(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の重荷重タイヤ用ゴム組成物、および、本発明の重荷重タイヤ用ゴム組成物を用いた空気入りタイヤについて説明する。
【0011】
[重荷重タイヤ用ゴム組成物]
本発明の重荷重タイヤ用ゴム組成物(以下、本発明の組成物ともいう)は、天然ゴムを60質量%以上含むジエン系ゴム(P)と、シリカ(Q)と、カーボンブラック(R)と、シランカップリング剤(S)とを含有し、上記シランカップリング剤(S)が、後述する式(1)の平均組成式で表されるポリシロキサンであり、上記シリカ(Q)の含有量が、上記ジエン系ゴム(P)100質量部に対して5〜50質量部であり、上記カーボンブラック(R)の含有量が、上記ジエン系ゴム(P)100質量部に対して5〜40質量部であり、上記シリカ(Q)と上記カーボンブラック(R)の合計の含有量が、上記ジエン系ゴム(P)100質量部に対して30〜70質量部であり、上記シランカップリング剤(S)の含有量が、上記シリカ(Q)の含有量に対して2〜20質量%である。
本発明の組成物はこのような構成をとるため、タイヤにしたときに優れた耐摩耗性、耐カット性および低発熱性を示すものと考えられる。
【0012】
その理由は明らかではないが、およそ以下のとおりと推測される。
後述するとおり、式(1)の平均組成式で表されるポリシロキサン(以下、特定ポリシロキサンともいう)は、加水分解性基とメルカプト基とを有する。
本発明の組成物は、天然ゴムを主成分とするジエン系ゴムと上記特定ポリシロキサンとを含有するため、特定ポリシロキサンのメルカプト基が天然ゴムと相互作用し、また、特定ポリシロキサンの加水分解性基とポリシロキサン構造がシリカと相互作用して、ゴム成分中でシリカが微粒子の状態で均一に分散する。結果として、ヒステリシスロスが減少し、優れた低発熱性を示すものと考えられる。また、ゴム成分中でシリカが微粒子の状態で均一に分散するため靭性が向上し、結果として、優れた耐カット性を示すものと考えられる。
このことは、後述する比較例1が示すように、シランカップリング剤として従来のシランカップリング剤を使用した場合には、低発熱性および耐カット性が不十分となることからも推測される。
また、本発明の組成物は、シリカとカーボンブラックの合計の含有量が上記ジエン系ゴムに対して特定の量であるため、優れた耐摩耗性を示し、カーボンブラックおよびシリカの量を特定量にすることにより優れた耐摩耗性と低発熱性の両立を示すものと考えられる。また、本発明の組成物は、特定のポリシロキサンを含有するために従来のシランカップリング剤よりも低い温度で混合が可能なため、天然ゴムの熱による分子切断を抑制でき、結果として優れた耐摩耗性および耐カット性を示すものと考えられる。
【0013】
以下、本発明の組成物に含有される各成分について詳述する。
【0014】
〔ジエン系ゴム(P)〕
本発明の組成物に含有されるジエン系ゴム(P)は、天然ゴムを60質量%以上含むジエン系ゴムである。ジエン系ゴム中の天然ゴムの含有量は、得られるタイヤの耐カット性がより優れる理由から、70〜100質量%であることが好ましく、80〜100質量%であることがより好ましい。
ジエン系ゴム(P)は、天然ゴムを60質量%以上含んでいれば、天然ゴム以外のジエン系ゴムを含んでいてもよい。
天然ゴム以外のジエン系ゴムとしては特に制限されないが、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(Br−IIR、Cl−IIR)、クロロプレンゴム(CR)などが挙げられる。なかでも、得られるタイヤの耐摩耗性がより優れる理由から、ブタジエンゴム(BR)であることが好ましい。
【0015】
〔シリカ(Q)〕
本発明の組成物に含有されるシリカ(Q)は特に制限されず、タイヤ等の用途でゴム組成物に配合されている従来公知の任意のシリカを用いることができる。
上記シリカ(Q)としては、例えば、湿式シリカ、乾式シリカ、ヒュームドシリカ、珪藻土などが挙げられる。上記シリカ(Q)は、1種のシリカを単独で用いても、2種以上のシリカを併用してもよい。
【0016】
シリカ(Q)の含有量は、上記ジエン系ゴム(P)100質量部に対して5〜50質量部であり、低発熱性および耐摩耗性のバランスがより優れる理由から、10〜50質量部であることが好ましい。
【0017】
〔カーボンブラック(R)〕
