特許第5907066号(P5907066)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5907066多孔性ポリプロピレンフィルム、蓄電デバイス用セパレータおよび蓄電デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5907066
(24)【登録日】2016年4月1日
(45)【発行日】2016年4月20日
(54)【発明の名称】多孔性ポリプロピレンフィルム、蓄電デバイス用セパレータおよび蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/00 20060101AFI20160407BHJP
   H01M 2/16 20060101ALI20160407BHJP
【FI】
   C08J9/00 ACES
   H01M2/16 P
【請求項の数】7
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2012-508851(P2012-508851)
(86)(22)【出願日】2012年2月2日
(86)【国際出願番号】JP2012052428
(87)【国際公開番号】WO2012105661
(87)【国際公開日】20120809
【審査請求日】2015年1月28日
(31)【優先権主張番号】特願2011-21317(P2011-21317)
(32)【優先日】2011年2月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(74)【代理人】
【識別番号】100113398
【弁理士】
【氏名又は名称】寺崎 直
(72)【発明者】
【氏名】久万 琢也
(72)【発明者】
【氏名】藤本 聡一
(72)【発明者】
【氏名】大倉 正寿
【審査官】 中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−248231(JP,A)
【文献】 特開2010−242060(JP,A)
【文献】 特開2009−043485(JP,A)
【文献】 特開2006−190507(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/128370(WO,A1)
【文献】 特開2006−028495(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00− 9/42
H01M 2/14− 2/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン樹脂とβ晶核剤とを含む多孔性ポリプロピレンフィルムであって、
幅方向の寸法が5%熱収縮する温度が130〜200℃であり、透気抵抗が50〜500秒/100mlであり、空孔率が35〜60%であり、かつ、空孔率をε、透気抵抗をGとしたとき両者の関係が下記(1)式を満たしていることを特徴とする多孔性ポリプロピレンフィルム。
G+15×ε≦1,100 ・・・(1)
【請求項2】
長手方向の寸法が5%熱収縮する温度が140〜200℃であることを特徴とする、請求項1に記載の多孔性ポリプロピレンフィルム。
【請求項3】
幅方向の厚みムラが厚み平均値に対し20%以下であり、かつ幅方向の空孔率ムラが空孔率の平均値に対し10%以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の多孔性ポリプロピレンフィルム。
【請求項4】
表面の開孔率が50%以上であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の多孔性ポリプロピレンフィルム。
【請求項5】
β晶形成能が60%以上であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の多孔性ポリプロピレンフィルム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の多孔性ポリプロピレンフィルムを使用した蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項7】
請求項6に記載の蓄電デバイス用セパレータを使用した蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全性に優れかつ透気抵抗の低い多孔性ポリプロピレンフィルム、ならびに該多孔性ポリプロピレンフィルムを使用した蓄電デバイス用セパレータおよび蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンフィルムは優れた機械特性、熱特性、電気特性、光学特性により、工業材料用途、包装材料用途、光学材料用途、電機材料用途など多様な用途で使用されている。このポリプロピレンフィルムに空隙を設け、多孔化した多孔性ポリプロピレンフィルムについても、ポリプロピレンフィルムとしての特性に加えて、透過性や低比重などの優れた特性を併せ持つことから、電池や電解コンデンサーのセパレータや各種分離膜、衣料、医療用途における透湿防水膜、フラットパネルディスプレイの反射板や感熱転写記録シートなど多岐に渡る用途への展開が検討されている。
【0003】
ポリプロピレンフィルムを多孔化する手法としては、様々な提案がなされている。多孔化の方法を大別すると湿式法と乾式法に分類することができる。湿式法とは、ポリプロピレンをマトリックス樹脂とし、シート化後に抽出する被抽出物を添加、混合し、被抽出物の良溶媒を用いて添加剤のみを抽出することで、マトリックス樹脂中に空隙を生成せしめる方法であり、種々の提案がなされている(たとえば、特許文献1参照)。該方法を用いると、溶媒を含有させることにより押出時の樹脂粘度を低下させることができ、高分子量原料での製膜が可能となるため、突き刺し強度や破断強度などの機械物性が向上するが、溶媒の抽出工程に時間と労力を要し、生産性の向上が困難であった。
【0004】
一方、乾式法としては、たとえば、溶融押出時に低温押出、高ドラフト比を採用することにより、シート化した延伸前のフィルム中のラメラ構造を制御し、これを長手方向に一軸延伸することでラメラ界面での開裂を発生させ、空隙を形成する方法(所謂、ラメラ延伸法)が提案されている(たとえば、特許文献2参照)。該方法は、抽出工程を必要としないため湿式法に比べ生産性に優れるが、一軸延伸であるため製品を広幅化しにくいことや、延伸速度を低くする必要があるため、更なる生産性向上が困難であった。また、延伸方向と直交方向の機械強度を向上させるのが困難であった。
【0005】
乾式法であり、かつ二軸延伸により製膜される多孔性ポリプロピレンフィルムとしては、ポリプロピレンの結晶多形であるα型結晶(α晶)とβ型結晶(β晶)の結晶密度の差と結晶転移を利用してフィルム中に空隙を形成させる、所謂β晶法と呼ばれる方法の提案も数多くなされている(たとえば、特許文献3〜5参照)。該方法は透気性に優れた多孔性フィルムを生産性よく製膜可能であるが、幅方向にも延伸するため多孔性ポリプロピレンフィルムの幅方向の熱収縮が大きくなる場合があり改善が必要であった。また、β晶法においては貫通孔の均一な開孔が困難であり、安全性を高めるために空孔率を低くすると透気抵抗が大きくなり、均一に開孔するために可塑剤などの添加剤を加えると透気抵抗は低くなるものの、空孔率も高くなってしまい安全性に劣る場合があり、安全性と低抵抗の両立が困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭55−131028号公報
【特許文献2】特公昭55−32531号公報
【特許文献3】特開昭63−199742号公報
【特許文献4】特開平6−100720号公報
【特許文献5】特開平9−255804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、安全性に優れかつ透気抵抗の低い多孔性ポリプロピレンフィルム、蓄電デバイス用セパレータおよび蓄電デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかるポリプロピレン樹脂とβ晶核剤とを含む多孔性ポリプロピレンフィルムは、フィルムの幅方向の寸法が5%熱収縮する温度(以下、5%収縮温度と記す)が130〜200℃であり、透気抵抗が50〜500秒/100mlであり、空孔率が35〜70%であり、かつ、空孔率をε、透気抵抗をGとしたとき両者の関係が下記(1)式を満たしていることを特徴とする。
G+15×ε≦1,200 ・・・(1)
【発明の効果】
【0009】
