特許第5906994号(P5906994)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5906994
(24)【登録日】2016年4月1日
(45)【発行日】2016年4月20日
(54)【発明の名称】アルミニウム合金部材の面ろう付け方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 1/19 20060101AFI20160407BHJP
   B23K 3/00 20060101ALI20160407BHJP
   B23K 31/02 20060101ALI20160407BHJP
   B23K 3/06 20060101ALI20160407BHJP
   C22C 21/02 20060101ALI20160407BHJP
   B23K 35/22 20060101ALI20160407BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20160407BHJP
   B23K 35/14 20060101ALI20160407BHJP
   B23K 35/28 20060101ALI20160407BHJP
   B23K 35/363 20060101ALN20160407BHJP
   B23K 35/40 20060101ALN20160407BHJP
   B23K 101/14 20060101ALN20160407BHJP
【FI】
   B23K1/19 E
   B23K3/00 A
   B23K1/19 G
   B23K31/02 310B
   B23K3/06 P
   C22C21/02
   B23K35/22 310E
   C22C21/00 D
   C22C21/00 E
   C22C21/00 J
   B23K35/14 F
   B23K35/28 310B
   !B23K35/363 H
   !B23K35/40 340J
   B23K101:14
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-183326(P2012-183326)
(22)【出願日】2012年8月22日
(65)【公開番号】特開2014-39947(P2014-39947A)
(43)【公開日】2014年3月6日
【審査請求日】2015年1月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116621
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 萬里
(72)【発明者】
【氏名】小久保 貴訓
(72)【発明者】
【氏名】堀 久司
(72)【発明者】
【氏名】富樫 亮介
【審査官】 山崎 孔徳
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−071335(JP,A)
【文献】 特開2007−190592(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 1/19
B23K 3/00
B23K 3/06
B23K 31/02
B23K 35/14
B23K 35/22
B23K 35/28
C22C 21/00
C22C 21/02
B23K 35/363
B23K 35/40
B23K 101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al−Si−Mg系合金のろう材からなる単層ブレージングシートを用いて固相線温度が610℃以上であるアルミニウム合金部材同士を面ろう付けする際、前記単層ブレージングシートと前記アルミニウム合金部材とのろう付け面にフラックスを塗布せずに、平面視で面積の大きい方のアルミニウム合金部材の表面であって、前記ろう付け面の周縁から離間した領域にフラックスを塗布し、前記単層ブレージングシートをアルミニウム合金部材同士の間に挟みこみ面接触させた状態で、不活性ガス雰囲気下、所定のろう付け温度に保持しつつ、面圧を付加しながらアルミニウム合金部材同士をろう付けすることを特徴とするアルミニウム合金部材の面ろう付け方法。
【請求項2】
前記Al−Si−Mg系合金のろう材として、Si:3.0〜12質量%、Mg:0.1〜0.35質量%を含み、残部がAl及び不可避的不純物からなる成分組成を有する合金を用いる請求項1に記載のアルミニウム合金部材の面ろう付け方法。
【請求項3】
前記ろう付け面の周縁からの離間距離を0.5〜35mmの範囲とする請求項1または2に記載のアルミニウム合金部材の面ろう付け方法。
【請求項4】
