特許第5907579号(P5907579)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5907579神経系細胞への遺伝子導入のためのアデノ随伴ウイルスビリオン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5907579
(24)【登録日】2016年4月1日
(45)【発行日】2016年4月26日
(54)【発明の名称】神経系細胞への遺伝子導入のためのアデノ随伴ウイルスビリオン
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20160412BHJP
   C07K 14/075 20060101ALI20160412BHJP
   C12N 7/00 20060101ALI20160412BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20160412BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20160412BHJP
   A61K 38/43 20060101ALI20160412BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20160412BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20160412BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20160412BHJP
   A61K 38/22 20060101ALI20160412BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20160412BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20160412BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
   C07K14/075
   C12N7/00
   A61K45/00
   A61K48/00
   A61K37/48
   A61K31/713
   A61K31/7105
   A61K39/395 N
   A61K37/24
   A61K35/76
   A61P25/28
【請求項の数】13
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2014-215618(P2014-215618)
(22)【出願日】2014年10月22日
(62)【分割の表示】特願2012-540995(P2012-540995)の分割
【原出願日】2011年10月26日
(65)【公開番号】特開2015-51009(P2015-51009A)
(43)【公開日】2015年3月19日
【審査請求日】2014年11月20日
(31)【優先権主張番号】特願2010-240581(P2010-240581)
(32)【優先日】2010年10月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505246789
【氏名又は名称】学校法人自治医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】村松 慎一
【審査官】 福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−524386(JP,A)
【文献】 特表2002−529098(JP,A)
【文献】 特表2007−507223(JP,A)
【文献】 筋萎縮性側索硬化症の病態に基づく画期的治療法の開発 平成21年度 総括研究報告書,2010年 3月,p.30-31
【文献】 GRAY, SJ., et al.,Directed Evolution of a Novel Adeno-associated Virus (AAV) Vector That Crosses the Seizure-compromis,Molecular Therapy,2010年 3月,Vol.18, No.3,p.570-578
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00−15/90
CA/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus(JDreamIII)
Genbank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)配列番号:8、10若しくは12のアミノ酸配列を含むタンパク質であって、ウイルスビリオンを形成可能であるタンパク質を含むキャプソメア、ならびに
(b)該キャプソメア内にパッケージングされるポリヌクレオチドであって、シナプシンIプロモーター配列、ミエリン塩基性タンパク質プロモーター配列、およびL7プロモーター配列(小脳プルキンエ細胞特異的プロモーター)からなる群より選択される神経系細胞特異的プロモーター配列および該プロモーター配列と作動可能に連結されるヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド
を含む、脳内の神経系細胞への遺伝子導入のための組換えアデノ随伴ウイルスビリオン。
【請求項2】
前記脳内の神経系細胞への遺伝子導入が血液脳関門を介する遺伝子導入である、請求項1に記載の組換えアデノ随伴ウイルスビリオン。
【請求項3】
前記ポリヌクレオチドの5’末端および3’末端が、それぞれ、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4またはAAV9に由来する5’末端および3’末端のインバーテッドターミナルリピート(ITR)配列を含む、請求項1または2に記載のウイルスビリオン。
【請求項4】
前記ポリヌクレオチドの5’末端および3’末端が、それぞれ配列番号:13および配列番号:14のヌクレオチド配列を含む、請求項1〜のいずれか1項に記載のウイルスビリオン。
【請求項5】
前記ポリヌクレオチドが全長2〜6kbの長さを有し、センス鎖またはアンチセンス鎖の一本鎖DNAである、請求項1〜のいずれか1項に記載のウイルスビリオン。
【請求項6】
前記プロモーター配列が配列番号:23または配列番号:24に記載のポリヌクレオチドを含む、請求項に記載のウイルスビリオン。
【請求項7】
前記プロモーター配列と作動可能に連結されるヌクレオチド配列が、抗体、神経栄養因子(NGF)、成長因子(GF)、酸性線維芽細胞増殖因子(aFGF)、塩基性維芽細胞増殖因子(bFGF)、グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)、芳香族アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)およびアミロイドβタンパク質分解酵素 (Neprilysin)からなる群より選択されるタンパク質をコードする、請求項に記載のウイルスビリオン。
【請求項8】
前記プロモーター配列と作動可能に連結されるヌクレオチド配列が、芳香族アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)又はα−シヌクレインに対するdsRNA、siRNA、shRNA、又はmiRNAを発現する、請求項に記載のウイルスビリオン。
【請求項9】
前記抗体が凝集性アミロイドβタンパク質に対する抗体である、請求項に記載のウイルスビリオン。
【請求項10】
被検体の血液脳関門を通過可能である、請求項1〜のいずれか1項に記載のウイルスビリオン。
【請求項11】
前記ウイルスビリオンがアデノ随伴ウイルスベクターである、請求項1〜10のいずれかに記載のウイルスビリオン。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載のウイルスビリオンを含む、医薬組成物。
【請求項13】
被検体に末梢投与される、請求項12に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子導入に用いられる組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ビリオンに関する。より具体的には、本発明は、神経系細胞に対して高い効率で目的の遺伝子を導入するための、血液脳関門を通過可能である組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ビリオン、それを含む組成物などに関する。
【背景技術】
【0002】
中枢神経障害は、大きな公衆衛生上の問題をもたらしている。神経細胞の変性脱落により認知機能障害をきたすAlzheimer病だけでも、日本国内で60万人以上の患者がいると推定される。現在、多くの中枢神経障害が治療薬の全身投与により治療される。しかし、全身投与の場合、薬物が血液脳関門を通過できないことが多く、しばしば非効率的であり、多くの潜在的に有用な治療用タンパク質等が全身投与され得ない。
【0003】
遺伝子治療用のウイルス由来のベクターとして、アデノ随伴ウイルス(AAV)を利用する方法が公知である(例えば、WO2003/018821、WO2003/053476、WO2007/001010など)。しかしながら、脳などの神経系細胞に遺伝子導入を図る場合、上記の血液脳関門などの防御機能、神経系細胞の導入効率、発現効率、より安全な投与手段などの問題を検討する必要がある。
【0004】
Nakai H, et al.(Unrestricted hepatocyte transduction with adeno-associated virus serotype 8 vectors in mice. J. Virol. 2005 Jan;79(1):214-24.)には、肝細胞への遺伝子導入を目的として、EF1αプロモーターによりLacZ遺伝子のマーカーを発現する8型AAVベクターAAV8-EF1α(-nlslacZ)を用いた例が記載されている。
【0005】
Foust KD, et al.(Intravascular AAV9 preferentially targets neonatal neurons and adult astrocytes. Nat. Biotechnol. 2009 Jan;27(1):59-65.)には、9型AAV (AAV9)の外被蛋白を有し、chicken β-actin hybrid promoter (CB)により蛍光蛋白GFPを発現するself-complementary(sc)型ベクターについて記載されている。また、Duque S, et al.(Intravenous Administration of Self-complementary AAV9 Enables Transgene Delivery to Adult Motor Neurons. Mol. Ther. 2009 Jul;17(7):1187-96.)(結果の要約はTable 1を参照)によると、9型AAV (AAV9)のカプシドタンパク質を有し、cytomegalovirus immediate early promoter (CMV)の制御下で蛍光蛋白GFPを発現するself-complementary型のベクター(scAAV9-GFP)が開示されている。
【0006】
これら組換えAAV9ベクターの血管内投与によって脳(新生仔のニューロン、成体のアストロサイトなど)に遺伝子導入されているが、ウイルスゲノムがsc型となるよう逆向き配列を含める必要性に起因して、このゲノム中に組込み可能な遺伝子は、非sc型の場合の半分の長さになる。具体的には、sc型ベクターに組込み可能な遺伝子は、プロモーターとpoly (A)領域を含めて2kbと短いものに制限される。この制限によって、組換えウイルスベクターの治療用途もまた制限されることになる。
【0007】
上記のように、従来までに種々の組換えアデノ随伴ウイルスベクターが作製されているが、平易な投与手段によって生体の血液脳関門を通過して特に脳の神経系細胞に効率よく遺伝子導入でき、より広範な治療用途が期待できる非sc型AAVゲノムを利用可能である組換えAAVベクターは知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Nakai H, et al.(J. Virol. 2005 Jan;79(1):214-24.)
【非特許文献2】Foust KD, et al. (Nat. Biotechnol. 2009 Jan;27(1):59-65.)
