(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記推定水温算出手段が、前記エンストモードの解除時において、前記自動停止直前から前記解除時までの間の前記実水温の温度変化量を前記自動停止直前に算出した前記推定水温に加算する
ことを特徴とする、請求項5記載のサーモスタットの故障診断装置。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面により実施の形態について説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。ここでは、エンジン及びモータが併用されて駆動されるプラグインハイブリッド自動車(PHEV)を例に挙げて説明する。
【0020】
[1.装置構成]
図1には、本実施形態に係る故障診断装置が適用されたエンジン10の冷却流路11を示す。冷却流路11は、エンジン10のウォータジャケット(図示略)を流れる冷却水が流通する通路である。冷却流路11は、ウォータジャケットから流出して第一循環流路11aと第二循環流路11bとに分岐し、ウォータポンプ(WP)12の上流側で合流して再びエンジン10のウォータジャケットに流入する。
【0021】
ウォータポンプ12は、エンジン10の動力を利用して冷却水を循環させる機械式ポンプであり、ウォータポンプ12から吐出される冷却水の流量Qはエンジン回転数Neに比例する。そのため、例えば車両がエンジン走行からモータ走行に切り換えられると、エンジン10は自動的に停止され、ウォータポンプ12も停止して冷却水は循環しなくなる。また、例えば車両が信号待ちなどでアイドリングストップする場合も、エンジン10は自動的に停止され、これによりウォータポンプ12も停止して冷却水は循環しなくなる。以下、このようにエンジン10が自動的に停止される場合を、「エンジン10の自動停止」と呼ぶ。つまり、エンジン10の自動停止とは、ドライバの意思とは無関係にコンピュータによってエンジン10が自動的に停止されることをいう。
【0022】
第一循環流路11aにはラジエータ13及びサーモスタット14が介装され、冷却水はラジエータ13を通過することで放熱されて冷やされる。また、第一循環流路11aは、ラジエータ13の上流側とサーモスタット14の下流側とを接続し、ラジエータ13及びサーモスタット14を迂回するバイパス流路11cを有する。
【0023】
サーモスタット14は、冷却水の温度(実水温)WTに応じて開閉する弁機構であり、開閉によってラジエータ13に流れる冷却水の流通を制御する。サーモスタット14は、実水温WTが低ければ弁を閉鎖して冷却水をバイパス流路11cへ流し、実水温WTが高ければ弁を開放して冷却水をラジエータ13へ導く。これにより、実水温WTが低いときはラジエータ13を迂回させて速やかに冷却水を昇温させ、実水温WTが高いときはラジエータ13で放熱させて冷却水を冷却する。
【0024】
第二循環流路11bには、図示しない空調装置の一部であるヒータ15が介装される。ヒータ15は、エンジン10を冷却した冷却水の熱を吸収し、この熱を利用して空気を加熱して車室内の暖房として利用する。つまり、冷却水はヒータ15を通過する際にも放熱される。
【0025】
冷却流路11には、冷却水の実水温WTを検出する温度センサ(実水温検出手段)16が設けられる。温度センサ16の位置は特に限定されず、
図1に示すように第一循環流路11aの上流側でもよく、ウォータジャケットやウォータポンプ12の近傍であってもよい。また、エンジン10のクランクシャフト(図示略)の近傍には、エンジン回転数Neを検出する回転数センサ17が設けられる。また、車両には、自車両の車速Vを検出する車速センサ18が設けられる。これら温度センサ16,回転数センサ17及び車速センサ18で検出された実水温WT,回転数Ne及び車速Vの各情報は、随時車両ECU20に伝達される。
【0026】
車両には、図示しないモータと、モータの電力源となるバッテリとが搭載される。モータは、バッテリの電力を消費して車両を走行させる機能と、制動時や慣性走行時における車両の慣性を利用した発電によって電力を回生する機能とを兼ね備えたモータ・ジェネレータである。車両をエンジン10で走行させるか、あるいはモータで走行させるか、又はエンジン10及びモータを共に駆動させるかは、車両ECU20によって制御される。
【0027】
