特許第5907586号(P5907586)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5907586誘電特性測定用耐圧容器センサー及びその測定条件変更方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5907586
(24)【登録日】2016年4月1日
(45)【発行日】2016年4月26日
(54)【発明の名称】誘電特性測定用耐圧容器センサー及びその測定条件変更方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/22 20060101AFI20160412BHJP
   G01R 27/26 20060101ALI20160412BHJP
【FI】
   G01N27/22 B
   G01N27/22 A
   G01R27/26 H
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2010-270725(P2010-270725)
(22)【出願日】2010年12月3日
(65)【公開番号】特開2012-118030(P2012-118030A)
(43)【公開日】2012年6月21日
【審査請求日】2013年11月27日
【審判番号】不服2015-6362(P2015-6362/J1)
【審判請求日】2015年4月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】597135194
【氏名又は名称】マルボシ酢株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097825
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 久紀
(72)【発明者】
【氏名】星野 宗広
(72)【発明者】
【氏名】上野 裕
(72)【発明者】
【氏名】田中 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】末次 卓也
(72)【発明者】
【氏名】高水 新
(72)【発明者】
【氏名】後藤 元信
【合議体】
【審判長】 郡山 順
【審判官】 三崎 仁
【審判官】 信田 昌男
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−225641(JP,A)
【文献】 実開平6−46367(JP,U)
【文献】 特開2002−277427(JP,A)
【文献】 特開2008−224387(JP,A)
【文献】 特開2009−025185(JP,A)
【文献】 特開2003−139735(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N27/00-27/10,G01N27/14-27/24,G01R27/00-27/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒型耐圧容器電極と上下耐圧容器蓋を有し、容器中央部に該円筒型耐圧容器電極の対となる円柱状若しくは円筒状電極が平行に絶縁体を介して設置され、該円柱状若しくは円筒状電極は導線を介して容器外部に絶縁状態で導かれてなる、耐圧容器センサーの容器体積が20〜30mL、円筒型耐圧容器電極の肉厚が6mmの誘電特性測定用耐圧容器センサーにおいて、容器中央部の円柱状若しくは円筒状電極と円筒型耐圧容器電極がステンレス製であって、且つ、両電極に密着された絶縁体により両電極間の間隔が固定されてなること、を特徴とする食品の誘電特性測定用小型耐圧容器センサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品等の各種流体の誘電特性を測定する小型耐圧容器センサー及びその誘電特性測定条件の変更方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物質は固有の誘電特性を持つことから、電場に置くことにより誘電分極を示し、電気容量、誘電率、誘電損失、誘電緩和などを知ることができる。これらの特性は、原子団や分子の運動状態を直接反映する。従って、誘電特性を測定することは、測定試料における構成成分の分子状態やその変化を検出する有効的な手段となる。
【0003】
誘電特性の測定は、非破壊条件下で直接的に測定できる有効な手段であることから、食品、医療、化学等の分野で広く応用が試みられている。応用例としては、食品においては、含水率や食用油の劣化状態(例えば特許文献1など)、巨視的観点からのソース等調味料の品質管理、また発酵現場においては菌体数のモニタリング等が挙げられる。医療分野では、非観血的に皮膚より血中のグルコースレベルを測定する方法が考案されている(特許文献2)。また、混合燃料中のアルコール含有率などの測定にも応用されている。
