特許第5907519号(P5907519)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5907519
(24)【登録日】2016年4月1日
(45)【発行日】2016年4月26日
(54)【発明の名称】超伝導送電システムと冷却方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 12/16 20060101AFI20160412BHJP
   H01B 12/14 20060101ALI20160412BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20160412BHJP
   H01L 39/04 20060101ALI20160412BHJP
【FI】
   H01B12/16ZAA
   H01B12/14
   H01B13/00 561C
   H01L39/04
【請求項の数】16
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-525240(P2015-525240)
(86)(22)【出願日】2014年7月1日
(86)【国際出願番号】JP2014067563
(87)【国際公開番号】WO2015002200
(87)【国際公開日】20150108
【審査請求日】2015年10月2日
(31)【優先権主張番号】特願2013-138449(P2013-138449)
(32)【優先日】2013年7月1日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500433225
【氏名又は名称】学校法人中部大学
(74)【代理人】
【識別番号】100080816
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 朝道
(72)【発明者】
【氏名】山口 作太郎
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 裕文
【審査官】 木村 励
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−9908(JP,A)
【文献】 特開平10−92627(JP,A)
【文献】 特開2002−130851(JP,A)
【文献】 特開2005−122991(JP,A)
【文献】 特開2006−66383(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/084528(WO,A1)
【文献】 山口作太郎,渡邊裕文,特集:冷凍・冷熱技術 超伝導ケーブル用の断熱2重管及び低温系について,超電導Web21,公益財団法人 国際超電導産業技術研究センター,2013年 6月 3日,2013年6月号,p.28−29,URL,http://www.istec.or.jp/web21/pdf/13_06/all.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 12/16
H01B 12/14
H01B 13/00
H01L 39/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超伝導ケーブルを内側に収容する第1の管と、
前記第1の管の少なくとも一部を外側から覆う輻射シールドと、
前記第1の管及び前記輻射シールドを内側に収容する第2の管と、
を備え、
前記第2の管の内側から前記輻射シールドを挟んで前記第1の管の外側を真空とする構成の超伝導送電パイプラインを有する超伝導送電システムであって、
前記第1の管の内側の前記超伝導ケーブルとの間の空間に第1の冷媒を流し、
前記第2の管内に収容され、前記第1の管の径方向外側に、前記第1の管から離間して配設され、前記輻射シールドに熱的に結合された、少なくとも1つの輻射シールド管を備え、
前記輻射シールド管に、前記輻射シールド用の第2の冷媒として、液化天然ガス(LNG)を流し、前記超伝導送電パイプラインはLNG配管でもある、ことを特徴とする超伝導送電システム。
【請求項2】
超伝導ケーブルを内側に収容する第1の管と、
前記第1の管の少なくとも一部を外側から覆う輻射シールドと、
前記第1の管及び前記輻射シールドを内側に収容する第2の管と、
を備え、
前記第2の管の内側から前記輻射シールドを挟んで前記第1の管の外側を真空とする超伝導送電システムであって、
前記第1の管の内側の前記超伝導ケーブルとの間の空間に第1の冷媒を流し、
