特許第5907310号(P5907310)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5907310オキサジナン化合物の結晶形及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5907310
(24)【登録日】2016年4月1日
(45)【発行日】2016年4月26日
(54)【発明の名称】オキサジナン化合物の結晶形及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 413/14 20060101AFI20160412BHJP
   A61K 31/5355 20060101ALN20160412BHJP
   A61P 43/00 20060101ALN20160412BHJP
   A61P 25/20 20060101ALN20160412BHJP
   A61P 25/24 20060101ALN20160412BHJP
   A61P 25/22 20060101ALN20160412BHJP
   A61P 25/18 20060101ALN20160412BHJP
   A61P 25/30 20060101ALN20160412BHJP
   A61P 25/28 20060101ALN20160412BHJP
   A61P 5/16 20060101ALN20160412BHJP
   A61P 25/14 20060101ALN20160412BHJP
   A61P 1/14 20060101ALN20160412BHJP
   A61P 25/06 20060101ALN20160412BHJP
   A61P 25/04 20060101ALN20160412BHJP
   A61P 1/00 20060101ALN20160412BHJP
   A61P 25/08 20060101ALN20160412BHJP
   A61P 29/00 20060101ALN20160412BHJP
   A61P 37/02 20060101ALN20160412BHJP
   A61P 3/00 20060101ALN20160412BHJP
   A61P 9/12 20060101ALN20160412BHJP
【FI】
   C07D413/14CSP
   !A61K31/5355
   !A61P43/00 111
   !A61P25/20
   !A61P25/24
   !A61P25/22
   !A61P25/18
   !A61P25/30
   !A61P25/28
   !A61P5/16
   !A61P25/14
   !A61P1/14
   !A61P25/06
   !A61P25/04
   !A61P1/00
   !A61P25/08
   !A61P29/00
   !A61P37/02
   !A61P3/00
   !A61P9/12
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-512427(P2015-512427)
(86)(22)【出願日】2014年12月9日
(86)【国際出願番号】JP2014082497
(87)【国際公開番号】WO2015087853
(87)【国際公開日】20150618
【審査請求日】2015年3月6日
(31)【優先権主張番号】特願2013-257691(P2013-257691)
(32)【優先日】2013年12月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002819
【氏名又は名称】大正製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100129458
【弁理士】
【氏名又は名称】梶田 剛
(72)【発明者】
【氏名】二村 彩
(72)【発明者】
【氏名】服部 信隆
(72)【発明者】
【氏名】浦部 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】尾形 有也
(72)【発明者】
【氏名】大崎 尚人
【審査官】 小川 由美
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/187467(WO,A1)
【文献】 特開2015−131803(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/068935(WO,A1)
【文献】 特表2005−501026(JP,A)
【文献】 特表2004−533440(JP,A)
【文献】 特表2004−534026(JP,A)
【文献】 特表2012−506376(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D,A61K
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)〜(c)の物性の少なくとも1つを有する、(−)−(2−{[3−(5−フルオロピリジン−2−イル)−1H−ピラゾール−1−イル]メチル}−1,3−オキサジナン−3−イル)[5−メチル−2−(2H−1,2,3−トリアゾール−2−イル)フェニル]メタノンの無水物の結晶。
(a)粉末X線回折(Cu−Kα)において、2θ=8.1度、13.4度,15.6度及び21.6度にピークを有する;
(b)融点が129〜134℃である;又は
(c)赤外線吸収スペクトルにおいて、特性吸収帯が1626cm−1、1497cm−1、1227cm−1、1080cm−1、818cm−1及び785cm−1にある。
【請求項2】
エタノールに(−)−(2−{[3−(5−フルオロピリジン−2−イル)−1H−ピラゾール−1−イル]メチル}−1,3−オキサジナン−3−イル)[5−メチル−2−(2H−1,2,3−トリアゾール−2−イル)フェニル]メタノンを溶解させた後、結晶化させ、乾燥させることを特徴とする請求項1に記載の無水物の結晶の製造方法。
【請求項3】
