【文献】
原恒平ら,PEFC用カソードとしての4・5族遷移金属酸化物をベースとした薄膜触媒,電気化学会講演会要旨集 第78回(2011年春),社団法人電気化学会,2011年 3月29日,43ページ
【文献】
W. C. GAU et al.,Metal-organic chemical vapor deposition of NbxTa(1-x)NyOmCn films as diffusion barriers for Cu metallization,Thin Solid Films,2002年,420-421,548-552.,doi:10.1016/S0040-6090(02)00853-2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者らは、吸収端波長が1008nm以下となるバンドギャップを有し、かつできるだけバンドギャップを長波長化する半導体材料であって、さらに光照射下の水中で安定である、新規の半導体材料を提供するに至った。さらに、本発明者らは、このような新規の半導体材料を利用して、光照射により高効率で水素を製造可能な方法、及び、光照射により高効率で水素を生成可能なデバイスも提供するに至った。
【0018】
本発明の第1の態様は、4族元素及び5族元素から選ばれる少なくとも何れか1種の元素を含有する酸窒化物において、酸素及び窒素から選ばれる少なくとも何れか1種の一部が炭素で置換された、半導体材料を提供する。第1の態様に係る半導体材料は、吸収端波長が1008nm以下となるバンドギャップを有し、かつ、従来の半導体材料と比較してバンドギャップがより長波長化されている。また、第1の態様に係る半導体材料は、4族元素及び5族元素から選ばれる少なくとも何れか1種の元素、炭素で置換される元素、及び、炭素による置換量などを適宜選択することにより、そのバンドエッジが水の酸化還元電位を挟んでおり、また、700nm以上の可視光を吸収可能であり、さらに光照射時の水中(特に中性〜酸性)での安定性に優れている半導体材料も実現可能である。よって、電解質及び水を含有する溶液に浸した本発明の半導体材料に光を照射して水を分解すれば、従来よりも高効率で水素を生成させることができる。
【0019】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、単相構造を有する半導体材料を提供する。第2の態様に係る半導体材料は、より高い電荷分離効率を実現できる。
【0020】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様において、単斜晶系の結晶構造を有する半導体材料を提供する。例えば4族又は5族の元素としてNbを用いた場合、NbONのO及び/又はNの一部がCで置換されるが、このときNbONの結晶構造を維持したまま、NbONのO及び/又はNの一部がCで置換されることが望ましい。本発明の第3の態様に係る半導体材料は、単斜晶系の結晶構造を有することにより、Cで置換された後の結晶構造が置換前の結晶構造を維持できる。また、単結晶に近いほど量子効率の向上が期待できるため、結晶性が高いことが望ましい。ただし、均一なアモルファス構造であっても、単結晶ほどではないが高い量子効率を得ることができる。
【0021】
本発明の第4の態様は、第1〜第3の態様の何れか1つの態様において、前記4族元素及び5族元素から選ばれる少なくとも何れか1種の元素がNbである半導体材料を提供する。第4の態様に係る半導体材料によれば、より高い波長を有する可視光の吸収が可能となる。
【0022】
本発明の第5の態様は、第1〜第4の態様の何れか1つの態様において、前記5族元素が実質的に5価の状態である半導体材料を提供する。第5の態様に係る半導体材料は、より明確なバンドギャップを有することができる。
【0023】
本発明の第6の態様は、第1〜第5の態様の何れか1つの態様において、光触媒能を有する半導体材料を提供する。第6の態様に係る半導体材料によれば、太陽光を有効に利用できる光触媒の提供が可能となる。
【0024】
本発明の第7の態様は、電解質及び水を含有する溶液に第1の態様に係る半導体材料を浸し、前記半導体材料に光を照射して前記水を分解する工程を含む、水素の製造方法を提供する。第7の態様に係る製造方法によれば、従来よりも高効率で水素を生成させることができる。
【0025】
本発明の第8の態様は、容器、光触媒材料を含む電極、及び対極を備えた光水素生成デバイスであって、前記光触媒材料が第1の態様に係る半導体材料を含む、光水素生成デバイスを提供する。第8の態様に係る水素生成デバイスによれば、従来よりも高効率で水素を生成させることができる。
【0026】
以下、本発明の半導体材料、水素の製造方法及び水素生成デバイスの実施形態について、より詳しく説明する。
【0027】
太陽光を用いて効率よく水を分解し水素を生成させるためには、
図1左に示すバンド状態図のように、光触媒として用いる材料が比較的長波長の可視光まで吸収可能な(バンドギャップが小さい)半導体材料であり、前記半導体材料のバンドエッジ(価電子帯と伝導帯の準位)が水素発生準位と酸素発生準位を挟んでいる必要があり、なおかつ前記半導体材料が光照射下の水中で安定である必要がある。
【0028】
ここで、一般的な酸化物の価電子帯は酸素のp軌道から構成されるため、その価電子帯位置が深い準位(高い電位)にあることが通常である(
図1右)。これに対して、窒化物及び酸窒化物の価電子帯は、窒素のp軌道、又は、酸素と窒素のp軌道の混成状態から構成される。従って、その価電子帯位置は、酸化物の価電子帯位置よりも浅い準位(低い電位)にあることが通常である(
図1中央)。そのため、特許文献3に開示されている通り、酸窒化物を用いれば、酸化物を用いた場合よりも小さいバンドギャップを有する光触媒材料(半導体材料)を得ることができる。ここで、単純窒化物は、一般的に酸化されやすいため、光照射下で長時間水中に放置すると酸化されてしまうケースがある。そのため、安定性まで考慮すると、単純窒化物より酸窒化物の方が望ましい。しかしながら、酸窒化物でも、前述の所望のバンドギャップ(吸収端波長700nm)よりも大きなバンドギャップを有する材料しか知られておらず、そのバンドギャップは最小でも1.91eV(吸収端波長650nm)程度である。
【0029】