前記第2の管内に収容され、前記第1の管の径方向外側に、前記第1の管から離間して配設され、前記輻射シールドに熱的に結合された、少なくとも1つの輻射シールド管を備え、
前記輻射シールド管に、前記輻射シールド用の第2の冷媒として、液化天然ガス(LNG)と熱交換を行った冷媒を流す、ことを特徴とする超伝導送電システム。
【請求項3】
前記LNGが、第1の熱交換器で海水と熱交換してガス化するまえに、前記輻射シールド用の前記第2の冷媒を第2の熱交換器で、LNGとの熱交換を行って冷却し、前記第2の熱交換器の出力は、後段の前記第1の熱交換器で海水で熱交換され天然ガスとして供給される、ことを特徴とする請求項2記載の超伝導送電システム。
【請求項4】
前記第1の管を前記輻射シールドから機械的に支持するとともに、前記輻射シールドを前記第2の管に対して機械的に支持する支持部材を備えた、ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の超伝導送電システム。
【請求項5】
前記第2の冷媒として、
少なくともアルゴン、ヘリウム、ネオンを含む元素の中から選ばれた少なくとも1種を含む希ガス、
フロン系材料、
液体、気体を問わない、窒素、空気、及び、
水素ガス、
の少なくとも1つを流す、ことを特徴とする請求項2又は3記載の超伝導送電システム。
【請求項6】
前記輻射シールド管を、管外側の少なくとも一部で、前記輻射シールドと熱的及び機械的に結合させる管接続部を備えた、ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の超伝導送電システム。
【請求項7】
前記第1の冷媒及び前記第2の冷媒の少なくとも一方を循環させるリターン管を備えた、ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の超伝導送電システム。
【請求項8】
前記第1の冷媒を冷却するための冷凍機の高温側熱交換器を液化天然ガス(LNG)又は低温の天然ガスで冷却する、ことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の超伝導送電システム。
【請求項9】
超伝導ケーブルを内側に収容する第1の管と、
前記第1の管の少なくとも一部を外側から覆う輻射シールドと、
前記第1の管及び前記輻射シールドを内側に収容する第2の管と、
を備え、
前記第2の管の内側から前記輻射シールドを挟んで前記第1の管の外側を真空とする構成の超伝導送電パイプラインを有する超伝導送電システムの冷却方法であって、
前記第1の管の内側の前記超伝導ケーブルとの間の空間に第1の冷媒を流し、
前記第2の管内において、前記第1の管の径方向外側の、前記第1の管から離間した位置に、前記輻射シールドに熱的に結合された、少なくとも1つの輻射シールド管を設け、
前記輻射シールド管に、前記輻射シールド用の第2の冷媒として、液化天然ガス(LNG)を流し、前記超伝導送電パイプラインはLNG配管でもある、ことを特徴とする超伝導送電システムの冷却方法。
【請求項10】
超伝導ケーブルを内側に収容する第1の管と、
前記第1の管の少なくとも一部を外側から覆う輻射シールドと、
前記第1の管及び前記輻射シールドを内側に収容する第2の管と、
を備え、
前記第2の管の内側から前記輻射シールドを挟んで前記第1の管の外側を真空とする超伝導送電システムの冷却方法であって、
前記第1の管の内側の前記超伝導ケーブルとの間の空間に第1の冷媒を流し、
前記第2の管内において、前記第1の管の径方向外側の、前記第1の管から離間した位置に、前記輻射シールドに熱的に結合された、少なくとも1つの輻射シールド管を設け、
前記輻射シールド管に、前記輻射シールド用の第2の冷媒として、液化天然ガス(LNG)と熱交換を行った冷媒を流す、ことを特徴とする超伝導送電システムの冷却方法。
【請求項11】
前記LNGが、第1の熱交換器で海水と熱交換してガス化するまえに、前記輻射シールド用の前記第2の冷媒を第2の熱交換器で、LNGとの熱交換を行って冷却し、前記第2の熱交換器の出力は、後段の前記第1の熱交換器で海水で熱交換され天然ガスとして供給される、ことを特徴とする請求項10記載の超伝導送電システムの冷却方法。
【請求項12】
支持部材で、前記第1の管を前記輻射シールドから機械的に支持するとともに、前記輻射シールドを前記第2の管に対して機械的に支持する、ことを特徴とする請求項9又は10に記載の超伝導送電システムの冷却方法。
【請求項13】
前記第2の冷媒として、
少なくともアルゴン、ヘリウム、ネオンを含む元素の中から選ばれた少なくとも1種を含む希ガス、
フロン系材料、
液体、気体を問わない、窒素、空気、及び、
水素ガス、
の少なくとも1つを流す、ことを特徴とする請求項10又は11記載の超伝導送電システムの冷却方法。
