(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
  例えば、産業用圧縮機やターボ冷凍機、小型ガスタービンなどに用いられる回転機械にあっては、回転軸に固定されたディスクに複数のブレードを取り付けたインペラを具備している。上記回転機械は、インペラを回転させることで、ガスに圧力エネルギー及び速度エネルギーを与えている。
【0003】
  上記インペラとしては、ブレードにカバーを一体的に取り付けたいわゆるクローズドインペラが知られている。このクローズドインペラの場合、例えば、特許文献1のように1ピース化しようとすると、複雑な削りだし加工や溶接が必要となり、インペラの組み立て作業に時間がかかってしまう。
【0004】
  また、引用文献2には、ブレード間の流路を形成した内周側部品と外周側部品とをこれらの流路が互いに接続されるように拡散接合することによってインペラを製造する方法が提案されている。この引用文献2に記載のインペラは、内周側部品、外周側部品ともに加工工具のアクセス性は高いものの、これら内周側部品と外周側部品との両方に流路を形成する他、これらの流路が互いに連通するように拡散接合を施す必要があるため、製造コストの高騰を招いてしまっていた。
【0005】
  一方、ディスクの基部側に形成された内径部を焼き嵌めによって回転軸へ取り付けるインペラが知られている。このインペラの場合、熱容量の比較的大きいディスク部が内径部の近傍に配置されているため、内径部を加熱してインペラを回転軸から取り外そうとした場合に、温度が上昇し難い。
  そこで、例えば
図10に示すように、内径部420に軸線O方向の一側(
図10における左側)に延出する部分を形成し、ディスク部430から離間した位置で内径部420を回転軸に焼き嵌めすることが考えられる(
図10中、焼き嵌め位置を太線で示す)。このようにすることで、熱容量の小さい部分で焼き嵌めをすることができるため、メンテナンス時などに、容易にインペラを着脱することができる。
【0006】
  しかし、上記内径部420がブレード部440及びカバー部450の下方に配置されているため、カバー部450およびブレード部440の下方のスペースが狭くなり、とりわけ回転軸5側におけるブレード部440とディスク部430との溶接作業や、ブレード部440とカバー部450と溶接作業を行う際に、工具を取り回すスペースSが十分に確保できなくなってしまい、完成品の品質にばらつきが生じる虞があった。
  また、ディスク部430とブレード部440とカバー部450とは溶接等により接合する必要があるため、これらディスク部430、ブレード部44、および、カバー部450を形成する材料が溶接性のよい材料に限定されてしまい、設計の自由度が制限されてしまっていた。
【0007】
  これに対して、上記スペースSを確保したり、設計自由度を高めるために、例えば、
図11に示すような構造が考えられる。この
図11に示すインペラ410は、ディスク部430と内径部420とを、回転軸5の軸線Oに沿う面mで分割して、ディスク部430、ブレード部440、および、カバー部450を一体的に形成した後に、ディスク部430の基部を内径部420に焼き嵌めにより取り付ける。これにより、ディスク部430、ブレード部440、および、カバー部450を必ずしも溶接により接合する必要がなくなり、また、溶接により接合する場合には、溶接作業を行うスペースを十分に確保することが可能となる。
 
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
  ところで、
図11に示すインペラの場合、内径部420とディスク部430とを分割して形成し、ディスク部430を内径部420に焼き嵌めにより嵌合している。焼き嵌めにより嵌合する場合、嵌合した後に熱収縮することとなるが、ディスク部430において、ブレード部440およびカバー部450が取り付けられた軸線O方向一側と、反対側の軸線O方向他側とでは、径方向への収縮の大きさにばらつきが生じてしまう。より具体的には、ブレード部440及びカバー部450が設けられたディスク部430の軸線O方向一側では、ブレード部440及びカバー部450も熱収縮する分、軸線O方向他側よりも大きく熱収縮によって径方向に変形することとなる。
  そのため、ブレード部440およびカバー部450側にディスク部430の端部側が引っ張られてディスク部430が軸線O方向一側に撓み、ディスク部430の基部において当該撓み方向とは反対側の軸線O方向他側が持ち上げられてしまう。そして、ディスク部430の基部は、軸線O方向他側において持ち上げられることにより、ディスク部430と内径部420との間に隙間が生じてしまう虞がある。
【0010】
  また、インペラ410が回転すると、ディスク部430の片側に取り付けられているブレード部440とカバー部450とに大きな遠心力が作用することとなる。すると、ブレード部440とカバー部450とが径方向外側に変位しようとして、ディスク部430が、上記隙間を埋める方向に傾動してしまう虞がある。つまり、インペラ410が回転・停止を繰り返すことで、インペラ410がぐらつくなど安定性が損なわれてしまう虞がある。
【0011】
  この発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ディスク部、ブレード部、および、カバー部における設計の自由度を向上しつつ、カバー部とブレード部とディスク部とを容易に一体的に形成することができると共に、ディスク部と内径部との熱変形により接合面に隙間ができるのを防止し、且つ、回転軸に対して容易に着脱可能な
インペラを備える回転機械
の製造方法を提供するものである。
 
