(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5907748
(24)【登録日】2016年4月1日
(45)【発行日】2016年4月26日
(54)【発明の名称】多気筒型混焼エンジン
(51)【国際特許分類】
F02D 19/08 20060101AFI20160412BHJP
F02D 41/04 20060101ALI20160412BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20160412BHJP
F02D 9/02 20060101ALI20160412BHJP
F02D 19/02 20060101ALI20160412BHJP
F02D 11/10 20060101ALI20160412BHJP
【FI】
F02D19/08 C
F02D41/04 325Z
F02D45/00 345A
F02D45/00 368Z
F02D9/02 R
F02D19/02 A
F02D11/10 Q
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-26431(P2012-26431)
(22)【出願日】2012年2月9日
(65)【公開番号】特開2013-163984(P2013-163984A)
(43)【公開日】2013年8月22日
【審査請求日】2014年12月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107308
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 修一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100120352
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100128901
【弁理士】
【氏名又は名称】東 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】染澤 俊介
【審査官】
二之湯 正俊
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−171975(JP,A)
【文献】
特開2009−185611(JP,A)
【文献】
特開2009−280082(JP,A)
【文献】
特開2010−071220(JP,A)
【文献】
特開2011−214491(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 13/00−28/00
F02D 9/00−11/10
F02D 43/00−45/00
F02D 41/00−41/40
F02M 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の気筒を有するエンジン本体と、
高発熱量燃料と当該高発熱量燃料よりも発熱量が低い低発熱量燃料とを混合してなる混合燃料を前記エンジン本体に供給する燃料供給手段と、
前記エンジン本体における各気筒での失火の発生を検出する失火検出手段と、
運転を制御する制御手段とを備えた多気筒型混焼エンジンであって、
前記混合燃料における前記高発熱量燃料に対する前記低発熱量燃料の混合割合である低発熱量燃料混合割合を調整可能な混合割合調整手段を備え、
前記制御手段が、前記失火検出手段により一部の気筒での失火の発生を検出した場合に、前記混合割合調整手段を制御して、前記エンジン本体に供給される前記混合燃料の前記低発熱量燃料混合割合を低下させて失火が発生していない気筒に供給される当該混合燃料の発熱量を増加させる混合割合変更処理を実行する多気筒型混焼エンジン。
【請求項2】
前記制御手段が、前記失火検出手段により一部の気筒における失火の発生を継続的に検出した場合に、前記混合割合変更処理を実行する請求項1に記載の多気筒型混焼エンジン。
【請求項3】
前記制御手段が、前記混合割合変更処理を実行するにあたり、前記失火の発生が検出された特定の気筒を休止状態とする失火気筒休止処理を実行する請求項1又は2に記載の多気筒型混焼エンジン。
【請求項4】
前記制御手段が、吸気路に設けられたスロットルバルブの開度を制御してエンジン出力を設定する出力制御を実行すると共に、前記混合割合変更処理を実行するにあたり、前記出力制御において前記エンジン出力を一定に維持する請求項1〜3の何れか1項に記載の多気筒型混焼エンジン。
【請求項5】