【請求項14】
管接続部により、前記輻射シールド管を、管外側の少なくとも一部で、前記輻射シールドと熱的及び機械的に結合する、ことを特徴とする請求項9乃至13のいずれか1項に記載の超伝導送電システムの冷却方法。
【請求項15】
前記第1の冷媒及び前記第2の冷媒の少なくとも一方をリターン管で循環させる、ことを特徴とする請求項9乃至14のいずれか1項に記載の超伝導送電システムの冷却方法。
【請求項16】
前記第1の冷媒を冷却するための冷凍機の高温側熱交換器液化天然ガス(LNG)又は低温の天然ガスで冷却する、ことを特徴とする請求項9乃至15のいずれか1項に記載の超伝導送電システムの冷却方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願についての記載]
本発明は、日本国特許出願:特願2013−138449号(2013年7月1日出願)に基づくものであり、同出願の全記載内容は引用をもって本書に組み込み記載されているものとする。本発明は、超伝導送電システムと冷却方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超伝導送電に用いられる断熱2重管の一例を図1に示す。図1は、本願出願人の実験施設の断熱2重管の写真である。なお、断熱2重管については特許文献1等の記載も参照される。
【0003】
図1を参照すると、外管4は、亜鉛メッキ鋼管で作られている。これが真空を保持する。径は200A(204.7mm)である。内管2が支持構造物(不図示)を伴って設置されている。内管2はステンレス管である。径は50A(60.5mm)である。内管2の内部に超伝導ケーブル1を備え、その間に液体窒素が流れる。外管4と内管2の間は真空に機密され、真空断熱が行われるが、輻射による熱侵入があるため、内管2の外側に多層断熱膜(MLI)3を備える。多層断熱膜(MLI)3は、例えばプラスチック・フィルムにアルミが蒸着された膜を多層としたものである。構成においても、単位長さ(1m)当り1W〜2W程度の熱侵入量がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−32186号公報(特許第4689984号公報)
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】相山義道章主査,超伝導・低温工学ハンドブック, 低温工学協会編, オーム社, (1993年),第7章, p.944
【非特許文献2】P. Kittel, Cryocooler 14, p. 563(2007)
【非特許文献3】経済産業省資源エネルギー庁, 「2005年度以降に適用する標準発熱量の検討結果と改定値について」, 平成19年5月, 平成25年6月7日検索、インターネット<URL:http://www.enecho.meti.go.jp/info/statistics/jukyu/resource/pdf/070601.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以下に図1の関連技術の分析を与える。
【0007】
液体窒素温度での冷凍機のCOP(Coefficient of Performance:成績係数)は0.1程度である。なお、冷凍機のCOPは、消費電力1kWあたりの冷房能力である(COP=冷房能力/冷房消費電力)。
【0008】
COP=0.1の冷凍機で、単位長さ(1m)当り1W〜2W(配管の長さ1m当たりの熱侵入量の単位)の熱を除去するには、COPが0.1のため、10倍され、単位長さ(1m)当り10W〜20Wの電力を冷凍機が消費する。この値は、銅ケーブルに比べて損失は低いが、経済性を上げるためにより低くしたい。
【0009】
熱侵入量が多いと、液体窒素などの冷媒循環量を多くする必要がある。ポンプ動力は、流量の二乗に比例するので、できるだけ下げることが工学的な目標になる。このような熱侵入の問題は、超伝導機器などの低温に保持することが必要な機器一般の課題である。なお、超伝導は超電導とは同義である。
【0010】