それに対し本発明者らは、第一原理計算の結果より、炭素のp軌道から構成される価電子帯が、窒化物及び酸窒化物の価電子帯位置よりもさらに浅い準位(低い電位)にあることを見出した。本発明者らは、さらに検討を進めた結果、4族元素及び5族元素から選ばれる少なくとも何れか1種の元素を含有する酸窒化物において、酸素及び窒素から選ばれる少なくとも何れか1種の一部が炭素で置換された半導体材料が、炭素のp軌道から構成される価電子帯を有し、窒化物及び酸窒化物よりもバンドギャップが小さいことを見出した。ここで、4族または5族元素の単純炭化物は、金属性の導電性を持つものが多く、バンドギャップを持たないものが多い。従って、本発明は、酸窒化物の酸素及び/又は窒素の一部が炭素で置換された半導体材料であることを要件とする。
【0030】
図2A及び2Bに、単斜晶系のNbONの酸素のサイトが炭素で置換された材料と、NbONに炭素がドープされた材料との違いが図示されている。
図2Aは、NbONの酸素のサイトが炭素で置換された状態を示す。この状態では、元々存在していた酸素のサイトの酸素原子の換わりに、炭素原子が存在している。
図2Bは、NbONに炭素がドープされた状態を示している。この状態では、NbONの結晶構造が保たれたまま、Nb、酸素及び窒素のサイトではない箇所に炭素がドープされている。酸窒化物を構成する酸素及び/又は窒素の位置に置換する炭素が存在する状態ではなく、酸窒化物を構成する金属元素、酸素及び窒素のサイトの間に炭素が単にドープされた状態の場合には、ドープされた炭素が欠陥となる。欠陥は、光励起によって生じた電子とホールの再結合中心となるため、量子効率を低下させてしまう。従って、酸窒化物に炭素がドープされた状態の半導体材料は、本発明においては好ましくなく、酸窒化物の酸素及び/又は窒素のサイトが炭素で置換されていることが望ましい。
【0031】
なお、本発明ではエネルギー準位を、半導体分野でしばしば用いられる真空準位ではなく、電気化学的エネルギー準位を用いて述べている(
図3以降の量子化学計算による電子状態密度を表す図は、真空準位に基づく概念で示しているが、必ずしも絶対準位を示すものではない)。
【0032】
本実施形態の半導体材料は、4族元素及び5族元素から選ばれる少なくとも何れか1種の元素を含有する酸窒化物において、酸素及び窒素から選ばれる少なくとも何れか1種の一部が炭素で置換された半導体材料である。
【0033】
半導体材料を光触媒として用いる場合は、光照射により生成したホールと電子とが速やかに電荷分離される必要がある。電荷分離の効率は、量子効率(励起により作用した電子の数/入射した光子の数)に影響する。そのため、可視光まで吸収可能な光触媒材料を用いた水素生成デバイスであっても、電荷分離の効率が悪い光触媒材料では、光励起により生成した電子とホールとが再結合しやすく量子効率が悪化するので、結果的に水素生成効率が低下する。電荷分離を阻害する要因として、光触媒材料の欠陥構造などが挙げられる。従って、光触媒材料には、電荷分離効率の観点から、単相で高結晶性の半導体材料を用いることが望まれる。一般的には、高結晶性の半導体ほど欠陥が少なくなる傾向にあるからである。しかしながら、単相であれば、アモルファス状態であっても必ずしも欠陥が多いわけではなく、この様な場合はアモルファス状態も許容できる。
【0034】
例えば、半導体材料が多相の混合物である場合(例えば、大部分がNb
2O
5であり、これに微量のNbCNが混合されている場合)、Nb
2O
5が光励起することによって生じた電子とホールが移動する際に、同じ電子軌道を共有していないNbCNが存在すると、NbCNとNb
2O
5との界面が電子とホールの再結合中心となり量子効率が低下してしまう。従って、水分解による水素生成を目的に光触媒材料として使用する場合には、本発明では、前記半導体材料が単相構造を有することが好ましい。なお、前記半導体材料は、単相構造が保たれる限り、少量の不純物や欠陥を含んでいてもよい。何故なら、不純物を全く含まない完全な真性半導体は製造が極めて困難である上に、極めて電子伝導性が低く、光励起によって生成した電子が移動しにくくなり、結果として量子効率の低下をもたらす。従って、フェルミ準位が最適に制御される程度の微量の欠陥は、単相構造が保たれる範囲内で許容できる。また、単相のバルク表面に少量の不純物相(例えば酸化被膜など)を含んでいてもよい。少量の表面不純物相であれば、量子効果によって光触媒機能を発揮することが出来る。不純物の含有量は、好ましくは1モル%以下である。また、上記の観点から、前記半導体材料は、結晶性ができるだけ高いことが好ましい。さらに、前述の通り、半導体の欠陥に関し、電子伝導性と、光励起によって生成した電子とホールとの再結合中心となり失活する速度とが、トレードオフの関係を有する。従って、欠陥量は好ましくは1モル%以下である。また、欠陥に関して電子伝導性と再結合による失活速度とがトレードオフの関係を有することから、単相構造及び高結晶性が保たれる範囲内で、半導体はその厚みが薄い形状となるように形成されることが望ましい。すなわち、半導体を半導体層として形成する場合は、半導体層の厚みが薄いことが望ましい。半導体層が薄いと、電荷分離効率が向上するためである。本発明では、実験的に、半導体層の厚みが500nm以下であることが望ましいことを発見した。一方で、半導体層が薄すぎると結晶化が悪くなる上、光吸収量が少なくなる。そのため、半導体層の厚みは、10nm以上であることが望ましい。従って、半導体層の厚みは、10nm以上、500nm以下であることが望ましい。さらには、10nm以上、500nm以下の厚さを有する半導体層が、高表面積になるよう構成されていることが望ましい。何故なら、前述の通り、半導体層の厚みが厚いと光吸収量は増えるが電荷分離効率が低下する。逆に半導体層の厚みが薄いと、光吸収量は減るが電荷分離効率が向上する。半導体層の厚みに対して、光吸収と電荷分離効率とがトレードオフの関係にある。そのため、半導体層は、厚みが薄く、高表面積を有するように構成することが望ましい。これは、半導体層が設けられる基板形状を工夫することで可能となる。高表面積にすることで、光照射時に半導体層を透過した光や散乱した光が、再度半導体層で吸収されるためである。
【0035】
TaONは、500nm以下の波長の光を吸収可能な光触媒能を有する半導体であることが知られている。NbONについて、これまでに単相が合成された報告例はないが、本発明において新たに合成プロセスを開発し単相を合成したところ、600nm以下の波長の光を吸収可能な光触媒機能を有する半導体であることを見出した。また、TaON及びNbONが共に水分解可能な光触媒材料であることを実験的に確認し、それぞれの価電子帯と伝導帯が、水の酸化還元電位を挟んでいることも確認した。