車両には、車両を統合制御する車両ECU20(電子制御装置;Electric Control Unit)が設けられる。車両ECU20は、各種演算処理を実行するCPU,その制御に必要なプログラムやデータの記憶されたROM,CPUでの演算結果等が一時的に記憶されるRAM,外部との間で信号を入出力するための入出力ポート,制御時間をカウントするタイマ等を備えたコンピュータである。車両ECU20の入力側には、温度センサ16,回転数センサ17及び車速センサ18が接続される。また、車両ECU20の出力側には、図示しない他のECU(例えばエンジンECU,モータECU,バッテリECU,空調ECU,ブレーキECU等)が接続される。車両ECU20は、バッテリの充電量や車速等の情報に基づいて、エンジン10及びモータの制御を実施する。
【0028】
以下、車両ECU20で実施される制御のうち、サーモスタット14の故障診断に関する制御について説明する。サーモスタット14は、上記したように実水温WTに応じて開閉することで冷却水の流れを制御する。しかしながら、サーモスタット14が開弁したまま固着して故障すると(以下、この故障形態を開弁故障という)、実水温WTが低い状態でも冷却水がラジエータ13を流通して速やかに昇温しなくなり、燃費の悪化やエミッションの増加を招く。そのため、車両ECU20ではサーモスタット14の開弁故障が診断される。
【0029】
[2.制御構成]
車両ECU20は、車両状態を把握してモード判定を実施するモード判定部21としての機能要素と、冷却水の温度を推定する推定水温算出部22としての機能要素と、サーモスタット14の開弁故障を診断する故障診断部23としての機能要素とを有する。
【0030】
車両ECU20では、エンジン10の冷態始動後、実際に温度センサ16で検出された実水温WTと、推定水温算出部22で算出された推定水温WTcとを比較して、サーモスタット14の故障診断が実施される。この故障診断は図示しないIGスイッチがオンにされたとき(以下、キーオンという)から、IGスイッチがオフにされるとき(以下、キーオフという)までの間に一度だけ実施される。なお、推定水温算出部22で算出される推定水温WTcは、エンジン10の作動状態に応じて推定される温度であり、サーモスタット14が正常な場合は推定水温WTcと実水温WTとが略同じ温度となる。本実施形態では特に、少なくともエンジン10の自動停止中を含むエンストモードにおける、推定水温WTcの算出及び故障診断に特徴がある。
【0031】
モード判定部(モード判定手段)21は、温度センサ16で検出される実水温WT及び回転数センサ17で検出されるエンジン回転数Neから、車両がエンストモード(エンジンストップモード)であるか否かを判定するものである。モード判定部21は、ここではエンジン10の自動停止後の再始動時から所定時間t
Aが経過するまでの間もエンストモードであると判定する。つまりエンストモードとは、エンジン10の冷態始動後、エンジン10が自動停止した時から、エンジン10が再始動した後所定時間t
Aが経過するまでの間を意味する。なお、ここでは所定時間t
Aは予め設定された一定値である。
【0032】
モード判定部21は、キーオン時に一度だけエンジン10が冷態始動であるか否かを判定する。モード判定部21は、温度センサ16で検出された実水温WTと所定温度WT
Sとを比較し、実水温WTが所定温度WT
S未満であれば冷態始動であると判定し、実水温WTが所定温度WT
S以上であれば温態始動であると判定する。なお、この所定温度WT
Sは、エンジン10が冷態であるか温態であるかを判断するための閾値であり、始動時判定温度WT
Sと呼ぶ。
【0033】
モード判定部21は、エンジン10が冷態始動であると判定したときのみ、エンジン10の回転数Neからエンジン10が作動している通常の走行モードであるか、エンジン10が自動停止しているエンストモードであるかを判定する。エンジン10がキーオフされていないにもかかわらず自動停止している(すなわち、回転数Neがゼロである)と判定したときは、エンストモードであると判定する。その後、エンジン10が再始動されたら、再始動時から所定時間t
Aが経過するまでの間はエンストモードであると判定し、所定時間t
Aを経過した後は通常の走行モードであると判定する。
【0034】
ここで、通常の走行モードとエンストモードとを区別するのは、以下の推定水温算出部22における推定水温WTcの推定精度を確保するためである。エンジン10が自動停止するとウォータポンプ12も停止するため、冷却水が冷却流路11内を循環しなくなる。そのため、エンジン10が作動しているときに用いていた演算手法で推定水温WTcを算出すると、実水温WTとの差が大きくなってしまい、故障診断の精度を低下させてしまうからである。
【0035】
また、エンジン10の自動停止中だけでなく、エンジン10の再始動時から所定時間t
