(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5907620
(24)【登録日】2016年4月1日
(45)【発行日】2016年4月26日
(54)【発明の名称】バッキングプレート及びスパッタリングターゲット
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20160412BHJP
【FI】
C23C14/34 C
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-100231(P2012-100231)
(22)【出願日】2012年4月25日
(65)【公開番号】特開2013-227619(P2013-227619A)
(43)【公開日】2013年11月7日
【審査請求日】2015年1月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229173
【氏名又は名称】日本タングステン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000119988
【氏名又は名称】宇部マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082164
【弁理士】
【氏名又は名称】小堀 益
(74)【代理人】
【識別番号】100105577
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 隆人
(72)【発明者】
【氏名】安河内 利一
(72)【発明者】
【氏名】味冨 晋三
(72)【発明者】
【氏名】馬場 俊幸
(72)【発明者】
【氏名】高巣 正信
(72)【発明者】
【氏名】佐野 聡
(72)【発明者】
【氏名】西村 芳寛
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 高行
(72)【発明者】
【氏名】加藤 裕三
【審査官】
伊藤 光貴
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭62−067168(JP,A)
【文献】
特開2002−161361(JP,A)
【文献】
特開平11−200030(JP,A)
【文献】
特開平10−306370(JP,A)
【文献】
国際公開第2007/074872(WO,A1)
【文献】
特開2002−194537(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0045050(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2002/0096428(US,A1)
【文献】
特開2007−162039(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面にセラミック材料からなるスパッタリングターゲット材が接合されるバッキングプレートであって、
連続した開気孔を持つスケルトン構造を有する第1の材料の前記開気孔に、第2の材料が充填された構造を有し、
前記第1の材料の縦弾性係数が前記第2の材料の縦弾性係数よりも高く、かつ前記第2の材料の熱伝導率が前記第1の材料の熱伝導率よりも高く、
前記第1の材料がタングステン、前記第2の材料が銅であり、
当該バッキングプレートの線熱膨張係数をα1(K−1)、前記スパッタリングターゲット材の線熱膨張係数をα2(K−1)と表したとき、
α1>α2
の関係を満たす、バッキングプレート。
【請求項2】
前記第1の材料と前記第2の材料の体積比率が、20:80〜80:20の範囲にある請求項1に記載のバッキングプレート。
【請求項3】
縦弾性係数が160〜264GPaの範囲にある請求項1又は請求項2に記載のバッキングプレート。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載のバッキングプレートと、このバッキングプレートの一方の面に接合されたセラミック材料からなるスパッタリングターゲット材とを有するスパッタリングターゲット。
【請求項5】