下記(a)〜(c)の物性の少なくとも1つを有する、(−)−(2−{[3−(5−フルオロピリジン−2−イル)−1H−ピラゾール−1−イル]メチル}−1,3−オキサジナン−3−イル)[5−メチル−2−(2H−1,2,3−トリアゾール−2−イル)フェニル]メタノンの水和物の結晶。
(a)粉末X線回折(Cu−Kα)において、2θ=11.1度、12.5度,20.3度及び24.2度にピークを有する;
(b)融点が124〜129℃である;又は
(c)赤外線吸収スペクトルにおいて、特性吸収帯が1627cm-1、1504cm-1、1226cm-1、1076cm-1、822cm-1及び783cm-1にある。
【請求項4】
低級アルコールもしくはアセトンと水の混合溶媒に(−)−(2−{[3−(5−フルオロピリジン−2−イル)−1H−ピラゾール−1−イル]メチル}−1,3−オキサジナン−3−イル)[5−メチル−2−(2H−1,2,3−トリアゾール−2−イル)フェニル]メタノンを溶解させた後、結晶化させ、乾燥させることを特徴とする請求項3に記載の水和物の結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(−)−(2−{[3−(5−フルオロピリジン−2−イル)−1H−ピラゾール−1−イル]メチル}−1,3−オキサジナン−3−イル)[5−メチル−2−(2H−1,2,3−トリアゾール−2−イル)フェニル]メタノンの結晶多形及びその製造方法に関する。更に詳しくは、例えば睡眠障害、うつ病、不安障害、パニック障害、統合失調症、薬物依存症、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン舞踏病、摂食障害、頭痛、片頭痛、疼痛、消化器疾患、てんかん、炎症、免疫関連疾患、内分泌関連疾患、高血圧等の疾患など、オレキシン(OX)受容体が関与しているとされる疾患の治療剤及び予防剤として有用性が期待されるオレキシン受容体拮抗薬である(−)−(2−{[3−(5−フルオロピリジン−2−イル)−1H−ピラゾール−1−イル]メチル}−1,3−オキサジナン−3−イル)[5−メチル−2−(2H−1,2,3−トリアゾール−2−イル)フェニル]メタノンの結晶多形及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オレキシンは、視床下部外側野に特異的に発現するプレプロオレキシンからスプライシングされる神経ペプチドである。これまでに、33個のアミノ酸からなるOX−Aおよび28個のアミノ酸からなるOX−Bが同定されており、これらはいずれも睡眠・覚醒パターンの調節や摂食の調節に深く関与している。
【0003】
OX−AおよびOX−Bは、いずれもOX受容体に作用する。OX受容体は、これまでにOX1およびOX2受容体の2つのサブタイプがクローニングされており、いずれも主として脳内に発現する7回膜貫通Gタンパク質共役型受容体であることが知られている。OX1受容体は、Gタンパク質サブクラスのうちGqと特異的に共役しており、一方でOX2受容体はGqおよびGi/oに共役している(非特許文献1及び非特許文献2参照)。
OX受容体のサブタイプによって組織分布は異なっており、OX1受容体はノルアドレナリン作動性神経の起始核である青斑核、OX2受容体はヒスタミン神経の起始核である結節乳頭核に高密度に発現している(非特許文献3、非特許文献4及び非特許文献5参照)。セロトニン神経の起始核である縫線核や、ドパミン神経の起始核である腹側被蓋野にはOX1受容体とOX2受容体両方の発現がみられる(非特許文献3参照)。オレキシン神経は脳幹と視床下部のモノアミン神経系に投射し、それらの神経に対して興奮性の影響を与えており、さらにREM睡眠の制御に関わる脳幹のアセチルコリン神経にもOX2受容体の発現がみられ、これらの神経核の活性にも影響を及ぼしている(非特許文献3及び非特許文献4参照)。
【0004】
近年、OX1およびOX2受容体と睡眠・覚醒調節との関連が注目されており、OX受容体拮抗作用を有する化合物の有用性が研究されている。OX−Aをラットの脳室内に投与すると、自発運動量の亢進(非特許文献6及び非特許文献7参照)、常同行動の亢進(非特許文献7参照)、覚醒時間の延長(非特許文献6参照)などが認められる。OX−Aの投与によるREM睡眠時間の短縮作用は、OX受容体拮抗物質の前処置により完全に拮抗される(非特許文献8参照)。さらに、経口投与が可能なOX1およびOX2受容体を同程度に拮抗する物質の投与により、運動量の減少、入眠潜時の短縮、non−REM睡眠量およびREM睡眠の増加が報告されている(非特許文献9および非特許文献10参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Zhu Y et al., J. Pharmacol. Sci., 92, 259-266, 2003.
【非特許文献2】Zeitzer JM et al., Trends Pharmacol. Sci., 27, 368-374, 2006.
【非特許文献3】Marcus JN et al., J. Comp. Neurol, 435, 6-25, 2001.
【非特許文献4】Trivedi JP et al., FEBS Lett, 438, 71-75, 1998.
【非特許文献5】Yamanaka A et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 290, 1237-1245, 2002.
【非特許文献6】Hagan JJ et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 96, 10911-10916, 1999.
【非特許文献7】Nakamura T et al., Brain Res., 873, 181-187, 2000.
【非特許文献8】Smith MI et al., Neurosci. Lett., 341, 256-258, 2003.
【非特許文献9】Brisbare-Roch C et al., Nat. Med., 13, 150-155, 2007.