【0004】
天然物からの食品素材や機能性物質などの抽出においては、目的とする溶質に対する適切な溶媒を選択する必要があるが、従来、溶解挙動の指標として溶解度パラメータを用いた抽出プロセスが検討されてきている。溶解度パラメータは個々の蒸発潜熱により定義され、経験的に溶質−溶媒間の溶解度パラメータ値が近いほど相溶性が高まる事が分かっており、溶けやすさを判断する目安として用いられているが、極性が高い水素結合性の物質間ではあてはめることが困難である。
【0005】
一方、個々の物質は電場内において、単一相に限らず混合相においての全体的な誘電特性を実測する事が可能である。誘電特性の変化を測定するに当たり、電極表面積(S)と電極間距離(d)が一定である電場領域に誘電体(測定試料)を挿入した場合、誘電率(ε)と電気容量(C)との関係はC=ε(S/d)で表わされる。従って、電気容量(C)はインピーダンスアナライザーやLCRメーターを用いることで容易に計測する事が可能であるため、測定試料の誘電率の変化を電気容量の変化として測定できる。そして、溶解度パラメータと同様に溶質−溶媒間の誘電率差が小さいほど混合性が高いことが報告されていることから、電気容量の測定によって適切な溶媒選択が可能となる。
【0006】
このように、食品等の各種流体の誘電特性を測定することは、これらの物理的変化や性質を非破壊で直接観測できるという大きな利点を有しており非常に有効であるが、電極設置等の点から測定装置が大型化してしまう、測定対象流体の性質により構造を変える必要がでてくる等の傾向が見られる。このため、幅広い流体の誘電特性を簡便に測定するための汎用性の高い測定機器の開発が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2005−515436号公報
【特許文献2】特開2010−188135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、食品等の各種流体(気体、液体、高温高圧下における超臨界流体等の様々な流体、及び、流体に溶解した試料等)に幅広く適用する、小スペースで誘電特性を簡便に測定するための汎用性の高い測定機器を提供すること、及びその好適な構成等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究の結果、以下の構成を有する誘電特性測定用小型耐圧容器センサーを開発するに至った。なお、下記の(1)〜(5)は、図1の各符号に対応している。
【0010】
電極となる金属性の円筒型耐圧容器(2)と上下耐圧容器蓋(1)を有し、容器中央部に耐圧容器電極の対となる円柱状若しくは円筒状電極(3)が平行に絶縁体(4)を介して設置され、該円柱状若しくは円筒状電極(3)は導線(5)を介して耐圧容器外部に絶縁状態で導かれてなること、を特徴とする誘電特性測定用耐圧容器センサー。
【0011】
そして、本発明者らはさらに、上記誘電特性測定用耐圧容器センサーの新規構成、及び、誘電特性測定条件を簡便に(容易に)変更するための下記本発明を開発した。
【0012】
(I)上記誘電特性測定用耐圧容器センサーにおいて、容器中央部の円柱状若しくは円筒状電極(3)と耐圧容器電極(1)、(2)が同一の素材であって、且つ、両電極に密着された絶縁体(4)により両電極間の間隔が固定されてなること、を特徴とする誘電特性測定用耐圧容器センサー。
(II)(I)に記載の誘電特性測定用耐圧容器センサーにおいて、容器中央部の円柱状若しくは円筒状電極(3)の形状のみを変更すること、を特徴とする該センサーの誘電特性測定条件の簡便な変更方法。
(III)容器中央部の円柱状若しくは円筒状電極の胴部分の径のみを変更すること、を特徴とする(II)に記載の方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、気体、液体、超臨界流体等の幅広い相状態の流体の誘電特性を小スペースで簡易に測定する事ができる誘電特性測定用耐圧容器センサーにおいて、対電極を同一の素材とすることで、容器中央部の円柱状若しくは円筒状電極の径等の形状を変えるだけで電場の体積、電極間距離、電極表面積など(つまり誘電特性の測定条件)を容易に変える事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】誘電特性測定用耐圧容器センサーの一例の断面図を示す。
図2】本発明の構成例を示す。左側は図1より胴径を大きくした円柱状電極、右側はその円柱状電極の耐圧容器への適用例を示した。