前記セラミック材料が酸化マグネシウムである請求項4に記載のスパッタリングターゲット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリングターゲット材を支持するバッキングプレートと、そのバッキングプレートを有するスパッタリングターゲットに関する。なお、本明細書では、スパッタリングターゲット材を単にターゲット材ともいい、スパッタリングターゲットを単にターゲットともいう。
【背景技術】
【0002】
スパッタリングターゲット材は、半導体や電子部品などの各種薄膜デバイスの製造に際し、スパッタリングによって薄膜を基板上に形成する際の成膜源となるものである。このスパッタリングターゲット材は、支持及び冷却目的のバッキングプレートと接合一体化され、スパッタリング装置においてスパッタリングターゲットとして使用される。
【0003】
図2はスパッタリング装置の一例を示す模式図である。また、
図1は代表的なスパッタリングターゲットの模式図である。
図2のスパッタリング装置は、反応性スパッタリング、マグネトロンスパッタリング法など公知のスパッタリング方法を利用してターゲット近傍に高密度のプラズマ領域を形成させる装置である。
【0004】
チャンバ10の内部にターゲット11が、冷却機構の端部である台座8に直接あるいは両者間に図示しないスペーサを介して設けられている。ターゲット11はバッキングプレート1とターゲット材2とを備え、バッキングプレート1の被スパッタ部材(スパッタリングにより薄膜が形成される部材)3側の面(第2の面)に、ターゲット材2がインジウム接着層4を介して接合されている。スパッタリング装置がマグネトロンスパッタリング装置の場合には、バッキングプレート1の前記第2の面と反対側の第1の面側(図中の冷却水9部分)に図示しないマグネットが設けられる。
【0005】
チャンバ10内には被スパッタ部材3が、ターゲット材2と対向するように基板ホルダ上に配置されている。
【0006】
また、チャンバ10は、バルブ12を介して真空排気系13に接続される。更にチャンバ10は、ガスノズル14及び流量計15を介してガス源16に接続している。
【0007】
以上のように構成されたスパッタリング装置において、減圧不活性ガス雰囲気(例えばアルゴン)中で、ターゲット材2を陰極、チャンバ10を陽極として両電極間に直流電源17により直流高電圧を印加すると、チャンバ10内に放電プラズマが発生し、ターゲット材2よりその構成物質が原子又は分子の状態で放出され、被スパッタ部材3の表面に薄膜を形成する。
【0008】
ターゲット材2表面は高温プラズマ中での熱負荷により温度上昇を生じるが、冷却水9を備えた冷却機構によりバッキングプレート1の第1の面側を冷却水9が流れることによりバッキングプレート2を冷却し、ターゲット材2の温度上昇を抑える。冷却機構の例として
図1及び
図2ではバッキングプレート1を直接冷却水9が冷却する機構を用いたが、冷却水がパイプ中を流れ、パイプを介してバッキングプレートを冷却する機構もある。また、バッキングプレート中に空隙を設けて、その中に直接冷却水を循環させる機構もある。
【0009】
このように、バッキングプレート1は、おもにその第1の面側が冷却機構により冷却される。一方、ターゲット11で最も温度が上がるのはターゲット材2表面である。よって、ターゲット11には大きな温度勾配が生じる。それぞれの線熱膨張係数によるが、前記温度勾配によりターゲット材2はバッキングプレート1と比較して膨張が大きくなり、
図1及び
図2において下に凸の形状に変形する傾向が起る。そのため、ターゲット材2の材質によっては弾性変形域を超えてしまい、柔軟な材料であれば塑性変形を起こし、脆性材料であれば割れが生じる原因となる。この問題は、直流型(DC)スパッタリング装置に限らず、交流型(RF)スパッタリング装置においても同様に発生する。
【0010】
このようなターゲット材2の塑性変形及び割れに対する一つの解決方法としては、バッキングプレート1を縦弾性係数の大きい(一定の応力に対してより変形しにくい)材質とすることが考えられる。例えば特許文献1には、一般的に純銅(意図的に不純物を含まない高純度の銅、無酸素銅とも呼ばれる)が用いられるバッキングプレートの材質をクロム銅とした提案がなされている。クロム銅は縦弾性係数が125〜138(GPa)と純銅と比較して高く、熱伝導率も280〜320(W/m・K)と比較的高い。しかし、昨今のターゲットの大型化に伴い、従来の厚さのままでは特に中央部の変形量が増すことになるために、より厚く形成する必要が生じている。厚くすることにより当然製造費用は増すことになる上に、チャンバ内の空間を圧迫するという不都合も生じる。また、ターゲット材2の材質とバッキングプレート1の材質間の線熱膨張係数の差が大きくなれば、たとえ厚さを増したとしても変形により割れが生じる危険性がある。