前記フラックスの塗布量を2〜40g/mとする請求項1〜3のいずれかに記載のアルミニウム合金部材の面ろう付け方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金部材同士を、単層ブレージングシートを用いて不活性ガス雰囲気中で面ろう付けする際に、健全なフィレットを形成することが可能なアルミニウム合金部材の面ろう付け方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばアルミニウム熱交換器のフィン材とチューブ材のろう付けに見られるように、これまでのろう付け技術は、フィレット形状が得られるような線接触を基本としていた。このようなろう付け法では、例えば下板がブレージングシートでありその上に板状のフィンを垂直に接合する場合に、溶融したろう材がブレージングシート上を流動してフィレットを形成することとなる。
このような線接触を基本とするろう付け技術においては、ろう付け加熱中の酸化を抑制するため、大気中または不活性ガス雰囲気中においてフラックスを使用してろう付けすることが一般的に行なわれている。
【0003】
例えば特許文献1では、非腐食性フラックスと金属粉末を用いてろう付けされる部材であって、Fe:0.7〜2.5wt%、Mn:0.5〜2.0wt%の1種または2種を含有し、Mg:0.2wt%以下であり、非腐食性フラックスと金属粉末を塗布する表面から20μmの深さにおいて最大径で5μmを超える第2相粒子の数が200個/mm2 以下であることを特徴としたろう付け用アルミニウム材が提唱されている。
これによると、クラッド材を使用しないろう付け法に従い、ろうの流動性が良好で優れたフィレットを形成でき、強度にも優れたろう付け用アルミニウム材が提供される。
【0004】
ところで、近年、車載用IGBT等の発熱を面接触で冷却する熱交換システムの需要が高まっており、アルミニウム部材の面同士をろう材によって面ろう付けする技術が必要となっている。
例えば特許文献2には、Cu:23〜37質量%,Si:4〜10質量%を含み、残部がAl及び不可避的不純物からなる組成と10〜100μmの平均粒径を有する粉末状アルミニウム合金ろう材と、固形分として11質量%以上のCsFを含むフッ化物系フラックスとを分散媒に懸濁させたアルミニウム合金ろう材スラリーを、ろう付けされるアルミニウム合金鋳物又は他方の被ろう付け部材のろう付け部表面に塗布した後、アルミニウム合金ろう材スラリーが塗布されたろう付け部に他方の被ろう付け部材を組み付け、その組み付け体を加熱することを特徴とするアルミニウム合金鋳物のろう付け方法が提唱されている。
この方法によると、濡れ性及び耐食性に強いろう材を使用して、炉内ろう付けでも健全な接合部が得られるアルミニウム合金鋳物の低温ろう付け方法が提供される。
【0005】
この面ろう付け技術においては、粉末状ろう材とフラックスを含む混合スラリーを、被ろう付け部材のろう付け部表面に塗布した後、被ろう付け部材同士を組み付け、その組み付け体を加熱している。このため、接合部に空隙欠陥等が生じやすく、フラックスを封じ込めやすい構造となっている。したがって、アルミニウム合金部材の面同士をろう材によって面ろう付けする技術は、前記フィレット形成を基本とするろう付け技術に比べて非常に難しい技術となっている。
【0006】
一方、近年では、Al−Si系合金ろう材を芯材にクラッドしたブレージングシートを不活性ガス中で無フラックスろう付けする方法が開発されている。
例えば引用文献3には、質量%で、Mgを0.1〜5.0%、Siを3〜13%含有するAl−Si系ろう材が最表面に位置するアルミニウムクラッド材を用いて、減圧を伴わない非酸化性雰囲気で、前記Al−Si系ろう材とろう付け対象部材とを接触密着させて加熱し、前記芯材と前記ろう付け対象部材とを接合する方法が提示されている。
この方法によると、フラックスや真空設備を必要とせずに大気圧下でのフラックスレスろう付けが可能になり、ろう材以外の被ろう付け構成部材へMgを添加した場合にもろう付け阻害要因とはならないとのことである。
【0007】
しかしながら、上記特許文献3に記載のろう付け方法では、芯材とろう材とからなる2層以上のクラッド材を使用している。このクラッド材をブレージングシートとしてアルミニウム合金部材同士の面ろう付けに適用するためには、前記クラッド材を芯材の両面にろう材を配置した3層のものとする必要があり、クラッド材の製造が煩雑になりコストアップを伴う。
そこで、本発明者等は、従来技術に比べ低コストで品質の安定した面ろう付け法について鋭意検討を重ねる過程で、特許文献4に示されるような単層ブレージングシートによって2つのアルミニウム合金部材同士を不活性ガス雰囲気下において無フラックスで面ろう付けする技術を提案した。
【0008】
前記特許文献4で提案した方法は、固相線温度が570℃以上であるアルミニウム合金部材同士の間に、Si:3〜12質量%、Mg:0.1〜5.0質量%を含み、残部がAl及び不可避的不純物からなる成分組成を有し、厚さ15〜200μmのろう材からなる単層ブレージングシートを挟みこみ面接触させた状態で、不活性ガス雰囲気下で、ろう付け温度570℃以上に保持しつつ、0.6gf/mm以上の面圧を付加しながら無フラックスでアルミニウム合金部材同士をろう付けしようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平09−194976号公報
【特許文献2】特開2007−83271号公報
【特許文献3】特許第4547032号公報