本発明の組成物に含有されるカーボンブラック(R)は、特に限定されず、例えば、SAF−HS、SAF、ISAF−HS、ISAF、ISAF−LS、IISAF−HS、HAF−HS、HAF、HAF−LS、FEF等の各種グレードのものを使用することができる。
上記カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N
2SA)は、得られるタイヤの耐摩耗性がより優れる理由から、60〜150m
2/gであることが好ましく、60m
2/g超150m
2/g以下であることがより好ましく、90〜150m
2/gであることがさらに好ましい。
ここで、窒素吸着比表面積(N
2SA)は、カーボンブラック表面への窒素吸着量をJIS K6217−2:2001「第2部:比表面積の求め方−窒素吸着法−単点法」にしたがって測定した値である。
【0018】
カーボンブラック(R)の含有量は、上記ジエン系ゴム(P)100質量部に対して5〜40質量部であり、低発熱性および耐摩耗性のバランスがより優れる理由から、5〜20質量部であることが好ましい。
【0019】
上記シリカ(Q)と上記カーボンブラック(R)の合計の含有量は、上記ジエン系ゴム(P)100質量部に対して30〜70質量部であり、低発熱性および耐摩耗性のバランスがより優れる理由から、40〜60質量部であることが好ましい。
上記シリカ(Q)と上記カーボンブラック(R)の合計の含有量が上記ジエン系ゴム(P)100質量部に対して30質量部を下回ると耐カット性および耐摩耗性が不十分となる。
【0020】
〔シランカップリング剤(S)〕
本発明の組成物に含有されるシランカップリング剤(S)は、下記式(1)の平均組成式で表されるポリシロキサン(特定ポリシロキサン)である。
(A)
a(B)
b(C)
c(D)
d(E)
eSiO
(4-2a-b-c-d-e)/2 (1)
【0021】
上記式(1)中、Aはスルフィド基を含有する2価の有機基(以下、スルフィド基含有有機基ともいう)を表す。なかでも、下記式(2)で表される基であることが好ましい。
*−(CH
2)
n−S
x−(CH
2)
n−
* (2)
上記式(2)中、nは1〜10の整数を表し、なかでも、2〜4の整数であることが好ましい。
上記式(2)中、xは1〜6の整数を表し、なかでも、2〜4の整数であることが好ましい。
上記式(2)中、*は、結合位置を示す。
上記式(2)で表される基の具体例としては、例えば、
*−CH
2−S
2−CH
2−
*、
*−C
2H
4−S
2−C
2H
4−
*、
*−C
3H
6−S
2−C
3H
6−
*、
*−C
4H
8−S
2−C
4H
8−
*、
*−CH
2−S
4−CH
2−
*、
*−C
2H
4−S
4−C
2H
4−
*、
*−C
3H
6−S
4−C
3H
6−
*、
*−C
4H
8−S
4−C
4H
8−
*などが挙げられる。
【0022】
上記式(1)中、Bは炭素数5〜10の1価の炭化水素基を表し、その具体例としては、例えば、ヘキシル基、オクチル基、デシル基などが挙げられる。
【0023】
上記式(1)中、Cは加水分解性基を表し、その具体例としては、例えば、アルコキシ基、フェノキシ基、カルボキシル基、アルケニルオキシ基などが挙げられる。なかでも、下記式(3)で表される基であることが好ましい。
*−OR
2 (3)
上記式(3)中、R
2は炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数6〜10のアラルキル基(アリールアルキル基)または炭素数2〜10のアルケニル基を表し、なかでも、炭素数1〜5のアルキル基であることが好ましい。上記炭素数1〜20のアルキル基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、オクタデシル基などが挙げられる。上記炭素数6〜10のアリール基の具体例としては、例えば、フェニル基、トリル基などが挙げられる。上記炭素数6〜10のアラルキル基の具体例としては、例えば、ベンジル基、フェニルエチル基などが挙げられる。上記炭素数2〜10のアルケニル基の具体例としては、例えば、ビニル基、プロぺニル基、ペンテニル基などが挙げられる。
上記式(3)中、*は、結合位置を示す。
【0024】
上記式(1)中、Dはメルカプト基を含有する有機基を表す。なかでも、下記式(4)で表される基であることが好ましい。
*−(CH
2)
m−SH (4)
