特許第5907384号(P5907384)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5907384
(24)【登録日】2016年4月1日
(45)【発行日】2016年4月26日
(54)【発明の名称】車両用前照灯
(51)【国際特許分類】
   F21S 8/12 20060101AFI20160412BHJP
   F21W 101/10 20060101ALN20160412BHJP
   F21Y 115/10 20160101ALN20160412BHJP
【FI】
   F21S8/12 250
   F21W101:10
   F21Y101:02
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-144195(P2012-144195)
(22)【出願日】2012年6月27日
(65)【公開番号】特開2014-10886(P2014-10886A)
(43)【公開日】2014年1月20日
【審査請求日】2015年5月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(72)【発明者】
【氏名】中矢 喜昭
【審査官】 柿崎 拓
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−79636(JP,A)
【文献】 再公表特許第2005/080859(JP,A1)
【文献】 米国特許第5841596(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F21S 8/12
F21W 101/10
F21Y 115/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザービームを出射する光源と、
前記レーザービームを反射する可動ミラー、前記可動ミラーを、第1軸及びこれに直交する第2軸を中心に回動させるアクチュエータ、を備えた光偏向器と、
前記可動ミラーによって反射された前記レーザービームを前記光偏向器によって遮られない方向へ反射する反射面と、
前記反射面によって反射される前記レーザービームが被走査面を2次元的に走査してパターンを形成するように、前記アクチュエータを制御する制御装置と、
を備えており、
前記可動ミラーは、前記アクチュエータが制御されていない状態で、回動前の初期位置に復帰し、
前記光偏向器は、前記初期位置に復帰した前記可動ミラーが前記レーザービーム入射方向に対して垂直となるように配置されている車両用前照灯。
【請求項2】
前記反射面は、前記光源と前記光偏向器との間に配置され、かつ、前記可動ミラーに入射する前記レーザービームを含む平面によって分割された少なくとも2つの反射領域を含んでいることを特徴とする請求項1に記載の車両用前照灯。
【請求項3】
前記反射面は、前記光源と前記光偏向器との間に配置され、かつ、前記可動ミラーに入射する前記レーザービームを含む水平面によって上下に分割された少なくとも2つの反射領域を含んでおり、
前記制御装置は、前記可動ミラーが共振駆動により前記第1軸である水平軸を中心に回動して、前記レーザービームを垂直走査するとともに、前記可動ミラーが非共振駆動により前記第2軸である鉛直軸を中心に回動して、前記レーザービームを水平走査することで、前記上下2つの反射領域に投影像を形成するように、前記アクチュエータを制御し、
前記上下2つの反射領域のうち上の反射領域は、当該上の反射領域に形成された投影像を前方に反転投影して、前記被走査面上に上走査パターンを形成するように構成されており、
前記上下2つの反射領域のうち下の反射領域は、当該下の反射領域に形成された投影像を前方に反転投影して、前記被走査面上の上走査パターンの直下に下走査パターンを形成するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の車両用前照灯。
【請求項4】
前記制御装置は、車両からの信号に基づき、前記アクチュエータと前記光源とを同期して制御することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の車両用前照灯。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用前照灯に係り、特に、偏向走査されるレーザービームで前方を照明する走査型車両用前照灯に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用灯具の分野においては、偏向走査されるレーザービームで前方を照明する走査型車両用前照灯が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図4は、従来の走査型車両用前照灯200の縦断面図である。
