特許第5907373号(P5907373)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5907373複合材料及びその製造方法、非水系二次電池用の正極活物質及び正極、非水系二次電池、並びに車両
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5907373
(24)【登録日】2016年4月1日
(45)【発行日】2016年4月26日
(54)【発明の名称】複合材料及びその製造方法、非水系二次電池用の正極活物質及び正極、非水系二次電池、並びに車両
(51)【国際特許分類】
   C08L 49/00 20060101AFI20160412BHJP
   H01M 4/60 20060101ALI20160412BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20160412BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20160412BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20160412BHJP
   C08F 38/02 20060101ALI20160412BHJP
【FI】
   C08L49/00
   H01M4/60
   H01M4/36 A
   C08K3/04
   C08F2/44 A
   C08F38/02
【請求項の数】6
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2011-264169(P2011-264169)
(22)【出願日】2011年12月2日
(65)【公開番号】特開2013-116949(P2013-116949A)
(43)【公開日】2013年6月13日
【審査請求日】2014年2月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100081776
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 宏
(72)【発明者】
【氏名】大森 修
(72)【発明者】
【氏名】島 晃子
【審査官】 藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−002278(JP,A)
【文献】 特開2007−305481(JP,A)
【文献】 特開2012−190545(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/147398(WO,A1)
【文献】 特開2013−116948(JP,A)
【文献】 特開2013−116950(JP,A)
【文献】 特開2013−116951(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 49/00
C08F 2/00 − 2/60
C08F 38/00 − 38/04
H01M 4/00 − 4/62
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(5)で表されるアセチレン誘導体を、ケチェンブラック存在下で重合させることを特徴とする複合材料の製造方法。
【化5】
(一般式(5)中、R1は、置換若しくは無置換の脂肪族炭化水素基及び置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基の群から選ばれる1種以上からなる基、又は単結合を示し、R2、R3、R4は、各々独立に、置換若しくは無置換の脂肪族炭化水素基、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基、及び水素基の群から選ばれる1種以上からなる基を示し、X1、X2は、各々独立に、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基を示し、nは、2以上の整数である。R1とR2又は/及びR3とR4は、結合して環を形成していてもよい。)
【請求項2】
前記一般式(5)の中のR4は、下記の一般式(6)で表される請求項1に記載の複合材料の製造方法。
【化6】
(一般式(6)中、R5は、置換若しくは無置換の脂肪族炭化水素基、及び置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基の群から選ばれる1種以上からなる基、又は単結合を示し、mは1以上の整数である。一般式(6)中のR5と請求項記載の一般式(5)中のR3とは、結合して環を形成していてもよい。)
【請求項3】
請求項1又は2に記載の製造方法により製造された複合材料を用いることを特徴とする非水系二次電池用の正極活物質の製造方法
【請求項4】
請求項に記載の製造方法により製造された正極活物質を用いることを特徴とする非水系二次電池用の正極の製造方法
【請求項5】
請求項に記載の製造方法により製造された正極を用いることを特徴とする非水系二次電池の製造方法
【請求項6】
請求項に記載の製造方法により製造された非水系二次電池を用いることを特徴とする車両の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材料及びその製造方法、非水系二次電池用の正極活物質及び正極、非水系二次電池、並びに車両に関する。
【背景技術】
【0002】
非水系二次電池は、小型でエネルギー密度が高く、ポータブル電子機器の電源として広く用いられており、更に、二次電池を車両の駆動源として用いることが考えられている。しかし、現在、主に用いられている非水系二次電池の正極活物質は、比重の大きなコバルトやマンガンの酸化物が用いられているため、非水系二次電池全体の重量は大きい。そこで、非水系二次電池全体の重量を小さくするために、非水系二次電池全体に占める正極活物質の割合を小さくすることが望まれている。
【0003】
近年、軽量な元素からなる有機化合物などを電極活物質として適用することが検討されている。特に、π電子共役系の導電性高分子は電極活物質として有望である。例えば、特許文献1には、1段階2電子移動が可能である導電性高分子の新規ポリアニリン誘導体化合物をプロトン化したものを正極に用いた二次電池について記載されている。特許文献1によると、その新規ポリアニリン誘導体化合物を用いた電極材料は高エネルギー密度を有するので、その電極材料を正極とすることは、亜鉛板を負極とし、硫酸亜鉛水溶液を電解液とする二次電池において有用であると述べられている。
【0004】
特許文献2には、アニリンモノマーの重合を、炭素繊維存在下で行い、ポリアニリン−炭素の複合組成物を調製し、これを電極材料に用いることが記載されている。
