特許第5907897号(P5907897)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エボニック レーム ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツングの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5907897
(24)【登録日】2016年4月1日
(45)【発行日】2016年4月26日
(54)【発明の名称】被覆された成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/16 20060101AFI20160412BHJP
   B29L 9/00 20060101ALN20160412BHJP
【FI】
   B29C45/16
   B29L9:00
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-553200(P2012-553200)
(86)(22)【出願日】2010年12月15日
(65)【公表番号】特表2013-519545(P2013-519545A)
(43)【公表日】2013年5月30日
(86)【国際出願番号】EP2010069696
(87)【国際公開番号】WO2011101057
(87)【国際公開日】20110825
【審査請求日】2013年10月30日
(31)【優先権主張番号】102010002164.4
(32)【優先日】2010年2月19日
(33)【優先権主張国】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390009128
【氏名又は名称】エボニック レーム ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Evonik Roehm GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100182545
【弁理士】
【氏名又は名称】神谷 雪恵
(72)【発明者】
【氏名】アルネ シュミット
(72)【発明者】
【氏名】マーク ポート
(72)【発明者】
【氏名】フランク ガブリエル
(72)【発明者】
【氏名】アントニオス マニス
(72)【発明者】
【氏名】クラウス コラレヴスキ
(72)【発明者】
【氏名】スヴェン シュレーベル
(72)【発明者】
【氏名】マーティン アイヒルスエーダー
【審査官】 越本 秀幸
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2009/0085235(US,A1)
【文献】 カナダ国特許出願公開第02703041(CA,A1)
【文献】 特開平11−333849(JP,A)
【文献】 特開2006−315240(JP,A)
【文献】 特開2003−019731(JP,A)
【文献】 特開2006−103187(JP,A)
【文献】 特開平11−300776(JP,A)
【文献】 特開2005−074896(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/155149(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/053130(WO,A1)
【文献】 特開2010−046895(JP,A)
【文献】 NANOSKIN - BESTAENDIGE NANOSTRUKTUREN UND FUNKTIONALISIERUNG IM PROZESS,[ONLINE],2009年10月17日,P1-4,URL,http://www.iwm.fraunhofer.de/fileadmin/media/xp_nanoskin/pdf/091006lowversion.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00−45/84
B29C 33/00−33/76
B29C 35/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆された成形体の製造方法において、高光沢表面の他に多機能性の構造化された表面を、射出成形法工程と引き続く膨張・フローコーティング・エンボス加工プロセス工程と組み合わせて、閉鎖された金型中で作成し、かつ前記方法は金型交換なしで実施され、かつ、次のプロセス工程:
− 成形材料を、220〜330℃の温度で、内部表面が全部又は一部構造化された射出成形型中に注入し、成形体を得ながら前記成形材料の離型温度に冷却する工程、
− 前記射出成形型を、前記成形体の被覆されるべき表面と前記射出成形型の内部表面との間に2μm〜500μmの厚さの空間が生じるように変化させる工程、
− 上記生じた空間の全体又は一部に液体注入により反応混合物を充填する工程、
− 前記型を再び閉鎖し、最大20秒間で80〜140℃の温度に加熱する工程、
− 前記型を最終的に再び冷却し、開放し、被覆された成形体を離型する工程を有し、かつ、前記反応混合物が、ジ(メタ)アクリラートを少なくとも40質量%、トリ(メタ)アクリラート、テトラ(メタ)アクリラート又はペンタ(メタ)アクリラートを少なくとも10質量%、及び熱開始剤を0.01質量%〜3.0質量%含有する調製物であることを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
前記構造化された表面及び高光沢表面は多機能性であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記反応混合物を充填しかつ前記型を閉鎖した後に5〜8秒間に100〜140℃の温度に加熱することを特徴とする、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記液体注入の前に、前記キャビティを、他のキャビティに、スライドテーブルによって置き換えることを特徴とする、請求項1又は2記載の方法。
【請求項5】
