【実施例】
【0022】
図1は、本発明の一実施例である動脈血管硬化度測定装置としても機能する自動血圧測定装置10の全体的な構成を説明する斜視図である。この自動血圧測定装置10は、生体の一部たとえば上腕部11に巻回される圧迫帯12と、複数のECG電極14と、本体8の上面に設けられた複数のキーを有する入力キーボード17と、本体8の前面に設けられた画像表示器18と、本体8の側面に設けられた出力プリンタ19とを備え、圧迫帯12が巻回され且つ複数のECG電極14が装着された生体の血圧を測定して血圧測定値BPを画像表示器18に表示させる一方で、その生体の動脈硬化度ACIを算出し、その生体の動脈硬化度或いは動脈硬化度の評価値として画像表示器18に表示させるとともにそれら表示値を必要に応じて出力プリンタ19から出力させる。
【0023】
図2は、上記自動血圧測定装置10の構成の要部を説明するブロック線図である。被圧迫部位である生体の肢体たとえば上腕部11に巻き付けられる脈波検出用の圧迫帯(カフ)12は、上流側膨張袋22、中間膨張袋24、下流側膨張袋26を有している。
図3は、その圧迫帯12の外周面を、その一部を切り欠いて示している。圧迫帯12は、
図3に示すように、PVC等の合成樹脂により裏面がラミネートされた合成樹脂繊維製の外周側面不織布20aとそれと同様の内周側不織布から成る帯状外袋20と、その帯状外袋20内において幅方向に順次収容され、たとえば軟質ポリ塩化ビニルシートなどの可撓性シートから構成された上流側膨張袋22、中間膨張袋24、および下流側膨張袋26とを備え、外周側面不織布20aの端部に取り付けられた面ファスナ28に内周側不織布の端部に取り付けられた図示しない起毛パイルが着脱可能に接着されることにより、上腕部11に着脱可能に装着されるようになっている。上流側膨張袋22、中間膨張袋24、および下流側膨張袋26は、それぞれ独立した気室を構成するとともに、管接続用コネクタ32、34、および36を外周面側に備えている。それら管接続用コネクタ32、34、および36は、外周側面不織布20aを通して圧迫帯12の外周面に露出されている。
【0024】
図4は、上記圧迫帯12内に備えられた上流側膨張袋22、中間膨張袋24、および下流側膨張袋26の一部を切り欠いて示す図であり、
図5はそれらを幅方向に切断した断面図であって、
図4のV−V視図である。上流側膨張袋22、中間膨張袋24、および下流側膨張袋26は、それぞれ長手状を成し、上流側膨張袋22および下流側膨張袋26は中間膨張袋24の両側に隣接した状態で配置されている。中間膨張袋24は、動脈血管16から発生する脈波PWを検出するためのものであり、上記上流側膨張袋22および下流側膨張袋26の間に挟まれた状態で圧迫帯12の幅方向の中央部に配置されている。
【0025】
中間膨張袋24は所謂マチ構造の側縁部を両側に備えている。すなわち、中間膨張袋24の上腕部11の長手方向における両端部には、互いに接近するほど深くなるように互いに接近する方向に折れ込まれた可撓性シートから成る一対の折込溝24fおよび24fがそれぞれ形成されている。そして、前記上流側膨張袋22および下流側膨張袋26の中間膨張袋24に隣接する側の隣接側端部22aおよび26aがそれら一対の折込溝24fおよび24f内に差し入れられて配置されるようになっている。これにより、中間膨張袋24の両端部と上流側膨張袋22および下流側膨張袋26の中間膨張袋24に隣接する側の隣接側端部22aおよび26aとが相互に重ねられた構造すなわちオーバラップ構造となるので、上流側膨張袋22、中間膨張袋24、および下流側膨張袋26が等圧で上腕部11を圧迫したときにそれらの境界付近においても均等な圧力分布が得られる。この場合、上記上流側膨張袋22および下流側膨張袋26は、専ら上腕部11を圧迫するための主膨張袋として機能し、中間膨張袋24は動脈血管16から発生する脈波を専ら検出する脈波検出用として機能している。
【0026】
上記上流側膨張袋22および下流側膨張袋26も、所謂マチ構造の側縁部を中間膨張袋24とは反対側の端部22bおよび26bを備えている。すなわち、上流側膨張袋22および下流側膨張袋26の中間膨張袋24とは反対側の端部22bおよび26bには、互いに接近するほど深くなるように互いに接近する方向に折れ込まれた可撓性シートから成る折込溝22fおよび26fがそれぞれ形成されている。それら折込溝22fおよび26fを構成するシートは、幅方向に飛び出ないように、上流側膨張袋22および下流側膨張袋26内に配置された貫通穴を備える接続シート38、40を介してその反対側部分すなわち中間膨張袋24側の部分に接続されている。これにより、上流側膨張袋22および下流側膨張袋26の端部22bおよび26bにおいても上腕部11に対する圧迫圧力が他の部分と同様に得られるので、圧迫帯12の幅方向の有効圧迫幅がその幅寸法と同等になる。圧迫帯12の幅方向はたとえば12cm程度であり、その幅方向に3つの上流側膨張袋22、中間膨張袋24、および下流側膨張袋26が配置された構造であるから、それぞれが実質的に4cm程度の幅寸法となり、上流側膨張袋22と下流側膨張袋26との実質的間隔L13はたとえば8cm程度となる。このような狭い幅寸法であっても圧迫機能を十分に発生させるため、中間膨張袋24の両端部24aおよび24bと上流側膨張袋22および下流側膨張袋26の隣接側端部22aおよび26aとが相互に重ねられたオーバラップ構造とされるとともに、上流側膨張袋22および下流側膨張袋26の中間膨張袋24とは反対側の端部22bおよび26bは,所謂マチ構造の側縁部とされている。