【非特許文献10】Cox CD et al., J. Med. Chem., 53, 5320-5332, 2010.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、OX受容体拮抗作用を示し、一定の品質を有する単一の結晶として再現性良く得られ、医薬品及び医薬品原料の製造に用いられる原薬の結晶として安定的に供給されることが可能で、保存安定性に優れた物理学的特性を有する新規な化合物の結晶形と製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、(−)−(2−{[3−(5−フルオロピリジン−2−イル)−1H−ピラゾール−1−イル]メチル}−1,3−オキサジナン−3−イル)[5−メチル−2−(2H−1,2,3−トリアゾール−2−イル)フェニル]メタノン(以下、化合物(A)と記すこともある)が、高いOX受容体拮抗作用を示し、また物理的特性に優れた化合物(A)の結晶を提供することができることを発見し、本発明を完成するに至った。さらに、化合物(A)には無水物及び水和物が存在することを見出した。
【0008】
すなわち、本願発明の1つの態様は、
(1)下記(a)〜(c)の物性の少なくとも1つを有する、
(−)−(2−{[3−(5−フルオロピリジン−2−イル)−1H−ピラゾール−1−イル]メチル}−1,3−オキサジナン−3−イル)[5−メチル−2−(2H−1,2,3−トリアゾール−2−イル)フェニル]メタノンの無水物の結晶である。
(a)粉末X線回折(Cu−Kα)において、2θ=8.1度、13.4度,15.6度及び21.6度にピークを有する;
(b)融点が129〜134℃である;又は
(c)赤外線吸収スペクトルにおいて、特性吸収帯が1626cm-1、1497cm-1、1227cm-1、1080cm-1、818cm-1及び785cm-1にある。
また、本願発明の他の態様は、
(2)エタノールに(−)−(2−{[3−(5−フルオロピリジン−2−イル)−1H−ピラゾール−1−イル]メチル}−1,3−オキサジナン−3−イル)[5−メチル−2−(2H−1,2,3−トリアゾール−2−イル)フェニル]メタノンを溶解させた後、結晶化させ、乾燥させることを特徴とする(1)記載の無水物の結晶の製造方法である。
また、本願発明の他の態様は、
(3)下記(a)〜(c)の物性の少なくとも1つを有する、
(−)−(2−{[3−(5−フルオロピリジン−2−イル)−1H−ピラゾール−1−イル]メチル}−1,3−オキサジナン−3−イル)[5−メチル−2−(2H−1,2,3−トリアゾール−2−イル)フェニル]メタノンの水和物の結晶である。
(a)粉末X線回折(Cu−Kα)において、2θ=11.1度、12.5度,20.3度及び24.2度にピークを有する;
(b)融点が124〜129℃である;又は
(c)赤外線吸収スペクトルにおいて、特性吸収帯が1627cm-1、1504cm-1、1226cm-1、1076cm-1、822cm-1及び783cm-1にある。
また、本願発明の他の態様は、
(4)低級アルコールもしくはアセトンと水の混合溶媒に(−)−(2−{[3−(5−フルオロピリジン−2−イル)−1H−ピラゾール−1−イル]メチル}−1,3−オキサジナン−3−イル)[5−メチル−2−(2H−1,2,3−トリアゾール−2−イル)フェニル]メタノンを溶解させた後、結晶化させ、乾燥させることを特徴とする(3)に記載の水和物の結晶の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
(−)−(2−{[3−(5−フルオロピリジン−2−イル)−1H−ピラゾール−1−イル]メチル}−1,3−オキサジナン−3−イル)[5−メチル−2−(2H−1,2,3−トリアゾール−2−イル)フェニル]メタノンの水和物の結晶は室温付近の温度で安定な結晶であり、保存安定性に優れている。さらに、粉砕等の製剤操作によっても結晶形の転移を起こさないため、取り扱いやすく、有用な医薬品原料となりうることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】化合物(A)の無水物の結晶の粉末X線回折パターンを示す。
図2】化合物(A)の無水物の結晶の示差熱分析/熱質量測定カーブを示す。
図3】化合物(A)の無水物の結晶の赤外吸収スペクトル(ATR法)を示す。
図4】化合物(A)の水和物の結晶の粉末X線回折パターンを示す。
図5】化合物(A)の水和物の結晶の示差熱分析/熱質量測定カーブを示す。
図6】化合物(A)の水和物の結晶の赤外吸収スペクトル(ATR法)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態を具体的に説明する。
本発明の化合物である(−)−(2−{[3−(5−フルオロピリジン−2−イル)−1H−ピラゾール−1−イル]メチル}−1,3−オキサジナン−3−イル)[5−メチル−2−(2H−1,2,3−トリアゾール−2−イル)フェニル]メタノン(以下、化合物(A)と記すことがある)は、下記に示す化学構造を有している。
【0012】
【化1】