【0004】
図4に示すように、走査型車両用前照灯200は、レーザービームを出射するレーザー光源202、レーザー光源202が出射するレーザービームを偏向走査する光偏向器204、光偏向器204を制御する制御装置206等を備えている。光偏向器204は、回動体208に実装された可動ミラー210及び当該回動体208(及びこれに実装された可動ミラー210)を垂直軸周りに回動させるアクチュエータ(図示せず)等を備えている。
【0005】
上記構成の走査型車両用前照灯200においては、制御装置206が、アクチュエータを制御して、可動ミラー210を垂直軸周りに左右に往復回動させ、レーザー光源202が出射するレーザービームを水平方向に偏向走査させることで、車両前方の被走査面(図示せず)上に所定の配光パターン(走査パターン)を形成することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4881255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記構成の走査型車両用前照灯200においては、光偏向器204のアクチュエータが何らかの原因で故障し(例えば、断線等によりアクチュエータを制御できなくなり)、トーションバー(図示せず)等の作用によって可動ミラー210が回動前の初期位置へ復帰すると、当該初期位置へ復帰した可動ミラー210によってレーザービームが車両前方の特定方向へ集中的に照射されるという問題があるが、この対策については、一切提案されていない。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、アクチュエータが何らかの原因で故障し(例えば、断線等によりアクチュエータを制御できなくなり)、可動ミラーが回動前の初期位置へ復帰した場合であっても、レーザービームが車両前方の特定方向へ集中的に照射されるのを防止すること(フェールセーフの実現)が可能な走査型車両用前照灯を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、レーザービームを出射する光源と、前記レーザービームを反射する可動ミラー、前記可動ミラーを、第1軸及びこれに直交する第2軸を中心に回動させるアクチュエータ、を備えた光偏向器と、前記可動ミラーによって反射された前記レーザービームを前記光偏向器によって遮られない方向へ反射する反射面と、前記反射面によって反射される前記レーザービームが被走査面を2次元的に走査してパターンを形成するように、前記アクチュエータを制御する制御装置と、を備えており、前記可動ミラーは、前記アクチュエータが制御されていない状態で、回動前の初期位置に復帰し、前記光偏向器は、前記初期位置に復帰した前記可動ミラーが前記レーザービーム入射方向に対して垂直となるように配置されていることを特徴とする。
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、初期位置に復帰した可動ミラーが、当該初期位置に復帰した可動ミラーに入射するレーザービームに対して垂直となるように配置されているため、光偏向器(アクチュエータ等)が何らかの原因で故障し(例えば、断線等によりアクチュエータを制御できなくなり)、可動ミラーが回動前の初期位置へ復帰すると、当該初期位置へ復帰した可動ミラーによってレーザービームが、光源側へ戻されることとなる。これにより、レーザービームが車両前方の特定方向へ集中的に照射されるのを防止すること(フェールセーフの実現)が可能となる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記反射面は、前記光源と前記光偏向器との間に配置され、かつ、前記可動ミラーに入射する前記レーザービームを含む平面によって分割された少なくとも2つの反射領域を含んでいることを特徴とする。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、初期位置に復帰した可動ミラーが、当該初期位置に復帰した可動ミラーに入射するレーザービームに対して垂直となるように配置されている。これにより、可動ミラーと2つの反射面との距離が、2つの反射面のいずれの部分においても略同一距離となる。