【0011】
また、特許文献2には炭素、酸化物、金属のいずれかで構成された繊維状又は海綿状(スポンジ状)の芯材をバッキングプレート内部に一体化させたバッキングプレートが開示されている。このバッキングプレートを用いることで、応力によるターゲット材の塑性変形及び割れを緩和することは可能であるが、バッキングプレート自体の熱伝導率が低下することにより、スパッタリング条件によっては使用が難しいという問題が残る。
【0012】
このほかに、バッキングプレートの材質としてアルミニウム系材料、チタン系材料を使用する技術も開示されているが、これらは縦弾性係数が純銅と同程度あるいはそれより低いために、変形の問題は解決されていない。一方、バッキングプレートの材質としてタングステン材料、モリブデン材料が用いられる例もあるが、縦弾性係数は改善される一方で熱伝導率は大幅に低下する。熱伝導率が低いバッキングプレートを使用するとスパッタリング時にターゲット材の温度が高くなるために、バッキングプレートとターゲット材を接合する、主にインジウムを材質とする接着剤が軟化あるいは溶融して、ターゲット材を保持できなくなる。また、温度が上がることによりターゲット材とバッキングプレートの熱膨張差が大きくなるために、曲げ応力が発生してターゲット材に割れが生じる危険が生じる。
【0013】
特許文献3にはバッキングプレートの材質を銅系材料とした上で、WやMo等を添加した材料が示されているが、WやMoの含有量は最大でも3000ppmであり、縦弾性係数の向上には全く効果は表れない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平04−48072号公報
【特許文献2】特開2007−162039号公報
【特許文献3】特開平01−180975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は上述の問題に鑑みてなされ、スパッタリングターゲット材の塑性変形や割れ、及びスパッタリングターゲット材の剥離を防止するバッキングプレート、並びにそのバッキングプレートを使用したスパッタリングターゲットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明のバッキングプレートは、一方の面に
セラミック材料からなるスパッタリングターゲット材が接合されるバッキングプレートであって、連続した開気孔を持つスケルトン構造を有する第1の材料の前記開気孔に、第2の材料が充填された構造を有し、前記第1の材料の縦弾性係数が前記第2の材料の縦弾性係数よりも高く、かつ前記第2の材料の熱伝導率が前記第1の材料の熱伝導率よりも高く、
前記第1の材料がタングステン、前記第2の材料が銅であり、当該バッキングプレートの線熱膨張係数をα1(K−1)、前記スパッタリングターゲット材の線熱膨張係数をα2(K−1)と表したとき、α1>α2の関係を満たす、バッキングプレートである。
【0017】
本発明において、前記第1の材料と前記第2の材料の体積比率は、20:80〜80:20の範囲にあることが好ましい
【0019】
本発明のスパッタリングターゲットは、前記本発明のバッキングプレートと、このバッキングプレートの一方の面に接合された
セラミック材料からなるスパッタリングターゲット材とを有するスパッタリングターゲットである。
【発明の効果】
【0021】
本発明のバッキングプレートは、第1の材料による高い縦弾性係数と第2の材料による高い熱伝導率を併せ持つので、スパッタリングターゲット材の温度上昇に起因する塑性変形や割れ、及びスパッタリングターゲット材の剥離を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明のバッキングプレートを実装したスパッタリングターゲットの模式図である。
【
図3】熱膨張によるスパッタリングターゲットの変形の模式図で、(1)はスパッタリングターゲット材の熱膨張がバッキングプレートの熱膨張よりも大きい場合、(2)はバッキングプレートの熱膨張が、スパッタリングターゲット材の熱膨張よりも大きい場合である。
【
図4】第1の材料からなるスケルトン構造の断面例を示す。
【
図5】