【0013】
化合物(A)の無水物の結晶は、次の(a)〜(c)の物性の少なくとも1つを有する。
(a)粉末X線回折(Cu−Kα)において、2θ=8.1度、13.4度,15.6度及び21.6度にピークを有する;
(b)融点が129〜134℃である;又は
(c)赤外線吸収スペクトルにおいて、特性吸収帯が1626cm-1、1497cm-1、1227cm-1、1080cm-1、818cm-1及び785cm-1にある。
化合物(A)の無水物の結晶の粉末X線回折パターンは図1に、示差熱分析/熱質量測定カーブは図2に、赤外線吸収スペクトルは図3に示した通りである。
【0014】
次に、化合物(A)の無水物の結晶の製造方法について説明する。本発明の無水物の結晶は、以下のような再結晶操作により得られる。たとえば、エタノールに化合物(A)を加熱溶解させた後、徐冷することにより結晶を析出させ、析出した結晶をろ取、遠心分離等により溶媒と分離した後に乾燥させることにより無水物の結晶を得ることができる。なお、再結晶は、1度のみならず2度以上繰り返してもよいが、通常は1度のみ再結晶を行う。
化合物(A)を溶解させる濃度は1〜50質量%、好ましくは5〜25質量%である。ここで質量%とは、溶液中または懸濁液中の化合物(A)の無水物の質量パーセントである。
化合物(A)の無水物の結晶化は、通常0〜80℃で行う。
化合物(A)の無水物の乾燥は、通常100℃以下で行う。
【0015】
化合物(A)の水和物の結晶は、次の(a)〜(c)の物性少なくとも1つを有する。
(a)粉末X線回折(Cu−Kα)において、2θ=11.1度、12.5度,20.3度及び24.2度にピークを有する;
(b)融点が124〜129℃である;又は
(c)赤外線吸収スペクトルにおいて、特性吸収帯が1627cm-1、1504cm-1、1226cm-1、1076cm-1、822cm-1及び783cm-1にある。
化合物(A)の水和物の結晶の粉末X線回折パターンは図4に、示差熱分析/熱質量測定カーブは図5に、赤外線吸収スペクトルは図6に示した通りである。
図4図6から分かるように、本発明の製造方法により製造される化合物(A)の水和物の結晶は、基本的に純度の高い結晶であることが分かる。水和物の結晶の純度は高いものが望ましく、好ましくは他の結晶形のものを実質的に含まないものである。
【0016】
後述の実施例に示されるように、本発明の製造方法により製造される化合物(A)の水和物の結晶は、一定の品質を有する単一の結晶として再現性良く得られ、医薬品及び医薬品原料の製造に用いられる原薬の結晶として安定的に供給されることが可能で、保存安定性に優れた物理学的特性を有する。
次に、化合物(A)の水和物の結晶の製造方法について説明する。本発明の水和物の結晶は、以下のような再結晶操作により得られる。たとえば、所定の溶媒に化合物(A)を加熱溶解させた後、徐冷することにより結晶を析出させ、析出した結晶をろ過、遠心分離等により溶媒と分離した後に乾燥させることにより水和物の結晶を得ることができる。なお、再結晶は、1度のみならず2度以上繰り返してもよいが、通常は1度のみ再結晶を行う。
【0017】
再結晶前の原料の化合物(A)を溶解、又は懸濁させる所定の溶媒とは、例えば低級アルコールと水の混液又は水と混和する性質を有する有機溶媒と水の混液が挙げられる。
【0018】
再結晶前の原料の化合物(A)としては、無水物及び水和物の結晶が挙げられる。
【0019】
低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2-プロパノールなどが挙げられる。好ましくは、メタノールもしくはエタノールである。さらに好ましくは、メタノールである。
【0020】
水と混和する性質を有する有機溶媒としては、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、などが挙げられる。好ましくは、アセトンである。
化合物(A)を溶解させる濃度は1〜50質量%、好ましくは5〜25質量%である。ここで質量%とは、溶液中または懸濁液中の化合物(A)の無水物の質量パーセントである。
化合物(A)の水和物の結晶化は、通常0〜100℃で行う。
化合物(A)の水和物の乾燥は、通常100℃以下で行う。
【0021】
本明細書中における「睡眠障害」とは、入眠時、睡眠持続相又は覚醒時の障害であり、例えば、不眠症等を挙げることができる。また、不眠症の分類としては、入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒、熟眠障害等を挙げることができる。
本発明の化合物の結晶は、経口又は非経口的に投与することができる。その投与剤型は錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、粉剤、トローチ剤、軟膏剤、クリーム剤、皮膚貼付剤、乳剤、懸濁剤、坐剤、注射剤等であり、いずれも慣用の製剤技術(例えば、第15改正日本薬局方に規定する方法等)によって製造することができる。これらの投与剤型は、患者の症状、年齢、体重、及び治療の目的に応じて適宜選択することができる。