その結果、所定の配光パターン(走査パターン)が台形状に歪むのを抑制することが可能となる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記反射面は、前記光源と前記光偏向器との間に配置され、かつ、前記可動ミラーに入射する前記レーザービームを含む水平面によって上下に分割された少なくとも2つの反射領域を含んでおり、前記制御装置は、前記可動ミラーが共振駆動により前記第1軸である水平軸を中心に回動して、前記レーザービームを垂直走査するとともに、前記可動ミラーが非共振駆動により前記第2軸である鉛直軸を中心に回動して、前記レーザービームを水平走査することで、前記上下2つの反射領域に投影像を形成するように、前記アクチュエータを制御し、前記上下2つの反射領域のうち上の反射領域は、当該上の反射領域に形成された投影像を前方に反転投影して、前記被走査面上に上走査パターンを形成するように構成されており、前記上下2つの反射領域のうち下の反射領域は、当該下の反射領域に形成された投影像を前方に反転投影して、前記被走査面上の上走査パターンの直下に下走査パターンを形成するように構成されていることを特徴とする。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、被走査面上に、上配光パターン(上走査パターン)と下配光パターン(下走査パターン)との境界線に沿った部分がそれ以外の部分よりも相対的に明るい(その結果、遠方視認性に優れた)車両用前照灯に適した合成配光パターンを形成することが可能となる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3のいずれかに記載の発明において、前記制御装置は、車両からの信号に基づき、前記アクチュエータと前記光源とを同期して制御することを特徴とする。
【0016】
請求項4に記載の発明によれば、例えば、車載カメラ等の車両に取り付けられた外部センサを用いて、車両前方に存在する歩行者、対向車、先行車等を検出し、その検出信号に基づいて、光偏向器のアクチュエータと光源とを同期して制御することで、歩行者等が存在する領域の明るさを変化させることが可能となる。
【0017】
例えば、歩行者等が存在する領域を点滅させることで、当該歩行者等が存在する領域に対して、運転者の注意を促すことが可能となる。また、例えば、対向車等が存在する領域の光度を相対的に低くすることで、当該対向車等に対するグレアを抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明によれば、アクチュエータが何らかの原因で故障し(例えば、断線等によりアクチュエータを制御できなくなり)、可動ミラーが回動前の初期位置へ復帰した場合であっても、レーザービームが車両前方の特定方向へ集中的に照射されるのを防止すること(フェールセーフの実現)が可能な走査型車両用前照灯を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】(a)走査型車両用前照灯10の横断面図、(b)正面図、(c)縦断面図である。
図2】(a)走査型車両用前照灯10を斜め前方から見た斜視図、(b)走査型車両用前照灯10を斜め後方から見た斜視図である。
図3】(a)被走査面を走査するレーザービームの動きを表し、(b)車両前方に歩行者及び対向車が存在する場合のレーザービームの動きを表している。
図4】従来の走査型車両用前照灯200の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態である走査型車両用前照灯について、図面を参照しながら説明する。
【0021】
図1(a)は走査型車両用前照灯10の横断面図、図1(b)は正面図、図1(c)は縦断面図である。図2(a)は走査型車両用前照灯10を斜め前方から見た斜視図、図2(b)は走査型車両用前照灯10を斜め後方から見た斜視図である。図3(a)は被走査面を走査するレーザービームの動きを表し、図3(b)は車両前方に歩行者及び対向車が存在する場合のレーザービームの動きを表している。
【0022】
本実施形態の走査型車両用前照灯10は、偏向走査されるレーザービームで前方を照明する走査型車両用前照灯で、例えば、自動車等の車両の前面の左右両側に配置されて車両用前照灯(いわゆるヘッドランプ)を構成する。走査型車両用前照灯10には、その光軸調整が可能なように公知のエイミング機構(図示せず)が連結されている。
【0023】
走査型車両用前照灯10は、図1図2に示すように、光源装置12、光偏向器14、固定反射面16、保持部材18、制御装置20等を備えている。