【非特許文献3】Duque S, et al. (Mol. Ther. 2009 Jul;17(7):1187-96.)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のような状況において、生体の脳、脊髄などに存在する神経細胞、特に脳の神経細胞に対して目的の治療用遺伝子を高い効率でより平易な投与手段により送達可能であり、目的遺伝子の長さをより広く選択可能にするため非sc型ウイルスゲノムをパッケージング可能なウイルスベクター(ウイルスビリオン)の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、通常の一本鎖AAVに対して野生型カプシドタンパク質の改変を行い、さらに神経系細胞に特異的であるオリゴデンドロサイト特異的プロモーターまたはシナプシンIプロモーターを含む組換えAAVゲノム組み合わせることによって、被検体への末梢投与により非常に高い効率で神経系細胞に遺伝子導入可能な組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ビリオンの作製に成功した。
【0011】
すなわち、本発明は、治療用遺伝子を生体の脳、脊髄などの神経系細胞に高い効率で遺伝子導入できる、血液脳関門を通過可能である組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ビリオン、それを含む医薬組成物などを提供する。
[1] (a)配列番号:2、4若しくは6のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、少なくとも1つの表面露出チロシン残基が他のアミノ酸残基に置換されているアミノ酸配列を含むタンパク質であって、ウイルスビリオンを形成可能であるタンパク質を含むキャプソメア、ならびに
(b)該キャプソメア内にパッケージングされるポリヌクレオチドであって、神経系細胞特異的プロモーター配列および該プロモーター配列と作動可能に連結されるヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド
を含む、組換えアデノ随伴ウイルスビリオン。
[1a] 前記神経系細胞特異的プロモーター配列が、神経細胞、神経膠細胞または乏突起膠細胞に由来する、[1]に記載のウイルスビリオン。
[2] 前記タンパク質は少なくとも、配列番号:2において445位のチロシン残基、配列番号:4において444位のチロシン残基、又は配列番号:6において446位のチロシン残基が置換されているアミノ酸配列を含む、[1]に記載のウイルスビリオン。
[3] 前記チロシン残基がフェニルアラニン残基に置換されている、請求項1又は2に記載のウイルスビリオン。
[4] 前記タンパク質が、配列番号:8、10若しくは12のアミノ酸配列、又は配列番号:8、10若しくは12のアミノ酸配列の444〜446位以外の位置に1〜数個のアミノ酸の欠失、置換、挿入及び/若しくは付加を含むアミノ酸配列を含み、ウイルスビリオンを形成可能である、[1]〜[3]のいずれか1項に記載のウイルスビリオン。
[5] 前記ポリヌクレオチドの5’末端および3’末端が、それぞれ、AAV1、AAV2、AAV3またはAAV4に由来する5’末端および3’末端のインバーテッドターミナルリピート(ITR)配列を含む、[1]〜[4]のいずれか1項に記載のウイルスビリオン。
[6] 前記ポリヌクレオチドの5’末端および3’末端が、それぞれ配列番号:13および配列番号:14のヌクレオチド配列を含む、[1]〜[5]のいずれか1項に記載のウイルスビリオン。
[7] 前記ポリヌクレオチドが全長約2〜6kbの長さを有し、センス鎖またはアンチセンス鎖の一本鎖DNAである、[1]〜[5]のいずれか1項に記載のウイルスビリオン。
[8] 前記プロモーター配列が、シナプシンIプロモーター配列、ミエリン塩基性タンパク質プロモーター配列、ニューロン特異的エノラーゼプロモーター配列、カルシウム/カルモジュリンー依存性蛋白キナーゼII(CMKII)プロモーター、チュブリンαIプロモーター、血小板由来成長因子β鎖プロモーター、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)プロモーター配列、L7プロモーター配列(小脳プルキンエ細胞特異的プロモーター)、およびグルタミン酸受容体デルタ2プロモーター(小脳プルキンエ細胞特異的プロモーター)からなる群より選択される、[1]〜[6]のいずれか1項に記載のウイルスビリオン。
[9] 前記プロモーター配列が配列番号:23または配列番号:24に記載のポリヌクレオチドを含む、[7]に記載のウイルスビリオン。
[10] 前記プロモーター配列と作動可能に連結されるヌクレオチド配列が、抗体、神経栄養因子(NGF)、成長因子(HGF)、酸性線維芽細胞増殖因子(aFGF)、塩基性維芽細胞増殖因子(bFGF)、膠細胞株由来神経栄養因子(GDNF)、芳香族アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)、アミロイドβタンパク質分解酵素 (Neprilysin)からなる群より選択されるタンパク質をコードする、[7]に記載のウイルスビリオン。
[10a] 前記プロモーター配列と作動可能に連結されるヌクレオチド配列が、芳香族アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)又はα−シヌクレインに対するdsRNA、siRNA、shRNA、又はmiRNAを発現する、[7]に記載のウイルスビリオン。
[11] 前記抗体が凝集性アミロイドβタンパク質に対する抗体である、[9]に記載のウイルスビリオン。
[11a] 前記抗体が凝集性アミロイドβタンパク質に対する単鎖抗体である、[9]に記載のウイルスビリオン。
[11b] 前記ヌクレオチド配列が、アミロイドβタンパク質分解酵素 (Neprilysin)である、請求項10に記載のウイルスビリオン。
[12] 被検体の血液脳関門を通過可能である、[1]〜[11]のいずれか1項に記載のウイルスビリオン。
[12a] 被検体への末梢投与によって神経細胞に遺伝子導入するための、[1]〜[12]のいずれか1項に記載のウイルスビリオン。
[12b] 被検体が母体中の胎児であり、母体への末梢投与によって胎児の神経細胞に遺伝子導入するための、[1]〜[12]のいずれか1項に記載のウイルスビリオン。
[13] 前記ウイルスビリオンがアデノ随伴ウイルスベクターである、[1]〜[12]のいずれかに記載のウイルスビリオン。
[14] [1]〜[13]のいずれか1項に記載のウイルスビリオンを含む、医薬組成物。
[15] 被検体の脳における凝集性アミロイドβタンパク質を低減させる、[14]に記載の医薬組成物。
[15a] 被検体の脳神経細胞内のα−シヌクレインの量を低減させる、[13]に記載の医薬組成物。
[16] アルツハイマー病の治療薬である、[14]または[15]に記載の医薬組成物。
[16a] パーキンソン病の治療に有用である、[14]または[15a]に記載の医薬組成物。
[17] [1]〜[12]のいずれか1項に記載のウイルスビリオンを被検体に末梢投与する工程を含む、方法。
[17a] 被検体が母体中の胎児であり、ウイルスビリオンが母体に末梢投与される、[17]に記載の方法。
[18] 被検体の脳における凝集性アミロイドβタンパク質を低減させる工程をさらに含む、[17]に記載の方法。
[18a] 被検体の脳神経細胞内のα−シヌクレインの量を低減させる工程をさらに含む、[17a]に記載の方法。
[19] アルツハイマー病を治療するための、[18]に記載の方法。
[19a] パーキンソン病の治療に有用である、[18a]に記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の組換えウイルスベクターは、血液脳関門を通過可能であるので、末梢投与によって脳の神経系細胞に遺伝子導入可能である。さらに、本発明のベクターは非sc型ゲノムを利用することによって、特に長さに関して目的の治療用遺伝子をより広く選択できる。したがって、例えば、抗体、神経栄養因子などの有用タンパク質(1種以上であってもよい)をコードする目的の遺伝子を含むウイルスゲノムをパッケージングした本発明のrAAVベクターを使用することにより、末梢投与などのより安全な投与方法によって、被験体の脳などの神経系細胞に遺伝子導入することが可能である。例えば、パーキンソン病の治療に有用なα−シヌクレインをコードする遺伝子、アルツハイマー病の原因となるアミロイドβタンパク質凝集体に対する抗体をコードする遺伝子などを本発明の組換ベクターに組込むことによって、各疾患のためのより安全な治療薬を提供できる。また、本発明のウイルスベクター調製方法、および/または本発明のキットを使用することによって、末梢投与により脳や中枢神経の神経系細胞に目的の遺伝子を高い効率で送達し導入するためのrAAVベクターを作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明のrAAVビリオンを用いた、1頭あたりの大脳におけるGFP陽性細胞個数をグラフにより示す。
図2A】yfAAV9-CAG-GFPを含むrAAVベクターを末梢投与した後の、マウス脳組織の冠状断写真、およびその部分拡大写真を示す。GFP陽性細胞の多くはグリア細胞 (矢頭)である(緑:GFP, 赤:NeuN)。
図2B】yfAAV9-SynI-GFPを含むrAAVベクターを末梢投与した後の、マウス脳組織の冠状断写真、およびその部分拡大写真を示す。
図2C】yfAAV9-MBP-GFPを含むrAAVベクターを末梢投与した後の、マウス脳組織の冠状断写真、およびその部分拡大写真を示す。
図3】本発明のrAAVビリオンを用いた、大脳皮質0.04 mm3あたりのGFP陽性細胞個数を示す。
図4】本発明のrAAVビリオンを用いた、脊髄におけるGFPおよびChATが陽性の神経細胞を示す写真、およびその部分拡大写真を示す。
図5】本発明のrAAVビリオンを用いた、母親マウスへの心腔内投与により胎仔脳の神経細胞に遺伝子導入した結果の画像写真(左図)、およびその部分拡大図(右図)を示す。
図6】実施例3に記載のyfAAV9-SynI-GFP-miAADCを心腔内投与したマウスの脳神経細胞の黒質緻密部における、各種抗体免疫染色の結果の画像写真を示す。使用した1次抗体は、anti-GFP(左図)、anti-AADC(中央図)、anti-TH(右図)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.本発明の組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ビリオン
本発明は、1実施形態において、以下のrAAVビリオンを提供する:
(a)配列番号:2、4若しくは6のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、少なくとも1つの表面露出チロシン残基が他のアミノ酸残基に置換されているアミノ酸配列を含むタンパク質であって、ウイルスビリオンを形成可能であるタンパク質を含むキャプソメア、ならびに
(b)該キャプソメア内にパッケージングされるポリヌクレオチドであって、神経系細胞特異的プロモーター配列および該プロモーター配列と作動可能に連結されるヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド
を含む、組換えアデノ随伴ウイルスビリオン。
【0015】
1.1 アデノ随伴ウイルス(AAV)
天然のアデノ随伴ウイルス(AAV)は非病原性ウイルスである。この特徴を利用して、種々の組換ウイルスベクターを作製して、遺伝子治療のために所望の遺伝子を送達することが行われている(例えば、WO2003/018821、WO2003/053476、WO2007/001010、薬学雑誌 126(11)1021-1028などを参照のこと)。野生型AAVゲノムは、全長が約5kbのヌクレオチド長を有する一本鎖DNA分子であり、センス鎖またはアンチセンス鎖である。AAVゲノムは、一般に、ゲノムの5'側および3'側の両末端に約145ヌクレオチド長のインバーテッドターミナルリピート(ITR)配列を有する。このITRは、AAVゲノムの複製起点としての機能及びこのゲノムのビリオン内へのパッケージングシグナルとしての機能等の多様な機能を有することが知られている(例えば、上記の文献である薬学雑誌 126(11)1021-1028などを参照のこと)。ITRに挟まれた野生型AAVゲノムの内部領域(以下、内部領域)は、AAV複製(rep)遺伝子及びカプシド(cap)遺伝子を含む。これらrep遺伝子及びcap遺伝子は、それぞれ、ウイルスの複製に関与するタンパク質Rep及び正20面体構造の外殻であるキャプソメアを形成するカプシドタンパク質(例えば、VP1、VP2及びVP3の少なくとも1つ)をコードする。さらなる詳細については、例えば、Human Gene Therapy, 13, pp.345-354, 2002、Neuronal Development 45, pp.92-103, 2001、実験医学 20,pp.1296-1300, 2002、薬学雑誌 126(11)1021-1028、Hum Gene Ther,16,541-550, 2005などを参照のこと。
【0016】