前記成形体の被覆されるべき表面と前記射出成形型の内部表面との間の空間は、5μm〜80μmの間の厚さを有することを特徴とする、請求項1又は2記載の方法。
【請求項6】
前記反応混合物は滑剤及び/又は離型剤を含有しないことを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記成形材料は、ポリメチルメタクリラート、ポリメタクリルメチルイミド及び/又はポリメチルメタクリラートコポリマーを少なくとも50質量%有することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記反応混合物は、25℃で1〜200mPa・sの範囲内の動粘度を有することを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記成形体に向かう側の前記射出成形型の表面を加熱する加熱出力の最大値は、未被覆の成形体の最低温度の時点から始まりかつ前記反応混合物の注入後の1秒未満に完了する期間内にあることを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記成形体に向かう側の前記射出成形型の表面を加熱する加熱出力の最大値は、前記反応混合物の注入の前又は注入の間に達成されることを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
変化させることができる射出成形型を有する、請求項1から10までのいずれか1項記載の方法を実施する装置において、前記射出成形型の少なくとも一部の温度を1分間で10℃より大きく変化させることができることを特徴とする、装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全部又は一部が構造化された表面を有する、被覆された成形体の製造方法に関する。更に、本発明は、上記方法を実施する装置を記載する。
【0002】
例えばポリメチルメタクリラート(PMMA)を基礎とすることができる熱可塑性プラスチック成形材料は、多様な適用のために使用される。このために、上記材料は成形品に押し出されるか又は射出成形される。
【0003】
上記成形品は、今日では多方面で、著しく負荷がかかる部品、例えばスライド可能な部材(自動車の内部領域又は外部領域、電子機器のカバー、例えば携帯電話、コンピュータ、オーガナイザ、MP3プレーヤ又はテレビのカバー)、被覆により着色された取り付け部材(例えば、自動車工業において:ドアミラー、ピラーカバー、ミラーボディ)、又は被覆により着色された実用品の製造のために使用されている。このように使用された成形品の表面は、高い負荷に基づいて引掻傷を形成する傾向があり、この引掻傷は視覚的にはしばしば受け入れられない。この場合、射出成形により製造された成形体は、特に引掻傷を受けやすい。更に、この成形体の他の特性は、表面の変性により変えることができる。例えば、水又は他の液体との濡れ性を変えるために、成形体に疎水性又は親水性の被覆を付与することができる。更に、成形体の表面を鏡面加工するか又は反射を低減するように構成することができる。更に、上記成形体は、防汚特性又は抗菌特性を有することもでき、これらの特性はしばしば表面の変性によって達成される。
【0004】
耐摩耗性の改善のため、表面の疎水性/親水性の変性のため、反射特性の変性のため、並びに表面に抗菌特性及び/又は防汚特性を付与するために、上述した成形体に塗料層を付与することができる。もちろん、反応性塗料の典型的な塗布は比較的手間がかかり、従ってコスト高である。
【0005】
この理由から、既に、射出成形法を用いて耐摩耗層を比較的低コストで成形体に塗布することができる方法が開発された。例えば、刊行物JP 11300776及びJP 2005074896は、耐摩耗層を備えた成形体が得られる射出成形法を記載している。
【0006】
刊行物JP 11300776(Dainippon Toryo, 1998)は、2段階のRIMプロセスを記載している。まず、ジシクロペンタジエンのメタセシス−RIMにより成形体が得られる。この硬化後に、RIM金型の可動部を引き戻し、成形体と方との間に定義された間隙を生じさせる。この間隙中に、第2のRIMプロセスで、アクリル官能化されたウレタンオリゴマー、スチレン、ジアクリラート架橋剤並びに場合により充填剤及び顔料(TiO2、タルク)からなる被覆材料を注入し、95℃で2分間ラジカル硬化させる。
【0007】
刊行物JP 2005074896(Toyota Motor Corp.; Dainippon Toryo Co.)は、同様にRIMプロセスを記載している。慣用の第1の射出成形工程では、プラスチック、特にポリカーボネート(PC)を平面状の成形品に加工する。引き続き、この金型を僅かな間隙で開放し、数秒間、アクリラート官能化されたウレタンオリゴマー、アクリラート架橋剤、抑制剤及び有機ペルオキシド開始剤からなる反応溶液を注入し、硬化させる。95℃で、数秒後に硬化は完了し、90s後にこの複合成形体を離型する。この成形体は、良好な耐摩耗性、結合付着性、耐熱衝撃性及び温水変化安定性(Warmwasserwechselbestaendigkeit)を有する。全ての請求項において、イソホロンジイソシアナート構成要素又はビス(イソシアノシクロヘキシル)メタン構成要素から構築されているウレタンオリゴマーの存在は必須である。
【0008】
上記の成形体は、既に良好な特性を有している。ただしこの製造は時間がかかるため、この方法は全体としてコスト高である。射出成形装置中での反応混合物の早すぎる重合は、刊行物JP 11300776及びJP 2005074896に記載された射出成形法の更なる問題点であり、短いサイクル時間は、この方法による大量生産においてほとんど達成できない。
【0009】
更に、しばしば装置の耐用時間に関する問題が生じる、それというのも、射出成形型は、しばしば反応混合物に対して十分に密ではなく、この反応混合物が装置の可動部分と接触することがあるためである。
【0010】