【0024】
保持部材18は、光源装置12、光偏向器14、固定反射面16を保持するための部材で、筒部18a、筒部18aの両端を閉塞する第1端面18b及び第2端面18c等を備えている。第1端面18b(及びその内側面に配置された固定反射面16)及び第2端面18cの中心にはそれぞれ、レーザービームが通過する貫通穴H1、貫通穴H2が形成されている。また、第2端面18cのうち光偏向器14の上方及び下方にはそれぞれ、レーザービームが通過して出射する上貫通穴H3及び下貫通穴H4が形成されている。
【0025】
光源装置12は、レーザービームを出射するレーザー光源22、当該レーザー光源22が出射するレーザービームをほぼ平行にするコリメートレンズ24、光ファイバー26等を備えている。光源装置12は、当該光源装置12が出射するレーザービームが貫通穴H1、H2を通過するように、光源装置12のレーザービーム出射口と貫通穴H1、H2とを対向させた状態で、保持部材18の第1端面18b(の外側面)に固定されている。
【0026】
レーザー光源22は、例えば、発光波長が青系(400〜450nm)の半導体レーザーダイオードである。光ファイバー26の出射端26bには、YAG等の波長変換部材28(蛍光体)が配置されている。波長変換部材28(蛍光体)は、光ファイバー26の出射端26bから出射するレーザービームを吸収し、波長変換して黄色系の波長域の光を放出する。
【0027】
上記構成の光源装置12によれば、レーザー光源22が出射するレーザービームは、光ファイバー26の入射端26aから光ファイバー26内に導入されて出射端26bまで導光(又は伝搬)され、出射端26bから出射し、波長変換部材28を照射する。レーザービームが照射された波長変換部材28は、レーザービームにより励起される黄色光と波長変換部材28を透過するレーザービームとの混色による白色光(法規で規定されたCIE色度図上の白色範囲を満たすレーザービーム。以下、この白色光をレーザービームと称する)を発する。
【0028】
なお、光源装置12は、法規で規定されたCIE色度図上の白色範囲を満たすレーザービームを出射するものであればよく、RGB三色の半導体レーザーダイオードを組み合わせた構造の光源装置であってもよいし、その他構造の光源装置であってもよい。
【0029】
光偏向器14は、光源装置12が出射するレーザービームを、固定反射面16へ向けて偏向走査するために用いられる。光偏向器14は、マイクロミラーデバイス、ミラー偏向器とも呼ばれる。
【0030】
光偏向器14は、光源装置12が出射するレーザービームを反射する単一の可動ミラー30、可動ミラー30を、直交する2軸(水平軸X及び垂直軸Y)を中心に回動するように支持する支持部(例えば、トーションバー。図示せず)、可動ミラー30を、各軸(水平軸X及び垂直軸Y)を中心に回動させるアクチュエータ(例えば、圧電アクチュエータ。図示せず)等を備えている。可動ミラー30は、例えば、直径1mm程度の円形のMEMSミラーである。光偏向器14は、貫通穴H1、H2を通過したレーザービームが可動ミラー30に入射するように、可動ミラー30と貫通穴H1、H2とを対向させた状態で、保持部材18の第2端面18c(外側面)に固定されている。光偏向器14は、初期位置に復帰した可動ミラー30が当該初期位置に復帰した可動ミラー30に入射するレーザービームに対して垂直となるように配置されている。
【0031】
制御装置20がアクチュエータを制御すると(例えば、アクチュエータに印加する駆動電圧の位相、周波数、振幅、波形等を制御すると)、可動ミラー30が、支持部(例えば、トーションバー)の復元力に抗して各軸(水平軸X及び垂直軸Y)を中心に往復回動し、光源装置12が出射するレーザービームを垂直方向及び水平方向に偏向走査する。
【0032】
一方、可動ミラー30は、制御装置20がアクチュエータを制御しない状態(例えば、アクチュエータに駆動電圧が印加されない状態)では、支持部(例えば、トーションバー)等の作用によって回動前の初期位置へ復帰する。
【0033】
以上のような光偏向器14としては、例えば、特許第4092283号公報、特開2009−223165号公報、国際公開WO2010/021215号公報に記載のものを用いることができる。
【0034】
固定反射面16は、正面視で略矩形形状の反射面で、光偏向器14(可動ミラー30)によって偏向走査されたレーザービームが入射するように、光源装置12と光偏向器14との間に配置されている。固定反射面16の中心には、貫通穴H1が形成されている。
【0035】