これらの製剤は、本発明の化合物を含有する組成物に薬理学的に許容されるキャリヤー、すなわち、賦形剤(例えば、結晶セルロース、デンプン、乳糖、マンニトール)、結合剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク)、崩壊剤(例えば、カルボキシメチルセルロースカルシウム)、その他薬理学的に許容される各種添加剤を配合し、製造することができる。
本発明の化合物は、成人患者に対して1回の投与量として0.001〜500mgを1日1回又は数回に分けて経口又は非経口で投与することが可能である。なお、この投与量は治療対象となる疾病の種類、患者の年齢、体重、症状等により適宜増減することができる。
【実施例】
【0022】
次に、参考例、実施例及び試験例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。
元素分析は、PerkinElmer 2400Zにて測定した。
粉末X線は、Rigaku RINT2200Ultimalllにて測定した。
示差熱分析/熱質量測定(TG/DTA)は、Rigaku Thermo plus EvoTG8120にて測定した。
赤外線吸収スペクトルは、IRAffinity−1(島津製作所)にて測定した。
単結晶X線構造解析は、R−AXIS RAPID II (Rigaku)にて測定した。
旋光度は、RUDOLPH RESERCH ANALYTICAL (Systems Engineering)にて測定した。
以下の参考例および実施例において、高速液体クロマトグラフィーマススペクトル(LCMS)は以下の条件により測定した。
測定機械:Agilent社 Agilent2900及びAgilent6150
カラム:Waters社 Acquity CSH C18 1.7μm 2.1x50mm
溶媒:A液;0.1%ギ酸含有水、B液;0.1%ギ酸含有アセトニトリル
グラジエント:0分(A液/B液=80/20)、1.2〜1.4分(A液/B液=1/99)
流速:0.8mL/min、検出法:UV 254nm
イオン化法:エレクトロンスプレー法(ESI:Electron Spray Ionization)
参考例及び実施例中、室温とは25℃付近を示す。
【0023】
参考例1 エチル 3−[5−メチル−2−(2H−1,2,3−トリアゾール−2−イル)ベンゾイル]−1,3−オキサジナン−2−カルボキシラート (化合物(B))の製造
【0024】
【化2】
【0025】
窒素気流下、グリオキシル酸エチルを47%含有したトルエン溶液(320.69g)に、クロロホルム(1290mL)を加え、攪拌した。この混合物に、モレキュラーシーブ4A(シグマアルドリッチ社製、289g)を加えた後、10℃まで冷却した。この冷却した混合物に、16℃以下に保ちながら3−アミノ−1−プロパノール(110.89g)とクロロホルム(160mL)の混合液を20分かけて滴下した。この混合物を25℃まで昇温し23時間攪拌した。この混合物を、珪藻土を用いてろ過した後、珪藻土をクロロホルム(160mL)で洗浄した。得られたろ液を−7℃まで冷却した。このアミン溶液を次の反応に供した。
窒素気流下、5−メチル−2−(2H−1,2,3−トリアゾール−2−イル)安息香酸(345.00g)にクロロホルム(6210mL)を注ぎ入れ、24℃付近で攪拌した。この混合物に、同温度を保ちながらオキサリルクロリド(258.61g)とクロロホルム(173mL)の混合液を滴下し、14時間攪拌した。この混合物を0℃まで冷却し、トリエチルアミン(429.80g)とクロロホルム(700mL)の混合液を0℃以下に保ちながら滴下した。この混合物に、7℃以下を保ちながら上記アミン溶液を滴下した後、5℃まで昇温し30分攪拌した。この混合物に21℃以下を保ちながら水(1750mL)を加えた。有機層と水層を分離し、有機層に水(1750mL)を加えた。分離した有機層にNH型シリカゲル(富士シリシア化学社製、690g)を加えて攪拌した。この懸濁液を珪藻土を用いてろ過した後、クロロホルム(700mL)で珪藻土上のシリカゲルを洗浄した。珪藻土上のシリカゲルを別容器に移し、そこにクロロホルム(1400mL)を入れて攪拌した。この懸濁液を珪藻土でろ過し、クロロホルム(400mL)で珪藻土上のシリカゲルを洗浄した。得られたろ液を混合し、減圧濃縮した。得られた残渣(626.9g)にエタノール(900mL)を加え、24℃付近で攪拌することで結晶化させた後、5℃まで冷却した。結晶をろ取した後、冷却したエタノール(200mL)で洗浄した。窒素気流下25℃付近で吸引乾燥した。得られた固体を50℃で減圧下乾燥し、無色固体の化合物(B)(471.86g)を得た。
MS (ESI pos.) m/z : 345 [M+H]+
【0026】
参考例2 [2−(ヒドロキシメチル)−1,3−オキサジナン−3−イル][5−メチル−2−(2H−1,2,3−トリアゾール−2−イル)フェニル]メタノン (化合物(C))の製造
【0027】
【化3】
【0028】
