(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記結合糸は、前記積層繊維層の厚さ方向の一方の面側において前記一方の面側に配列される前記抜け止め糸を囲繞してループ状に折り返して前記積層繊維層に挿入される部分と、前記積層繊維層の他方の面側に沿って配列される部分とが交互に繰り返し、かつ前記積層繊維層と直交する方向に配列される部分は、前記積層繊維層の他方の面側において前記他方の面側に配列される前記抜け止め糸に両側から挟持されている請求項1に記載の三次元繊維構造体。
前記積層繊維層の厚さ方向の他方の面側において前記結合糸のループ状に折り返した部分と反対側の部分を挟持する前記他方の面側に配列される前記抜け止め糸は、前記結合糸が前記積層繊維層の他方の面側で折り返されるループ内に配置される抜け止め糸にそれぞれ異なる糸が用いられている請求項2に記載の三次元繊維構造体。
前記積層繊維層の厚さ方向の他方の面側において前記結合糸のループ状に折り返した部分と反対側の部分を挟持する前記抜け止め糸は、前記結合糸のピッチを埋める幅に形成されている請求項2に記載の三次元繊維構造体。
前記抜け止め糸は、前記結合糸のピッチを埋める幅に形成され、前記結合糸は、前記積層繊維層の厚さ方向の一方の面側において前記一方の面側に配列される前記抜け止め糸と接触して前記抜け止め糸の幅方向に配列される部分と、前記積層繊維層を貫通するように配列される部分と、前記積層繊維層の厚さ方向の他方の面側において前記他方の面側に配列される前記抜け止め糸と接触して前記抜け止め糸の幅方向に配列される部分とが交互に連続するように配列されている請求項1に記載の三次元繊維構造体。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の三次元繊維強化樹脂複合材は、面外方向糸54に有機繊維を使用することにより、無機繊維に比べてマトリックス樹脂と熱的性質が近く、クラックの原因となる内部ひずみが減少する。また、1000デニール以下の細い糸を使用することにより、
図9に矢印A,Bで示す箇所、即ち面外方向糸54のループ内や面外方向糸54及び耳糸55の太さ分生じる治具と面内方向糸53の隙間における樹脂溜まりを減少させる方策として有効である。
【0006】
ところが、これらの対策では、
図9において矢印Cで示す部分、即ち面外方向糸54の根元部の樹脂溜まりを減少させる方策としては、面外方向糸54の張力を上げられないという背反が伴い有効ではない。また、面外方向糸54の張力を上げることができないと、一般的な構造用CFRP(炭素繊維強化樹脂)材の繊維体積含有率(Vf55%程度)を実現できないという問題がある。
【0007】
本発明は、前記の問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、繊維強化樹脂の強化基材として使用した際に、樹脂溜まりの減少と繊維体積含有率の向上とを両立させることができる三次元繊維構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する三次元繊維構造体は、繊維層が積層された少なくとも2軸配向となる積層繊維層が、各繊維層と直交する方向に配列された結合糸で結合されて構成されている。そして、前記結合糸は、前記積層繊維層の厚さ方向の両面において、それぞれ前記積層繊維層の外側に配列された抜け止め糸と係合して折り返すように配列され、前記抜け止め糸は、前記結合糸の配列面と交差する方向に配列されている。
【0009】
この構成によれば、積層繊維層の厚さ方向の両面における積層繊維層の外側にそれぞれ抜け止め糸が配列されており、かつ抜け止め糸は、結合糸の配列面と交差する方向に配列されているため、積層繊維層の外側で折り返すように配列される結合糸が配列面内で配列面内方向への移動が抑制される。また、抜け止め糸に張力を掛ける事で結合糸の根元部の樹脂溜まりの拡大を抑制する事が可能なので、結合糸の張力を高めることにより繊維体積含有率を高めることが可能になる。したがって、三次元繊維構造体を繊維強化樹脂の強化基材として使用した際に、樹脂溜まりの減少と繊維体積含有率の向上とを両立させることができる。