【0027】
上記上流側膨張袋22および下流側膨張袋26の中間膨張袋24側の端部22aおよび26aと、それが差し入れられている一対の折込溝24fおよび24fの内壁面すなわち相対向する溝側面との間には、圧迫帯12の長手方向の曲げ剛性よりもその圧迫帯12の幅方向の曲げ剛性が高い剛性の異方性を有する長手状遮蔽部材42がそれぞれ介在させられている。本実施例では、
図4、
図5に示すように、上流側膨張袋22の端部22aとそれが差し入れられている折込溝24fとの間の隙間のうちの外周側の隙間、および、下流側膨張袋26の端部26aとそれが差し入れられている折込溝24fとの間の隙間のうちの外周側の隙間に、長手状遮蔽部材42がそれぞれ介在させられているが、内周側隙間にも介在させられてもよい。内周側隙間に比較して外周側隙間の方が遮蔽効果が大きいので、少なくとも外周側隙間に設けられればよい。
【0028】
上記長手状遮蔽部材42は、上腕部11の長手方向すなわち圧迫帯12の幅方向に平行な樹脂製の複数本の可撓性中空管44が互いに平行な状態で、上腕部11の周方向すなわち圧迫帯12の長手方向に連ねて配列されるとともに、それら可撓性中空管44が型成形或いは接着により直接に或いは粘着テープなどの可撓性シート等の他の部材を介して間接的に相互に連結されることにより構成されている。上記長手状遮蔽部材42は、上流側膨張袋22および下流側膨張袋26の中間膨張袋24側の端部22aおよび26aの外周側の複数箇所に設けられた複数の掛止シート46に掛け止められている。
【0029】
図2に戻って、自動血圧測定装置10においては、電動ポンプ50、急速排気弁52、および排気制御弁54は主配管56を介して圧迫帯12に接続されている。その主配管56からは、電動ポンプ50と上流側膨張袋22との間を直接開閉するための第1開閉弁E1を直列に備えて上流側膨張袋22に接続された第1分岐管58、電動ポンプ50と中間膨張袋24との間を直接開閉するための第2開閉弁E2および第4開閉弁E4を直列に備えて上流側膨張袋22に接続された第2分岐管60、電動ポンプ50と下流側膨張袋26との間を直接開閉するための第3開閉弁E3を直列に備えて下流側膨張袋26に接続された第3分岐管62が分岐させられている。第2分岐管60の第2開閉弁E2と第4開閉弁E4との間の管路は、容積パルス発生器( EPG:容積脈波発生装置)64を介して第3分岐管62に接続されている。第4開閉弁E4は、容積パルス発生器64を基準容量タンク66および中間膨張袋24の一方または他方へ接続させる3方弁である。そして、主配管56またはそれに接続された膨張袋内の圧力を検出するための主圧力センサT4がその主配管56に接続され、上流側膨張袋22の圧力を検出するための第1圧力センサT1が上流側膨張袋22に接続され、中間膨張袋24の圧力を検出するための第2圧力センサT2が中間膨張袋24に接続され、下流側膨張袋26の圧力を検出するための第3圧力センサT3が下流側膨張袋26に接続されている。
【0030】
上記主圧力センサT4、第1圧力センサT1、第2圧力センサT2、第3圧力センサT3の出力信号およびECG電極14からの信号に基づいて心電回路部71から出力される心電誘導信号はA/D変換器72を介して電子制御装置70に供給される。電子制御装置70は、図示しないCPU、RAM、ROM、およびI/Oポートなどを含む所謂マイクロコンピュータであって、CPUはRAMの記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムにしたがって入力信号を処理し、ポンプ駆動回路73、排気弁駆動回路74、および電磁弁駆動回路75を介して、電動式の電動ポンプ50、急速排気弁52、および排気制御弁54、第1開閉弁E1、第2開閉弁E2、第3開閉弁E3、容積パルス発生器64を制御することにより上腕部11の動脈血管16から発生する測定データを採取するとともに、その測定データに基づいてその生体の血圧値BP、動脈血管硬化度(血管コンプライアンス) ACI、脈波伝播速度PWVを算出し、画像表示器18にその演算結果である測定値を表示させる。
【0031】
図6は、上記電子制御装置70の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図を示している。
図6において、カフ圧制御部100は、電動式の電動ポンプ50、急速排気弁52、および排気制御弁54、第1開閉弁E1、第2開閉弁E2、第3開閉弁E3、容積パルス発生器64を制御することにより、
図7に示すように、圧迫帯12の上流側膨張袋22、中間膨張袋24、下流側膨張袋26の圧力、すなわち生体への圧迫圧力であるカフ圧Pcuffを制御する。
【0032】
血圧測定部102は、上腕部11に巻回された圧迫帯(カフ)12の圧迫圧力を最高血圧値よりも高い圧から徐々に降下させる過程すなわち
図7のt2乃至t3区間、およびt8乃至t9区間において、圧迫帯12の中間膨張袋24内の圧力振動成分であるカフ脈波を逐次検出し、その一連のカフ脈波の変化に基づいてたとえばカフ脈波間の最大差分値の発生時のカフ圧を検出するオシロメトリック法を用いて前記生体の基準血圧値である最高血圧値SBPo および最低血圧値DBPo をそれぞれ測定する。たとえば、t2乃至t3区間では第1(予備或いは一次)血圧測定が行われ、t8乃至t9区間では第2(二次)血圧測定が行われる。
【0033】