【0005】
特許文献3には、アニリン系重合体とアセチレンブラックとを用いて正極を作製することが記載されている。
【0006】
特許文献4には、多段階多電子移動が可能なスルフィド化合物重合体とケチェンンブラックとを用いて正極を作製することが記載されている。
【0007】
また、特許文献5には、多段階多電子移動が可能なフェルダシル骨格を有するラジカル化合物を電極活物質に用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−2278号公報(請求項1)
【特許文献2】特開2000−30710号公報(請求項1)
【特許文献3】特開平10−265567号公報(段落20,23)
【特許文献4】特開平9−139213号公報(段落29)
【特許文献5】特開2007−305481号公報(段落13)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、非水系二次電池の軽量化を図りながら、更なる高容量化を達成するために、非水系二次電池用の電極活物質の更なる改良が望まれている。このため、発明者は、電池の高容量化を実現できる新規な物質を開発すべく、鋭意探求した。
【0010】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、高容量の新規な複合材料及びその製造方法、非水系二次電池用の正極活物質及び正極、非水系二次電池並びに車両を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明の複合材料は、 一般式(1)で表されるポリアセチレン誘導体と、炭素材料とからなり、前記ポリアセチレン誘導体は、炭素材料に吸着していることを特徴とする。
【0012】
【化1】
【0013】
(一般式(1)中、R1は、置換若しくは無置換の脂肪族炭化水素基及び置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基の群から選ばれる1種以上からなる基、又は単結合を示し、R2、R3、R4は、各々独立に、置換若しくは無置換の脂肪族炭化水素基、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基、置換基、及び水素基の群から選ばれる1種以上からなる基を示し、X1、X2は、各々独立に、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基を示し、nは、2以上の整数である。R1とR2又は/及びRとR4は、結合して環を形成していてもよい。)
【0014】
(2)本発明の複合材料の製造方法は、 一般式(5)で表されるアセチレン誘導体を、炭素材料存在下で重合させることを特徴とする。
【0015】
【化5】
【0016】
(一般式(5)中、R1は、置換若しくは無置換の脂肪族炭化水素基及び置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基の群から選ばれる1種以上からなる基、又は単結合を示し、R2、R3、R4は、各々独立に、置換若しくは無置換の脂肪族炭化水素基、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基、置換基、及び水素基の群から選ばれる1種以上からなる基を示し、X1、X2は、各々独立に、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基を示し、nは、2以上の整数である。R1とR2又は/及びR3とR4は、結合して環を形成していてもよい。)
【0017】
(3)本発明の非水系二次電池用の正極活物質は、上記に記載の複合材料、又は上記に記載の製造方法により製造された複合材料からなることを特徴とする。
【0018】
(4)本発明の非水系二次電池用の正極は、上記に記載の正極活物質を有することを特徴とする。
【0019】
(5)本発明の非水系二次電池は、上記に記載の正極と、負極と、電解質とを備えることを特徴とする。
【0020】
(6)本発明の車両は、上記に記載の非水系二次電池を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の複合材料は、電池の正極活物質として用いた場合に電池容量を大きくすることができる。また、本発明の非水系二次電池、これに用いる正極活物質及び正極は、上記複合材料を用いているため、電池容量を大きくすることができる。また、本発明の車両は、上記非水系二次電池を備えているため、高い出力を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施例1と比較例1の電池容量(比較例1に対する実施例1の電池容量)と電圧との関係を示す線図である。
図2】実施例2と比較例2の電池容量(比較例2に対する実施例2の電池容量)と電圧との関係を示す線図である。
図3】実施例1,3の複合材料及び比較例1のポリアセチレン誘導体の吸光度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0024】
(1)複合材料
本発明の複合材料においては、ポリアセチレン誘導体が、下記の一般式(1)で表され、炭素材料に吸着しているため、後述の実験で示すように電池の高容量化を実現できる。その理由は、以下のように考えられる。
【0025】
ポリアセチレン誘導体は、ポリアセチレンを高分子構造の主鎖とし、少なくとも2つのイミノ基を有する芳香族基を高分子構造の側鎖としている。少なくとも2つのイミノ基を有する芳香族基は、各イミノ基を介して芳香族炭化水素基が結合しているため、1段階多電子移動分子である。このため、電池反応で生成する電子が多く、エネルギー密度が高い。また、ポリアセチレン誘導体の主鎖はπ共役系が広がっており、円滑な多電子移動が可能である。しかも、ポリアセチレン誘導体は、炭素材料に吸着している。このため、生成した電子が導電性のよい炭素材料に受け取られやすい。ゆえに、本発明の複合材料を正極活物質として用いた電池は、充放電容量が高くなると考えられる。
【0026】
更に、本発明のポリアセチレン誘導体を、側鎖にラジカル分子を有する高分子(例えば、特許文献5)と比較すると以下のことが言える。ラジカル分子での電子の挙動は多段階多電子移動である。ラジカル分子は基本的に酸化還元電位が1段目と2段目で大きく離れている。更に2段目の酸化還元電位は、例えば3V未満に留まる。そのため、側鎖にラジカル分子を有する高分子を正極活物質として用いると、平均電圧が下がってしまい、エネルギー密度が低下してしまう。本発明のポリアセチレン誘導体のジイミノユニットでは、1段目のポテンシャルエネルギーよりも2段目の方が低く1番目の電子の電位で2番目の電子が協奏的に移動する。このため、本発明のポリアセチレン誘導体のジイミノユニットでは、容易に1段階で多電子移動でき、電池の正極活物質として用いることで、平均電圧及びエネルギー密度を高くすることができる。