【0010】
前記結合糸は、前記積層繊維層の厚さ方向の一方の面側において前記一方の面側に配列される前記抜け止め糸を囲繞してループ状に折り返して前記積層繊維層に挿入される部分と、前記積層繊維層の他方の面側に沿って配列される部分とが交互に繰り返し、かつ前記積層繊維層と直交する方向に配列される部分は、前記積層繊維層の他方の面側において前記他方の面側に配列される前記抜け止め糸に両側から挟持されている。
【0011】
この構成によれば、結合糸は、積層繊維層の厚さ方向の一方の面側において抜け止め糸を囲繞してループ状に折り返して積層繊維層に挿入されるため、結合糸は実質的に積層繊維層の同じ位置に2本挿入された状態になる。したがって、三次元繊維構造体を繊維強化樹脂の強化基材として使用した際に、積層繊維層の厚さ方向に対する強度が向上する。
【0012】
前記積層繊維層の厚さ方向の他方の面側において前記結合糸のループ状に折り返した部分と反対側の部分を挟持する前記他方の面側に配列される前記抜け止め糸は、前記結合糸が前記積層繊維層の他方の面側で折り返されるループ内に配置される抜け止め糸にそれぞれ異なる糸が用いられている。この構成によれば、結合糸のループ状に折り返した部分と反対側の部分を挟持する抜け止め糸が結合糸の移動を抑制する効果は、抜け止め糸として幅広の繊維束を使用して1本の抜け止め糸が、その幅方向の両側においてそれぞれ異なる位置に挿入された結合糸を挟持する構成に比べて大きくなる。
【0013】
前記積層繊維層の厚さ方向の他方の面側において前記結合糸のループ状に折り返した部分と反対側の部分を挟持する前記抜け止め糸は、前記結合糸のピッチを埋める幅に形成されている。この構成によれば、結合糸のループ状に折り返した部分と反対側の部分を挟持する抜け止め糸が結合糸のピッチを埋める幅に形成されていない構成に比べて、三次元繊維構造体の結合糸がループ状に折り返した部分と反対側の面の凹部の割合が少なくなる。したがって、三次元繊維構造体を繊維強化樹脂の強化基材として使用した際に、樹脂溜まりの減少割合が大きくなる。
【0014】
前記抜け止め糸は、前記結合糸のピッチを埋める幅に形成され、前記結合糸は、前記積層繊維層の厚さ方向の一方の面側において前記一方の面側に配列される前記抜け止め糸と接触して前記抜け止め糸の幅方向に配列される部分と、前記積層繊維層を貫通するように配列される部分と、前記積層繊維層の厚さ方向の他方の面側において前記他方の面側に配列される前記抜け止め糸と接触して前記抜け止め糸の幅方向に配列される部分とが交互に連続するように配列されている。
【0015】
この構成によれば、結合糸が積層繊維層の厚さ方向の一方の面側において抜け止め糸を囲繞してループ状に折り返して積層繊維層に挿入される構成と異なり、ループ状に折り返す部分の内側における樹脂溜まりをなくすことができる。また、抜け止め糸として偏平な繊維束を使用することにより、積層繊維層の厚さ方向の一方の面側において結合糸に接する仮想平面と、積層繊維層の厚さ方向の一方の面との距離が小さくなる。したがって、三次元繊維構造体を繊維強化樹脂の強化基材として使用した際に、繊維強化樹脂の表面の樹脂溜まりの減少割合が大きくなる。
【0016】
前記抜け止め糸は、前記結合糸と同じ太さの繊維束を開繊したものが使用されている。この構成によれば、抜け止め糸として結合糸と太さの異なる繊維束を使用する場合と異なり、同じ繊維束を結合糸及び抜け止め糸に使用することができるため、管理が容易になる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、繊維強化樹脂の強化基材として使用した際に、樹脂溜まりの減少と繊維体積含有率の向上とを両立させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1の実施形態)
以下、三次元繊維構造体の第1の実施形態を
図1〜
図4にしたがって説明する。
図1に示すように、三次元繊維構造体10は、繊維層11が積層された少なくとも2軸配向となる積層繊維層12が、各繊維層11と直交する方向に配列された結合糸としての厚さ方向糸zで結合されて構成されている。厚さ方向糸zは、積層繊維層12の厚さ方向の両面において、それぞれ積層繊維層12の外側に配列された抜け止め糸13a,13bと係合して積層繊維層12の厚さ方向に配列される部分のピッチが一定間隔で折り返すように配列されている。抜け止め糸13a,13bは、厚さ方向糸zの配列面Pzと交差する方向(この実施形態では直交方向)に配列されている。
【0020】
図2に示すように、この実施形態では、積層繊維層12は、配列角度0度の連続繊維から成る繊維層11aと、配列角度90度の連続繊維から成る繊維層11bと、配列角度45度の連続繊維から成る繊維層11cと、配列角度−45度の連続繊維から成る繊維層11dとが、所定数積層されて擬似等方性に構成されている。そして、積層繊維層12の厚さ方向の両面にそれぞれ配列角度45度の連続繊維から成る繊維層11cが配列されている。連続繊維は三次元繊維構造体10の厚さ方向(
図2の上下方向)と直交する面内に配列される面内配列糸となる。
【0021】
図2に示すように、厚さ方向糸zは、積層繊維層12の厚さ方向の一方の面側において抜け止め糸13aを囲繞してループ状に折り返して積層繊維層12に挿入される部分と、積層繊維層12の他方の面側に沿って配列される部分とが交互に繰り返す。厚さ方向糸zの積層繊維層12と直交する方向に配列される部分は、積層繊維層12の他方の面側において抜け止め糸13b,13bに両側から挟持されている。
【0022】
積層繊維層12の厚さ方向の他方の面側において、厚さ方向糸zのループ状に折り返した部分と反対側の部分を挟持する抜け止め糸13bは、厚さ方向糸zが積層繊維層12の他方の面側で折り返されるループL内に配置される抜け止め糸13b1と抜け止め糸13b2とにそれぞれ異なる糸が用いられている。
【0023】
連続繊維、抜け止め糸13a,13b及び厚さ方向糸zとしては、例えば、炭素繊維が使用される。炭素繊維はフィラメント数が数百〜数万本程度であり、要求性能に適した本数の繊維束が選択される。抜け止め糸13a,13b及び厚さ方向糸zとしては基本的に同じ太さの繊維束が使用される。また、抜け止め糸13a,13b及び厚さ方向糸zは連続繊維と同じ太さであってもよいが、連続繊維より細い方が好ましい。
【0024】
次に前記のように構成された三次元繊維構造体10の製造方法の一例を説明する。三次元繊維構造体10は、積層繊維層12に公知の方法、例えば特開平8−218249号公報に開示されている方法と基本的に同様の方法により厚さ方向糸zを挿入する。即ち、積層繊維層12の厚さ方向に、先端に備えた孔に厚さ方向糸zを掛止した複数本の挿入針を、各挿入針の孔が積層繊維層12を貫通するまで挿入した後、各挿入針をわずかに後退させて厚さ方向糸zがループ状になった部分に抜け止め糸13aを挿入する。その状態で挿入針を引き戻し、抜け止め糸13aに張力を加えた状態で、厚さ方向糸zにより抜け止め糸13aを締め付けて各繊維層11を結合する。以下同様に、挿入針を所定ピッチ移動した位置で同様に挿入針の挿入動作と、抜け止め糸の挿入動作と、挿入針の後退動作を行う。
【0025】
従来は、厚さ方向糸zのループと係合する状態で厚さ方向糸zの抜け止めを図る抜け止め糸13aのみが存在したが、この実施形態の三次元繊維構造体10は、積層繊維層12の抜け止め糸13aが存在する側と反対側にも抜け止め糸13bが存在する。そして、2本の抜け止め糸13bが、厚さ方向糸zのループ状に折り返した部分と反対側の部分を挟持する。この抜け止め糸13bの配列工程が存在する点が従来の製造方法と異なる。
【0026】