【0036】
第一原理計算により、TaONの酸素及び/又は窒素のサイトを炭素で置換した材料のバンドギャップを算出した。
図3A〜3Dに、TaONとTaONの酸素及び/又は窒素のサイトを炭素で置換した材料との、第一原理計算による電子状態密度分布(Density of State)を示す。第一原理計算は、例えばTaONの場合、単位格子にTa原子が4個、酸素原子が4個、窒素原子が4個含まれており、この単位格子が周期境界条件により無限に連続しているものとして実施した。従って、
図3Bは、単位格子中の1個の酸素が炭素で置換されることによって得られる材料の電子状態密度分布を示している。すなわち、
図3Bは、単位格子中にTa原子が4個、酸素原子が3個、窒素原子が4個、炭素原子が1個含まれており、従って炭素が8.3at%(モル%)含まれている材料の電子状態密度分布を示している。
図3Cは、単位格子中の1個の窒素が炭素で置換されることによって得られる材料の電子状態密度分布を示している。すなわち、
図3Cは、単位格子中にTa原子が4個、酸素原子が4個、窒素原子が3個、炭素原子が1個含まれており、従って炭素が8.3at%(モル%)含まれている材料の電子状態密度分布を示している。
図3Dは、単位格子中の1個の酸素及び1個の窒素が2個の炭素で置換されることによって得られる材料の電子密度分布を示している。すなわち、
図3Dは、単位格子中にTa原子が4個、酸素原子が3個、窒素原子が3個、炭素原子が2個含まれており、従って炭素が16.7at%(モル%)含まれている材料の電子状態密度分布を示している。
【0037】
図3AのTaONの第一原理計算では、バンドギャップは1.93eV、すなわち642nmとの計算結果が得られた。第一原理計算によるバンドギャップ計算の結果は、実際のバンドギャップよりも小さく計算されることが一般的である。TaONの実測のバンドギャップは500nmであることから、第一原理計算では、実測よりも0.78倍小さくバンドギャップが算出されることが分かった。
図3A〜3Dは、同じ単斜晶系の結晶構造を有するTaONが炭素で置換された場合の計算結果である。一般に、同じ結晶構造であれば、第一原理計算結果は同じ傾向を示す。このことから、
図3AのTaONのバンドギャップの計算結果と実測値の比を、
図3B〜3Dのバンドギャップ計算結果に適用し、バンドギャップを推算した。その結果、TaONの酸素のサイトを炭素で置換することで、バンドギャップを小さくする(可視光化)効果が最も大きくなることを見出した。
【0038】
同様にして、第一原理計算により、NbONの酸素及び/又は窒素のサイトを炭素で置換した材料のバンドギャップを算出した。
図4A〜4Dに、NbONとNbONの酸素及び/又は窒素のサイトを炭素で置換した材料との、第一原理計算による電子状態密度分布(Density of State)を示す。第一原理計算は、例えばNbONの場合、単位格子にNb原子が4個、酸素原子が4個、窒素原子が4個含まれており、この単位格子が周期境界条件により無限に連続しているものとして実施した。従って、
図4Bは、単位格子中の1個の酸素が炭素で置換されることによって得られる材料の電子状態密度分布を示している。すなわち、
図4Bは、単位格子中にNb原子が4個、酸素原子が3個、窒素原子が4個、炭素原子が1個含まれており、従って炭素が8.3at%(モル%)含まれている材料の電子状態密度分布を示している。
図4Cは、単位格子中の1個の窒素が炭素で置換されることによって得られる材料の電子状態密度分布を示している。すなわち、
図4Cは、単位格子中にNb原子が4個、酸素原子が4個、窒素原子が3個、炭素原子が1個含まれており、従って炭素が8.3at%(モル%)含まれている材料の電子状態密度分布を示している。
図4Dは、単位格子中の1個の酸素及び1個の窒素が2個の炭素で置換されることによって得られる材料の電子状態密度分布を示している。すなわち、
図4Dは、単位格子中にNb原子が4個、酸素原子が3個、窒素原子が3個、炭素原子が2個含まれており、従って炭素が16.7at%(モル%)含まれている材料の電子状態密度分布を示している。
【0039】
図4AのNbONの第一原理計算では、バンドギャップは1.61eV、すなわち770nmとの計算結果が得られた。第一原理計算によるバンドギャップ計算の結果は、実際のバンドギャップよりも小さく計算されることが一般的である。NbONの実測のバンドギャップは600nmであることから、第一原理計算では、TaON系の場合と同じく実測よりも0.78倍小さくバンドギャップが算出されることが分かった。
図4A〜4Dは、同じ単斜晶系の結晶構造のNbONが炭素で置換された場合の計算結果である。一般に同じ結晶構造であれば第一原理計算結果は同じ傾向を示す。このことから、
図4AのNbONのバンドギャップの計算結果と実測値の比を、
図4B〜4Dのバンドギャップ計算結果に適用し、バンドギャップを推算した。その結果、NbONの酸素のサイトを炭素で置換することで、バンドギャップを小さくする(可視光化)効果が最も大きくなることを見出した。また、
図4Dの場合には、バンドギャップが小さくなりすぎて導電体となることを見出した。ただし、TaON及びNbONの両方に言えることであるが、価電子帯準位のトップよりも下にフェルミ準位(0eV)が存在する。この様な状態は、価電子帯準位の中に電子が空の状態が存在することを示している。この様な電子状態では、光励起電子が価電子帯の電子が空の準位に落ちやすくなるため、励起電子とホールとの再結合が起こりやすく、好ましくない。
【0040】
そこで、第一原理計算により、NbONの酸素のサイトを置換する炭素の量を変化させた材料のバンドギャップを算出した。
図5A〜5Fに、NbONとNbONの酸素のサイトを炭素で置換した材料との、第一原理計算による電子状態密度分布(Density of State)を示す。
図4A〜4Dでは、Nb原子が4個含まれたものを単位格子として計算を行ったが、ここでは、炭素の置換量を変化させるために、Nb原子が8個以上含まれたものを単位格子として計算した。この単位格子が周期境界条件により無限に連続しているものとして計算を実施した。従って、