【0027】
また、本発明のポリアセチレン誘導体は、主鎖が二重結合で重合されているため、単結合で重合されている高分子と比べて高分子構造が安定している。そのため、高分子構造の劣化が抑制され、サイクル特性の向上が期待できる。
【0028】
【化1】
【0029】
一般式(1)中、R1は、置換若しくは無置換の脂肪族炭化水素基及び置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基の群から選ばれる1種以上からなる基、又は単結合を示し、R2、R3、R4は、各々独立に、置換若しくは無置換の脂肪族炭化水素基、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基、置換基、及び水素基の群から選ばれる1種以上からなる基を示す。
【0030】
X1、X2は、各々独立に、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基を示す。nは、2以上の整数である。
【0031】
ここで、置換の脂肪族炭化水素基、又は置換の芳香族炭化水素基とは、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基が、更に置換基で置換されることを意味し、例えば、置換のアリーレン基又は置換の環状置換基である場合には、そのアリーレン基部分又はその環状置換基の環状部分に少なくとも1つの置換基を有することを意味する。
【0032】
R1、R2、R3、R4は、無置換の脂肪族炭化水素基及び無置換の芳香族炭化水素基の群から選ばれる1種以上からなる基であってもよい。
【0033】
R1、R2、R3、R4の無置換の脂肪族炭化水素基及び無置換の芳香族炭化水素基の群から選ばれる1種以上からなる基は、たとえば、各々独立に、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、sec−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基などの鎖状アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の環状アルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基、ナフチル基等のアリール基を有していてもよい。
【0034】
R1、R2、R3、R4の置換の脂肪族炭化水素基及び置換の芳香族炭化水素基の群から選ばれる1種以上からなる基であってもよい。脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基がもつ置換基、即ち、脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基が、置換基で置換されるときの置換基としては特に限定されることはないが、例えば、置換基は、フェニル基、トリル基、ナフチル基等のアリール基、メトキシ基、エトキシ基、プロピオキシ基、イソプロピオキシ基、ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等のアルコキシル基が挙げられる。また、この置換基は、C(炭素)とH(水素)からなる炭化水素基に加えて、他の元素を有する基を有していても良い。他の元素を有する基は、例えば、O(酸素)、N(窒素)、S(硫黄)などを有する基があり、具体例として、水酸基、エーテル結合、ケトン基、カルボニル基、カルボキシル基、ニトロ基、イミノ基、アミノ基、アミド結合、ハロゲン基(Cl、F、Br、又はIを含む)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0035】
R1は、単結合であってもよい。この場合には、ポリアセチレン結合部分と、芳香族基部分とが直接に単結合(一重結合)で結合している。
【0036】
R2、R3、R4は、それ自体が置換基であってもよい。置換基としては、特に限定されることはないが、例えば、置換基は、フェニル基、トリル基、ナフチル基等のアリール基、メトキシ基、エトキシ基、プロピオキシ基、イソプロピオキシ基、ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等のアルコキシル基が挙げられる。また、置換基は、O(酸素)、N(窒素)、S(硫黄)などを有する基でもよく、具体例として、水酸基、ニトロ基、イミノ基、アミノ基、ハロゲン基(Cl、F、Br、又はIを含む)などが挙げられる。R2、R3、R4は、水素基であってもよい。
【0037】
R1、R2、R3、R4は、互いに別個の基を形成していてもよい。また、R1とR2は、互いに結合して環を形成していてもよく、R3とR4は、互いに結合して環を形成していてもよい。R1とR2又は/及びR3とR4は、結合して環を形成することで、1つのユニット内に、ベンゼン骨格、ナフタセン骨格、アントラセン骨格、ペンタセン骨格などの縮合多環芳香族基が形成される。更に、R1とR2は、互いに結合して環を形成している部分と、それぞれ別個の基を形成している部分とを有していてもよい。R3とR4は、互いに結合して環を形成している部分と、それぞれ別個の基を形成している部分とを有していてもよい。
【0038】
ここで、少なくとも2つのイミノ基は、芳香族基の対称位置に配置されていることが好ましい。芳香族基が2つのイミノ基を有する場合には、上記一般式(1)に示される位置にイミノ基が配置されている。芳香族基が4つのイミノ基を有する場合には、上記一般式(1)に示される2つのイミノ基に加えて、芳香族基の対称位置に他の2つのイミノ基が配置されている。
【0039】
一般式(1)のnは、ポリアセチレン誘導体の重合度を示し、2以上の整数であればよい。重合度は2以上の整数であれば特に限定されないが、重合度が大きいほど電解液への溶解が抑えられるため、充放電を繰り返しても容量が低下しにくい安定なものとなる。重合度の上限は50000程度であるとよい。したがって、重量平均分子量は、1000〜10000000であることが好ましい。
【0040】