【特許文献4】特開2012−71335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、この技術によると、単層ブレージングシートを挟み込んだ2つのアルミニウム合金部材同士に所定の圧力以上の圧力を付与しながらろう付け加熱を行う必要がある。このため、ろう付け加熱時に溶融したろう材がアルミニウム合金部材同士の間から流れ出してしまい、ろう付け面の周縁に健全なフィレットが形成されないという壁に突き当たった。
【0011】
一方で、前述のように車載用IGBT等の発熱を面接触で冷却する熱交換システムの需要が高まっており、このような熱交換システムに使用されるアルミニウム部材の面同士を面ろう付けする場合、ろう付け面の周縁に健全なフィレットを形成することが必要となっている。仮にろう付け面の周縁に健全なフィレットが形成されていない場合には、熱交換システムの使用時の熱サイクルによって接合界面に繰り返し応力が掛り、サイクル疲労のため接合界面に存在するろう材に亀裂が入る可能性が高まる。
本発明は、このような課題を解決するために案出されたものであり、単層ブレージングシートによって2つのアルミニウム合金部材同士を面ろう付けするとともに、さらにろう付け面の周縁に健全なフィレットを形成できる面ろう付け法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のアルミニウム合金部材の面ろう付け方法は、その目的を達成するために、Al−Si−Mg系合金のろう材からなる単層ブレージングシートを用いて固相線温度が610℃以上であるアルミニウム合金部材同士を面ろう付けする際、前記単層ブレージングシートと前記アルミニウム合金部材とのろう付け面にフラックスを塗布せずに、平面視で面積の大きい方のアルミニウム合金部材の表面であって、前記ろう付け面の周縁から離間した領域にフラックスを塗布し、前記単層ブレージングシートをアルミニウム合金部材同士の間に挟みこみ面接触させた状態で、不活性ガス雰囲気下、所定のろう付け温度に保持しつつ、面圧を付加しながらアルミニウム合金部材同士をろう付けすることを特徴とする。
【0013】
Al−Si−Mg系合金のろう材として、Si:3.0〜12質量%、Mg:0.1〜0.35質量%を含み、残部がAl及び不可避的不純物からなる成分組成を有する合金を用いることが好ましい。
また、前記ろう付け面の周縁から0.5〜35mmの範囲で離間した領域にフラックスを塗布することが好ましい。
さらに、前記フラックスの塗布量は、2〜40g/mとすることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明により提供されるアルミニウム合金部材の面ろう付け方法によると、単層ブレージングシートによって2つのアルミニウム合金部材を2つのアルミニウム合金部材間に面圧を付加して面ろう付けするとともに、ろう付け面の周縁に健全なフィレットを形成することができる。
2層又は3層以上のクラッド材からなるブレージングシートを用いるのではなく、単層のブレージングシートを用いているため、全体として低コスト化が図れる。また、単層ブレージングシートとアルミニウム合金部材とのろう付け面にフラックスを塗布せずに、2つのアルミニウム合金部材間に面圧を付加してろう付けしているため、両アルミニウム合金部材間に発生しやすい空隙欠陥等を抑制することができ、結果として品質の安定した面ろう付けが行える。さらに、平面視で面積の大きい一方のアルミニウム合金部材の表面であって、ろう付け面の周縁から離間した領域にフラックスを塗布しているため、ろう付け面の周縁に健全なフィレットを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】試験片の形状、配置を説明する図
図2】試験片の組み付けを説明する概念図
図3】試験片の切断位置、観察位置を説明する図
図4】フィレットの「のど厚」を説明する図
図5】のど厚が150μm以上のフィレットの断面金属組織
図6】のど厚が150μm未満のフィレットの断面金属組織
図7】ろう材中のMg添加量の影響を示す図
図8】フラックス塗布位置の影響を示す図
図9】フラックス塗布量の影響を示す図
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
通常、面ろう付けする際は、ろう材の表面及びアルミニウム合金部材のろう付け面にフラックスを塗布し、接合するアルミニウム合金部材の面同士の間にろう材を挿入してろう付け加熱を行なうため、接合部に空隙欠陥等が生じやすく、フラックスを封じ込めやすい構造となってしまう。このため、ろう付け製品の品質にバラツキが生じ易い。
また、従来の無フラックス面ろう付け法では、2層又は3層以上のクラッド材をブレージングシートとして用いているためにコスト高となっている。さらに、従来の無フラックス面ろう付け法では、無フラックスであるがゆえに溶融したろう材がアルミニウム合金部材同士の間から流れ出してしまい、ろう付け面の周縁に健全なフィレットが形成されにくいといった問題があった。
【0017】