前記高発熱量燃料が天然ガスであり、前記低発熱量燃料がバイオガスである請求項1〜4の何れか1項に記載の多気筒型混焼エンジン。
【請求項6】
前記制御手段が、前記混合割合変更処理を実行するにあたり、前記失火の発生が検出された気筒の数に基づいて、前記エンジン本体に供給される前記混合燃料の前記低発熱量燃料混合割合を低下させる請求項1〜5の何れか1項に記載の多気筒型混焼エンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の気筒を有するエンジン本体と、
高発熱量燃料と当該高発熱量燃料よりも発熱量が低い低発熱量燃料とを混合してなる混合燃料を前記エンジン本体に供給する燃料供給手段と、
前記エンジン本体における各気筒での失火の発生を検出する失火検出手段と、
運転を制御する制御手段とを備えた多気筒型混焼エンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料と燃焼用空気との混合気をエンジン本体の各気筒で圧縮し燃焼させるレシプロ式のエンジンとして、2種以上の燃料を混合してなる混合燃料を利用する混焼エンジンが知られている(例えば、特許文献1を参照。)。このような混焼エンジンでは、ランドフィルガスやダイジェスターガスやスウェジガス等のように有機性廃棄物のバクテリアによる分解で発生するメタンを含むバイオガスなどのように単位体積あたりの発熱量(本願において単に「発熱量」と呼ぶ。)が比較的低い低発熱量燃料を、天然ガスなどのように当該低発熱量燃料よりも発熱量が高い高発熱量燃料と混合してなる混合燃料を燃料として利用する場合がある。
この種の混焼エンジンでは、バイオガスの発熱量が変動しやすいために、その変動に伴って混合燃料の発熱量も変動してしまい、結果、燃焼状態が不安定になり失火の発生を招くことが懸念される。
そこで、上記特許文献1の混焼エンジンでは、低発熱量燃料の発熱量の変動をエンジン回転数の変動等により監視しつつ、それに基づいて低発熱量燃料と高発熱量燃料との混合割合を制御することで、混合燃料の発熱量を常に一定に保ち、当該発熱量の変動に伴う失火の発生を未然に防止するように構成されている。
【0003】
エンジン本体に複数の気筒を配置した多気筒型エンジンにおいて、一部の気筒で失火が発生した場合には、その気筒では出力が得られないために全体のエンジン出力が一時的に低下する。このような場合、通常は、制御装置の出力制御によりスロットルバルブの開度が拡大され、エンジン本体への混合気の吸気量が増加されることで、エンジン出力の低下の防止が図られる。
また、失火を解消するための技術として、失火が検出された気筒に対して、点火時期の遅延化や燃料供給量の増加などの失火解消処理を行うという技術が知られている(例えば、特許文献2を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−060604号公報
【特許文献2】特開2002−039007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の多気筒型エンジンでは、上述したように、失火が発生した場合にはスロットルバルブの開度が拡大されることで、エンジン出力の低下の防止が図られるが、スロットルバルブの開度を拡大するには限界がある。例えばスロットルバルブが略全開で運転される定格運転時において失火が発生した場合には、スロットルバルブの開度を拡大することができないために、エンジン出力の低下を招くことになる。
更に、かかる多気筒型エンジンを、発熱量の異なる2種以上の燃料を混合してなる混合燃料、即ち高発熱量燃料と当該高発熱量燃料よりも発熱量が低い低発熱量燃料とを混合してなる混合燃料を利用する混焼エンジンとして構成する場合がある。このような多気筒型混焼エンジンにおいて、上記特許文献1のように、2種以上の燃料の混合割合を制御して混合燃料の発熱量を常に一定に保ち、失火の発生を未然に防止するように構成したとしても、混合燃料の発熱量以外の他の要因で一部の気筒で失火が発生した場合には、上記と同様にエンジン出力の低下を招くことになる。また、失火が発生したときに、上記特許文献2のように点火時期の遅延化や燃料噴射量の増加などを行ってもその失火が解消されないことがあり、この場合も同様にエンジン出力の低下を招くことになる。
【0006】
本発明は、かかる点に着目してなされたものであり、その目的は、エンジン本体に複数の気筒を配置し、発熱量の異なる2種以上の燃料を混合してなる混合燃料を利用する多気筒型混焼エンジンにおいて、失火に伴うエンジン出力の低下を回避することができる技術を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するための本発明に係る多気筒型混焼エンジンは、