上記式(4)中、mは1〜10の整数を表し、なかでも、1〜5の整数であることが好ましい。
上記式(4)中、*は、結合位置を示す。
上記式(4)で表される基の具体例としては、
*−CH
2SH、
*−C
2H
4SH、
*−C
3H
6SH、
*−C
4H
8SH、
*−C
5H
10SH、
*−C
6H
12SH、
*−C
7H
14SH、
*−C
8H
16SH、
*−C
9H
18SH、
*−C
10H
20SHが挙げられる。
【0025】
上記式(1)中、Eは炭素数1〜4の1価の炭化水素基を表す。
【0026】
上記式(1)中、a〜eは、0≦a<1、0≦b<1、0<c<3、0<d<1、0≦e<2、0<2a+b+c+d+e<4の関係式を満たす(ただし、aとbのいずれか一方は0ではない)。
【0027】
上記特定ポリシロキサンは、得られるタイヤの耐カット性および低発熱性がより優れる理由から、aが0よりも大きい(0<a)ことが好ましい。すなわち、スルフィド基含有有機基を有することが好ましい。なかでも、低発熱性により優れるという理由から、0<a≦0.50であることが好ましい。
【0028】
上記式(1)中、bは、得られるタイヤの低発熱性がより優れる理由から、bが0よりも大きい(0<b)ことが好ましく、0.10≦b≦0.89であることが好ましい。
上記式(1)中、cは、得られるタイヤの低発熱性およびシリカの分散性がより優れる理由から、1.2≦c≦2.0であることが好ましい。
上記式(1)中、dは、得られるタイヤの低発熱性がより優れる理由から、0.1≦d≦0.8であることが好ましい。
【0029】
上記特定ポリシロキサンは、シリカの分散性がより良好であるという理由から、上記式(1)中、Aが上記式(2)で表される基であり、上記式(1)中のCが上記式(3)で表される基であり、上記式(1)中のDが上記式(4)で表される基であるポリシロキサンであることが好ましい。
【0030】
上記特定ポリシロキサンの重量平均分子量は、得られるタイヤの低発熱性がより優れる理由から、500〜2000であるのが好ましく、600〜1800であるのがより好ましい。本願における特定ポリシロキサンの分子量は、トルエンを溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算で求めたものである。
上記特定ポリシロキサンの酢酸/ヨウ化カリウム/ヨウ素酸カリウム添加−チオ硫酸ナトリウム溶液滴定法によるメルカプト当量は、加硫反応性に優れるという観点から、550〜1900g/molであるのが好ましく、600〜180g/molであるのがより好ましい。
【0031】
上記特定ポリシロキサンは、得られるタイヤの低発熱性がより優れる理由から、シロキサン単位(−Si−O−)を2〜50個有するものであることが好ましい。
【0032】
なお、上記特定ポリシロキサンの骨格には、ケイ素原子以外の金属(例えば、Sn、Ti、Al)は存在しない。
【0033】
上記特定ポリシロキサンを製造する方法は特に限定されないが、第1の好適な態様としては、下記式(6)で表される有機ケイ素化合物と、下記式(7)で表される有機ケイ素化合物とを加水分解縮合する方法が挙げられる。また、第2の好適な態様としては、下記式(5)で表される有機ケイ素化合物と、下記式(6)で表される有機ケイ素化合物と、下記式(7)で表される有機ケイ素化合物とを加水分解縮合する方法が挙げられる。また、第3の好適な態様としては、下記式(5)で表される有機ケイ素化合物と、下記式(6)で表される有機ケイ素化合物と、下記式(7)で表される有機ケイ素化合物と、下記式(8)で表される有機ケイ素化合物とを加水分解縮合する方法が挙げられる。
なかでも、得られるタイヤの耐カット性および低発熱性がより優れる理由から、上記第2の好適な態様であることが好ましい。
【0035】
上記式(5)中、R
51は炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基または炭素数2〜10のアルケニル基を表し、なかでも、炭素数1〜5のアルキル基であることが好ましい。上記炭素数1〜20のアルキル基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、オクタデシル基などが挙げられる。上記炭素数6〜10のアリール基の具体例としては、例えば、フェニル基、トリル基、ナフチル基などが挙げられる。炭素数2〜10のアルケニル基の具体例としては、例えば、ビニル基、プロペニル基、ペンテニル基などが挙げられる。