抜け止め糸13bの配列工程では、挿入針の一部が積層繊維層12に挿入された状態で1本の抜け止め糸13b(抜け止め糸13b1)が挿入針と係合する状態で積層繊維層12の他方の面側に配列される。そして、挿入針が積層繊維層12を貫通して厚さ方向糸zのループ状に折り返した部分に抜け止め糸13aが挿入された後、挿入針を挟むように2本目の抜け止め糸13b(抜け止め糸13b2)が積層繊維層12の他方の面側に配列される。その状態で挿入針が引き戻されて、厚さ方向糸zが両抜け止め糸13bの間に挿入された後、両抜け止め糸13bに張力が加えられた状態で、挿入針が次の挿入位置へ移動する。以下、同様にして挿入針の挿入、1本目の抜け止め糸13b(抜け止め糸13b1)の配列、厚さ方向糸zのループ内への抜け止め糸13aの挿入、2本目の抜け止め糸13b(抜け止め糸13b2)の配列、挿入針の引き戻し、両抜け止め糸13bへの張力付与が順に行われる。
【0027】
厚さ方向糸zに張力を加えてループ状に折り返した部分を引き戻すとともに、抜け止め糸13a,13bにより積層繊維層12に圧縮力を加える際、厚さ方向糸zには折り返し状に配列された根元部に対して、
図2に矢印で示すように、2本で平行に配列された厚さ方向糸zの間隔を拡げる方向の力が加わる。このとき、厚さ方向糸zの根元部を挟持するように配列された2本の抜け止め糸13b(抜け止め糸13b1及び抜け止め糸13b2)が、その力に抗するように機能するため、厚さ方向糸zの根元部の間隔が拡がること(目開き)を抑制する。そのため、積層繊維層12に大きな圧縮力を加えても支障なく、繊維体積密度を高めることができる。
【0028】
一方、従来技術のように抜け止め糸13bがない場合は、厚さ方向糸zの根元部は面内配列糸で挟まれた状態になる。面内配列糸は抜け止め糸13a,13bと異なり、大きな張力を加えた状態で配列されておらず、厚さ方向糸zに対してその根元部の間隔を拡げる方向の力が加わる際に、その力に抗して厚さ方向糸zの根元部の間隔が拡がることを抑制することはできない。
【0029】
また、複合材の強化基材となる三次元繊維構造体10は、擬似等方性かつ外層を+45度層又は−45度層として構成するのが一般的である。仮に抜け止め糸13bに加えられる張力と同じ張力が+45度の面内配列糸と抜け止め糸13bにかかっていた場合でも、
図3(a)に示すように、抜け止め糸13b(抜け止め糸13b1及び抜け止め糸13b2)では張力Tの方向が目開きを抑制する力の方向と一致している。一方、
図3(b)に示すように、配列角が45度の面内配列糸では張力Tの方向が目開きを抑制する力Fの方向と一致しない。そのため、抜け止め糸13bの方が厚さ方向糸zの目開きを抑制する効果が高くなる。
【0030】
三次元繊維構造体10は複合材としての繊維強化樹脂の強化基材として使用される。繊維強化樹脂は、三次元繊維構造体10に、例えば、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂が含浸硬化されて構成される。
図4(a)に示すように、実施形態の三次元繊維構造体10を強化基材とした繊維強化樹脂では、三次元繊維構造体10を構成する厚さ方向糸zは、ループ状の折り返し部で抜け止め糸13aと係合し、ループ状の折り返し部と反対側である根元部は2本の抜け止め糸13b(抜け止め糸13b1及び抜け止め糸13b2)で両側から挟持されて目開きが防止された状態で、樹脂が含浸硬化されている。そのため、根元部の樹脂溜まり14が小さい。
【0031】
一方、
図4(b)に示すように、抜け止め糸13bが存在しない比較例としての三次元繊維構造体を強化基材とした繊維強化樹脂では、厚さ方向糸zの根元部を挟持して目開きを防止する13bが存在しないため、根元部の樹脂溜まり14が大きくなる。
【0032】