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムは、安全性に優れかつ透気性にも優れることから、蓄電デバイス用セパレータに好適な優れたイオン電導性を発現し、なおかつ安全性に優れたセパレータとして好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムは、ポリプロピレン樹脂とβ晶核剤とを含む。本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムに含まれるポリプロピレン樹脂は、メルトフローレート(以下、MFRと表記する、測定条件は230℃、2.16kg)が2g/10分以上30g/10分以下の範囲であることが好ましく、さらにアイソタクチックポリプロピレン樹脂であることが好ましい。MFRが2g/10分未満であると、樹脂の溶融粘度が高くなり高精度濾過が困難となり、フィルムの品位が低下する場合がある。MFRが30g/10分を超えると、分子量が低くなりすぎるため、延伸時のフィルム破れが起こりやすくなり、生産性が低下する場合がある。より好ましくは、MFRは3g/10分以上20g/10分以下である。
【0011】
また、アイソタクチックポリプロピレン樹脂を用いる場合、アイソタクチックインデックスは90〜99.9%であることが好ましい。アイソタクチックインデックスが90%未満であると、樹脂の結晶性が低く、高い透気性を達成するのが困難な場合がある。
【0012】
本発明で用いるポリプロピレン樹脂としては、ホモポリプロピレン樹脂を用いることができるのはもちろんのこと、製膜工程での安定性や造膜性、物性の均一性の観点から、ポリプロピレン100質量部に対し、エチレン成分やブテン、ヘキセン、オクテンなどのα−オレフィン成分を5質量部以下、より好ましくは2.5質量部以下の範囲で共重合した樹脂を用いることもできる。なお、ポリプロピレンへのコモノマー(共重合成分)の導入形態としては、ランダム共重合でもブロック共重合でもいずれでも構わない。
【0013】
また、本発明で用いるポリプロピレン樹脂として、上記のMFR2g/10分以上30g/10分以下のポリプロピレン樹脂に、MFRが0.1g/10分以上2g/10分未満の高分子量ポリプロピレンを配合することが好ましい。好適な配合の割合は、ポリプロピレン樹脂100質量部に対し、高分子量ポリプロピレン樹脂が0.5〜30質量部である。高分子量ポリプロピレンの添加により、本発明にかかる多孔性ポリプロピレンフィルムの安全性や製膜性を向上することができる。高分子量ポリプロピレンとしては、たとえば、住友化学社製ポリプロピレン樹脂D101や、プライムポリマー社製ポリプロピレン樹脂E111G、B241、E105GMなどを用いることができる。
【0014】
また、本発明で用いるポリプロピレン樹脂として、上記のMFR2g/10分以上30g/10分以下のポリプロピレン樹脂に、融点Tmが130〜150℃の低融点ポリプロピレンを配合することが好ましい。好適な配合の割合は、ポリプロピレン樹脂100質量部に対し、低融点ポリプロピレン樹脂が0.5〜30質量部である。低融点ポリプロピレンの添加により、本発明にかかる多孔性ポリプロピレンフィルムの安全性や製膜性を向上することができる。低融点ポリプロピレンとしては、たとえば、住友化学社製ポリプロピレン樹脂S131やFS3611を用いることができる。
【0015】
また、本発明で用いるポリプロピレン樹脂として、上記のMFR2g/10分以上30g/10分以下のポリプロピレン樹脂に加え、高溶融張力ポリプロピレンを配合することが好ましい。好適な配合の割合は、ポリプロピレン樹脂100質量部に対し、高溶融張力ポリプロピレン樹脂が0.5〜30質量部である。高溶融張力ポリプロピレンとは、高分子量成分や分岐構造を有する成分をポリプロピレン樹脂中に混合したり、ポリプロピレンに長鎖分岐成分を共重合させたりすることで溶融状態での張力を高めたポリプロピレン樹脂である。高溶融張力ポリプロピレンの添加により、本発明にかかる多孔性ポリプロピレンフィルムの安全性や製膜性を向上することができる。高溶融張力ポリプロピレンとして、長鎖分岐成分を共重合させたポリプロピレン樹脂を用いることが好ましく、たとえば、Basell社製ポリプロピレン樹脂PF814、PF633、PF611やBorealis社製ポリプロピレン樹脂WB130HMS、Dow社製ポリプロピレン樹脂D114、D206を用いることができる。
【0016】
また、本発明で用いるポリプロピレン樹脂として、上記のMFR2g/10分以上/10分以下のポリプロピレン樹脂に、エチレン・α−オレフィン共重合体を配合することが好ましく、配合の割合は、ポリプロピレン樹脂100質量部に対し、エチレン・α−オレフィン共重合体を1〜25質量部である。エチレン・α−オレフィン共重合体の添加により、本発明にかかる多孔性ポリプロピレンフィルムの二軸延伸時の空隙形成効率の向上や、孔の均一な開孔、孔径が拡大することによる透気性向上を図ることが可能となる。エチレン・α−オレフィン共重合体としては、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレンを挙げることができ、中でも、エチレンと1−オクテンとを共重合した、融点が60〜90℃の共重合ポリエチレン樹脂(共重合PE樹脂)を好ましく用いることができる。この共重合ポリエチレンは市販されている樹脂、たとえば、ダウ・ケミカル製“Engage(エンゲージ)(登録商標)”(タイプ名:8411、8452、8100など)を挙げることができる。
【0017】
また、本発明のポリプロピレン樹脂として、上記のMFR2g/10分以上30g/10分以下のポリプロピレン樹脂に、上記の高分子量ポリプロピレン樹脂、およびエチレン・α−オレフィン共重合体を配合したものが好適に使用できる。ポリプロピレン樹脂に上記の割合で高分子量ポリプロピレン樹脂を配合することにより、多孔性ポリプロピレンフィルムの安全性や製膜性を向上することができるのに加え、さらにエチレン・α−オレフィン共重合体を配合することにより、以下に記載する空孔率や平均貫通孔径を好ましい範囲に制御することが容易となる。エチレン・α−オレフィン共重合体の配合の割合は、ポリプロピレン樹脂の配合物100質量部に対し、1〜10質量部とすることが好ましい。本発明にかかる多孔性ポリプロピレンフィルムの機械特性の観点からは、エチレン・α−オレフィン共重合体の割合を、1〜7質量部とすることがより好ましく、1〜2.5質量部とすることが特に好ましい。
【0018】
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムを形成するポリプロピレン樹脂は、冷キシレン可溶成分(CXS)が2質量%未満であることが好ましい。より好ましくは1.5質量%未満である。CXSが2質量%以上となると低分子量成分が多くなり、多孔性ポリプロピレンフィルムの機械物性が悪化する場合がある。CXSを2質量%未満とするためには、CXSを低減可能な重合触媒系で重合する方法、重合反応後に洗浄工程を設けてアタクティックポリマーを除去する方法などの方法を用いることができる。
【0019】
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムを形成するポリプロピレン樹脂は、ハイドロタルサイト量が0.01質量%以下であることが好ましい。より好ましくは0.005質量%以下、更に好ましくは0.001質量%以下である。ハイドロタルサイトはβ晶形成を阻害する場合があり、ハイドロタルサイト量が0.01質量%を超えると、多孔性ポリプロピレンフィルムの透気性が低下する場合がある。
【0020】
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムを形成するポリプロピレン樹脂は、灰分量が0.01質量%以下であることが好ましい。灰分量が0.01質量%を超えると、蓄電デバイス用セパレータに用いたとき、耐電圧が低下したり、電池寿命が低下する場合がある。
【0021】
なお、以下、多孔性ポリプロピレンフィルムを形成するポリプロピレン樹脂、例えば、単一成分からなるポリプロピレン樹脂、複数のポリプロピレン樹脂の混合物等に、後述するエチレン・α−オレフィン共重合体やβ晶核剤や種々の添加剤を加えた多孔性ポリプロピレンフィルム材料を総称してポリプロピレン組成物という。
【0022】
