特許第5906959号(P5906959)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5906959
(24)【登録日】2016年4月1日
(45)【発行日】2016年4月20日
(54)【発明の名称】排ガス浄化システム
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/20 20060101AFI20160407BHJP
   F01N 3/08 20060101ALI20160407BHJP
【FI】
   F01N3/20 D
   F01N3/08 B
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-142468(P2012-142468)
(22)【出願日】2012年6月25日
(65)【公開番号】特開2014-5782(P2014-5782A)
(43)【公開日】2014年1月16日
【審査請求日】2015年5月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100066865
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 信一
(74)【代理人】
【識別番号】100066854
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 賢照
(74)【代理人】
【識別番号】100117938
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 謙二
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100068685
【弁理士】
【氏名又は名称】斎下 和彦
(72)【発明者】
【氏名】堀米 辰弥
(72)【発明者】
【氏名】前川 弘吉
(72)【発明者】
【氏名】中村 圭介
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 健二
【審査官】 菅家 裕輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−156229(JP,A)
【文献】 特開平05−231134(JP,A)
【文献】 特開2004−225539(JP,A)
【文献】 特開2005−2867(JP,A)
【文献】 特開2011−190720(JP,A)
【文献】 特開2001−329833(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 5/00
F01N 5/02
F01N 3/18
F01N 3/20
F01N 3/02
F01N 3/033
F01N 3/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮空気が貯蔵されたエアタンクを有する車両のディーゼルエンジンの排ガスの管路に後処理装置を設置してなる排ガス浄化システムにおいて、
前記後処理装置の上流側の管路に第1バルブを設置するとともに、その第1バルブと該後処理装置との間の前記管路と前記エアタンクとを第2バルブが介設された配管で接続し、
前記ディーゼルエンジンの運転時は、前記第1バルブを開放するとともに前記第2バルブを閉止し、
前記ディーゼルエンジンの停止後は、前記第1バルブを閉止するとともに前記第2バルブを開放することで、前記エアタンクから前記後処理装置へ空気を供給し、
前記エアタンク内の供給用の空気がなくなったときに、前記第1バルブを開放するとともに前記第2バルブを閉止することを特徴とする排ガス浄化システム。
【請求項2】
前記ディーゼルエンジンの停止後において、前記後処理装置内の最低温度が100℃以下となる前に、前記第1バルブを閉止するとともに前記第2バルブを開放する請求項1に記載の排ガス浄化システム。
【請求項3】
前記エアタンクが貯蔵する空気の大気圧換算された容量が、前記後処理装置の全体容量の2倍以上である請求項1又は2に記載の排ガス浄化システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は排ガス浄化システムに関し、更に詳しくは、エンジンの始動初期における排ガス処理機能を向上することができる排ガス浄化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンの排ガス浄化システムの例として、図6に示すように、排ガスGの管路1に直列に接続された、酸化触媒(DOC:Diesel Oxidation Catalyst)2、DPF(Diesel Particulate Filter)3及び選択触媒還元方式(SCR:Selective Catalytic Reduction)4を有する後処理装置5を備えたものが挙げられる(例えば、特許文献1を参照)。この排ガス浄化システムにおいて、ディーゼルエンジンの排ガスGは、DOC2において炭化水素(HC)及び一酸化炭素(CO)を分解除去されてから、DPF3において粒子状物質(PM)を捕集除去された後に、SCR4において尿素噴射ノズルから供給された尿素水から生成されるアンモニア(NH3)を用いて窒化酸化物(NOx)が浄化される。また、DOC2は、排ガス中に含まれるNOxの大半を占める一酸化窒素(NO)を酸化して二酸化窒素(NO2)を生成する機能も有しているため、DPF3に捕集されたPMの燃焼(PM再生)を促進することや、SCR4のNOx浄化効率を向上することが可能になる。
【0003】
しかし、上記の排ガス浄化システムにおいては、後処理装置5内の温度が約150℃以下の低温になると、NO→NO2の生成反応が進行しにくくなるため、排ガス浄化機能を十分に発揮できなくなってしまうおそれがある。