【課題を解決するための手段】
【0012】
  上記の課題を解決するために以下の構成を採用する。
  この発明に係る
回転機械の製造方法は、軸線回りに回動される回転軸
と、該回転軸に対して外嵌される内径部、該内径部
に外嵌されるディスク部、該ディスク部の前記軸線方向における一側を向く面から突出して設けられるブレード部、及び、該ブレード部に対して一体的に設けられるとともに該ブレード部を前記軸線方向における一側から覆うように設けられるカバー部を
有し、前記ディスク部
が、前記ブレード部が設けられる本体部
及び該本体部よりも径方向内側に配置されて前記内径部の外周面に外嵌される固定部
を有し、該固定部
が前記軸線方向における他側に向かって前記本体部よりも張り出して形成されるインペラと、
を備える回転機械の製造方法であって、前記回転軸を準備する工程と、前記内径部を準備する工程と、前記ディスク部、前記ブレード部及び前記カバー部を一体的に形成する工程と、前記ディスク部、前記ブレード部及び前記カバー部を一体的に形成した後に、前記ディスク部を前記内径部における前記軸線方向における他側に対して熱変形により外嵌する工程と、前記ディスク部を前記内径部に外嵌させた後に、前記回転軸に対して前記内径部の一側を熱変形により外嵌する工程と、を備えることを特徴としている。
【0013】
  このように構成することで、ディスク部とブレード部とカバー部とを一体的に形成した後に、ディスク部を内径部に熱変形により外嵌することができるため、ディスク部とブレード部とカバー部とを一体的に形成する際の作業スペースを十分に確保することができる。したがって、作業時間を短縮できると共に、ディスク部とブレード部とカバー部とを必ずしも溶接により接合する必要がなくなり設計の自由度を向上できる。
  また、内径部の軸線方向における一側が熱変形により回転軸に外嵌され、内径部の軸線方向における他側にディスク部が熱変形により外嵌されることで、熱容量の大きいディスク部から内径部の外嵌位置を離間して、外嵌位置における熱容量を小さくできる。したがって、メンテナンス時などに、容易に内径部を熱変形させてインペラを着脱することができる。
【0014】
  また、ディスク部を内径部に外嵌させた際に、熱変形によってディスク部の本体部がブレード部及びカバー部側に引っ張られて軸線方向一側に変形しようとしても、固定部の、ディスク部の本体部よりも軸線方向における他側に向かって張り出した部分によって拘束を受けるため、ディスク部および固定部の変形を軽減することができる。さらに、上記張り出した部分が、本体部の変位に追従せずに内径部の外周面への接触状態を維持しようとするため、固定部の軸線方向における他側が持ち上げられるのを防止して、固定部と内径部との間に、固定部を内径部に固定するための適正な面圧を確保することができる。したがって、ブレード部、カバー部、およびディスク部の熱変形により、ディスク部と内径部との間の嵌合面に隙間ができるのを防止することができる。
【0015】
  さらに、この発明に係る
回転機械の製造方法は、上記
回転機械の製造方法において、前記固定部は、前記内径部よりも厚さ寸法が大きく設定されていてもよい。
  このように構成することで、内径部を薄くして熱変形によって回転軸に固定することを容易としつつ、固定部の剛性を高めることができるため、固定部の変形を抑制して、内径部と固定部との嵌合面における面圧を均一化することができる。
【0016】
  さらに、この発明に係る
回転機械の製造方法は、上記
回転機械の製造方法において、前記本体部の前記軸線方向における他側には、前記固定部に隣接して環状の凹部が形成されていてもよい。
  このように構成することで、固定部の軸線方向に沿う寸法を拡大することなしに、固定部に隣接する本体部の軸線方向に沿う寸法に対する、固定部の軸線方向他側に張り出す寸法を更に拡大することができる。このため、本体部が軸線方向一側に変形しようとしても、これに伴って固定部の軸線方向他側が持ち上がってしまうことをより確実に防止することができる。したがって、インペラが大型化するのを抑制しつつ、ディスク部と内径部との間の嵌合面に隙間ができるのを防止することができる。
【0017】
  さらに、この発明に係る
回転機械の製造方法は、上記
回転機械の製造方法において、前記内径部は、前記ディスク部の前記軸線方向における位置決めをする位置決め部を備えていてもよい。
  このように構成することで、内径部にディスク部を外嵌する際に、内径部に対してディスク部を正確に位置決めすることができるため、品質がばらつくのを抑制することが可能となる。
【0018】
  さらに、この発明に係る
回転機械の製造方法は、上記
回転機械の製造方法において、前記位置決め部は、前記ディスク部の前記軸線方向における一側面が当接される当接面に肉抜き部を備えていてもよい。
  このように構成することで、位置決め部によってディスク部の位置決めを行うことができると共に、肉抜き部により肉抜きされるので、位置決め部が形成された箇所において内径部の剛性が部分的に増加されるのを防止することができる。したがって、ディスク部の変形に対して内径部が追従するように、内径部を円滑に変形させることができる。
 