上記式(5)中、R
52は炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基を表す。上記炭素数1〜10のアルキル基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基などが挙げられる。上記炭素数6〜10のアリール基の具体例は上記R
51と同じである。
上記式(5)中、nの定義および好適な態様は、上記nと同じである。
上記式(5)中、xの定義および好適な態様は、上記xと同じである。
上記式(5)中、yは1〜3の整数を表す。
【0036】
上記式(5)で表される有機ケイ素化合物の具体例としては、例えば、ビス(トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィドなどが挙げられる。
【0038】
上記式(6)中、R
61の定義、具体例および好適な態様は、上記R
51と同じである。
上記式(6)中、R
62の定義、具体例および好適な態様は、上記R
52と同じである。
上記式(6)中、zの定義は、上記yと同じである。
上記式(6)中、pは5〜10の整数を表す。
【0039】
上記式(6)で表される有機ケイ素化合物の具体例としては、例えば、ペンチルトリメトキシシラン、ペンチルメチルジメトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ペンチルメチルジエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルメチルジメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘキシルメチルジエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルメチルジメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、オクチルメチルジエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルメチルジメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、デシルメチルジエトキシシランなどが挙げられる。
【0041】
上記式(7)中、R
71の定義、具体例および好適な態様は、上記R
51と同じである。
上記式(7)中、R
72の定義、具体例および好適な態様は、上記R
52と同じである。
上記式(7)中、mの定義および好適な態様は、上記mと同じである。
上記式(7)中、wの定義は、上記yと同じである。
【0042】
上記式(7)で表される有機ケイ素化合物の具体例としては、例えば、α−メルカプトメチルトリメトキシシラン、α−メルカプトメチルメチルジメトキシシラン、α−メルカプトメチルトリエトキシシラン、α−メルカプトメチルメチルジエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジエトキシシランなどが挙げられる。
【0044】
上記式(8)中、R
81の定義、具体例および好適な態様は、上記R
51と同じである。
上記式(8)中、R
82の定義、具体例および好適な態様は、上記R
52と同じである。
上記式(8)中、vの定義は、上記yと同じである。
上記式(8)中、qは1〜4の整数を表す。
【0045】
上記式(8)で表される有機ケイ素化合物の具体例としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルエチルジエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルメチルジメトキシシラン、プロピルメチルジエトキシシランなどが挙げられる。
【0046】
上記特定ポリシロキサンを製造する際には必要に応じて溶媒を用いてもよい。溶媒としては特に限定されないが、具体的にはペンタン、ヘキサン、ヘプタン、デカンなどの脂肪族炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル系溶媒、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール系溶媒などが挙げられる。
【0047】