X1、X2は、各々独立に、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基を示し、例えば、置換又は無置換のフェニル基、ナフチル基などの芳香族炭化水素基などが挙げられる。置換の芳香族炭化水素基の場合、芳香族炭化水素基の芳香族環のどの位置に置換基が結合していても良い。芳香族炭化水素基がフェニル基である場合、オルト位、メタ位、パラ位のどの部位に置換基が導入されていてもよい。置換基は、立体障害によりポリマー合成の障害になる、また、電子の授受が阻害される可能性があることにより、パラ位またはメタ位に結合していることが好ましい。置換基は、フェニル基、トリル基、ナフチル基等のアリール基、メトキシ基、エトキシ基、プロピオキシ基、イソプロピオキシ基、ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等のアルコキシル基が挙げられる。また、この置換基は、C(炭素)とH(水素)からなる炭化水素基に加えて、他の元素を有する基を有していても良い。他の元素を有する基は、例えば、O(酸素)、N(窒素)、S(硫黄)などを有する基があり、具体例として、水酸基、エーテル結合、ケトン基、カルボニル基、カルボキシル基、ニトロ基、イミノ基、アミノ基、アミド結合、ハロゲン基(Cl、F、Br、又はIを含む)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
R4は、例えば、一般式(2)で表されるとよい。この場合、ポリアセチレン誘導体の芳香族環の2カ所に結合しているエチニル基が、他の芳香族環に結合しているエチニル基と重合結合している。
【0042】
【化2】
【0043】
一般式(2)中、R5は、置換若しくは無置換の脂肪族炭化水素基及び置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基の群から選ばれる1種以上からなる基、又は単結合を示す。一般式(2)中のR5と一般式(1)中のR4とは、結合して環を形成していてもよい。
【0044】
置換若しくは無置換の脂肪族炭化水素基及び置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基の群から選ばれる1種以上からなる基は、ポリアセチレン重合部分と側鎖の芳香族環とを連結する連結基である。連結基としては、例えば、置換又は無置換のメチル基、置換又は無置換のエチル基、置換又は無置換のプロピル基、置換又は無置換のフェニル基、置換又は無置換のビフェニル基、置換又は無置換のチオフェニル基、置換又は無置換のチエニル基、置換又は無置換のフラニル基、置換又は無置換のピロリル基等が挙げられる。このうち、R5は置換又は無置換のフェニル基がよく、無置換のフェニル基が好ましい。
【0045】
一般式(2)中のmは1以上の整数であればよい。mが1であってもよく、またmは2以上の整数であってもよい。mが1以上であると、電解液への溶解性が下がるため良い。mの上限は1000以下であることがよい。
【0046】
ポリアセチレン誘導体としては、例えば、下記の一般式(3)、(7)、(8)、(9)で表される化合物を挙げることができる。このうち、一般式(3)で表される化合物は、アントラセン骨格をもち、正極活物質として用いた場合に、アントラセン骨格又は/及びアントラセン骨格と炭素材料間のπ―π相互作用により円滑な電子の授受が行え、電池容量を大きくすることができるため、好ましい。
【0047】
【化3】
【0048】
【化7】
【0049】
【化8】
【0050】
【化9】
【0051】
一般式(3)、(7)、(8)、(9)中、R6は、置換若しくは無置換の脂肪族炭化水素基及び置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基の群から選ばれる1種以上からなる基、又は単結合を示し、R7は、置換若しくは無置換の脂肪族炭化水素基、及び置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基、置換基、及び水素基の群から選ばれる1種以上からなる基を示す。X1、X2は、各々独立に、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基を示す。nは、2以上の整数である。一般式(3)、(7)、(8)、(9)に示されるアントラセン環には、どの位置に置換基が結合していてもよく、また置換基が結合していなくてもよい。
【0052】
一般式(3)、(7)、(8)、(9)中のR7は、下記の一般式(4)で表されることがよい。
【0053】
【化4】
【0054】
一般式(4)の中のR8は、置換若しくは無置換の脂肪族炭化水素基、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基、及び置換基の群から選ばれる1種以上からなる基、又は単結合を示し、mは1以上の整数である。
【0055】
更に、ポリアセチレン誘導体は、下記の化学式(10)に示された(A)〜(D)の群の中から選ばれることが好ましい。
【0056】
【化10】
【0057】
化学式(10)に示されたMeはメチル基を示し、nは2以上の整数を示す。上記化学式(A)〜(D)では、エチニル基はアントラセン環の2位に結合しているのみであるが、2位と6位に結合していても良い。6位に結合したエチニル基は、他のアセチレン誘導体のエチニル基と重合していてもよい。化学式(10)に示されるアントラセン環には、どの位置に置換基が結合していても良く、また置換基が結合していなくてもよい。
【0058】
これらの一般式に挙げたポリアセチレン誘導体の芳香族基は1員環、2員環、3員環であるが、それ以上の多数の芳香族環が縮合した多環芳香族基であってもよい。
【0059】
ポリアセチレン誘導体としては、たとえば、下記の一般式(11)で表されるように、多環芳香族化合物を側鎖に結合させていてもよい。この多環芳香族化合物では、1つの多環芳香族ユニットに4つのイミノ基が結合しているため、4電子移動化合物とされる。
【0060】
多環芳香族化合物の中の多環芳香族基は、下記の「化12」のY1からY6に例示されるがこれらに限定されない。
【0061】
【化11】
【0062】
【化12】
【0063】
ポリアセチレン誘導体が吸着する炭素材料は、導電性がよい。炭素材料は、軽量で安価で、取り扱い易い。炭素材料としては、公知のものを用いることができる。炭素材料の中でも、カーボンブラック、黒鉛、炭素繊維を用いることができ、この中、カーボンブラックが好ましく、カーボンブラックとしては、例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラックなどを挙げることができるが、この中、ケッチェンブラック、アセチレンブラックがよい。特に、ケッチェンブラックが好ましい。ケッチェンブラックの方が、比表面積が大きく、ポリアセチレン誘導体と複合化しやすいからである。
【0064】
ポリアセチレン誘導体は、一般式(5)で表されるアセチレン誘導体を、炭素材料存在下で重合させてなることが好ましい。
【0065】
【化5】
【0066】