脈波伝播速度測定部104は、上記2つの血圧測定区間の間のt5乃至t6区間において、上腕部11の動脈血管16における脈波伝播速度、たとえば大動脈起始部から上腕部11までの脈波伝播速度hbPWVを、上記上腕部11に巻回された圧迫帯12の中間膨張袋24により得られたカフ脈波と心電
図R波との時間差(伝播時間)PWTと距離Lとから一拍毎に連続的に算出し、脈波伝播速度hbPWV(=L/PWT)を逐次測定する。このときの圧迫帯12は、伝播速度測定のためにカフの影響が小さい最低血圧値DBPより低い50mmHg程度に設定された圧Ppwvに維持される。
【0034】
記憶部106は、血圧測定期間中に中間膨張袋24内の圧力振動成分であるカフ脈波を、それを検出した時のカフ圧(圧迫圧力) Pcuffと共に記憶する。特に、血圧の二次測定が行われるt8乃至t17区間では、複数種類の圧力たとえばP1、P2、・・・Pj、Pj+1でカフ圧Pcuffを維持する複数のカフ圧維持区間を含むように段階的にカフ圧Pcuffが変化させられ、そのカフ圧維持区間ではカフ圧変化の影響を受けない歪みのない複数のカフ脈波が検出され、1つのカフ圧維持区間では複数のカフ脈波が相互に同様であるときに、その一方のカフ脈波或いはそれら複数のカフ脈波が平均されたカフ脈波が記憶される。記憶されたカフ脈波には、カフ圧PcuffがP1、P2、・・・Pj、Pj+1であるときに得られたカフ脈波D1、D2、・・・Dj、Dj+1Dだけでなく、カフ圧Pcuffが最低血圧値DBPよりも10mmHg程度高いカフ圧すなわち動脈血管16が開き始めるときの圧MAP1pressとなったときに採取されたカフ脈波MAP1が含まれる。
【0035】
PA曲線生成部108は、生体の上腕部11の動脈血管16における貫壁圧力PT(mmHg)と動脈血管16断面積A(cm2)との関係を示すPA曲線を、たとえば
図8(b)に示すように生成する。貫壁圧力PTは、血管内部の動脈圧と血管壁外部圧の差であり、血管壁外部圧としてカフ圧Pcuffをとる。動脈圧の基準点をカフ圧の無負荷時の拡張期血圧DBPとしてPTを次式(2)で定義する。
【0036】
PT=DBP−Pcuff ・・・(2)
【0037】
図8において、バックリング領域とは正常な生体であっても外部圧により動脈血管16が座屈変形する領域であり、バックリング領域と弾性変形の大きい血管軟性領域との間の圧力値Pbはたとえば10mmHg程度、血管軟性領域(ソフト領域)と弾性変形の小さい血管硬性領域(ハード領域)との間の圧力値Psはたとえば60mmHg程度の値である。このPA曲線において、Pb点は、管法則の境界点であって、動脈血管の貫壁圧力PTが動脈血管壁に対して円周方向の張力として作用し始め、動脈血管断面は断面積Abとなって、自然長に相当する円形を示すポイントと見なす。
図8(a)は、経年的に血管が拡張していくPA曲線の実例を示す。
図8(b)は、PA曲線において、1点鎖線の状態から動脈硬化により動脈血管の伸展性が失われて実線の状態に移行していく状態を模式的に示している。領域Iは、動脈の伸展性が低下している実線に示されるPA曲線が、その変曲点に到達するまでの柔軟性の高い貫壁圧力PTの範囲を示し、領域IIは、実線に示されるPA曲線がその変曲点を越えた後の貫壁圧力PTの範囲を示している。すなわち、領域Iは、動脈血管弾性が軟らかい領域を示し、領域IIは、それに続いて動脈血管が拡張していく、すなわち、動脈血管が硬くなる領域を示している。
【0038】
上記PA曲線において、バックリング領域は、不安定でヒステリシスを示すので、圧迫圧力の低下過程で動脈血管が開く圧MAP1pressとなったときに採取された容積脈波MAP1pvrの立ち上がり特性からincrementalPA曲線として実験的に求める。なお、上記管法則によるPA曲線すなわちPb〜Ps間に適用されるPA曲線は、予め記憶されたものであり、次式(3)により示されるものである。
【0039】
A=(Ab/b)ln(PT−(Pb−a))+dD ・・・(3)
但し、aはシフトパラメータ、bはスケールパラメータである。
【0040】
容積脈波算出部110は、先ず、記憶部106において記憶されているカフ脈波は、圧力値軸(mmHg )と時間軸(msec)との二次元座標内で示される波形であるので、容積(断面積)軸(cm
3 =cc)と時間軸との二次元座標内で示される容積脈波に変換する。たとえば、中間膨張袋24による圧迫圧力下すなわち各第1圧力P1 、第2圧力P2 、第j圧力Pj 、第j1圧力Pj1、および圧力MAP1press下において容積パルス発生器64から一定容積C (cc)のパルスを加えたときに発生する圧力パルスPp を重畳したカフ脈波信号における圧力上昇値ΔPcuff (mmHg) を検出して、次式(4) に示す式からカフコンプライアンスSe (cm
3=mmHg)すなわちSe1、Se2、・・・Sej、Sej1 を算出し、それらのカフコンプライアンスSe をカフ脈波の縦軸方向の圧力値に乗算することにより、単位が容積(断面積)である容積脈波に変換する。すなわち、カフ脈波の縦軸を圧力値軸(mmHg )から容積(断面積)軸(cm
3)に変換する。
図9は、圧力MAP1press下で得られた容積脈波MAP1pvrの立ち上がり部分を、共通の時間軸上において、第2圧力P2下で得られた容積脈波D2pvrの立ち上がり部分と対比して示している。
【0041】
Se =ΔPcuff/C ・・・(4)
【0042】