窒素気流下、化合物(B)(445.00g)に0.01M NaOHのメタノール溶液(1600mL)を加え、20℃付近で攪拌した。この混合物に、27℃以下を保ちながら、NaBH(97.8g)を0.01M NaOH メタノール溶液(1000mL)に溶かした混合溶液を滴下した。この混合物を25℃付近で20時間攪拌した後、20℃付近において、塩化アンモニウム(133.5g)を加え、さらにNaSOの10水和物(80.2g)を加えた。この混合物をろ過し、酢酸エチル(400mL)で洗い流した。ろ液に水(200mL)を加え、減圧濃縮した。残渣に水(300mL)、クロロホルム(1100mL)を加え攪拌した。析出した固体をろ別し、得られたろ液を分液し、有機層と水層に分離した。得られた水層にクロロホルム(300mL)を加え同様に分液操作した。得られた有機層を混合し、NaSO(100g)を用いて乾燥した後、乾燥剤をろ別し減圧濃縮した。残渣にシリカゲル(関東化学社製 シリカゲル60 N(球状、中性) 63−210μm、450g)を加え、減圧濃縮した。得られた残渣を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(Biotage社製SNAPCartridge KP−Silを使用し、ヘキサン/酢酸エチル/アセトン=50:50:0→0:100:0→0:0:100溶液にて溶出)で精製し、得られた溶出液を減圧濃縮した。残渣にアセトン(200mL)を加えた後、減圧濃縮し、無色非晶質として化合物(C)(449g)を得た。
MS (ESI pos.) m/z : 303 [M+H]+
【0029】
参考例3 (−)−[2−(ヒドロキシメチル)−1,3−オキサジナン−3−イル][5−メチル−2−(2H−1,2,3−トリアゾール−2−イル)フェニル]メタノン (化合物((−)−D))の製造
【0030】
【化4】
【0031】
窒素気流下、化合物(C)(200.50g)、酢酸ビニルモノマー(1604mL)、メチルt―ブチルエーテル(6416mL)の混合物に、ブタ膵臓由来リパーゼ(商品名 Lipase from porcine pancreas Type II、SIGMA社製、401.00g)を加えて25℃付近で21時間撹拌した。不溶物はKCフロック(日本製紙ケミカル社製、100g)を使用してろ別し、酢酸エチル(2005mL)で洗い流した後、ろ液を減圧濃縮した。残渣にシリカゲル(関東化学社製 シリカゲル60 N(球状、中性) 63−210μm、300g)を加え、減圧濃縮した。得られた残渣を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(Grace社Reveleris Silica Flash Cartridgeを使用し、ヘキサン/酢酸エチル/アセトン=50:50:0→0:100:0→0:0:100溶液にて溶出)で精製した。先に溶出した溶液を減圧濃縮し、褐色固体として酢酸{3−[5−メチル−2−(2H−1,2,3−トリアゾール−2−イル)ベンゾイル]−1,3−オキサジナン−2−イル}メチル(132.96g)を得た。後に溶出した溶液を減圧濃縮し、残渣にアセトンを加え減圧濃縮することにより、化合物((−)−D)とアセトン混合物である褐色油状物質(161.69g)を得た。この褐色油状物質には、H NMRの解析結果から、化合物((−)−D)(96.83g、>99.5%ee)であった。
MS (ESI pos.) m/z : 303 [M+H]+
[α]20 = −40.60 (c = 1.01, CHCl
【0032】
参考例4 (−)−[2−(クロロメチル)−1,3−オキサジナン−3−イル][5−メチル−2−(2H−1,2,3−トリアゾール−2−イル)フェニル]メタノン (化合物((−)−E))の製造
【0033】
【化5】
【0034】
窒素気流下、化合物((−)−D)(200.00g)にクロロホルム(1800mL)を加え、攪拌しながら3℃まで冷却した。この混合物に、同温度でトリエチルアミン(100.55g)とクロロホルム(100mL)の混合液を加えた。この混合物に、19℃以下を保ちながら、メシルクロリド(91.63g)とクロロホルム(100mL)の混合液を滴下した。反応混合物を23℃まで昇温し、5時間攪拌した。この混合物に水(1L)を加え、有機層と水層を分離した。水層をクロロホルム(500mL)で抽出した後、合わせた有機層をNa2SO4(200g)にて乾燥した。乾燥剤をろ別した後、乾燥剤をクロロホルム(500mL)で洗浄した。得られた溶液を減圧濃縮し、残渣にジイソプロピルエーテル(IPE、500mL)及び酢酸エチル(50mL)を加え12時間攪拌した。析出した固体をろ取し、IPE(400mL)で洗浄した。得られた固体を40℃で減圧下乾燥し、無色固体として化合物((−)−E)(193g)を得た。
MS (ESI pos.) m/z : 321 [M+H]+
[α]D20 = −41.36 (c = 1.00, CHCl3
【0035】
参考例5 (−)−(2−{[3−(5−フルオロピリジン−2−イル)−1H−ピラゾール−1−イル]メチル}−1,3−オキサジナン−3−イル)[5−メチル−2−(2H−1,2,3−トリアゾール−2−イル)フェニル]メタノン (化合物(A))の製造