一般式(5)中、R1は、置換若しくは無置換の脂肪族炭化水素基及び置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基の群から選ばれる1種以上からなる基、又は単結合を示す。R2、R3、R4は、各々独立に、置換若しくは無置換の脂肪族炭化水素基、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基、置換基、及び水素基の群から選ばれる1種以上からなる基、又は置換基を示す。X1、X2は、各々独立に、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基を示す。nは、2以上の整数である。R1とR2又は/及びR3とR4は、結合して環を形成していてもよい。
【0067】
このようにして重合したポリアセチレン誘導体は、炭素材料と複合化されるため、電池の容量を高くすることができる。炭素材料にアセチレン誘導体を配置させた状態で重合すると、炭素材料表面にアセチレン誘導体が吸着して、ポリアセチレン誘導体は炭素材料と複合化される。
【0068】
アセチレン誘導体のうちジイミノユニットは、π電子をもつため、炭素材料のπ電子との相互作用により、又は/及びファンデルワールス力により、自己組織化して炭素材料表面に吸着し、複合化しやすい。さらにエチニル基が重合することでπ共役系が広がり炭素材料との相互作用を増加させる。重合生成したポリアセチレン誘導体と炭素材料との間で電子の受け渡しがしやすくなり、電池の電気容量が大きくなったと考えられる。
【0069】
(2)複合材料の製造方法
本発明の複合材料の製造方法は、上記一般式(5)で表されるアセチレン誘導体を、炭素材料存在下で重合させる。これにより、炭素材料にアセチレン誘導体が吸着し、アセチレン誘導体と炭素材料とが複合化されると考えられる。
【0070】
アセチレン誘導体の重合の際には、アセチレン誘導体100質量部に対して、炭素材料を10質量部以上1000質量部以下加えることが好ましく、更には、50質量部以上質量部500以下であることが望ましい。炭素材料が過少の場合には、ポリアセチレン誘導体の炭素材料による複合化が進行しにくくなるおそれがある。炭素材料が過剰の場合には、それに見合うだけの量の炭素材料がポリアセチレン誘導体と複合化しないおそれがある。
【0071】
アセチレン誘導体の重合時には、触媒が添加されるとよい。触媒は、公知のRh、Ru、W、Moなどの遷移金属化合物を用いればよいが、例えば、Rh触媒(ノルボルナジエン ロジウムクロリド 2量体)、WCl、MoClなどが挙げられる。
【0072】
アセチレン誘導体の重合は、室温でも進行するが、0〜180℃、好ましくは10〜100℃で行うと良い。重合の時間は、モノマー量、重合触媒の種類やそのほかの重合条件にもよるが、1〜48時間、好ましくは6〜30時間であるとよい。
【0073】
アセチレン誘導体を表す一般式(5)の中のR4は、下記の一般式(6)で表されてもよい。即ち、一般式の中のR4には、重合可能な基であるエチニル基が結合していても良いが、そのような重合可能な基が結合していなくても良い。
【0074】
【化6】
【0075】
一般式(6)中、R5は、連結基又は単結合を表す。即ち、R5は、置換若しくは無置換の脂肪族炭化水素基、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基、及び置換基の群から選ばれる1種以上からなる基、又は単結合を示す。mは1以上の整数である。一般式(6)中のR5と一般式(5)中のR3とは、結合して環を形成していてもよい。
【0076】
重合前のアセチレン誘導体を製造するにあたっては、例えば、出発物質として、イミノ基導入部位に2つのオキソ基を結合させた芳香族化合物を準備する。この芳香族化合物にエチニル基を導入し、更にアニリン類を脱水縮合反応により芳香族化合物に結合させる。このとき、芳香族化合物のオキソ基がアニリン類の窒素原子に替わり、イミノ基を介してアニリン類が結合する。これにより重合前のアセチレン誘導体が得られる。
【0077】
具体的には、たとえば、ポリアセチレン誘導体が、化学式(3)に示すように、アントラセン環にイミノ基を介してフェニル基が結合している構造を有する場合に、その重合前のアセチレン誘導体は、出発物質として2−ブロモアントラキノンを準備し、第1工程で、2−ブロモアントラキノンに薗頭反応によりトリメチルシリルエチニル基を導入し2−(トリメチルシリルエチニル)アントラキノンを得る。第2工程で、2−(トリメチルシリルエチニル)アントラキノンをアニリン類と四塩化チタン及び塩基の存在下で脱水縮合反応を行うことによりイミンとする。第3工程で、フッ化カリウムによりトリメチルシリル基を脱保護することで、化学式(3)に示すポリアセチレン誘導体の重合前のアセチレン誘導体を合成することができる。
【0078】
ここで用いるアニリン類は、アミノ基を有する芳香族炭化水素化合物であり、アミノ基の他に置換基を有していてもよく、置換基を有していなくても良い。塩基は、塩基性触媒であれば特に限定されることはないが、例えば、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン(DABCO)が挙げられる。
【0079】
ポリアセチレン誘導体が、一般式(11)に示すように、4つのイミノ基を有する多環芳香族化合物を側鎖にもつ重合体である場合、その重合前のアセチレン誘導体は、例えば、特願2010−126029に記載された方法で製造される。即ち、出発物質として、4つのオキシ基を有する多環芳香族化合物を用い、以後は上記第1工程から第3工程と同様に行う。
【0080】
(3)非水系二次電池用の正極活物質
本発明の非水系二次電池用の正極活物質は、上記ポリアセチレン誘導体であって、ポリアセチレン誘導体の1構成単位中に少なくとも2つのイミノ基を有し、炭素材料に吸着している複合材料からなる。ここで、非水系二次電池用の正極活物質とは、非水系二次電池の充電反応及び放電反応において、非水系二次電池の正極で直接寄与する物質のことをいう。
【0081】
(4)非水系二次電池用の正極
本発明の非水系二次電池用の正極は、上記複合材料からなる正極活物質を有する。好ましくは、正極は、集電体の少なくとも表面に上記複合材料からなる正極活物質を設けている。集電体とは、非水系二次電池の放電又は充電の間、電極に電流を流し続けるための化学的に不活性な電子高伝導体をいう。集電体はその電子高伝導体で形成された箔、板、メッシュ等の形状を有する。集電体に用いられる材料は、銅、アルミニウムなどが挙げられ、この中、アルミニウムが好ましい。
【0082】
正極活物質を集電体の少なくとも表面に設けるための1つの方法としては、例えば、集電体の表面に正極活物質を塗布することが挙げられる。塗布する方法としては、特に限定しないが、例えば、ロールコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などが挙げられる。