また、容積脈波算出部110は、横軸である時間軸と縦軸である容積軸との二次元座標内で示される上記容積脈波を、上記PA曲線生成部108において算出されたれPA曲線を用いて 貫壁圧力PT軸(mmHg)と容積(断面積)軸との二次元座標内で表わされる容積脈波に変換する。すなわち、PA曲線のうち、横軸が時間軸である容積脈波の貫壁圧力PT軸方向の大きさ(容積値)に対応する点の値を、横軸を貫壁圧力PT軸(mmHg)とする容積脈波の大きさとするように対応付けすることで、横軸が時間軸から貫壁圧力PT軸(mmHg)に変換された容積脈波を生成する。D2pvrの時間軸から圧力軸への変換、MAP1pvrへの適用は、式(1)の血管壁の粘性ηが無視出来るとしている。
【0043】
粘性の効果が大きく遅延時間τcが延長して脈波の振幅が平衡状態に達せずに小さい場合、コンプライアンスは見かけ上小さくなり、本法の血管内腔断面積も小さくなる。τcと同時にV/V0も導出されるので、本法の適用範囲が判断できる。また、τcの延長によりV/V0が小さい場合には、血管弾性Gの減衰、血管粘性ηの増加を予想させるので動脈硬化が極度に進展していると判断できる。
図10には、そのように横軸が時間軸から貫壁圧力PT軸(mmHg)に変換された容積脈波MAP1pvrおよび容積脈波D2pvrの立ち上がり部分が示されている。なお、
図8(b)には、圧力MAP1press下において得られた時間軸上の容積脈波MAP1pvrとそれから変換された貫壁圧力PT軸上の容積脈波MAP1pvrとが例示されている。
【0044】
血管コンプライアンス算出部112は、上記容積脈波算出部110により算出された貫壁圧力PT軸上の容積脈波MAP1pvrは、その各部の傾斜(傾きΔA/ΔPT)がそれぞれの貫壁圧力PTに応じた動脈血管壁のコンプライアンスKを示すことから、
図10に示される容積脈波の少なくとも立ち上がり区間を微分することで、
図11或いは
図12に示す血管コンプライアンス曲線を算出し、その血管コンプライアンス曲線の最大値である最大コンプライアンス値Kmaxを算出する。また、
図11および
図12において、この最大コンプライアンス値Kmax に対応する貫壁圧力PT値は5mmHg程度であるので、それよりも所定値大きい軟性領域の予め定められた一定の貫壁圧力PT値たとえば40mmHgに対応するコンプライアンスK40を、上記微分波形の貫壁圧力PT値40mmHgに対応する容積を決定することで算出する。Kmaxは、反射波の影響を受けない範囲内すなわち圧迫帯12よりも下流の動脈血管分岐部からの反射が重畳しない範囲内で定められることが望まれる。
図10では、たとえば貫壁圧力PT値が、立ち上がり区間を判定するために、たとえばPA曲線の最大傾斜点或いは変曲点に対応する予め定められた圧力値PT1よりも大きい領域では反射波の影響を受けて傾斜が急となっているので、貫壁圧力PT値がPT1よりも低い領域が、上記最大コンプライアンス値KmaxおよびコンプライアンスK40の決定に用いられる。
【0045】
指標値算出部114は、血管コンプライアンス算出部112において算出された最大コンプライアンス値KmaxおよびコンプライアンスK40に基づいてそれらの割合或いは比であるコンプライアンス指標値ACIを算出する。本実施例のコンプライアンス指標値ACIは、最大コンプライアンス値Kmaxに対するコンプライアンスK40の比(K40/Kmax)として定義される。
【0046】
図13は、年齢に対する領域IIの血管容積コンプライアンスが示す特性図であり、
図14は、年齢に対する血管コンプライアンス指標値が示す特性図であり、
図15は、血管拡張と領域Iの血管コンプライアンス指標値が示す特性図であり、
図16は、年齢に対する脈波上昇脚体積ひずみ時定数が示す特性図である。
【0047】
図18および
図19は、上記電子制御装置70の制御作動の要部を説明するフローチャートをそれぞれ示している。
図18において、図示しない電源スイッチが投入されると、
図7のt0 に示す初期状態とされた後、ステップS1(以下、ステップを省略する) において、オペレータにより入力された患者データたとえば性別、年齢、姓名、患者ID等が読み込まれるとともに、第1開閉弁E1、第2開閉弁E2、第3開閉弁E3、および急速排気弁52は常開弁であるため非作動状態すなわち開(オープン)状態とされ、排気制御弁54は常閉弁であるため非作動状態すなわち閉状態とされ、容積パルス発生器64および電動ポンプ50は非作動状態とされている。次いで、図示しない起動操作装置が操作されて動脈血管表示装置としても機能する自動血圧測定装置10の測定動作が開始されると、先ず、
図7の時刻t1乃至t3に示す
図18のステップS2の予備血圧測定ルーチン或いは血圧測定1ルーチンが実行される。このS2はカフ圧制御部100および血圧測定部102に対応している。
【0048】
上記第1血圧測定ルーチンでは、先ず、
図7の時刻t1 において、電動ポンプ50が起動され、その電動ポンプ50から圧送される圧縮空気により連通状態の上流側膨張袋22、中間膨張袋24、および下流側膨張袋26の圧力が共に急速に上昇されて圧迫帯12全体による上腕部11の圧迫が開始される。主圧力センサT0により検出される圧力すなわち圧迫帯12による圧迫圧力Peが生体の最高血圧値よりも十分に高い値に予め設定された昇圧目標圧力Pmax に到達すると、上記電動ポンプ50の作動が停止され、それに応答して、圧迫帯12による圧迫圧力が一定の速度で下降するように排気制御弁54が作動させられ、徐速排気が開始される。