複数の気筒を有するエンジン本体と、
高発熱量燃料と当該高発熱量燃料よりも発熱量が低い低発熱量燃料とを混合してなる混合燃料を前記エンジン本体に供給する燃料供給手段と、
前記エンジン本体における各気筒での失火の発生を検出する失火検出手段と、
運転を制御する制御手段とを備えた多気筒型混焼エンジンであって、
その第1特徴構成は、
前記混合燃料における前記高発熱量燃料に対する前記低発熱量燃料の混合割合である低発熱量燃料混合割合を調整可能な混合割合調整手段を備え、
前記制御手段が、前記失火検出手段により一部の気筒での失火の発生を検出した場合に、前記混合割合調整手段を制御して
、前記エンジン本体に供給される前記混合燃料の前記低発熱量燃料混合割合を低下させ
て失火が発生していない気筒に供給される当該混合燃料の発熱量を増加させる混合割合変更処理を実行する点にある。
【0008】
上記第1特徴構成によれば、上記混合割合調整手段を備えることで、エンジン本体に供給される混合燃料において上記低発熱量燃料混合割合を調整して、当該混合燃料の発熱量を変更することができる。更に、制御手段により上記混合割合変更処理を実行することで、一部の気筒で失火が発生した場合には、上記低発熱量燃料混合割合が低下され、エンジン本体に供給される混合燃料の発熱量が増加することになる。よって、少なくとも失火が発生していない気筒に対して供給される混合燃料の発熱量が増加するので、その気筒から得られる出力は、失火が発生した気筒での出力分を補う形態で増加することになり、結果、失火に伴う全体のエンジン出力の低下が良好に回避されることになる。
従って、本発明により、エンジン本体に複数の気筒を配置し、発熱量の異なる2種以上の燃料を混合してなる混合燃料を利用する多気筒型混焼エンジンにおいて、失火に伴うエンジン出力の低下を回避することができる技術を提供することができる。
【0009】
本発明に係る多気筒型混焼エンジンの第2特徴構成は、上記第1特徴構成に加えて、
前記制御手段が、前記失火検出手段により一部の気筒における失火の発生を継続的に検出した場合に、前記混合割合変更処理を実行する点にある。
【0010】
上記第2特徴構成によれば、混合燃料の無用な増加を防止し、エンジン出力が目標エンジン出力を超える過出力状態となることを回避することができる。
即ち、一部の気筒で失火が発生して上記混合割合変更処理を実行し、その失火に伴うエンジン出力の低下を回避している場合において、例えばその失火が一時的なものである場合には、その失火が解消された気筒から余分な出力が得られるようになるので、上記過出力状態となる。
そこで、一部の気筒において発生している失火が一時的なものであり継続的なものではないと判断した場合には、上記混合割合変更処理を実行しないようにすることで、このような過出力状態を回避することができる。
一方、一部の気筒において発生している失火が継続的なものであると判断した場合には、速やかに上記混合割合変更処理を実行して、その後におけるエンジン出力の低下を回避することができる。
【0011】
本発明に係る多気筒型混焼エンジンの第3特徴構成は、上記第1乃至第2特徴構成の何れかに加えて、
前記制御手段が、前記混合割合変更処理を実行するにあたり、前記失火の発生が検出された特定の気筒を休止状態とする失火気筒休止処理を実行する点にある。
【0012】
上記第3特徴構成によれば、一部の気筒において失火が発生し、その気筒から出力が得られない状態となった場合には、上記混合割合変更処理が実行されることでエンジン出力の低下が回避され、それに合わせて、その失火が発生した気筒の作動が断念されて上記休止状態とされることになる。よって、失火が発生した気筒を作動させようとするための動力を削減することができるので、失火に伴い熱効率が低下する場合でも、その低下幅をできるだけ小さくすることができる。
【0013】
本発明に係る多気筒型混焼エンジンの第4特徴構成は、上記第1乃至第3特徴構成の何れかに加えて、
前記制御手段が、吸気路に設けられたスロットルバルブの開度を制御してエンジン出力を設定する出力制御を実行すると共に、前記混合割合変更処理を実行するにあたり、前記出力制御において前記エンジン出力を一定に維持する点にある。
【0014】
上記混合割合変更処理を実行して、低発熱量燃料混合割合を低下させるにあたり、混合燃料の発熱量が一様に増加せずに不安定な状態となる場合がある。
