【実施例】
【0095】
(実施例1)
<アセチレン誘導体の合成>
「化13」に示すように、第1工程において、市販されている2−ブロモアントラキノン(1)(0.2897g, 1.0mmol)、PdCl
2(PPh
3)
2(0.070g, 0.1mmol)及びCuI(0.0380g, 0.2mmol)をテトラフドロフラン(THF、5ml)及びトリエチルアミン(Et
3N、5ml)に溶解させた混合溶液に、トリメチルシリルアセチレン(0.6ml, 4.3mmol)を添加した。混合溶液は、Ar雰囲気下で65℃で24時間攪拌させた。混合溶液は、ショートシリカゲルカラムを通過させ蒸発させた。残留物をフラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィ(CHCl
3:ヘキサン、1:4から1:1)により精製して、2−(トリメチルシリルエチニル)アントラキノン(2)(0.2914g, 0.96mmol)を収率96%で得た。
1H NMR スペクトル(500 MHz, CDCl
3) は以下のとおり、δ・8.36 (d, J=1.8 Hz, 1H), 8.31-8.29 (m, 2H), d 8.25 (d, J=8.1 Hz, 1H), 7.83-7.78 (m, 3H), 0.29 (s, 9H)。 生成物(2)の同定及び純度は、測定された
1H NMRスペクトルを、報告されたスペクトルと比較することで確認した。
【0096】
第2工程において、生成物(2)(0.1562g, 0.51mmol)、アニリン(140μl, 1.54mmol)及び1、4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)(0.600g, 5.34mmol)のクロロベンゼン(10ml)溶液に、四塩化チタン(0.11ml, 1.0mmol)のクロロベンゼン(5ml)溶液が50℃で徐々に添加された。混合溶液は、100℃で3時間攪拌された。沈殿物が濾過により除去された。濾液は蒸発され、その残留物は、フラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィ(CHCl
3:ヘキサン=1:1)により精製して、N、N’―ジフェニル 2−(トリメチルシリルエチニル)アントラキノンジイミン(3)(0.1794g, 0.40mmol)を収率77%で得た。
1H NMRスペクトル(500 MHz, CDCl
3)は以下のとおり、δ・8.43-8.26 (m, 2H), 7.67-7.34 (m, 5H), 7.19-6.92 (m, 10H), 0.29-0.13(m, 9H)。IR (ATR, cm
-1)結果は以下のとおり、3058.0, 2955.6, 2152.2, 1623.2, 1587.5, 1481.0, 1446.9, 1408.0, 1296.1, 1272.2, 1156.0, 1069.0, 1024.1, 944.5, 898.3, 876.7, 839.9, 762.0, 727.5, 694.0, 679.5, 645.7, 633.6, 566.1, 532.0; 509.9。元素分析結果はC
31H
26N
2Si・0.4H
2O: C, 80.62; H, 5.85; N, 6.07と計算された。実測値はC, 80.72; H, 5.82; N, 6.10であった。
【0097】
第3工程において、生成物(3) (0.0811 g, 0.18 mmol)のTHF/メタノール(4ml/4ml)溶液に、フッ化カリウム(KF) (0.030 g, 0.52 mmol)が添加された。混合溶液は、30分間室温で攪拌された。水が添加され、混合物がCHCl
3で抽出された。有機層はMgSO
4で乾燥させ、蒸発させて粗生成物を得た。粗生成物は更にシリカゲルカラムクロマトグラフィ(CHCl
3)で精製され、N、N’―ジフェニル 2−エチニルアントラキノンジイミン(4)(0.0621g, 0.16mmol)を収率91%で得た。
1H-NMR スペクトル(500 MHz, CDCl
3)は以下のとおり、d 8.47-8.29 (m, 2H), 7.69-7.33 (m, 5H), 7.20-6.82 (m, 10H), 3.22-2.93(m, 1H)。IR測定 (ATR, cm
-1)結果は以下のとおり、3285.5; 3058.3, 3026.8, 1623.7, 1586.9, 1480.6, 1446.7, 1294.6, 1228.5, 1192.3, 1154.8, 1139.0, 1070.4, 1023.5, 987.9, 944.7, 905.9, 869.0, 841.2, 765.5, 742.2, 712.3, 693.8, 679.6, 653.6, 626.0, 615.1, 564.2, 528.8, 508.6。高分解能質量分析スペクトル(HRMS)(エレクトロスプレーイオン化法(ESI))の結果はC