本発明にかかるポリプロピレン樹脂に添加する添加剤として、酸化防止剤、熱安定剤、中和剤、帯電防止剤や無機あるいは有機粒子からなる滑剤、さらにはブロッキング防止剤や充填剤、非相溶性ポリマーなどを、本発明の効果を損なわない範囲において含有させてもよい。特に、ポリプロピレン組成物の熱履歴による酸化劣化を抑制する目的で、酸化防止剤を添加することが好ましいが、ポリプロピレン樹脂(ポリプロピレン樹脂の混合物を使用する場合は混合物)100質量部に対して酸化防止剤添加量は2質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは1質量部以下、更に好ましくは0.5質量部以下である。
【0023】
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムは、フィルムの両表面を貫通し、透気性を有する孔(以下、貫通孔という)を有している。この貫通孔は、例えば二軸延伸によりフィルム中に形成することが好ましい。具体的な方法としては、β晶法を挙げることができる。これにより、高い生産性、均一物性、薄膜化を達成することができる。
【0024】
β晶法を用いてフィルムに貫通孔を形成するためには、ポリプロピレン組成物のβ晶形成能が60%以上であることが好ましい。β晶形成能が60%未満ではフィルム製造時にβ晶量が少ないためにα晶への転移を利用してフィルム中に形成される空隙数が少なくなり、その結果、透過性の低いフィルムしか得られない場合がある。一方、β晶形成能の上限は特に限定されるものではないが、99.9%を超えるようにするのは、後述するβ晶核剤を多量に添加したり、使用するポリプロピレン樹脂の立体規則性を極めて高くしたりする必要があり、製膜安定性が悪化するなど工業的な実用価値が低い。工業的にはβ晶形成能は65〜99.9%が好ましく、70〜95%が特に好ましい。また、多孔性ポリプロピレンフィルムのβ晶形成能についても、60%以上であることが好ましい。
【0025】
β晶形成能を60%以上に制御するためには、アイソタクチックインデックスの高いポリプロピレン樹脂を使用したり、β晶核剤と呼ばれる、ポリプロピレン樹脂中に添加することでβ晶を選択的に形成させる結晶化核剤を添加剤として用いたりすることが好ましい。β晶核剤としては種々の顔料系化合物やアミド系化合物などを挙げることができ、アミド系化合物として、例えば、N,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキサミド、N,N’−ジシクロペンチル−2,6−ナフタレンジカルボキサミド、N,N’−ジシクロオクチル−2,6−ナフタレンジカルボキサミド、N,N’−ジシクロドデシル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド、N,N’−ジシクロヘキシル−2,7−ナフタレンジカルボキサミド、N,N’−ジシクロヘキシル−4,4’−ビフェニルジカルボキサミド、N,N’−ジシクロペンチル−4,4’−ビフェニルジカルボキサミド、N,N’−ジシクロオクチル−4,4’−ビフェニルジカルボキサミド、N,N’−ジシクロドデシル−4,4’−ビフェニルジカルボキサミド、N,N’−ジシクロヘキシル−2,2’−ビフェニルジカルボキサミド、N,N’−ジフェニルヘキサンジアミド、N,N’−ジシクロヘキシルテレフタルアミド、N,N’−ジシクロヘキサンカルボニル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジベンゾイル−1,5−ジアミノナフタレン、N,N’−ジベンゾイル−1,4−ジアミノシクロヘキサン、N,N’−ジシクロヘキサンカルボニル−1,4−ジアミノシクロヘキサン、N−シクロヘキシル−4−(N−シクロヘキサンカルボニルアミノ)ベンズアミド、N−フェニル−5−(N−ベンゾイルアミノ)ペンタンアミド、3,9−ビス[4−(N−シクロヘキシルカルバモイル)フェニル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンなどのテトラオキサスピロ化合物などを好適に使用することができるが、特に特開平5−310665号公報に開示されているアミド系化合物を好ましく用いることができる。β晶核剤は、2種以上を混合して使用してもよい。
【0026】
β晶核剤の添加量としては、ポリプロピレン樹脂(ポリプロピレン樹脂を混合して使用する場合は混合物)100質量部に対し、0.05〜0.5質量部であることが好ましく、0.1〜0.3質量部であればより好ましい。0.05質量部未満では、β晶の形成が不十分となり、多孔性ポリプロピレンフィルムの透気性が低下する場合がある。0.5質量部を超えると、粗大ボイドを形成し、蓄電デバイス用セパレータに用いたとき、安全性が低下する場合がある。
【0027】
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムをセパレータとして用いる際、イオン電導性と安全性の両立の観点から、多孔性ポリプロピレンフィルムの空孔率は35〜70%である。空孔率が35%未満ではセパレータとして使用したときに電気抵抗が大きくなる場合がある。一方、空孔率が70%を超えると、電気自動車用などの大容量電池用セパレータに用いたとき安全性に劣る場合がある。優れた電池特性と高安全性を両立させる観点からフィルムの空孔率は40〜65%であればより好ましく、45〜60%であれば特に好ましい。
【0028】
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムは、透気抵抗が50〜500秒/100mlである。より好ましくは80〜300秒/100ml、更に好ましくは80〜250秒/100mlである。透気抵抗が50秒未満であると、フィルムの機械強度が低下してハンドリング性が低下したり、セパレータに用いたとき安全性が低下する場合がある。透気抵抗が500秒を超えると、セパレータに用いたとき出力特性が悪化する場合がある。
【0029】
更に、本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムは、安全性と出力特性の両立の観点から、空孔率をε(%)、透気抵抗をG(秒/100ml)としたとき両者の関係が下記(1)式を満たす。
G+15×ε≦1,200 ・・・(1)
(1)式の左辺の値、すなわち[G+15×ε]の値は、1,150以下であることがより好ましく、1,100以下であることが更に好ましい。(1)式の左辺の値が1,200を超えると、透気抵抗が低いときは、空孔率が高くなりすぎて安全性が低下する場合があり、逆に、空孔率が低いときは、透気抵抗が高くなり、セパレータの抵抗が大きく出力特性が劣る場合がある。安全性と出力特性の観点から(1)式の左辺の値は小さい方が好ましいが、本製法において現実的には600程度が下限である。なお、上記(1)式は、具体的には各実施例において得られたフィルムの特性と、Gおよびεの関係とから導出し決定したものである。
【0030】
一般にβ晶法で透気抵抗を制御する場合、縦延伸倍率や縦延伸温度や横延伸速度などの運転条件を変更して透気抵抗の制御が行われていた。しかし上述した運転条件による透気抵抗の制御は空孔率とトレードオフの関係にあり、すなわち透気抵抗を小さくすると空孔率が高くなり、逆に、空孔率を低くすると透気抵抗が大きくなる傾向があった。よって、出力特性に優れた透気抵抗の低いフィルムは、空孔率が高く、安全性に劣る場合があった。本発明においては、横延伸後の熱処理条件を後述するような特定の条件とすることにより、透気抵抗が低くかつ空孔率の低い多孔性ポリプロピレンフィルムを得、安全性と出力特性の両立を可能とした。以下に、熱処理条件について述べる。
【0031】
β晶法においては、縦延伸に続くテンターでの横延伸により孔が形成され、多孔性ポリプロピレンフィルムを得ることが可能となる。テンターでの横延伸工程は、予熱工程、横延伸工程、熱処理工程の3つの工程に分けることができ、熱処理工程では、延伸後のフィルムの熱固定および弛緩(リラックス)を行う。一般的なフィルムの弛緩率は2〜10%程度であるが、本発明においては弛緩率を13〜35%と高い値に設定し、適切な熱処理温度条件をとることにより、透気抵抗が低くかつ空孔率の低い多孔性ポリプロピレンフィルムを得ることができる。
【0032】
ここで熱処理工程は、横延伸後の幅のまま熱処理を行う熱固定ゾーン(以後、HS1ゾーンと記す)、テンターの幅を狭めてフィルムを弛緩させながら熱処理を行うリラックスゾーン(以後、Rxゾーンと記す)、リラックス後の幅のまま熱処理を行う熱固定ゾーン(以後、HS2ゾーンと記す)の3ゾーンに分かれていることが好ましい。
【0033】