Aが経過するまでをエンストモードとする理由について説明する。エンジン10が再始動すると、冷却水は再び冷却流路11内を循環し始める。しかし、エンジン10の再始動直後は、水温推定箇所の冷却水の受熱状態と放熱状態とが不安定であるため、冷却水の推定精度が低い場合がある。また、エンジン10の自動停止中に冷却流路11内を漂っていた冷却水には、位置によって温度のむらが生じ、温度の低い部分もあればそれほど温度が低下していない部分もある。そのため、エンジン10の再始動直後から温度センサ16で検出される実水温WTの値にはばらつきが生じ、故障診断の精度が低下する場合もある。そこで、エンジン10の自動停止後の再始動後、少なくとも冷却水の温度のむらがなくなる程度に冷却流路11内を循環するまで待機する。この待機時間が所定時間t
Aである。なお、モード判定部21によるモード判定は、故障判定が一度実施された後は実施されない。
【0036】
推定水温算出部(推定水温算出手段)22は、通常の走行モードとエンストモードとで異なる手法により冷却水の温度(推定水温)WTcを推定する。推定水温算出部22は、通常の走行モードでは、単位時間当たりの冷却水の受熱量(受熱状態)Q
Aと放熱量(放熱状態)Q
Cとからトータルの熱量(総熱量)Q
Tを求め、この総熱量Q
Tから水温変化量(温度変化量)ΔWTcを求める。そして、この水温変化量ΔWTcを足し合わせることで推定水温WTcを算出する。なお、単位時間当たりの水温変化量ΔWTcは温度勾配(傾き)に対応する。なお、冷却水の受熱量Q
A及び放熱量Q
Cは、例えばエンジン10の回転数Neや車速V等に基づいて算出される。
【0037】
一方、推定水温算出部22は、エンストモードでは、エンストモードに入る直前(すなわち、エンジン10の自動停止直前)に算出した推定水温WTcを開始温度WTc
0として、この開始温度WTc
0に温度センサ16で検出された実水温WTの温度挙動を適用することでエンストモードでの推定水温WTcを算出する。つまりエンストモードでの推定水温WTcは、開始温度WTc
0から実水温WTと同じ温度勾配で温度が変化するものとして算出される。これは、推定水温WTcは通常の走行モードでは上記したように冷却水の受熱量Q
Aと放熱量Q
Cとを用いて算出されるところ、エンジン10の自動停止中ではこの演算手法を用いることができないため、通常の走行モードで用いる演算手法で推定水温WTcを算出すると、推定精度が低下してしまうからである。
【0038】
故障診断部(故障診断手段)23は、温度センサ16で検出された実水温WTと、推定水温算出部22で算出された推定水温WTcとを比較することで、サーモスタット14が開弁故障しているか否かを診断するものである。サーモスタット14が正常である場合は、エンジン10の冷態始動時は冷却水の実水温WTが低いため、サーモスタット14は閉弁し、ラジエータ13を迂回して循環する。これにより冷却水は速やかに昇温されるため、実水温WTは推定水温WTcよりも早く上昇する。一方、サーモスタット14が開弁故障している場合は、冷却水はエンジン10の冷態始動時からラジエータ13へ導かれるため、昇温されるまでに時間を要し、推定水温WTcの方が実水温WTよりも先に上昇する。故障診断部23は、このような温度上昇の違いを用いてサーモスタット14の開弁故障を診断する。
【0039】
故障診断部23は、以下の条件(1)〜(3)が全て成立したときにサーモスタット14は「開弁故障している」と診断する。
(1)実水温WTが所定温度WT
TH未満である。
(2)推定水温WTcが所定温度WT
TH以上である。
(3)条件(2)の成立時から、条件(2)が成立している状態が所定時間t
B経過した。
また、故障診断部23は、以下の条件(4)が成立したときにサーモスタット14は「正常である」と診断する。
(4)実水温WTが所定温度WT
TH以上である。
【0040】
つまり、条件(2)が成立していても、条件(1)が成立しなくなったとき、言い換えると条件(4)が成立したときは、サーモスタット14は「正常である」と診断される。なお、ここでいう所定温度WT
THは、サーモスタット14が正常であるか否かを診断するための閾値温度である。また、故障診断部23は、条件(3)について、ここでは条件(2)の成立時にカウンタ(以下、このカウンタを故障診断カウンタともいう)をスタートさせ、カウンタ値Nが所定値N
THに達したときに成立したと診断する。なお、ここでいう所定値N
THは、所定時間t
Bに対応する値である。
【0041】