【0036】
【化6】
【0037】
窒素気流下、t−BuONa(80.45g)にDMSO(730mL)を加え、28℃で攪拌した。この混合物に、別途調製した5−フルオロ−2−(1H−ピラゾール−3−イル)ピリジン(124.58g)のDMSO(730mL)溶液を滴下した後、82℃まで加熱させ1時間攪拌した。この混合物に、別途調製した化合物((−)−E)(244.00g)のDMSO(980mL)溶液を滴下した後、30分間攪拌した。この時、溶液の温度は87℃まで上昇した。反応混合物を35℃まで冷却し、酢酸エチル(4880mL)を加えた。反応混合物に水(2440mL)を加え、有機層と水層を分離した。水層を酢酸エチル(2400mL)で抽出し、合わせた有機層に水(3600mL)を加えた。有機層と水層を分離した後、有機層を15% NaCl水溶液(3600mL)で洗浄した後、有機層を減圧濃縮した。残渣にエタノール(2000mL)を加え、1℃まで冷却しながら攪拌した。析出した固体をろ取した後、冷却したエタノール(480mL)で洗浄した。得られた固体を窒素気流下、25℃付近で吸引乾燥した。その後40℃で減圧乾燥することにより、無色固体として化合物(A)(183.14g)を得た。本発明の化合物(A)の絶対立体配置は、化合物(A)の1塩酸塩の単結晶X線構造解析により(S)体であることを決定した。
MS (ESI pos.) m/z : 448 [M+H]+
【0038】
実施例1 (−)−(2−{[3−(5−フルオロピリジン−2−イル)−1H−ピラゾール−1−イル]メチル}−1,3−オキサジナン−3−イル)[5−メチル−2−(2H−1,2,3−トリアゾール−2−イル)フェニル]メタノン(化合物(A))の無水物の製造
参考例5の方法で得られた化合物(A)(389.00g)にエタノール(7500mL)を加え、60℃まで加熱しながら1時間攪拌し、固体を溶解した。この溶液を攪拌しながら3時間かけて2℃まで冷却した。析出した固体をろ取した後、冷却したエタノール(790mL)で洗浄した。得られた結晶を窒素気流下、25℃付近で吸引乾燥した。その後40℃で20時間、減圧乾燥することで、化合物(A)の無水物の結晶(356.46g)を得た。
MS (ESI pos.) m/z : 448 [M+H]+
[α]20 = −32.34 (c = 1.00, CHCl
【0039】
実施例2 (−)−(2−{[3−(5−フルオロピリジン−2−イル)−1H−ピラゾール−1−イル]メチル}−1,3−オキサジナン−3−イル)[5−メチル−2−(2H−1,2,3−トリアゾール−2−イル)フェニル]メタノン(化合物(A))の水和物の製造
実施例1の方法で得られた化合物(A)(250g)をエタノール(5L)に加え、61℃まで加熱攪拌しながら溶解させた後、熱時ろ過した。得られたろ液を、20〜30℃に保った水(15L)に攪拌しながら滴下した後、5℃まで冷した。析出した固体をろ取し、得られた結晶を25℃付近で吸引乾燥した。その後40℃で5時間、減圧乾燥することで、無色結晶(235.47g)を得た。この結晶の粉末X線を測定したところ、化合物(A)の水和物の結晶であった。
【0040】
実施例3 (−)−(2−{[3−(5−フルオロピリジン−2−イル)−1H−ピラゾール−1−イル]メチル}−1,3−オキサジナン−3−イル)[5−メチル−2−(2H−1,2,3−トリアゾール−2−イル)フェニル]メタノン(化合物(A))の水和物の製造
化合物(A)の無水物(10.01g)にメタノール(60.0g)を加え、65℃まで加熱しながら1時間攪拌し、固体を溶解した。この溶液にメタノール(10.0g)、水(9.0g)を加えたのち、実施例2の方法で得られた化合物(A)の水和物の種晶を加え、9時間かけて0℃まで冷却した。析出した固体をろ取した後、水(57.7g)で洗浄した。得られた結晶を50℃で4時間、減圧乾燥することで、化合物(A)の水和物の結晶(9.05g)を得た。化合物(A)の水和物の結晶は、単結晶X線構造解析により、1/4水和物であることを決定した。
MS (ESI pos.) m/z : 448 [M+H]+
[α]20 = −32.21 (c = 1.01, CHCl
【0041】
実施例4
実施例1の方法で得られた化合物(A)の無水物の結晶の粉末X線回折パターンをリガク製の粉末X線回折装置(Ultima III)を用い、Cu―Kα線をX線源として測定した。2θ=8.1度、13.4度,15.6度及び21.6度付近にピークが認められた。
融点をリガク製の示差熱天秤(Thermo plus EVO TG8120)及び同等の装置を用い、大気下にて、室温から約250℃まで10℃/分の昇温速度で測定した。その結果、129〜134℃に融解に由来する吸熱ピークが認められた。
赤外スペクトルを島津製作所製のフーリエ変換赤外分光光度計(IRAffinity−1)を用い、全反射法(ATR法)にて積算回数20回、分解能:4cm−1の条件で測定した。1626cm−1、1497cm−1、1227cm−1、1080cm−1、818cm−1及び785cm−1付近にピークが認められた。
【0042】
実施例5