天然のアデノ随伴ウイルスは、種々の型が知られており、それぞれ感染する対象細胞に傾向が認められる(例えば、Gao, G, et al., Curr. Gene Ther. 5:285-297, 2005、Xin, K-Q, et al., J. Virol. 80: 11899-910, 2006、Hellstroem, M, et al., Gene Ther. 16:521-32, 2009などに記載される)。本発明のrAAVベクターは、好ましくは由来の天然のアデノ随伴ウイルス1型(AAV1)、2型(AAV2)、3型(AAV3)、4型(AAV4)、5型(AAV5)、6型(AAV6)、7型(AAV7)、8型(AAV8)、9型(AAV9)などより作製できるが、これらに限定されない。これらのアデノ随伴ウイルスゲノムのヌクレオチド配列は公知であり、それぞれ、GenBank登録番号:AF063497.1(AAV1)、AF043303(AAV2)、NC_001729(AAV3)、NC_001829.1(AAV4)、NC_006152.1(AAV5)、AF028704.1(AAV6)、NC_006260.1(AAV7)、NC_006261.1(AAV8)、AY530579(AAV9)のヌクレオチド配列を参照できる。これらのうち、2型、3型、5型および9型がヒト由来である。本発明において、特にAAV1、AAV2またはAAV9に由来するカプシドタンパク質をコードするヌクレオチド配列を利用することが好ましい。AAV1とAAV9はヒト由来のAAVのうちで神経細胞への感染効率が比較的高いことが報告されている(Taymans, et al., Hum Gene Ther 18:195-206, 2007など)。また、AAV2は既にパーキンソン病に対する遺伝子治療などで臨床応用されている(Kaplitt,et al., Lancet 369: 2097-2105, 2007、Marks, et al., Lancet Neurol 7:400-408, 2008、Christine et.al, Neurology 73:1662-1669,2009、Muramatsu, et al, Mol Ther 18:1731-1735, 2010など)。
【0017】
1.2.本発明のrAAVビリオン中のカプシドタンパク質
本発明のrAAVビリオンが含むカプシドタンパク質は、VP1アミノ酸配列(配列番号:2、4又は6)において、表面露出チロシン残基(例えば、ウイルスビリオン表面にアミノ酸側鎖が露出されているチロシン残基)の少なくとも1つが別のアミノ酸に置換される。このようなタンパク質としては、配列番号:2、4又は6のアミノ酸配列と約90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上、99.9%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、表面露出されるチロシン残基の少なくとも1つが別のアミノ酸に置換されており、かつウイルスビリオンを形成できるタンパク質が挙げられる。上記数値は一般的に大きい程好ましい。本発明のrAAVビリオンに含まれるカプシドタンパク質は、単独で又は他のカプシドタンパク質メンバー(例えば、VP2および/またはVP3など)と一緒になってキャプソメアを形成し、該キャプソメア内にAAVゲノム(又はAAVベクターゲノム)がパッケージングされている本発明のrAAVビリオンを形成できる。このような本発明のrAAVは、生体の血液脳関門(未完成な胎児及び新生児の血液脳関門、および確立した成体の血液脳関門を含む)を通過できる。さらに、本発明のrAAVビリオンは、末梢投与によって成体の脳、脊髄などに含まれる神経細胞を標的とすることができる。本明細書において末梢投与とは、静脈内投与、動脈内投与、腹腔内投与、心腔内投与、筋肉内投与、臍帯血管内投与(例えば、胎児を対象とする場合)など、当業者に末梢投与として通常理解される投与経路をいう。相互に置換可能なアミノ酸残基としては、その残基が属する類似アミノ酸残基の群(後述)内に含まれる他の残基が挙げられる。相互に置換可能なアミノ酸残基によって改変されたカプシドタンパク質は、通常の遺伝子操作技術など、当業者に公知の方法に従って作製することができる。このような遺伝子操作手順については、例えば、Molecular Cloning 3rd Edition, J.Sambrook et al.,Cold Spring Harbor Lab. Press. 2001、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons 1987-1997などを参照することができる。
【0018】
本発明のrAAVビリオン中に含まれるカプシドタンパク質は、好ましくは、配列番号:2において、表面露出される252位、273位、445位、701位、705位若しくは731位のチロシン残基のうち1つ以上が他のアミノ酸、好ましくはフェニルアラニン残基に置換されている。好ましくは、配列番号:2のアミノ酸配列において、445位のチロシン残基がフェニルアラニン残基に置換されている。本発明のrAAVビリオン中に含まれるカプシドタンパク質は、好ましくは、配列番号:4において表面露出される252位、272位、444位、500位、700位、704位若しくは730位のチロシン残基のうち1つ以上が他のアミノ酸、好ましくはフェニルアラニン残基に置換されている。好ましくは、配列番号:4のアミノ酸配列において、444位のチロシン残基がフェニルアラニン残基に置換されている。本発明のrAAVビリオンが含むカプシドタンパク質は、好ましくは、配列番号:8において表面露出される252位、274位、446位、701位、705位、706位若しくは731位のうちの少なくとも1つのチロシン残基のうち1つ以上が他のアミノ酸、好ましくはフェニルアラニン残基に置換されている。好ましくは、配列番号:6のアミノ酸配列において、446位のチロシン残基がフェニルアラニン残基に置換されている。本発明のrAAVビリオンのキャプソメアは、上記のタンパク質単独を含んでもよいし、または他のメンバー(VP2および/またはVP3)を一緒に含んでもよい。本発明において、上記の置換されるアミノ酸残基の位置は、それぞれのウイルス型のVP2およびVP3において対応する位置のアミノ酸残基の置換、好ましくは対応するチロシン残基のフェニルアラニン残基への置換を含む。これらの改変されたカプシドタンパク質は、通常の遺伝子操作技術など、当業者に公知の方法に従って作製することができる。このような遺伝子操作手順については、例えば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning 3rd Edition)などを参照のこと。これらのカプシドタンパク質を含む本発明のウイルスビリオンは、上記のように、成体及び胎児の血液脳関門を通過できる。好ましくは、機能的に同等なカプシドタンパク質を含むウイルスビリオンは、末梢投与によって成体の脳、脊髄などに含まれる神経系細胞に感染できる。本発明において使用される神経系とは、神経組織により構成される器官系を指す。本発明において、遺伝子導入標的としての神経系細胞は、少なくとも脳、脊髄など中枢神経系に含まれる神経細胞を含み、さらに、神経膠細胞、小膠細胞、星状膠細胞、乏突起膠細胞、脳室上衣細胞、脳血管内皮細胞などを含んでもよい。遺伝子導入される神経系細胞のうち神経細胞の割合は、好ましくは、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上、99.9%以上、または100%である。
【0019】
本発明のrAAVビリオンはさらに、配列番号:8、10または12のアミノ酸配列、あるいは配列番号:8、10または12のアミノ酸配列において444〜446位以外の位置に1個以上のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列を含み、依然としてウイルスビリオンを形成することが可能であるタンパク質を含む。より詳細には、本発明のrAAVビリオンに含まれるカプシドタンパク質は、単独で又は他のカプシドタンパク質メンバー(例えば、VP2および/またはVP3など)と一緒に本発明のrAAVビリオンのキャプソメアに含まれ、該キャプソメア内にAAVゲノム(又は組換えAAVベクターゲノム)がパッケージングされている。上記のアミノ酸の欠失、置換、挿入及び付加のうち2種以上が同時に生じてもよい。このようなタンパク質としては、例えば、配列番号:8、10又は12のアミノ酸配列、あるいは配列番号:8、10又は12のアミノ酸配列において444〜446位以外の位置に、例えば、1〜50個、1〜40個、1〜39個、1〜38個、1〜37個、1〜36個、1〜35個、1〜34個、1〜33個、1〜32個、1〜31個、1〜30個、1〜29個、1〜28個、1〜27個、1〜26個、1〜25個、1〜24個、1〜23個、1〜22個、1〜21個、1〜20個、1〜19個、1〜18個、1〜17個、1〜16個、1〜15個、1〜14個、1〜13個、1〜12個、1〜11個、1〜10個、1〜9個(1〜数個)、1〜8個、1〜7個、1〜6個、1〜5個、1〜4個、1〜3個、1〜2個、または1個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を含み、かつウイルスビリオンを形成できるタンパク質が挙げられる。上記アミノ酸残基の欠失、置換、挿入および/または付加の数は、一般的に小さい程好ましい。形成される本発明のrAAVビリオンは、上記のとおり、成体及び胎児の血液脳関門を通過でき、好ましくは末梢投与によって脳、脊髄などの神経細胞に遺伝子導入できる。また本発明のrAAVビリオンは、母体への末梢投与によって、母体中の胎児の脳、脊髄などに含まれる神経系細胞に遺伝子導入できる。これらの改変されたカプシドタンパク質は、通常の遺伝子操作技術など、当業者に公知の方法に従って作製することができる。
【0020】
本発明のタンパク質(ポリペプチド)において相互に置換可能なアミノ酸残基の例を以下に示す。同一群に含まれるアミノ酸残基は相互に置換可能である。A群:ロイシン、イソロイシン、ノルロイシン、バリン、ノルバリン、アラニン、2-アミノブタン酸、メチオニン、o-メチルセリン、t-ブチルグリシン、t-ブチルアラニン、シクロヘキシルアラニン; B群:アスパラギン酸、グルタミン酸、イソアスパラギン酸、イソグルタミン酸、2-アミノアジピン酸、2-アミノスベリン酸; C群:アスパラギン、グルタミン; D群:リジン、アルギニン、オルニチン、2,4-ジアミノブタン酸、2,3-ジアミノプロピオン酸; E群:プロリン、3-ヒドロキシプロリン、4-ヒドロキシプロリン; F群:セリン、スレオニン、ホモセリン; G群:フェニルアラニン、チロシン。
【0021】
本発明のrAAVビリオンに含まれる上記のカプシドタンパク質VP1、VP2および/またはVP3は、1種類以上のポリヌクレオチドによってコードされ得る。好ましくは、本発明におけるカプシドタンパク質は全て、1種類のポリヌクレオチドによってコードされる。より好ましくは、カプシドタンパク質は、配列番号:7、9または11のポリヌクレオチドによってコードされる。
【0022】
本発明のrAAVビリオンに含まれる上記のカプシドタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、本発明の組換えウイルスビリオンを形成可能であるカプシドタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードする。このようなポリヌクレオチドは、例えば、配列番号:7、9または11のポリヌクレオチド配列、あるいは配列番号:7、9または11のポリヌクレオチド配列において1個以上(例えば、1〜50個、1〜40個、1〜30個、1〜25個、1〜20個、1〜15個、1〜10個、1〜9個(1〜数個)、1〜8個、1〜7個、1〜6個、1〜5個、1〜4個、1〜3個、1〜2個、1個など)のヌクレオチドの欠失、置換、挿入および/または付加を有するポリヌクレオチドであって、配列番号:8、10または12のアミノ酸配列、あるいは配列番号:8、10または12のアミノ酸配列において444〜446位以外の位置に1個以上のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列を含みウイルスビリオンを形成することが可能であるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む。これら欠失、置換、挿入及び付加のうち2種以上が同時に生じてもよい。そのようなポリヌクレオチドによってコードされるカプシドタンパク質を含む本発明のrAAVビリオンは、上記のとおり、成体及び胎児の血液脳関門を通過できる。本発明のrAAVビリオンは、好ましくは、末梢投与によって成体の脳、脊髄などに含まれる神経系細胞に遺伝子導入できる。また本発明のrAAVビリオンは、母体への末梢投与によって、母体中の胎児の脳、脊髄などに含まれる神経系細胞に遺伝子導入できる。上記ヌクレオチドの欠失、置換、挿入および/または付加の数は、一般的に小さい程好ましい。このようなポリヌクレオチドは、例えば、配列番号:7、9もしくは11またはその相補配列にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドであって、本発明の組換えウイルスビリオンを形成可能であるタンパク質(例えば、配列番号:8、10又は12のアミノ酸配列、あるいは配列番号:8、10または12のアミノ酸配列において444〜446位以外の位置に1個以上のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/又は付加したアミノ酸配列を含むタンパク質)をコードするポリヌクレオチドを含み得る。