【0083】
本発明の非水系二次電池用の正極は、本発明の正極活物質と合わせて導電助剤を集電体表面に設けることがよい。導電助剤は正極の導電性を高めるために添加される。導電助剤は、例えば、炭素質粒子であるカーボンブラック、黒鉛、カーボンファイバーなどが挙げられる。これらは、単独で添加してもよいし、又はそれらを2種以上組み合わせて添加してもよい。カーボンブラックは、アセチレンブラック、ケチェンブラックなどを用いることがよく、中でもケチェンブラックがよい。ケチェンブラックは例えば、表面積が例えば1270m/g(ライオン社製の場合)であり、アセチレンブラックの表面積(電気化学工業製の場合表面積が39m/g)よりも大きく、ポリアセチレン誘導体との親和性が高いからである。導電助剤の添加量は、本発明の正極活物質100質量部当たり、10〜2000質量部であることが好ましく、100〜1000質量部であることがより好ましく、200〜800質量部であることが更に好ましい。
【0084】
(5)非水系二次電池
本発明の非水系二次電池は、正極と、負極と、電解質とを少なくとも構成要素とし、正極が本発明の正極である。
【0085】
負極は、負極活物質を有する。負極は、負極活物質を少なくとも表面に設けた集電体とからなるとよい。負極活物質は金属リチウム又はリチウム合金を用いるとよい。集電体としては、ニッケル、ステンレスなどを用いることができ、箔、板、メッシュなどのいずれの形状を有していてもよい。このように負極活物質として金属リチウム又はリチウム合金を用いた電池をリチウム二次電池という。負極活物質として、金属リチウム又はリチウム合金のかわりに、Si系又は/及びSn系材料をも用いることができる。
【0086】
また、負極は、正極同様、リチウムイオンを吸蔵・脱離できる負極活物質と結着剤とを有していてもよい。負極活物質としては、たとえば、天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂等の有機化合物加熱体、コークス等の炭素物質の粉状体を用いることができる。結着剤としては、正極同様、含フッ素樹脂、熱可塑性樹脂などを用いることができる。このように、負極活物質として金属リチウム以外の材料を用いた電池をリチウムイオン二次電池という。また負極にナトリウムを用いたナトリウム二次電池とすることもできる。
【0087】
本発明の非水二次電池は、正極と負極との間にセパレータを設けていても良い。セパレータは、必要に応じて用いられる。セパレータは、正極と負極とを分離し非水電解液を保持するものであり、ポリエチレン、ポリプロピレン等の薄い微多孔膜を用いることができる。
【0088】
電解質は、非水電解液に含まれているとよい。非水電解液は、有機溶媒に電解質であるフッ化塩を溶解させたものである。電解質であるフッ化塩は、有機溶媒に可溶なアルカリ金属フッ化塩であることが好ましい。アルカリ金属フッ化塩としては、例えば、LiPF、LiBF、LiAsF、NaPF、NaBF、及びNaAsF、CFSOLi、CSOLi、(CFSONLi、(CFSOCLi、LiBF、LiPF、LiClO等の群から選ばれる少なくとも1種を用いるとよい。非水電解液の有機溶媒は、非プロトン性有機溶媒であることがよく、たとえば、鎖状カーボネート、環状カーボネート、環状エステル、ニトリル化合物、酸無水物、アミド化合物、ホスフェート化合物、アミン化合物などが含まれる。具体例としては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメトキシエタン、γ―プロラクチン、N−メチルピロリジノン、N、N’―ジメチルアセトアミド、プロピレンカーボネートとジメトキシエタンとの混合物、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合物、スルホランとテトラヒドロフランとの混合物から選ばれる一種以上を用いることができる。
【0089】
また、電解質は、電解質の溶液を含むポリマーゲルで構成されたポリマーゲル電解質であってもよい。
【0090】
ポリマーゲルとしては、光重合開始剤(例えば、IRGACURE184など)で重合するプレポリマーTA210(ポリオキシアルキレン鎖を有する多官能アクリレートポリマー)を用いることがよく、また、アクリロニトリルとアクリル酸メチル若しくはメタアクリル酸とのコポリマーを用いてもよい。ポリマーゲル電解質は、ポリマーを電解質溶液中に浸漬するか、又は電解質溶液の存在下でポリマーの構成単位(モノマー/化合物)を重合することによって得ることができる。
【0091】
正極および負極にセパレータを挟装させ電極体とする。正極集電体および負極集電体から外部に通ずる正極端子および負極端子までの間を、集電用リード等を用いて接続した後に電極体に非水電解液を含浸させて非水系二次電池とするとよい。
【0092】
非水系二次電池の形状は、特に限定なく、円筒型、角型、コイン型、ラミネート型等、種々の形状を採用することができる。
【0093】
(6)車両など
非水系二次電池は、車両に搭載してもよい。上記の粒径特性をもつ負極活物質粒子を用いた非水系二次電池で走行用モータを駆動することにより、大容量、大出力で、長時間使用することができる。車両は、その動力源の全部あるいは一部に非水系二次電池による電気エネルギーを使用している車両であれば良く,例えば、電気車両、ハイブリッド車両などであるとよい。車両に本発明の非水系二次電池を搭載する場合には、非水系二次電池を複数直列に接続して組電池とするとよい。
【0094】
非水系二次電池は、車両以外にも、パーソナルコンピュータ,携帯通信機器など,電池で駆動される各種の家電製品,オフィス機器,産業機器が挙げられる。
【実施例】
【0095】
(実施例1)
<アセチレン誘導体の合成>
「化13」に示すように、第1工程において、市販されている2−ブロモアントラキノン(1)(0.2897g, 1.0mmol)、PdCl(PPh(0.070g, 0.1mmol)及びCuI(0.0380g, 0.2mmol)をテトラフドロフラン(THF、5ml)及びトリエチルアミン(Et3N、5ml)に溶解させた混合溶液に、トリメチルシリルアセチレン(0.6ml, 4.3mmol)を添加した。混合溶液は、Ar雰囲気下で65℃で24時間攪拌させた。混合溶液は、ショートシリカゲルカラムを通過させ蒸発させた。残留物をフラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィ(CHCl3:ヘキサン、1:4から1:1)により精製して、2−(トリメチルシリルエチニル)アントラキノン(2)(0.2914g, 0.96mmol)を収率96%で得た。1H NMR スペクトル(500 MHz, CDCl3) は以下のとおり、δ・8.36 (d, J=1.8 Hz, 1H), 8.31-8.29 (m, 2H), d 8.25 (d, J=8.1 Hz, 1H), 7.83-7.78 (m, 3H), 0.29 (s, 9H)。 生成物(2)の同定及び純度は、測定された1H NMRスペクトルを、報告されたスペクトルと比較することで確認した。