そこで、上記第4特徴構成によれば、上記混合割合変更処理を実行するにあたり、上記出力制御においてエンジン出力が一定に維持されるようにスロットルバルブの開度が制御される。よって、増加される混合燃料の発熱量の不安定化に伴うエンジン出力の不安定化を防止することができる。また、混合割合変更処理の実行後の出力制御においては、失火の発生により低下した分のエンジン出力を補う形態で、スロットルバルブの開度が増加されるので、エンジン出力が失火が発生する前の目標エンジン出力に設定されることになる。
【0015】
本発明に係る多気筒型混焼エンジンの第5特徴構成は、上記第1乃至第4特徴構成の何れかに加えて、
前記高発熱量燃料が天然ガスであり、前記低発熱量燃料がバイオガスである点にある。
上記第5特徴構成によれば、発熱量が高い天然ガスに対して、それよりも発熱量が低いバイオガスを混合してなる混合燃料を利用する場合においても、失火に伴うエンジン出力の低下を好適に回避しつつ、上記混合割合変更処理後のエンジンの運転状態を安定したものとすることができる。
即ち、一部の気筒において失火が発生した場合には、上記混合割合変更処理が実行されることで、天然ガスに対するバイオガスの混合割合が低下されて、混合燃料の発熱量が増加する。すると、エンジン本体に供給される混合燃料において、発熱量が変動し易いバイオガスが占める割合が低下することになるので、混合燃料の発熱量も安定したものに維持されることになり、また、バイオガスの流量変動による影響を少なくすることができるので、結果、エンジンの運転状態が安定したものとなる。
【0016】
本発明に係る多気筒型混焼エンジンの第6特徴構成は、上記第1乃至第5特徴構成の何れかに加えて、
前記制御手段が、前記混合割合変更処理を実行するにあたり、前記失火の発生が検出された気筒の数に基づいて、前記エンジン本体に供給される前記混合燃料の前記低発熱量燃料混合割合を低下させる点にある。
上記第6特徴構成によれば、発熱量増加処理を実行した後の出力制御においてエンジン出力を目標エンジン出力に設定した際に、スロットルバルブの開度は、失火が発生する前と略同じになるので、スロットルバルブの開度調整幅を好適なものに維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図3】実施形態に係るエンジンの失火検出時における状態変化を示す図
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
図1に示すように、本実施形態に係るエンジン100は、複数の気筒2を有するエンジン本体1と、互いに発熱量の異なる2種以上の燃料Gh、Glを混合してなる混合燃料Gmをエンジン本体1に供給する燃料供給手段Xと、エンジン本体1における各気筒2での失火の発生を検出する失火検出手段Yと、運転を制御するコンピュータからなるエンジンコントロールユニット(以下、ECUと呼ぶ。)30(制御手段の一例)とを備えた多気筒型混焼エンジンとして構成されている。
【0019】
エンジン本体1は、ピストン6の上面とシリンダ5の内面とで規定される気筒2を、一のクランク軸9に対して連結棒7により連結した状態で、4個並設してなる所謂4気筒型に構成されている。
夫々の気筒2においては、通常のレシプロ式エンジンと同様に、吸気行程、圧縮行程、燃焼・膨張行程、及び排気行程の諸行程からなるサイクルが繰り返し行われ、その際のピストン6の往復動が連結棒7によってクランク軸9の回転運動として出力される。
即ち、吸気行程では、吸気路10から吸気ポート10a及び吸気弁3を通じて混合気Mを吸気する。それに続く圧縮行程では、その吸気した混合気Mをピストン6の上昇に伴って圧縮し、それに続く燃焼・膨張行程では、その圧縮された混合気Mを点火プラグ8により火花点火して燃焼させてピストン6を押し下げる。更に、それに続く排気行程では、ピストン6の上昇に伴って排気弁4及び排気ポート20aを通じて排気路20に排ガスEを排出する。
尚、上記吸気弁3及び上記排気弁4はカム機構部(図示せず)などによりサイクル毎に開閉動作するように構成されている。更に、ECU30は、特定の気筒2に対して、吸気弁3及び排気弁4を常時閉状態に維持することで、当該気筒2における混合気Mの吸気及び燃焼を停止する休止状態とする失火気筒休止処理を実行可能に構成されている。このような休止状態とされた気筒2では、吸気弁3及び排気弁4の両方が閉状態となり密閉された状態でピストン6が往復動することになり、当該気筒2に混合気Mを吸気するときの動力及び気筒2から排ガスEを排出するときの動力が殆ど消費されなくなる。
【0020】