図7の時刻t2 はこの状態を示す。この徐速排気過程において第2圧力センサT2から出力される圧力信号から、ローパスフィルタ処理が為されることにより圧迫帯12による圧迫圧力(静圧) を示すカフ圧力信号が弁別されるとともに、数100Hz乃至数十Hzの波長帯の信号を弁別するバンドパスフィルタ処理されることにより脈波信号が弁別される。次いで、脈波信号の発生毎に実行されるオシロメトリック式血圧値決定アルゴリズムにしたがって、順次発生する脈波信号の振幅或いはその変化に基づいて最高血圧値SBP(mmHg)および最低血圧値DBP(mmHg)として決定するとともに記憶し、その最低血圧値DBPが決定されると同時に急速排気弁52が開放され、それに応答して排気制御弁54がその最大開口となるまで開かれて、
図18のS2が終了させられる。
図7の時刻t3 はこの状態を示す。
【0049】
上記オシロメトリック式血圧値決定アルゴリズムは、たとえば脈波信号の振幅値を結ぶ包絡線(エンベロープ) が急激に上昇したときすなわちエンベロープの微分波形の極大ピーク点に対応する圧力信号が示す圧力を最高血圧値SBP値(mmHg)として決定し、その脈波信号の振幅値を線(エンベロープ)の最大値に達した後、その脈波信号の振幅値を結ぶ包絡線(エンベロープ)が急激に減少したときすなわちエンベロープの微分波形の極小ピーク点に対応する圧力信号が示す圧力を最低血圧値DBPとして決定する。第1圧力センサT1から出力される圧力信号がバンドパスフィルタ処理されることにより弁別された脈波信号、第2圧力センサT2から出力される圧力信号がバンドパスフィルタ処理されることにより弁別された脈波信号、第3圧力センサT3から出力される圧力信号がバンドパスフィルタ処理されることにより弁別された脈波信号、主圧力センサT0から出力される圧力信号がバンドパスフィルタ処理されることにより弁別された脈波信号の4種の脈波信号間には、振幅の差が存在し、中間膨張袋24内の圧力を検出する第2圧力センサT2から出力される脈波信号が動脈血管16の脈動を最も正確に反映している。
【0050】
次いで、
図18のS3の脈波伝播速度測定ルーチンが
図7の時刻t4 乃至t6に示す区間において実行される。このS3は前記カフ圧制御部100および脈波伝播速度測定部104に対応している。このS3では、先ず、急速排気弁52および排気制御弁54が閉じられるとともに電動ポンプ50が起動される。次いで、上流側膨張袋22、中間膨張袋24、および下流側膨張袋26の圧力が予め最低血圧値DBP付近の値或いはそれよりも低い値たとえば50mmHgに設定された脈波検出圧Ppwvに到達すると、第1開閉弁E1、第2開閉弁E2、第3開閉弁E3が閉じられ、上流側膨張袋22、中間膨張袋24、および下流側膨張袋26は互いに独立して脈波検出圧に維持される。
図7のt5 時点はこの状態を示す。この状態において、第1圧力センサT1および第3圧力センサT3から出力される圧力信号がバンドパスフィルタ処理されることにより、上流側膨張袋22および下流側膨張袋26により検出された脈波を示す脈波信号が弁別され、それらの脈波信号の位相差Δt1(脈波伝播時間sec)とたとえば90mm程度の上流側膨張袋22および下流側膨張袋26の予め定められた中心間距離L13(m)とに基づいて局所脈波伝播速度bbPWV(m/sec)が次式(5)から算出される。このような局所脈波伝播速度bbPWVの算出は、脈波の発生毎に時刻t6に到達するまで繰り返し実行され、到達するとそれまでに求めた局所脈波伝播速度bbPWVの平均値が算出され、記憶される。また、図示しない心音マイクロホンにより検出された心音またはECGのR波の発生時刻と中間膨張袋24により検出されたカフ脈波の立ち上がり時刻との時間差Δt2( 脈波伝播時間sec)と両者間の予め定められた距離L2(m)とに基づいて脈波伝播速度hbPWV(m/sec)がカフの影響が小さい最低血圧値DBPより低い所定の圧力たとえば50mmHgの圧力で次式 (6) から算出され、記憶される。
【0051】
bbPWV=L1 /Δt1 ・・・ (5)
hbPWV=L2 /Δt2 ・・・ (6)
【0052】
次に、
図18において、カフ圧制御部100、血圧測定部102、記憶部106に対応するS4では、第2血圧測定/脈波採取ルーチンが
図7の時刻t7 乃至t9 に示す区間において実行される。このS4では、第1血圧測定ルーチンと同様に、先ず、時刻t7において電動ポンプ50が起動され、その電動ポンプ50から圧送される圧縮空気により連通状態の上流側膨張袋22、中間膨張袋24、および下流側膨張袋26の圧力が共に急速に上昇されて圧迫帯12全体による上腕部11の圧迫が開始される。主圧力センサT0により検出される圧力すなわち圧迫帯12による圧迫圧力Peが第1血圧測定ルーチンによる前回の測定値である生体の最高血圧値SBPよりも所定値高い値に予め設定された昇圧目標圧力Pmax に到達すると、上記電動ポンプ50の作動が停止され、それに応答して、圧迫帯12による圧迫圧力Peが一定の速度で下降するように排気制御弁54が作動させられ、単位時間当たり或いは単位脈波当たりの一定速度の徐速排気が開始される。