図5Bは、Nb原子を8個含む単位格子中の1個の酸素が炭素で置換されることによって得られる材料の電子状態密度分布を示している。すなわち、
図5Bは、単位格子中にNb原子が8個、酸素原子が7個、窒素原子が8個、炭素原子が1個含まれており、従って炭素が4.2at%(モル%)含まれている。
図5Cは、Nb原子を16個含む単位格子中の3個の酸素が3個の炭素で置換されることによって得られる材料の電子状態密度分布を示している。すなわち、
図5Cは、単位格子中にNb原子が16個、酸素原子が13個、窒素原子が16個、炭素原子が3個含まれており、従って炭素が6.3at%(モル%)含まれている材料の電子状態密度分布を示している。
図5Dは、参考のため
図4Bと同じNb原子を4個含む単位格子中の1個の酸素が炭素で置換されることによって得られる材料の電子状態密度分布を示している。すなわち、
図5Dは、単位格子中にNb原子が4個、酸素原子が3個、窒素原子が4個、炭素原子が1個含まれており、従って炭素が8.3at%(モル%)含まれている材料の電子状態密度分布を示している。
図5Eは、Nb原子を32個含む単位格子中の1個の酸素が1個の炭素で置換されることによって得られる材料の電子状態密度分布を示している。すなわち、
図5Eは、単位格子中にNb原子が32個、酸素原子が31個、窒素原子が32個、炭素原子が1個含まれており、従って炭素が1.0at%(モル%)含まれている材料の電子状態密度分布を示している。
図5Fは、Nb原子を16個含む単位格子中の1個の酸素が1個の炭素で置換されることによって得られる材料の電子状態密度分布を示している。すなわち、
図5Fは、単位格子中にNb原子が16個、酸素原子が15個、窒素原子が16個、炭素原子が1個含まれており、従って炭素が2.1at%(モル%)含まれている材料の電子状態密度分布を示している。
【0041】
図5AのNbONの第一原理計算では、バンドギャップは1.61eV、すなわち770nmと計算結果が得られた。第一原理計算によるバンドギャップ計算の結果は、実際のバンドギャップよりも小さく計算されることが一般的である。NbONの実測のバンドギャップは600nmであることから、第一原理計算では、
図4Aの場合と同じく実測よりも0.78倍小さくバンドギャップが算出されることが分かった。
図5A〜5Fは、同じ単斜晶系の結晶構造のNbONに炭素が置換した計算であり、一般に同じ結晶構造であれば第一原理計算結果は同じ傾向を示す。このことから、
図5AのNbONのバンドギャップの計算結果と実測値との比を、
図5B〜5Fのバンドギャップ計算結果に適用し、バンドギャップを推算した。その結果、炭素が8.3at%(モル%)含まれる場合(
図5D)には、電状態密度にバンドギャップ状の谷間形状は観測されるが、価電子帯中にフェルミ準位が存在し、かつ価電子帯の上から第一番目のピークより下にフェルミ準位が存在するため、バンドギャップが極端に小さいか、あるいは導電体に近いことが分かる。また、炭素が6.3at%(モル%)含まれる場合(
図5C)には、伝導帯準位の中にフェルミ準位(0eV)が存在するため、明らかに導電体である。しかしながら、炭素含有率が4.2at%(モル%)以下の場合(
図5B、5E及び5F)には、価電子帯トップにフェルミ準位(0eV)が存在することを見出した。すなわち、NbONの酸素のサイトを炭素が置換する場合、炭素含有率が4.2at%(モル%)以下で好ましい電子状態でより可視光化材料が得られることを見出した。
【0042】
ここで、量子化学計算によるバンドギャップは、実際のバンドギャップよりも小さく計算されることが一般的である。しかしながら、電子状態密度分布の傾向に関しては、高い精度で求めることが出来る。すなわち、半導体としてのバンドギャップを有するかどうか、導電体であるかどうかなどの判断においては、精度高く計算される。
【0043】
次に、第一原理計算により、NbONの窒素のサイトを置換する炭素の量を変化させた材料のバンドギャップを算出した。
図6A〜6Fに、NbONとNbONの窒素のサイトを炭素で置換した材料との、第一原理計算による電子状態密度分布(Density of State)を示す。
図4A〜4Dでは、単位格子にNb原子が4個含まれたものを単位格子として計算を行ったが、炭素の置換量を変化させるため、Nb原子が8個以上含まれたものを単位格子として計算した。この単位格子が周期境界条件により無限に連続しているものとして計算を実施した。従って、
図6Bは、Nb原子を8個含む単位格子中の1個の窒素が炭素で置換されることによって得られる材料の電子状態密度分布を示している。すなわち、
図6Bは、単位格子中にNb原子が8個、酸素原子が8個、窒素原子が7個、炭素原子が1個含まれており、従って炭素が4.2at%(モル%)含まれている材料の電子状態密度分布を示している。
図6Cは、Nb原子を16個含む単位格子中の3個の窒素が3個の炭素で置換されることによって得られる材料の電子状態密度分布を示している。すなわち単位格子中には、Nb原子が16個、酸素原子が16個、窒素原子が13個、炭素原子が3個含まれており、従って炭素は6.3at%(モル%)含まれている材料の電子状態密度分布を示している。
図6Dは、参考のため
図4Cと同じNb原子を4個含む単位格子中の1個の窒素が炭素で置換されることによって得られる材料の電子状態密度分布を示している。すなわち、
図6Dは、単位格子中にNb原子が4個、酸素原子が4個、窒素原子が3個、炭素原子が1個含まれており、従って炭素が8.3at%(モル%)含まれている材料の電子状態密度分布を示している。
図6Eは、Nb原子を32個含む単位格子中の1個の窒素が1個の炭素で置換されることによって得られる材料の電子状態密度分布を示している。すなわち、
図6Eは、単位格子中にNb原子が32個、酸素原子が32個、窒素原子が31個、炭素原子が1個含まれており、従って炭素が1.0at%(モル%)含まれている材料の電子状態密度分布を示している。
図6Fは、Nb原子を16個含む単位格子中の1個の窒素が1個の炭素で置換されることによって得られる材料の電子状態密度分布を示している。すなわち、
図6Fは、単位格子中にNb原子が16個、酸素原子が16個、窒素原子が15個、炭素原子が1個含まれており、従って炭素が2.1at%(モル%)含まれている材料の電子状態密度分布を示している。
【0044】