固定反射面16は、可動ミラー30に入射するレーザービーム(又は貫通穴H1の中心軸)を含む水平面によって上下に分割された少なくとも2つの反射領域(上反射領域16a及び下反射領域16b)を含んでいる。固定反射面16(上反射領域16a及び下反射領域16b)は、保持部材18の第1端面18b(内側面)に配置されている。固定反射面16は、例えば、保持部材18の第1端面18b(内側面)に対してアルミや銀等の金属蒸着を施すことで形成された反射層(又は反射面)、保持部材18の第1端面18b(内側面)に接着された薄い板状の反射部材である。
【0036】
上反射領域16aは、光偏向器14によって反射(偏向走査)されたレーザービームを、光偏向器14に干渉しない方向(光偏向器14によって遮られない方向。本実施形態では、光偏向器14の上)へ反射し、保持部材18の第2端面18cのうち光偏向器14の上方に形成された上貫通穴H3を通過させ、車両前方の被走査面(例えば、車両前面に正対した仮想鉛直スクリーン(車両前面から約25m前方に配置されている))上に所定の配光パターン(略矩形の走査パターン)を形成するために用いられる。これを実現するために、上反射領域16aは全体として回転楕円面に近似した形状で、図1(c)に示すように、上反射領域16aの縦断面形状は、第1焦点F116aが可動ミラー30(又はその近傍)に設定され、第2焦点F216aが、保持部材18の第2端面18cのうち光偏向器14の上方(例えば、可動ミラー30の約8mm上方)に形成された上貫通穴H3(又はその近傍)に設定された楕円形状とされている。また、上反射領域16aの横断面形状は、図1(a)に示すように、中心O16aが可動ミラー30(又はその近傍)に設定された円形状とされている。
【0037】
一方、下反射領域16bは、光偏向器14によって反射(偏向走査)されたレーザービームを、光偏向器14に干渉しない方向(光偏向器14によって遮られない方向。本実施形態では、光偏向器14の下)へ反射し、保持部材18の第2端面18cのうち光偏向器14の下方に形成された下貫通穴H4を通過させ、車両前方の被走査面上に所定の配光パターン(略矩形の走査パターン)を形成するために用いられる。これを実現するために、下反射領域16bは全体として回転楕円面に近似した形状で、図1(c)に示すように、下反射領域16bの縦断面形状は、第1焦点F116bが可動ミラー30(又はその近傍)に設定され、第2焦点F216bが、保持部材18の第2端面18cのうち光偏向器14の下方(例えば、可動ミラー30の約8mm下方)に形成された下貫通穴H4(又はその近傍)に設定された楕円形状とされている。また、下反射領域16bの横断面形状は、図1(a)に示すように、中心O16bが可動ミラー30(又はその近傍)に設定された円形状とされている。
【0038】
なお、固定反射面16(上反射領域16a、下反射領域16b)の縦断面形状と横断面形状との間の断面形状は、車両前方の被走査面上に形成される所定の配光パターン(走査パターン)が略矩形となる形状とされている。
【0039】
以上のように、上反射領域16a及び下反射領域16bによって反射されるレーザービームが、光偏向器14を回避する光路を通るように設計することで、レーザービームが遮られることなく車両前方を照射することができる。
【0040】
次に、上記構成の走査型車両用前照灯10の動作例について説明する。
【0041】
以下の処理は、主に制御装置20が所定プログラムを実行することにより実現される。
【0042】
走査型車両用前照灯10の点灯スイッチ(図示せず)がオンされると、制御装置20は、光源装置12(レーザー光源22)を制御して点灯するとともに、以下のように、光偏向器14のアクチュエータを制御する。
【0043】
すなわち、制御装置20は、垂直走査に関し、可動ミラー30が共振駆動により水平軸Xを中心に往復回動するように、垂直走査に関与するアクチュエータを制御する(例えば、垂直走査に関与するアクチュエータに印加する駆動電圧の位相、周波数、振幅、波形等を制御する)。例えば、制御装置20は、垂直走査に関し、可動ミラー30等の機械的な共振周波数付近の周波数(例えば、25KHzの周波数)となり、かつ、時間経過に対する可動ミラー30の水平軸X周りの回動角度の変位量が正弦波形状となるように、垂直走査に関与するアクチュエータを制御する。なお、制御装置20は、垂直走査に関し、レーザービームが、固定反射面16の上端縁(すなわち、上反射領域16aの上端縁。図2(a)参照)と下端縁(すなわち、下反射領域16bの下端縁。図2(a)参照)との間を往復するように、垂直走査に関与するアクチュエータを制御する。
【0044】