本発明におけるHS1ゾーンの温度THS1は、幅方向の延伸温度がTであるとき、(T−10)℃以上、(T+10)℃以下であることが好ましい。THS1が(T−10)℃未満であると、多孔性ポリプロピレンフィルムの幅方向の熱収縮率が大きくなる場合がある。一方、THS1が(T+10)℃を超えると、多孔性ポリプロピレンフィルムの配向が緩和しすぎ、続くRxゾーンにおいて弛緩率を高くできず、透気抵抗が低くかつ空孔率の低い多孔性ポリプロピレンフィルムを得ることができなかったり、高温により孔周辺のポリマーが溶けて透気抵抗が大きくなる場合がある。HS1ゾーンの温度THS1は、(T−5)℃以上、(T+5)℃以下であればより好ましい。
【0034】
本発明におけるHS1ゾーンでの熱処理時間は、多孔性ポリプロピレンフィルムの幅方向の熱収縮率と生産性の両立の観点から、0.1秒以上10秒以下であることが好ましい。
【0035】
本発明におけるRxゾーンでの弛緩率は13〜35%であることが好ましい。弛緩率が13%未満であると、多孔性ポリプロピレンフィルムの幅方向の熱収縮率が大きくなったり、低透気抵抗かつ低空孔率化の効果が不十分な場合がある。35%を超えると幅方向の厚み斑や平面性が悪化する場合がある。弛緩率は15〜25%であるとより好ましい。
【0036】
本発明におけるRxゾーンの温度TRxは、HS1ゾーンの温度THS1と延伸温度Tのうち、高い方の温度をT℃としたとき、(T+5)℃以上、(T+20)℃以下であることが好ましい。Rxゾーンの温度TRxが(T+5)℃未満であると、弛緩の為の収縮応力が低くなり、上述した高い弛緩率を達成できなかったり、多孔性ポリプロピレンフィルムの幅方向の熱収縮率が大きくなる場合がある。一方、(T+20)℃を超えると、高温により孔周辺のポリマーが溶けて透気抵抗が大きくなる場合がある。(T+5)℃以上、(T+15)℃以下であることがより好ましく、(T+7)℃以上、(T+15)℃以下であることが更に好ましい。
【0037】
さらに、多孔性ポリプロピレンフィルムを構成するポリプロピレン樹脂(ポリプロピレン樹脂の混合物を使用する場合は混合物)の融点をT(℃)としたとき、Rxゾーンの温度TRxは、(T−4)℃以上であることが好ましく、(T−2)℃以上であることがより好ましい。Rxゾーンの温度TRxが(T−4)℃未満であると多孔性ポリプロピレンフィルムの幅方向の熱収縮率が大きくなったり、低透気抵抗かつ低空孔率化の効果が不十分な場合がある。また、TRxは、(T+10)℃以下であることが好ましい。
【0038】
本発明におけるRxゾーンでの弛緩速度は、100〜1,000%/分であることが好ましい。弛緩速度が100%/分未満であると、製膜速度を遅くしたり、テンター長さを長くする必要があり、生産性に劣る場合がある。一方、1,000%/分を超えると、テンターのレール幅が縮む速度よりフィルムが収縮する速度が遅くなり、テンター内でフィルムがばたついて破れたり、幅方向の物性ムラや平面性悪化を生じる場合がある。弛緩速度は、150〜500%/分であることがより好ましい。
【0039】
本発明におけるHS2ゾーンの温度THS2は、Rxゾーンの温度TRxに対し、(TRx−5)℃以上、(TRx+5)℃以下であることが好ましい。THS2が(TRx−5)℃未満であると、熱弛緩後のフィルムの緊張が不十分となり、幅方向の物性ムラや平面性悪化を生じたり、幅方向の熱収縮率が大きくなる場合がある。(TRx+5)℃を超えると、高温により孔周辺のポリマーが溶けて透気抵抗が大きくなる場合がある。HS2ゾーンの温度THS2は、TRx以上、(TRx+5)℃以下であることがより好ましい。また、THS2は、(T+10)℃以下であることが好ましい。
【0040】
本発明におけるHS2ゾーンでの熱処理時間は、幅方向の物性ムラや平面性と生産性の両立の観点から0.1秒以上10秒以下であることが好ましい。
【0041】
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムは、フィルムの幅方向の5%熱収縮温度(フィルムの幅方向の寸法が5%熱収縮する温度)が130〜200℃である。該温度が130℃未満であると、使用時に電池の温度が上昇した際、セパレータが収縮して短絡が生じる場合がある。該温度は高ければ高いほど耐熱性に優れるため好ましいが、200℃を超えると、長手方向の高温時の寸法安定性が悪化する場合がある。電気自動車用などの大容量電池用セパレータに用いる場合には更なる耐熱性が求められ、該温度は、より好ましくは140〜200℃、更に好ましくは150〜200℃である。フィルムの幅方向の5%熱収縮温度を上記範囲とするためには、上述した熱処理工程の運転条件範囲で、HS1ゾーン、Rxゾーン、HS2ゾーンの各温度THS1、TRx、THS2を高く設定すること、また、弛緩率を大きく設定することが好ましい。
【0042】
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムは、フィルムの長手方向の5%熱収縮温度(フィルムの長手方向の寸法が5%熱収縮する温度)が140〜200℃であることが好ましい。一般に捲回式の電池においてはセパレータの長手方向の熱収縮は、電池の安全性に影響を及ぼさないことが多いが、高温時に熱収縮応力がかかると孔が変形して潰れ、出力特性が低下する場合があった。また、ラミ式の電池においては、長手方向の熱収縮率も安全性に寄与し、該温度が140℃未満であると、使用時に電池の温度が上昇した際、セパレータが収縮して短絡が生じる場合がある。電気自動車用などの大容量電池用セパレータに用いる場合には更なる耐熱性が求められ、該温度は、より好ましくは150〜200℃である。フィルムの長手方向の5%熱収縮温度を上記範囲とするためには、上述した熱処理工程の運転条件範囲で、HS2ゾーンの温度THS2を高く設定することが好ましい。
【0043】
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムは、フィルム厚みが10〜50μmであることが好ましい。厚みが10μm未満では使用時にフィルムが破断する場合があり、50μmを超えると蓄電デバイス内に占める多孔性フィルムの体積割合が高くなりすぎてしまい、高いエネルギー密度を得ることができなくなることがある。フィルム厚みは12〜30μmであればより好ましく、14〜25μmであればなお好ましい。
【0044】
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムは、フィルムの長手方向および幅方向の破断伸度がともに40%以上であることが好ましい。破断伸度が40%未満であると、製膜中や電池組み立て工程でフィルムが破断しやすくなったり、また、セパレータとして使用した際、多孔性ポリプロピレンフィルムの柔軟性が劣り、デンドライトによる短絡が生じやすくなる場合がある。破断伸度は長手方向および幅方向のいずれもが、より好ましくは60%以上、更に好ましくは70%以上である。
【0045】
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムは、厚みムラが厚み平均値に対し20%以下であり、かつ空孔率ムラが空孔率の平均値に対し10%以下であることが好ましい。厚みムラが20%を越えるとフィルム幅方向で製品として使用可能な面積が減り生産性が低下したり、また、同じ電池内でセパレータの厚い部分と薄い部分が存在すると、抵抗の低い薄い部分にイオンの流れが集中してサイクル特性や寿命が低下する場合がある。また、空孔率ムラが10%を越えるとフィルム幅方向で製品として使用可能な面積が減り生産性が低下したり、また、同じ電池内でセパレータの高空孔率部分と低空孔率部分が存在すると、抵抗の低い高空孔率部分にイオンの流れが集中してサイクル特性や寿命が低下する場合がある。厚みムラおよび空孔率ムラを上記範囲内とするためには、上述したRxゾーンでの温度や弛緩速度を採用することが効果的である。
【0046】
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムは、フィルム表面の開孔率が50%以上であることが好ましい。より好ましくは70%以上である。開孔率が50%未満であると、未開孔部分が多く出力特性が悪化したり、開孔部にイオンの流れが集中してサイクル特性や寿命が低下する場合がある。開孔率を50%以上とするには、前述した超低密度ポリエチレンを、MFR2g/10分以上30g/10分以下のポリプロピレン樹脂100質量部に対し1〜20質量部添加することが好ましい。
【0047】