図7の時刻t8 はこの状態を示す。この時刻t8以降の徐速排気過程においては、主圧力センサT4により検出される圧力すなわち圧迫帯12による圧迫圧力Peが予め設定された第1維持圧力P1 に到達すると(時刻t9)、それに応答して開閉弁E1、E2、E3、排気制御弁54が一定のカフ圧維持時間だけ閉じられて上流側膨張袋22、中間膨張袋24、および下流側膨張袋26の圧力が上記第1 維持圧力P1 に時刻t10まで維持される。この時刻t9乃至t10の間の第1圧力維持区間では、脈波の発生に同期してその脈波の裾に相当するタイミングで容積パルス発生器64からたとえば0.2cc程度の一定容積Cの空気が100ms乃至150msの幅でパルス的に中間膨張袋24内に注入され、第2圧力センサT2から出力された信号にバンドパスフィルタ処理が施されることにより、上記容積パルス発生器64から加えられた容積パルスに応答して発生する圧力パルスPp1 が得られ、それが記憶される。この圧力パルスPpは、式(4)に示す式から求める第1維持圧力P1でのカフコンプライアンスSeの算出に用いられる。この第1圧力維持区間では、一定の圧力維持状態において複数のカフ脈波信号が複数採取され、それらのカフ脈波が記憶されてもよいし、それらの平均値のカフ脈波が第1維持圧力P1とともに記憶されてもよい。また、上記容積パルスが複数個入力されたときに発生する複数個の圧力パルスPpの平均圧力パルスが記憶されてもよい。そして、時刻t10に到達すると、制限上記第1圧力維持区間が終了させられて第1開閉弁E1、第2開閉弁E2および第3開閉弁E3が再び開かれると同時に、排気制御弁54により徐速降圧が再開される。
【0053】
圧迫帯12による圧迫圧力Peが予め設定された第2圧力P2 に到達すると(時刻t11)、上記第1圧力維持区間と同様に、時刻t12に到達するまで第2圧力維持区間が形成され、圧迫圧力Peが予め設定された第j圧力Pj に到達すると(時刻t13)、時刻t14に到達するまで第j圧力維持区間が形成され、圧迫圧力Peが予め設定された第j1圧力Pj1 に到達すると(時刻t15)、上記と同様に、時刻t16に到達するまで第j1圧力維持区間が形成される。これら第2圧力維持区間、維持圧力ちとともに第j圧力維持区間、第j1圧力維持区間では、上記第1圧力維持区間と同様に、検出されたカフ脈波が第2維持圧力P2、第j維持圧力Pj、第j1維持圧力Pj1とともに記憶されるとともに、第1維持圧力P1、第2維持圧力P2、第j維持圧力Pj、第j1維持圧力Pj1における中間膨張袋24のカフコンプライアンスSe(cm
3/mmHg)すなわちSe1、Se2、・・・Sej、Sej1を式(4) からそれぞれ算出するために用いる圧力パルスPp1、Pp2、・・・Ppj、Ppj1が記憶される。このカフコンプライアンスSe1、Se2、Sej、Sej1 は、中間膨張袋24の容積変化に対する圧力変化の割合を示す感度を表している。このようにしてカフコンプライアンスSe が求められると、中間膨張袋24から第2圧力センサT2により検出された脈波の縦軸すなわち振幅を容積に変換することができる。すなわち、検出されたカフ脈波すなわち脈波から、その縦軸を圧力軸(mmHg)から容積軸(cm
3或いは断面積cm
2)に変換した容積脈波を得ることができる。
【0054】
S5では、上記のようにして記憶された脈波などから生体の血管コンプライアンスKの指標値ACIを算出するデータ解析ルーチンが、
図19のフローチャートにしたがって実行される。
図19において、PA曲線生成部108に対応するS51では、生体の上腕部11の動脈血管16における貫壁圧力PT(mmHg)と動脈血管16断面積A(cm
2)との関係を示すPA曲線が、たとえば
図8(b)に示すように生成される。
図8(b)において、バックリング領域と弾性変形の大きい血管軟性領域との間の圧力値Pbは、たとえば10mmHg程度、血管軟性領域(ソフト領域)と弾性変形の小さい血管硬性領域(ハード領域)との間の圧力値Psはたとえば60mmHg程度の値とする。上記PA曲線において、貫壁圧力PTが圧力値Pbより大きい(PT>Pb)領域に管法則式(3)を適用する。バックリング領域は、不安定領域でヒステリシスを示すので、圧迫圧力の低下過程で動脈血管が開く圧MAP1pressとなったときに採取された容積脈波MAP1pvrの立ち上がり特性からincrementalPA曲線として実験的に求める。
【0055】
次いで、容積脈波算出部110に対応するS52では、先ず、記憶部106において記憶されているカフ脈波が、時間軸(msec)と圧力値軸(mmHg)との二次元座標内で示される脈波波形であるので、時間軸と容積(断面積)軸(cm
3)との二次元座標内で示される容積脈波に変換される。すなわち、中間膨張袋24による圧迫圧力下すなわち各第1圧力P1、第2圧力P2、第j圧力Pj、第j1圧力Pj1、および圧力MAP1press下において容積パルス発生器64から一定容積C(cc)のパルスを加えたときに発生する圧力パルスPp を重畳したカフ脈波信号における圧力上昇値ΔPcuff(mmHg)を検出して、式(4) に示す式からカフコンプライアンスSe1、Se2、Sej、Sej1がそれぞれ算出され、それらのカフコンプライアンスSe1、Se2、Sej、Sej1 をカフ脈波の縦軸に乗算することにより、単位が容積(断面積)である容積脈波に変換される。すなわち、縦軸が圧力値軸(mmHg)である カフ脈波のから縦軸が容積(cm
3或いは断面積cm
2)軸である容積脈波に変換する。
図9は、時間軸を共通させた上記の容積脈波D2pvrおよびMAP1pvrの立ち上がり部分を示している。容積脈波算出部110に対応するS53では、領域IIに属する
図9のD2pvrの容積−時間特性から、式(1)の平衡状態の容積V0、脈波上昇脚の体積ひずみ時定数τcを算出する。