【発明を実施するための形態】
【0015】
誘電特性測定用耐圧容器センサーの耐圧容器は、円筒型および上下のナットとなる蓋によって構成される。材質(素材)はステンレス等の金属製のものを用いることで、この容器自体が電極としての役割を果たすことが特徴のひとつである。これにより、従来から用いられている平板電極やシリンダー型の電極を圧力容器内に設置する必要が無く、容器の小型化及び設計の簡便性を実現している。特にSUS316等の耐腐食性、耐熱性の高いものを素材として用いることで、超臨界流体等の過酷な反応場にも適用できる。これと対となる容器内部の円柱状若しくは円筒状電極は、円筒型耐圧容器と平行に絶縁体を介して設置される。
【0016】
そして、上記誘電特性測定用耐圧容器センサーでは対電極間において対象流体の誘電特性を測定するものであるが、本発明は、当該円柱状若しくは円筒状電極が耐圧容器電極と同一素材であり且つ両電極に密着された絶縁体により両電極間の間隔が固定されているため、円柱状若しくは円筒状電極の形状、特に胴部分の径を変えることで、容易に電場の体積、電極間距離、電極表面積などを容易に変える事が可能となり、つまり誘電特性測定条件の変更が容易となる。
【0017】
なお、容器体積は20〜30mL程度とし、円筒の肉厚は6mm程度とする。これにより、小型であり且つ高い耐圧性を保持する事ができる。耐圧容器の外表面は、外部からの電気的な干渉から保護するため、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等、耐熱性、耐薬品性に優れた絶縁素材による塗装を施すことが好ましい。そして、円柱状若しくは円筒状電極は、テフロン(登録商標)樹脂等の絶縁体で被覆されたPt等の導線を介することで、耐圧容器外部に導く。
【0018】
このような誘電特性測定容器は、ヒーターまたはオーブン等で適切な温度条件下に置いて、流体および測定試料をポンプ等で流入させ、背圧弁またはレギュレーターにより適切な圧力条件下を達成する事で目的の誘電特性を測定する。誘電特性の測定は、例えば10Hz〜100MHzの低周波から高周波範囲における誘電体の誘電特性をLCRメーターまたはインピーダンスアナライザーを接続することで行う。
【0019】
測定対象となる流体は、水、メタノール、エタノール、アセトン、n−ヘキサン、フェノール、クロロホルム、ジクロロメタン、アセトニトリル、二酸化炭素等の溶媒全般、また、これらの混合溶媒ならびにこれらの超臨界流体を含む。溶質成分に関しては、テルペノイドや脂肪酸等の炭化水素化合物、ポリフェノール類、炭水化物等の有極性成分が主な対象となる。また、これらの溶媒、溶質で構成される食品自体も測定対象となり、特に様々な粘度の流体について測定可能であることが特徴である。
【0020】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【実施例】
【0021】
小スペースで誘電特性を簡便に測定するための誘電特性測定用耐圧容器センサーの構成の一例の断面図を図1に示した。図1においては、金属性の円筒型耐圧容器(2)と上下耐圧容器蓋(1)が耐圧容器電極を構成し、容器中央部に耐圧容器電極の対となる円柱状若しくは円筒状電極(3)が平行に絶縁体(4)を介して設置され、対となる円柱状若しくは円筒状電極(3)は導線(5)を介して耐圧容器外部に絶縁状態で導かれている。なお、耐圧容器表面は絶縁塗装(6)を施している。
【0022】
次に、本発明の一例として、図1より胴径を大きくした円柱状電極を用いた場合を図4に示した。この例では、容器中央部の円柱状電極(右側)と耐圧容器電極が同一の素材であり且つ両電極に密着された絶縁体により両電極間の間隔が固定されているため、円柱の胴部分の径を変えるだけで、容易に電場の体積、電極間距離および電極表面積が図1の条件より変更できている。
【0023】
本発明を要約すれば、以下の通りである。
【0024】
本発明は、食品等の各種流体に幅広く適用する、小スペースで誘電特性を簡便に測定するための汎用性の高い測定機器を提供すること、及びその好適な構成等を提供することを目的とする。
【0025】
そして、電極となる金属性の円筒型耐圧容器と上下耐圧容器蓋を有し、容器中央部に耐圧容器電極の対となる円柱状若しくは円筒状電極がこれと平行に絶縁体を介して設置され、該円柱状若しくは円筒状電極は導線を介して耐圧容器外部に絶縁状態で導かれてなる誘電特性測定用耐圧容器センサーにおいて、容器中央部の円柱状若しくは円筒状電極と耐圧容器電極が同一の素材であって、且つ、両電極に密着された絶縁体により両電極間の間隔が固定されるものが提供される。そして、容器中央部の円柱状若しくは円筒状電極の形状のみを変更するだけで、容易に誘電特性測定条件を変更できる。
図1
図2