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムは、フィルムの耐電圧が2.4kV以上であることが好ましい。より好ましくは2.5kV以上である。耐電圧が2kV未満であると、電気自動車用などの大容量電池用セパレータに用いたとき安全性に劣る場合がある。耐電圧を高くするためには、上述した熱処理工程の運転条件範囲で、HS1ゾーン、Rxゾーン、HS2ゾーンの各温度THS1、TRx、THS2を高く設定すること、また、弛緩率を大きく設定することや、上述した高分子量ポリプロピレンを、MFR2g/10分以上30g/10分以下であるポリプロピレン樹脂100質量部に対し、0.5〜30質量部の範囲で含有させることが有効である。
【0048】
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムは、多孔性ポリプロピレンフィルムの融点をT(℃)、多孔性ポリプロピレンフィルムを構成するポリプロピレン樹脂(ポリプロピレン樹脂の混合物を使用する場合は混合物)の融点をT(℃)としたとき、(T−T)の値が4℃以上であることが好ましい。(T−T)の値が4℃以上であると、電池の安全性が向上するため好ましい。安全性向上の観点から、(T−T)の値は、より好ましくは4.5℃以上、更に好ましくは5℃以上、最も好ましくは6℃以上である。(T−T)の値を大きくするには、上述した熱処理工程の運転条件範囲で、HS1ゾーン、Rxゾーン、HS2ゾーンの各温度THS1、TRx、THS2を高く設定すること、また、弛緩率を大きく設定することや、上述した高分子量ポリプロピレンを、MFR2g/10分以上30g/10分以下であるポリプロピレン樹脂100質量部に対し、1〜25質量部の範囲で含有させることが有効である。
【0049】
以下に本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムの製造方法を具体的に説明する。以下、ポリプロピレン樹脂として、MFR2g/10分以上30g/10分以下のMFRを有するポリプロピレン樹脂と高分子量ポリプロピレン樹脂と超低密度ポリエチレン樹脂とを配合したポリプロピレン組成物から形成される多孔性ポリプロピレンフィルムの製造方法を例として説明するが、本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムの製造方法はこれに限定されるものではない。
【0050】
ポリプロピレン樹脂として、MFR2g/10分以上30g/10分以下の市販のホモポリプロピレン樹脂70〜99.5質量部、同じく市販のMFR0.1g/10分以上2g/10分未満のポリプロピレン樹脂0.5〜30質量部がこの範囲の比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、240℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてポリプロピレン原料(A)を作成する。得られたポリプロピレン原料(A)68〜98質量部に融点が60〜90℃の超低密度ポリエチレン樹脂0.5〜30質量部、さらに酸化防止剤を0〜2質量部がこの範囲の比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、240℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてポリプロピレン組成物(B)を作成する。また、ポリプロピレン原料(A)99.5質量部にβ晶核剤であるN,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキサミド0.3質量部、さらに酸化防止剤を0.2質量部がこの比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、300℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてポリプロピレン組成物(C)を作成する。
【0051】
次に、ポリプロピレン組成物(B)10質量部とポリプロピレン組成物(C)90質量部をドライブレンドして単軸の溶融押出機に供給し、200〜230℃にて溶融押出を行う。そして、ポリマー管の途中に設置したフィルターにて異物や変性ポリマーなどを除去した後、Tダイよりキャストドラム上に吐出し、未延伸シートを得る。未延伸シートを得る際のキャストドラムは表面温度が105〜130℃であることが、未延伸シート中のβ晶分率を高く制御する観点から好ましい。この際、特にシートの端部の成形が後の延伸性に影響するため、端部にスポットエアーを吹き付けてドラムに密着させることが好ましい。また、シート全体のドラム上への密着状態に基づき、必要に応じて全面にエアナイフを用いて空気を吹き付けてもよい。また、複数の押出機とピノールを用いて共押出による積層を行ってもよい。
【0052】
次に得られた未延伸シートを二軸延伸してフィルム中に空孔(貫通孔)を形成する。二軸延伸の方法としては、フィルム長手方向に延伸後幅方向に延伸、あるいは幅方向に延伸後長手方向に延伸する逐次二軸延伸法、またはフィルムの長手方向と幅方向をほぼ同時に延伸していく同時二軸延伸法などを用いることができるが、高透気性フィルムを得やすいという点で逐次二軸延伸法を採用することが好ましく、特に長手方向に延伸後、幅方向に延伸することが好ましい。
【0053】
具体的な延伸条件としては、まず未延伸シートを長手方向に延伸可能な温度に制御する。温度制御の方法は、温度制御された回転ロールを用いる方法、熱風オーブンを使用する方法などを採用することができる。長手方向の延伸温度としてはフィルム特性とその均一性の観点から、110〜140℃、さらに好ましくは120〜135℃、特に好ましくは123〜130℃の温度を採用することが好ましい。延伸倍率としては4〜8倍、より好ましくは4.5〜5.8倍である。また、延伸倍率を高くするほど高空孔率化するが、8倍を超えて延伸すると、次の横延伸工程でフィルム破れが起きやすくなってしまう場合がある。
【0054】
次に、一軸延伸ポリプロピレンフィルムをテンター式延伸機にフィルム端部を把持させて導入する。そして、好ましくは130〜155℃、より好ましくは145〜153℃に加熱して幅方向に2〜12倍、より好ましくは6〜11倍、更に好ましくは6.5〜10倍延伸を行う。なお、このときの横延伸速度としては500〜6,000%/分で行うことが好ましく、1,000〜5,000%/分であればより好ましい。
【0055】
ついで、そのままテンター内で熱処理を行うが、本発明の透気抵抗が低く、かつ、空孔率も低く、更に熱収縮率も低いフィルムを得るには、上述したようなHS1ゾーン、Rxゾーン、HS2ゾーンの運転条件とすることが好ましい。
【0056】
熱処理工程後のフィルムは、テンターのクリップで把持した耳部をスリットして除去し、ワインダーでコアに巻き取って製品とする。
【0057】
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムは、透気抵抗が低く、かつ、空孔率も低く、更に熱収縮率も低いことから、包装用品、衛生用品、農業用品、建築用品、医療用品、分離膜、光拡散板、反射シート用途で用いることができるが、特に蓄電デバイス用のセパレータとして用いたとき出力特性と安全性を両立できることから好適である。ここで、蓄電デバイスとしては、リチウムイオン二次電池に代表される非水電解液二次電池や、リチウムイオンキャパシタなどの電気二重層キャパシタなどを挙げることができる。このような蓄電デバイスは充放電することで繰り返し使用することができるので、産業装置や生活機器、電気自動車やハイブリッド電気自動車などの電源装置として使用することができる。特に本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムを用いたセパレータを使用した蓄電デバイスは、出力特性に優れることから電気自動車用の非水電解液二次電池に好適に用いることができる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。なお、特性は以下の方法により測定、評価を行った。
【0059】
(1)β晶形成能
ポリプロピレン樹脂(ポリプロピレン樹脂の混合物を使用する場合は混合物)または多孔性ポリプロピレンフィルム5mgを試料としてアルミニウム製のパンに採取し、示差走査熱量計(セイコー電子工業製RDC220)を用いて測定した。まず、窒素雰囲気下で室温から260℃まで20℃/分で昇温(ファーストラン)し、10分間保持した後、20℃まで10℃/分で冷却する。5分保持後、再度20℃/分で昇温(セカンドラン)した際に観測される融解ピークについて、145〜157℃の温度領域にピークが存在する融解をβ晶の融解ピーク、158℃以上にピークが観察される融解をα晶の融解ピークとして、高温側の平坦部を基準に引いたベースラインとピークに囲まれる領域の面積から、それぞれの融解熱量を求め、α晶の融解熱量をΔHα、β晶の融解熱量をΔHβとしたとき、以下の式で計算される値をβ晶形成能とする。なお、融解熱量の校正はインジウムを用いて行った。