上述の長いサイクル時間は、更に製造された成形体の品質の問題も引き起こしかねない。このために、この成形材料は射出成形装置中で熱的負荷にさらされ、この熱的負荷がポリマーの分解を引き起こしかねないことが確認される。それにより例えば成形材料の機械特性及び光学特性、例えば色を、それにより同様に成形体の機械特性及び光学特性が変化することがある。
【0011】
所定の適用にとって表面が構造化されている場合に利点を有する。射出成形技術を用いて構造化された表面を製造することは公知である。この場合、相応する構造を備えている金型の射出エンボス加工技術(Spritz-Praegetechnik)において、構造がポリマーのキャリア材料中に転写される。使用の間並びにクリーニングプロセスによる、ポリマー材料をエンボス加工する構造の磨滅が欠点である。
【0012】
上記されているように、この構造化された成形体には、後から例えば耐摩耗層を設けることができる。しかしながら、この後から塗布された被覆は上記構造を損なうことになりかねない。上記の構造を損なうことに対抗するために、後に配置されたエンボス工程で、耐摩耗層中に上記構造をエンボス加工することもできる。この付加的な方法工程により、製造コストは著しく高まる。
【0013】
更に、このように得られた成形体の耐摩耗性及び耐候性を改善する継続的な努力がなされている。更に、成形体の表面特性を多様な規準に適合させることができる成形体を表面変性する方法を提供するという必要性もある。上記方法は、例えば、水又は他の液体での濡れ性を変えるために、特に疎水性又は親水性の被覆を製造できるのが好ましい。更に、上記方法は、表面の鏡面加工又は反射低減加工を可能にするのが好ましい。更に、成形体に防汚特性又は抗菌特性を付与できるのが好ましい。
【0014】
課題
先行技術を考慮して、本発明の課題は、簡単でかつ低コストで実施することができる、被覆された成形体の製造方法を提供することであった。この場合、上記成形体を、できる限り短いサイクル時間でかつ全体的に見て比較的低いエネルギー消費量で得ることができるのが好ましい。
【0015】
更に、上記課題は、成形体表面を、技術的観点からも、視覚的外観の観点からも、著しく可変に形成することができる方法を提供することであった。
【0016】
更に、この方法によって、優れた機械特性を有する成形体を得ることができるのが好ましい。特に、この成形体は、高い耐摩耗性及び硬度を示すのが好ましい。更に、この被覆された成形体は、高い耐候性及び高い耐薬品性を有しているのが好ましい。更に、この方法は、高い精密さ及び一定の高い品質を有する成形体を製造することができるのが好ましい。
【0017】
更に、この方法は、射出成形装置のできる限り長い耐用時間を可能にするのが好ましい。
【0018】
解決策
上記課題は、高光沢表面の他に、構造化されかつ多機能性の表面を備えた被覆された成形体を製造することができる新規の方法により解決された。特に、多機能性のナノ構造を備えた表面及び多機能性の高光沢表面を有する成形体を製造することができる。上記の本発明による方法は、1つの閉鎖された金型中だけで実施されることを特徴とする。この製造方法は、特に、射出成形法工程と、引き続く膨張・フローコーティング・エンボス加工プロセス工程(Expansions-Flutungs-Praegeprozessschritts)との組合せである。特に本発明による方法に関して、金型交換なしで実施される。
【0019】
多機能性の表面とは、本発明との関連で、例えば添加剤による被覆の様々な可変の形態を意味する。本発明により、優れた機械的特性を有する成形体は、本発明による方法により得られる。特に、この成形体は、本発明により塗布された被覆により、高い耐摩耗性及び硬度を示すことができる。更に、この成形体の表面特性は、多数の多様な要求に適合させることができる。この方法は、例えば、水又は他の液体での濡れ性を変えるために、特に疎水性又は親水性の被覆を製造するために利用することができる。更に、この表面の鏡面加工又は反射の低減を達成することができる。更に、本発明による方法によって、成形体に防汚特性又は抗菌特性を付与することができる。更に、この被覆された成形体は、高い耐候性及び高い耐薬品性を有する。更に、この方法により、高い精密さ及び一定の高い品質を有する成形体を製造することができる。本発明による方法により得られた成形体は、本質的に亀裂又は類似の欠陥を示さない。更に、この成形体は高い表面品質を示す。
【0020】
詳細には、本発明による方法は、次のプロセス工程を有する:
1.) 成形材料を、220〜330℃の間の温度で、内部表面に関して、全部又は一部が構造化された射出成形型中に注入し、成形体を得ながら、前記成形材料を離型温度に、好ましくは70〜90℃に冷却する。
2.) 成形体の被覆されるべき表面と射出成形型の内部表面との間に、2〜500μmの間の、好ましくは5〜80μmの間の厚さを有する空間が生じるように、この射出成形型を変化させる。
3.) この生じた空間の全体又は一部に、液体注入により反応混合物を充填する。
4.) この型を再び閉鎖し、最大20秒間、好ましくは5〜8秒の期間、80〜140℃、好ましくは100〜140℃の温度に加熱する。
5.) この型を最終的に再び冷却し、開放し、被覆された成形体を取り出す。
【0021】
付加的な実施態様の場合には、プロセス工程3.)の液体注入の前に、キャビティを他のキャビティと交換する。つまり、プロセス工程1.)における成形体の液体注入とプロセス工程3.)の被覆とは、異なるキャビティで実施される。好ましくは、このために必要な機械部品を滑りテーブルにより置き換える。
【0022】
プロセス工程3.)の反応混合物は、ジ(メタ)アクリラートを少なくとも40質量%、トリ−、テトラ−又はペンタ(メタ)アクリラートを少なくとも10質量%、及び熱開始剤を0.01質量%〜3.0質量%含有する調製物である。場合により、離型剤を0.05質量%〜0.2質量%含有することもできる。しかしながら、好ましくは本発明による方法は離型剤なしで実施される。意外にも、架橋後の壁部付着は、反応混合物中に含まれる離型剤及び滑剤なしでも十分に低いことが見出された。それにより、この成形体は残留せずに離型することができる。
【0023】