上記特定ポリシロキサンを製造する際には必要に応じて触媒を用いてもよい。触媒としては、例えば、塩酸、酢酸などの酸性触媒、アンモニウムフルオリドなどのルイス酸触媒、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カルシウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシドなどのアルカリ金属塩、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジンなどのアミン化合物などが挙げられる。
上記触媒は、金属としてSn、TiまたはAlを含有する有機金属化合物でないことが好ましい。このような有機金属化合物を使用した場合、ポリシロキサン骨格に金属が導入されて、上記特定ポリシロキサン(骨格には、ケイ素原子以外の金属(例えば、Sn、Ti、Al)は存在しない)が得られないことがある。
【0048】
上記特定ポリシロキサンを製造する際に使用される有機ケイ素化合物として、メルカプト基を有するシランカップリング剤[例えば、式(7)で表される有機ケイ素化合物]及びスルフィド基又はメルカプト基を有するシランカップリング剤以外のシランカップリング剤[例えば、式(6)や式(8)で表される有機ケイ素化合物]を併用する際、メルカプト基を有するシランカップリング剤とスルフィド基又はメルカプト基を有するシランカップリング剤以外のシランカップリング剤との混合比(モル比)(メルカプト基を有するシランカップリング剤/スルフィド基又はメルカプト基を有するシランカップリング剤以外のシランカップリング剤)は、ウェット性能、低転がり抵抗性、加工性により優れるという観点から、1.1/8.9〜6.7/3.3であるのが好ましく、1.4/8.6〜5.0/5.0であるのがより好ましい。
【0049】
上記特定ポリシロキサンを製造する際に使用される有機ケイ素化合物として、メルカプト基を有するシランカップリング剤[例えば、式(7)で表される有機ケイ素化合物]及びスルフィド基を有するシランカップリング剤[例えば、式(5)で表される有機ケイ素化合物]を併用する際、メルカプト基を有するシランカップリング剤とスルフィド基を有するシランカップリング剤との混合比(モル比)(メルカプト基を有するシランカップリング剤/スルフィド基を有するシランカップリング剤)は、ウェット性能、低転がり抵抗性、加工性により優れるという観点から、2.0/8.0〜8.9/1.1であるのが好ましく、2.5/7.5〜8.0/2.0であるのがより好ましい。
【0050】
上記特定ポリシロキサンを製造する際に使用される有機ケイ素化合物として、メルカプト基を有するシランカップリング剤[例えば、式(7)で表される有機ケイ素化合物]、スルフィド基を有するシランカップリング剤[例えば、式(5)および/またはで表される有機ケイ素化合物]、及びスルフィド基又はメルカプト基を有するシランカップリング剤以外のシランカップリング剤[例えば、式(6)や式(8)で表される有機ケイ素化合物]を併用する際、メルカプト基を有するシランカップリング剤の量は、前3者の合計量(モル)中の10.0〜73.0%であるのが好ましい。スルフィド基を有するシランカップリング剤の量は、前3者の合計量中の5.0〜67.0%であるのが好ましい。スルフィド基又はメルカプト基を有するシランカップリング剤以外のシランカップリング剤の量は、前3者の合計量中の16.0〜85.0%であるのが好ましい。
【0051】
上記シランカップリング剤(S)の含有量は、上記シリカ(Q)の含有量に対して2〜20質量%であり、得られるタイヤの低発熱性がより優れる理由から、4〜18質量%であることが好ましく、5〜14質量%であることがより好ましく、8〜12質量%であることがさらに好ましい。
【0052】
〔任意成分〕
本発明の組成物には、必要に応じて、その効果や目的を損なわない範囲でさらに添加剤を含有することができる。
上記添加剤としては、例えば、本発明の組成物に含有されるシランカップリング剤(S)以外のシランカップリング剤、酸化亜鉛(亜鉛華)、ステアリン酸、老化防止剤、加工助剤、アロマオイル、プロセスオイル、液状ポリマー、テルペン樹脂、熱硬化性樹脂、加硫剤、加硫促進剤などのタイヤ用ゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤が挙げられる。
【0053】
〔硬さ〕