一方、制御装置20は、水平走査に関し、可動ミラー30が非共振駆動により垂直軸Yを中心に往復回動するように、水平走査に関与するアクチュエータを制御する(例えば、水平走査に関与するアクチュエータに印加する駆動電圧の位相、周波数、振幅、波形等を制御する)。例えば、制御装置20は、水平走査に関し、目にちらつきが感じられない程度の周期(例えば、60Hzの周波数)となり、かつ、時間経過に対する可動ミラー30の垂直軸Y周りの回動角度の変位量が鋸波形状となるように、水平走査に関与するアクチュエータを制御する。
【0045】
上記のようにアクチュエータを制御すると、可動ミラー30が、支持部(例えば、トーションバー)の復元力に抗して、制御された角度及び速度で各軸(水平軸X及び垂直軸Y)を中心に往復回動し、光源装置12が出射するレーザービームを垂直方向及び水平方向に偏向走査する。
【0046】
この偏向走査されたレーザービームのうち、上反射領域16aで反射されるレーザービームB1は、上貫通穴H3を通過して前方へ照射され(図1(c)、図2(a)及び図2(b)参照)、車両前方の被走査面を二次元的に走査し、図3(a)に示すように、被走査面上に略矩形の上配光パターンP1(略矩形の走査パターン)を形成する。すなわち、可動ミラー30によって偏向走査されたレーザービームにより上反射領域16aに形成される投影像が上下反転投影されることで、被走査面上に略矩形の上配光パターンP1(略矩形の走査パターン)が形成される。
【0047】
一方、上記偏向走査されたレーザービームのうち、下反射領域16bで反射されるレーザービームB2は、下貫通穴H4を通過して前方へ照射され(図1(c)参照)、車両前方の被走査面を二次元的に走査し、図3(a)に示すように、被走査面上の上配光パターンP1の直下に略矩形の下配光パターンP2(略矩形の走査パターン)を形成する。すなわち、可動ミラー30によって偏向走査されたレーザービームにより下反射領域16bに形成される投影像が上下反転投影されることで、被走査面上に略矩形の下配光パターンP2(略矩形の走査パターン)が形成される。
【0048】
各々半分の投影像はそれぞれ、上下反転投影されて被走査面上で合成され、略矩形の合成配光パターンP(略矩形の走査パターン)を形成する(図3(a)参照)。
【0049】
この合成配光パターンPは、上配光パターンP1と下配光パターンP2との境界線に沿った部分がそれ以外の部分よりも相対的に明るいパターンとなる。その理由は、次のとおりである。
【0050】
すなわち、固定反射面16の上端縁(すなわち、上反射領域16aの上端縁16a1。図2(a)参照)と下端縁(すなわち、下反射領域16bの下端縁16b1。図2(a)参照)との間を往復する垂直走査を、共振駆動により実現すると、固定反射面16の中心近傍と上反射領域16aの上端縁近傍(及び下反射領域16bの下端縁近傍)との間で、垂直走査の速度差が発生する。特に、垂直走査に対応する可動ミラー30の水平軸周りの回動の変位の両端では、回動速度がゼロになる。
【0051】
このため、光偏向器14(可動ミラー30)によって偏向走査されるレーザービームにより上反射領域16aに形成される投影像は、上反射領域16aの上端縁16a1近傍がそれ以外の部分よりも相対的に明るくなる。同様に、下反射領域16bに形成される投影像は、下反射領域16bの下端縁16b1近傍がそれ以外の部分よりも相対的に明るくなる。
【0052】
上記のとおり、被投影面上に形成される上配光パターンP1は、上反射領域16aに形成される投影像を上下反転投影したパターンとなる。このため、被投影面上に形成される上配光パターンP1は、その下端縁P1a近傍(図3(a)参照)がそれ以外の部分よりも相対的に明るいパターンとなる。
【0053】
同様に、被投影面上に形成される下配光パターンP2は、下反射領域16bに形成される投影像を上下反転投影したパターンとなる。このため、被投影面上に形成される下配光パターンP2は、その下端縁P2a近傍(図3(a)参照)がそれ以外の部分よりも相対的に明るいパターンとなる。
【0054】
以上のような明るさの分布を持つ上配光パターンP1と下配光パターンP2とが、被走査面上で合成されることで、上配光パターンP1と下配光パターンP2との境界線P1a、P2aに沿った部分がそれ以外の部分よりも相対的に明るい(その結果、遠方視認性に優れた)車両用前照灯に適した合成配光パターンPを形成することが可能となる。
【0055】
次に、光偏向器14(アクチュエータ等)が何らかの原因で故障した場合(例えば、断線等によりアクチュエータを制御できなくなった場合)の動作例について説明する。