前述のように車載用IGBT等の発熱を面接触で冷却する熱交換システムの需要が高まっており、このような熱交換システムに使用されるアルミニウム部材の面同士を面ろう付けする場合、ろう付け面の周縁に健全なフィレットを形成することが必要となる。仮にろう付け面の周縁に健全なフィレットが形成されていない場合には、熱交換システムの使用時の熱サイクルによって接合界面に繰り返し応力が掛り、サイクル疲労のため接合界面に存在するろう材に亀裂が入る可能性が高まる。
そこで、本発明者等は、ろう材の表面及びアルミニウム合金部材のろう付け面にフラックスを塗布することなしに、従来技術に比べ低コストで品質が安定し、ろう付け面の周縁に健全なフィレットを形成できる面ろう付け法について鋭意検討を重ねる過程で、本発明に到達した。
以下にその詳細を説明する。
【0018】
まず本発明は、ろう付け面にはフラックスを塗布することなく、2つのアルミニウム合金部材同士の間にろう材からなる単層ブレージングシートを挟み込み面接触させた状態で、単層ブレージングシートを十分に溶解させてアルミニウム合金部材同士の界面をろう材で濡らして面ろう付けしようとするものである。
2つのアルミニウム合金部材のうち、一方のアルミニウム合金部材がアルミニウム合金板であってもよいし、両方ともアルミニウム合金板であっても構わない。例えばアルミニウム合金製の部品同士が連結できるように係合部を設けて、当該係合部に単層ブレージングシートを挟み込める部位を設けるようにしてもよい。要するに本発明において、被接合材はアルミニウム合金板に限定されず、少なくとも一部にろう付け可能な平滑面を有するアルミニウム合金製のものであれば何であってもよい。
【0019】
Al−Si−Mg系のろう材を用いてろう付けするとき、当該ろう材を十分に溶解するためには、580℃以上の温度でろう付けする必要がある。このため、被接合材であるアルミニウム合金部材としては、その固相線温度が610℃以上のアルミニウム合金からなるものが好ましい。具体的には、AA1000系のものが好ましい。
被接合材であるアルミニウム合金部材の固相線温度が610℃に満たないものである場合、ろう付け加熱中に、アルミニウム合金部材の一部が溶解し、付加している圧力のためにアルミニウム合金部材そのものが変形してしまう可能性がある。
より好ましいアルミニウム合金部材の固相線温度は615℃以上である。さらに好ましいアルミニウム合金部材の固相線温度は620℃以上である。
【0020】
本発明の第一の特徴点は、コストを抑えるためにブレージングシートとして、所定の組成と厚みを有するろう材単層からなるものを使用した点にある。
そこで、まず、ろう材及びそれを薄板としたブレージングシートについて説明する。
ろう材として、Si:3.0〜12質量%、Mg:0.1〜0.35質量%を含み、残部がAl及び不可避的不純物からなる成分組成を有する合金を用いる。
【0021】
Si:3.0〜12質量%
Siは、その含有量によって単層ブレージングシートの液相線の温度を下げるとともに、面ろう付け中の濡れ性を改善するための元素である。ろう材に含まれるSi量が、3.0質量%未満であると、単層ブレージングシートの液相線の温度が高くなりすぎて、所定のろう付け温度に到達しても単層ブレージングシートの溶解が不十分となり、十分なろう付け強度が得られない可能性がある。ろう材に含まれるSi量が、12質量%を超えると、鋳造中に鋳塊中央部に初晶Siが析出(晶出)する可能性が高くなり、仮に健全な熱延板が得られたとしてもミクロ的に均質な組織の単層ブレージングシートを得ることが困難となる。
したがって、ろう材のSi含有量は、3.0〜12質量%の範囲とする。より好ましいSi含有量は、4.0〜12質量%の範囲である。さらに好ましいSi含有量は、5.0〜12質量%の範囲である。
【0022】
Mg:0.1〜0.35質量%
Mgは、自らが酸化されることにより、還元剤として作用するため、ろう付け加熱によるアルミニウム合金板と単層ブレージングシートのろう材との界面におけるアルミニウムの酸化を抑制し、面ろう付け中の濡れ性を改善するための元素であると考えられる。
ろう材に含まれるMg量が0.1質量%未満であると、ろう付け温度などにもよるが、その効果が不十分となり、十分なろう付け強度が得られない可能性がある。ろう材に含まれるMg量が0.35質量%を超えると、ろう付け加熱中に、ろう付け面の周縁にまで拡散した溶融フラックスが溶融ろう材に接触し、ろう材に含まれるMgと反応することで、フラックスの機能が損なわれて、健全なフィレットが形成されない。
したがって、ろう材のMg含有量は、0.1〜0.35質量%の範囲とする。より好ましいMg含有量は、0.1〜0.32質量%の範囲である。さらに好ましいMg含有量は、0.1〜0.3質量%の範囲である。
【0023】
不可避的不純物としてはFe、Cu、Mn、Zn等が挙げられるが、これら元素については、Fe:1.0質量%未満、Cu:1.0質量%未満、Mn:1.0質量%未満、Zn:1.0質量%未満の範囲であれば、本発明の効果を妨げるものではない。したがって、不可避的不純物としての前記成分含有量はそれぞれ1.0質量%未満とすることが好ましい。
【0024】
また、その他の不純物元素として、Cr、Ni、Zr、Ti、V、B、Sr、Sb、Ca、Na等も考えられるが、Cr:0.5質量%未満、Ni:0.5質量%未満、Zr:0.2質量%未満、Ti:0.2質量%未満、V:0.1質量%未満、B:0.05質量%未満、Sr:0.05質量%未満、Sb:0.05質量%未満、Ca:0.05質量%未満、Na:0.01質量%未満の範囲であれば、本発明に係る単層ブレージングシートの性能特性を大きく阻害することがないため、不可避的不純物として含んでいてもよい。Pb、Bi、Sn、Inについては、それぞれ0.02質量%未満、その他各0.02質量%未満であって、この範囲で管理外元素を含有しても本発明の効果を妨げるものではない。
【0025】
ろう材からなる単層ブレージングシート
本発明では、上記ろう材を薄板とし、単層ブレージングシートとして用いる。その厚みは、健全な面ろう付けを達成できる厚みであればよい。厚みが15μm未満であると、十分なろう付け強度が得られない可能性がある。厚みが200μmを超えると、接合面から染み出すろう材の量が多くなりすぎて、コスト高となる。
したがって、ろう材からなる単層ブレージングシートの厚みの範囲は、15〜200μmとする。より好ましい厚みの範囲は、15〜150μmである。さらに好ましい厚みの範囲は、20〜100μmである。
【0026】
ろう材からなる単層ブレージングシートの製造方法
例えば、100μm厚さのろう材からなる単層ブレージングシートであれば、以下のように製造する。
原料となるインゴット、スクラップ等を配合し、溶解炉に投入して、所定のろう材組成からなるアルミニウム溶湯を溶製する。溶解炉は、バーナーの火炎によって直接原料を加熱溶解するバーナー炉が一般的である。アルミニウム溶湯が所定の温度、例えば、800℃に達した後、適量の除滓用フラックスを投入して、攪拌棒により溶湯の攪拌を行い、全ての原料を溶解する。その後、成分調整のため、追加の原料、例えばMg等を投入し、30〜60分程度の鎮静を行った後、表面に浮遊するメタル滓を除去する。アルミニウム溶湯が所定の温度、例えば、740℃にまで冷却された後、出湯口から樋に出湯し、必要に応じて、インライン回転脱ガス装置、CFFフィルター等を通し鋳造を開始する。なお、溶解炉と保持炉が併設されている場合には、溶解炉で溶製された溶湯を保持炉に移湯した後、保持炉でさらに鎮静等を行ってから鋳造を開始する。
【0027】
DC鋳造機のジャケットは、1本注ぎであってもよいが、生産効率を重視する多本注ぎのものであってもよい。例えば、700mm×450mmのサイズの水冷式鋳型内に、ディップチューブ、フロートを通して注湯しながら、鋳造速度60mm/minで下型を下げ、水冷式鋳型下部において凝固シェル層に対して直接水冷(Direct Chill)を行いつつ、サンプ内の溶湯を凝固冷却せしめ、所定の寸法、例えば、700mm×450mm×4500mm寸法のスラブを得る。鋳造終了後、スラブの先端、後端を切断して片面25mmの両面面削を施し、400mm厚さとしたスラブをソーキング炉に挿入して、450〜540℃×1〜12時間の均質化処理(HO処理)を施す。均質化処理後、スラブをソーキング炉から取り出して、熱間圧延機によって何パスかの熱間圧延を施して、例えば、6mm厚の熱間圧延板コイル(Reroll)を得る。
【0028】
この6mm厚の熱間圧延板コイルに何パスかの冷間圧延を施して、所定の厚さ、例えば、100μm厚さのろう材からなる単層ブレージングシートを得る。なお、冷間圧延工程において、冷間圧延板の加工硬化が著しい場合には、必要に応じて、コイルをアニーラーに挿入し、保持温度300〜450℃の中間焼鈍処理を施して、冷間圧延板を軟化させることが望ましい。
【0029】
本発明の第二の特徴点は、単層ブレージングシートとアルミニウム合金部材とのろう付け面にフラックスを塗布せずに、平面視で面積の大きい一方のアルミニウム合金部材の表面であって、前記ろう付け面の周縁から離間した領域にフラックスを塗布する点にある。
そこで、次にフラックスの塗布形態について説明する。
なお、本明細書中におけるろう付け面とは、ろう付け加熱前の組み付けの状態で、単層ブレージングシートの表面のうち、他方のアルミニウム合金部材と接触している面、或いは一方のアルミニウム合金部材の表面のうち、平面視で他方のアルミニウム合金部材と重複する面、のことを意味する。
【0030】
一般的に、単層ブレージングシートとアルミニウム合金部材とのろう付け面にフラックスが塗布されている場合には、前述のようにろう付け面に空隙欠陥等が生じやすく、フラックスを封じ込めてしまう可能性がある。具体的には、他方のアルミニウム合金部材とろう材との接触面や、或いは一方のアルミニウム合金部材の表面であって、平面視して他方のアルミニウム合金部材と重複する面に直接フラックスを塗布すると、ろう付け加熱中に溶融したフラックスがろう付け面に取り込まれて、ろう付け面にフラックス起因の欠陥が発生する可能性が高まる。
【0031】
そこで、本発明では、このろう付け面にはフラックスを塗布せずに、平面視で面積の大きい一方のアルミニウム合金部材の表面であって、前記ろう付け面の周縁から離間した領域にフラックスを塗布することにした。
平面視で面積の大きい一方のアルミニウム合金部材の表面であって、前記ろう付け面の周縁から離間した領域にフラックスを塗布し、