【発明の効果】
【0020】
  本発明によれば、ディスク部、ブレード部、および、カバー部における設計の自由度を向上しつつ、カバー部とブレード部とディスク部とを容易に一体的に形成することができると共に、ディスク部と内径部との熱変形により接合面に隙間ができるのを防止し、且つ、回転軸に対して容易に着脱可能とすることができる。
 
 
【発明を実施するための形態】
【0022】
  次に、この発明の第一実施形態における回転機械について図面を参照して説明する。
  
図1は、この実施形態の回転機械を備える遠心圧縮機100の概略構成を示す構成図である。
  
図1に示すように、遠心圧縮機100のケーシング105には、ジャーナル軸受105aおよびスラスト軸受105bを介して回転軸5が軸支されている。回転軸5には、複数のインペラ10が軸線O方向に並んで取り付けられている。各インペラ10は、回転軸5の回転による遠心力を利用してケーシング105に形成された上流側の流路104から供給されるガスを下流側の流路104へと段階的に圧縮して流す。
 
【0023】
  ケーシング105には、回転軸5の軸線O方向の一側(
図1における左側)に、外部からガスを流入させるための吸込口105cが形成されると共に、軸線O方向の他側(
図1における右側)に、外部へガスを流出させるための排出口105dが形成されている。つまり、上記遠心圧縮機の構成により、回転軸5が回転すると、吸込口105cからガスが流路104に流入して、インペラ10によって段階的に圧縮され、当該圧縮されたガスが、排出口105dから排出される。なお、
図1においては、回転軸5にインペラ10が直列に6個設けられた一例を示しているが、インペラ10は、回転軸5に対して少なくとも1個設けられていればよい。以下の説明では、説明を簡単化するために、回転軸5にインペラ10が1個設けられている場合を例にして説明する。
 
【0024】
  図2に示すように、回転機械1のインペラ10は、回転軸5に対して外嵌される内径部20と、この内径部20に外嵌される略円板状のディスク部30と、このディスク部30の軸線O方向の一側面31から突出して設けられた複数のブレード部40と、ブレード部40に対して一体的に形成されるとともに、ブレード部40を軸線O方向の一側から覆うように形成されたカバー部50と、を備える、いわゆるクローズドインペラである。
 