【0023】
ハイブリダイゼーションは、公知の方法あるいはそれに準じる方法、例えば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning 3rd Edition, J.Sambrook et al.,Cold Spring Harbor Lab. Press. 2001)に記載の方法などに従って行うことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、製造業者により提供される使用説明書などに記載の方法に従って行うことができる。ここで、「ストリンジェントな条件」は、低ストリンジェントな条件、中ストリンジェントな条件及び高ストリンジェントな条件のいずれでもよい。「低ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、32℃の条件である。また、「中ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、42℃の条件である。「高ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、50℃の条件である。これらの条件において、温度を上げるほど高い相同性を有するDNAが効率的に得られることが期待できる。ただし、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度、プローブ濃度、プローブの長さ、イオン強度、時間、塩濃度など複数の要素が考えられ、当業者であればこれら要素を適宜選択することで同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0024】
ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドとしては、FASTA、BLASTなどの相同性検索ソフトウェアにより、デフォルトのパラメーターを用いて計算したときに、配列番号:7、9又は11のヌクレオチド配列と、例えば、70%以上、80%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上、99.9%以上の同一性を有するポリヌクレオチドを挙げることができる。上記相同性の数値は一般的に大きい程好ましい。
【0025】
なお、アミノ酸配列やポリヌクレオチド配列の同一性は、カーリンおよびアルチュールによるアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 872264-2268,1990; Proc. Natl. Acad. Sci USA 90: 5873, 1993)を用いて決定できる。BLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul SF, et al: J Mol Biol 215: 403,1990)。BLASTNを用いて塩基配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=100、wordlength=12とする。また、BLASTXを用いてアミノ酸配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=50、wordlength=3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。
【0026】
本発明において用いられるRepタンパク質は、ITR配列を認識してその配列に依存してゲノム複製を行う機能、ウイルスビリオン内へと野生型AAVゲノム(又はrAAVゲノム)をリクルートしてパッケージングする機能、本発明のrAAVビリオンを形成する機能など公知の機能を同程度に有する限り、上記と同様の数のアミノ酸配列同一性を有してもよいし、上記と同様の数のアミノ酸残基の欠失、置換、挿入および/または付加を含み得る。機能的に同程度の範囲については、上記の比活性に関する説明において記載される範囲が挙げられる。本発明において、好ましくは、公知のAAV3由来のRepタンパク質が使用される。さらに好ましくは、配列番号:16に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質が使用される。
【0027】
本発明において用いられるRepタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、ITR配列を認識してその配列に依存してゲノム複製を行う機能、ウイルスビリオン内へと野生型AAVゲノム(又はrAAVゲノム)をリクルートしてパッケージングする機能、本発明のrAAVビリオンを形成する機能などの公知の機能を同程度に有するRepタンパク質をコードする限り、上記と同様の数の同一性を有してもよいし、上記と同様の数のヌクレオチドの欠失、置換、挿入および/または付加を含んでもよい。機能的に同程度の範囲については、上記の比活性に関する説明において記載される範囲が挙げられる。本発明において、好ましくは、AAV3由来のrep遺伝子が使用される。さらに好ましくは、配列番号:15に記載のヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドが使用される。
【0028】
本発明の1実施形態において、上記の野生型AAVゲノムの内部領域にコードされるカプシドタンパク質VP1など(VP1、VP2および/またはVP3)、およびRepタンパク質は、これをコードするポリヌクレオチドが本発明のAAVヘルパープラスミドに組込まれて提供される。本発明において用いられるカプシドタンパク質(VP1、VP2および/またはVP3)、ならびにRepタンパク質は、必要に応じて1種、2種、3種またはそれ以上のプラスミドに組込まれていてもよい。場合によって、これらのカプシドタンパク質およびRepタンパク質のうちの1種以上がAAVゲノムに含まれてもよい。本発明において、好ましくは、カプシドタンパク質(VP1、VP2および/またはVP3)およびRepタンパク質は全て、1種のポリヌクレオチドにコードされ、AAVヘルパープラスミドとして提供される。例えば、本明細書中の実施例を参照のこと。
【0029】
1.3.本発明のrAAVゲノム
本発明のrAAVビリオン中にパッケージングされる組換えアデノ随伴ウイルスゲノム(以下、本発明のrAAVゲノム)は、野生型ゲノムの5'側および3'側に位置するITRの間に位置する内部領域(すなわち、rep遺伝子及びcap遺伝子の一方または両方)のポリヌクレオチドを、目的のタンパク質をコードするポリヌクレオチド(治療用遺伝子)およびこのポリヌクレオチドを転写するためのプロモーター配列などを含む遺伝子カセットによって置換することにより作製できる。好ましくは、5'側および3'側に位置するITRは、それぞれAAVゲノムの5’末端および3’末端に位置する。好ましくは、本発明のrAAVゲノムは、5’末端および3’末端に位置するITRは、AAV1、AAV2、AAV3またはAAV9のゲノムに含まれる5'側ITRおよび3'側ITRを含む。特に好ましくは、本発明のrAAVビリオンにパッケージングされるウイルスゲノムは、5'側のITRは配列番号:13のポリヌクレオチドであり、3'側ITRは配列番号:14のポリヌクレオチドである。一般的に、ITR部分は容易に相補配列が入れ替わった配列(flip and flop structure)をとるため、本発明のrAAVゲノムに含まれるITRは、5’と3’の方向が逆転していてもよい。本発明のrAAVゲノムにおいて、内部領域と置き換えられるポリヌクレオチド(すなわち、治療用遺伝子)の長さは、元のポリヌクレオチドの長さと同程度が実用上好ましい。すなわち、本発明のrAAVゲノムは、全長が野生型の全長である5kbと同程度、例えば約2〜6kb、好ましくは約4〜6kbであることが好ましい。本発明のrAAVゲノムに組込まれる治療用遺伝子の長さは、プロモーター、ポリアデニレーションなどを含めた転写調節領域の長さ(例えば、約1〜1.5kbと仮定する場合)を差し引くと、好ましくは長さが約0.01〜3.7kb、より好ましくは長さが約0.01〜2.5kb、さらに好ましく約0.01〜2kbであるが、これに限定されない。さらに、公知のinternal ribosome entry site (IRES)配列を介在させるなどの公知の手法を用いて、rAAVゲノムの全長が上記の範囲内である限り、約0.01〜1.5kbの二種類以上の複数の治療用遺伝子を同時に組み込むことが可能である。
【0030】
一般的に、組換えアデノ随伴ウイルスビリオン内にパッケージングされるウイルスゲノムは、このゲノムが一本鎖であることに起因して、ゲノムに含まれる目的の遺伝子を発現するまで時間(数日)を要するという問題がある。この問題を解決するため、導入される治療用遺伝子を自己相補性に設計し(self-complementary(sc)型ベクターと称される)、ウイルスベクター感染後の発現を促進することが図られている。この場合、二本鎖形成のため逆向きの配列も含める必要性に起因して、上記の治療用遺伝子の長さは、非sc型ゲノムベクターと比較しておよそ半分の長さになるよう設計されるべきである。より具体的には、組換えウイルスゲノムをsc型とする場合、組込み可能な目的の遺伝子の長さは、プロモーター、ポリアデニレーション等に要する領域を含めて約2kbに設計される。具体的な実施の詳細については、例えば、前述のFoust KD, et al.(Nat Biotechnol. 2009 Jan;27(1):59-65、非特許文献3)などに記載されている。本発明において、目的遺伝子の長さが短い場合にはsc型ゲノムベクターも利用可能である。すなわち、本発明において用いられるrAAVゲノムは、非sc型であってもよいし、sc型であってもよい。sc型の場合、目的の遺伝子を含む発現カセット全体、またはその一部が二本鎖DNAを形成できる。
【0031】
本発明のrAAVゲノムは、目的のポリペプチドを発現させるため、そのポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列が種々の公知のプロモーター配列と作動可能に組み合わされる。しかしながら、例えば通常使用される強力なプロモーターであるCMV promoterを用いたrAAVベクターを用いた場合、成体では神経細胞ではなくグリア様細胞に大部分の目的遺伝子が導入された(例えば、本明細書中の実施例1を参照のこと)。したがって、本発明のrAAVビリオンにおいて使用されるプロモーター配列は神経系細胞に特異的なものである。本発明において使用される神経系とは、前述のとおり神経組織により構成される器官系を指す。本発明において使用される神経系細胞特異的プロモーター配列は、例えば、神経細胞、神経膠細胞、乏突起膠細胞、脳血管内皮細胞、小膠細胞、脳室上皮細胞などに由来するが、これらに限定されない。このようなプロモーター配列としては、具体的には、シナプシンIプロモーター配列、ミエリン塩基性タンパク質プロモーター配列、ニューロン特異的エノラーゼプロモーター配列、グリア線維性酸性タンパク質プロモーター配列、L7プロモーター配列(小脳プルキンエ細胞特異的プロモーター)、グルタミン酸受容体デルタ2プロモーター(小脳プルキンエ細胞特異的プロモーター)が挙げられるが、これらに限定されない。また、本発明のrAAVビリオンにおいて、カルシウム/カルモジュリンー依存性蛋白キナーゼII(CMKII)プロモーター、チュブリンαIプロモーター、血小板由来成長因子β鎖プロモーターなどのプロモーター配列も使用され得る。上記のこれらプロモーター配列は、単独であっても任意の複数の組み合わせであってもよい。特に好ましくは、シナプシンIプロモーター配列およびミエリン塩基性タンパク質プロモーター配列である。本発明のrAAVゲノムは、さらに、mRNAの転写、タンパク質への翻訳などを補助するエンハンサー配列、Kozak配列、適切なポリアデニル化シグナル配列などの公知の配列を含んでもよい。
【0032】