故障診断部23は、モード判定部21で判定されたモードが通常の走行モードである場合は、故障診断カウンタのカウンタ値Nを積算し、故障診断を実施する。一方、モード判定部21で判定されたモードがエンストモードである場合は、故障診断カウンタを一時停止させ、カウンタ値Nの積算を中断する。そして、エンストモードから通常の走行モードへ移行したとき(エンストモードの解除時)に、故障診断カウンタを再スタートさせて故障判定を再開し、一時停止直前のカウンタ値Nから積算を再開する。つまり、故障診断を実施するのはエンストモード以外の通常の走行モードのみである。これは、エンストモードでは、推定水温WTcを実水温WTの挙動に合わせて算出するという簡易な手法で推定するため、サーモスタット14の故障診断の誤判定を確実に防止するためである。
【0042】
以下、
図2及び
図3を用いて、本故障診断装置によるサーモスタット14の故障診断について説明する。
図2及び
図3において、(a)はエンジン回転数Ne,(b)はモード,(c)は冷却水の温度,(d)は故障診断カウンタの経時変化をそれぞれ示す。なお、
図2(b)及び
図3(b)において、ONはエンストモードであることを意味し、OFFはエンストモードではない(すなわち、通常の走行モードである)ことを意味する。
【0043】
図2(a),(b)及び
図3(a),(b)に示すように、エンジン10の始動時t
0の冷却水の実水温WTが、始動時判定温度WT
S未満である冷態始動において、時刻t
1でエンジン10が自動停止し、時刻t
2でエンジン10が再始動したとする。時刻t
1からt
2まではエンジン回転数Neがゼロとなり、それ以外の時間では所定の値となる。なお、
図2(a)及び
図3(a)では回転数Neが一定になっているが、回転数Neの大きさは特に限られない。また、エンジン回転数Neがゼロになった時刻t
1において車両はエンストモードになり、エンジン10が再始動した時刻t
2から所定時間t
Aが経過した時刻t
3までエンストモードが継続する。そして、時刻t
3において通常の走行モードへ移行する。なお、時刻t
0からt
1までの時間も通常の走行モードである。
【0044】
冷却水の実水温WTは、通常の走行モードでは上昇し、エンストモードでは緩やかに低下する。サーモスタット14が正常である場合は、
図2(c)に示すように、実水温WTは速やかに昇温され、推定水温WTcよりも先に所定温度WT
TH以上となる。このときの時刻をt
4とすると、故障診断部23は、時刻t
4において上記条件(4)が成立したためサーモスタット14が「正常である」と診断する。
【0045】
なお、冷却水の推定水温WTcは、通常の走行モードでは上述した演算手法によって求められ、実水温WTよりもやや小さな値となるものの、同じような挙動で上昇する。また、エンストモードでは、エンストモードに移行する直前(時刻t
1)の推定水温WTcを開始温度WTc
0とし、この開始温度WTc
0に実水温WTの温度挙動が適用される。つまり、時刻t
1からt
3までのエンストモードでは、実水温WTの温度勾配と同一の温度勾配で推定水温WTcが変化する。
【0046】
図2(d)には故障診断カウンタを示す。この故障診断カウンタは、上記条件(2)が成立したときにカウントをスタートさせる。ここでは、時刻t
4においてサーモスタット14が正常であると診断されるため、カウンタ値Nはゼロのまま変化しない。
【0047】
一方、サーモスタット14が開弁故障している場合は、
図3(c)に示すように、冷却水がラジエータ13を流通するため実水温WTはなかなか昇温されず、推定水温WTcの方が先に所定温度WT
TH以上となる。このときの時刻をt
5とすると、故障診断部23は、時刻t
5において上記条件(1)に加えて条件(2)も成立したため故障診断カウンタをスタートさせる。カウンタ値Nを積算している時刻t
1において車両がエンストモードに移行すると、故障診断カウンタは一時停止され、時刻t
1でのカウンタ値Nを保持する。
【0048】
時刻t
1からt
3までのエンストモードでは、開始水温WTc
0に実水温WTの挙動が適用されて、エンストモードでの推定水温WTcが実水温WTと同じ傾きになるように算出される。エンストモード解除時の時刻t
3では、推定水温WTcが所定温度WT
TH未満であるため、カウンタ値Nは保持されたままとなる。そして再び推定水温WTcが所定温度WT
TH以上となった時刻t
6で条件(1)及び(2)が成立するため、故障診断カウンタが再開され、保持されていたカウンタ値Nから積算が再スタートされる。条件(1)及び(2)が成立した状態が継続されると、時刻t
7においてカウンタ値Nが所定値N
THに達し、条件(3)も成立となるため、故障診断部23は、サーモスタット14が「開弁故障している」と診断する。
【0049】