28H
19N
2[M+H]: 383.1548と計算され、実測値は383.1581であった。元素分析結果はC
28H
28N
2・H
2O: C, 83.98; H, 5.03; N, 7.00と計算され、実測値はC, 83.87; H, 4.63; N, 6.85であった。生成物(4)は、1つのエチニル基をアントラセンに結合させたアセチレン誘導体である。
【0098】
<ポリアセチレン誘導体の合成>
生成物(4)(0.01071g, 0.026mmol),ケッチェンブラック(KB(ライオン製 表面積1270m
2/g), 0.02211g)及びトリエチルアミン(Et
3N、100μl)をTHF(0.9ml)に溶解させた。混合溶液にTHF(0.2ml)に溶解させた触媒[Rh(nbd)Cl]
2(0.00143g, 0.0031mmol)を加え、アルゴン下30℃で24時間攪拌した。その後、混合溶液にメタノールを加え沈殿させ目的の複合材料を定量的に得た(0.03231g)。複合材料では、アセチレン誘導体の重合体が、ポリアセチレン誘導体である化合物(5)となっていた。IR測定 (ATR, cm
-1)結果は以下のとおり、1580, 1475, 1385, 1300, 1248, 1177, 1150, 1081, 839, 750, 690, 644, 625, 596。
【0099】
【化13】
【0100】
<リチウム電池の作製>
生成した複合材料(5)(6.0mg,60質量%)、導電性バインダー(TAB-2, 宝泉株式会社製)4mg, 40質量%を混合しシート状となし、アルミメッシュ(14φ)に圧着した。それを120 oCで6時間以上乾燥し、複合材料を正極活物質として含む正極を作製した。以後は、グローブボックス内で行った。この正極をコイン電池を構成する正極缶上に置き、電解液[1M LiPF
6 / EC : DEC(1 : 1v/v%)]に含浸させた。その正極上にポリプロピレン多孔質フィルムからなるセパレータ、ガラスフィルターを積層し、さらに負極となるリチウム箔(14φ)を積層した。その後、周囲に絶縁パッキンを配置した状態でコイン電池のアルミ外装を重ねた。それをしめ機によって加圧し、正極活物質としてポリアセチレン誘導体、負極活物質として金属リチウムを用いた密閉型コイン型のリチウム二次電池を作製した。
【0101】
(実施例2)
<アセチレン誘導体の合成>
「化14」に示すように、工程1において、市販されている2,6−ジブロモアントラキノン(11)(1.0995g、3.0mmol)、PdCl
2(PPh
3)
2(0.210g、0.3mmol)及びCuI(0.115g、0.67mmol)をTHF(15ml)及びEt
3N(15ml)に溶解させた混合溶液に、トリメチルシリルアセチレン(2.5ml、18.0mmol)を添加した。混合溶液は、Ar雰囲気下で65℃で48時間攪拌させた。混合溶液は、ショートシリカゲルカラムを通過させ蒸発させた。残留物をフラッシュシリガゲルカラムクロマトグラフィ(CHCl
3:ヘキサン、1:1)により精製して、2、6−ジ(トリメチルシリルエチニル)アントラキノン(12)(1.0505g、2.6mmol)を収率87%で得た。生成物(12)の同定及び純度は、
1H NMRスペクトルで確認した。
【0102】
工程2において、生成物(12)(0.5137g、1.28mmol)、アニリン(0.35ml、3.74mmol)及びDABCO( 3.0g、26.7mmol)のクロロベンゼン(25ml)溶液に、四塩化チタン(0.3ml、2.74mmol)のクロロベンゼン(25ml)溶液が50℃で徐々に添加された。混合溶液は、100℃で3時間攪拌された。沈殿物が濾過により除去された。濾液は、蒸発され、残留物は、フラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィ(CHCl
3:ヘキサン=1:2)により精製して、N、N’―ジフェニル 2、6−ジ(トリメチルシリルエチニル)アントラキノンジイミン(13)(0.6391g、1.16mmol)を収率90%で得た。
【0103】
工程3において、生成物(13) (0.5736g、1.04mmol)のTHF/メタノール (24ml/24ml)溶液に、KF(0.30g、5.16mmol)が添加された。混合溶液は、30分間室温で攪拌された。水が添加され、混合物がCHCl
3で抽出された。有機層はNa
2SO
4で乾燥させ、蒸発させて粗生成物を得た。粗生成物は更にシリカゲルカラムクロマトグラフィ(CHCl
3)で精製され、N、N’―ジフェニル 2、6−ジエチニルアントラキノンジイミン(14)(0.4592g、1.13mmol)を定量的に得た。生成物(14)は、2つのエチニル基をアントラセンに結合させたアセチレン誘導体である。
【0104】
<ポリアセチレン誘導体の合成>
生成物(14)(0.01152g, 0.028mmol),KB(ライオン製 表面積1270m