このような領域にフラックスを塗布しておけば、ろう付け加熱の際、塗布されたフラックスは溶融し、平面視で面積の大きい一方のアルミニウム合金部材の表面を拡散して、他方のアルミニウム合金部材の周縁(ろう付け面の周縁)にまで到達する。このようにして、ろう付け面の周縁に到達した溶融フラックスは、そのままその周縁に滞留し、ろう付け面に浸透することなく、溶融ろう材とアルミニウム合金部材との濡れ性を改善して、ろう付け面の周縁に健全なフィレットを形成させる。
【0032】
ろう付け加熱前の組み付けの状態で、平面視で面積の大きい一方のアルミニウム合金部材の表面のうち、単層ブレージングシートと接触していない面であればもちろんフラックスを塗布しても構わない。また、平面視で面積の大きい一方のアルミニウム合金部材の表面のうち、単層ブレージングシートと接触している面であっても、平面視で他のアルミニウム合金部材と重複していない面であれば、上記ろう付け面の定義から外れるのでフラックスを塗布しても構わない。このような場合であっても、組付け後であればろう付け面に所定の面圧を付加しているため、フラックスが単層ブレージングシートとアルミニウム合金部材のろう付け面に浸透することはなく、ろう付け加熱の際にフラックスをろう付け面の内部に封じ込めてしまう可能性は低い。
【0033】
例えば、ろう付け加熱前に、サイズの異なる二つのアルミニウム合金部材の間に単層ブレージングシートを挟み込むような場合、単層ブレージングシートの表面が平面視で面積の小さい方のアルミニウム合金部材の縁から所定の幅だけはみ出すように設定する場合もある。このような場合、面積の小さい方のアルミニウム合金部材の縁からはみ出している単層型ブレージングシートの表面はろう付け面ではないので、この表面上にフラックスを塗布してもかまわない。このような場合であっても、組付け後であれば、ろう付け面に所定の面圧を付加しているため、フラックスがアルミニウム合金部材同士のろう付け面に浸透することはなく、ろう付け加熱の際にフラックスをろう付け面の内部に封じ込めてしまう可能性は低い。また溶融したフラックスは、ろう付け面の縁に滞留し易く、ろう付け面の品質を劣化させることなく、溶融ろう材のアルミニウム合金部材との濡れ性を改善して健全なフィレットを形成させる。
【0034】
ろう付け面は平面であることが望ましいが、必ずしも平面でなくてもよい。例えば、平面視で面積の大きい一方のアルミニウム合金部材には、円柱状の凹面が形成され、平面視で面積の小さい他方のアルミニウム合金部材には、円柱状の凸面が形成され、前記凹面と前記凸面とが嵌め合わせ可能となっており、その嵌め合わせ面に、曲げ加工された単層ブレージングシートを挟み込んで面ろう付けを行ってもよい。
【0035】
なお、フラックスを塗布する領域は、平面視で面積の大きい一方のアルミニウム合金部材の表面であって、ろう付け面の縁から僅かに離間している必要がある。フラックス塗布位置(ろう付け面の周縁からフラックス塗布領域までの最短距離)が35mmを超える場合、ろう付け条件やフラックス塗布量にもよるが、溶融フラックスがろう付け面の周縁に十分に供給されず、健全なフィレットが形成されない可能性が高くなる。
フラックスの塗布精度等も考慮すると、好ましい前記フラックス塗布位置は、0.5〜35mmの範囲である。より好ましいフラックス塗布位置は、0.5〜30mmの範囲である。さらに好ましいフラックス塗布位置は、1.0〜30mmの範囲である。
【0036】
また、好ましいフラックスの塗布量は、2〜40g/mの範囲である。フラックスの塗布量が2g/m未満であると、フラックス塗布位置にもよるが、ろう付け面の周縁へのフラックス供給が不足するため、健全なフィレットを形成することができない。フラックスの塗布量が40g/mを超えても、健全なフィレットを形成するという効果はそれ以上高まることは期待できず、むしろフラックスの使用量が増加して生産コストが高まる。より好ましいフラックスの塗布量は、2〜35g/mの範囲である。
【0037】
フラックスの塗布は、予め一方のアルミニウム合金部材の表面に所定の領域のみシールを施した上で、その上から溶媒、フラックス、バインダー等を混合したスラリーをロール印刷して行ってもよいし、さらに溶媒で薄めた混合液をエアースプレーして行ってもよい。或いは、予めアルミニウム合金部材にシールを施すことなく、他方のアルミニウム合金部材の周囲に溶媒、フラックス、バインダー等を混合したスラリーを筆などによって、適量塗布してもよい。フラックスとしては、例えば、フッ化物系非腐食性フラックスが挙げられ、代表的な化合物形態としては、KAlF,KAlF,KAlF,AlF,KF,CsF等が挙げられる。これらフラックスは単独で使用するよりも、混合して使用するほうが共晶組成に近づき融点が下がるのでより好ましい。また、前述のように好ましいフラックスの塗布量は、2〜40g/mの範囲である。
【0038】
不活性ガス雰囲気下で
前述のようにAl−Si−Mg系合金のろう材からなる単層ブレージングシートを十分に溶解して、アルミニウム合金部材同士の界面を濡らして面ろう付けするためには、少なくとも保持温度580℃以上で所定時間保持することが必要である。
