【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以下に
図1の関連技術の分析を与える。
【0007】
液体窒素温度での冷凍機のCOP(Coefficient of Performance:成績係数)は0.1程度である。なお、冷凍機のCOPは、消費電力1kWあたりの冷房能力である(COP=冷房能力/冷房消費電力)。
【0008】
COP=0.1の冷凍機で、単位長さ(1m)当り1W〜2W(配管の長さ1m当たりの熱侵入量の単位)の熱を除去するには、COPが0.1のため、10倍され、単位長さ(1m)当り10W〜20Wの電力を冷凍機が消費する。この値は、銅ケーブルに比べて損失は低いが、経済性を上げるためにより低くしたい。
【0009】
熱侵入量が多いと、液体窒素などの冷媒循環量を多くする必要がある。ポンプ動力は、流量の二乗に比例するので、できるだけ下げることが工学的な目標になる。このような熱侵入の問題は、超伝導機器などの低温に保持することが必要な機器一般の課題である。なお、超伝導は超電導とは同義である。
【0010】
特に、77K(Kelvin;絶対温度を表す単位)あたりの窒素温度ではなく、液体ヘリウムを使う4K程度の温度の機器では、冷凍機のCOPが急速に低下する。加速器などの長いビーム・ラインを持つ実験装置では熱侵入低減は極めて重要な問題である。このため、ヨーロッパの素粒子・加速器の研究を行っているCERNのLHC(Larg Hadron Collider)と呼ばれる実験装置(
図2参照)では、輻射シールドを利用している。真空を保つ外管の直ぐ内側にキャップ(
図2の矢線参照)を備えた配管(「配管1」とする)があり、それに内部の配管全体を覆うような構造物を(「輻射シールド」と呼ぶ)が熱的に強く接続してある。配管1に55Kのヘリウムガスを流すことによって、内部のより低温(4K程度)になる機器への輻射による熱侵入を防いでいる。実際には、55Kシールドには、単位長さ(1m)当り1.8Wの熱侵入量があり、4K系への熱侵入量は、
図2の「配管1」に55Kのヘリウムガスを流すことによって、内部のより低温(4K程度)になる機器への輻射による熱侵入を防いでいる。実際には、55Kのシールド(輻射シールド)には、単位長さ(1m)当り1.8Wの熱侵入量があり、4K系への熱侵入量は単位長さ(1m)当り0.05Wとなっている。このように、内管2への熱侵入量が減少するのは、輻射パワーは、絶対温度の4乗に比例する(「ステファン・ボルツマンの法則」という)ためである。
【0011】
LHCでは、冷凍機は複数用意されていて、55Kの冷凍機COPは4K冷凍機のCOPに比べて16倍大きい(ほぼカルノー効率比になる)(非特許文献2参照)。
【0012】
このような輻射シールドを用いることにより、消費電力を16分の1に小さくすることができる。これは、LHCのような大きな加速器では重要である。液体ヘリウム温度で稼働する機器への熱侵入量低減の方式として、輻射シールドは、加速器等では一般的に利用している。
【0013】
輻射シールドを利用することは、高温超伝導体を用いた送電システムでも検討すべき課題であり、
図3に示す断熱2重管について数値検討を行った。
図3において、外管14の径は250A(Aは配管の外形サイズを表す)とし温度は300Kとし、輻射シールド13の径は150Aであり、内管12の径は100Aとした。なお、
図3において、内管12外側の輻射シールド13は、配管ではなく、例えば複数の環状の部材(アルミ押出材)を組み合せて構成される。その上に多層断熱膜(MLI)が巻かれる。
図3では、内管12及び輻射シールド13等に接続される支持構造物は、簡単のため図示されていない。
【0014】
内管12の温度は77Kで固定した。内管12の内側には高温超伝導体が用いられた超伝導ケーブル(超電導ケーブル)11が納められている。そして、外管14の内側から内管12の外側までは輻射シールド13を挟んで全体が真空とされる。したがって、これらの間での熱輸送は輻射のみを考えている。なお、輻射シールド13及び内管12には多層断熱膜(MLI)が巻かれてあり、輻射による熱侵入を小さくしている。この時に計算に必要になる輻射率はMLIのカタログ値を利用した。また、輻射シールド13及び内管12の構造的な支持構造物からの熱輸送(伝導熱)は無視している。