図6AのNbONの第一原理計算では、バンドギャップは1.61eV、すなわち770nmと計算結果が得られた。第一原理計算によるバンドギャップ計算の結果は、実際のバンドギャップよりも小さく計算されることが一般的である。NbONの実測のバンドギャップは600nmであることから、第一原理計算では、
図4Aの場合と同じく実測よりも0.78倍小さくバンドギャップが算出されることが分かった。
図6A〜6Fは、同じ単斜晶系の結晶構造のNbONに炭素が置換した計算であり、一般に同じ結晶構造であれば第一原理計算結果は同じ傾向を示す。このことから、
図6AのNbONのバンドギャップの計算結果と実測値の比を、
図6B〜6Fのバンドギャップ計算結果に適用し、バンドギャップを推算した。その結果、NbONの窒素が炭素に置換された場合には、何れも可視光化(バンドギャップの長波長化)は起こるものの、価電子帯準位のトップより下にフェルミ準位(0eV)が存在することを見出した。この状態は、価電子帯準位の中に電子が空の状態が存在することを示しており、半導体ではあるが、この様な電子状態では、光励起電子が価電子帯の電子が空の準位に落ちやすくなるため、励起電子とホールとの再結合が起こりやすく、好ましくない。従って、NbONの酸素及び/又は窒素のサイトを炭素で置換する場合には、何れも半導体材料のバンドギャップの長波長化は起こるが、この半導体材料を光触媒材料として用いる場合には、酸素のサイトを炭素で置換した材料の方が好ましいことを見出した。
【0045】
次に、第一原理計算により、NbONの酸素のサイト及び窒素のサイトの両方を炭素で置換し、炭素の量を変化させた材料のバンドギャップを算出した。
図7A〜7Fに、NbONとNbONの酸素と窒素のサイトを炭素で置換した材料との、第一原理計算による電子状態密度分布(Density of State)を示す。
図4A〜4Dでは、単位格子にNb原子が4個含まれたものを単位格子として計算を行ったが、炭素の置換量を変化させるため、Nb原子が8個以上含まれたものを単位格子として計算した。この単位格子が周期境界条件により無限に連続しているものとして計算を実施した。従って、
図7Bは、Nb原子を16個含む単位格子中の1個の酸素及び1個の窒素が2個の炭素で置換されることによって得られる材料の電子状態密度分布を示している。すなわち、
図7Bは、単位格子中にNb原子が16個、酸素原子が15個、窒素原子が15個、炭素原子が2個含まれており、従って炭素が4.2at%(モル%)含まれている材料の電子状態密度分布を示している。
図7Cは、Nb原子を8個含む単位格子中の1個の酸素及び1個の窒素のサイトが2個の炭素で置換されることによって得られる材料の電子状態密度分布を示している。すなわち、
図7Cは、単位格子中にNb原子が8個、酸素原子が7個、窒素原子が7個、炭素原子が2個含まれており、従って炭素が8.3at%(モル%)含まれている材料の電子状態密度分布を示している。
図7Dは、参考のため
図3Dと同じNb原子を4個含む単位格子中の1個の酸素及び1個の窒素のサイトが2個の炭素で置換されることによって得られる材料の電子状態密度分布を示している。すなわち、
図7Dは、単位格子中にNb原子が4個、酸素原子が3個、窒素原子が3個、炭素原子が2個含まれており、従って炭素が16.7at%(モル%)含まれている材料の電子状態密度分布を示している。
図7Eは、Nb原子を16個含む単位格子中の1個の酸素及び2個の窒素のサイトが3個の炭素で置換されることによって得られる材料の電子状態密度分布を示している。すなわち、
図7Eは、単位格子中にNb原子が16個、酸素原子が15個、窒素原子が14個、炭素原子が3個含まれており、従って炭素が6.3at%(モル%)含まれている材料の電子状態密度分布を示している。
図7Fは、Nb原子を16個含む単位格子中の2個の酸素及び1個の窒素のサイトが3個の炭素で置換されることによって得られる材料の電子状態密度分布を示している。すなわち、
図7Fは、単位格子中にNb原子が16個、酸素原子が14個、窒素原子が15個、炭素原子が3個含まれており、従って炭素が6.3at%(モル%)含まれている材料の電子状態密度分布を示している。
【0046】
図7AのNbONの第一原理計算では、バンドギャップは1.61eV、すなわち770nmとの計算結果が得られた。第一原理計算によるバンドギャップ計算の結果は、実際のバンドギャップよりも小さく計算されることが一般的である。NbONの実測のバンドギャップは600nmであることから、第一原理計算では、
図4Aの場合と同じく実測よりも0.78倍小さくバンドギャップが算出されることが分かった。
図7A〜7Fは、同じ単斜晶系の結晶構造のNbONに炭素が置換した計算であり、一般に同じ結晶構造であれば第一原理計算結果は同じ傾向を示す。このことから、
図7AのNbONのバンドギャップの計算結果と実測値との比を、
図7B〜7Fのバンドギャップ計算結果に適用し、バンドギャップを推算した。その結果、炭素が16.7at%(モル%)含まれる場合(
図7D)には、明らかに導電体であることが分かる。また、炭素が8.3at%(モル%)含まれる場合(
図7C)には、価電子帯トップにフェルミ準位(0eV)が存在することを見出した。すなわち、NbONの酸素と窒素のサイトを炭素が置換する場合、炭素含有率が8.3at%(モル%)以下で好ましい電子状態でより可視光化材料が得られることを見出した。また、炭素で置換される酸素と窒素の比率が1:1でない場合(
図7E)においても、好ましい電子状態でより可視光化材料が得られることを見出したが、
図7Fにおいては半導体ではあるが、価電子帯中に電子が空の状態が存在するため好ましいとは言えない。
【0047】
ここで、量子化学計算によるバンドギャップは、実際のバンドギャップよりも小さく計算されることが一般的である。しかしながら、電子状態密度分布の形状に関しては、高い精度で求めることが出来る。すなわち、半導体としてのバンドギャップを有するかどうか、導電体であるかどうかなどの判断においては精度高く計算される。
【0048】