[3.フローチャート]
次に、
図4〜
図6を用いて車両ECU20で実行されるサーモスタット14の故障診断の手順の例を説明する。
図4(a),(b)はモード判定部21で実行されるフローチャート、
図5は推定水温算出部22で実行されるフローチャート、
図6は故障診断部23で実行されるフローチャートである。これらのフローチャートは、それぞれ、キーオンと共にスタートされ、予め設定された所定周期(例えば、数十[ms]サイクル)で繰り返し実施される。
【0050】
まず、モード判定部21で実行されるフローチャートについて説明する。
図4(a)に示すように、ステップM10では、温度センサ16により実水温WTが検出され、ステップM20では、実水温WTが始動時判定温度WT
S未満であるか否かが判定される。ステップM20は、エンジン10が冷態始動であるか否かの判定であり、実水温WTが始動時判定温度WT
S未満であればステップM30へ進み、始動時判定温度WT
S以上であればステップM35へ進む。ステップM30では、フラグZがZ=1に設定され、ステップM35では、フラグZがZ=0に設定される。フラグZは、エンジン10が冷態始動であるのか、それとも温態始動であるのかを意味するものであり、Z=1が冷態始動,Z=0が温態始動にそれぞれ対応する。なお、初期値はZ=0に設定されている。
【0051】
ステップM30でフラグZ=1に設定された場合は、ステップM40において、ステップM10で検出された実水温WTが初期実水温WT(0)として記憶され、ステップM50において、ステップM10で検出された実水温WTが初期推定水温WTc(0)として記憶され、このフローを終了する。一方、ステップM35でフラグZ=0に設定された場合は、このフローを終了する。つまり、
図4(a)のフローは、キーオンされた後一度だけ実施される。
【0052】
図4(b)に示すように、ステップS10では、フラグZがZ=1であるか否かが判定され、Z=1であればステップS20へ進み、Z=0であればこのフローを終了する。つまり、このフローは冷態始動時のみ実施される。ステップS20では、フラグGがG=0であるか否かが判定され、G=1であればステップS30へ進み、G=0であればステップS22へ進む。ここで、フラグGは、故障診断部23による診断が実施されたか否かを意味するものであり、G=0が未診断であり、G=1が診断済みであることを意味する。なお、初期値はG=0に設定されている。
【0053】
ステップS30では、回転数センサ17によりエンジン回転数Neが検出され、ステップS40では、エンジン回転数Neがゼロより大きいか否かが判定される。エンジン回転数NeがNe>0の場合は、通常の走行モードであるか、あるいはエンジン10が自動停止した後の再始動後所定時間t
A内のエンストモードであるため、続くステップS50において通常の走行モードであるかエンストモードであるかを判断すべく、フラグFがF=1であるか否かが判定される。ここで、フラグFは、通常の走行モードであるか、それともエンストモードであるかを意味するものであり、F=0が通常の走行モード,F=1がエンストモードにそれぞれ対応する。なお、初期値はF=0に設定されている。
【0054】
ステップS40においてエンジン回転数NeがNe>0であり、且つステップS50においてフラグFがF=0であるときは、通常の走行モードであると判断されて、フラグFをF=0のまま維持し、この演算周期での制御を終了する。一方、ステップS40においてエンジン回転数NeがNe>0であり、且つステップS50においてフラグFがF=1であるときは、エンジン10の自動停止後の再始動後所定時間t
A内のエンストモードであると判断され、ステップS60以降のステップが実施される。
【0055】
また、ステップS40でエンジン回転数NeがNe>0ではない(すなわち、Ne=0である)と判定されたときは、ステップS45においてキーオンであるか否かが判定され、エンジン回転数NeがNe=0であり且つキーオンの場合はエンストモードであると判断される。そして、ステップS105へ進んでフラグFがF=1に設定され、この演算周期での制御を終了する。
【0056】
次以降の演算周期においても、フラグGがG=0であって、エンジン回転数NeがNe=0且つキーオンであれば、ステップS105においてフラグFがF=1に設定され続ける。そして、エンジン10が再始動されるとエンジン回転数Neがゼロよりも大きくなるため、ステップS50へ進み、フラグFの判定が実施される。ここでは、フラグFがF=1であるため、ステップS60へ進む。
【0057】