【0004】
このような排ガス浄化機能の低下は、特にエンジンの始動初期において顕著になる。なぜならば、エンジンの始動時においては、ディーゼルエンジンの排ガスG中に多量に含まれる水蒸気が、エンジン停止後に後処理装置5内で結露して付着しているため、その付着した水の蒸発潜熱により後処理装置5の昇温が妨げられるためである。
【0005】
また、このように後処理装置5内に付着した水が、周辺温度が氷点下になって凍結すると、DPF3のフィルターに担持された触媒が劣化又は破損して、PMの捕集効率が低下してしまうおそれもある。
【0006】
このような問題を解決するために、排ガスを浄化する触媒の上流側の排気通路に、排ガスに含まれる水分を捕集して外部へ排出する水分除去装置を設けた排気浄化装置が提案されている(特許文献2を参照)。
【0007】
しかしながら、上記の排気浄化装置では、排ガスの有する熱が水分除去装置に奪われて、後処理装置の昇温が妨げられてしまうので、水分除去の効果が不十分なものになってしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−190720号公報
【特許文献2】特開2001−329833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、エンジンの始動初期における排ガス処理機能を向上することができる排ガス浄化システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成する本発明の排ガス浄化システムは、圧縮空気が貯蔵されたエアタンクを有する車両のディーゼルエンジンの排ガスの管路に後処理装置を設置してなる排ガス浄化システムにおいて、前記後処理装置の上流側の管路に第1バルブを設置するとともに、その第1バルブと該後処理装置との間の前記管路と前記エアタンクとを第2バルブが介設された配管で接続し、前記ディーゼルエンジンの運転時は、前記第1バルブを開放するとともに前記第2バルブを閉止し、前記ディーゼルエンジンの停止後は、前記第1バルブを閉止するとともに前記第2バルブを開放することで、前記エアタンクから前記後処理装置へ空気を供給し、前記エアタンク内の供給用の空気がなくなったときに、前記第1バルブを開放するとともに前記第2バルブを閉止ことを特徴とするものである。
【0011】
上記の排ガス浄化システムにおいては、ディーゼルエンジンの停止後において、後処理装置内の最低温度が100℃以下となる前に、第1バルブを閉止するとともに第2バルブを開放することが望ましい。そのようにすることで、後処理装置内に残留する水分を容易に除去することができる。
【0012】
また、エアタンクが貯蔵する空気の大気圧換算された容量を、後処理装置の全体容量の2倍以上とすることで、後処理装置内に残留する水分を完全に除去することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の排ガス浄化システムによれば、ディーゼルエンジンのエンジン停止時に、エアタンクに貯蔵された空気を後処理装置に供給するようにしたので、後処理装置内に残留する水分を除去して、エンジン始動後における後処理装置の昇温時間を短縮することができるため、エンジンの始動初期における排ガス浄化性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1の実施形態からなる排ガス浄化システムの構成図である。
図2】本発明の第1の実施形態からなる排ガス浄化システムにおけるECUの制御内容を説明するフロー図である。
図3】本発明の第2の実施形態からなる排ガス浄化システムの構成図である。
図4】本発明の第2の実施形態からなる排ガス浄化システムにおけるECUの制御内容を説明するフロー図である。
図5】本発明の効果を説明するグラフである。
図6】従来の排ガス浄化システムの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0017】
図1は、本発明の第1の実施形態からなる排ガス浄化システムを示す。
【0018】
この排ガス浄化システムは、車両のディーゼルエンジンの排ガスGが流れる管路1に、上流側から直列に順に配置されたDOC2、DPF3及びSCR4を有する後処理装置5を備えるものである。DOC2及びDPF3は第1ケーシング6内に、SCR4は第2ケーシング7内に、それぞれ格納されている。
【0019】
DOC2は、排ガスGの混合機能を有する構造に成形した金属製の担持体に、ロジウム、酸化セリウム、白金、酸化アルミニウム等を担持して形成される。DPF3は、多孔質セラミック製のハニカムのチャンネル(セル)の入口と出口を交互に目封じしたモノリスハニカム型のウオールフローフィルタから形成される。
【0020】
また、SCR4は、コージェライトや酸化アルミニウムや酸化チタン等で形成されるハニカム構造等の担持体に、チタニア−バナジア、β型ゼオライト、酸化クロム、酸化マンガン、酸化モリブデン、酸化チタン、酸化タングステン等を担持して形成され、第2ケーシング7の入口に設けられた尿素噴射ノズル8から供給された尿素水が加水分解されて生成したNH3を用いて排ガスG中のNOxを還元浄化する。
【0021】
そして、後処理装置5の上流側の管路1には、遠隔操作可能な第1バルブ9が設置されている。更に、その第1バルブ9と後処理装置5との間の管路1は、遠隔操作可能な第2バルブ10が介設された配管11を通じて、車両に搭載されているエアタンク12に接続するようになっている。エアタンク12は、車両のエアブレーキやエアサスペンションに空気圧を付与するものであり、ディーゼルエンジンの回生エネルギー等により駆動可能なコンプレッサー13により圧縮された空気が貯蔵されている。このエアタンク12から配管11を通過する空気の量は、配管11に設置された流量計14により測定される。