図4のスケルトン構造の開気孔に第2の材料を充填したバッキングプレートの断面を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
表1に、第1の材料と第2の材料の複合材料からなる本発明のバッキングプレート、及び純銅、クロム銅、モリブデンなどの1種からなる従来のバッキングプレートの縦弾性係数、熱伝導率、及び線熱膨張係数の代表的な値を示す。
【0024】
表1から分かるように、本発明のバッキングプレートは、一般に用いられる純銅からなる従来のバッキングプレートと比較して大幅に縦弾性係数が高く、スパッタリング時に変形が起りにくいので、ターゲット材の破損(塑性変形や割れ)を防止することができる。また、バッキングプレートの熱伝導率が十分に高くない場合には、ターゲット材が過熱することになり、やはり破損が起りやすい。本発明のバッキングプレートは高い熱伝導率も有するので、これらの問題を大きく改善することが可能である。また、ターゲット材の破損を防ぐ以外の効果として、より大型のターゲット材を使用でき、出力の向上も容易となり、効率よくスパッタリングを行うことが可能となる。
【0025】
本発明のバッキングプレートにおいて、第1の材料と第2の材料の体積比率は20:80〜80:20の範囲内とすることが好ましい。第1の材料と第2の材料の体積比率によって、これらの複合材料である本発明のバッキングプレートの特性は変化する。すなわち、第1の材料が多いほど縦弾性係数は高く、熱伝導率は低下する。逆に第2の材料が多いほど縦弾性係数は低く、熱伝導率は向上する。
【0026】
第1の材料と第2の材料の複合材料である本発明のバッキングプレートは、第1の材料が連続した開気孔を持つスケルトン構造を有し、第2の材料がその開気孔に充填された構造を持つ。そのために、第1の材料はもちろん、第2の材料も連続した組織を持つために、第1の材料の利点である高い縦弾性係数をある程度維持したまま、第2の材料の利点である熱伝導率を高めることができる。前述のとおり、第1の材料と第2の材料の体積比率は、好ましくは20:80〜80:20の範囲内とする。第1の材料が20体積%未満であれば、スケルトン構造を維持するのが難しくなり、縦弾性係数が低下する傾向となる。一方、80体積%を超えると連続した開気孔を全体に得ることが難しくなり、一部に第2の材料が充填されない閉気孔を有するようになりやすい。
【0027】
第1の材料によるスケルトン構造中に第2の材料を充填する手段としては、溶浸法による充填が特に適している。第1の材料と第2の材料を複合する手段としては、例えば双方の粉末を混合してそのまま炉中で焼結する方法もあるが、適しているのは第1の材料で形成されたスケルトン構造中に第2の材料を充填する溶浸法である。スケルトン構造を得るためには、平均粒子径がおよそ0.5μm〜10μmの粉末状態の第1の材料をプレス成形し、非酸化雰囲気にて900〜1500℃程度に加熱すればよい。これにより、第1の材料の粉末粒子同士が形状を保つ程度に、また連続した開気孔を有する程度にネッキングをしたスケルトン構造の焼結体が得られる。
【0028】
第2の材料は、第1の材料のスケルトン構造の開気孔を充填する量が確保されていればどのような形状でもよく、液体状態となった第2の材料がスケルトン構造に接する状態で溶浸を行えば、毛細管現象によりスケルトン構造の開気孔全てに第2の材料が溶浸する。溶浸の条件としては、第2の材料の融点以上の温度、非酸化雰囲気にて行うことができる。例えば、純銅であればその融点が1084℃であるために、1100℃〜1500℃程度が適当な温度である。
【0029】
このようにして得られた本発明のバッキングプレートの一方の面にターゲット材を一体に接合することで、本発明のターゲットが得られる。この場合、バッキングプレートの線熱膨張係数をα1(K
−1)、ターゲット材の線熱膨張係数をα2(K
−1)と表したとき、α1>α2の関係を満たすように構成することが好ましい。
【0030】
バッキングプレートとターゲット材は互いに強固に接合しているために、両者の熱膨張量(部材の温度と線熱膨張係数より求められる)の差は両者を変形させる要因となる。その変形は、ターゲット材の線熱膨張係数のほうが大きい場合(α2>α1)は、