ステップS60では、フラグXがX=0であるか否かが判定される。このフラグXは、タイマAが計測中であるか否かをチェックするための変数であり、X=0がタイマA停止中,X=1がタイマA計測中にそれぞれ対応する。なお、初期値はX=0に設定されている。このタイマAは、エンジン10が再始動されたときからの時間を計測するものである。つまり、エンジン回転数NeがNe>0であり、フラグFがF=1且つフラグXがX=0であるときは、
図2及び
図3の時刻t
2の状態に該当するので、ステップS70において所定時間t
Aを計測するためにタイマAをスタートさせる。次いでステップS80ではフラグXがX=1に設定され、ステップS90ではタイマAが所定時間t
A以上であるか否かが判定される。タイマAの計測開始時(すなわち、
図2及び
図3の時刻t
2)から所定時間t
Aが経過していなければ、この演算周期での制御を終了する。
【0058】
次の演算周期で、フラグGがG=0であってエンジン回転数Ne>0であれば、ステップS50でフラグFが判定され、続くステップS60でフラグXが判定される。この演算周期ではすでにタイマAが計測を開始しているため、NOルートからステップS90の判定へ進んでフローが繰り返される。ステップS90でタイマAが所定時間t
A以上になったら、ステップS100でフラグFがF=0に設定され、ステップS110でタイマAがストップ,リセットされ、ステップS120でフラグXがX=0にゼロリセットされて、この演算周期での制御を終了する。つまり、エンジン10の再始動時から所定時間t
Aが経過したら、通常の走行モードへ移行する。
【0059】
ステップS20においてフラグGがG=1であると判定された場合は、ステップS22,S24,S26へ進み、フラグZ,フラグF及びフラグGがすべてゼロリセットされた後、このフローを終了する。つまり、故障診断部23による診断が一度実施されるまで(フラグGがG=1に設定されるまで)、又は、キーオフされるまで、本フローチャートが繰り返し実行される。
【0060】
次に推定水温算出部22で実行されるフローチャートについて説明する。
図5に示すように、ステップP10では、フラグZがZ=1であるか否かが判定され、Z=1であればステップP20へ進み、Z=0であればこのフローを終了する。また、ステップP20では、フラグGがG=0であるか否かが判定され、G=1であればこのフローを終了する。つまり、このフローは冷態始動時であって、故障診断部23による診断が行われていない場合にのみ実施される。
【0061】
フラグGがG=0であればステップP30へ進み、前回の演算周期での推定水温WTc(n-1)を取得する。なお、
図5のフローチャートでは、今回の演算周期を(n)で表し、前回の演算周期を(n-1)で表す。また、最初の演算周期(すなわちn=1)では、
図4(a)のステップM40,M50で設定した初期値が用いられる。
【0062】
ステップP40では、フラグFがF=0であるか否かが判定され、F=0(通常の走行モード)であれば、ステップP50へ進む。ステップP50では総熱量Q
Tが演算され、ステップP60では水温変化量ΔWTcが演算され、ステップP70では、ステップP30で取得した推定水温WTc(n-1)にステップP60で演算した水温変化量ΔWTcが加算されて、今回の演算周期での推定水温WTc(n)が演算される。そして、この演算周期での制御を終了する。
【0063】
一方、F=1(エンストモード)であれば、ステップP45へ進み、前回の演算周期での実水温WT(n-1)が取得される。続くステップP55では今回の演算周期での実水温WT(n)が検出され、ステップP65では実水温WTの変化量ΔWTが演算される。そして、ステップP75では、ステップP30で取得した推定水温WTc(n-1)にステップP65で演算した実水温の変化量ΔWTが加算されて、今回の演算周期での推定水温WTc(n)が演算され、この演算周期での制御を終了する。つまり、エンストモードでの推定水温WTcは、実水温WTの変化量ΔWTが加算されて算出される。
【0064】
最後に故障診断部23で実行されるフローチャートについて説明する。
図6に示すように、ステップR10では、フラグZがZ=1であるか否かが判定され、Z=1であればステップR20へ進み、Z=0であればこのフローを終了する。つまり、このフローは冷態始動時のみ実施される。ステップR20では、フラグFがF=0であるか否かが判定され、F=0であればステップR30へ進み、F=1であればステップR140へ進む。
【0065】
通常の走行モード(F=0)の場合、ステップR30では実水温WTが検出され、ステップR40では推定水温WTcが取得される。ステップR50では、実水温WTが所定温度WT