特に、77K(Kelvin;絶対温度を表す単位)あたりの窒素温度ではなく、液体ヘリウムを使う4K程度の温度の機器では、冷凍機のCOPが急速に低下する。加速器などの長いビーム・ラインを持つ実験装置では熱侵入低減は極めて重要な問題である。このため、ヨーロッパの素粒子・加速器の研究を行っているCERNのLHC(Larg Hadron Collider)と呼ばれる実験装置(図2参照)では、輻射シールドを利用している。真空を保つ外管の直ぐ内側にキャップ(図2の矢線参照)を備えた配管(「配管1」とする)があり、それに内部の配管全体を覆うような構造物を(「輻射シールド」と呼ぶ)が熱的に強く接続してある。配管1に55Kのヘリウムガスを流すことによって、内部のより低温(4K程度)になる機器への輻射による熱侵入を防いでいる。実際には、55Kシールドには、単位長さ(1m)当り1.8Wの熱侵入量があり、4K系への熱侵入量は、図2の「配管1」に55Kのヘリウムガスを流すことによって、内部のより低温(4K程度)になる機器への輻射による熱侵入を防いでいる。実際には、55Kのシールド(輻射シールド)には、単位長さ(1m)当り1.8Wの熱侵入量があり、4K系への熱侵入量は単位長さ(1m)当り0.05Wとなっている。このように、内管2への熱侵入量が減少するのは、輻射パワーは、絶対温度の4乗に比例する(「ステファン・ボルツマンの法則」という)ためである。
【0011】
LHCでは、冷凍機は複数用意されていて、55Kの冷凍機COPは4K冷凍機のCOPに比べて16倍大きい(ほぼカルノー効率比になる)(非特許文献2参照)。
【0012】
このような輻射シールドを用いることにより、消費電力を16分の1に小さくすることができる。これは、LHCのような大きな加速器では重要である。液体ヘリウム温度で稼働する機器への熱侵入量低減の方式として、輻射シールドは、加速器等では一般的に利用している。
【0013】
輻射シールドを利用することは、高温超伝導体を用いた送電システムでも検討すべき課題であり、図3に示す断熱2重管について数値検討を行った。図3において、外管14の径は250A(Aは配管の外形サイズを表す)とし温度は300Kとし、輻射シールド13の径は150Aであり、内管12の径は100Aとした。なお、図3において、内管12外側の輻射シールド13は、配管ではなく、例えば複数の環状の部材(アルミ押出材)を組み合せて構成される。その上に多層断熱膜(MLI)が巻かれる。図3では、内管12及び輻射シールド13等に接続される支持構造物は、簡単のため図示されていない。
【0014】
内管12の温度は77Kで固定した。内管12の内側には高温超伝導体が用いられた超伝導ケーブル(超電導ケーブル)11が納められている。そして、外管14の内側から内管12の外側までは輻射シールド13を挟んで全体が真空とされる。したがって、これらの間での熱輸送は輻射のみを考えている。なお、輻射シールド13及び内管12には多層断熱膜(MLI)が巻かれてあり、輻射による熱侵入を小さくしている。この時に計算に必要になる輻射率はMLIのカタログ値を利用した。また、輻射シールド13及び内管12の構造的な支持構造物からの熱輸送(伝導熱)は無視している。
【0015】
図4は、輻射シールドの温度をパラメータにして、室温から輻射シールドへの熱侵入量と、輻射シールドから内管への熱侵入量の計算結果を示す図である。なお、内管12(Inner pipe)の温度は、77Kと20Kの両方に対して行った。図4において、横軸はシールド温度(Shield Temperature)、縦軸は熱侵入量(Heat leak)である。輻射シールド13(Shield pipe)の温度が77K(Shield Inner(77K))であれば、77Kの内管12(Inner pipe)と同じ温度のため、内管12(Inner pipe)への熱侵入量はゼロであり、輻射シールド13(Shield pipe)への単位長さ(1m)当りの熱侵入量(Heat leak)が0.5W程度となっている。また、77Kの内管12と20Kの内管12の違いは大きくない。これは、輻射が絶対温度の四乗に比例するからである。
【0016】
輻射シールド温度をあげると、徐々に、図1の内管2への熱侵入量が増えるが、温度が180K程度になっても、単位長さ(1m)当り0.05W程度であり、輻射シールドへの熱侵入量は、この値に比べて特段に大きい。
【0017】
この計算値はLHC@CERNの実験値と良い一致を示す。つまり、良く設計された断熱2重管では、輻射による熱輸送が大部分であり、支持構造物からの熱伝導による熱輸送は、それほど大きくない。
【0018】
その理由は、上述したように、輻射が対温度の四乗に比例することと、材料の熱伝導率の温度依存性がある。一般に、支持構造物を作る材料として、エポキシ樹脂等の絶縁物を用いるが、このような材料の熱伝導率は、絶対温度のマイナス2.5乗からマイナス3乗に比例する。このため、輻射シールド温度である低温では、常温の熱伝導率に比べてきわめて熱伝導率が低いからである。
【0019】
また図4で、図3の内管12の温度:20Kでの計算結果も同時に示している。計算結果は77Kの場合とほとんど同じである。理由は上で述べてきたようである。また、この様な評価を行ったのは、MgB2(二ボロン化マグネシウム)を超伝導材料として使った場合を検討するためである。これについては後述する。