【0056】
従来の走査型車両用前照灯(例えば、特許第4881255号公報参照)においては、図4に示すように、光偏向器204の可動ミラー210(初期位置に復帰した可動ミラー)が、当該初期位置に復帰した可動ミラー210に入射するレーザービームに対して傾いた状態(例えば、約45度傾いた状態)で配置されている。このため、光偏向器204(アクチュエータ等)が何らかの原因で故障し(例えば、断線等によりアクチュエータを制御できなくなり)、トーションバー等の作用によって可動ミラー210が回動前の初期位置へ復帰すると、当該初期位置へ復帰した可動ミラー210によってレーザービームが車両前方の特定方向へ集中的に照射されるという問題がある。
【0057】
これに対して、本実施形態の走査型車両用前照灯10においては、初期位置に復帰した可動ミラー30が、当該初期位置に復帰した可動ミラー30に入射するレーザービームに対して垂直となるように配置されているため、光偏向器14(アクチュエータ等)が何らかの原因で故障し(例えば、断線等によりアクチュエータを制御できなくなり)、支持部(例えば、トーションバー)等の作用によって可動ミラー30が回動前の初期位置へ復帰すると、当該初期位置へ復帰した可動ミラーによってレーザービームが、貫通穴H2、H1を通過して、光源装置12側へ戻されることとなる。これにより、レーザービームが車両前方の特定方向へ集中的に照射されるのを防止すること(フェールセーフの実現)が可能となる。
【0058】
次に、本実施形態の走査型車両用前照灯10によって被走査面上に形成される合成配光パターンPが、台形状に歪むのを抑制できる理由について説明する。
【0059】
従来、直交する2軸(水平軸X及び垂直軸Y)を中心に回動する可動ミラーを用いた光偏向器(例えば、国際公開WO2009/133698号公報、国際公開WO2010/021215号公報参照)においては、可動ミラー(初期位置に復帰した可動ミラー)を、当該初期位置に復帰した可動ミラーに入射するレーザービームに対して傾いた状態(例えば、約45度傾いた状態)で配置すると、当該可動ミラーによって反射されるレーザービームが直線的に走査されず、所定の配光パターン(走査パターン)が台形状に歪むという問題がある。
【0060】
この台形歪みを解消するには、例えば、台形の上底もしくは下底の内、短い方の辺の長さに合わせて、矩形の表示領域を決定し、矩形領域からはみ出す部分(無効走査領域)では画像(走査パターン)の表示を行わないことで、矩形の画像(走査パターン)を表示できる。
【0061】
しかしながら、このようにすると、矩形領域からはみ出す部分(無効走査領域)を生ずる分、光利用効率が低下し、良好な照射を実現できないという問題がある。
【0062】
これに対して、本実施形態の走査型車両用前照灯10においては、初期位置に復帰した可動ミラー30が、当該初期位置に復帰した可動ミラー30に入射するレーザービームに対して垂直となるように配置されている。これにより、可動ミラー30と固定反射面16(上反射領域16a、下反射領域16b)との距離が、固定反射面16(上反射領域16a、下反射領域16b)のいずれの部分においても略同一距離となる。その結果、所定の配光パターン(走査パターン)が台形状に歪むのを抑制することが可能となり、これにより、無効走査領域を削減し、光利用効率が高い、良好な照射を実現することが可能となる。
【0063】
以上説明したように、本実施形態の走査型車両用前照灯10によれば、次の効果を奏する。
【0064】
第1に、初期位置に復帰した可動ミラー30が、当該初期位置に復帰した可動ミラー30に入射するレーザービームに対して垂直となるように配置されているため、光偏向器14(アクチュエータ等)が何らかの原因で故障し(例えば、断線等によりアクチュエータを制御できなくなり)、支持部(例えば、トーションバー)等の作用によって可動ミラー30が回動前の初期位置へ復帰すると、当該初期位置へ復帰した可動ミラーによってレーザービームが、貫通穴H2、H1を通過して、光源装置12側へ戻されることとなる。これにより、レーザービームが車両前方の特定方向へ集中的に照射されるのを防止すること(フェールセーフの実現)が可能となる。
【0065】
第2に、初期位置に復帰した可動ミラー30が、当該初期位置に復帰した可動ミラー30に入射するレーザービームに対して垂直となるように配置されている。これにより、可動ミラー30と固定反射面16(上反射領域16a、下反射領域16b)との距離が、固定反射面16(上反射領域16a、下反射領域16b)のいずれの部分においても略同一距離となる。その結果、所定の配光パターン(走査パターン)が台形状に歪むのを抑制することが可能となり、これにより、無効走査領域を削減し、光利用効率が高い、良好な照射を実現することが可能となる。
