩化第2鉄を用いたフラーレン多量体の合成]
【化3】
【0068】
2.0gのC60フラーレン(化合物1)を40mL(63.4g)の1,1,2,2−テトラクロロエタンに溶解させ、窒素雰囲気中、25℃で攪拌しながら、塩化第2鉄9.0g(C60に対して20モル倍)を添加後、25℃のまま、120時間加熱撹拌した。HPLC分析により反応がほぼ完了したことを確認した(C60反応率87.6%、化合物2選択率4.4%)。
水を加えて反応を停止し、反応液を濾過することで不溶分を除去し、フラーレン多量体をオルトジクロロベンゼンに溶解させ、抽出した。エバポレーターにて濃縮後、メタノール300mLを滴下して晶析を行い、150℃で真空乾燥を行い、65mgの黒色固体を得た。
不溶分はメタノール、酢酸エチルおよびアセトンで振り掛け洗浄を行い、150℃で真空乾燥させることにより、490mgの黒色固体を得た。
【0069】
HPLC分析およびMS分析により、オルトジクロロベンゼンに溶解した成分は、化合物2を含む混合物であることが確認された。
【0070】
化合物2のESI−MS測定
理論値m/z(C120O[M+H]):1458.3
測定値:1458.8
【0071】
また、IR分析により、オルトジクロロベンゼンに不溶の成分は、フラーレン多量体であることが確認された。
図1
図2