以上のことから総合的に判断して、酸素のサイトと窒素のサイトのどちらのサイトが炭素で置換される方が有利であるかが判明した。すなわち、酸素のサイトと窒素のサイトのどちらが炭素で置換されても可視光化の効果はあり、またランダムに酸素と窒素の両方のサイトが炭素で置換されても可視光化の効果はある。ただし、酸素のサイトが優先的に炭素で置換された方が少量の炭素置換で可視光化の効果が大きいことを見出した。また、炭素置換量が多くなりすぎると半導体特性を示さない導電体となることを見出した。さらに、炭素置換量が一定の範囲内であれば、炭素置換量を増やすほどバンドギャップが小さくなることを見出した。また、酸素のサイトが炭素で置換される場合には、炭素の置換割合が4.2at%以下で、可視光化の効果が顕著に表れることを見出した。一方、窒素のサイトが炭素で置換される場合、あるいは酸素のサイトと窒素のサイトがランダムに炭素で置換される場合には、炭素の置換割合が8.3at%以下で可視光化の効果が発現することを見出した。
【0049】
ここで、伝導帯はTa又はNbの金属元素の電子が空の最外郭d軌道で構成されているため、酸素及び/又は窒素のサイトが炭素で置換されても、Ta又はNbのd軌道の準位が変化することはない。そのため、酸素及び/又は窒素のサイトが炭素で置換されることでバンドギャップが小さくなる効果は、価電子帯準位が変動することによって得られる効果であることを見出した。従って、酸素及び窒素の炭素置換量を制御することで、バンドギャップの大きさを制御することが出来ると同時に、価電子帯準位を制御できることを見出した。光触媒への光照射による水分解において、この半導体材料を光触媒として用いる場合には、この半導体材料がn型半導体であるため、酸素及び窒素のサイトを置換する炭素量を制御することで、水分解の酸素発生過電圧を自由に設計することが可能である。一般に、水分解反応は、水素発生過電圧よりも酸素発生過電圧の方が大きい。そのため、酸素発生過電圧を制御できることは、デバイス設計上有効であることを見出した。
【0050】
本実施形態の半導体材料は、上述のように可視光を吸収可能であり、また、そのバンドエッジが水の酸化還元電位を挟んでいる。本実施形態の半導体材料は、さらに、光照射時の水中での安定性にも優れている。よって、本実施形態の半導体材料を、電解質を含有する水に浸し、太陽光を照射して水を分解すれば、従来よりも高効率で水素を生成させることができる。
【0051】
そこで、本実施形態では、電解質及び水を含有する溶液に浸した上記の本実施形態の半導体材料に光を照射して前記水を分解する工程を含む水素の製造方法も、実現できる。
【0052】
本実施形態の製造方法は、公知の光触媒材料を上記の光触媒材料に置き換えて、公知方法(例えば、特許文献1、2参照)と同様にして実施することができる。具体例としては、以下の本実施形態の光水素発生デバイスを用いる方法が挙げられる。
【0053】
本実施形態の製造方法によれば、高効率で水素を生成することができる。
【0054】
本実施形態の光水素生成デバイスは、容器、光触媒材料を含む電極、及び対極を備えた光水素発生デバイスであって、当該光触媒材料が、上記の本実施形態の半導体材料を含む。本実施形態の水素発生デバイスの構成例を、
図15及び
図16に示す。
【0055】
水中でバルク状又は粉末状の半導体材料に光を照射すると、仮に水を分解して水素と酸素を生成したとしても、生成した水素と酸素のほとんどが瞬時に再結合し、水に戻ってしまう。そこで、水素と酸素を分離して生成させることが好ましい。そのため、光触媒材料を電極状に成形し、別途電気的に接続した対極を設けて水素と酸素の生成場所を分離することが好ましい。場合によっては、1枚の電極の片面から水素が発生し、反対の面から酸素が発生する構造であってもよい。
【0056】
図15の光水素生成デバイスは、容器9、光触媒電極2、導電基板1、及び対極3を備えている。容器9は、その上部に、水素及び酸素をそれぞれ捕集するための2つの開口部8を有している。また、その下部に、給水口となる2つの開口部8を有している。容器9内には、電解質及び水を含む溶液6が収容されている。また、水素と酸素の生成場所を分離するために、容器9は、光触媒電極2と対極3との間にセパレータ4を有している。セパレータ4は、イオンを透過させ、光触媒電極2側で発生したガスと対極3側で発生したガスとを遮断する機能を有する。容器9のうち、容器9内に配置された光触媒電極2の表面と対向する部分(光入射部5)は、太陽光などの光を透過させる材料で構成されている。光触媒電極2と対極3は、導線7により電気的に接続されている。
【0057】
光触媒電極2は、バンドギャップを有する半導体であるため、一般に金属などに比べると導電性が小さい。また、電子とホールの再結合を可能な限り防止する必要がある。そのため、光触媒電極2の厚みは薄くすることが好ましい。よってここでは、光触媒電極2は、導電基板1上に薄膜状(約50〜500nm程度)に形成される。また、光の吸収効率を上げるためには。光触媒電極2の表面積を大きくすることが好ましい。
【0058】
光触媒電極2は、高結晶性であることが好ましく、平滑な電極の場合には電極の厚み方向に、平滑ではない電極の場合には光励起により生成した電子やホールの移動方向と平行な方向に、結晶が配向した状態であることが好ましい。
【0059】
図16に示された別の光水素生成デバイスも、容器9、光触媒電極2、導電基板1、及び対極3を備えている(
図16において、同種の部材には
図15と同じ符号を用いる)。容器9は、4つの開口部8を有し、容器9内には、電解質及び水を含む溶液6が収容されている。導電基板1の一方の面に光触媒電極2が設けられ、もう一方の面に対極3が設けられている。光触媒電極2は、薄膜状(約50〜500nm程度)に形成される。光触媒電極2と対極3は、導電基板1によって電気的に接続されている。水素と酸素の生成場所を分離するために、容器9内は、セパレータ4及び導電基板1によって、光触媒電極2側と対極3側に分けられている。容器9のうち、容器9内に配置された光触媒電極2の表面と対向する部分(光入射部5)は、太陽光などの光を透過させる材料で構成されている。
【0060】
図15及び
図16に示した光水素生成デバイスに、光入射部5より光(例えば太陽光)を照射することにより、水素及び酸素を生成させることができる。特に、当該光水素生成デバイスでは、吸収可能な光の波長領域が長いため、高効率で水素を生成させることができる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0062】
<実施例1>
反応性スパッタにより、TaCNO(TaONの酸素又は窒素のサイトを炭素に置換した半導体)薄膜と、比較のためにTaONの半導体薄膜を、石英基板上に作製した。スパッタ成膜条件を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