図3(1)に示すようにターゲット材側(冷却機構と反対側)に向かって凸の形状に変形する。これは、熱膨張の長さが相対的にターゲット材側のほうが長くなるためである。前述のように、温度勾配によってもターゲット材側に向けて凸形状に変形しやすく、ターゲット材やバッキングプレートの縦弾性係数が十分高くない場合や、両者の線熱膨張係数差が大きい場合はターゲット材が破損又は剥離しやすくなる。
【0031】
逆に、バッキングプレートの線熱膨張係数のほうが大きい場合(α1>α2)は、
図3(2)に示すようにバッキングプレート側(冷却機構側)に向けて凸状に変形しようとする。温度がバッキングプレートに対して高くなるターゲット材に対して、それよりも線熱膨張係数の高いバッキングプレートを使用することにより、ターゲット材とバッキングプレートの変形が抑制され、ターゲット材の破損や剥離等を防ぐためにより好ましい構造となる。
【0032】
特に、ターゲット材の材質がセラミック材料の場合は、圧縮破壊強度に対して引張破壊強度が著しく低いために、
図3(1)の中心部Aの位置に割れが生じやすいが、
図3(2)に示すように中心部が圧縮応力を受ける構造であると割れは極めて起りにくい。
【0033】
例として、使用時に比較的高温となるターゲット材がタングステン材料(線熱膨張係数α2=4.4×10
−6(K
−1))、比較的低温のバッキングプレートがタングステンスケルトン(タングステン材料によるスケルトン構造体)中に20体積%の銅が充填されたバッキングプレート(線熱膨張係数α1=8.6×10
−6(K
−1))の場合は、α1>α2の関係を満たすため、線熱膨張係数差による変形は
図3(2)に示すように
図3(1)の場合と比較して小さく抑えられる。
【0034】
なお、上に述べた変形の挙動は、実際はターゲット材とバッキングプレート双方の線熱膨張係数の差と、使用時の実温度によって決まるため、α1>α2の場合でも
図3(2)のように変形する場合と、使用前の平面状態と比較して
図3(1)のような下に凸の変形が緩和される場合の両方の場合がある。いずれにしても、α1>α2の関係を満たすことで、使用時に比較的高温となるターゲット材(線熱膨張係数α2)の熱膨張量(線熱膨張係数とそれぞれの温度により求められる)が、比較的低温のバッキングプレート(線熱膨張係数α1)の熱膨張量に対して抑えられ、両者の熱膨張量差が抑えられるので、ターゲット材の破損や剥離の防止には有効である。
【0035】
以上のとおり、本発明のバッキングプレートは、縦弾性係数が純銅や銅合金に対して高く、同時に鉄系材料、タングステン材料、モリブデン材料などと比較して熱伝導率が極めて高い複合材料からなる。したがって、応力による変形量が小さく、ターゲット材に塑性変形や割れが生じにくくする効果を奏する。更に、大型のスパッタリングターゲットに対応が容易であり、冷却水の圧力も高めることができるため、高速でのスパッタリング処理も可能となる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の実施例を図面を参照して説明する。
【0037】
図1は、本発明のバッキングプレートを用いたターゲットの模式図である。ターゲット11は、バッキングプレート1とこれに一体的に接合されたターゲット材2とを備える。ターゲット11は、
図2に示したスパッタリング装置で使用される。
図2のスパッタリング装置の構成は先に説明したとおりである。
【0038】
バッキングプレート1は、第1の材料としてカリウムを300ppmドープしたタングステンからなるスケルトン構造の開気孔中に、第2の材料として純銅が充填された構造を有する。この構造において第1の材料と第2の材料の体積比率は50:50である。
図4には、前記タングステンからなるスケルトン構造の断面写真を示し、
図5には、このスケルトン構造の開気孔に純銅を充填したバッキングプレート1の断面写真を示す。
図4において、白色部がタングステン粒子、黒色部が連続した開気孔である。また、
図5において、白色部がタングステン、黒色部が純銅である。なお、
図4において両矢印の長さが10μmである。
【0039】
次に、ターゲット11の具体的構成を
図1及び
図2を参照して説明する。ここで、説明の便宜上、バッキングプレート1の冷却機構側の面を第1の面、ターゲット材2と接合した側の面を第2の面とする。バッキングプレート1の第2の面にはインジウム接着層4を介してターゲット材2が接合されている。バッキングプレートの第1の面は冷却水9(水ではなく、ナトリウムやスズの場合もある)が循環する通路であり、バッキングプレート1は図示しないボルトなどの固定方法により台座8に固定されている。台座8とバッキングプレート1の間は、図示しないシール材などを挟み、冷却水が漏れないように処理されている。