β晶形成能(%)=「」ΔHβ/(ΔHα+ΔHβ)]×100
なお、ファーストランで観察される融解ピークから同様にβ晶の存在比率を算出することで、その試料の状態でのβ晶分率を算出することができる。
【0060】
(2)融点(Tm)
上記β晶形成能の測定方法と同様の方法でポリプロピレン樹脂を測定し、セカンドランのピーク温度(α晶)を融点(Tm)とした。
【0061】
(3)5%収縮温度
セイコーインスツルメント社製TMA/SS6000を用いて、下記温度プログラムにて一定荷重下におけるフィルム長手方向および幅方向の収縮曲線をそれぞれ求めた。
得られた収縮曲線から、もとのサンプル長より5%収縮した時の温度を読み取った。
温度プログラム 25℃→(5℃/min)→160℃(hold 5min)
荷重 2g
サンプルサイズ サンプル長15mm×幅4mm
(測定したい方向をサンプル長側に合わせる)
【0062】
(4)メルトフローレート(MFR)
ポリプロピレン樹脂のMFRは、JIS K 7210(1995)の条件M(230℃、2.16kg)に準拠して測定する。ポリエチレン樹脂は、JIS K 7210(1995)の条件D(190℃、2.16kg)に準拠して測定する。
【0063】
(5)空孔率
多孔性ポリプロピレンフィルムを30mm×40mmの大きさに切取り試料とした。電子比重計(ミラージュ貿易(株)製SD−120L)を用いて、室温23℃、相対湿度65%の雰囲気にて比重の測定を行った。測定を3回行い、平均値をそのフィルムの比重ρとした。
次に、測定したフィルムを280℃、5MPaで熱プレスを行い、その後、25℃の水で急冷して、空孔を完全に消去したシートを作成した。このシートの比重を上記した方法で同様に測定し、平均値を樹脂の比重(d)とした。なお、後述する実施例においては、いずれの場合も樹脂の比重dは0.91であった。フィルムの比重と樹脂の比重から、以下の式により空孔率を算出した。
空孔率(%)=[(d−ρ)/d]×100
【0064】
(6)開孔率
多孔性ポリプロピレンフィルムにエイコーエンジニアリング社製IB−5型イオンコーターを用いてイオンコートを行い、日本電子社製電界放射走査電子顕微鏡(JSM−6700F)を用いてフィルム表面を撮影倍率5,000倍で観察し、横13μm、縦10μm範囲の画像データを得た。得られた画像データ(スケールバーなどの表示がない、観察部のみの画像)をプラネトロン社製Image−ProPlus Ver.4.5を用いて画像解析を行い、孔部分の面積割合を算出した。画像解析方法としては、まず平坦化フィルタ(暗い、10ピクセル)を1回実行し輝度斑を修正した後、メディアンフィルタ(カーネルサイズ3×3)を1回実行しノイズを除去した。次いで、局部イコライゼーションフィルタ(対数分布、小ウィンドウ100、ステップ1)を1回実行し樹脂部を明るく強調させ、コントラスト調整(コントラスト100)を行った。全面積に対する、検出された空孔部分の面積比をカウント/サイズ項目の面積比測定により求めることで、開孔率(%)を算出した。同じ多孔性ポリプロピレンフィルムの両面において10ヶ所ずつ測定し、その平均値を当該サンプルの開孔率とした。
【0065】
(7)透気抵抗
多孔性ポリプロピレンフィルムから100mm×100mmの大きさの正方形を切取り試料とした。JIS P 8117(1998)のB形ガーレー試験器を用いて、23℃、相対湿度65%にて、100mlの空気の透過時間の測定を行った。測定は試料を替えて3回行い、透過時間の平均値をそのフィルムの透気性とした。なお、フィルムに貫通孔が形成されていることは、この透気性の値が有限値であることをもって確認できる。
【0066】
(8)破断伸度
多孔性ポリプロピレンフィルムを長さ150mm×幅10mmの矩形に切り出しサンプルとした。なお、150mmの長さ方向をフィルムの長手方向および幅方向に合わせた。引張試験機(オリエンテック製テンシロンUCT−100)を用いて、初期チャック間距離50mmとし、引張速度を300mm/分として多孔性ポリプロピレンフィルムの長手方向および幅方向にそれぞれ引張試験を行った。サンプルが破断した時のフィルム長の変化量を試験前のサンプル長(50mm)で除して100倍した値を破断伸度の指標とした。測定は長手方向および幅方向各5個のサンプルで行い、その平均値で評価を行った。
【0067】
(9)フィルム厚み
ダイヤルゲージ式厚み計(JIS B−7503(1997)、PEACOCK製UPRIGHT DIAL GAUGE(0.001×2mm)、No.25、測定子10mmφ平型、50gf荷重)を用いて測定した。
【0068】
(10)厚みムラ
製膜後のフィルムの幅方向に沿って1cm間隔で全幅にわたり、上述したフィルム厚み測定方法で幅方向の厚みプロファイルを測定した。全測定点の最大値をtmax、最小値をtmin、平均値をtaveとしたとき、下記式により厚み平均値に対する幅方向の厚みムラ(%)を求めた。
厚みムラ(%)=(tmax−tmin)/tave×100
【0069】
(11)空孔率ムラ
製膜後のフィルムの幅方向に沿って5cm間隔で全幅にわたり、上述した空孔率測定方法で幅方向の空孔率プロファイルを測定した。全測定点の最大値をφmax、最小値をφmin、平均値をφaveとしたとき、下記式により空孔率平均値に対する幅方向の空孔率ムラ(%)を求めた。
空孔率ムラ(%)=(φmax−φmin)/φave×100
【0070】
(12)電池特性評価
宝泉(株)製のリチウムコバルト酸化物(LiCoO)厚みが40μmの正極を使用し、直径15.9mmの円形に打ち抜き、また、宝泉(株)製の黒鉛厚みが50μmの負極を使用し、直径16.2mmの円形に打ち抜き、次に、各実施例・比較例のセパレータ用フィルムを直径24.0mmに打ち抜き、正極活物質と負極活物質面が対向するように、下から負極、セパレータ、正極の順に重ね、蓋付ステンレス金属製小容器に収納した。容器と蓋とは絶縁され、容器は負極の銅箔と、蓋は正極のアルミ箔と接している。この容器内にエチレンカーボネート:ジメチルカーボネート=3:7(質量比)の混合溶媒に溶質としてLiPFを濃度1M/Lとなるように溶解させた電解液を注入して密閉した。各実施例・比較例につき、電池を作製した。
【0071】
作製した各二次電池について、25℃の雰囲気下、充電を3mAで4.2Vまで1.5時間、放電を3mAで2.7Vまでとする充放電操作を行い、放電容量を調べた。さらに、充電を3mAで4.2Vまで1.5時間、放電を30mAで2.7Vまでとする充放電操作を行い、放電容量を調べた。
[(30mAの放電容量)/(3mAの放電容量)]×100の計算式で得られる値を以下の基準で評価した。なお、試験個数は20個測定し、その平均値で評価した。
○:85%以上
△:75%以上85%未満
×:75%未満
【0072】
(13)安全性評価
安全性評価としては以下に示す単層ラミネートセルを作成し、組み立て時の異物混入を想定した強制悪化テストとして、負極とセパレータ間に金属粒子を混入させ、100℃の雰囲気下で2時間放置したときの容量低下を評価した。
宝泉(株)製のリチウムコバルト酸化物(LiCoO)厚みが40μmの正極を使用し、活物質部分が47mm×47mmの正方形となるように打ち抜き、また、宝泉(株)製の厚みが50μmの黒鉛負極を使用し、活物質部分が50mm×50mmの正方形となるように打ち抜き、次に、各実施例・比較例の多孔性フィルムを長手方向に55mm、幅方向に55mmの正方形に打ち抜いた。正極活物質と負極活物質面が対向するように、下から負極、金属粒子(平均粒子径15μm、Alfa Aesar製球状銅粒子)1mg、多孔性ポリプロピレンフィルム、正極の順に重ね、Al箔を蒸着したラミネートフィルムで三方シールし、エチレンカーボネート:ジメチルカーボネート=3:7(体積比)の混合溶媒に溶質としてLiPFを濃度1モル/リットルとなるように溶解させた電解液を注入し、真空脱気し密閉し、各実施例・比較例につき、電池を作製した。
【0073】
作製した各二次電池について、25℃の雰囲気下、30mAで4.2Vまで3.5時間で充電し、25℃雰囲気下で30分間静置し、30mAで2.7Vまで放電し、放電容量1を測定した後、25℃の雰囲気下、30mAで4.2Vまで3.5時間で充電し、100℃の雰囲気下で2時間放置した後、30mAで2.7Vまで放電し、放電容量2を測定した。
[(放電容量2)/(放電容量1)]×100の計算式で得られる値を以下の基準で評価した。なお、試験個数は20個測定し、以下の基準で評価した。