本発明の組成物は、低発熱性および耐摩耗性のバランスがより優れる理由から、加硫後にJISK6253に準拠して20℃で測定したタイプAデュロメータ硬さ(以下、単に「デュロメータ硬さ」ともいう。)が60以上であることが好ましい。
デュロメータ硬さの上限値は、特に制限されないが、90以下であることが好ましく、85以下であることがより好ましい。
【0054】
〔重荷重タイヤ用ゴム組成物の製造方法〕
本発明の組成物の製造方法は特に限定されず、その具体例としては、例えば、上述した各成分を、公知の方法、装置(例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなど)を用いて、混練する方法などが挙げられる。
また、本発明の組成物は、従来公知の加硫または架橋条件で加硫または架橋することができる。
【0055】
〔用途〕
本発明の組成物は重荷重タイヤの製造に用いられる。なかでも、耐摩耗性、耐カット性および低発熱性が優れる理由から、重荷重タイヤのタイヤトレッドに好適に用いられる。また、本発明の組成物は、耐疲労性にも優れるため、重荷重タイヤのビードフィラーにも好適に用いられる。
【0056】
[空気入りタイヤ]
本発明の空気入りタイヤは、上述した本発明の組成物をタイヤ(好ましくはタイヤトレッドおよび/またはビードフィラー)に使用した空気入りタイヤである。
図1に、本発明の空気入りタイヤの実施態様の一例を表すタイヤの部分断面概略図を示すが、本発明の空気入りタイヤは
図1に示す態様に限定されるものではない。
【0057】
図1において、空気入りタイヤは左右一対のビード部1およびサイドウォール部2と、両サイドウォール部2に連なるタイヤトレッド部3からなり、左右一対のビード部1間にスチールコードが埋設されたカーカス層4が装架され、カーカス層4の端部がビードコア5およびビードフィラー6の廻りにタイヤ内側から外側に折り返されて巻き上げられている。タイヤトレッド部3においては、カーカス層4の外側に、ベルト層7がタイヤ1周に亘って配置されている。ベルト層7の両端部には、ベルトクッション8が配置されている。空気入りタイヤの内面には、タイヤ内部に充填された空気がタイヤ外部に漏れるのを防止するために、インナーライナー9が設けられ、インナーライナー9を接着するためのタイゴム10が、カーカス層4とインナーライナー9との間に積層されている。
【0058】
本発明の空気入りタイヤは、例えば従来公知の方法に従って製造することができる。また、タイヤに充填する気体としては、通常のまたは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスを用いることができる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により、本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0060】
(合成例1:特定ポリシロキサン1)
撹拌機、還流冷却器、滴下ロート及び温度計を備えた2Lセパラブルフラスコにビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド(信越化学工業製 KBE−846)107.8g(0.2mol)、γ―メルカプトプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業製 KBE−803)190.8g(0.8mol)、オクチルトリエトキシシラン(信越化学工業製 KBE−3083)442.4g(1.6mol)、エタノール190.0gを納めた後、室温にて0.5N塩酸37.8g(2.1mol)とエタノール75.6gの混合溶液を滴下した。その後、80℃にて2時間攪拌した。その後、濾過、5%KOH/EtOH溶液17.0gを滴下し80℃で2時間攪拌した。その後、減圧濃縮、濾過することで褐色透明液体のポリシロキサン480.1gを得た。GPCにより測定した結果、平均分子量は840であり、平均重合度は4.0(設定重合度4.0)であった。また、酢酸/ヨウ化カリウム/ヨウ素酸カリウム添加−チオ硫酸ナトリウム溶液滴定法によりメルカプト当量を測定した結果、730g/molであり、設定通りのメルカプト基含有量であることが確認された。以上より、下記平均組成式で示される。
(−C
3H
6−S
4−C
3H
6−)
0.071(−C
8H
17)
0.571(−OC
2H
5)
1.50(−C