この実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)三次元繊維構造体10は、繊維層11が積層された少なくとも2軸配向となる積層繊維層12が、各繊維層11と直交する方向に配列された厚さ方向糸z(結合糸)で結合されて構成されている。そして、厚さ方向糸zは、積層繊維層12の厚さ方向の両面において、それぞれ積層繊維層12の外側に配列された抜け止め糸13a,13bと係合して折り返すように配列され、抜け止め糸13a,13bは、厚さ方向糸zの配列面と交差する方向に配列されている。したがって、三次元繊維構造体10を繊維強化樹脂の強化基材として使用した際に、樹脂溜まり14の減少と繊維体積含有率の向上とを両立させることができる。その結果、品質が良く、強度/剛性の高い材料としての繊維強化複合材料の適用範囲が拡がる。
【0033】
(2)厚さ方向糸zは、積層繊維層12の厚さ方向の一方の面側において一方の面側に配列される抜け止め糸13aを囲繞してループ状に折り返して積層繊維層12に挿入される部分と、積層繊維層12の他方の面側に沿って配列される部分とが交互に繰り返す。そして、積層繊維層12と直交する方向に配列される部分は、積層繊維層12の他方の面側において他方の面側に配列される抜け止め糸13bに両側から挟持されている。この場合、厚さ方向糸zは実質的に積層繊維層12の同じ位置に挿入された状態になり、三次元繊維構造体10を繊維強化樹脂の強化基材として使用した際に、積層繊維層12の厚さ方向に対する強度が向上する。
【0034】
(3)積層繊維層12の厚さ方向の他方の面側において厚さ方向糸zのループ状に折り返した部分と反対側の部分を挟持する他方の面側に配列される抜け止め糸13bは、厚さ方向糸zが積層繊維層12の他方の面側で折り返されるループL内に配置される抜け止め糸13bにそれぞれ異なる糸(抜け止め糸13b1及び抜け止め糸13b2)が用いられている。したがって、厚さ方向糸zのループ状に折り返した部分と反対側の部分を挟持する抜け止め糸13b(抜け止め糸13b1及び抜け止め糸13b2)が厚さ方向糸zの移動を抑制する効果、即ち目開き抑制効果は、抜け止め糸13bとして幅広の繊維束を使用して1本の抜け止め糸13bが、その幅方向の両側においてそれぞれ異なる位置に挿入された厚さ方向糸zを挟持する構成に比べて大きくなる。
【0035】
(第2の実施形態)
次に、三次元繊維構造体の第2の実施形態を
図5にしたがって説明する。この実施形態の三次元繊維構造体10は、抜け止め糸13bの構成が第1の実施形態と異なり、その他の構成は第1の実施形態と同じである。第1の実施形態と同一部分は同一符号を付して詳しい説明を省略する。
【0036】
図5に示すように、三次元繊維構造体10は、積層繊維層12の厚さ方向の他方の面側において、厚さ方向糸zのループ状に折り返した部分と反対側の部分を挟持する抜け止め糸13bは、厚さ方向糸zのピッチPを埋める幅Wに形成されている。抜け止め糸13bは、繊維束を開繊して偏平な状態にしたものである。「開繊する」とは、繊維束を構成する繊維間隔を拡げて、繊維束を扁平な状態にすることを意味する。抜け止め糸13bは、抜け止め糸13aと同じ太さの繊維束を開繊して偏平な状態にしたものであってもよい。繊維束は開繊することによりその幅が開繊しない場合の倍程度になる。そして、厚さ方向糸zの挿入ピッチは、普通は3mm程度のため、同じ太さの繊維束を開繊して抜け止め糸13bに使用することも可能である。
【0037】
厚さ方向糸zは、積層繊維層12の厚さ方向に配列される部分の根元部において、その両側から2本の抜け止め糸13bにより挟持されている。しかし、各抜け止め糸13bは、第1の実施形態の場合と異なり、1本の抜け止め糸13bがその幅方向の両側において、それぞれ異なる位置に挿入された厚さ方向糸zと係合して厚さ方向糸zの根元部の目開きを抑制する。
【0038】
この実施形態の三次元繊維構造体10においても、第1の実施形態の(1)と同様の効果を得ることができる他に次の効果を得ることができる。