【0020】
以上の検討から、超伝導ケーブルを納める断熱2重管であっても、加速器で用いられているような輻射シールドを持った断熱2重管を用いると、断熱性能が格段に向上することが分かる。
【0021】
図5は、後述される本発明が適用される断熱2重管の構成を示す図である。
【0022】
図5を参照すると、輻射シールド13を一定温度に保持するために輻射シールド管15を輻射シールド13に接続し(熱的に接続)、輻射シールド管15に冷媒2(cryogen 2)を流すことができるようになっている。そして、内管12も含めて、真空中に保持される。
【0023】
冷媒2に関連する検討事項は、当該冷媒2用の冷凍機、及びその温度と、冷媒2に具体的にどの様な材料を利用するかである。
【0024】
77K冷凍機と123K冷凍機とのCOPの違いは、高々2倍程度である。したがって、熱侵入を除去するための冷凍機の消費電力は減少するが、半分程度となる。一方、冷媒2の温度が180Kになると、COPの違いは4.3倍を超す。
【0025】
一方、図3図5に示すように、輻射シールド13を備えた断熱2重管を作ると、輻射シールド13がない場合と比べて、高価になる。
【0026】
冷凍機の消費電力が半分になることによって、十分にコスト的に見合うものとなるかという問題がある。
【0027】
2種類の別々の冷凍機を準備することも、システム全体を考えると、維持費用などが増大する可能性がある。
【0028】
2011年3月11日の東日本大震災とそれに伴う福島第一原子力発電所での事故によって、電力供給のために液化天然ガス(LNG)輸入が大きく増えている。LNG主成分はメタンであり、産地によって成分は少し違うが、LNG温度はメタンの1気圧での沸点温度程度であり、−160℃(=113K)程度とされる。これは、ガスタービンと蒸気タービンを利用した高効率の複合火力発電所(効率は55%を超したときとされ従来からの汽水火力発電所の40%程度に比べて著しく高い)の燃料に利用されるため、米国でのシェールガス革命と相まって益々LNG輸入は増えるであろう。しかしながら、LNG生産には莫大な電力を必要とする。
【0029】
つまり、地中からの常温より温度の高い天然ガスを得た後、それを液化するために冷凍機を使うからである。この時、冷凍機は、890kJ/kgの熱量(非特許文献1)を吸収する必要がある。
【0030】
冷凍機は、電力で運転されるため、生産地では、発電所が必要になる。ここで、発電機効率及び冷凍機で利用するモーター及び圧縮機、熱交換器などの総合効率を40%とし、冷凍機の%カルノー効率を30%(非特許文献2)とした。なお、カルノー効率εは、低温Tと常温Tに対して、次式(1)で表される。
【0031】
【0032】
この場合、カルノー効率εは、19%程度となる。このため、LNG生産地では、天然ガス液化のために、11.7MJ/kgのエネルギーを消費することになる。日本に輸入される天然ガスの総発熱量は、例えば54.6MJ/kg程度とされる(非特許文献3)。
【0033】
このため、発熱量の21.4%が、LNG生産時に消費されることになる。これでは折角ガスタービンと蒸気タービンを利用する複合発電所の効率が上がっても、LNGを利用すると全体では却って損失は増えることになる。
【0034】
低温のLNG冷熱利用は、地球全体を考えると、極めて重要であり、これまでも様々な検討がなされている。しかしながら、輸入されるLNG冷熱の90%以上が利用されていないとも言われている。
【0035】
図8に、関連技術の気化器(熱交換器)を示す。LNG20を貯留するタンク21は、通常、ほぼ1気圧で管理されている。LNG20の温度は113K(−160℃)程度である。LNG20をポンプ22でくみ出し熱交換器23に導く。熱交換器23には海からの海水がポンプ24で導かれ、LNGは熱を得てガス化する。このガス(天然ガス)を配管で、需要家に送る。このようなシステムがLNG基地である。
【0036】
図8に示すように、LNGが持っている冷熱が環境に捨てられることになる。なお、冷熱のかわりに、熱量にカルノー効率を乗じた「エクセルギー」と言う概念が世界的には用いられることが多い。
【0037】
海水温が低い場合には、海水をボイラで加熱してから熱交換器に導くようなプロセスが取られることもある。これは、エネルギー的には、かなりもったいない。したがって、新しい利用方法の開発が望まれている。
【0038】