3H
6SH)
0.286SiO
0.75
得られたポリシロキサンを特定ポリシロキサン1とする。
【0061】
(合成例2:特定ポリシロキサン2)
撹拌機、還流冷却器、滴下ロート及び温度計を備えた2Lセパラブルフラスコにγ―メルカプトプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業製 KBE−803)190.8g(0.8mol)、オクチルトリエトキシシラン(信越化学工業製 KBE−3083)442.4g(1.6mol)、エタノール162.0gを納めた後、室温にて0.5N塩酸32.4g(1.8mol)とエタノール75.6gの混合溶液を滴下した。その後、80℃にて2時間攪拌した。その後、濾過、5%KOH/EtOH溶液14.6gを滴下し80℃で2時間攪拌した。その後、減圧濃縮、濾過することで無色透明液体のポリシロキサン412.3を得た。GPCにより測定した結果、平均分子量は850であり、平均重合度は4.0(設定重合度4.0)であった。また、酢酸/ヨウ化カリウム/ヨウ素酸カリウム添加−チオ硫酸ナトリウム溶液滴定法によりメルカプト当量を測定した結果、650g/molであり、設定通りのメルカプト基含有量であることが確認された。以上より、下記平均組成式で示される。
(−C
8H
17)
0.667(−OC
2H
5)
1.50(−C
3H
6SH)
0.333SiO
0.75
得られたポリシロキサンを特定ポリシロキサン2とする。
【0062】
(合成例3:比較ポリシロキサン1)
3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(0.1mol)を水および濃塩酸水溶液で加水分解し、その後、エトキシメチルポリシロキサン(100g)を添加し、縮合することでポリシロキサンを得た。得られたポリシロキサンを比較ポリシロキサン1とする。
上記比較ポリシロキサン1は、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランのメトキシ基とエトキシメチルポリシロキサンのエトキシ基とが縮合した構造を有する。すなわち、上記比較ポリシロキサン1が有する1価の炭化水素基はメチル基のみである。また、上記比較ポリシロキサン1はスルフィド基を含有する2価の有機基を有さない。
【0063】
(合成例4:比較ポリシロキサン2)
ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィド(0.1mol)を水および濃塩酸水溶液で加水分解し、その後、エトキシメチルポリシロキサン(100g)を添加し、縮合することでポリシロキサンを得た。得られたポリシロキサンを比較ポリシロキサン2とする。
上記比較ポリシロキサン2は、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィドのエトキシ基とエトキシメチルポリシロキサンのエトキシ基とが縮合した構造を有する。すなわち、上記比較ポリシロキサン2が有する1価の炭化水素基はメチル基のみである。また、上記比較ポリシロキサン2はメルカプト基を含有する有機基を有さない。
【0064】
下記第1表に示す成分を、下記第1表に示す割合(質量部)で配合した。
具体的には、まず、下記第1表に示す成分のうち硫黄および促進剤を除く成分を、1.7リットルの密閉式バンバリーミキサーを用いて5分間混合し、140±5℃に達したときに放出し、室温まで冷却してマスターバッチを得た。さらに、上記バンバリーミキサーを用いて、得られたマスターバッチに硫黄および促進剤を混合し、ゴム組成物を得た。
第1表中、シランカップリング剤についてカッコの中の数字は、シリカの含有量に対するシランカップリング剤の含有量(質量%)を表す。
【0065】
<評価用加硫ゴムシートの作製>
調製したタイヤ用ゴム組成物(未加硫)を、金型(15cm×15cm×0.2cm)中、160℃で20分間プレス加硫して、加硫ゴムシートを作製した。
【0066】
<硬さ>
上述のとおり作製した加硫ゴムシートについて、JIS K6253に準拠し、20℃で、タイプAデュロメータ硬さを測定した。結果を第1表に示す。
【0067】
<耐摩耗性>
上述のとおり作製した加硫ゴムシートについて、JIS K6264−1、2:2005に準拠し、ランボーン磨耗試験機(岩本製作所製)を用いて、温度20℃、スリップ率50%の条件で摩耗減量を測定した。