【0025】
  図3を併せて参照し、ブレード部40は、略一定の板厚で形成されてディスク部30の一側面31から軸線O方向の一側に向かって突出して形成されている。さらにブレード部40は、ディスク部30の一側面31に、周方向に等間隔で複数配列されている。このブレード部40は、軸線O方向から見て、ディスク部30の径方向外側に向かうにつれて回転機械1の回転方向(
図2中、矢印で示す)の後方に向かって凹状に湾曲形成されている。またブレード部40は、側面視で径方向外側に向かってやや先細り形状とされている。なお、ブレード部40が軸線O方向から見て湾曲形成される場合について説明したが、ブレード部40は、径方向の外側ほど回転方向の後方側に延在されていればよく、例えば軸線O方向から見て直線的に形成されていてもよい。
 
【0026】
  内径部20は、軸線Oを中心とした略円筒状をなしている。内径部20は、軸線O方向における一側に形成される薄肉部21と、内径部20の軸線O方向における他側に形成される厚肉部22と、これら薄肉部21と厚肉部22との間に形成され軸線O方向の他側に向かい漸次拡径する拡径部23とを備えている。
 
【0027】
  拡径部23と厚肉部22との間には、回転軸5の外周面に対して略垂直な壁面(当接面)24aを備える位置決め部24が形成されている。位置決め部24は、後述するディスク部30の固定部33の一側面33aに当接することで、ディスク部30の固定部33が、所定の固定位置よりも軸線O方向の一側に向かって変位するのを規制する。
 
【0028】
  さらに、位置決め部24の壁面24aには、位置決め部24における内径部20の剛性を減少させる肉抜き部25が形成されている。この肉抜き部25が形成されることで、位置決め部24が形成された箇所における内径部20の剛性を、厚肉部22の剛性に近づけることができる。これにより、肉抜き部25を形成しない場合よりも、内径部20のディスク部30付近の剛性を均すことができる。
 
【0029】
  薄肉部21は、上記厚肉部22よりも相対的に薄く形成されている。また、薄肉部21は、その内径が、回転軸5の外径よりも僅かに小径とされ、回転軸5に対して焼き嵌めされている。この薄肉部21における焼き嵌めにより、内径部20が回転軸5に対して嵌合されている。なお、
図3中、焼き嵌めされる範囲Aを太線で示す。
 
【0030】
  拡径部23は、軸線O方向における他側ほど拡径されることで、その外周面23aが軸線O方向の他側ほど立ち上がる曲面を呈している。そして、拡径部23の軸線O方向における他側に、径方向内側に向かって有段成型されて上述した位置決め部24が形成されている。
 
【0031】
  厚肉部22は、位置決め部24よりも軸線O方向における他側に形成されている。この厚肉部22は、薄肉部21よりも相対的に厚く形成されている。厚肉部22の外周面には、回転軸5の外周面5aに略平行な取付座面22aが形成されている。この取付座面22aには、ディスク部30が外嵌されている。拡径部23と厚肉部22とは、回転軸5に外嵌されないため、拡径部23と厚肉部22との内径は、回転軸5の外径と同等、若しくは、僅かに大径に形成されている。
 
【0032】
  ディスク部30は、その径方向外側に配置される本体部32と、この本体部32よりも径方向内側に配置される固定部33とを備えている。
  本体部32は、径方向外側の厚さ寸法がやや薄い略板状に形成されている。
 
【0033】
  固定部33は、軸線O方向における厚さ寸法が、上記本体部32の基部側の厚さ寸法よりも十分に(例えば、2倍程度)大きく形成されている。そして、固定部33は、本体部32の他側面32aの位置よりも、軸線O方向における他側に向かって張り出して形成されている。さらに、固定部33の径方向の厚さ寸法は、内径部20の厚肉部22の厚さ寸法よりも十分に厚く形成されている。固定部33の径方向の厚さ寸法は、例えば、肉厚部12cの厚さ寸法Tの2倍程度の厚さ寸法2T程度とされている。このように径方向の厚さ寸法を設定することにより、固定部33の剛性は、厚肉部22の剛性よりも高くなっている。
 