実施例3の方法で得られた化合物(A)の水和物の結晶の粉末X線回折パターンをリガク製の粉末X線回折装置(Ultima III)を用い、Cu―Kα線をX線源として測定した。2θ=11.1度、12.5度,20.3度及び24.2度付近にピークが認められた。
融点をリガク製の示差熱天秤(Thermo plus EVO TG8120)及び同等の装置を用い、大気下にて、室温から約250℃まで10℃/分の昇温速度で測定した。その結果、124〜129℃に融解に由来する吸熱ピークがあること、熱質量測定にて124〜129℃で0.5〜1.5%の重量減少があることが認められた。
赤外スペクトルを島津製作所製のフーリエ変換赤外分光光度計(IRAffinity−1)を用い、全反射法(ATR法)にて積算回数20回、分解能:4cm−1の条件で測定した。1627cm−1、1504cm−1、1226cm−1、1076cm−1、822cm−1及び783cm−1付近にピークが認められた。
【0043】
試験例 (オレキシン拮抗活性の測定)
試験化合物のヒトオレキシン1型受容体(hOX1R)、オレキシン2型受容体(hOX2R)に対する拮抗活性は文献(Toshikatsu Okumura et al.,Biochemical and Biophysical Research Communications 280,976−981,2001)に記載された方法を改変して行った。hOX1R、hOX2Rを強制発現させたChinese hamster ovary(CHO)細胞を96wellのBlack clear bottomプレート(Nunc)の各ウェルに24,000個となるように播種し、0.1mM MEM非必須アミノ酸、0.5mg/ml G418、10% 牛胎児血清を含むHam’s F−12培地(以上インビトロジェン)で、37℃、5% COの条件下で16時間培養した。培地を除去後、0.5μM Fluo−3AM エステル(同仁)を含むアッセイ用緩衝液(25mM HEPES(同仁)、Hanks’ balanced salt solution(インビトロジェン)、0.1% 牛血清アルブミン、2.5mM プロベネシド、200μg/ml Amaranth(以上Sigma−Aldrich)、pH7.4)を100μL添加し60分間、37℃、5% COにインキュベートした。Fluo−3AM エステルを含むアッセイ用緩衝液を除去したのち、試験化合物は10mMとなるようにジメチルスルホキシドで溶解してアッセイ用緩衝液で希釈後、150μLを添加し、30分間インキュベートした。
リガンドであるヒトオレキシン−Aの2アミノ酸を置換したペプチド(Pyr−Pro−Leu−Pro−Asp−Ala−Cys−Arg−Gln−Lys−Thr−Ala−Ser−Cys−Arg−Leu−Tyr−Glu−Leu−Leu−His−Gly−Ala−Gly−Asn−His−Ala−Ala−Gly−Ile−Leu−Thr−Leu−NH2;ペプチド研究所)はhOX1Rに対しては終濃度500pM、hOX2Rに対しては1nMとなるようにアッセイ用緩衝液で希釈し、このリガンド溶液50μLを添加して反応を開始した。反応はFunctional Drug Screening System(FDSS;浜松ホトニクス社製)を用いて各wellの蛍光値を1秒毎に3分間測定し、最大蛍光値を細胞内Ca2+濃度の指標として拮抗活性を求めた。試験化合物の拮抗活性は希釈緩衝液のみを添加したウェルの蛍光値を100%、リガンドおよび化合物を含まない緩衝液を添加したウェルの蛍光値を0%として算出し、種々の濃度の試験化合物を添加した際の蛍光値から、50%阻害濃度(IC50値)を求めた。
本発明の化合物(A)の、ヒトオレキシン1型受容体に対する拮抗活性はIC50=0.7nM、オレキシン2型受容体に対する拮抗活性はIC50=1.2nMであった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の(−)−(2−{[3−(5−フルオロピリジン−2−イル)−1H−ピラゾール−1−イル]メチル}−1,3−オキサジナン−3−イル)[5−メチル−2−(2H−1,2,3−トリアゾール−2−イル)フェニル]メタノンは、OX受容体拮抗作用を有することが示された。従って、本発明化合物は、OX受容体拮抗作用によって調節される病気、例えば、睡眠障害、うつ病、不安障害、パニック障害、統合失調症、薬物依存症、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン舞踏病、摂食障害、頭痛、片頭痛、疼痛、消化器疾患、てんかん、炎症、免疫関連疾患、内分泌関連疾患、高血圧等の治療又は予防薬として使用することが可能である。また、本発明により、(−)−(2−{[3−(5−フルオロピリジン−2−イル)−1H−ピラゾール−1−イル]メチル}−1,3−オキサジナン−3−イル)[5−メチル−2−(2H−1,2,3−トリアゾール−2−イル)フェニル]メタノンの水和物の結晶は、優れた保存安定性、その他の物性を有しており、医薬品原体として有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6