互いに発熱量の異なる2種以上の燃料Gh、Glを混合してなる混合燃料Gmは、高発熱量燃料Ghとその高発熱量燃料Ghよりも発熱量が低い低発熱量燃料Glとを混合してなるものであり、高発熱量燃料Ghとしては、天然ガス系都市ガス13Aが利用され、一方、低発熱量燃料Glとしては、その天然ガス系都市ガス13Aよりも単位体積あたりの発熱量が小さいバイオガスが利用されている。
高発熱量燃料Gh及び低発熱量燃料Glの夫々は、流量調整弁15、16による流量調整を伴って混合器17に供給されて混合し、混合燃料Gmとなる。尚、これら流量調整弁15、16は、混合器17への高発熱量燃料Gh及び低発熱量燃料Glの少なくとも一方の供給量を調整して、混合器17で生成される混合燃料Gmにおける高発熱量燃料Ghに対する低発熱量燃料Glの混合割合(以下「低発熱量燃料混合割合」と呼ぶ。)を調整可能な混合割合調整手段Zとして機能する。即ち、この混合割合調整手段Zは、低発熱量燃料混合割合を低下させる場合には、流量調整弁15の開度を増加して混合器17に対する高発熱量燃料Ghの供給量を増加させる操作、及び、流量調整弁16の開度を減少させて混合器17に対する低発熱量燃料Glの供給量を減少させる操作のうち、一方又は両方の操作を実行することになる。ECU30は、この混合割合調整手段Zを制御して低発熱量燃料混合割合を所望の割合に設定することができる。
【0021】
混合器17で生成された混合燃料Gmは、流量調整弁18の流量調整を伴って吸気路10に設けられたミキサ11に供給される。そのミキサ11では、吸気路10を流通する燃焼用空気Aに対して、混合燃料Gmが混合され、燃焼用空気Aと混合燃料Gmとの混合気Mが形成される。そのミキサ11で形成された混合気Mが、吸気路10を通じてエンジン本体1の各気筒2に吸気される。一方、ECU30は、排気路20に設けられた酸素センサ(図示せず)の検出結果に基づいて上記流量調整弁18の開度を調整し、ミキサ11における燃焼用空気Aに対する混合燃料Gmの混合量を調整することで、各気筒2に吸気される混合気Mの空燃比を所望の空燃比に設定する。尚、本実施形態では、混合気Mの空燃比は、点火プラグ8による火花点火が可能な範囲、具体的には理論空燃比近傍に設定される。
【0022】
吸気路10には、エンジン本体1の各気筒2における混合気Mの吸気量を調整可能なスロットルバルブ12が設けられている。ECU30は、スロットルバルブ12の開度を制御してエンジン出力を設定する出力制御を実行する。具体的に、ECU30は、クランク軸9の回転動力により駆動して発電を行う発電機25の発電出力を参照し、クランク軸9から出力される実際のエンジン出力を検出する。更に、要求発電出力等に対応して目標エンジン出力を決定し、目標エンジン出力に対して実際のエンジン出力が小さい場合にはスロットルバルブ12の開度を拡大し、目標エンジン出力に対して実際のエンジン出力が大きい場合にはスロットルバルブ12の開度を縮小する形態で、スロットルバルブ12の開度を制御することで、実際のエンジン出力を所望の目標エンジン出力に設定する。
【0023】
各気筒2に対応する各排気ポート20aには、当該排気ポート20aを通流する排ガスEの温度を検出する温度センサ21が夫々設けられており、この各温度センサ21が、上記失火検出手段Yとして機能する。即ち、排気行程では、通常、気筒2において混合気Mが燃焼して生成された高温の排ガスEが排気ポート20aに排気されるので、気筒2において失火が発生していなければ、その排気ポート20aに設けられた温度センサ21の検出温度は比較的高い温度(例えば500℃)になる。一方、ある気筒2において失火が発生すると、その気筒2で混合気Mが適切に燃焼しなくなり排気ポート20aには高温の排ガスEが排出されなくなるので、その排気ポート20aに設けられた温度センサ21の検出温度は低下する。そこで、ECU30は、各排気ポート20aを通流する排ガスEの温度を検出する各温度センサ21の検出温度を夫々監視し、その検出温度が所定の失火検出温度(例えば400℃)以下となった場合に、その温度センサ21に対応する気筒2において失火が発生していると判断する。
【0024】
ECU30は、上記のように構成されたエンジン100の運転を制御するにあたり、所定のプログラムを実行することにより、失火に伴うエンジン出力の低下を回避するべく、後述する混合割合変更処理を実行するように構成されており、その処理を含む制御フローの詳細について、
図2及び
図3を参照して、以下に説明する。尚、
図2には、エンジン100の制御フローが示されており、
図3には、エンジン100の失火検出時におけるエンジン出力、各燃料Gh、Glの流量、及びスロットルバルブ12の開度の経時的な状態変化が示されている。