【0034】
  固定部33の内周面33bと厚肉部22の取付座面22aとは、軸線O方向における長さ寸法が略同一に設定されている。また、ディスク部30は、本体部32と固定部33との、軸線O方向における一側面32b,33aが面一とされている。固定部33は、その内径が上述した取付座面22aの外径よりも僅かに小径とされ、肉厚部12cに対して焼き嵌めされている。
 
【0035】
  カバー部50は、軸線O方向における他側面50aがブレード部40の一側縁40aに取付られている。カバー部50の厚さ寸法は、ディスク部30の厚さ寸法と同様に、径方向外側の厚さ寸法がやや薄い板状に形成されている。そして、カバー部50は、ブレード部40の内側端40bの位置において軸線O方向における一側に向かって屈曲された屈曲部51を備えている。
 
【0036】
  上記のように構成されたインペラ10は、ブレード部40の径方向内側に、拡径部23が配置されている。また、内径部20の端部20aが、屈曲部51の端面51aよりも軸線O方向における一側に配置されている。そして、薄肉部21の外周面21a、拡径部23の外周面23a、ディスク部30の一側面30a、ブレード部40の壁面、および、カバー部50の他側面50aによってガスが流れる流路104が画成されている。
 
【0037】
  次に、上述した回転機械1の組み立て方法について説明する。
  まず、ディスク部30と、ブレード部40と、カバー部50とを溶接や切削等により一体的に形成する。
  次いで、ディスク部30の内周面33bを内径部20の取付座面22aに対向させて焼き嵌めにより嵌合させる。これによりインペラ10の組み立てが完了する。
  その後、内径部20を回転軸5の外周面5aの所定位置に焼き嵌めにより嵌合させる。これにより、回転機械1の組み立てが完了する。
 
【0038】
  次に、本実施形態のインペラ10と、従来のインペラ510とにおける焼き嵌めによる変形について
図4〜
図6を参照しながら説明する。ここで、
図4は、従来のインペラ510を焼き嵌めした場合を示しており、
図5は、上述した実施形態におけるインペラ10を焼き嵌めした場合を示している。また、
図6は、
図4、
図5における軸線O方向の各位置に対応したディスク部30,530と内径部20,520との隙間量の変化を示したものである。
図4に示す従来のインペラ510は、本実施形態のインペラ10に対して、固定部33および位置決め部24を備えていない点で相違している。また、
図4、
図5においては、焼き嵌めによる変形前のインペラの位置を二点鎖線で示している。また、
図4、
図5においては、焼き嵌めによるインペラ10の各所の変位を誇張して示しているため、
図6の隙間量とは必ずしも一致していない。
 
【0039】
  図4に示すように、従来のインペラ510においては、焼き嵌めによってディスク部530を内径部520に取り付けると、ディスク部530の径方向外側の部分が、ブレード部540およびカバー部550の熱収縮によって軸線O方向における一側(
図4中、左側)に引っ張られて撓んでしまう。なお、ブレード部540およびカバー部550のトータルの剛性は、ディスク部530の剛性よりも高くなっている(本実施形態のインペラ10も同様)。
 
【0040】
  すると、ディスク部530と内径部520との嵌合部Gにおいて、軸線O方向における撓み側とは反対側となる他側(
図4中、右側)の位置bが持ち上げられてしまう。このように、嵌合部Gにおいて、撓み側とは反対側の位置bが持ち上げられることにより、
図6に示す如く、軸線O方向における位置bにおいては、ディスク部530と内径部520との嵌合部に大きな隙間が生じてしまう。
 
【0041】
  一方、
図5に示すように、本実施形態のインペラ10は、ディスク部30の固定部33が本体部32よりも軸線O方向の他側に張り出して形成されていることで剛性が増すため、ブレード部40およびカバー部50側に引っ張られたとしても、本体部32の撓みが抑制されている。さらに、径方向において固定部33の厚さ寸法が厚肉部22の厚さ寸法よりも十分に大きく設定されていることで、固定部33の剛性が、厚肉部22の剛性を上回る。そのため、固定部33の変形に対して厚肉部22が追従して変形し、これにより、固定部33の内周面33bと肉厚部12cの取付座面22aとは、略平行な状態に維持される。
図6に示す如く、軸線O方向における撓み側cおよび反対側dの両方において、内周面33bと取付座面22aとの間には殆ど隙間が生じていない。
 