(4)三次元繊維構造体10は、積層繊維層12の厚さ方向の他方の面側において、厚さ方向糸zのループ状に折り返した部分と反対側の部分を挟持する抜け止め糸13bは、厚さ方向糸zのピッチPを埋める幅Wに形成されている。したがって、第1の実施形態と異なり、厚さ方向糸zが積層繊維層12の他方の面側に沿って配列される部分と積層繊維層12との間の隙間が抜け止め糸13bで埋められた状態になるため、その部分における樹脂溜まり14がなくなる。
【0039】
(5)抜け止め糸13bは、繊維束を開繊して偏平な状態にしたものである。したがって、開繊せずに扁平にした繊維束に比べて厚さが薄くなる。
(6)各抜け止め糸13bがそれぞれ隣り合う厚さ方向糸zの挿入位置に挿入された厚さ方向糸zに対して係合するため、抜け止め糸13bの使用本数が少なくなる。
【0040】
(第3の実施形態)
次に、三次元繊維構造体の第3の実施形態を
図6〜
図8にしたがって説明する。この実施形態の三次元繊維構造体10は、厚さ方向糸zが積層繊維層12の厚さ方向の一方の面側において抜け止め糸13aを囲繞してループ状に折り返して積層繊維層12に挿入される部分を有さない点が第1の実施形態及び第2の実施形態と大きく異なっている。前記の実施形態と同様の部分は同一符号を付して詳しい説明を省略する。
【0041】
図6及び
図7に示すように、積層繊維層12の厚さ方向の一方の面側に配列される抜け止め糸13a及び積層繊維層12の厚さ方向の他方の面側に配列される抜け止め糸13bは、それぞれ厚さ方向糸zのピッチPを埋める幅Wに形成されている。抜け止め糸13a,13bは、繊維束を開繊して偏平な状態にしたものである。
【0042】
厚さ方向糸zは、積層繊維層12の厚さ方向の一方の面側において一方の面側に配列される抜け止め糸13aと接触して抜け止め糸13aの幅方向に配列される部分と、積層繊維層12を貫通するように配列される部分と、積層繊維層12の厚さ方向の他方の面側において他方の面側に配列される抜け止め糸13bと接触して抜け止め糸13bの幅方向に配列される部分とが交互に連続するように配列されている。
【0043】
抜け止め糸13a,13bは、その幅方向の両側が厚さ方向糸zと係合して、厚さ方向糸zの配列作業時に厚さ方向糸zに張力を加えた際に、積層繊維層12の厚さ方向に挿入されている厚さ方向糸zの部分の移動を抑制する。
【0044】
従来の構成の三次元繊維構造体にエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂が含浸硬化されて構成された比較例の繊維強化樹脂では、
図8(b)に示すように、厚さ方向糸zのループ状の折り返し部の内側と、ループ状の折り返し部と反対側である根元部の目開き部と、積層繊維層12の他方の面側に沿って配列される部分の内側とに樹脂溜まり14が存在する。しかし、この実施形態の三次元繊維構造体10にエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂が含浸硬化されて構成された繊維強化樹脂では、厚さ方向糸zのループ状の折り返し部や目開きとなる箇所が存在しないため、
図8(a)に示すように、それらの樹脂溜まり14が存在しない。
【0045】
また、
図8(b)に示すように、比較例の繊維強化樹脂では、積層繊維層12の厚さ方向の一方の面側において厚さ方向糸zに接する仮想平面と、積層繊維層12の厚さ方向の一方の面との距離が小さくなるため、積層繊維層12の厚さ方向の一方の面から突出した部分の間に存在する樹脂溜まり14uが大きい。一方、この実施形態の繊維強化樹脂では、抜け止め糸13a,13bが偏平で厚さが薄いため、抜け止め糸13a,13bの外側に配列された厚さ方向糸zに接する仮想平面と、積層繊維層12の厚さ方向の一方の面及び他方の面との距離が比較例に比べて小さくなる。そのため、積層繊維層12の厚さ方向の一方の面から突出した部分の間に存在する樹脂溜まり14u及び積層繊維層12の厚さ方向の他方の面から突出した部分の間に存在する樹脂溜まり14uが小さくなる。
【0046】