このため、ろう付け加熱中であっても、アルミニウム合金部材のろう付け面の表面或いは単層ブレージングシートのろう材面の酸化を抑制するために、不活性ガス雰囲気下で面ろう付けを行う必要がある。
【0039】
不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等が使用できる。また、不活性ガス中の酸素濃度は、500ppm以下であることが好ましい。不活性ガス中の酸素濃度が500ppmを超えると、面ろう付け後の接合強度(せん断応力)が低下する。より好ましい不活性ガス中の酸素濃度は100ppmである。さらに好ましい不活性ガス中の酸素濃度は10ppm以下である。具体的には、工業用窒素ガスについては、酸素濃度10ppm以下と規格が定められているので、コスト面からも工業用窒素ガスを使用することが最も好ましい。
もちろん、ろう付け加熱中、ろう付け温度保持中及び冷却中は、加熱装置内を不活性ガス雰囲気で充満しておくことが好ましい。しかしながら、電磁誘導加熱のように急速加熱する場合には所定の保持温度に到達する前に、不活性ガスを噴射して加熱装置内の大気を不活性ガスに置換してもよい。
【0040】
面圧を付加しながら
本発明に係る面ろう付け方法において、所定の組成のAl−Si−Mg系合金のろう材からなる単層ブレージングシートを溶解して、ろう材とアルミニウム合金部材とを面接触させた状態で、ろう付け加熱を行うが、この際接合面に対して1.0gf/mm以上(0.01MPa以上)の面圧を付加しながら、所定のろう付け温度で保持する必要がある。もちろん、ろう付け加熱時には面圧を付加せずに、所定の保持温度に到達してから、接合面に対して1.0gf/mm以上の面圧を付加して面ろう付けを行ってもよい。
面圧が1.0gf/mm未満の場合、十分なろう付け強度を得ることができない。もちろん、面ろう付け後のろう付け強度を十分に確保するためには接合面に対して付加する面圧は高い方が好ましい。したがって、より好ましい面圧は5.0gf/mm以上(0.05MPa以上)である。さらに好ましい面圧は10gf/mm以上(0.1MPa以上)である。
【0041】
所定のろう付け温度に保持しつつ
本発明に係る面ろう付け方法において、所定の組成の単層ブレージングシート(ろう材)を溶解して、アルミニウム合金部材同士の界面を濡らして、確実に面ろう付けを行い、十分なろう付け強度を確保するためには、少なくともろう付け温度580℃以上である必要がある。
ろう付け温度が580℃未満である場合には、ろう材の溶解が不十分となり、十分なろう付け強度が得られない。もちろん、保持温度が高い方がより十分なろう付け強度が得られる。したがって、より好ましい保持温度は、585℃以上とする。さらに好ましい保持温度は、590℃以上である。
ろう付け温度における保持時間は、2分以上であることが好ましい。ろう付け温度にもよるが、保持時間が2分未満であると、接合面における温度の不均一によって、十分なろう付け強度が得られない。より好ましい保持時間は、5分以上である。
【実施例】
【0042】
単層ブレージングシートの作製
所定の各種インゴットを計量、配合して、離型材を塗布した#30坩堝に9kgずつ(計5試料)の原材料を装入装填した。これら坩堝を電気炉内に挿入して、760℃で溶解して滓を除去し、その後、溶湯温度を740℃に保持した。次に小型回転脱ガス装置によって、溶湯に流量1Nl/分で窒素ガスを10分間吹き込み、脱ガス処理を行った。その後30分間の鎮静を行なって溶湯表面に浮上した滓を攪拌棒にて除去し、さらにスプーンで成分分析用鋳型にディスクサンプルを採取した。
次いで、治具を用いて順次坩堝を電気炉内から取り出し、200℃に予熱しておいた5個の金型(70mm×70mm×15mm)にアルミニウム溶湯を鋳込んだ。各ろう材試料のディスクサンプルは、発光分光分析によって、組成分析を行なった。その結果を表1に示す。
【0043】
【0044】
鋳塊は、押し湯を切断後、両面を3mmずつ面削して、厚み9mmとした。電気加熱炉にこの鋳塊を装入して、100℃/hrの昇温速度で480℃まで加熱し、480℃×1時間の均質化処理を行い、続いて熱間圧延機にて3mm厚さにまで熱間圧延を施した。
この後、熱間圧延板に冷間圧延を施して、1.2mm厚さの冷延板とし、軟化させるために390℃×2時間の1次中間焼鈍を施した。さらに冷間圧延を施して、0.3mm厚さの冷延板とし、軟化させるため390℃×2時間の2次中間焼鈍を施した。さらに冷間圧延を施して、0.06mm(60μm)の最終冷間圧延板とした。この最終冷間圧延板を所定の大きさ(26mm×26mm)に切断して、複数枚の単層ブレージングシートとした。
【0045】
試験片の作製
図1に示すように、AA1050合金製のブロックA(40mm×40mm×4mm)における40mm×40mmの面上中央に、シール(27mm×27mm)を貼り付けて、質量を測定した。さらにフッ化物フラックスと水の混合液をスプレーにて、40mm×40mmの面上に所定の量を塗布して、200℃で乾燥させた後、質量を測定した。フラックス塗布前/塗布後における質量差を塗布面積(1.6×10mm)で除して、フラックス塗布量(g/m)を算出した。さらにシールを剥がして、フラックスの塗布されていない領域(27mm×27mm)の面上中央に単層ブレージングシート(25mm×25mm×60μm)を載置し、さらに上記単層ブレージングシート(25mm×25mm)の面上中央にAA1050合金製のブロックB(25mm×25mm×3mm)における25mm×25mmの面を重ねた。