結果を第1表に示す。結果は比較例1の摩耗量を100として、次式により指数化したものを表した。指数が大きいほど摩耗量が小さく、タイヤにしたときに耐摩耗性に優れる。
耐摩耗性=(比較例1の摩耗量/他の比較例または実施例の摩耗量)×100
【0068】
<耐カット性>
上述のとおり作製した加硫ゴムシートに、先端の角度が90°、長さ40mmおよび径4mmの針を高さ150mmから荷重29.4Nで落下させ、針の刺さった深さを測定した。結果を第1表に示す。結果は比較例1の深さを100として、次式により指数化したものを表した。指数が大きいほど、タイヤにしたときに耐カット性に優れる。
耐カット性=(比較例1の針の刺さった深さ/他の比較例または実施例の針の刺さった深さ)×100
【0069】
<低発熱性>
上述のとおり作製した加硫ゴムシートについて、JIS K6394:2007に準拠し、粘弾性スペクトロメーター(岩本製作所社製)を用いて、伸張変形歪率10%±2%、振動数20Hz、温度60℃の条件で、tanδ(60℃)を測定した。
結果を第1表に示す。結果は比較例1のtanδ(60℃)を100とする指数で表した。指数が小さいほどtanδ(60℃)が小さく、タイヤにしたときに低発熱性に優れる。
【0070】
<耐疲労性>
上述のとおり作製した加硫ゴムシートについて、JIS K6270:2001に準拠し、JIS3号ダンベル型試験片を打ち抜き、60%の歪みを繰り返し与え、破断回数を測定した。
結果を第1表に示す。結果は比較例1の結果を100とする指数で表した。指数が大きいほどタイヤにしたときに耐疲労性に優れる。実用上、105以上であることが好ましい。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
【表3】
【0074】
上記第1表に示されている各成分の詳細は以下のとおりである。
・NR:天然ゴム(STR20)
・BR:Nipol BR1220(日本ゼオン社製)
・シリカ:ULTRASIL VN3GR(N
2SA=170m
2/g、エボニック社製)
・CB1:ショウブラックN234(ISAF、N
2SA:123m
2/g、キャボットジャパン社製)
・CB2:ショウブラックN339(HAF、N
2SA:88m
2/g、キャボットジャパン社製)
・CB3:ショウブラックN330T(HAF、N
2SA:68m
2/g、キャボットジャパン社製)
・シランカップリング剤1:上述のとおり合成された特定ポリシロキサン1
・シランカップリング剤2:上述のとおり合成された特定ポリシロキサン2
・シランカップリング剤X1:Si69(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、エボニックデグサ社製)
・シランカップリング剤X2:上述のとおり合成された比較ポリシロキサン1
・シランカップリング剤X3:上述のとおり合成された比較ポリシロキサン2
・ステアリン酸:ビーズステアリン酸YR(日油社製)
・硫黄:金華印油入微粉硫黄(鶴見化学工業社製)
・促進剤:SANTOCURE CBS(FLEXSYS製)
【0075】
シランカップリング剤として特定ポリシロキサンを使用する本願実施例はいずれも優れた耐摩耗性、耐カット性および低発熱性を示した。加えて、優れた耐疲労性を示した。なかでも、カーボンブラック(R)の窒素吸着比表面積が90〜150m
2/gである実施例1および2は、より優れた耐摩耗性を示した。そのなかでも、特定ポリシロキサンがスルフィド基含有有機基を有する(上記式(1)中、aが0よりも大きい)特定ポリシロキサンである実施例1はより優れた耐カット性および低発熱性を示した。
一方、シランカップリング剤として従来のシランカップリング剤(特定ポリシロキサン以外のシランカップリング剤)を使用した比較例1は耐カット性および低発熱性が不十分であった。また、ジエン系ゴム中の天然ゴムの含有量が60質量%を下回る比較例2は耐カット性が不十分であった。また、ジエン系ゴム100質量部に対するシリカとカーボンの合計の含有量が30質量部を下回る比較例4は耐摩耗性および耐カット性が不十分であった。また、シランカップリング剤として、「スルフィド基を含有する2価の有機基」および「炭素数5〜10の1価の炭化水素基」のいずれも有さない比較ポリシロキサン1を使用した比較例5、ならびに、「メルカプト基を含有する有機基」を有さない比較ポリシロキサン2を使用した比較例6は、耐カット性が不十分であった。