本発明は、上記課題に鑑みて創案されたものであって、その目的は、断熱性能を向上する超伝導送電システムと冷却方法を提供することにある。本発明の他の目的は、LNGが持っている冷熱を有効活用可能とする超伝導送電システムと冷却方法を提供することにある。本発明の他の目的は、LNGが持っている冷熱を有効活用可能とする超伝導送電システムと冷却方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0039】
本発明によれば、超伝導ケーブルを内側に収容する第1の管と、
前記第1の管の少なくとも一部を外側から覆う輻射シールドと、
前記第1の管及び前記輻射シールドを内側に収容する第2の管と、
を備え、
前記第2の管の内側から前記輻射シールドを挟んで前記第1の管の外側を真空とする構成の超伝導送電システムであって、
前記第2の管内に収容され、前記輻射シールドに関連付けて設けられた少なくとも1つの輻射シールド管を備え、
前記輻射シールド管に、前記輻射シールド用の第2の冷媒として、液化天然ガス(LNG)を流す超伝導送電システムが提供される。
【0040】
本発明によれば、前記輻射シールド管に、前記第2の冷媒として、液化天然ガス(LNG)と熱交換を行った冷媒を流す構成としてもよい。
【0041】
本発明によれば、超伝導ケーブルを内側に収容する第1の管と、前記第1の管の少なくとも一部を外側から覆う輻射シールドと、前記第1の管及び前記輻射シールドを内側に収容する第2の管と、を備え、前記第2の管の内側から前記輻射シールドを挟んで前記第1の管の外側を真空とする超伝導送電システムの冷却方法であって、
前記第2の管内に、前記輻射シールドに関連付けて少なくとも1つの輻射シールド管を設け、前記輻射シールド管に、前記輻射シールド用の前記第2の冷媒として、液化天然ガスと熱交換を行った冷媒を流す冷却方法が提供される。
【0042】
本発明によれば、前記輻射シールド管に、前記第2の冷媒として、液化天然ガス(LNG)と熱交換を行った冷媒を流すようにしてもよい。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、断熱性能を向上し、例えばLNGが持っている冷熱を有効活用可能としている。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】超伝導ケーブルと断熱2重管を説明する図である。
図2】CERNのLHCの断熱管を説明する図である。
図3】断熱2重管を説明する図である。
図4】輻射シールドと内管への熱侵入と輻射シールド温度の関係を示す図である。
図5】本発明が適用される超伝導送電用断熱2重管を説明する図である。
図6】本発明が適用される超伝導送電用断熱2重管を模式的に示す図である。
図7】本発明が適用される超伝導送電用断熱2重管を模式的に示す図である。
図8】LNGから天然ガスをつくるプロセスを説明する図である。
図9】実施形態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明によれば、図5を参照すると、断熱2重管は、超伝導ケーブル11を内側に収容する第1の管12(内管)と、前記第1の管12の少なくとも一部(例えば長手方向の一部又は全部)を外側から覆う輻射シールド13(輻射シールド13は例えば、複数の板の組み合せから成る)と、前記第1の管12及び前記輻射シールド13を内側に収容する第2の管14(外管)を備えている。使用時、前記第2の管(14)の内側から前記輻射シールド(13)を挟んで前記第1の管(12)の外側を真空に保持される。本発明によれば、前記第2の管(14)内に収容され、前記輻射シールド(13)に関連付けて設けられた、少なくとも1つの輻射シールド管(15)を備えている。輻射シールド管15の管内に、輻射シールド(13)の第2の冷媒(冷媒2)として、例えば、液化天然ガス(LNG)を流す。あるいは、輻射シールド管15の管内に、輻射シールド(13)の前記第2の冷媒として、液化天然ガス(LNG)と熱交換を行った冷媒を流す構成としてもよい。なお、内管12の管内には、超伝導ケーブル11用の冷媒(第1の冷媒)を流す
【0046】
特に制限されないが、輻射シールド管15と輻射シールド13とを熱的に接続する形態の例としては、図6に模式的に示すように、輻射シールド13の内側に、輻射シールド管15の外周の一部が接続する(嵌合する)管接続部17(支持部)を備えた構成としてもよい。輻射シールド管15に流す冷媒温度と輻射シールド13が同じ温度になることが期待される。輻射シールド13と輻射シールド管15は、熱的に良く接続される。輻射シールド13には、輻射シールド13の部材として、熱伝導率の良い材料が用いられる。例えば、アルミ材が用いられる。輻射シールド13の熱抵抗を下げるために、輻射シールド13の厚さ(紙面垂直方向の厚さ)も所定値に設定される。輻射シールド13の機械的強度の増加が図られる。