特別な利点が、殊に、2つの二重結合を有する架橋性の(メタ)アクリラートを、反応混合物の全質量に対して少なくとも40質量%、好ましくは少なくとも60質量%有する反応混合物によって達成される。この「二重結合」の概念は、殊に、ラジカル重合可能な炭素−炭素−二重結合を表す。これには、殊に、不飽和アルコールから誘導される(メタ)アクリラート、例えば2−プロピニル(メタ)アクリラート、アリル(メタ)アクリラート、ビニル(メタ)アクリラート、並びにジオール又は多価アルコールから誘導される(メタ)アクリラート、例えばグリコールジ(メタ)アクリラート、例えばエチレングリコールジ(メタ)アクリラート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリラート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリラート、テトラ−及びポリエチレングリコールジ(メタ)アクリラート、1,3−ブタンジオール(メタ)アクリラート、1,4−ブタンジオール(メタ)アクリラート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリラート、グリセリンジ(メタ)アクリラート及びジウレタンジメタクリラートが属する。
【0024】
少なくとも2つの二重結合を有する特に好ましい(メタ)アクリラートは、殊に、1,6−ヘキサンジオールジアクリラート、トリメチロールプロパントリアクリラート、ペンタエリトリットテトラアクリラート及びジペンタエリトリットペンタアクリラートである。
【0025】
更に、この反応混合物は、少なくとも1種の、3つ以上の二重結合を有する(メタ)アクリラートを含有する。好ましくは、3つ以上の二重結合を有する(メタ)アクリラートの割合は、反応混合物の質量に対して、少なくとも10質量%、特に好ましくは少なくとも25質量%である。
【0026】
特別な実施態様の場合には、この反応混合物は、好ましくは1,6−ヘキサンジオールジアクリラート、トリメチロールプロパントリアクリラート及び/又はペンタエリトリットテトラアクリラートを有する。特に重要であるのは、殊に、トリメチロールプロパントリアクリラート及びペンタエリトリットテトラアクリラートを有する反応混合物であり、この場合、トリメチロールプロパントリアクリラート対ペンタエリトリットテトラアクリラートの質量比は、好ましくは10:1〜1:10の範囲内、特に5:1〜1:5の範囲内、特に好ましくは3:1〜1:3の範囲内、及び更に特に好ましくは2:1〜1:2の範囲内にあることができる。
【0027】
他の実施態様の場合に、この反応混合物は、好ましくはトリメチロールプロパントリアクリラート及び1,6−ヘキサンジオールジアクリラートを有し、この場合、トリメチロールプロパントリアクリラート対1,6−ヘキサンジオールジアクリラートの質量比は、好ましくは10:1〜1:10の範囲内、特に5:1〜1:5の範囲内、特に好ましくは3:1〜1:3の範囲内、及び更に特に好ましくは2:1〜1:2の範囲内にある。
【0028】
特に有用であるのは、更に、好ましくはペンタエリトリットテトラアクリラートと1,6−ヘキサンジオールジアクリラートを有する反応混合物である。好適には、ペンタエリトリットテトラアクリラート対1,6−ヘキサンジオールジアクリラートの質量比は、好ましくは10:1〜1:10の範囲内、特に5:1〜1:5の範囲内、特に好ましくは3:1〜1:3の範囲内、及び更に特に好ましくは2:1〜1:2の範囲内にあることができる。
【0029】
ペンタエリトリットテトラアクリラート及び/又はトリメチロールプロパントリアクリラートを有する反応混合物は、意外にも、特に高い耐摩耗性を示し、これはペンタエリトリットテトラアクリラートの割合と共に増大する。1,6−ヘキサンジオールジアクリラート及び/又はトリメチロールプロパントリアクリラートを有する反応混合物は、特に高いUV安定性を示し、このUV安定性は、特にキセノン試験によって決定することができる。このように、1,6−ヘキサンジオールジアクリラートの高い割合を有する混合物は、キセノン照射の後でも、摩耗輪試験(Reibradtest)による高い耐摩耗性を維持する。
【0030】
この被覆の耐摩耗性は、特に、混合物の質量に対する重合可能な二重結合の数に依存する。この割合が高くなればそれだけ、被覆が達成することができる耐摩耗性は高くなる。従って、この反応混合物は、好ましくは反応混合物120g当たり二重結合を少なくとも1Mol、特に好ましくは反応混合物105g当たり二重結合を少なくとも1Mol有することができる。この場合、この耐摩耗性を、特に3つ以上の二重結合を有する(メタ)アクリラートの使用により向上させることができる。
【0031】
硬化のために、この反応混合物は、モノマーをラジカル重合させることができる少なくとも1種の開始剤を有する。この場合、熱の作用によりラジカルを形成する熱開始剤が使用される。
【0032】
適切な熱開始剤は、特に、アゾ化合物、ペルオキシ化合物、ペルスルファート化合物又はアゾアミドである。限定しない例は、過酸化ジベンゾイル、過酸化ジクメン、クメンヒドロペルオキシド、ジイソプロピルペルオキシジカルボナート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカルボナート、過硫酸二カリウム、ペルオキシ二硫酸アンモニウム、2,2′−アゾビス(2−メチルプロピオンニトリル)(AIBN)、2,2′−アゾビス−(イソ酪酸アミジン)ヒドロクロリド、ベンゾピナコール、ジベンジル誘導体、メチルエチレンケトンペルオキシド、1,1−アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、メチルエチルケトンペルオキシド、アセチルアセトンペルオキシド、ジラウリルペルオキシド、ジデカノイルペルオキシド、tert−ブチルペル−2−エチルヘキサノアート、ケトンペルオキシド、メチルイソブチルケトンペルオキシド、過酸化シクロヘキサノン、過酸化ジベンゾイル、tert−ブチルペルオキシベンゾアート、tert−ブチルペルオキシイソプロピルカルボナート、2,5−ビス(2−エチルヘキサノイルペルオキシ)−2,5−ジメチルヘキサン、tert−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノアート、tert−ブチルペルオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノアート、tert−ブチルペルオキシイソブチラート、tert−ブチルペルオキシアセタート、過酸化ジクミル、1,1−ビス(tert−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(tert−ブチルペルオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、クミルヒドロペルオキシド、tert−ブチルヒドロペルオキシド、ビス(4−tert−ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカルボナート、並びにDuPont 社からVazo(登録商標)の商品名、例えばVazo(登録商標)V50及びVazo(登録商標)WSの商品名で販売されているラジカル開始剤である。
【0033】
好適には、反応混合物が、熱開始剤を、反応混合物の質量に対して、0.01質量%〜3質量%、好ましくは0.1質量%〜2.5質量%、特に好ましくは0.5質量%〜1.5質量%含有することができる。
【0034】
既に述べたように、この反応混合物は、場合により離型剤を有することができる。これにより、組成に応じて、付着強度を臨界値にまで低減することなく、被覆された成形体の離型性の改善が達成される。従って、助剤として、例えば、ポリシロキサン、C20より少ない、好ましくはC16〜C18の炭素原子を有する飽和脂肪酸又はC20より少ない、好ましくはC16〜C18の炭素原子を有する飽和脂肪アルコールの群から選択される離型剤を含有することができる。好ましくは、反応混合物の質量に対して、高くても0.25質量%、例えば0.05〜0.2質量%の僅かな量の割合が含まれている。例えば、ステアリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸とパルミチン酸との工業的混合物が適している。更に、好適には、アクリル化されているポリシロキサン、例えば13/6/αω2−ヘキシルアクリルシロキサンであり、この場合、この化合物は例えばGoldschmidt GmbH社の商品名RC 725で購入することができる。ポリシロキサンは、比較的高い量で使用することもできる。例えば、高くても10質量%、特に高くても1質量%、更に特に好ましくは高くても0.5質量%の割合が好適である。更に、例えばn−ヘキサデカノール、n−オクタデカノール、並びにn−ヘキサデカノールとn−オクタデカノールとの工業的混合物が適している。特に好ましい離型剤は、ステアリルアルコールである。
【0035】
更に、この反応混合物は、通常の添加剤、例えば染料、顔料、例えばメタリック顔料、UV安定剤、充填剤又はナノ材料、特にITOナノ粒子を含むことができる。この添加剤の割合は意図された適用に依存し、従って広い範囲内にあることができる。この割合は、添加剤を含む場合に、好ましくは0〜30質量%、特に好ましくは0.1〜5質量%であることができる。
【0036】
更に、この方法は、射出成形装置の長い耐用時間を可能にする。意外にも、特に反応混合物の硬化のための温度上昇により装置の高い緊密性を達成することができる。この場合、射出成形装置の可動部分は反応混合物の硬化により不利な影響が及ぼされないことが重要である。従って、このことは、反応混合物の粘度は加熱の際に通常は低下し、そのため反応混合物は高めた温度で通常では流動性であるために、特に意外であった。更に、本発明による実施態様により、射出成形装置中での成形材料の熱分解は最小化することができるため、一定の高い品質を有する成形体が得られる。
【0037】
射出成形法は以前から公知であり、一般に使用されている。この場合、一般に、成形材料は射出成形型中に注入され、成形体を得ながら冷却される。
【0038】
本発明の場合に、この被覆は射出成形型の変化により有利に行われ、その際、成形体の被覆されるべき表面と射出成形型の内部表面との間に空間が生じる。この生じた空間に、射出成形により反応混合物を充填することができる。
【0039】
上記のこれらの工程は、特に、刊行物JP 11300776及びJP 2005074896に詳しく説明されていて、これらの刊行物は開示の目的で本願明細書内に組み込まれる。
【0040】
この本発明による方法により、意想外にも、簡単でかつ低コストで実施できる、被覆された成形体の製造方法を提供することができる。この場合、上記成形体を、できる限り短いサイクル時間でかつ全体的に見て比較的低いエネルギー消費量で得ることができる。
【0041】
意外にも、本発明による方法により、機能的な被覆を備えた全体及び一部が構造化された成形体を提供することができることが見出された。初めて、機能層中に任意の形態の構造を、1つの方法で転写することができる。構造化された耐摩耗性に被覆された成形品を製造できることが見出された。この本発明により製造された成形体は、好ましくは被覆の後に、耐摩耗性に被覆された光沢の表面領域及び/又は耐摩耗性に被覆された構造化された光沢を有しない表面領域を有する。好ましくは、この被覆された成形体は、この表面に光沢の領域も構造化された領域も有する。この被覆の厚さは、1μm〜200μm、好ましくは5μm〜80μmの範囲内にある。
【0042】
特別な実施態様の場合には、本発明による方法を用いて、構造化された領域と、そこに隣接する構造化されてない(平滑な)領域を備えた機能層を有する成形品を製造できる。特に、高光沢の、耐摩耗性の、部分的に構造化された成形品が、本発明による方法を用いて作成される。
【0043】