この実施形態の三次元繊維構造体10においても、第1の実施形態の(1)と同様の効果を得ることができる他に次の効果を得ることができる。
(7)抜け止め糸13a,13bは、厚さ方向糸zのピッチPを埋める幅Wに形成されている。厚さ方向糸zは、積層繊維層12の厚さ方向の一方の面側において抜け止め糸13aと接触してその幅方向に配列される部分と、積層繊維層12を貫通するように配列される部分と、積層繊維層12の厚さ方向の他方の面側において抜け止め糸13bと接触してその幅方向に配列される部分とが交互に連続するように配列されている。したがって、厚さ方向糸zのループ状の折り返し部の内側と、ループ状の折り返し部と反対側である根元部の目開き部の樹脂溜まり14が存在しない。
【0047】
(8)抜け止め糸13a,13bが偏平で厚さが薄いため、抜け止め糸13a,13bの外側に配列された厚さ方向糸zに接する仮想平面から積層繊維層12の外面までの距離が比較例に比べて小さくなる。そのため、その部分の間に生じる樹脂溜まり14uも小さくなる。
【0048】
(9)厚さ方向糸zのピッチPが同じ場合、必要な抜け止め糸13a,13bの本数が第1の実施形態に比べて少なくなる。また、必要な抜け止め糸13aの本数が第2の実施形態に比べて少なくなる。
【0049】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
○ 厚さ方向糸zのループ状に折り返した部分と反対側の部分を挟持する抜け止め糸13bが、厚さ方向糸zのピッチPを埋める構成は、第2の実施形態のように、厚さ方向糸zのピッチPを埋める幅Wに形成された1本の抜け止め糸13bを使用する構成に限らない。例えば、第1の実施形態のように、厚さ方向糸zのループ状に折り返した部分と反対側の部分を2本の抜け止め糸13b(抜け止め糸13b1及び抜け止め糸13b2)で挟持する構成において、2本の抜け止め糸13bがそれぞれ厚さ方向糸zのピッチPを埋めるのに必要な幅Wの1/2より広い幅として、2本の抜け止め糸13bにより厚さ方向糸zのピッチPを埋める構成としてもよい。
【0050】
○ 第3の実施形態のように、厚さ方向糸zが積層繊維層12の厚さ方向の一方の面側においてループ状に折り返さずに、抜け止め糸13a,13bが、厚さ方向糸zのピッチPを埋めるように配列される構成において、抜け止め糸13a,13bは1本で厚さ方向糸zのピッチPを埋めるのではなく、複数本、例えば2本で埋めてもよい。
【0051】
○ 繊維層11を構成する繊維束は炭素繊維に限らず、例えば、ガラス繊維やセラミック繊維等の無機繊維、あるいは、アラミド繊維、ポリ−p−フェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、ポリアリレート繊維、超高分子量ポリエチレン繊維等の高強度の有機繊維であってもよく、要求性能に応じて適宜選択される。例えば、繊維強化複合材料に対する剛性・強度の要求性能が高い場合は、炭素繊維が好ましい。繊維束に安価なガラス繊維を用いると低コストとなる。
【0052】
○ 積層繊維層12を擬似等方性で面内4軸配向に構成する繊維層11a〜11dの積層順序は、外層を繊維層11c(+45度層)又は繊維層11d(−45度層)にする順に限らない。
【0053】
○ 積層繊維層12は少なくとも2軸配向であればよく、擬似等方性で面内4軸配向に限らない。例えば、配向角が0度、60度及び−60度に配列した糸で面内3軸の積層繊維層12を構成したり、面内4軸の積層繊維層12を構成する場合に配向角が0度及び90度の他の面内配列糸の配向角を±45°以外の配向角としたりしてもよい。また、積層繊維層12を配向角が0度及び90度の面内2軸配向としてもよい。
【0054】
以下の技術的思想(発明)は前記実施形態から把握できる。
(1)請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の発明の三次元繊維構造体を強化基材とした繊維強化樹脂。