輻射シールド13内で内管12等を支持する構造物(支持構造部材)を組み込むことができる。更に、管接続部17において、輻射シールド管15は、不図示の固定部材で輻射シールド13に固定する構成としてもよい。あるいは、図7に模式的に示すように、前記輻射シールド13の外周側に、輻射シールド管15の一部と接続する(嵌合する)管接続部17(支持部)を備えた構成としてもよい。管接続部17において、輻射シールド管15は不図示の固定部材で輻射シールド13に固定する構成としてもよい。図6図7では、内管12及び輻射シールド13を支持する支持構造部材16が模式的に示されている。支持構造部材16は、機械的に、温度の異なった部分と接触する。このため、接触による熱伝導によって熱侵入が発生することを考慮して、支持構造部材16は、熱伝導率の低い材料が用いられる。同様に、内管12を、輻射シールド13から機械的に支持するために支持構造部材が必要になる。なお、図6図7では、超伝導ケーブル11、冷媒1(第1の冷媒)、冷媒2(第2の冷媒)は図示されていない。図6図7では、2本の輻射シールド管15を輻射シールド管15の両側に対向配置しているが、かかる構成に限定されるものでなく、輻射シールド管15は図5のように、1本であってもよいことは勿論である。これは、冷媒2のリターン管として利用できるからである。更に、超伝導ケーブル11を納めた内管12中を流れる冷媒のためのリターン管が必要である場合、輻射シールド13の内側に、輻射シールド管15を設置することになる。特に制限されないが、外管14の内側に、合計4本の輻射シールド管15が配設される場合もある。このように、輻射シールド管15と輻射シールド13の接続形態は、図5乃至図7に示した例に制限されるものでなく、輻射シールド管15と輻射シールド13とを効率よく熱的に接続する任意の形態が適用可能(図6では、輻射シールド13の内側)において、輻射シールド管15は、不図示の固定部材で、輻射シールド13に固定する構成としてもよい。なお、輻射シールド13は、例えばアルミ押出部材からなり、図6では、その断面が線で模式的に示されているが、実際の部材は外周と内周との間に所定幅を有している。管接続部17は、輻射シールド13の部材の内周側から収容され、輻射シールド13の外周側には突出しない構成としてもよいことは勿論である。同様に、輻射シールド13は、図7では、その断面が線で模式的に示されているが、実際は幅を有しており、管接続部17は、輻射シールド13の部材の外周側に収容され、輻射シールド13の内周側に突出しない構成としてもよいことは勿論である。
【0047】
上記した実施形態のとおり、本発明によれば、LNG冷熱を超伝導送電システムの輻射シールドの冷却に利用する。
【0048】
超伝導ケーブルの課題およびLNG冷熱利用の観点から、輻射シールドの温度を一定に保つための冷媒(冷媒2)用に図9に示すようなシステムが提案される。
【0049】
LNGが、海水と熱交換して、ガス化するまえに、輻射シールド(図5図6図7の輻射シールド13)を一定の温度に保つための冷媒2を熱交換器25で、LNGとの熱交換を行って、冷却される。熱交換器25に入る前の冷媒2(図5の冷媒2:輻射シールド(RS)からの冷媒2)の温度が130Kであり、熱交換器25で冷却後の温度が120Kとして図示されている。冷却後の冷媒2は、図5の輻射シールド13に熱的に接続された輻射シールド管15の管内に流される。このため、輻射シールド13を一定温度に保持するための冷凍機は、不要となる。冷媒2のための熱交換器と循環動力のみが必要となる。すなわち、図5の輻射シールド13を一定の温度に保持するための電力はほとんど不要になる。
【0050】
図4に示した計算例で、輻射シールド温度を120K−130Kですると、77K系への熱侵入量は、輻射シールドへの熱侵入量の5%程度であるため、超伝導ケーブルを保持するための冷凍機能力は、1/20程度になる。したがって、冷凍機COPが同じ程度であるとすれば、冷凍機消費電力は1/20となる。
【0051】
このため、ケーブルを冷却するための大型冷凍機を多数購入する必要がなくなる。また、熱交換器は一般に冷凍機に比べて安価である。なお、LNGを、図5の輻射シールド13用の冷媒2として流せば、前述したとおり、図9の熱交換器25(第2の熱交換器)も不要になる。
【0052】
このようなシステムでは、超伝導送電パイプラインは、電力だけでなくLNG配管でもあり、大きなエネルギーを輸送することができる。
【0053】