○:20個の平均値が90%以上、かつ、20%未満の電池が無い
△:20個の平均値が80%以上90%未満、かつ、20%未満の電池が無い
×:20個の平均値が80%未満、または、1個以上が20%未満
【0074】
(14)多孔性ポリプロピレンフィルムの融点T(℃)と多孔性ポリプロピレンフィルムを構成するポリプロピレン樹脂(ポリプロピレン樹脂の混合物を使用する場合は混合物)の融点T(℃)の差(T−T
上記β晶形成能の測定方法と同様の方法で多孔性ポリプロピレンフィルムを測定し、ファーストランのピーク温度(α晶)を多孔性ポリプロピレンフィルムの融点T(℃)とした。
多孔性ポリプロピレンフィルムを構成するポリプロピレン樹脂の融点T(℃)は以下の方法で測定した。まず、多孔性ポリプロピレンフィルムを構成するポリプロピレン樹脂を原料の配合量の比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、240℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてポリプロピレン樹脂混合物とした。(このポリプロピレン樹脂混合物には、β晶核剤やその他添加剤は含まない。)次に、上記β晶形成能の測定方法と同様の方法でポリプロピレン樹脂混合物を測定し、セカンドランのピーク温度(α晶)を多孔性ポリプロピレンフィルムを構成するポリプロピレン樹脂混合物の融点T(℃)とした。
得られた、TとTから差(T−T)を求めた。
【0075】
(15)多孔性ポリプロピレンフィルムの耐電圧
60cm×70cmの銅板上に60cm×70cmの多孔性ポリプロピレンフィルムを置き、その上に50cm×60cmのアルミ蒸着したポリプロピレンフィルムを置いて、春日電機製SDH−1020P直流式耐圧試験器を接続した。0.5kVをスタート電圧とし、0.01kV/秒の昇圧速度で0.1kVずつステップで昇圧していき、各印加電圧において30秒間ホールドしている間の、絶縁破壊個数をそれぞれの印加電圧で数え、絶縁破壊が10個を越えたときの印加電圧を耐電圧とした。測定は5回行い、その平均値を多孔性ポリプロピレンフィルムの耐電圧とした。
【0076】
(実施例1)
ポリプロピレン樹脂として、MFR=7.5g/10分の住友化学(株)製ホモポリプロピレンFLX80E4を95質量部、MFR=0.5g/10分の住友化学(株)製ホモポリプロピレンD101を5質量部がこの比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、240℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてポリプロピレン原料(ポリプロピレン樹脂混合物D)とした。
次に、ポリプロピレン樹脂混合物Dを70質量部に、共重合PE樹脂としてエチレン・1−オクテン共重合体(ダウ・ケミカル製 Engage8411、MFR:18g/10分)を25質量部に加えて、さらに酸化防止剤であるチバ・スペシャリティ・ケミカルズ製IRGANOX1010、IRGAFOS168を各々0.1質量部ずつがこの比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、240℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてポリプロピレン組成物(E)を得た。
【0077】
また、ポリプロピレン樹脂混合物Dを99.5質量部に、β晶核剤であるN,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド(新日本理化(株)製、NU−100)を0.3質量部、さらに酸化防止剤であるチバ・スペシャリティ・ケミカルズ製IRGANOX1010、IRGAFOS168を各々0.1質量部ずつがこの比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、300℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてポリプロピレン組成物(F)を得た。
【0078】
得られたポリプロピレン組成物(E)10質量部とポリプロピレン組成物(F)90質量部をドライブレンドして単軸の溶融押出機に供給し、220℃で溶融押出を行い、20μmカットの焼結フィルターで異物を除去後、Tダイから120℃に表面温度を制御したキャストドラムに吐出し、ドラムに15秒間接するようにキャストして未延伸シートを得た。ついで、125℃に加熱したセラミックロールを用いて予熱を行いフィルムの長手方向に5倍延伸を行った。次にテンター式延伸機に端部をクリップで把持させて導入し、150℃で6.5倍に、延伸速度1,800%/分で延伸した。なお、テンター入り口の幅方向クリップ間距離は150mmであった。
【0079】
続く熱処理工程で、延伸後のクリップ間距離に保ったまま150℃で3秒間熱処理し(HS1ゾーン)、更に162℃で弛緩率22%、弛緩速度290%/分でリラックスを行い(Rxゾーン)、最後に弛緩後のクリップ間距離に保ったまま162℃で5秒間熱処理を行った(HS2ゾーン)。
その後、テンタークリップで把持したフィルムの耳部をスリットして除去し、ワインダーで幅500mm、厚み25μmの多孔性ポリプロピレンフィルムをコアに500m巻き取った。
上記のようにして作製した実施例1の多孔性ポリプロピレンフィルムについて、上記の(1)〜(14)に記載の方法で測定および評価を行った。結果を表1に示す。なお、多孔性ポリプロピレンフィルムを構成するポリプロピレン樹脂混合物(酸化防止剤、β晶核剤を含まない)の融点Tは165℃であった。また、多孔性ポリプロピレンフィルムの耐電圧は、2.7kVであった。
【0080】
(実施例2)
実施例1でRxゾーンでの条件を162℃で弛緩率20%、弛緩速度260%/分と変更した以外は実施例1と同じ条件で幅500mm、厚み25μmの多孔性ポリプロピレンフィルムを得た。上記のようにして作製した実施例2の多孔性ポリプロピレンフィルムについて、上記の(1)〜(14)に記載の方法で測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0081】
(実施例3)
実施例1でRxゾーンでの条件を162℃で弛緩率14%、弛緩速度180%/分と変更した以外は実施例1と同じ条件で幅500mm、厚み25μmの多孔性ポリプロピレンフィルムを得た。上記のようにして作製した実施例3の多孔性ポリプロピレンフィルムについて、上記の(1)〜(14)に記載の方法で測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0082】
(実施例4)
実施例1でRxゾーンでの条件を162℃で弛緩率30%、弛緩速度390%/分と変更した以外は実施例1と同じ条件で幅500mm、厚み25μmの多孔性ポリプロピレンフィルムを得た。上記のようにして作製した実施例4の多孔性ポリプロピレンフィルムについて、上記の(1)〜(14)に記載の方法で測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0083】
(実施例5)
実施例1でRxゾーンでの条件を160℃で弛緩率22%、弛緩速度290%/分と変更し、HS2ゾーンの温度を160℃に変更した以外は実施例1と同じ条件で幅500mm、厚み25μmの多孔性ポリプロピレンフィルムを得た。上記のようにして作製した実施例5の多孔性ポリプロピレンフィルムについて、上記の(1)〜(14)に記載の方法で測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0084】
(実施例6)
ポリプロピレン樹脂として、MFR=7.5g/10分の住友化学(株)製ホモポリプロピレンFLX80E4を99.5質量部に、β晶核剤であるN,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキサミド(新日本理化(株)製、NU−100)を0.3質量部、さらに酸化防止剤であるチバ・スペシャリティ・ケミカルズ製IRGANOX1010、IRGAFOS168を各々0.1質量部ずつがこの比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、300℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてポリプロピレン組成物(G)を得た。
得られたポリプロピレン組成物(G)100質量部を単軸の溶融押出機に供給し、それ以降は実施例1と同じ条件で幅500mm、厚み25μmの多孔性ポリプロピレンフィルムを得た。