被覆された成形体の表面構造化は、好ましくは、マイク構造化(Mikrostruktrierung)又はナノ構造化(Nanostruktrierung)である。特に、フランク角が95゜より大きく、160゜より小さい構造化単位が好ましい。このフランク角とは、成形体表面と、構造単位の全体の高さの5%の高さに当たる構造単位の一点との間で形成される角度であると解釈される。このフランク角は、非対称の構造単位の場合には平均値として解釈される。この場合、個々の値が、95゜〜160゜の間の範囲の外側にあることもできる。これらの構造単位は、この場合、例えば台形、円形、楕円形又は三角形であることができ、又は他の例えば完全に非対称の形を有することもできる。この構造単位は、更に、対称面を有しないか、1つ以上の対称面を有することができる。
【0044】
ナノ構造とは、本発明の場合に、1ナノメータ〜1マイクロメータの間の高さを有する構造であると解釈される。マイクロ構造とは、1マイクロメータ〜1ミリメータの間の厚さを有する構造であると解釈される。
【0045】
被覆されるべき成形体を製造するための成形材料はそれ自体公知であり、この場合、この成形材料は、必須の成分として熱可塑性に加工可能なポリマーを含有する。この好ましいポリマーには、例えば、ポリ(メタ)アクリラート、特にポリメチルメタクリラート(PMMA)、ポリ(メタ)アクリルイミド、ポリアクリルニトリル、ポリスチレン、ポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニルが属する。この場合、ポリ(メタ)アクリラート及びポリ(メタ)アクリルイミドが好ましい。これらのポリマーは、単独でも、混合物としても使用することができる。更に、これらのポリマーは、コポリマーの形で存在することができる。好ましいコポリマーは、特に、スチレン−アクリルニトリル−コポリマー、スチレン−マレイン酸−コポリマー及びポリメチルメタクリラート−コポリマー、特にポリメチルメタクリラート−ポリ(メタ)アクリルイミド−コポリマーである。
【0046】
本発明による成形材料は、ポリメチルメタクリラート、ポリメタクリルメチルイミド及び/又はポリメチルメタクリラート−コポリマーを少なくとも50質量%含有する。
【0047】
この成形材料は、通常の添加剤及び添加物質を含有することができる。特に、この成形材料は、衝撃強さ値の改善のために、この成形材料にシリコーンゴム−グラフトコポリマー又はアクリラートゴム変性剤を含有することができる。この添加剤には、更に、特に分子量調節剤、剥離剤、帯電防止剤、酸化防止剤、離型剤、難燃剤、潤滑剤、染料、流動化剤、充填剤、光安定剤、顔料、風化保護剤及び可塑剤が属する。この添加材料は、通常量で、つまり全質量に対して80質量%まで、好ましくは30質量%までの量で使用される。全質量に対して80質量%より多い量である場合には、プラスチックの特性、例えば加工性を損ないかねない。
【0048】
反応混合物は、本発明の範囲内で、ラジカル重合により硬化することができる組成物を表す。射出成形の条件下で上記組成物を射出成形型中へ注入することができるため、この組成物は上記条件下で少なくとも一時的に流動性である。被覆のために使用することができる反応混合物は、特に刊行物JP 11300776及びJP 2005074896に記載されている。この開示の目的でこれらの刊行物は参照され、その際、これらの刊行物中に記載された組成物は、本願明細書中に組み込まれる。特に、DE 102007028601に開示されている反応混合物が適している。
【0049】
この反応混合物は、特に、反応射出成形法で使用することができる。従って、この混合物は、この種の使用を可能にする粘度を有する。この反応混合物の動粘度は、好ましくは25℃で1〜200mPa・sの範囲内、特に好ましくは25℃で5〜50mPa・sの範囲内であり、この動粘度はブルックフィールド(ULアダプター付)により測定することができる。
【0050】
成形材料を射出成形型中に注入する第1のプロセス工程の温度は、特にポリマー並びに添加剤の種類に依存する。この加工温度は当業者に公知である。一般に、この成形材料は、150〜350℃、好ましくは220〜330℃の範囲内の温度で射出成形型中に注入される。
【0051】
第1のプロセス工程でのその後に続く金型の冷却温度は、同様にその都度の成形材料のために通常の温度に調節することができる。この成形材料は、好ましくは40〜160℃、特に好ましくは60〜120℃、更に特に好ましくは70〜90℃の範囲内の温度に冷却することができ、その後で上記空間内に上記反応混合物が注入される。
【0052】
プロセス工程4中の反応混合物の熱硬化が行われる温度は、熱開始剤の種類に依存する。殊に、熱硬化を好ましくは60〜180℃の範囲内、特に70〜160℃の範囲内、更に特に好ましくは80〜140℃の範囲内の温度で射出成形型中で行う方法が特に重要である。熱硬化が高すぎる温度の場合に、亀裂の形成が生じることがある。低すぎる温度の場合には、この被覆は、しばしば射出成形金型の金属との高すぎる付着を示し、この場合、部分的にこの耐摩耗性は熱硬化の際のより高めた温度により改善することもできる。
【0053】
本発明の場合に、この反応混合物の硬化のために、射出成形型の少なくとも一部の温度を高める。意外にも、それにより、最初に得られた成形体に不利な影響を及ぼさずに、上記被覆の硬化が達成される。特に、この射出成形型は、上記被覆の硬化のために部分的に加熱されるのが好ましい。好適な実施態様によると、射出成形型の、上記反応混合物と接触する部分を加熱し、かつ射出成形型の、上記反応混合物と接触しない部分を加熱しないのが好ましい。
【0054】
この関連で、ここに用いられた「射出成形型」の概念は、この専門分野では公知であることが確認できる。この概念は、一般に、射出成形装置の、付形のために必要な部分であると解釈される。この部分は、成形材料を充填することができるキャビティを形成する。成形材料の冷却後に、この射出成形型は破壊せずに開放することができるため、得られた成形体を射出成形型から取り出すことができる。従って、この射出成形型は、通常ではこの種の開放を可能にする可動部分を有する。付形のために、この射出成形型は、通常では、成形材料と接触する金属部分を有するため、この部分もしくはこの部分の表面は付形のために極めて重要である。本発明による目的のために、射出成形型の概念は、特に付形する部分であると解釈され、この場合、上記部分は複数の部分から構成されていてもよい。上記された加熱は、射出成形型の反応混合物と接触する部分が、できる限り選択的に能動的に加熱されることを意味する。この加熱は、特に誘導によるか、電流によるか、又は射出成形型の上記部分と接触するヒートエレメントにより行うことができる。射出成形型の他の部分も同様にこの加熱による熱伝導によって加熱されることがありえるが、これはこのためには重要ではない、それというのも一般には熱勾配が生じ、その際、射出成形型の反応混合物と接触する表面は、射出成形型の反応混合物と接触しない表面よりも高い温度を有するためである。