更に、冷媒2については、各種物質が候補として考えられる。例えば、上述の例では、LNGであるが、他にはアルゴン(気体、液体を問わず)、ヘリウム、ネオンなどの希ガス(長周期表の第18族元素)やフロン系材料があろう。更に、空気、窒素ガスや、水素ガスなども想定できる。一般にこの様な冷媒は、ガスよりも、液体の方が循環動力を少なくできるが、動作圧力と沸点の関係のため、何時も、液体を利用するとは限らない。一例として、気液混相流を使うことも有り得る。例えば、圧力を上げれば、窒素や空気は、LNG温度でも、液化されるので、配管の耐圧は上がるが、循環動力は下げることができる。これら材料や構造の選択は別の工学的な理由で決めることになる。
【0054】
なお、超伝導ケーブルを冷却する冷媒と輻射シールド管15に流れる冷媒が異なる場合で、電力を受電する場所でこれらの冷媒を利用しない場合には冷媒を循環する必要がある。その場合には、外管内にそれぞれの冷媒を循環のためのリターン管を導入する。同様なシステムを2つ作るなどの方策がある。これらは、需要家の状況に応じて決めることになる。
【0055】
更に、冷凍機は電力を用いて低温側から高温側に熱流束を輸送する装置(ヒート・ポンプ)であるため、高温側と低温側にそれぞれ熱交換器を持っている。77Kの冷媒を作る冷凍機の熱交換器の一つは77K系にあり、もう一つは300K系(常温側)にある。この常温側の熱交換器をLNGもしくは低温の天然ガスで冷却すれば、冷凍機の高温側と低温側との温度差は小さくなり、冷凍システムのカルノー効率は向上する。更に、圧縮機の数や圧縮比を小さくすることも設計によっては可能である。したがって、LNG冷熱は冷凍機でも利用すると経済性を大きく向上できる。高温超伝導ケーブルを冷却するための77K系冷凍機にLNG冷熱を利用すると、簡単な見積もりでCOPが2倍から3倍程度改善すると思われる。
【0056】
更に、液体窒素は1気圧での沸点が77Kである。一方、メタンの1気圧での沸点は113Kである。
【0057】
この温度差はそれほど大きくないが、この温度差によって使う冷凍機は現状の技術では大きく異なり、LNG用の冷凍機はCOPが大きく、超大型の冷凍機を作ることができる。また、超伝導送配電利用するケーブルの遮蔽に利用する冷熱はLNG生産のための超大型冷凍機の能力に比べると、極めて少ない。したがって、LNG輸入国だけでなく、LNG生産国でもLNG程度の冷媒は超伝導送配電用に利用することは容易である。これは、超伝導を保持するための低温の高価な冷凍機を、例えば最小とし得るシステムでもある。
【0058】
以上2つのLNG冷熱利用概念を述べてきた。一つは輻射シールドに利用すること。もう一つは冷凍機に利用することである。これらの経済的メリットは、上述のように極めて大であると期待される。
【0059】
したがって、断熱2重管に輻射シールドを新たに増設しても、経済的に引き合うと思われる。つまり、日本はLNG輸入大国で有り、此を利用すれば高温超伝導応用は、極めて早く実現できるものと思料される。
【0060】
なお、上記実施形態では、高温超伝導体を利用した液体窒素温度で利用するシステムについて説明したが、例えばw二ボロン化マグネシウム(MgB2)のように温度が20Kから30Kで利用するシステムでは、冷媒(例えば第1の冷媒)には、ヘリウムガスか液体水素を利用することになる。すると、輻射シールド13は、LNG温度であり、超伝導ケーブル11を収容する内管12の温度は30K以下となる。しかしながら、図4に示したように、内管への熱侵入量はほとんど同じであり、MgB2を利用するようなシステムであっても、LNG冷熱利用は、特段に顕著な作用効果を発揮する。
【0061】
なお、上記の特許文献、非特許文献の各開示を、本書に引用をもって繰り込むものとする。本発明の全開示(請求の範囲を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施形態ないし実施例の変更・調整が可能である。また、本発明の請求の範囲の枠内において種々の開示要素(各請求項の各要素、各実施例の各要素、各図面の各要素等を含む)の多様な組み合わせ乃至選択が可能である。すなわち、本発明は、請求の範囲を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。特に、本書に記載した数値範囲については、当該範囲内に含まれる任意の数値ないし小範囲が、別段の記載のない場合でも具体的に記載されているものと解釈されるべきである。
【符号の説明】
【0062】
1、11 超伝導ケーブル(超電導ケーブル)
2、12 内管
3 多層断熱膜
4、14 外管
13 輻射シールド
15 輻射シールド管
16 支持構造部材
17 管接続部
20 LNG
21 タンク
22、24 ポンプ
23 熱交換器
25 熱交換器(第2の熱交換器)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9