2/g)(0.02037g)及びEt
3N(100μl)をTHF(0.9ml)に溶解させた。混合溶液にTHF(0.2ml)に溶解させた触媒[Rh(nbd)Cl]
2(0.00105g, 0.0027mmol)を加え、アルゴン下30℃で24時間攪拌した。その後、混合溶液にメタノールに加え沈殿させ目的の複合材料を定量的に得た(0.03020g)。複合材料では、アセチレン誘導体の重合体が、ポリアセチレン誘導体である複合材料(15)となっていた。IR測定 (ATR, cm
-1)結果は以下のとおり、1583, 1475, 1300, 1240, 1165, 1020, 980, 900, 830, 760, 686, 575。
【0105】
【化14】
【0106】
<リチウム二次電池の作製>
上記複合材料(15)を用いて、実施例1の<リチウム二次電池の作製>と同様に、リチウム二次電池を作製した。
(比較例1)
実施例1で合成した重合前のアセチレン誘導体(4)を用いて、KBを添加しない点を除いて、実施例1の<ポリアセチレン誘導体の合成>と同様に、ポリアセチレン誘導体を合成した。その後、合成したポリアセチレン誘導体(2.0mg, 20質量%)KB(4.0mg,40質量%)、及び導電性バインダー(TAB-2 4mg, 40質量%)を混合しシート状となし、アルミメッシュ(14φ)に圧着した。以後は、実施例1の<リチウム二次電池の作製>と同様に、リチウム二次電池を作製した。
(比較例2)
実施例2で合成した重合前のアセチレン誘導体(14)を用いて、KBを添加しない点を除いて、実施例2の<ポリアセチレン誘導体の合成>と同様に、ポリアセチレン誘導体を合成した。その後、合成したポリアセチレン誘導体(2.0mg, 20質量%)KB(4.0mg,40質量%)、及び導電性バインダー(TAB-2 4mg, 40質量%)を混合しシート状となし、アルミメッシュ(14φ)に圧着した。以後は、実施例1の<リチウム二次電池の作製>と同様に、リチウム二次電池を作製した。
【0107】
<充放電試験>
上記実施例1,2及び比較例1,2のリチウム二次電池について充放電試験を行った。充放電試験は、4.0Vから2.0Vの範囲で充電、放電を繰り返した。最初に正極活物質がLiイオンを含んでいないため、2Vまで放電し、次いで4Vまで充電した。このサイクルを1サイクルとした。
図1には、実施例1及び比較例1の電池の10サイクル目の放電曲線を示し、
図2には、実施例2及び比較例2の電池の10サイクル目の放電曲線を示した。表1には、
図1,
図2に示した放電曲線に基づいて、実施例1,2及び比較例1,2の相対容量と平坦部の有無について示した。表1における実施例1の相対容量は、比較例1の放電容量を1としたときの相対容量であり、実施例2の相対容量は、比較例2の放電容量を1としたときの相対容量である。
【0108】
【表1】
【0109】
充放電試験の結果、実施例1,2の放電容量は、対応する比較例1,2の放電容量の約1.1から1.4倍であった。特筆すべきは、
図2に示すように、炭素材料存在下で重合生成させた複合材料(15)を電池に用いた場合(実施例2)には、1段階2電子移動ユニットに由来する平坦部を示した。一方、重合後KBと混合させた場合(比較例2)では、平坦部を示さなかった。平坦部を示すのは、芳香族環に結合しているイミノ基の窒素原子に、Liイオンが配位することで、イミノ基の両側の芳香族環との間で電子の授受が高速に行われるためであると予想される。芳香族炭化水素基(X1,X2:例えば、Ph−NH−)は、Liイオンを引きつける能力を有し、Liイオン伝導性を高めていると考えられる。この結果より、KB存在下での重合は、効率よく酸化還元ユニット(1段階2電子移動ユニット)を働かせる状態にすることができるといえる。
【0110】
<アセチレン誘導体と炭素材料との親和性試験>
上記「化13」の中の化合物(3)(2mg)を10mlのクロロホルムに溶解した。そのクロロホルム溶液1mlを採取してケチェンブラック(ライオン社製)5mgを加えサンプルAとした。
【0111】
上記「化13」の中の化合物(3)(2mg)を10mlのクロロホルムに溶解した。そのクロロホルム溶液1mlを採取してアセチレンブラック(電気化学工業社製)5mgを加えサンプルBとした。
上記「化13」の中の化合物(3)(2mg)を10mlのクロロホルムに溶解した。そのクロロホルム溶液1mlを採取して何も加えないものをサンプルCとした。
【0112】
上記サンプルA,B,Cをそれぞれ5分間超音波を照射し30分間放置した。孔径0.2μmのメンブレンフィルタで濾過しそれら3つの各サンプルの上澄み液を採取して、上澄み液の分光光度計(日立製作所製)で可視・紫外スペクトルを測定した。その結果を
図3に示した。
図3に示すように、サンプルAは、サンプルBよりも吸光度が減少した。このことから、アセチレン誘導体、さらにポリアセチレン誘導体は、ケチェンブラックにより多く吸着していると考えられる。