【0096】
第2工程において、生成物(2)(0.1562g, 0.51mmol)、アニリン(140μl, 1.54mmol)及び1、4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)(0.600g, 5.34mmol)のクロロベンゼン(10ml)溶液に、四塩化チタン(0.11ml, 1.0mmol)のクロロベンゼン(5ml)溶液が50℃で徐々に添加された。混合溶液は、100℃で3時間攪拌された。沈殿物が濾過により除去された。濾液は蒸発され、その残留物は、フラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィ(CHCl3:ヘキサン=1:1)により精製して、N、N’―ジフェニル 2−(トリメチルシリルエチニル)アントラキノンジイミン(3)(0.1794g, 0.40mmol)を収率77%で得た。1H NMRスペクトル(500 MHz, CDCl3)は以下のとおり、δ・8.43-8.26 (m, 2H), 7.67-7.34 (m, 5H), 7.19-6.92 (m, 10H), 0.29-0.13(m, 9H)。IR (ATR, cm-1)結果は以下のとおり、3058.0, 2955.6, 2152.2, 1623.2, 1587.5, 1481.0, 1446.9, 1408.0, 1296.1, 1272.2, 1156.0, 1069.0, 1024.1, 944.5, 898.3, 876.7, 839.9, 762.0, 727.5, 694.0, 679.5, 645.7, 633.6, 566.1, 532.0; 509.9。元素分析結果はC31H26N2Si・0.4H2O: C, 80.62; H, 5.85; N, 6.07と計算された。実測値はC, 80.72; H, 5.82; N, 6.10であった。
【0097】
第3工程において、生成物(3) (0.0811 g, 0.18 mmol)のTHF/メタノール(4ml/4ml)溶液に、フッ化カリウム(KF) (0.030 g, 0.52 mmol)が添加された。混合溶液は、30分間室温で攪拌された。水が添加され、混合物がCHCl3で抽出された。有機層はMgSO4で乾燥させ、蒸発させて粗生成物を得た。粗生成物は更にシリカゲルカラムクロマトグラフィ(CHCl3)で精製され、N、N’―ジフェニル 2−エチニルアントラキノンジイミン(4)(0.0621g, 0.16mmol)を収率91%で得た。1H-NMR スペクトル(500 MHz, CDCl3)は以下のとおり、d 8.47-8.29 (m, 2H), 7.69-7.33 (m, 5H), 7.20-6.82 (m, 10H), 3.22-2.93(m, 1H)。IR測定 (ATR, cm-1)結果は以下のとおり、3285.5; 3058.3, 3026.8, 1623.7, 1586.9, 1480.6, 1446.7, 1294.6, 1228.5, 1192.3, 1154.8, 1139.0, 1070.4, 1023.5, 987.9, 944.7, 905.9, 869.0, 841.2, 765.5, 742.2, 712.3, 693.8, 679.6, 653.6, 626.0, 615.1, 564.2, 528.8, 508.6。高分解能質量分析スペクトル(HRMS)(エレクトロスプレーイオン化法(ESI))の結果はC28H19N2[M+H]: 383.1548と計算され、実測値は383.1581であった。元素分析結果はC28H28N2・H2O: C, 83.98; H, 5.03; N, 7.00と計算され、実測値はC, 83.87; H, 4.63; N, 6.85であった。生成物(4)は、1つのエチニル基をアントラセンに結合させたアセチレン誘導体である。
【0098】
<ポリアセチレン誘導体の合成>
生成物(4)(0.01071g, 0.026mmol),ケッチェンブラック(KB(ライオン製 表面積1270m/g), 0.02211g)及びトリエチルアミン(Et3N、100μl)をTHF(0.9ml)に溶解させた。混合溶液にTHF(0.2ml)に溶解させた触媒[Rh(nbd)Cl]2(0.00143g, 0.0031mmol)を加え、アルゴン下30℃で24時間攪拌した。その後、混合溶液にメタノールを加え沈殿させ目的の複合材料を定量的に得た(0.03231g)。複合材料では、アセチレン誘導体の重合体が、ポリアセチレン誘導体である化合物(5)となっていた。IR測定 (ATR, cm-1)結果は以下のとおり、1580, 1475, 1385, 1300, 1248, 1177, 1150, 1081, 839, 750, 690, 644, 625, 596。
【0099】
【化13】
【0100】
<リチウム電池の作製>
生成した複合材料(5)(6.0mg,60質量%)、導電性バインダー(TAB-2, 宝泉株式会社製)4mg, 40質量%を混合しシート状となし、アルミメッシュ(14φ)に圧着した。それを120 oCで6時間以上乾燥し、複合材料を正極活物質として含む正極を作製した。以後は、グローブボックス内で行った。この正極をコイン電池を構成する正極缶上に置き、電解液[1M LiPF6 / EC : DEC(1 : 1v/v%)]に含浸させた。その正極上にポリプロピレン多孔質フィルムからなるセパレータ、ガラスフィルターを積層し、さらに負極となるリチウム箔(14φ)を積層した。その後、周囲に絶縁パッキンを配置した状態でコイン電池のアルミ外装を重ねた。それをしめ機によって加圧し、正極活物質としてポリアセチレン誘導体、負極活物質として金属リチウムを用いた密閉型コイン型のリチウム二次電池を作製した。
【0101】
(実施例2)
<アセチレン誘導体の合成>
「化14」に示すように、工程1において、市販されている2,6−ジブロモアントラキノン(11)(1.0995g、3.0mmol)、PdCl(PPh(0.210g、0.3mmol)及びCuI(0.115g、0.67mmol)をTHF(15ml)及びEt3N(15ml)に溶解させた混合溶液に、トリメチルシリルアセチレン(2.5ml、18.0mmol)を添加した。混合溶液は、Ar雰囲気下で65℃で48時間攪拌させた。混合溶液は、ショートシリカゲルカラムを通過させ蒸発させた。残留物をフラッシュシリガゲルカラムクロマトグラフィ(CHCl3:ヘキサン、1:1)により精製して、2、6−ジ(トリメチルシリルエチニル)アントラキノン(12)(1.0505g、2.6mmol)を収率87%で得た。生成物(12)の同定及び純度は、1H NMRスペクトルで確認した。