【0015】
図4は、輻射シールドの温度をパラメータにして、室温から輻射シールドへの熱侵入量と、輻射シールドから内管への熱侵入量の計算結果を示す図である。なお、内管12(Inner pipe)の温度は、77Kと20Kの両方に対して行った。
図4において、横軸はシールド温度(Shield Temperature)、縦軸は熱侵入量(Heat leak)である。輻射シールド13(Shield pipe)の温度が77K(Shield Inner(77K))であれば、77Kの内管12(Inner pipe)と同じ温度のため、内管12(Inner pipe)への熱侵入量はゼロであり、輻射シールド13(Shield pipe)への単位長さ(1m)当りの熱侵入量(Heat leak)が0.5W程度となっている。また、77Kの内管12と20Kの内管12の違いは大きくない。これは、輻射が絶対温度の四乗に比例するからである。
【0016】
輻射シールド温度をあげると、徐々に、
図1の内管2への熱侵入量が増えるが、温度が180K程度になっても、単位長さ(1m)当り0.05W程度であり、輻射シールドへの熱侵入量は、この値に比べて特段に大きい。
【0017】
この計算値はLHC@CERNの実験値と良い一致を示す。つまり、良く設計された断熱2重管では、輻射による熱輸送が大部分であり、支持構造物からの熱伝導による熱輸送は、それほど大きくない。
【0018】
その理由は、上述したように、輻射が対温度の四乗に比例することと、材料の熱伝導率の温度依存性がある。一般に、支持構造物を作る材料として、エポキシ樹脂等の絶縁物を用いるが、このような材料の熱伝導率は、絶対温度のマイナス2.5乗からマイナス3乗に比例する。このため、輻射シールド温度である低温では、常温の熱伝導率に比べてきわめて熱伝導率が低いからである。
【0019】
また
図4で、
図3の内管12の温度:20Kでの計算結果も同時に示している。計算結果は77Kの場合とほとんど同じである。理由は上で述べてきたようである。また、この様な評価を行ったのは、MgB2(二ボロン化マグネシウム)を超伝導材料として使った場合を検討するためである。これについては後述する。
【0020】
以上の検討から、超伝導ケーブルを納める断熱2重管であっても、加速器で用いられているような輻射シールドを持った断熱2重管を用いると、断熱性能が格段に向上することが分かる。
【0021】
図5は、後述される本発明が適用される断熱2重管の構成を示す図である。
【0022】
図5を参照すると、輻射シールド13を一定温度に保持するために輻射シールド管15を輻射シールド13に接続し(熱的に接続)、輻射シールド管15に冷媒2(cryogen 2)を流すことができるようになっている。そして、内管12も含めて、真空中に保持される。
【0023】
冷媒2に関連する検討事項は、当該冷媒2用の冷凍機、及びその温度と、冷媒2に具体的にどの様な材料を利用するかである。
【0024】
77K冷凍機と123K冷凍機とのCOPの違いは、高々2倍程度である。したがって、熱侵入を除去するための冷凍機の消費電力は減少するが、半分程度となる。一方、冷媒2の温度が180Kになると、COPの違いは4.3倍を超す。
【0025】
一方、
図3、
図5に示すように、輻射シールド13を備えた断熱2重管を作ると、輻射シールド13がない場合と比べて、高価になる。
【0026】
冷凍機の消費電力が半分になることによって、十分にコスト的に見合うものとなるかという問題がある。
【0027】
2種類の別々の冷凍機を準備することも、システム全体を考えると、維持費用などが増大する可能性がある。
【0028】
2011年3月11日の東日本大震災とそれに伴う福島第一原子力発電所での事故によって、電力供給のために液化天然ガス(LNG)輸入が大きく増えている。LNG主成分はメタンであり、産地によって成分は少し違うが、LNG温度はメタンの1気圧での沸点温度程度であり、−160℃(=113K)程度とされる。これは、ガスタービンと蒸気タービンを利用した高効率の複合火力発電所(効率は55%を超したときとされ従来からの汽水火力発電所の40%程度に比べて著しく高い)の燃料に利用されるため、米国でのシェールガス革命と相まって益々LNG輸入は増えるであろう。しかしながら、LNG生産には莫大な電力を必要とする。