【0046】
図2に示すように、治具を使用してブロックBの上面に皿バネをセットして1.5MPaの圧力を付与し、試験炉内に組み上げたブロック等を挿入した。ブロックAに取り付けた熱電対によって実体温度を測定しつつ、PID制御により600℃まで50℃/分の速度で加熱し、600℃のろう付け温度で5分間保持した後、抵抗線への出力をOFFとして、組み上げたブロック等を炉冷した。ブロックAに取り付けた熱電対が500℃以下を示した後、組み上げたブロック等を炉から取り出して室温まで空冷した。加熱中の雰囲気は工業用窒素ガス(酸素濃度10ppm以下の窒素)を使用して調整した。
【0047】
フィレット形成率の測定
図3に示すように、ろう付け後のブロックABにおいて、○印の6箇所について、断面ミクロ組織観察を行って、フィレット形成率を測定した。ここにおけるフィレット形成率とは、ろう付け後のブロックAB内で健全なフィレットが形成されていた箇所の数を、全観察箇所の6で割った値のことである。健全なフィレットが形成されている否かの判定は、図4に示すようにフィレット部の「のど厚」を測定することによって行った。のど厚が150μm以上のフィレットが観察された箇所は、健全なフィレットが形成されたと判定した。のど厚が150μm未満のフィレットが観察された箇所、あるいはフィレットが全く観察されなかった箇所は、健全なフィレットが形成されなかったとして判定した。図5図6に、それぞれ「のど厚」が150μm以上のフィレットの断面金属組織、「のど厚」が150μm未満のフィレットの断面金属組織の例を示す。
【0048】
上述のようにして、フィレット形成率に及ぼす、(1)ろう材中のMg添加量の影響、(2)フラックス塗布位置(ブロックBの周縁からフラックス塗布領域までの最短距離)の影響、(3)フラックス塗布量の影響、について調査した。但し、(2)フラックス塗布位置の影響を調査する際には、ブロックAのサイズを変化させる(48mm×48mm×4mm、68mm×68mm×4mm、98mm×98mm×4mm、118mm×118mm×4mm)とともに、シールについても各種サイズ(35×35mm、55×55mm、85×85mm、105×105mm)のものを使用することで、フラックス塗布位置を調節した。
【0049】
その結果を表2〜4、及び図7〜9に示す。なお、以下に示す実施例の図表中にあって、特に細かい条件の表示がないものについては、C合金ろう材(Mg添加量:0.19質量%)を用い、フラックス塗布位置を1mmに設定し、フラックス塗布量を10g/mに設定して、上記ろう付け条件下でろう付けを行って、接合ブロックABの作製を行った。
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
表2、図7に示すように、フィレット形成率に及ぼすろう材中のMg添加量の影響についてみると、ろう材に含まれるMg量が0.29質量%以下であれば、フィレット形成率が6/6(100%)であった。ろう材に含まれるMg量が0.51質量%の場合、フィレット形成率は2/6(33%)であった。ろう材に含まれるMg量が0.1質量%未満であると、十分なろう付け強度が得られない可能性があることも考慮すると、好ましいろう材のMg含有量は、0.1〜0.35質量%の範囲である。
【0054】
表3、図8に示すように、フィレット形成率に及ぼすフラックス塗布位置(ブロックBの周縁からフラックス塗布領域までの最短距離)の影響についてみると、フラックス塗布位置が30mm以下であれば、フィレット形成率が6/6(100%)であった。また、フラックス塗布位置が40mmである場合、フィレット形成率は0/6(0%)であった。また、フラックスの塗布精度等も考慮すると、好ましいフラックス塗布位置は、0.5〜35mmの範囲である。
【0055】
表4、図9に示すように、フィレット形成率に及ぼすフラックス塗布量の影響についてみると、フラックス塗布量が3g/m以上であれば、フィレット形成率は6/6(100%)であった。また、フラックス塗布量が1g/mの場合であっても、フィレット形成率は5/6(83%)を示しており、フラックスを塗布しない場合のフィレット形成率である1/6(17%)よりも遥かに高く、フィレット形成率の向上に寄与したことが明らかである。フラックスの塗布量が40g/mを超えても、健全なフィレットを形成するという効果はそれ以上高まることは期待できず、むしろフラックスの使用量が増加して生産コストが高まることも考慮すると、好ましいフラックス塗布量は2〜40g/mの範囲である。
【0056】
以上のように本発明によると、単層ブレージングシートによって2つのアルミニウム合金部材同士を面ろう付けするとともに、さらにろう付け面の周縁に健全なフィレットを形成できる面ろう付け法を提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図7
図8
図9
図5
図6