本発明のrAAVゲノムには、目的の治療用遺伝子が組込まれる。この治療用遺伝子は、種々の疾患を治療するために用いられるタンパク質をコードしてもよい。コードするタンパク質は、1種類であってもそれ以上であってもよいが、目的の遺伝子を含めてパッケージングされるrAAVゲノムの長さは約5kb以下(ITR領域を除いて約4.7kb以下)であるべきである。例えば、パッケージングされるrAAVゲノムが非sc型である場合、rAAVゲノム中に組み込まれる目的の遺伝子の長さは実質的に約3.5kb以下に制限される。sc型ゲノムであればさらにその半分の長さに制限される。したがって、一実施形態において、目的の治療用遺伝子は、短いポリペプチドからなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを使用することが好ましい。そのようなタンパク質としては、例えば、抗体(抗原結合部位、Fab、Fab2、単鎖抗体(scFv)などを含む)、神経成長因子(NGF)、成長因子(HGF)、酸性線維芽細胞増殖因子(aFGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィンNT-3及びNT-4/5、毛様体神経栄養因子(CNTF)、膠細胞系由来神経栄養因子(GDNF)、ニューツリン、アグリンのヘレグルイン(heregluin)/ニューレグリン/ARIA/neu分化因子(NDF)ファミリーのいずれか1つ、セマフォリン/コラプシン、ネツリン−1およびネツリン−2、塩基性維芽細胞増殖因子(bFGF)、膠細胞株由来神経栄養因子(GDNF)、芳香族アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)、アミロイドβタンパク質分解酵素 (Neprilysin)などが挙げられるが、これらに限定されない。また、神経障害を呈する代謝酵素病(例えば、ゴーシェ病を含むムコ多糖体症、ホモシスチン尿症を含むアミノ酸代謝異常症、異染性白質ジストロフィーを含む脂質代謝異常症など)と関連する遺伝子、例えばグルコセレブロシダーゼ、シスタチオニンβ−シンターゼ、アリスサルファターゼAなどをコードする遺伝子を組込むことも可能である。
【0033】
本発明の1実施形態において、本発明のrAAVゲノムにコードされる抗体のクラスは、特に限定されず、IgG、IgM、IgA、IgD、またはIgE等のいずれのアイソタイプを有する抗体を含む。但し、抗体をコードするポリヌクレオチドの長さについては実用上制限があることを注意すべきである。本明細書において、用語「抗体」はまた、任意の抗体断片または誘導体を含むことを意味し、例えば、Fab、Fab’2、CDR、ヒト化抗体、キメラ抗体、多機能抗体、単鎖抗体(ScFv)などを含む。本発明において、単鎖抗体(ScFv)をコードするポリヌクレオチドを目的の治療用遺伝子として利用することが好ましい。
【0034】
本発明のrAAVゲノムにコードされるタンパク質は、目的の機能を有する限り、遺伝子操作によってアミノ酸残基の挿入、欠失、置換および/または付加を含むタンパク質変異体を含んでもよい。このタンパク質変異体において、これら欠失、置換、挿入及び付加のうち2種以上が同時に生じてもよい。好ましくは、これらタンパク質変異体は、元のタンパク質と同等の機能(例えば、抗原結合能)を有する。好ましくは、このようなタンパク質変異体としては、例えば、抗アミロイドβタンパク質(Aβ)の単鎖抗体(scFv)のアミノ酸配列において、例えば、1〜50個、1〜40個、1〜39個、1〜38個、1〜37個、1〜36個、1〜35個、1〜34個、1〜33個、1〜32個、1〜31個、1〜30個、1〜29個、1〜28個、1〜27個、1〜26個、1〜25個、1〜24個、1〜23個、1〜22個、1〜21個、1〜20個、1〜19個、1〜18個、1〜17個、1〜16個、1〜15個、1〜14個、1〜13個、1〜12個、1〜11個、1〜10個、1〜9個(1〜数個)、1〜8個、1〜7個、1〜6個、1〜5個、1〜4個、1〜3個、1〜2個、または1個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ元のタンパク質と同等の抗原結合能を有するタンパク質が挙げられる。本発明において、同等の機能を有することは、例えば、比活性が約0.01〜100倍、好ましくは約0.5〜20倍、より好ましくは約0.5〜2倍である範囲に含まれる抗原結合能を有することを意味するが、これらに限定されない。
【0035】
本発明のrAAVゲノムに組込まれる目的の治療用遺伝子は、アンチセンス分子、リボザイム、干渉性RNA(iRNA)、マイクロRNA(miRNA)のような、標的とする内在性遺伝子の機能を変化(例えば、破壊、低下)させるためのポリヌクレオチド、または内在性タンパク質の発現レベルを変化(例えば、低下)させるためのポリヌクレオチドであってもよい。標的とされる遺伝子としては種々の疾患の原因遺伝子が挙げられ、例えば、パーキンソン病に関するα-シヌクレインをコードする遺伝子、癌の原因となる公知の種々のオンコジーンが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、アンチセンス配列を用いて標的遺伝子の発現を効果的に阻害するには、好ましくは、アンチセンス核酸の長さは、10塩基以上、、15塩基以上、20塩基以上であり、100塩基以上であり、さらに好ましくは500塩基以上である。通常、用いられるアンチセンス核酸の長さは5kbよりも短く、好ましくは2.5kbよりも短い。
【0036】
リボザイムを用いることによって、目的のタンパク質のmRNAを特異的に切断してそのタンパク質の発現を抑制できる。このようなリボザイムの設計については、種々の公知文献を参照することができる(例えば、FEBS Lett. 228: 228, 1988; FEBS Lett. 239: 285, 1988; Nucl. Acids. Res. 17: 7059, 1989; Nature 323: 349, 1986; Nucl. Acids. Res. 19: 6751, 1991; Protein Eng 3: 733, 1990; Nucl. Acids Res. 19: 3875, 1991; Nucl. Acids Res. 19: 5125, 1991; Biochem Biophys Res Commun 186: 1271, 1992など参照)。
【0037】
また、「RNAi」とは、標的遺伝子配列と同一もしくは類似した配列を有する二重鎖RNAを細胞内に導入すると、導入した外来遺伝子および標的内在性遺伝子の発現がいずれも抑制される現象のことを指す。ここで用いられるRNAとしては、例えば、21〜25塩基長のRNA干渉を生ずる二重鎖RNA、例えば、dsRNA (double strand RNA)、siRNA(small interfering RNA)、shRNA(short hairpin RNA)、又はmiRNA (microRNA)が挙げられる。このようなRNAは、リポソームなどの送達システムにより所望の部位に局所送達させることも可能であり、また上記二重鎖RNAが生成されるようなベクターを用いてこれを局所発現させることができる。このような二重鎖RNA(dsRNA、siRNA、shRNA又はmiRNA)の調製方法、使用方法などは、多くの文献から公知である(特表2002-516062号公報; 米国公開許第2002/086356A号; Nature Genetics, 24(2), 180-183, 2000 Feb.; Genesis, 26(4), 240-244, 2000 April; Nature, 407:6802, 319-20, 2002 Sep. 21; Genes & Dev., Vol.16, (8), 948-958, 2002 Apr.15; Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 99(8), 5515-5520, 2002 Apr. 16; Science, 296(5567), 550-553, 2002 Apr. 19; Proc Natl. Acad. Sci. USA, 99:9, 6047-6052, 2002 Apr. 30; Nature Biotechnology, Vol.20 (5), 497-500, 2002 May; Nature Biotechnology, Vol. 20(5), 500-505, 2002 May; Nucleic Acids Res., 30:10, e46,2002 May 15等参照)。
【0038】
本明細書中で使用される場合、特に述べられない限り、「ウイルスビリオン」、「ウイルスベクター」、「ウイルス粒子」の各用語は、相互に交換可能に用いられる。
【0039】
本明細書中で使用される場合、用語「ポリヌクレオチド」は、「核酸」、「遺伝子」または「核酸分子」と交換可能に使用され、ヌクレオチドの重合体が意図される。本明細書中で使用される場合、用語「ヌクレオチド配列」は、「核酸配列」または「塩基配列」と交換可能に使用され、デオキシリボヌクレオチド(A、G、CおよびTと省略される)の配列として示される。例えば、「配列番号1のヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドまたはそのフラグメント」とは、配列番号1の各デオキシヌクレオチドA、G、Cおよび/またはTによって示される配列を含むポリヌクレオチドまたはその断片部分が意図される。
【0040】
本発明に係る「ウイルスゲノム」および「ポリヌクレオチド」は各々、DNAの形態(例えば、cDNAまたはゲノムDNA)で存在し得るが、場合によってはRNA(例えば、mRNA)の形態であってもよい。本明細書において使用されるウイルスゲノムおよびポリヌクレオチドは各々、二本鎖または一本鎖のDNAであり得る。一本鎖DNAまたはRNAの場合、コード鎖(センス鎖としても知られる)であっても、非コード鎖(アンチセンス鎖としても知られる)であってもよい。特に述べられない限り、本明細書中、rAAVゲノムがコードするプロモーター、目的遺伝子、ポリアデニレーションシグナルなどの遺伝子上の配置について説明される場合、rAAVゲノムがセンス鎖である場合についてはその鎖自体について、アンチセンス鎖である場合はその相補鎖について記載される。
【0041】
本明細書において、「タンパク質」と「ポリペプチド」とは相互に交換可能に用いられ、アミノ酸の重合体が意図される。本明細書において使用されるポリペプチドは、ペプチド標記の慣例に従って左端がN末端(アミノ末端)、右端がC末端(カルボキシル末端)である。本発明のポリペプチドの部分ペプチド(本明細書中、本発明の部分ペプチドと略記する場合がある)としては、前記した本発明のポリペプチドの部分ペプチドで、好ましくは、前記した本発明のポリペプチドと同様の性質を有するものである。
【0042】
本明細書において、用語「プラスミド」は、種々の公知の遺伝子要素、例えば、プラスミド、ファージ、トランスポゾン、コスミド、染色体等を意味する。プラスミドは特定の宿主において複製することができ、そして細胞間で遺伝子配列を輸送できる。本明細書において、プラスミドは、種々の公知のヌクレオチド(DNA、RNA、PNAおよびその混合物)を含み、一本鎖であっても二本鎖であってもよいが、好ましくは二本鎖である。例えば、本明細書において、用語「rAAVベクタープラスミド」は、特に明記しない限り、rAAVベクターゲノムおよびその相補鎖により形成される二本鎖を含むことが意図される。本発明において使用されるプラスミドは、直鎖状であっても環状であってもよい。
【0043】
本発明のrAAVゲノムに組込まれる目的の治療用遺伝子は、従来よりも高い効率で神経系細胞に送達され、その細胞のゲノム中に組込まれる。本発明のrAAVベクターを使用する場合、従来のrAAVベクターを用いる場合と比較して、約10倍以上、約20倍以上、約30倍以上、約40倍以上または約50倍以上の数の神経細胞に遺伝子導入可能である。遺伝子導入された神経細胞の数は、例えば、任意のマーカー遺伝子を組込んだrAAVベクターゲノムをパッケージングするrAAVビリオンを作製し、次いでこのrAAVビリオンを被検動物に投与して、rAAVベクターゲノムに組込まれたマーカー遺伝子(またはマーカータンパク質)を発現する神経系細胞の数を計測することによって測定可能である。使用されるマーカー遺伝子としては公知のものを選択できる。このようなマーカー遺伝子としては、例えば、LacZ遺伝子、緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子、発光タンパク質遺伝子(ホタルルシフェラーゼなど)などが挙げられる。
【0044】
本発明において、rAAVベクターゲノムをパッケージングしたrAAVビリオンは、生体の血液脳関門を通過可能であり、したがって被検体への末梢投与によって、被検体の脳、脊髄などの神経系細胞に目的の治療用遺伝子を導入可能である。本発明のrAAVゲノムが非sc型である場合、より広範な長さのプロモーターと目的遺伝子とを選択でき、複数の目的遺伝子を利用することも可能である。
【0045】
本明細書中において使用される場合、用語「パッケージング」とは、1本鎖ウイルスゲノムの調製、外被タンパク質(キャプシド)の組み立て、およびウイルスゲノムをキャプシドで包むこと(encapsidation)などを含む事象をいう。適切なプラスミドベクター(通常、複数のプラスミド)が適切な条件下でパッケージング可能な細胞株に導入される場合、組換えウイルス粒子(すなわち、ウイルスビリオン、ウイルスベクター)が組み立てられ、培養物中に分泌される。
【0046】
2.本発明のrAAVビリオンの調製
本発明の別の実施形態において、本発明のrAAVビリオンを調製する方法が提供される。この方法は、(a)本発明のカプシドタンパク質をコードする第1のポリヌクレオチド(一般に、AAVヘルパープラスミドと称される)、および(b)本発明のrAAVビリオン内にパッケージングされる第2のポリヌクレオチド(目的の治療用遺伝子を含む)を、培養細胞にトランスフェクトする工程を含むことができる。本発明における調製方法はさらに、(c)アデノウイルス(AdV)ヘルパープラスミドと称されるアデノウイルス由来因子をコードするプラスミドを培養細胞にトランフェクトする工程、またはアデノウイルスを培養細胞に感染させる工程も含むことができる。さらに、上記のトランスフェクトされた培養細胞を培養する工程、および培養上清より組換えアデノ随伴ウイルスベクターを収集する工程を含むこともできる。このような方法は既に公知であり、本明細書の実施例においても利用される。