【0042】
  したがって、上述した本実施形態のインペラ10によれば、ディスク部30とブレード部40とカバー部50とを一体的に形成した後に、ディスク部30の固定部33を内径部20の厚肉部22に焼き嵌めにより外嵌することができるため、ディスク部30とブレード部40とカバー部50とを一体的に形成する際の作業スペースを十分に確保することができる。その結果、作業時間を短縮できると共に、ディスク部30とブレード部40とカバー部50とを必ずしも溶接により接合する必要がなくなり設計の自由度を向上できる。
 
【0043】
  また、内径部20の軸線O方向における一側すなわち薄肉部21が、焼き嵌めにより回転軸5に外嵌され、内径部20の軸線O方向における他側すなわち、厚肉部22にディスク部30が焼き嵌めにより外嵌されることで、熱容量の大きいディスク部30から内径部20の外嵌位置を離間して、外嵌位置における熱容量を小さくできる。その結果、メンテナンス時などに、容易に内径部20の薄肉部21を加熱により熱変形させてインペラ10を回転軸5から着脱することができる。
 
【0044】
  また、ディスク部30を内径部20に外嵌させた際に、熱変形によってディスク部30がブレード部40及びカバー部50側に引っ張られて軸線O方向一側に変形しようとしても、固定部33の、本体部32よりも軸線O方向における他側に向かって張り出した部分によって拘束を受けるため、ディスク部30の撓みを軽減することができる。さらに、上記固定部33の張り出した部分が、本体部32の変位に追従せずに内径部20の外周面への接触状態を維持しようとするため、固定部33の軸線O方向における他側が持ち上げられるのを防止して、嵌合面を形成する固定部33の内周面33bと厚肉部22の取付座面22aとの間に、固定部33を内径部20に固定するための適正な面圧を確保ことができる。その結果、ブレード部40、カバー部50、およびディスク部30の熱変形により、ディスク部30の内周面33bと内径部20の取付座面22aとの間に隙間ができるのを防止することができる。
 
【0045】
  さらに、固定部33の厚さ寸法が内径部20の厚さ寸法よりも大きく設定されていることで、内径部20を薄くして熱変形によって回転軸5に固定することを容易としつつ、固定部33の剛性を高めることができ、その結果、固定部33の変形を抑制して、上記内周面33bと取付座面22aとの間の面圧を均一化することができる。
  また、内径部20が、ディスク部30の軸線O方向における位置決めをする位置決め部24を備えていることで、内径部20にディスク部30を外嵌する際に、内径部20に対してディスク部30を正確に位置決めすることができるため、流路104の内面に段差が形成されるなど、品質にばらつきが生じるのを抑制することが可能となる。
 
【0046】
  次に、この発明の第二実施形態におけるインペラおよび、当該インペラを備える回転機械について図面を参照して説明する。なお、この第二実施形態のインペラは、上述した第一実施形態のインペラ10に対して、固定部33に隣接する環状の凹部を設けたものであるため、上述した第一実施形態と同一部分に同一符号を付して説明する。
 
【0047】
  図7に示すように、本実施形態における回転機械201は、上述した第一実施形態の回転機械1と同様に、回転軸5にインペラ210が焼き嵌めにより外嵌されている。
  インペラ210は、回転軸5に対して外嵌される内径部20と、この内径部20に外嵌される円板状のディスク部30と、このディスク部30の軸線O方向の一側面30aから突出して設けられた複数のブレード部40と、ブレード部40に対して一体的に形成されるとともに、ブレード部40を軸線O方向の一側から覆うように形成されたカバー部50と、を備えている。なお、内径部20、ブレード部40、および、カバー部50については、上述した第一実施形態と同様の構成であるため、詳細説明を省略する。
 