TH未満であるか否かが判定される。実水温WTが所定温度WT
TH未満であればステップR60に進み、推定水温WTcが所定温度WT
TH以上であるか否かが判定される。推定水温WTcが所定温度WT
TH未満のときは、この演算周期での制御を終了する。一方、実水温WTが所定温度WT
TH未満のときに推定水温WTcが所定温度WT
TH以上であれば、サーモスタット14が開弁故障している可能性があるため、故障診断カウンタをスタートさせて故障診断を実施する。まず、ステップR70においてフラグYがY=0であるか否かが判定される。ここでフラグYは、故障診断カウンタが積算しているか否かをチェックする変数であり、Y=0がカウンタ停止中,Y=1がカウンタ積算中にそれぞれ対応する。なお、初期値はY=0に設定されている。
【0066】
故障診断カウンタが停止中であれば、ステップR80においてカウンタがスタートされ、ステップR90でフラグYがY=1に設定される。次いでステップR100ではカウンタ値Nが所定値N
TH以上であるか否かが判定される。カウンタ値Nが所定値N
TH未満のときはこの演算周期での制御を終了する。次周期ではフラグYがY=1であるため、ステップR70の判定でNOルートへ進み、ステップR85においてカウンタ値Nが積算される。なお、ステップR85において前回のカウンタ値Nに加算される加算値N
0は、フローが実施される所定周期と所定値N
TH(所定時間t
B)に応じて設定される。
【0067】
カウンタ値Nが積算された結果、ステップR100においてカウンタ値Nが所定値N
TH以上であると判定されると、ステップR110へ進み、サーモスタット14は「開弁故障している」と診断される。そして、ステップR110でフラグG及びYがそれぞれG=1,Y=0に設定され、ステップR130でカウンタがストップ,リセットされてこのフローを終了する。
【0068】
ステップR50において、実水温WTが所定温度WT
TH以上であればステップR170へ進み、サーモスタット14は「正常である」と診断される。つまり、サーモスタット14が故障していると診断される前に実水温WTが所定温度WT
THに達した場合は、ステップR170において正常であると診断され、ステップR180でフラグGがG=1に設定される。なお、このとき故障診断カウンタが積算中の場合(フラグYがY=1の場合)は、ステップR190の判定でYESルートからステップR200へ進んでカウンタがストップ,リセットされ、ステップR210でフラグYがゼロリセットされてフローを終了する。また、故障診断カウンタが停止していれば(フラグYがY=0の場合)、そのままフローを終了する。
【0069】
また、エンストモード(F=1)の場合、ステップR20からステップR140へ進み、フラグYがY=1であるか否かが判定される。つまり、故障診断カウンタが積算中であるか否かが判定され、積算中(Y=1)であれば、ステップR150においてカウンタの積算が中断され、その時のカウンタ値Nが保持される。そして、ステップR160でフラグYがY=0に設定されて、この演算周期での制御を終了する。また、ステップR140において故障診断カウンタが停止中(Y=0)であれば、そのままこの演算周期での制御を終了する。
【0070】
[4.効果]
したがって、本実施形態に係るサーモスタット14の故障診断装置によれば、実水温WTと推定水温WTcとを比較してサーモスタット14が開弁故障しているか否かを診断する装置において、少なくともエンジン10の自動停止中を含むエンストモードでは、エンジン10の自動停止直前に算出された推定水温WTcに実水温WTの温度挙動を適用してエンストモードでの推定水温WTcが算出される。そのため、エンジン10の自動停止中における推定水温WTcの推定精度の低下を防止することができる。
【0071】
つまり、エンストモードでの推定水温WTcを実水温WTの温度挙動から求めるため、実際の冷却水の温度変化(すなわち実水温WTの変化)から大幅にずれるようなことがなく、エンジン10の自動停止中であっても冷却水の温度推定精度を確保することができる。これにより、推定精度の高い推定水温WTcを用いてサーモスタット14の故障診断を行うことできるので、故障診断の精度を向上させることができる。また、自動停止直前に算出した推定水温WTcに実水温WTの温度挙動を適用するだけの構成なので、演算負荷の増大を抑制することができ、簡素な構成とすることができる。
【0072】
また、エンストモードでは、推定水温算出部22によって推定水温WTcが実水温WTの温度勾配と同一の温度勾配で変化するものとして算出されるため、簡素な構成で冷却水の温度推定精度を確保することができる。