【0102】
工程2において、生成物(12)(0.5137g、1.28mmol)、アニリン(0.35ml、3.74mmol)及びDABCO( 3.0g、26.7mmol)のクロロベンゼン(25ml)溶液に、四塩化チタン(0.3ml、2.74mmol)のクロロベンゼン(25ml)溶液が50℃で徐々に添加された。混合溶液は、100℃で3時間攪拌された。沈殿物が濾過により除去された。濾液は、蒸発され、残留物は、フラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィ(CHCl3:ヘキサン=1:2)により精製して、N、N’―ジフェニル 2、6−ジ(トリメチルシリルエチニル)アントラキノンジイミン(13)(0.6391g、1.16mmol)を収率90%で得た。
【0103】
工程3において、生成物(13) (0.5736g、1.04mmol)のTHF/メタノール (24ml/24ml)溶液に、KF(0.30g、5.16mmol)が添加された。混合溶液は、30分間室温で攪拌された。水が添加され、混合物がCHCl3で抽出された。有機層はNa2SO4で乾燥させ、蒸発させて粗生成物を得た。粗生成物は更にシリカゲルカラムクロマトグラフィ(CHCl3)で精製され、N、N’―ジフェニル 2、6−ジエチニルアントラキノンジイミン(14)(0.4592g、1.13mmol)を定量的に得た。生成物(14)は、2つのエチニル基をアントラセンに結合させたアセチレン誘導体である。
【0104】
<ポリアセチレン誘導体の合成>
生成物(14)(0.01152g, 0.028mmol),KB(ライオン製 表面積1270m/g)(0.02037g)及びEt3N(100μl)をTHF(0.9ml)に溶解させた。混合溶液にTHF(0.2ml)に溶解させた触媒[Rh(nbd)Cl]2(0.00105g, 0.0027mmol)を加え、アルゴン下30℃で24時間攪拌した。その後、混合溶液にメタノールに加え沈殿させ目的の複合材料を定量的に得た(0.03020g)。複合材料では、アセチレン誘導体の重合体が、ポリアセチレン誘導体である複合材料(15)となっていた。IR測定 (ATR, cm-1)結果は以下のとおり、1583, 1475, 1300, 1240, 1165, 1020, 980, 900, 830, 760, 686, 575。
【0105】
【化14】
【0106】
<リチウム二次電池の作製>
上記複合材料(15)を用いて、実施例1の<リチウム二次電池の作製>と同様に、リチウム二次電池を作製した。
(比較例1)
実施例1で合成した重合前のアセチレン誘導体(4)を用いて、KBを添加しない点を除いて、実施例1の<ポリアセチレン誘導体の合成>と同様に、ポリアセチレン誘導体を合成した。その後、合成したポリアセチレン誘導体(2.0mg, 20質量%)KB(4.0mg,40質量%)、及び導電性バインダー(TAB-2 4mg, 40質量%)を混合しシート状となし、アルミメッシュ(14φ)に圧着した。以後は、実施例1の<リチウム二次電池の作製>と同様に、リチウム二次電池を作製した。
(比較例2)
実施例2で合成した重合前のアセチレン誘導体(14)を用いて、KBを添加しない点を除いて、実施例2の<ポリアセチレン誘導体の合成>と同様に、ポリアセチレン誘導体を合成した。その後、合成したポリアセチレン誘導体(2.0mg, 20質量%)KB(4.0mg,40質量%)、及び導電性バインダー(TAB-2 4mg, 40質量%)を混合しシート状となし、アルミメッシュ(14φ)に圧着した。以後は、実施例1の<リチウム二次電池の作製>と同様に、リチウム二次電池を作製した。
【0107】
<充放電試験>
上記実施例1,2及び比較例1,2のリチウム二次電池について充放電試験を行った。充放電試験は、4.0Vから2.0Vの範囲で充電、放電を繰り返した。最初に正極活物質がLiイオンを含んでいないため、2Vまで放電し、次いで4Vまで充電した。このサイクルを1サイクルとした。図1には、実施例1及び比較例1の電池の10サイクル目の放電曲線を示し、図2には、実施例2及び比較例2の電池の10サイクル目の放電曲線を示した。表1には、図1図2に示した放電曲線に基づいて、実施例1,2及び比較例1,2の相対容量と平坦部の有無について示した。表1における実施例1の相対容量は、比較例1の放電容量を1としたときの相対容量であり、実施例2の相対容量は、比較例2の放電容量を1としたときの相対容量である。
【0108】
【表1】
【0109】
充放電試験の結果、実施例1,2の放電容量は、対応する比較例1,2の放電容量の約1.1から1.4倍であった。特筆すべきは、図2に示すように、炭素材料存在下で重合生成させた複合材料(15)を電池に用いた場合(実施例2)には、1段階2電子移動ユニットに由来する平坦部を示した。一方、重合後KBと混合させた場合(比較例2)では、平坦部を示さなかった。平坦部を示すのは、芳香族環に結合しているイミノ基の窒素原子に、Liイオンが配位することで、イミノ基の両側の芳香族環との間で電子の授受が高速に行われるためであると予想される。芳香族炭化水素基(X1,X2:例えば、Ph−NH−)は、Liイオンを引きつける能力を有し、Liイオン伝導性を高めていると考えられる。この結果より、KB存在下での重合は、効率よく酸化還元ユニット(1段階2電子移動ユニット)を働かせる状態にすることができるといえる。
【0110】
<アセチレン誘導体と炭素材料との親和性試験>
上記「化13」の中の化合物(3)(2mg)を10mlのクロロホルムに溶解した。そのクロロホルム溶液1mlを採取してケチェンブラック(ライオン社製)5mgを加えサンプルAとした。
【0111】
上記「化13」の中の化合物(3)(2mg)を10mlのクロロホルムに溶解した。そのクロロホルム溶液1mlを採取してアセチレンブラック(電気化学工業社製)5mgを加えサンプルBとした。
上記「化13」の中の化合物(3)(2mg)を10mlのクロロホルムに溶解した。そのクロロホルム溶液1mlを採取して何も加えないものをサンプルCとした。
【0112】
上記サンプルA,B,Cをそれぞれ5分間超音波を照射し30分間放置した。孔径0.2μmのメンブレンフィルタで濾過しそれら3つの各サンプルの上澄み液を採取して、上澄み液の分光光度計(日立製作所製)で可視・紫外スペクトルを測定した。その結果を図3に示した。図3に示すように、サンプルAは、サンプルBよりも吸光度が減少した。このことから、アセチレン誘導体、さらにポリアセチレン誘導体は、ケチェンブラックにより多く吸着していると考えられる。
図1
図2
図3