【0047】
好ましくは、本発明のrAAVビリオンを調製する方法は、(a) 配列番号:8、10および12からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする第1のポリヌクレオチド、ならびに(b) 神経系細胞特異的プロモーター配列を含むポリヌクレオチドおよび該プロモーター配列と作動可能に連結されるポリヌクレオチドを、配列番号:13のヌクレオチド配列と配列番号:14のヌクレオチド配列との間に含む第2のポリヌクレオチドを、培養細胞にトランスフェクトすることを含む。このような第1のポリヌクレオチドおよび第2のポリヌクレオチドは、例えば、実施例の表1に記載のポリヌクレオチドの組合せを含む。
【0048】
第1のポリヌクレオチドにおいて本発明のカプシドタンパク質をコードするヌクレオチドは、好ましくは、培養細胞において作動可能である公知のプロモーター配列に作動可能に結合される。このようなプロモーター配列としては、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、EF-1αプロモーター、SV40プロモーターなどを適宜使用することができる。さらに、公知のエンハンサー配列、Kozak配列、ポリA付加シグナル配列などを適宜含み得る。
【0049】
第2のポリヌクレオチドは、神経系細胞特異的プロモーターと作動可能である位置に治療用遺伝子を含む。さらに、公知のエンハンサー配列、Kozak配列、ポリA付加シグナル配列などを適宜含み得る。この第1のポリヌクレオチドはさらに、神経系細胞特異的プロモーター配列の下流に、種々の公知の制限酵素のよって切断可能なクローニングサイトを含み得る。複数の制限酵素認識部位を含むマルチクローニングサイトがより好ましい。当業者は、公知の遺伝子操作手順に従って、目的の治療用遺伝子を神経系細胞特異的プロモーターの下流に組込むことができる。このような遺伝子操作手順については、例えば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning 3rd Edition, J.Sambrook et al.,Cold Spring Harbor Lab. Press. 2001)などを参照のこと。
【0050】
AAVはヘルパー依存性ウイルスであるので、本発明のrAAVビリオンを調製するため、ビリオン生産用の細胞(培養細胞)に感染する際、ヘルパーウイルス(例えば、アデノウイルス、ヘルペスウイルス又はワクシニア)との共感染を必要とする。ヘルパーウイルスとの共感染がない場合、AAVは、ウイルスゲノムを宿主細胞染色体に挿入するが、挿入されたウイルスゲノムに由来する感染性AAVビリオンは生成されない。その挿入されたウイルスゲノムを有する宿主がヘルパーウイルスに感染される場合、組み込まれたゲノムに由来する感染性AAVビリオンを生じ得る。AAV自体は、異なる種由来の細胞に感染し得るが、ヘルパーウイルスは、宿主細胞と同じ種であることが必要とされる。例えば、ヒトAAVは、イヌのアデノウイルスに共感染されたイヌの細胞において複製できる。
【0051】
本発明のrAAVビリオンの調製において、ヘルパーウイルスプラスミド(例えば、アデノウイルス、ヘルペスウイルス又はワクシニア)を使用して、上記第1および第2のポリヌクレオチドと同時に培養細胞に導入され得る。好ましくは、本発明の調製方法は、アデノウイルス(AdV)ヘルパープラスミドを導入する工程をさらに含む。AdVヘルパープラスミドは、AAVゲノムの複製などに必要とされるE1a、E1b、E2a、E4 orf4などのタンパク質をコードする。あるいは、必要なヘルパー機能を運搬する組換えウイルスもしくは非ウイルスベクター(例えばプラスミド、エピソームなど)を利用してもよい。こうした組換えウイルスは当該技術分野で既知でありかつ公表された技術に従って製造できる。多様なアデノウイルス株がATCC(American Type Culture Collection)から入手可能であり、また市販されてもいる。あるいは、多くのアデノウイルス株の配列は、例えば、公的なデータベース(例えば、PubMed、Genbankなど)より入手可能である。
【0052】
本発明において、好ましくは、AdVヘルパーは、培養細胞と同じ種のウイルスに由来する。例えば、ヒト培養細胞293Tを用いる場合、ヒトAdV由来のヘルパーウイルスベクターを用いることができる。このようなAdVヘルパーベクターとして、市販されているもの(例えば、Agilent Technologies社のAAV Helper-Free System (カタログ番号240071))を使用することができる。
【0053】
本発明のrAAVビリオンの調製において、上記の1種以上のプラスミドを培養細胞にトランスフェクションする方法は、例えば、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法など、公知の種々の方法を使用することができる。このような方法は、例えばMolecular Cloning 3rd Ed.、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons 1987-1997などに記載されている。
【0054】
3.本発明のrAAVビリオンを含む医薬組成物
本発明のさらなる実施形態において、本発明のrAAVビリオン(rAAVベクター)を含む医薬組成物が提供される。本発明のrAAVビリオンを含む医薬組成物(以下、本発明の医薬組成物という)利用することによって、被検体の神経系細胞に高い効率で遺伝子導入可能であり、この導入される遺伝子によって目的の疾患を治療できる方法を提供する。本発明のrAAVは、生体の血液脳関門を通過可能であるので、被検体に末梢投与することによって、本発明のrAAVを脳、脊髄などの神経系細胞に遺伝子の送達が可能である。すなわち、本発明のrAAVを使用する場合、脳実質内投与などのより慎重な操作を必要とする投与形態が不要であるので、より高い安全性を期待できる。
【0055】
1実施形態において、本発明のrAAVビリオンは、好ましくは神経系細胞特異的なプロモーター配列およびそのプロモーター配列と作動可能に連結された治療用遺伝子を含む。本発明のrAAVビリオンは、神経疾患(例、パーキンソン病、アルツハイマー病、トリプレットリピート病、プリオン病、筋萎縮性側策硬化症、脊髄小脳変性症、チャンネル病、てんかんなど)、先天性代謝障害(ウイルソン病、ペロキシゾーム病など)、脱髄性疾患(多発性硬化症など)、中枢神経感染症(例、HIV脳炎、細菌性髄膜炎など)、血管障害(脳梗塞、脳出血、脊髄梗塞)、外傷(脳挫傷、脊髄損傷など)、網膜疾患(加齢性黄斑変性症、糖尿病網膜症など)などに対する治療に有用である遺伝子を含むことができ、それら遺伝子を、例えば血液脳関門を通過して脳、脊髄、網膜の神経細胞中に組込むことができる。このような治療用遺伝子を含むrAAVビリオンは、本発明の医薬組成物に含められる。このような治療用遺伝子としては、例えば上記のような抗体、神経栄養因子(NGF)、成長因子(HGF)、酸性線維細胞増殖因子(aFGF)などをコードするポリヌクレオチドを選択できる。例えば、パーキンソン病に関係する治療標的遺伝子として、α−シヌクレインの発現抑制を行うアンチセンスポリヌクレオチド、RNAiなどが挙げられる。例えば、凝集性アミロイドβタンパク質を認識することのできる単鎖抗体をコードするポリヌクレオチドを選択することによって、アルツハイマー病を治療するためのrAAVビリオンを作製することができる。このようなrAAVビリオンを被検体に末梢投与することによって、パーキンソン病、アルツハイマー病などの神経疾患を治療することが期待できる。本発明の医薬組成物は、例えば、患者の脳神経細胞においてα−シヌクレインの発現量を低下させることによりパーキンソン病の治療に有用であり、あるいは凝集性アミロイドβタンパク質に対する抗体を発現させて患者の脳における凝集性アミロイドβタンパク質を低減させることによりアルツハイマー病の治療に有用である。
【0056】
本発明の医薬組成物を使用する場合、例えば、経口、非経口(静脈内)、筋肉、口腔粘膜、直腸、膣、経皮、鼻腔経由または吸入経由などですることができるが、非経口的に投与するのが好ましい。静脈内投与がさらに好ましい。本発明の医薬組成物の有効成分は単独で、あるいは組み合わせて配合されても良いが、これに製薬学的に許容しうる担体あるいは製剤用添加物を配合して製剤の形態で提供することもできる。この場合、本発明の有効成分は、例えば、製剤中、0.1〜99.9重量%含有することができる。
【0057】
製薬学的に許容しうる担体あるいは添加剤としては、例えば賦形剤、崩壊剤、崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、溶解剤、溶解補助剤、等張化剤、pH調整剤、安定化剤等を用いることができる。
【0058】
経口投与に適する製剤の例としては、例えば散剤、錠剤、カプセル剤、細粒剤、顆粒剤、液剤またはシロップ剤等を挙げることが出来る。経口投与の場合、微晶質セルロース、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸ジカリウム、グリシンのような種々の賦形剤を、澱粉、好適にはとうもろこし、じゃがいもまたはタピオカの澱粉、およびアルギン酸やある種のケイ酸複塩のような種々の崩壊剤、およびポリビニルピロリドン、蔗糖、ゼラチン、アラビアゴムのような顆粒形成結合剤と共に使用することができる。また、ステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、タルク等の滑沢剤も錠剤形成に非常に有効であることが多い。同種の固体組成物をゼラチンカプセルに充填して使用することもできる。これに関連して好適な物質としてラクトースまたは乳糖の他、高分子量のポリエチレングリコールを挙げることができる。経口投与用として水性懸濁液および/またはエリキシルにしたい場合、活性成分を各種の甘味料または香味料、着色料または染料と併用する他、必要であれば乳化剤および/または懸濁化剤も併用し、水、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン等、およびそれらを組み合わせた希釈剤と共に使用することができる。
【0059】
非経口投与に適する製剤としては、例えば注射剤、坐剤等を挙げることが出来る。非経口投与の場合、本発明の有効成分をゴマ油または落花生油のいずれかに溶解するか、あるいはプロピレングリコール水溶液に溶解した溶液を使用することができる。水溶液は必要に応じて適宜に緩衝し(好適にはpH8以上)、液体希釈剤をまず等張にする必要がある。このような液体希釈剤としては、例えば、生理食塩水を使用できる。調製された水溶液は静脈内注射に適し、一方、油性溶液は関節内注射、筋肉注射および皮下注射に適する。これらすべての溶液を無菌状態で製造するには、当業者に周知の標準的な製薬技術で容易に達成することができる。さらに、本発明の有効成分は皮膚など局所的に投与することも可能である。この場合は標準的な医薬慣行によりクリーム、ゼリー、ペースト、軟膏の形で局所投与するのが望ましい。
【0060】
本発明の医薬組成物の投与量は特に限定されず、疾患の種類、患者の年齢や症状、投与経路、治療の目的、併用薬剤の有無等の種々の条件に応じて適切な投与量を選択することが可能である。本発明の医薬組成物の投与量は、例えば、成人(例えば、体重60kg)1日当たり1〜5000mg、好ましくは10〜1000mgであるが、これらに限定されない。これらの1日投与量は2回から4回に分けて投与されても良い。また、投与単位としてvg(vector genome)を利用する場合、例えば、体重1kgあたり、109〜1014vg、好ましくは1010〜1013vg、さらに好ましくは1010〜1012vgの範囲の投与量を選択することが可能であるが、これらに限定されない。
【0061】
4.本発明のrAAVビリオンを用いる生体への遺伝子導入方法
本発明はさらなる実施形態において、本発明のrAAVビリオンを用いることによる生体の神経系細胞に遺伝子導入する方法(以下、本発明の方法という)を提供する。具体的には、本発明の方法において、被検体に本発明のrAAVビリオンを末梢投与する工程を含む。本発明の方法はさらに、本発明のrAAVビリオンが含む治療用遺伝子を脳、脊髄などの神経系細胞に遺伝子の送達する工程を含む。本発明のrAAVビリオンは、上記のとおり、生体(成体および胎児を含む)の血液脳関門を通過可能である。したがって、脳内投与などのより慎重な操作を必要とする投与形態が不要であるので、より高い安全性を期待できる。
【0062】