【0029】
つまり、地中からの常温より温度の高い天然ガスを得た後、それを液化するために冷凍機を使うからである。この時、冷凍機は、890kJ/kgの熱量(非特許文献1)を吸収する必要がある。
【0030】
冷凍機は、電力で運転されるため、生産地では、発電所が必要になる。ここで、発電機効率及び冷凍機で利用するモーター及び圧縮機、熱交換器などの総合効率を40%とし、冷凍機の%カルノー効率を30%(非特許文献2)とした。なお、カルノー効率ε
cは、低温T
cと常温T
hに対して、次式(1)で表される。
【0031】
【0032】
この場合、カルノー効率ε
cは、19%程度となる。このため、LNG生産地では、天然ガス液化のために、11.7MJ/kgのエネルギーを消費することになる。日本に輸入される天然ガスの総発熱量は、例えば54.6MJ/kg程度とされる(非特許文献3)。
【0033】
このため、発熱量の21.4%が、LNG生産時に消費されることになる。これでは折角ガスタービンと蒸気タービンを利用する複合発電所の効率が上がっても、LNGを利用すると全体では却って損失は増えることになる。
【0034】
低温のLNG冷熱利用は、地球全体を考えると、極めて重要であり、これまでも様々な検討がなされている。しかしながら、輸入されるLNG冷熱の90%以上が利用されていないとも言われている。
【0035】
図8に、関連技術の気化器(熱交換器)を示す。LNG20を貯留するタンク21は、通常、ほぼ1気圧で管理されている。LNG20の温度は113K(−160℃)程度である。LNG20をポンプ22でくみ出し熱交換器23に導く。熱交換器23には海からの海水がポンプ24で導かれ、LNGは熱を得てガス化する。このガス(天然ガス)を配管で、需要家に送る。このようなシステムがLNG基地である。
【0036】
図8に示すように、LNGが持っている冷熱が環境に捨てられることになる。なお、冷熱のかわりに、熱量にカルノー効率を乗じた「エクセルギー」と言う概念が世界的には用いられることが多い。
【0037】
海水温が低い場合には、海水をボイラで加熱してから熱交換器に導くようなプロセスが取られることもある。これは、エネルギー的には、かなりもったいない。したがって、新しい利用方法の開発が望まれている。
【0038】
本発明は、上記課題に鑑みて創案されたものであって、その目的は、断熱性能を向上する超伝導送電システムと冷却方法を提供することにある。本発明の他の目的は、LNGが持っている冷熱を有効活用可能とする超伝導送電システムと冷却方法を提供することにある。本発明の他の目的は、LNGが持っている冷熱を有効活用可能とする超伝導送電システムと冷却方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0039】
本発明によれば、超伝導ケーブルを内側に収容する第1の管と、
前記第1の管の少なくとも一部を外側から覆う輻射シールドと、
前記第1の管及び前記輻射シールドを内側に収容する第2の管と、
を備え、
前記第2の管の内側から前記輻射シールドを挟んで前記第1の管の外側を真空とする構成の超伝導送電システムであって、
前記第2の管内に収容され、前記輻射シールドに関連付けて設けられた少なくとも1つの輻射シールド管を備え、
前記輻射シールド管に、前記輻射シールド用の第2の冷媒として、液化天然ガス(LNG)を流す超伝導送電システムが提供される。
【0040】
本発明によれば、前記輻射シールド管に、前記第2の冷媒として、液化天然ガス(LNG)と熱交換を行った冷媒を流す構成としてもよい。
【0041】
本発明によれば、超伝導ケーブルを内側に収容する第1の管と、前記第1の管の少なくとも一部を外側から覆う輻射シールドと、前記第1の管及び前記輻射シールドを内側に収容する第2の管と、を備え、前記第2の管の内側から前記輻射シールドを挟んで前記第1の管の外側を真空とする超伝導送電システムの冷却方法であって、
前記第2の管内に、前記輻射シールドに関連付けて少なくとも1つの輻射シールド管を設け、前記輻射シールド管に、前記輻射シールド用の前記第2の冷媒として、液化天然ガスと熱交換を行った冷媒を流す冷却方法が提供される。
【0042】
本発明によれば、前記輻射シールド管に、前記第2の冷媒として、液化天然ガス(LNG)と熱交換を行った冷媒を流すようにしてもよい。