【0055】
射出成形型の少なくとも一部分の温度が、好ましくは少なくとも5℃、特に好ましくは少なくとも10℃、更に特に好ましくは少なくとも30℃高められる。間接的なヒートエレメントを用いた加熱の場合、この記載は、特に射出成形型の少なくとも一部分と接触しかつこの部分を加熱するヒートエレメントが有する温度に関する。誘導を用いて又は射出成形型に通された電流を用いて加熱する場合に、この記載は、射出成形型が示す最大温度に関する。
【0056】
この温度上昇は、好ましくは短時間で達成することができる。この温度上昇は、好ましくは1分間で、特に好ましくは30秒間で、更に特に好ましくは5秒間で行うことができる。この場合、特に短い時間が望ましいが、この時間は技術的な実状により制限される。
【0057】
特に好ましい実施態様の場合に、この温度は、射出成形型の少なくとも一部分を、1分間に10℃より高く変化させる。
【0058】
本発明により製造された被覆された成形体は、先行技術に対して新規の改善された特徴を有する。本発明の場合に、反応混合物が注入された時点で成形体は少なくとも70℃の温度を有する。この反応混合物は、注入の後の最大1分で、特に好ましくは5sで、少なくとも100℃の温度で硬化される。特に被覆されるべき成形体の高い温度は、この成形体上の被覆の特に強い付着を生じさせる。成形材料から成形体を製造した後にこの成形体は70℃の温度未満に冷却される時点はなく、従って、成形材料に応じて、近傍の構造、例えば微結晶の形成は抑制されるか又は遅延されるという事実により、上記効果は強化される。この効果により、成形体と被覆との間の界面で先行技術と比べて改善された付着を実現することが可能となる。意外にも、本発明により製造された成形体の特別な特徴は、本発明による方法によってのみ装置交換なしで実現可能であることが見出された。
【0059】
射出成形型又は射出成形型の表面は、反応混合物の注入の前、その間又はその後に加熱することができる。特別な利点は、特に、反応混合物の注入の前又はその間に既に射出成形型の加熱が開始されることにより達成することができる。好ましくは、成形品に向かう側の射出成形型の表面を通して加熱する加熱出力の最大値は、好ましくは、被覆されていない成形体の最低の温度の時点から始まり、この反応混合物の注入後の3秒未満、好ましくは1秒未満に終わる範囲内である。本発明の特別な実施態様によると、成形品に向かう側の射出成形型の表面を加熱する加熱出力の最大値は、反応混合物の注入の前又は注入の間に達成することもできる。この実施態様によると、意外にも、特に容易に離型することができる成形品に関して特に亀裂の少ない表面を得ることができる。
【0060】
更に、この反応混合物の重合(硬化)の開始及び速度は、熱開始剤の種類の選択及び割合並びに金型温度の選択により調節することができる。更に、硬化の開始は、反応混合物中に含まれる多官能性(メタ)アクリラートの選択により制御することができる。
【0061】
原則として反応混合物を用いた被覆を可能にする装置は、特に、上記の刊行物JP 11300776及びJP 2005074896に記載されている。開示する目的で、これらの文献は本明細書に組み込まれる。確かにこれらの刊行物中には、射出成形型の少なくとも一部分の温度を1分間に10℃より高く変化させることができる装置の記載はない。この種の装置は、DE 102007051482に開示されている。この装置は、射出成形型の少なくとも一部分の温度を5秒間で、好ましくは10℃より高く、特に好ましくは20℃より高く変化させることを可能にする。
【0062】
これらの実施態様は、特に、射出成形型の少なくとも一部分を電流により加熱することができることにより達成される。電気的に加熱可能な射出成形型を備えた射出成形装置は、特に、EP-A-1 065 037、W096/29188及びUS 5,234,627に記載されていて、これらは開示の目的で本明細書中に組み込まれる。この加熱は、この場合、電流を用いた表面の加熱により直接的に行うか、又は誘導によるか又は射出成形型の付形する表面に結合するヒートエレメントにより間接的に行うことができる。この場合、間接的方法が好ましい。特に、セラミックヒートエレメント又はペルティエ素子が適している。この場合、この射出成形型を上記の方法の1つ以上により加熱することができる。
【0063】
誘導による射出成形型の加熱は、特に刊行物DE 201 21 777 U1に記載されている。この開示の目的で、この刊行物は本明細書中に組み込まれる。
【0064】
ペルティエ素子は、電流が流れる際に温度差を生じさせるか、又は温度差において電流を生じさせる電熱変換器である。ペルティエ素子及びペルティエ冷却器についての通常の省略形はTEC(英語でThermoelectric Cooler)である。この素子は、市場で入手することができる。
【0065】
セラミックヒートエレメントは、電流により加熱することができるセラミックを有する。セラミックは、この点で、特に酸化物、窒化物及び類似の材料を有することができる無機材料を表す。この種の材料の例は、特に、WO 00/34205、DE 35 12 483、DE 35 19 437及びDE 37 34 274である。これらの文献は、開示の目的で本明細書中に組み込まれる。
【0066】
特別な実施態様の場合に、反応混合物を射出成形型中に注入する注入ノズルに、ペルティエ素子を装備することができる。これにより、装置の耐用時間に関する意外な利点が達成される。この利点は、特に、ノズルの射出成形型に向かう側が加熱され、ノズルの射出成形型とは反対側は冷却されることにより達成される。