【0025】
先ず、失火検出手段Yにより一部の気筒2での失火の発生が検出される(
図2のステップ#01、
図3の時間t1)。具体的には、各温度センサ21の検出温度が参照され、その検出温度が所定の失火検出温度(例えば400℃)以下となる温度センサ21が特定され、その特定された温度センサ21に対応する気筒2が失火が発生している気筒2として判断される。
【0026】
次に、上記失火が発生している気筒2について、その失火の発生が継続的なものであるか否かが判定される(
図2のステップ#2、
図3の時間t2)。具体的には、同一の気筒2において50サイクル継続して失火の発生を検出した場合には、その気筒2で発生している失火は解消困難であると判断される。
次に、失火の発生が継続的に検出された特定の気筒2に対しては、その特定の気筒2の状態を休止状態とする失火気筒休止処理(
図2のステップ#03)が実行された上で、混合割合調整手段Zを制御して低発熱量燃料混合割合を低下させる混合割合変更処理(
図2のステップ#04、
図3の時間t2から時間t3までの間)が実行されて、混合燃料Gmの発熱量が増加される。
尚、一時的に失火が発生したものの、その失火がなんらかの理由で解消され、上記のように50サイクル継続して失火の発生が検出されなかった気筒2に対しては、上記失火気筒休止処理(
図2のステップ#03)及び上記混合割合変更処理(
図2のステップ#04)を実行しないで、通常の運転を継続させる。
【0027】
具体的に、上記失火気筒休止処理(ステップ#03)では、失火の解消が不可能な特定の気筒2について、吸気弁3及び排気弁4が常時閉状態に維持されて密閉状態とされることで、当該気筒2に混合気Mを吸気するときの動力及び気筒2から排ガスEを排出するときの動力が殆ど消費されなくなる。
一方、上記混合割合変更処理(ステップ#04)では、流量調整弁16の開度が縮小されることで混合器17への低発熱量燃料Glの供給量が減少すると共に、流量調整弁15の開度が拡大されることで混合器17への高発熱量燃料Ghの供給量が増加する。すると、混合器17で生成される混合燃料Gmにおいては、高発熱量燃料Ghに対する低発熱量燃料Glの混合割合(低発熱量燃料混合割合)が低下するので、結果、当該混合燃料Gmの発熱量は増加することになる。
よって、少なくとも失火が発生していない気筒2では、このように発熱量が増加された混合燃料Gmが吸気されることになるので、その失火が発生していない気筒2から得られるエンジン出力は、失火が発生した気筒2での出力分を補う形態で増加することになり、結果、失火に伴う全体のエンジン出力の低下が良好に回避されることになる。
【0028】
更に、
図3に示すように、上記混合割合変更処理(ステップ#04)を実行するにあたり、出力制御においてエンジン出力は一定に維持されている。
具体的には、失火が発生していない通常時(
図3の時間t1以前)の出力制御においては、目標エンジン出力が要求発電電力に応じたものに決定され、スロットルバルブ12の開度が制御される。失火が発生してから混合割合変更処理を実行するまでの期間(
図3の時間t1〜t2の期間)の出力制御においては、実際のエンジン出力が低下したとしてもスロットルバルブ12の開度は過剰は拡大を防止するべく固定される。
混合割合変更処理を実行している期間(
図3の時間t2〜t3の期間)の出力制御においては、低発熱量燃料混合割合の低下により混合燃料Gmの発熱量が増加するが、その発熱量の増加によるエンジン出力の増加が制限されてエンジン出力が一定に維持されるので、スロットルバルブ12の開度は縮小する。
混合割合変更処理が完了してからの期間(
図3の時間t3以降の期間)の出力制御においては、再度目標エンジン出力が要求発電電力に応じたものに決定される。このことで、失火の発生により低下したエンジン出力を補う形態で、実際のエンジン出力が目標エンジン出力になるまで、スロットルバルブ12の開度が拡大し、同時に、そのスロットルバルブ12の開度の拡大による吸気量の増加にあわせて、高発熱量燃料Ghと低発熱量燃料Glとの夫々の供給量、即ち混合燃料Gmの供給量が増加することになる。
【0029】
〔別実施形態〕
最後に、本発明のその他の実施形態について説明する。尚、以下に説明する各実施形態の構成は、夫々単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