図8は、TaNをスパッタターゲット(出発物質)に用いて、酸素と窒素の反応性スパッタにより作製したTaON薄膜の薄膜X線回折パターンを示す。基板の石英のハローピーク以外、ほぼ単相のTaON薄膜が得られていることが確認できた。また、
図9は、TaCをスパッタターゲットに用いて、酸素と窒素の反応性スパッタにより作製したTaCNO薄膜(TaONの酸素又は窒素のサイトが炭素で置換された材料からなる薄膜)の薄膜X線回折パターンである。同様に基板の石英のハローピーク以外、ほぼ単相のTaON薄膜が得られていることが確認できた。TaCNOについては、TaCをターゲットに用いているため、得られた薄膜の結晶系は単斜晶系のTaON単相であるが、炭素が微量残存し、酸素または窒素のサイトを置換していることが期待できる。また、800℃の高温でスパッタしていることから、一般的には炭素は素早く拡散して、欠陥状のドープではなく、酸素または窒素のサイトに置換しているはずである。
【0065】
図10は、TaONおよびTaCNO薄膜の深さ方向のSIMS分析結果である。1×10
23atoms/cm
3が約100at%(モル%)であるため、TaCNOの炭素含有率は、1.5〜1.0at%(モル%)であり、TaONの炭素含有率は、0.5〜0.3at%(モル%)であった。これにより、TaCNOの炭素含有率がTaONよりも優位の差で大きいことを見出した。
【0066】
図11は、石英基板上に成膜したTaON薄膜とTaCNO薄膜の光吸収特性の測定結果である。干渉縞が見られるが、干渉縞を除いた光吸収曲線の接線から、TaONのバンドギャップが500nm、TaCNOのバンドギャップが580nmであり、TaONの酸素または窒素のサイトが1.5〜1.0at%(モル%)の炭素で置換されることでバンドギャップが80nm長波長化することを見出した。
【0067】
また、同じ反応性スパッタの条件でグラッシーカーボン基板上に、TaONまたはTaCNOを成膜して動作極とした。導電性の前記グラッシーカーボンを集電体として対極である白金電極とリード線で結んだ。これら動作極及び対極を、0.1Mの硫酸水溶液中に浸漬して、TaONまたはTaCNO電極にプリズムを用いて分光したキセノンランプを照射して、900nm〜300nmの波長範囲で光電流の波長依存性を測定した。最大光電流が波長400nmにおいて2μA/cm
2であった。TaONは500nm以下の波長で、TaCNOは約600nm以下の波長で、光電流を観測できることを見出した。硫酸以外の物質が含まれていない水溶液中で光電流が観測されたことは、水分解反応が起こっていることを示している。電極の溶解反応ではないことを確認するため、2週間連続光照射を行ったが、その間で光電流に変化はなかった。試験後のTaONおよびTaCNOの薄膜X線回折結果からも、試験前からの変化は観測されなかった。また、4族元素および5族元素の酸化物、窒化物、酸窒化物は、アルカリ溶液中よりも酸性溶液中の方が安定であり、かつ金属元素の溶解度が小さい。そのため、耐久性を考慮すると、本発明の半導体材料は、中性〜酸性領域の水溶液中で使用することが望ましい。
【0068】
<実施例2>
反応性スパッタにより、NbCNO(NbONの酸素または窒素のサイトが炭素で置換された半導体材料)薄膜と、比較のためのNbON薄膜とを、石英基板上に作製した。スパッタ成膜条件を表2に示す。
【0069】
【表2】
【0070】
NbCNOの場合には、十分結晶化する温度まで基板温度を高くすると、Nb酸化物が出来やすかった。そのため、基板温度を300℃とした。NbON薄膜およびNbCNO薄膜の深さ方向のオージェ電子分光分析を実施したところ、NbON及びNbCNO共に、Nb:酸素:窒素=33〜36at%:33〜35at%:32〜34at%であった。NbONであれば、理想的にはNb:酸素:窒素=33.3at%:33.3at%:33.3at%のはずであるため、ほぼ単相のNbONおよびNbCNO薄膜が合成できていることを見出した。なお、オージェ電子分光分析では、微量炭素の分析が困難であるため、炭素の定量は別の測定で行った。
【0071】
図12は、NbON薄膜およびNbCNO薄膜の深さ方向のSIMS分析結果である。1×10
23atoms/cm
3が約100at%(モル%)であるため、NbCNOの炭素含有率は約3.5at%(モル%)であり、NbONの炭素含有率は約0.25at%(モル%)であった。これにより、NbCNOの炭素含有率がNbONよりも優位の差で大きいことを見出した。
【0072】
図13は、石英基板上に成膜したNbON薄膜とNbCNO薄膜の光吸収特性の測定結果である。干渉縞が見られるが、干渉縞を除いた光吸収曲線の接線から、NbONのバンドギャップが600nm、NbCNOのバンドギャップが720nmであり、NbONの酸素または窒素のサイトを約3.5at%(モル%)の炭素で置換することでバンドギャップが120nm長波長化することを見出した。
【0073】
また、同じ反応性スパッタの条件で、グラッシーカーボン基板上にNbONまたはNbCNOを成膜して動作極とした。導電性の前記グラッシーカーボンを集電体として対極である白金電極とリード線で結んだ。これら動作極及び対極を、0.1Mの硫酸水溶液中に浸漬して、NbONまたはNbCNO電極にプリズムを用いて分光したキセノンランプを照射して、900nm〜300nmの波長範囲で光電流の波長依存性を測定した。最大光電流が波長450nmにおいて11μA/cm
2ではあった。NbONは600nm以下の波長で、NbCNOは約720nm以下の波長で、光電流を観測できることを見出した。硫酸以外の物質が含まれていない水溶液中で光電流が観測されたことは、水分解反応が起こっていることを示している。電極の溶解反応ではないことを確認するため、2週間連続光照射を行ったが、その間光電流に変化はなかった。
【0074】
<実施例3>
実施例2で示したNbONおよびNbCNOが、単斜晶系のNbONを母相としていることを確認するため、反応性スパッタにより、スパッタ出力を小さくし成膜速度を落として、NbON薄膜を石英基板上に作製した。スパッタ成膜条件を表3に示す。
【0075】
【表3】
【0076】