【0067】
本発明による方法を実施するための好ましい装置は、射出成形型の少なくとも一部を冷却することができる冷却器を有する。この冷却は、特に、公知の冷媒、例えば空気、水又は類似の媒体によって行うことができる。この冷媒は、加熱された射出成形型の付近中に延在する通路を通して導入するのが好ましい。射出成形型の誘導による加熱の際に、この冷却通路は、この射出成形型を通して直接延在しているか、又は、プラスチック成形品を付形する射出成形型の表面とは反対側に配置されている表面に設けられている。射出成形型を、例えばセラミック素子又はペルティエ素子によって間接的に加熱する場合に、冷媒通路はヒートエレメントと、プラスチック成形品を付形する射出成形型の表面との間に配置される。射出成形型が電流により直接加熱される場合に、この冷媒通路は、射出成形型を通して直接延在するか、又は、プラスチック成形品を付形する射出成形型の表面とは反対側に配置されている表面に設けられている。
【0068】
射出成形型の内部表面と成形体の表面との間の空間に反応混合物を充填した後に、この金型を低い圧力で閉鎖し、射出成形型の内部表面の全体又は一部の構造化された表面で、生じた被覆を造形する。この低い圧力は、通常では、機械による閉鎖力を下回る。この反応混合物からなる被覆は、好ましくは20〜100bar、特に好ましくは20〜80barでエンボス加工される。
【0069】
この成形体は、特に、高い耐摩耗性を特徴とし、この耐摩耗性は例えば摩耗輪試験で測定することができる。特に重要なのは、構造化されていない領域についてのヘーズ値がASTM1044(12/05)(荷重500g、サイクル数=100)による耐摩耗性試験の後で、殊に、最大で10%、特に好ましくは最大で6%、更に特に好ましくは最大で3%増加する被覆された透明な成形体である。ASTM1044(12/05)(荷重500g、サイクル数=100)による耐摩耗性は、更に20゜での光沢の低下により測定することができる。この場合、好ましくは、被覆された成形体は、ASTM1044(12/05)(荷重500g、サイクル数=100)による耐摩耗性試験の後に、最大で10%、特に好ましくは最大で6%、更に特に好ましくは最大で3%の、20゜で光沢の低下を示す。20゜での光沢の低下は、DIN EN ISO 2813により測定することができる。光沢の変化を測定することにより、例えば、着色された成形体又は着色された被覆の耐摩耗性を測定することができる。
【0070】
更に、本発明による成形体は、クロスカット試験により調査することができる被覆の優れた付着性を示す。このために上記被覆を、交差状に切り込みを入れ、それにより碁盤目状のここのセグメントに細分化する。一般に、この場合、少なくとも20の個別のセグメント、好ましくは少なくとも25の個別のセグメントが形成される。この場合、ラインの間隔は約1mmである。次いで、25mm幅の接着テープを貼り付け、再び引き剥がす。この接着テープの1cm2当たりの引き剥がし力は、DIN EN ISO 2409により測定して、2.5mmの幅当たり約10Nである。この試験の実施のために、例えば、Tesa社の商品名Typ 4104で販売されている接着テープを使用することができる。この被覆された成形体は、クロスカット試験により、好ましくは最高で1、特に好ましくは0の評価が達成される。1の評価は、本質的に個々のセグメントの5%以上が引き剥がされなかった場合の被覆された成形体が獲得する。個々のセグメントが引き剥がされなかった場合(0%)では、被覆された成形体は、0の評価を獲得する。
【0071】
更に、好ましい被覆は亀裂がなく、高い耐薬品性を示す。この被覆は、特にエタノール、エタノール/水(70/30)、ベンジン、パンクレアチン、硫酸(1%)に抵抗し、これらの化合物との接触により、応力亀裂が生じない。
【0072】
好ましい成形体は、ISO 527(1mm/minで)により、1200MPa以上の、好ましくは1600MPa以上のEモジュラスを有することができる。更に、本発明による成形体は、10kJ/m2以上の、好ましくは15kJ/m2のISO179によるシャルピー衝撃強さを示すことができる。
【0073】
更に、55以上の、好ましくは60以上の、DIN 53 455-1-3(1mm/minで)による引張強さを有し、優れた耐摩耗性を有するプラスチックを得ることができる。
【0074】
更に、本発明の成形体は、優れた耐候性を示すことができる。キセノン試験による耐候性は、好ましくは少なくとも1000時間、特に好ましくは2000時間である。この耐候性は、例えば、透過性の僅かな低下により、又は耐摩耗性の僅かな低下により決定することができる。被覆された成形体のキセノン照射の200時間後の透過性が、この照射の開始時の透過性値に関して、特に高くても10%、特に有利に高くても5%低減する被覆された成形体が特に重要である。更に、好ましい成形体は、200時間のキセノン照射後に、高くても25%の、特に好ましくは高くても15%の、ASTM1044(12/05)(荷重500g、サイクル数=100)による耐摩耗性試験によるヘーズ値の増加を示すことができる。更に、キセノン照射後の耐摩耗性値の測定は、光沢の低減によっても可能である。この場合、好ましくは、被覆された成形体は、2000時間のキセノン照射後に、ASTM1044(12/05)(荷重500g、サイクル数=100)による耐摩耗性試験により、最大で25%、特に好ましくは最大で20%、更に特に好ましくは最大で15%の、20゜で光沢の低下を示す。
【0075】
更に、本発明による被覆材料を用いて得られた好ましい被覆は、気候変動試験において高い耐性を示し、その際、基体の変形にもかかわらず僅かな亀裂が生じただけである。好ましくは、この気候変動試験を実施するために、文献「BMW PR 303 - Teil d」に記載された負荷プログラムを使用することができる。
【0076】
特に好ましい実施態様の場合に、被覆工程でナノ構造をエンボス加工することができる。例えば耐摩耗性のナノ構造化された成形体は、ヒトの目にとって、光沢性の被覆を生じるが、これはナノ構造化によって防眩されている。