【0048】
  ディスク部30は、その径方向外側に配置される本体部32と、この本体部32よりも径方向内側に配置される固定部33とを備えている。
 
【0049】
  固定部33は、軸線O方向に沿う寸法が、上記径方向における本体部32の基部側の軸線O方向に沿う寸法よりも十分に(例えば、2倍程度)大きく形成されている。そして、固定部33は、本体部32の他側面32aの位置よりも、軸線O方向における他側に向かって張り出して形成されている。固定部33の径方向の厚さ寸法は、内径部20の厚肉部22の厚さ寸法よりも十分に厚く形成されている。より具体的には、固定部33の径方向の厚さ寸法は、肉厚部12cの厚さ寸法Tの2倍程度の厚さ寸法2T程度とされている。
 
【0050】
  固定部33の内周面33bと厚肉部22の取付座面22aとは、軸線O方向における長さ寸法が略同一に設定されている。また、ディスク部30は、本体部32と固定部33との、軸線O方向における一側面32b,33aが面一とされている。そして、固定部33の内径は、上述した取付座面22aの外径よりも僅かに小径とされ、固定部33が肉厚部12cに焼き嵌めにより外嵌されている。
 
【0051】
  本体部32は、径方向外側ほど厚さ寸法がやや薄い略板状に形成されている。
  本体部32の軸線O方向における他側面32aには、固定部33に隣接する部位(換言すれば、本体部32の基部側)に、軸線Oを中心とする略環状の肉抜き部234が形成されている。この肉抜き部234は、他側面32a側から抉ったような角溝状に形成されている。そして、この肉抜き部234が形成されている分だけ、本体部32の軸線O方向に沿う寸法が小さくなっている。この肉抜き部234の軸線O方向における深さ寸法は、本体部32の強度が十分に得られる範囲内で、より深く設定されるのが好ましい。なお、肉抜き部234は、軸線O方向の他側から抉られていればよく、上述した角溝状に限られるものではない。
 
【0052】
  したがって、上述した第二実施形態におけるインペラ210および回転機械201によれば、本体部32の軸線O方向における他側面32aに、固定部33に隣接した環状の肉抜き部234が形成されていることで、固定部33の軸線O方向に沿う寸法を大きくすることなしに、本体部32の径方向内側において、本体部32の基部の軸線O方向に沿う寸法t1に対する固定部33が他側へ張り出す寸法t2を相対的に延長することができる。その結果、インペラ210が大型化するのを抑制しつつ、ディスク部30の内周面33bと内径部20の内周面22aとの間に隙間ができるのを防止することができる。
 
【0053】
  次に、本発明の第三実施形態におけるインペラ310および、インペラ310を備える回転機械301について説明する。なお、この第三実施形態におけるインペラ310は、上述した第一実施形態におけるインペラ10と、固定部33の位置および、内径部20の厚肉部22の形状が異なるだけであるので、同一部分に同一符号を付して説明する。
  
図8に示すように、本実施形態における回転機械301は、上述した第一実施形態の回転機械1と同様に、回転軸5にインペラ310が焼き嵌めにより外嵌されている。
 
【0054】
  インペラ310は、回転軸5に対して外嵌される内径部320と、この内径部320に外嵌される略円板状のディスク部30と、このディスク部30の軸線O方向の一側面30aから突出して設けられた複数のブレード部40と、ブレード部40に対して一体的に形成されるとともに、ブレード部40を軸線O方向の一側から覆うように形成されたカバー部50と、を備えている。なお、ディスク部30には、厚肉部322と同等の径方向厚さ寸法を有する固定部33が形成されている。ディスク部30、ブレード部40、および、カバー部50については、上述した第一実施形態と同様の構成であるため、詳細説明を省略する。
 
【0055】
  内径部320は、軸線O方向における一側に、略円筒状の薄肉部21を備えている。内径部320は、さらに薄肉部21の軸線O方向における他側に、他側に向かって漸次拡径する拡径部23を備えている。内径部320は、さらに拡径部23の軸線O方向における他側に、薄肉部21よりも径方向における厚さ寸法が十分に大きい厚肉部322が形成されている。厚肉部322は、回転軸5の外周面に沿って形成される取付座面322aを備えている。
 
【0056】
  厚肉部322には、取付座面322aと他側面322bとの間に、面取りされた切り欠き部322cが形成されている。この切り欠き部322cが形成されていることで、取付座面322aは、ディスク部30の固定部33の内周面33bよりも軸線O方向における長さ寸法が短くなっている。厚肉部322の軸線O方向における他側縁の厚さ寸法は、固定部33の軸線O方向における他側縁の厚さ寸法2Tと同等に設定されている。
 