また、本実施形態では、モード判定部21がエンジン10の自動停止中だけでなく、エンジン10の自動停止後の再始動時から所定時間t
Aが経過するまでの間もエンストモードであると判定するため、冷却水の温度推定精度を確保することができると共に、故障診断の精度も確保することができる。
【0073】
また、故障診断部23が、エンストモードでは実水温WTと推定水温WTcとの比較を中断し、エンストモードの解除時にこの比較を再開するため、正常/故障の誤診断を確実に防止することができる。つまり、エンストモードでは、推定水温WTcを簡易な手法で算出しているため、この期間での故障診断を一時中断することで、間違った診断結果を導くことがないようにできる。
【0074】
[5.その他]
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形することが可能である。
上記実施形態では、モード判定部21によりエンストモードであると判定される時間が、エンジン10の自動停止時からエンジン10の再始動後所定時間t
Aが経過するまでとされ、さらに所定時間t
Aは予め設定された一定値である場合を説明したが、エンストモードはこれに限られない。
【0075】
例えば、所定時間t
Aをエンジン10の自動停止中における実水温WTの変化量ΔWTに応じて増減させてもよい。つまり、モード判定部21が、予め基準となる所定時間t
Aを記憶しておき、エンジン10の自動停止中に推定水温算出部22で算出される実水温WTの変化量ΔWTが大きければこの所定時間t
Aを延長し、反対に実水温WTの変化量ΔWTが小さければこの所定時間t
Aを短縮する構成としてもよい。言い換えると、エンジン10の再始動後における冷却水の温度のむらがなくなるまでの待機時間(所定時間t
A)を、実水温WTの変化量ΔWTが大きいときは温度むらがなくなるまでに時間がかかると考えて所定時間t
Aを延長し、反対に実水温WTの変化量ΔWTが小さければ温度むらは比較的早くなくなると考えて所定時間t
Aを短縮する。これにより、エンストモードを適切に設定することができる。
【0076】
なお、基準となる所定時間は、上記実施形態で説明した所定時間t
Aと同一であってもよく、異なる時間であってもよい。また、エンジン10の自動停止中における実水温WTの変化量ΔWTに代えて、エンジン10が自動停止している時間(自動停止時間)に応じて所定時間を増減させてもよい。これは、自動停止時間が長ければ実水温WTの変化量ΔWTは大きくなり、自動停止時間が短ければ実水温WTの変化量ΔWTは小さくなるため、エンジン10の自動停止中における実水温WTの変化量ΔWTと停止時間とは相関関係を有するからである。
【0077】
また、モード判定部21は、エンジン10の自動停止中のみをエンストモードとして判定する構成であってもよい。つまり、エンジン10の再始動後の所定時間t
Aはエンストモードに含めない構成であってもよい。これにより、エンジン10の回転数Neのみをモニタしていればエンストモードであるか否かを判断することができるため、制御構成がより簡素化される。
【0078】
また、推定水温算出部22は、エンストモードではサーモスタット14の故障診断が中断される場合は、推定水温WTcの算出をエンストモード解除時のみ行ってもよい。つまり、推定水温WTcをエンストモードの間常にモニタしていなくてもよく、エンストモードに入る直前に算出した推定水温WTc(開始温度WTc
0)から、エンストモード中(
図2,
図3の時刻t
1〜t
3)の実水温WTの変化量ΔWT
1-3(ΔWT
1-3<0)を加算することで、エンストモード解除時(時刻t
3)での推定水温WTcを算出してもよい。これにより、推定水温WTcをより簡単に算出することができる。
なお、エンストモード中においても故障診断を継続してもよい。この場合は、実水温WTの挙動を常時モニタし、推定水温WTcの演算に適用すればよい。
【0079】
また、故障診断部23は、上記条件(3)について、上記条件(2)の成立時にタイマをスタートさせ、所定時間t
Bが経過したときに成立したと判定してもよい。また、故障診断部23によりサーモスタット14が開弁故障していると判断される条件は、上記した条件(1)〜(3)に限られない。例えば、条件(1)と(2)とで所定温度WT
THが異なっていてもよいし、条件(3)は必ずしもなくてもよい。
【0080】
また、上記した通常の走行モードでの推定水温WTcの演算手法やフローチャートは一例に過ぎず、他の演算手法やフローチャートを用いて演算してもよい。
また、本サーモスタットの故障診断装置は、エンジンが搭載された様々な車両に適用可能である。