1実施形態において、本発明のrAAVビリオンは、好ましくは神経系細胞特異的なプロモーター配列およびそのプロモーター配列と作動可能に連結された治療用遺伝子を含む組み換えウイルスゲノムを含む(そのようなウイルスゲノムがパッケージングされている)。このような治療用遺伝子としては、例えば上記のような抗体、神経栄養因子(NGF)、成長因子(HGF)、酸性線維細胞増殖因子(aFGF)などをコードするポリヌクレオチドを選択できる。本発明の1実施形態において、例えば、凝集性アミロイドβタンパク質を認識することのできる単鎖抗体をコードするポリヌクレオチドを含むrAAVビリオンを被検体に末梢投与することによって、被検体の脳における凝集性アミロイドβタンパク質を低減させ、アルツハイマー病を治療することが期待できる。また、本発明のrAAVビリオンを用いて、神経細胞における遺伝子上の不具合(先天的なものおよび後天的なものを含む)を治療(緩和、改善、修復など)することを期待できる。
【0063】
5.本発明のキット
本発明は別の実施形態において、本発明のrAAVを作製するためのキットを提供する。このようなキットは、例えば、上記の(a)第1のポリヌクレオチド、および(b)第2のポリヌクレオチドを含むことができる。例えば、第1のポリヌクレオチドは、配列番号:8、10および12のタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む。例えば、第2のポリヌクレオチドは、目的の治療用遺伝子を含んでも含まなくてもよいが、好ましくは、そのような目的の治療用遺伝子を組込むための種々の制限酵素切断部位を含むことができる。
【0064】
本発明のrAAVビリオンを作製するためのキットは、本明細書中に記載されるいずれの構成(例えば、AdVヘルパーなど)もさらに含むことができる。本発明のキットはまた、本発明のキットを使用してrAAVビリオンを作製するためのプロトコルを記載した指示書もさらに含み得る。
【0065】
本明細書中、特には説明されない用語については、当業者が通常理解する用語が意味する範囲を指すことが意図される。
【実施例】
【0066】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されるものではない。
【0067】
材料及び方法
(1) AAVの外被(カプシド)蛋白VP1の改変
1型AAV (AAV1)、2型AAV (AAV2)、9型AAV (AAV9)という3種類のAAVについて、それぞれの外被蛋白VP1をコードする塩基配列を含むプラスミドpAAV1-RC、pAAV2-RC、pAAV9-RCを鋳型として使用した。これらのプラスミドは文献(Handa, et.al., J Gen Virol, 81: 2077-2084, 2000)に記載されたAAV3 Rep/VPに由来し、AAV3のRep配列を含む(Muramatsu, et al., Virology 221, 208-217(1996))。これらのAAVのVP1の塩基配列はGeneBankにそれぞれAccession No. AF063497、AF043303、AY530579として既に報告されている(それぞれ、配列番号:1、3および5に示される)。以下に示すプライマーを合成し、Quick Change II XL site-directed mutagenesis kit (Stratagene社)を使用して、それぞれAAV1のVP1アミノ酸配列(配列番号:2)の445番目、AAV2のVP1アミノ酸配列(配列番号:4)の444番目、AAV9のVP1アミノ酸配列(配列番号:6)の446番目に位置するチロシン(Y)残基をフェニルアラニン(F)残基で置換した。置換されたアミノ酸配列AAV1-yfVP1(配列番号:8)、AAV2-yfVP1(配列番号:10)およびAAV9-yfVP1-3(配列番号:12)それぞれをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドpAAV1-yfRC、pAAV2-yfRC、pAAV9-yfRCを作製した。また、pAAV1-yfRC、pAAV2-yfRC、pAAV9-yfRCはいずれもAAV2のRepをコードするヌクレオチド配列(配列番号:15)を含む。

yfAAV1-F:5' - CGACCAATACCTGTATTTCCTGAACAGAACTC -3' (配列番号:17)
yfAAV1-R:3' - GCTGGTTATGGACATAAAGGACTTGTCTTGAG - 5’ (配列番号:18)
yfAAV2-F:5' - CGACCAGTACCTGTATTTCTTGAGCAGAACAAAC -3' (配列番号:19)
yfAAV2-R:3' - GCTGGTCATGGACATAAAGAACTCGTCTTGTTTG - 5’ (配列番号:20)
yfAAV9-F:5' - CGACCAATACTTGTACTTTCTCTCAAAGAC -3' (配列番号:21)
yfAAV9-R:3' - GCTGGTTATGAACATGAAAGAGAGTTTCTG - 5’ (配列番号:22)
【0068】
(2) rAAVベクターの作製
(a) ベクターゲノムプラスミドの作製
神経細胞特異的プロモーターとしてシナプシンI(Synapsin I (SynI) プロモーター (GeneBank Accession No. M55300.1、配列番号:23)、あるいは乏突起膠細胞(オリゴデンドログリア)特異的プロモーターとしてミエリン塩基性蛋白(MBP)プロモーター(GeneBank Accession No. M63599 、配列番号:24)を使用した。また、対照としてcytomegalovirus enhancer/chicken β-actin promoter (CAG)プロモーター(Niwa H,et al., Gene 108:193-200, 1991)を使用した。これらのプロモーターと緑色蛍光蛋白質(GFP)の塩基配列 (TAKARA 製品コードZ2468N)を、3型AAV (AAV3)のDNA配列を含むプラスミドpAAV3の5'側と3'側のインバーテッドターミナルリピートinverted terminal repeats (ITR)と呼ばれるヘアピンDNA配列の間に挿入して、3種類のプラスミドpAAV-SynI-GFP、pAAV-MBP-GFP、pAAV-CAG-GFPを作製した。これらのプラスミドの基本構造は、Li et al., Mol Ther 13:160-166. 2006に記載される。
【0069】
(b) HEK 293細胞へのトランスフェクション
<第1日目>
225cm2フラスコに1.5×106のHEK293細胞をまき、10% FCS-DMEM/F12培地を使用して5%CO2、37℃で培養した。
<第3日目>
リン酸カルシウム法でトランスフェクションを行った。以下の10種類の組み合わせのプラスミド(AAVベクタープラスミド+AAVヘルパープラスミド)と、アデノウイルス(AdV)の塩基配列を含むヘルパープラスミドpHelper(Agilent Technologies社のAAV Helper-Free System (カタログ番号240071))とを、各25μgずつ(計75μg)0.3M CaCl2中で混合した。
【表1】
その後、2×HBS (80 mM NaCl, 50 mM Hepes buffer, 1.5 mM Na2HPO4(pH7.10))を加え、DNA-リン酸カルシウムを作製した。フラスコ中の培養液をDNA-リン酸カルシウムを添加した培地と入れ換え、数時間培養した後に培地を交換した。
<第6日目>
上述の組み合わせで得られる10種類の組換えウイルスビリオン(上記表中「rAAVビリオン」)を回収した。0.5M EDTAを加えて細胞を培養ディッシュより剥がし、TBS (100 mM Tris HCl, pH 8.0, 150 mM NaCl)に懸濁した。ドライアイスエタノールと37℃のウォーターバスを使用して凍結/融解を3回繰り返し、細胞を破砕した。10,000×gで10分間遠心した後、上清を回収して粗大な細胞破片を除去した。
【0070】
(c)ウイルスベクターの精製
以下の手順に従って、塩化セシウムCsClの密度勾配による超遠心を行いrAAVベクターを精製した。超遠心チューブ内に1.5 Mおよび1.25 MのCsCl を重層し密度勾配を作製した。rAAVベクターを含む細胞破砕溶液を重層後、超遠心(30,000 rpm、2.5時間)を行った。屈折率を計測してRI:1.365〜1.380のrAAVベクターを含む画分を回収した。この分画を再度CsCl溶液上に重層し、超遠心(36,000rpm、2.5時間)を行ってrAAVを含む分画を得た。
【0071】
(d)ウイルスベクター力価の測定 (リアルタイムPCR)
精製したrAAVの10-2〜10-6の希釈系列を作製した。GFP配列をスタンダードとしたプライマーセット(配列番号:25及び26)を使用して、Applied Biosystems 7900HT Fast リアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems社)で定量した。
【実施例1】
【0072】
1.成体マウス脳神経細胞への遺伝子導入
(1)マウス心腔内へのrAAVベクターの投与
生後4か月齢の成体マウスC57BL6、雄、30頭(各ベクターにつき3頭)を使用した。ネンブタールを体重30gあたり200μl腹腔内投与して麻酔し、小動物固定装置に固定した。インスリン注射用の1mlシリンジを使用して、経皮的に左心室を穿刺し、PBSで希釈した上記の各ベクターを2×1012 vg(投与容量:100μl)注入した。麻酔が覚醒するまでヒーティングパッド上に置いたケージで観察した。その後、マウスケージを感染動物用ラックに戻した。
【0073】
(2) 免疫組織化学
深い麻酔下で、PBSを使用し、その後、4%氷冷PFAを使用して、マウスを還流した。脳と脊髄を取り出し、次いで4% PFA中で4時間、後固定した。前頂(Bregma)から前方0.7 mm後方2.5mmまでの範囲(3.2 mm)の脳の冠状断面切片(40μm)を作製した。また、頚髄の水平断切片(40μm)を作製した。2% Mouse IgG Blocking solution(M.O.M Kit; Vector Laboratories,Burlingame,CA,USA)を含有する0.3% TritonX-100/PBS 中で1時間ブロッキングした。次いでNeuN (1:100, mouse anti-Neuronal nuclei monoclonal antibody; Chemicon, Temecula, CA, USA)とGFP (1:1000, rabbit anti-GFP polyclonal antibody; Abcam, Cambridge, MA, USA)とともに4℃で一晩インキュベートした。その後、Alexa Fluor(登録商標) 594 anti-mouse IgG, Alexa Fluor(登録商標) 488 anti-rabbit IgG (1:500, Invitrogen, Carlsbad, CA, USA )とともに、室温で2時間インキュベーションし可視化した。共焦点レーザー顕微鏡(TCS NT;Leica,Heidelberg,Germany)のもとで観察し、200μm間隔の切片で、大脳皮質の0.04 mm3 (1mm×1 mm×40 μm)の範囲、および脊髄の一切片あたりのGFPおよびNeuN陽性細胞を計測した。また、脊髄のGFP陽性細胞を、以下に述べるGFP/ChAT二重免疫蛍光染色により同定した。頚髄の切片を同様にブロッキングした後ChAT(1:100に希釈、 mouse anti-ChAT polyclonal antibody ; Chemicon, Temecula, CA, USA)とGFP (1:1000に希釈, Abcam)とともに4℃で一晩インキュベートした。その後、Alexa Fluor(登録商標) 594 anti-mouse IgG, Alexa Fluor(登録商標) 488 anti-rabbit IgG (1:500, Invitrogen )とともに、室温で2時間インキュベーションし可視化、GFP/NeuN二重染色と同様に観察した。
GFP/Olig2二重免疫蛍光染色のために、切片を3%ヤギ血清を含有する0.3% TritonX-100/PBS中でブロッキングした後、Olig2 (1:50に希釈、rabbit anti-Olig2 polyclonal antibody; IBL, Takasaki, Gunma, Japan)とともに4℃で一晩インキュベートした。その後Alexa Fluor(登録商標) 594 anti-rabbit IgG、続いてAlexa Fluor(登録商標) 488 conjugated anti-GFP rabbit polyclonal antibody(1:400に希釈, Invitrogen)とともに室温で2時間ずつインキュベートした。他の蛍光免疫染色と同様に観察し、蛍光を発する細胞数を計測した。
【0074】
2.結果
(1) 上記表1に記載の組合せのうち、以下の6種類のrAAVベクターを生じる組合せでは、大脳皮質および脊髄の神経細胞にGFPの発現は認められなかった。
AAV1-CAG-GFP (サンプルID:1)、
yfAAV1-CAG-GFP (サンプルID:2)、
AAV1-SynI-GFP(サンプルID:3)、
AAV2-SynI-GFP(サンプルID:5)、
yfAAV2-SynI-GFP(サンプルID:6)、
AAV9-CAG-GFP (サンプルID:7)
【0075】