【0056】
また、容積脈波算出部110に対応するS54では、上記S51(PA曲線生成部108)において算出されたれPA曲線を用いて、容積軸と時間軸との二次元座標内で示される上記容積脈波を、容積軸と貫壁圧力軸との二次元座標内で示される容積脈波へ変換される。すなわち、たとえば
図8に示されるPA曲線において、横軸が時間軸である容積脈波の貫壁圧力PT軸方向の大きさ(容積値)に対応する点の容積値を、横軸を貫壁圧力PT軸(mmHg)とする容積脈波の大きさとするように対応付けすることで、
図10に示す、横軸を時間軸から貫壁圧力PT軸(mmHg)に変換した容積脈波の立ち上がり部分を生成する。
図10では、時間軸上の容積脈波MAP1pvから変換された貫壁圧力PT軸上の容積脈波MAP1pvrの立ち上がり部分が、時間軸上の容積脈波D2pvから変換された貫壁圧力PT軸上の容積脈波D2pvrの立ち上がり部分と対比して例示されている。
【0057】
血管コンプライアンス算出部112に対応するS55では、上記S54(容積脈波算出部110)により算出された
図10の貫壁圧力PT軸上の容積脈波MAP1pvrが微分されることにより、
図11或いは
図12に示すその各部の傾斜(傾きΔA/ΔPT)が貫壁圧力PT値毎に表わす動脈血管壁のコンプライアンスKを示す血管コンプライアンス曲線が算出される。また、その血管コンプライアンス曲線の最大値である最大コンプライアンス値Kmaxと、その最大コンプライアンス値Kmax に対応する貫壁圧力値(5mmHg程度)よりも所定値大きい血管軟性領域の予め定められた一定の貫壁圧力PT値たとえば貫壁圧力PT値が40mmHgにおけるコンプライアンスK40とが決定される。
図12は、
図8(b)のPA曲線の一点鎖線に対応した健常者の血管コンプライアンス曲線を示し、
図11は、
図8(b)のPA曲線の実線に対応して、動脈血管16の動脈硬化により血管伸展性が減少し、Kmax値が減少し、血管軟性領域の容積脈波上昇脚の時定数が延長している。即ち、容積脈波が硬性波であるときの血管コンプライアンス曲線を示している。
【0058】
指標値算出部114に対応するS56では、血管コンプライアンス算出部112において算出された最大コンプライアンス値KmaxおよびコンプライアンスK40に基づいてそれらの割合或いは比であるコンプライアンス指標値ACI、すなわち最大コンプライアンス値Kmaxに対する対比コンプライアンスK40の比(K40/Kmax)である血管コンプライアンスの指標値ACIが算出される。
【0059】
上腕動脈は、血液を末梢に分配する伝導動脈があるので、年齢とともに体格が大きくなると血流量の増加により血管が拡張する。他方高血圧のように血圧が継続的に高くなると血圧負荷により血管が拡張するので血管拡張もまた動脈硬化の一つと考えられる。Kmaxで示される血管コンプライアンスは、
図15のように血管拡張とともに増加する。K40もKmaxと同様に血管拡張により増加する。Kmaxの増加に比べてK40の血管拡張による増加率が次第に減少するので、ACIは年齢とともに減少する特性を示す。即ち、年齢とともに減少する初期のACIの低下は、血管拡張に起因しているとみなされる。一方、血管壁は、粘弾性の特性を示し、動脈硬化による血管壁弾性の低下、粘性の寄与の増大により、式(1)に示される脈波上昇脚の体積ひずみ時定数が延長する。
図11に示すように、このとき血管拡張が同じであるとKmaxが減少し、K40は大きくなり、ACIは増加し、ひずみ時間(脈波上昇脚時間幅UTtime)は延長する。
【0060】
このようにして、血管コンプライアンスの指標値ACIが算出されると、
図18のS6において、血管コンプライアンスの指標値ACIが、
図17の脈波上昇脚体積ひずみ時定数との2次元表示、他の測定値である血圧測定値などと共に画像表示器18に表示される。
【0061】
上述のように、本実施例の自動血圧測定装置(動脈血管硬化度測定装置)10によれば、容積脈波算出部110により、圧迫帯12に発生する脈波の少なくとも立ち上がり区間が動脈血管16の貫壁圧力軸上の容積変化を示す容積脈波MAP1pvrに変換され、血管コンプライアンス算出部112により、その貫壁圧力軸上の容積変化を示す容積脈波MAP1pvrの少なくとも立ち上がり区間における傾きを示す血管コンプライアンス波形がPA曲線に基づいて算出され、指標値算出部114により、その血管コンプライアンス波形のうちの領域Iの最大コンプライアンスKmaxに対する、該血管コンプライアンス波形の該最大コンプライアンスKmaxを示す点の貫壁圧力PT5とは異なる領域IIに含まれる貫壁圧力値PT40に対応する所定コンプライアンスK40の比である血管コンプライアンスの指標値ACI(=K40/Kmaxが算出される。また、指標値算出部114により、領域IIの容積脈波上昇脚の時定数τcが、体積ひずみ特性を示す指標値として算出される。このため、その血管コンプライアンスの指標値ACIと脈波上昇脚体積ひずみ時定数τcを、動脈血管拡張や動脈硬化の重症度に拘わらず、生体の動脈血管の硬化度を正確に表わす指標値として用いることができる。
【0062】
また、本実施例の自動血圧測定装置(動脈血管硬化度測定装置)10によれば、脈波MAP1、脈波に対する応答としての時間軸上の容積脈波MAP1pvr、それから変換された貫壁圧力PT軸上の容積脈波MAP1pvrの立ち上がり区間は、動脈血管16の圧迫帯12よりも下流側の分岐部からの反射波が重畳する前の、反射波の影響を受けない区間が用いられるので、反射波の影響を受けない正確な血管コンプライアンスの指標ACIを得ることができる。