NbONは未知材料であり、過去に単相合成に成功した報告例が無いため、X線回折の参照データが存在しない。そこで、NbONもTaONと同じ単斜晶系の結晶構造を有すると仮定し、TaONのTaと同じ座標にNb原子を配置し、第一原理計算により構造の最適化を行って、NbONの格子定数を算定した。確認のため、TaONについても、既知の結晶構造を用いて、第一原理計算により構造の最適化を行って、TaONの格子定数を算定した。その結果は、X線回折データーベースに存在する既報告の格子定数とよく一致した。一般に、第一原理計算による結晶格子定数は精度良く計算することが出来る。
図14は、NbNをスパッタターゲットに用い酸素と窒素の反応性スパッタにより作製したNbON薄膜の薄膜X線回折パターンである。基板の石英のハローピーク以外、ほぼ単相のNbON薄膜が得られていることが確認できた。
【0077】
また、同じ反応性スパッタの条件でグラッシーカーボン基板上に、NbONを成膜して動作極とし、導電性のグラッシーカーボンを集電体として対極である白金電極とリード線で結び、0.1Mの硫酸水溶液中に浸漬してNbON電極にプリズムを用いて分光したキセノンランプを照射して900nm〜300nmの範囲で光電流の波長依存性を測定した。最大光電流が波長450nmにおいて20μA/cm
2ではあったが、NbONは600nm以下の波長で光電流を観測できることを見出した。硫酸以外に含まれていない水溶液中で光電流が観測されたことは、水分解反応が起こっていることを示している。電極の溶解反応ではないことを確認するため、2週間連続光照射を行ったが、その間光電流に変化はなかった。
【0078】
本実施例においては、TaCNO及びNbCNOの作製には、それぞれ、TaC及びNbCをターゲットとする反応性スパッタ法を用いた。しかしながら、スパッタ、MOCVD及びプラズマCVDなどの公知の他の薄膜製造方法を用いてTaCNO及びNbCNOを作製してもよいし、また、予め作製したTaON薄膜及びNbON薄膜に、炭素のイオン注入などの公知の方法で炭素を注入して、それぞれTaCNO及びNbCNOを得る方法も採用できる。ここで、単にイオン注入しただけでは炭素がドープ状態であるため、例えば十分に酸素及び水分などの不純物を除去した窒素雰囲気中又はアンモニア雰囲気中などでの熱拡散処理などの方法によって、酸素または窒素のサイトに炭素を置換させることが望ましい。熱拡散処理は、用いる材料の結晶化最低温度まで昇温させれば、熱処理時間は装置の設定可能な範囲で最短の時間で十分である。
【0079】
前記半導体材料において炭素の含有量は、前記酸窒化物の結晶構造が変化することによって半導体機能が損なわれる量でない限り特に制限はない。第一原理計算の結果からは、炭素が置換するサイトによって異なるが、8.3at%(モル%)以下が好ましいことを見出した。第一原理計算の結果から、酸素または窒素と置換する炭素の量を8.3at%以下の範囲で制御することで、バンドギャップを調整できることを見出した。このとき、伝導帯を構成するd軌道の電子状態は、炭素置換によってもほとんど影響を受けないことを見出した。さらに、酸素または窒素のサイトを置換する炭素量を制御することによって、価電子帯準位を制御できることを見出した。これにより、例えば光触媒機能を利用して太陽光による水分解反応を行う際には、n型半導体の場合、価電子帯準位と酸素発生準位の差が、水電解反応などの電気化学的反応の際の過電圧に相当する。水分解反応は、一般に酸素発生側の方が律速であるため、炭素置換量を制御し価電子帯準位を制御することで、酸素発生過電圧を制御することが出来る。酸素発生過電圧が小さい(価電子帯準位が高い)場合には、単位電極面積あたりの光電流を大きくすることが出来ないため、デバイス化においては電極表面積を大きくして光電流を稼ぐ必要がある。しかしながら、電極作製プロセスによっては、電極の高表面積化にも限界がある。そのため、デバイスの電極作製プロセス由来で要求される電極表面積においても、十分大きな見かけの単位電極面積あたりの光電流を大きくするためには、酸素または窒素のサイトを置換する炭素量を制御するとよい。これにより、価電子帯準位が深くなり、結果としてバンドギャップが大きくなり太陽光利用効率が若干悪くなったとしても、酸素発生過電圧を確保する方がデバイス構成上有利な場合には、置換する炭素量を制御することによって価電子帯準位のバンド設計を行うことも可能である。
【0080】
また、第一原理計算の結果から、5族元素は最高価数である5価の場合にバンドギャップを有する半導体特性を示し、最高価数よりも価数が小さくなると伝導帯の電子の密度が増えて明確なバンドギャップを持たなくなることを見出した。そのため、本発明の半導体材料において、5族元素は実質的に5価(好ましくは4.8〜5価)であることが好ましい。また、4族元素は実質的に4価(好ましくは3.8〜4価)であることが望ましい。この理由は、例えばNbの場合には、伝導帯がNbのd軌道から構成されるため、d軌道の電子が空の状態である5価が望ましい。Nbのd軌道に電子が存在する3価の場合には、伝導帯に電子が存在するため、金属性の導電性を示し、バンドギャップを持たなくなることを第一原理計算により見出した。しかしながら、製造上不可避な欠陥などにより、5族元素は4.8価程度の価数を取る場合も存在する。この場合は欠陥に伴う欠陥準位が構成され、吸収波長端がブロードに観測される現象が起こり、バンドギャップ近辺の波長の吸収効率が若干低下するが、半導体特性に甚大な影響は及ぼさない。従って、本発明においては製造上不可避な欠陥による価数の減少は、5族元素の場合4.8価程度までは許容範囲である。言い換えると、5族元素が実質的に5価の状態であるとは、半導体特性に甚大な影響を及ぼさない範囲であれば5価近傍の価数も許容されることを意味しており、好ましくは4.8〜5価の状態にあることである。一方、4族元素が実質的に4価の状態であるとは、半導体特性に甚大な影響を及ぼさない範囲であれば4価近傍の価数も許容されることを意味しており、好ましくは3.8〜4価の状態にあることである。
【0081】
また、本実施例においては5族元素の酸窒化物の酸素または窒素のサイトを炭素で置換した例を示したが、4族元素のうち4価の中心金属元素からなる、例えばZr
2ON
2、Ti
2ON
2の酸素または窒素のサイトを炭素で置換しても、同じようにバンドギャップの長波長化効果が得られることも見出した。Zr
2ON
2、Ti
2ON
2の酸素または窒素のサイトを炭素で置換した場合も、単相であればアモルファス状態も許容できるが、結晶化した状態では立方晶であることが望ましい。