上記のようにして作製した実施例6の多孔性ポリプロピレンフィルムについて、上記の(1)〜(14)に記載の方法で測定および評価を行った。結果を表1に示す。なお、多孔性ポリプロピレンフィルムを構成するポリプロピレン樹脂(FLX80E4)の融点Tは165℃であった。
【0085】
(実施例7)
実施例6でRxゾーンでの条件を162℃で弛緩率20%、弛緩速度260%/分と変更した以外は実施例6と同じ条件で幅500mm、厚み25μmの多孔性ポリプロピレンフィルムを得た。上記のようにして作製した実施例7の多孔性ポリプロピレンフィルムについて、上記の(1)〜(14)に記載の方法で測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0086】
(実施例8)
実施例1でRxゾーンでの弛緩速度を480%/分と変更した以外は実施例1と同じ条件で幅500mm、厚み25μmの多孔性ポリプロピレンフィルムを得た。上記のようにして作製した実施例8の多孔性ポリプロピレンフィルムについて、上記の(1)〜(14)に記載の方法で測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0087】
(実施例9)
実施例1でRxゾーンでの弛緩速度を870%/分と変更した以外は実施例1と同じ条件で幅500mm、厚み25μmの多孔性ポリプロピレンフィルムを得た。上記のようにして作製した実施例9の多孔性ポリプロピレンフィルムについて、上記の(1)〜(14)に記載の方法で測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0088】
(実施例10)
実施例1で延伸ゾーンでの温度を149℃、倍率を7.8倍、HS1ゾーンでの温度を149℃、Rxゾーンでの温度を163℃、弛緩率を20%、弛緩速度260%/分、HS2ゾーンでの温度を163℃と変更した以外は実施例1と同じ条件で幅500mm、厚み25μmの多孔性ポリプロピレンフィルムを得た。上記のようにして作製した実施例10の多孔性ポリプロピレンフィルムについて、上記の(1)〜(14)に記載の方法で測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0089】
(実施例11)
実施例1で延伸ゾーンでの温度を149℃、倍率を9.4倍、HS1ゾーンでの温度を149℃、Rxゾーンでの温度を163℃、弛緩率を20%、弛緩速度260%/分、HS2ゾーンでの温度を163℃と変更した以外は実施例1と同じ条件で幅500mm、厚み25μmの多孔性ポリプロピレンフィルムを得た。上記のようにして作製した実施例11の多孔性ポリプロピレンフィルムについて、上記の(1)〜(14)に記載の方法で測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0090】
(比較例1)
実施例1でHS1ゾーンの温度を158℃、Rxゾーンでの条件を158℃で弛緩率10%、弛緩速度130%/分と変更し、HS2ゾーンの温度を158℃に変更した以外は実施例1と同じ条件で幅500mm、厚み25μmの多孔性ポリプロピレンフィルムを得た。また、多孔性ポリプロピレンフィルムの耐電圧は、2.2kVであった。上記のようにして作製した比較例1の多孔性ポリプロピレンフィルムについて、上記の(1)〜(14)に記載の方法で測定および評価を行った。結果を表2に示す。
【0091】
(比較例2)
比較例1において、原料を実施例6で用いたポリプロピレン組成物(G)100質量部を単軸の溶融押出機に供給した以外は比較例1と同じ条件で幅500mm、厚み25μmの多孔性ポリプロピレンフィルムを得た。上記のようにして作製した比較例2の多孔性ポリプロピレンフィルムについて、上記の(1)〜(14)に記載の方法で測定および評価を行った。結果を表2に示す。
【0092】
(比較例3)
実施例1でHS1ゾーンの温度を162℃とし、Rxゾーンでの条件を162℃で弛緩率20%、弛緩速度260%/分と変更した以外は実施例1と同じ条件で幅500mm、厚み25μmの多孔性ポリプロピレンフィルムを得た。上記のようにして作製した比較例3の多孔性ポリプロピレンフィルムについて、上記の(1)〜(14)に記載の方法で測定および評価を行った。結果を表2に示す。
【0093】
(比較例4)
実施例1でテンターでの延伸倍率を5.2倍、延伸速度を1,440%/分とし、Rxゾーンでの条件を162℃で弛緩率0%、弛緩速度0%/分と変更した以外は実施例1と同じ条件で幅500mm、厚み25μmの多孔性ポリプロピレンフィルムを得た。上記のようにして作製した比較例4の多孔性ポリプロピレンフィルムについて、上記の(1)〜(14)に記載の方法で測定および評価を行った。結果を表2に示す。
【0094】
(比較例5)
実施例1でHS1ゾーンの温度を165℃とし、Rxゾーンでの条件を165℃で弛緩率20%、弛緩速度260%/分とし、HS2ゾーンの温度を165℃と変更した以外は実施例1と同じ条件で幅500mm、厚み25μmの多孔性ポリプロピレンフィルムを得た。上記のようにして作製した比較例5の多孔性ポリプロピレンフィルムについて、上記の(1)〜(14)に記載の方法で測定および評価を行った。結果を表2に示す。
【0095】
(比較例6)
実施例1で延伸ゾーンでの倍率を6.0倍、Rxゾーンでの温度を155℃、弛緩率を5%、弛緩速度65%/分、HS2ゾーンでの温度を155℃と変更した以外は実施例1と同じ条件で幅500mm、厚み25μmの多孔性ポリプロピレンフィルムを得た。上記のようにして作製した比較例6の多孔性ポリプロピレンフィルムについて、上記の(1)〜(14)に記載の方法で測定および評価を行った。結果を表2に示す。
【0096】
(比較例7)
実施例1で延伸ゾーンでの倍率を6.0倍、Rxゾーンでの温度を155℃、弛緩速度260%/分、HS2ゾーンでの温度を155℃と変更した以外は実施例1と同じ条件で幅500mm、厚み25μmの多孔性ポリプロピレンフィルムを得た。上記のようにして作製した比較例7の多孔性ポリプロピレンフィルムについて、上記の(1)〜(14)に記載の方法で測定および評価を行った。結果を表2に示す。
【0097】
(比較例8)
実施例1で長手方向への延伸倍率を4.2倍、延伸温度を128℃に変更し、更に、横方向への延伸では、延伸ゾーンでの倍率を6.0倍、Rxゾーンでの温度を155℃、弛緩率を5%、弛緩速度65%/分、HS2ゾーンでの温度を155℃と変更した以外は実施例1と同じ条件で幅500mm、厚み25μmの多孔性ポリプロピレンフィルムを得た。上記のようにして作製した比較例8の多孔性ポリプロピレンフィルムについて、上記の(1)〜(14)に記載の方法で測定および評価を行った。結果を表2に示す。
【0098】
(比較例9)
実施例1で長手方向への延伸倍率を4.2倍、延伸温度を130℃に変更し、更に、横方向への延伸では、延伸ゾーンでの倍率を6.0倍、Rxゾーンでの温度を155℃、弛緩率を5%、弛緩速度65%/分、HS2ゾーンでの温度を155℃と変更した以外は実施例1と同じ条件で幅500mm、厚み25μmの多孔性ポリプロピレンフィルムを得た。上記のようにして作製した比較例9の多孔性ポリプロピレンフィルムについて、上記の(1)〜(14)に記載の方法で測定および評価を行った。結果を表2に示す。
【0099】
(比較例10)
ポリプロピレン樹脂として、MFR=7.5g/10分の住友化学(株)製ホモポリプロピレンFLX80E4のみを用い、酸化防止剤およびβ晶核剤の配合量、ならびに成膜条件は比較例5と同じ条件で、幅500mm、厚み25μmの多孔性ポリプロピレンフィルムを得た。上記のようにして作製した比較例10の多孔性ポリプロピレンフィルムについて、上記の(1)〜(14)に記載の方法で測定および評価を行った。結果を表2に示す。
なお、多孔性ポリプロピレンフィルムを構成するポリプロピレン樹脂(FLX80E4)の融点Tは165℃であった。
【0100】
【表1】
【0101】
【表2】
【0102】
本発明の要件を満足する実施例では透気抵抗が低く、空孔率が低く、更に幅方向の熱収縮特性に優れるため、安全性と出力特性を両立することができ、蓄電デバイス用のセパレータとして好適に用いることが可能であると考えられる。一方、比較例では、低透気抵抗と低空孔率化の両立が不十分であったり、熱収縮特性が劣り、高出力用途の蓄電デバイス用のセパレータとして用いることが困難である。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の多孔性プロピレンフィルムは、安全性に優れかつ透気性にも優れるため、蓄電デバイス用のセパレータとして好適に使用することができる。