(1)上記実施形態では、失火検出手段Yを、各気筒2から排気ポート20aに排出された排ガスEの温度を温度センサ21で夫々検出し、その検出温度が所定の失火検出温度以下になった場合にその温度センサ21に対応する気筒2に失火が発生していると判断する形態で構成したが、当該失火検出手段Yを別の形態で構成しても構わない。例えば、失火検出手段Yを、各排気ポート20aの圧力、各気筒2の圧力、又は各気筒2の温度など、失火の発生前後において変化する状態を検出し、その検出圧力又は検出温度が所定の失火検出値以下であるときに、それに対応する気筒2に失火が発生していると判断する形態で構成することができる。
【0030】
(2)上記実施形態では、失火が継続的に発生していることを検出した場合に、それに続いて混合割合変更処理(
図2のステップ#04)を実行するように構成したが、別に、一部の気筒2において失火が検出されて直ぐに混合割合変更処理を実行するように構成しても構わない。また、失火の発生を検出した後に、一旦その失火を解消するための失火解消処理を実行し、失火が解消できなかった場合についてのみ混合割合変更処理を実行するように構成しても構わない。尚、この場合の失火解消処理としては、例えば、点火プラグによる火花点火の時期である点火時期を徐々に遅延させたり、空燃比の燃料供給量増加側への変更等を挙げることができる。
【0031】
(3)上記実施形態では、混合割合変更処理(
図2のステップ#04)を実行するにあたり、失火が発生している気筒2における吸気弁3及び排気弁4の両方を常時閉状態に維持する失火気筒休止処理(
図2のステップ#03)を実行するように構成したが、別の形態の失火気筒休止処理を実行したり、当該失火気筒休止処理を省略しても構わない。
別の形態の失火気筒休止処理としては、例えば、失火が発生している気筒2において吸気弁3及び排気弁4の両方を常時開状態とし、吸気ポート10aから排気ポート20aに向かう混合気Mの一方向のガスの通流が殆ど無い状態とすることができる。また、混合燃料Gmを直接各吸気ポート10a又は各気筒2に噴射するように構成した場合には、失火気筒休止処理において、その混合燃料Gmの噴射を停止するように構成しても構わない。
【0032】
(4)上記実施形態で説明した混合割合変更処理(
図2のステップ#4)において、低発熱量燃料混合割合の低下幅を失火の発生を検出した気筒2の数に応じて決定するように構成しても構わない。具体的には、全n個の気筒2のうちm個の気筒2において失火が発生している場合には、発熱量増加処理において混合燃料Gmの発熱量がn/(n−m)倍に変更されるように、低発熱量燃料混合割合の低下幅を決定する。すると、発熱量増加処理を実行した後の出力制御においてエンジン出力を目標エンジン出力に設定した際には、失火が発生していないn−m個の気筒2での出力が変更前と比較して約n/(n−m)倍になるので、スロットルバルブ12の開度は、失火が発生する前の略同じになるので、スロットルバルブ12の開度調整幅を好適なものに維持することができる。
【0033】
(5)上記実施形態において、混合燃料Gmの発熱量が所望の目標発熱量に維持されるように、高発熱量燃料Gh及び低発熱量燃料Gl、又は混合燃料Gmの発熱量を計測して、その計測結果に基づいて流量調整弁15、16の開度を制御するように構成しても構わない。
また、このように構成する場合の混合割合変更処理では、上記目標発熱量を増加させることで、高発熱量燃料Ghの流量調整弁15及び低発熱量燃料Glの流量調整弁16の開度が制御され、低発熱量燃料混合割合が低下されることになる。
【0034】
(6)上記実施形態では、発熱量の異なる2種以上の燃料として、天然ガス系都市ガス13Aである高発熱量燃料Ghと、その天然ガス系都市ガス13Aよりも単位体積あたりの発熱量が小さいバイオガスである低発熱量燃料Glとを利用したが、発熱量の異なる別の2種の燃料又は3種以上の燃料を利用しても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、複数の気筒を有するエンジン本体と、
高発熱量燃料と当該高発熱量燃料よりも発熱量が低い低発熱量燃料とを混合してなる混合燃料を前記エンジン本体に供給する燃料供給手段と、
前記エンジン本体における各気筒での失火の発生を検出する失火検出手段と、
運転を制御する制御手段とを備えた多気筒型混焼エンジンとして好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 :エンジン本体
2 :気筒
12 :スロットルバルブ
100 :多気筒型混焼エンジン
Gh :高発熱量燃料
Gl :低発熱量燃料
Gm :混合燃料
X :燃料供給手段
Y :失火検出手段
Z :混合割合調整手段