【0022】
上述した第1バルブ9、第2バルブ10、コンプレッサー13及び流量計14は、それぞれECU15に信号線(一点鎖線で示す)を通じて接続している。更に、ECU15には、ディーゼルエンジンの回転速度を検知する回転センサ16が信号線で接続している。
【0023】
このような排ガス浄化システムにおけるECU15の制御内容を、図2に基づいて以下に説明する。
【0024】
ECU15は、回転センサ16の測定値から、ディーゼルエンジンが停止時か否かを判定し(S10)、エンジン停止時ではなくエンジン運転時であると判断した場合には、第1バルブ9を開放するとともに第2バルブ10を閉止して、排ガスGを後処理装置5に供給する(S20)。
【0025】
一方、ECU15は、ディーゼルエンジンがエンジン停止時であると判断した場合には、第1バルブ9を閉止するとともに第2バルブ10を開放する(S30)。この操作により、エアタンク12内に圧縮・貯蔵されている空気が配管11を通じて管路1へ流れ、後処理装置5内へ供給されるようになる。そのため、エンジン停止時において後処理装置5内に残留する水分(水蒸気又はその結露水)が、空気の流れによって除去されて外部へ放出される。
【0026】
そして、エアタンク12の流量計14の測定値を後処理装置5の全体容量と比較して(S40)、その全体容量以上の空気量が配管11を通過したと判断したときには、エアタンク12内の供給用の空気が全て排出されたものとして、第1バルブ9を開放するとともに第2バルブ10を閉止する(S50)。なお、後処理装置5の全体容量とは、第1ケーシング6と第2ケーシング7の合計容量を意味する。
【0027】
最後に、次回の空気の供給に備えるために、ディーゼルエンジンの回生エネルギー等を利用してコンプレッサー13を起動し、エアタンク12内に空気を圧縮・貯蔵する(S60)。
【0028】
このように、ディーゼルエンジンのエンジン停止時に、エアタンク12内に圧縮・貯蔵された空気を後処理装置5に供給するようにしたので、後処理装置5内に残留する水分を除去して、エンジン始動後における後処理装置5の昇温時間を短縮することができる。従って、ディーゼルエンジンのエンジン始動初期における排ガス処理機能を向上することができるのである。
【0029】
なお、エンジン始動時において、新たに追加した第1バルブ9、第2バルブ10及び配管11が、排ガスGから奪う熱は無視できるほど小さいものであるため、後処理装置5の昇温に影響を与えることはない。
【0030】
図3は、本発明の第2の実施形態からなる排ガス浄化システムを示す。なお、図1と同じ部品には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0031】
上述した第1の実施形態においては、エンジン停止後に時間が経過すると、後処理装置5内の温度が徐々に低下するため、残留する水分のうちに結露水が占める割合が増加する。そのため、後処理装置5への空気の供給は、残留する水分が水蒸気になっている間、つまり後処理装置5内の最低温度が100℃超である間に行うことが望ましい。
【0032】
図1に示す後処理装置5の構成では、後処理装置5内の最低温度を示す部位はSCR4となる。そこで、本実施形態の排ガス浄化システムでは、SCR4の入口に排ガスGの温度を測定する温度センサ17を設置している。この温度センサ17の測定値は、一般的に直接測定が困難であるSCR4の温度を推定するために用いられる。
【0033】
このような排ガス浄化システムにおけるECU15の制御内容を、図4に基づいて以下に説明する。なお、図2と同じ処理には同一のステップ番号を付し、説明を省略する。
【0034】
ECU15は、回転センサ16の測定値から、ディーゼルエンジンが停止時か否かを判定し(S10)、エンジン停止時であると判断した場合には、温度センサ17の測定値が100℃超であるかを判定し(S25)、その測定値が100℃以下になる前に、第1バルブ9を閉止するとともに第2バルブ10を開放する(S30)。
【0035】
このようにすることで、後処理装置5内に残留する水分が結露する前の水蒸気である間に空気を供給することができるので、残留する水分を容易に除去することができる。
【0036】
なお、後処理装置5内の最低温度を示す部位は、後処理装置5を構成する触媒の種類や配置によって変わるものであり、それに応じて温度センサ等を適宜設置して、最低温度を測定するようにする。
【0037】
本発明の第1及び第2の実施形態においては、エアタンク12が貯蔵する空気の大気圧換算された容量が、後処理装置5の全体容量の2倍以上であることが望ましい。そのようにすることで、後処理装置5内に残留する水分を完全に除去することができる。
【0038】
なお、上述した本発明の第1及び第2実施形態では、後処理装置5としてDOC2、DPF3及びSCR4を有する構成を示しているが、これに限られるものではない。
【実施例】
【0039】
本発明の排ガス浄化システム(実施例)と、図6に示す従来の排ガス浄化システム(比較例)とをそれぞれ装着した同一仕様の車両を、同一の走行モードで走行させてからエンジンを停止し、その後にエンジンを再始動したときの後処理装置5の温度変化を比較した実験結果を図5に示した。なお、後処理装置5の温度には、DOC2の温度を用いている。
【0040】
図5に示す実験結果から、実施例では比較例に比べて、DOC2の温度が活性化温度の下限値である150℃に達するまでの時間が短縮されることが分かる。従って、本発明の排ガス浄化システムは、従来の排ガス浄化システムに比べて、エンジン始動時における後処理装置の昇温時間が短縮されることが確認された。
【符号の説明】
【0041】
1 管路
2 DOC
3 DPF
4 SCR
5 後処理装置
9 第1バルブ
10 第2バルブ
11 配管
12 エアタンク
15 ECU
図1
図2
図3
図4
図5
図6