【0063】
また、本実施例の自動血圧測定装置(動脈血管硬化度測定装置)10によれば、圧力値(PT=40mmHg)は、
図11の血管コンプライアンス曲線において、バックリングポイントの予想される貫壁圧力値(PT=10mmHg)よりも大きい値である領域IIの中心値であることから、一層精度の高い正確な血管コンプライアンスの指標ACIを得ることができる。
【0064】
また、本実施例の自動血圧測定装置(動脈血管硬化度測定装置)10によれば、容積脈波算出部110は、圧迫帯12に一定容積変化Cを与えたときのその圧迫帯12内の圧力の変化からカフコンプライアンスSeを算出し、圧迫帯12内の圧力振動であるカフ脈波MAP1とそのカフコンプライアンスSeとに基づいて、動脈血管16内の圧力が増加したときにその動脈血管16の単位長さ当たりに増加する動脈血管の容積を表す容積脈波MAP1pvrを算出することから、脈波MAP1から実際のカフコンプライアンスSeに基づいて正確な容積脈波MAP1pvrが得られる。その容積脈波MAP1pvrをもちいて一層正確な血管コンプライアンスのACI指標を得ることができる。
【0065】
また、本実施例の自動血圧測定装置(動脈血管硬化度測定装置)10によれば、圧迫帯12は、中間膨張袋24と、その中間膨張袋24内の圧力を検出する圧力センサと、その中間膨張袋24の両側に隣接して配置された一対の上流側膨張袋22および下流側膨張袋26とを備え、生体の上腕部11を圧迫する場合には、その一対の上流側膨張袋22および下流側膨張袋26と前記中間膨張袋24とを相互に連通させた状態で昇圧することにより生体の上腕部11である被圧迫部位内の動脈血管16を圧迫するものであり、脈波MAP1はその中間膨張袋24から得られるものであるので、圧迫帯12の側縁部における圧迫圧力の低下による測定値のずれ(ショートカフ効果)が好適に防止される。
【0066】
また、本実施例の自動血圧測定装置(動脈血管硬化度測定装置)10によれば、容積脈波算出部110は、動脈血管16の脈動に対応する大きさの予め設定された一定容積Cの気体を容積パルス発生器(定容積脈波発生装置)64から中間膨張袋24内に加えたときのその内圧の変化を示すカフコンプライアンスSeを算出し、中間膨張袋24内に加えられる一定容積の気体の容積値Cと、その一定容積の気体が中間膨張袋24内に加えられたときに第2圧力センサT2により検出された中間膨張袋24内の圧力上昇値との関係を予め求めるものであるので、中間膨張袋24のカフコンプライアンスSeが、たとえば予め設定された一定周期、脈拍、或いは圧迫圧力変化値に応答して上記容積パルス発生器64から一定容積の気体が中間膨張袋内に加えられる毎に逐次得られる利点がある。
【0067】
以上、本発明の一実施例を図面に基づいて説明したが、本発明はその他の態様においても実施され得る。
【0068】
たとえば、前述の実施例の圧迫帯12は上腕部11に装着されていたが、生体の他の部位、たとえば前腕、足首等に装着されるものであってもよい。
【0069】
また、前述の実施例において、血管コンプライアンスの指標値ACIを算出するための所定の対比コンプライアンスK40は、必ずしも貫壁圧力PTが40mmHgであるときの値を用いる必要は無く、たとえば貫壁圧力PTが50mmHgであるときの所定コンプライアンスK50が用いられていてもよい。
【0070】
また、前述の実施例において、電子制御装置70は、
図7のt1乃至t3区間において予備(第1)血圧測定を実行していたが、その予備血圧測定区間は必ずしも設けられていなくてもよい。また、
図7のt1乃至t3区間の血圧測定1、t7乃至t17の第2血圧測定区間では、容積脈波の振幅の変化に基づきオシロメトリック法を用いて、最高血圧値SBPおよび最低血圧値DBPを決定していたが、脈波の積分値の変化、すなわち脈波のグラフが時間軸上に形成する面の面積変化に基づきオシロメトリック法を用いて、最低血圧値DBP、最高血圧値SBPを決定してもよいし、マイクロホンにより検知されるコロトコフ音の発生および消滅に基づいて最低血圧値DBP、最高血圧値SBPを決定してもよい。
【0071】
また、前述の実施例において、中間膨張袋24に発生する容積脈波MAP1pvrは、その上流側に隣接して位置する上流側膨張袋22からの干渉成分が除去されたものが用いられるようにしてもよい。この干渉成分は、たとえば、上流側膨張袋22から中間膨張袋24までの脈波伝播時間内において上流側膨張袋22から発生する脈波と同位相分の中間膨張袋24に発生する脈波MAP1の一部が上流側膨張すく炉22からの干渉波であるとして特定し、その割合である干渉率を用いて中間膨張袋24に発生する容積脈波MAP1pvrを補正すればよい。
【0072】
また、前述の実施例のPA曲線生成部108においては、動脈血管16における貫壁圧力PTと動脈血管16の腕軸方向の単位長さあたりの容積との関係がPA曲線として生成されていたが、動脈血管16の断面積と容積とは一対一の関係にあるので、動脈血管16における貫壁圧力PTと動脈血管16の断面積との関係がPA曲線として生成されてもよい。
【0073】
なお、上述したのはあくまでも本発明の一実施例であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が加えられ得る。