【0040】
ターゲット材2はφ140mm、厚さ約3.5mmの酸化マグネシウムを用い、バッキングプレート1はφ160mm、厚さ3mmとした。
【0041】
ターゲット11を以上に述べた構成とし、
図2のスパッタリング装置でスパッタリング試験を行った。
【0042】
スパッタリング電流値、雰囲気(アルゴン雰囲気)、スパッタリング時間、チャンバ内温度を一定とし、試験後にターゲット材2に割れが生じるかどうかを調査した。なお、ターゲット材2である酸化マグネシウムは、脆性材料であるために、応力が高まると塑性変形することなく破壊する(割れる)。なお、酸化マグネシウムの線熱膨張係数は9.7(×10
−6K
−1)である。このターゲット材2と前記バッキングプレート1(カリウムを300ppmドープしたタングステンと純銅の複合材料)との組合せを試料1とする。なお、この試料1における前記バッキングプレート1の縦弾性係数は180(GPa)、熱伝導率は203(W/m・K)、線膨張係数は10.7(×10
−6K
−1)であった。
【0043】
試料1によるスパッタリング試験の結果、ターゲット材に割れは生じておらず、ターゲット材とバッキングプレート間の接合についても異常なく、良好にスパッタリングを行うことができた。
【0044】
次に、バッキングプレートの材質のみを表1に示す各種材料に代え、同様のスパッタリング試験を行った。その結果を表2に示す。なお、表1及び表2中で*のついた試料は、本発明の範囲外の比較試料である。
【0045】
表2に示すように、比較試料12及び13では、ターゲット材の表面中心付近(
図3(1)のA部)に割れが発生した。バッキングプレートの材質は熱伝導率が極めて高いにもかかわらず、縦弾性係数が十分でないために温度変化によりターゲット材の変形量が大きくなった際にバッキングプレートを含むターゲットごと変形が起り、引張応力が強くかかる前記A部に割れが発生したと考えられる。
【0046】
比較試料14及び15は、試験中にバッキングプレートとターゲット材を接合するのに使用したインジウム接着剤が軟化、溶融してターゲット材が剥離し、試験を中止した。バッキングプレートの熱伝導率が十分でないために、ターゲット材とバッキングプレートの温度が両者を接合する接着剤の融点以上に上昇し、剥離したと考えられる。
【0047】
試料1〜
5に示す、本発明のバッキングプレートを使用した実施例では、いずれの試料でも接着剤の剥離は生じず、ターゲット材の割れも発生しなかった。これは、熱伝導率が150(W/m・K)以上と高いために、ターゲット材及びバッキングプレートが過熱しなかったためである。同時にバッキングプレートが十分な縦弾性係数を有しており、ターゲット材及びバッキングプレートの変形量が少なく、ターゲット材に割れを生じさせなかったと考えられる。
【0048】
更に、試料1〜3及び試料5〜11については、前記スパッタリング試験の出力を約2倍に上げた試験でも、ターゲット材の割れや、バッキングプレートとの剥離が生じることなく、良好なスパッタリングを行えた。これらの試料におけるバッキングプレートの線熱膨張係数は、ターゲット材である酸化マグネシウムの線熱膨張係数である9.7(×10
−6K
−1)よりも大きく、そのため
図3(1)に模式図を示すように、ターゲット材の変形が抑えられ、少なくともA部に過剰な引張応力がかかることなくスパッタリングを行えたと考えられる。これらの試料のバッキングプレートを用いれば、現在の処理条件よりも更に成膜速度を向上させることができる。
【0049】
以上の結果から分かるように、本発明のバッキングプレートはターゲット材の冷却作用が十分であることに加え、応力による変形も少ないため、ターゲット材に塑性変形や割れが極めて生じにくい。同時にスパッタリング中の温度上昇も抑えられるため、ターゲット材とバッキングプレートの剥離も生じにくい。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【符号の説明】
【0052】
1 バッキングプレート
2 ターゲット材
3 被スパッタ部材
4 インジウム接着層
5 接着剤
8 台座
9 冷却水
10 チャンバ
11 ターゲット
12 バルブ
13 真空排気装置
14 ガスノズル
15 流量計
16 ガス源
17 直流電源