【0057】
  ディスク部30は、内径部320の取付座面322aに対して、軸線O方向における一側縁を揃えた状態で、固定部33に外嵌されている。なお、
図8においては、切り欠き部322cにおける面取りの形状を曲面状としているが、この形状に限られるものではない。
 
【0058】
  次に、内径部320の変形について
図9(a)〜(c)を参照しながら説明する。
  
図9(a)は、取付座面322aを他側に延長し、上述した切り欠き部322cを形成していない場合を示している。また、
図9(b)は、取付座面322aよりも他側に厚肉部322が延在されていない場合を示している。なお、説明の都合上、本実施形態の内径部320の各部と対応する部分に、同一符号を付して説明する。
 
【0059】
  図9(a),(b)に示す形状の場合、ディスク部30を内径部320に焼き嵌めすると、内周面33bと取付座面322aとの間の、軸線O方向における他側に隙間が生じてしまう。ここで、上記インペラ310は、径方向における固定部33の厚さ寸法よりも厚肉部322の厚さ寸法が大きいため、厚肉部322の剛性が、軸線O方向に沿って略一定になっている。そのため、厚肉部322は、ディスク部30から作用する面圧によって生じる変形モードが、薄肉部21側を基端として撓み変形する変形モードとなってしまう。すなわち、肉厚部322は、全体として軸線Oに対して軸線O方向一側から他側に向かうに従って内周側へと傾斜するように変形してしまい、上記隙間が生じてしまう。なお、
図9(a),(b)においては、説明の都合上、内径部20の変位を誇張して示している。
 
【0060】
  一方、
図9(c)に示す本実施形態の内径部320の場合、切り欠き部322cにおける厚肉部322の厚さ寸法が、固定部33の厚さ寸法よりも小さく形成されている。すなわち、肉厚部322は、軸線O方向に沿って中間部にて剛性が高い領域を有するとともに、それぞれ両側で剛性が低い領域を有している。このため、厚肉部322は、ディスク部30から作用する面圧によって生じる変形モードが、軸線O方向中間部から両側となる薄肉部21側と、切り欠き部322c側とで内周側に撓み変形する変形モードとなる。すなわち、肉厚部322は、全体として軸線O方向に対して片側に傾斜するような偏った変形をしない。そのため、取付座面322aが、内周面33bに対して略平行に保たれる。
  さらに、厚肉部322の取付座面322aの軸線O方向における寸法が、固定部33の内周面33bの軸線O方向における寸法よりも小さく形成されるため、焼き嵌め時に内周面33bが撓んだとしても、取付座面322aが内周面33bに馴染み易くなる。
 
【0061】
  したがって、上述した第三実施形態のインペラ310および回転機械301によれば、固定部33と厚肉部322との径方向における厚さ寸法が同等に設定されている場合であっても、肉抜き部322cによって厚肉部322の合成を部分的に低下させることで、取付座面322aと内周面33bとを略平行に保ち、また馴染み易くすることができる。したがって、焼き嵌めによる面圧を十分に確保することができる。
 
【0062】
  なお、この発明は上述した各実施形態の構成に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で設計変更可能である。
  例えば、上述した実施形態の固定部33の内周面33bと、厚肉部22,322の取付座面22a,322aとに、対を成し軸線O方向に延在するキーおよびキー溝を形成するようにしてもよい。このようにすることで、インペラ10,210,310の周方向において容易に位置決めをすることが可能となる。
 
【0063】
  また、上述した各実施形態では、回転軸5への内径部20,内径部320の外嵌、および、内径部20,内径部320へのディスク部30の外嵌を、焼き嵌めにより行う場合ついて説明したが、熱変形を利用した嵌合であれば、例えば冷やし嵌めなど、他の嵌合方法を採用してもよい。
 
【0064】
  さらに、上述した各実施形態では、回転機械1,201,301を遠心圧縮機100に適用する一例を説明したが、遠心圧縮機100に限られず、例えば、各種産業用圧縮機やターボ冷凍機、小型ガスタービンに適用可能である。