(2) yfAAV1-SynI-GFPの組合せ(サンプルID:4)では、大脳および脊髄の神経細胞でGFPの発現が認められた。一方、AAV1-SynI-GFPの組合せ(サンプルID:3)では、陽性細胞はみられなかった(図1)。したがって、AAV1のカプシドタンパク質VP1の445番目のチロシン(Y)をフェニルアラニン(F)で置換したことにより、脳内の神経細胞への高効率の遺伝子導入が可能になったこと示す。
【0076】
(3) yfAAV9-CAG-GFP(サンプルID:8)では、少数の神経細胞でGFPの発現が見られたが、GFP陽性細胞の大部分は神経細胞ではなくグリア細胞であった。一方、yfAAV9-SynI-GFP(サンプルID:9)では、さらに約4倍の数のGFP陽性の神経細胞を確認した(図2A、2Bおよび図3)。また、yfAAV9-MBP-GFPでは、多数のGFP陽性の乏突起膠細胞を確認した(図2C)。したがって、神経細胞特異的プロモーターあるいは乏突起膠細胞特異的プロモーター配列を用いることによって、末梢投与したrAAVベクターによる脳内神経細胞および乏突起膠細胞への高効率の遺伝子導入が可能になったことを示す。
rAAVビリオンを末梢投与するのではなく脳内へ直接注入する場合、CAGプロモーターを利用する場合であっても神経細胞への導入効率が十分高く、遺伝子発現レベルはSynIプロモーターより2〜4倍以上高いことが具体的に示されている(Hioki et al., Gene Ther 14:872-882, 2007など)。しかし、本願のrAAVビリオンを末梢血管内投与する場合、CAGプロモーターを利用したrAAVビリオンは、神経細胞ではなくグリア様細胞で遺伝子発現の大部分が認められた。通常のCMV プロモーターを用いたrAAVベクターを用いた場合も同様に、成体では大部分のものが神経細胞ではなくグリア様細胞に導入された。
一方、神経細胞での遺伝子発現は神経細胞特異的プロモーターであるSynIの方がCAGプロモーターよりも優れていた。したがって、上記の結果は、本発明のrAAVビリオンと組み合わせるプロモーターとしては、CAGプロモーターのような非特異的な一般的に強力なプロモーターよりもむしろ、SynIなどの神経細胞特異的プロモーターがより有利であり、これらの組合せによって、末梢投与による神経細胞への遺伝子導入に対して相乗的な効果を発揮することを示している。
【0077】
脊髄では、頚髄の切片1枚あたり 24 ± 3.5 個のGFPとNeuNが陽性の神経細胞が認められた。さらに、各切片のGFP陽性細胞のうち4〜5個はChAT陽性の運動神経細胞であった(図4)。したがって、神経細胞特異的プロモーター(SynI)または乏突起膠細胞特異的プロモーター(MBP)を使用することにより、成体マウスの脳と脊髄の神経細胞および乏突起膠細胞に対して、末梢投与によって安定して遺伝子導入可能であることを示した。
【0078】
3.まとめ
上記の結果より、野生型AAV1/2/9のカプシドタンパク質VP1のそれぞれ445/444/446位のチロシン(Y)残基をフェニルアラニン(F)残基で置換したこと、ならびに神経細胞特異的プロモーターであるSynIプロモーター配列又はMBPプロモーター配列を目的の治療用遺伝子と組合せて使用することにより、本発明のrAAVベクターは、成体マウスに対しする末梢投与によって、血液脳関門を通過可能であり、最終的に脳および脊髄の神経系細胞に高い効率で遺伝子導入可能であることを示した。
【実施例2】
【0079】
母親マウスへの末梢投与による胎仔脳への遺伝子導入
母親マウスの羊膜血管内にrAAVベクターを投与することによって、胎仔に遺伝子導入を行ったことが報告されている(RAHIM ET AL.,FASEB Journal, pp1-14, Vol. 25 October 2011)。そこで、本発明のrAAVベクターを母親マウスに末梢投与した場合における胎児への遺伝子導入について試験した。
【0080】
材料及び方法
rAAVベクター:yfAAV9-SynI-AcGFP1(サンプルID:9)
力価: 1.3 × 1013 vector genome/ml
投与容量: 50 μl

投与方法
妊娠13日目に母マウス(3頭)に上記rAAVベクターを心腔内投与し、その後生まれた仔マウス(計9頭)について、生後1日、3週、4週および11週目に4%パラフォルムアルデヒド(PFA)により還流固定し、各脳の海馬付近について冠状断切片(厚さ 40μm)を作製した。作製した各切片試料において、上記と同様に、神経細胞内に発現されるGFPを検出した。
【0081】
結果
5頭分の合計20枚の切片試料について発現されるGFPを計測したところ、平均して4.6個/切片のGFP陽性細胞が認められた(図5)。したがって、本発明のrAAVベクターは、母体に末梢投与する場合であっても、胎仔の脳神経細胞への遺伝子導入が可能であることを示した。
【実施例3】
【0082】
組み換えAAVベクター:yfAAV9-SynI-GFP-miAADCを用いた脳神経細胞における芳香族アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)の発現制御
本発明のrAAVベクターは、ウイルスゲノム中にmiRNAなどを組み込むことによって内在性遺伝子の発現制御を可能とする治療用ベクターとして有用であるかどうか試験した。具体的な手順としては、yfAAV9-SynI-GFP(サンプルID:9)をベースに、yfAAV9を外被蛋白として含み, 神経細胞特異的Synapsin I プロモーターによりマウス芳香族アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)に対するmiRNAと蛍光緑色蛋白(GFP)とを発現するrAAVベクターを作製し、これをマウスに投与して、脳神経細胞内のAADCを低下できるかを試験した。
使用するmiRNAとしては, マウスAADC (Genebank accession No. NM_016672) の塩基番号831〜851に相当する5'-TGCCTTTATGTCCTGAATT-3'(配列番号:27)を目標とした下記の配列を合成した。

5'-GAATTCAGGACAGATAAAGGCAGTTTTGGCCACTGACTGACTGCCTTTATGTCCTGAATT-3'(配列番号:28)
この配列を、上記表1のサンプルID:9に示すrAAVベクターゲノムプラスミドpAAV-SynI-GFP中のGFP遺伝子の下流に組み込むことによってpAAV-SynI-GFP-miAADCを作製し(配列番号:29を参照)、サンプルID:9と同様に、AAVヘルパープラスミドpAAV9-yfRC及びAdVヘルパープラスミドpHelperを同時に使用して、rAAVビリオンyfAAV9-SynI-GFP-miAADCを調製した。
【0083】
材料及び手順
rAAVベクター:yfAAV9-SynI-GFP-miAADC
力価: 1.7×1014vector genome/ml
成体マウス: C57BL/6J 10週齢 雄性 4匹
心腔内投与: 50μl/匹

脳組織解析の手順
rAAVベクター投与2週間後に4%パラフォルムアルデヒド(PFA)で還流固定し, その後, 脳を取り出し後、固定4時間, 10% → 20% → 30%シュクロースを経て, スライドガラス上に厚さ40μmの冠状断切片を作製した。免疫染色のため, 3% normal goat serumで切片試料をブロッキングした後, 一次抗体として、ウサギ抗AADC (anti-AADC、1:5000に希釈、名古屋大学の永津 俊治博士より供与された)及び マウス抗チロシンヒドロキシラーゼ(anti-TH) (Dia Sorin 1:800に希釈)を切片試料と4℃で一晩反応させた。 二次抗体としてAlexa Fluor(登録商標) 594 抗ウサギIgGとAlexa Fluor(登録商標) 405 抗マウスIgG(以上、共にLife technologies、1:1000に希釈)を用い、これら抗体の各々と各切片試料とを室温で2時間反応させた。その後Alexa Fluor(登録商標) 488 conjugate anti-GFP (Life technologies、1:400に希釈)を用い、この抗体と各切片試料とを室温で1時間反応させた。切片試料中の各蛍光物質を、共焦点レーザー走査型顕微鏡(FV10i; Olympus, Tokyo)で画像化した(図6)。
【0084】
結果
図6の左図(anti-GFP)には、黒質緻密部に5個のGFP陽性の細胞がみられたことから、本発明のrAAVベクターが上記実施例と同様に神経細胞に遺伝子導入できたことを確認した。これら神経細胞についてanti-AADCを反応させた結果を見ると、バックグラウンド程度であり、有意には呈色されなかった(図5の中央図、anti-AADC)。したがって、本発明のrAAVベクターを用いて脳神経細胞においてAADCの発現を有意に低下させることができた。対照として、細胞内タンパク質であるチロシンヒドロキシラーゼ(Tyrosine hydroxylase:TH)の発現が維持されているのを確認した(図5の右図、anti-TH)。以上より、本発明のrAAVベクターは、脳神経細胞に対して遺伝子導入可能であり、ウイルスゲノム中にmiRNAなどを組み込むことによって内在性遺伝子を発現抑制させるなどの治療用ベクターとして有用であることを示した。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ビリオンは血液脳関門を通過可能であるので、末梢投与といった平易な投与手段によって神経系細胞に遺伝子導入可能である。したがって、例えば、抗体、神経栄養因子などの有用タンパク質をコードするポリヌクレオチドを本発明の組換えベクターに組込むことにより、神経系細胞への遺伝子導入が可能な医薬組成物を提供できる。例えば、アルツハイマー病の原因となるアミロイドβタンパク質凝集体に対する抗体をコードする遺伝子を組込んだ本発明の組換えベクターは、アルツハイマー病のより安全な治療手段を提供できる。また、本発明のウイルス粒子調製方法、および/または本発明のキットを使用することによって、神経系細胞に目的の遺伝子を導入するためのウイルス粒子を作製できる。
【配列表フリーテキスト】
【0086】
配列番号:1 野生型AAV1由来カプシドタンパク質AAV1-VP1ヌクレオチド配列 (GenBank:NC_002077.1)
配列番号:2 野生型AAV1由来カプシドタンパク質AAV1-VP1アミノ酸配列(GenBank:NC_2077.1)
配列番号:3 野生型AAV2由来カプシドタンパク質AAV2-VP1ヌクレオチド配列(GenBank:NC_001401.2)
配列番号:4 野生型AAV2由来カプシドタンパク質AAV2-VP1アミノ酸配列(GenBank:NC_001401.2)
配列番号:5 野生型AAV9由来カプシドタンパク質AAV9-VP1ヌクレオチド配列(GenBank:AY530579.1)
配列番号:6 野生型AAV9由来カプシドタンパク質AAV9-VP1アミノ酸配列(GenBank:AY530579.1)
配列番号:7 AAV1由来カプシドタンパク質変異体AAV1-yfVP1ヌクレオチド配列
配列番号:8 AAV1由来カプシドタンパク質変異体AAV1-yfVP1アミノ酸配列
配列番号:9 AAV2由来カプシドタンパク質変異体AAV2-yfVP1ヌクレオチド配列
配列番号:10 AAV2由来カプシドタンパク質変異体AAV2-yfVP1アミノ酸配列
配列番号:11 AAV9由来カプシドタンパク質変異体AAV9-yfVP1ヌクレオチド配列
配列番号:12 AAV9由来カプシドタンパク質変異体AAV9-yfVP1アミノ酸配列
配列番号:13 AAV3由来5'側ITRヌクレオチド配列 (GenBank NC_001729由来)
配列番号:14 AAV3由来3'側ITRヌクレオチド配列
配列番号:15 AAV2由来rep遺伝子ヌクレオチド配列
配列番号:16 AAV2由来Repタンパク質アミノ酸配列
配列番号:17 変異導入プライマー1(yfAAV1-F)ヌクレオチド配列
配列番号:18 変異導入プライマー2(yfAAV1-R)ヌクレオチド配列
配列番号:19 変異導入プライマー3(yfAAV2-F)ヌクレオチド配列
配列番号:20 変異導入プライマー4(yfAAV2-R)ヌクレオチド配列
配列番号:21 変異導入プライマー5(yfAAV9-F)ヌクレオチド配列
配列番号:22 変異導入プライマー6(yfAAV9-R)ヌクレオチド配列
配列番号:23 シナプシンIプロモーター配列(GenBank:M55300.1)
配列番号:24 ミエリン塩基性タンパク質プロモーター配列(GenBank:M63599(ヒト)由来)
配列番号:25 GFP検出用プライマー1ヌクレオチド配列
配列番号:26 GFP検出用プライマー2ヌクレオチド配列
配列番号:27 マウス芳香族アミノ酸脱炭酸酵素(AADC:Genebank accession No. NM_016672)の831〜851塩基に対して設計したヌクレオチド配列
配列番号:28 マウス芳香族アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)に対するmiRNAを生じるためのヌクレオチド配列
配列番号:29 GFP及びマウス芳香族アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)に対するmiRNA(配列番号:28)を発現するヌクレオチド配列
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]