【0066】
また、上反射領域16a及び下反射領域16bによって反射されるレーザービームが、光偏向器14を回避する光路を通るように設計されているため、レーザービームが遮られることなく効率よく車両前方を照射することができる。
【0067】
次に、変形例について説明する。
【0068】
例えば、制御装置20が、レーザー光源22を、パルス変調制御することで、合成配光パターンP中の任意の位置の明るさを変化させることが可能である。
【0069】
例えば、車載カメラ等の車両に取り付けられた外部センサを用いて、車両前方に存在する歩行者、対向車、先行車等を検出し、その検出信号に基づいて、光偏向器14のアクチュエータと光源装置12(レーザー光源22)とを同期して制御することで、歩行者等が存在する領域の明るさを変化させてもよい。
【0070】
例えば、歩行者等が存在する領域を点滅させることで(図3(b)参照)、当該歩行者等が存在する領域に対して、運転者の注意を促すことが可能となる。
【0071】
また、例えば、対向車等が存在する領域の光度を相対的に低くすることで(図3(b)参照)、当該対向車等に対するグレアを抑制することが可能となる。
【0072】
なお、走査型車両用前照灯10は、車両前方を照射することができる箇所に配置されていればよく、その取付箇所、個数等は特に限定されない。
【0073】
例えば、走査型車両用前照灯10は、車両の前面の左右両側に配置された灯室内に配置してもよいし、メインの車両用前照灯とは別に、補助的灯具として、車両の前面の中心付近(例えば、フロントグリル内)に配置してもよいし、車室内(例えば、ダッシュボード上)に設置してもよい。また、走査型車両用前照灯10は、1つでもよいし、2つ以上であってもよい。
【0074】
また、上記実施形態では、固定反射面16が上下に分割された2つの反射領域(上反射領域16a及び下反射領域16b)を含む例について説明したが、本発明はこれに限定されない。
【0075】
例えば、固定反射面16は、上下に分割された2つの反射領域(上反射領域16a及び下反射領域16b)をさらに左右に分割した合計4つの反射領域(右上反射領域、左上反射領域、右下反射領域、左下反射領域)を含んでいてもよい。
【0076】
この場合、右上反射領域、左上反射領域を、上反射領域16aと同様に形成し、右下反射領域、左下反射領域を、下反射領域16bと同様に形成する。そして、個々の反射領域に対応する4つの貫通穴を、保持部材18の第2端面18cに形成する。
【0077】
本変形例によれば個々の反射領域にそれぞれ形成される合計4つの投影像が、上下反転して被走査面上で合成され、略矩形の合成配光パターン(略矩形の走査パターン)を形成することになる。
【0078】
また、例えば、上下に分割された2つの反射領域(上反射領域16a及び下反射領域16b)のうち、いずれか一方のみを用い、他方を省略してもよい。
【0079】
また、上記実施形態では、制御装置20は、垂直走査に関し、可動ミラー30が共振駆動により水平軸Xを中心に往復回動するように、垂直走査に関与するアクチュエータを制御し、水平走査に関し、可動ミラー30が非共振駆動により垂直軸Yを中心に往復回動するように、水平走査に関与するアクチュエータを制御するように説明したが、本発明はこれに限定されない。
【0080】
例えば、制御装置20は、以上とは逆に、垂直走査に関し、可動ミラー30が非共振駆動により水平軸Xを中心に往復回動するように、垂直走査に関与するアクチュエータを制御し、水平走査に関し、可動ミラー30が共振駆動により垂直軸Yを中心に往復回動するように、水平走査に関与するアクチュエータを制御するようにしてもよい。
【0081】
上記実施形態はあらゆる点で単なる例示にすぎない。これらの記載によって本発明は限定的に解釈されるものではない。本発明はその精神または主要な特徴から逸脱することなく他の様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0082】
10…走査型車両用前照灯、12…光源装置、14…光偏向器、16…固定反射面、16a…上反射領域、16b…下反射領域、18…保持部材、18a…筒部、18b…第1端面、18c…第2端面、20…制御装置、22…レーザー光源、24…コリメートレンズ、26…光ファイバー、26a…入射端、26b…出射端、28…波長変換部材、30…可動ミラー
図1
図2
図4
図3