特許第5908002号(P5908002)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5908002ベニクスノキタケに含まれる化合物及びその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5908002
(24)【登録日】2016年4月1日
(45)【発行日】2016年4月26日
(54)【発明の名称】ベニクスノキタケに含まれる化合物及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C07C 49/753 20060101AFI20160412BHJP
   A61K 31/122 20060101ALI20160412BHJP
   A61K 31/22 20060101ALI20160412BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20160412BHJP
   C07C 69/16 20060101ALI20160412BHJP
【FI】
   C07C49/753 BCSP
   A61K31/122
   A61K31/22
   A61P35/00
   C07C69/16
【請求項の数】5
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-7022(P2014-7022)
(22)【出願日】2014年1月17日
(65)【公開番号】特開2014-181233(P2014-181233A)
(43)【公開日】2014年9月29日
【審査請求日】2014年1月17日
(31)【優先権主張番号】102109826
(32)【優先日】2013年3月20日
(33)【優先権主張国】TW
(31)【優先権主張番号】102116537
(32)【優先日】2013年5月9日
(33)【優先権主張国】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】514015075
【氏名又は名称】曽 卉菱
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】張 温良
(72)【発明者】
【氏名】姚 振文
(72)【発明者】
【氏名】嚴 逸▲ツォ▼
(72)【発明者】
【氏名】曽 卉菱
(72)【発明者】
【氏名】曽 泰霖
(72)【発明者】
【氏名】曽 宛平
(72)【発明者】
【氏名】郭 盈▲ユー▼
【審査官】 土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−102286(JP,A)
【文献】 特表2014−504256(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第02233463(EP,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0089627(US,A1)
【文献】 Tuzz-Ying Song,Antioxidant Properties of Antrodia camphorata in Submerged Culture,JOURNAL OF AGRICULTURAL AND FOOD CHEMISTRY,2002年,50 (11),P3322-3327
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 49/753
A61K 31/122
A61K 31/22
A61P 35/00
C07C 69/16
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベニクスノキタケに含まれる化合物において、該化合物は、式(I)で示され、
【化1】
そのうち、R1は、水素或いはアセチル基とされ、R2は
【化2】
或いは
【化3】
とされることを特徴とする、化合物。
【請求項2】
請求項1記載の化合物において、該化合物のR1は水素、R2は
【化4】
とされ、該化合物は、以下の式(II)、
【化5】
で表されることを特徴とする、化合物。
【請求項3】
請求項1記載の化合物において、該化合物のR1はアセチル基、R2は
【化6】
とされ、該化合物は、以下の式(III)、
【化7】
で表されることを特徴とする、化合物。
【請求項4】
請求項1記載の化合物において、該化合物のR1は水素、R2は
【化8】
とされ、該化合物は、以下の式(IV)、
【化9】
で表されることを特徴とする、化合物。
【請求項5】
請求項1記載の化合物において、腫瘍生長抑制の用途に用いられ、該腫瘍は、肺腺ガン、結腸ガン、前立腺ガン、肝ガン及び乳ガンのいずれかとされることを特徴とする、化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はベニクスノキタケに含まれる化合物及びその用途に係り、特に、該化合物及び抽出物の、腫瘍生長抑制への応用の用途に関する。
【背景技術】
【0002】
ベニクスノキタケは、[学名]アントロディア カンフォラータ(Antrodia Camphorata)、樟芝(ショウシバ)、牛樟茸(ギュウショウタケ)或いは牛樟芝(ギュウショウシバ)とも言われ、平はら茸目(Aphyllophorales)、多孔菌科(Polyporaceae)の多年生の茸であり、台湾固有の菌類であり、台湾の保護樹木種である牛樟(Cinnamomumkanehirai Hay)の樹洞の内壁または牛樟の枯れて腐った幹の湿った表面にしか寄生しない。牛樟の分布数量は希少であり、さらに人為的な盗伐もあって、それに寄生しなければ生長できない野生のベニクスノキタケの数量はさらに希少となっており、且つその子実体の生長は相当に緩慢であり、また、生長期も僅かに6月から10月の間であり、このため、価格は非常に高価である。
【0003】
ベニクスノキタケの子実体は多年生であり、無柄で、コルク質から木質を呈し、それは強烈な牛樟の芳香を有し、且つ形態は多様に変化し、板状、鐘状、馬蹄状、或いはタワー状がある。生長初期には扁平な形状で鮮紅色を呈するが、その後、その周辺が放射状に反り返って丸まり、並びに周囲に向けて拡張生長し、色も淡紅褐色或いは淡黄褐色に変わり、並びに多くの小孔を有し、且つそれはベニクスノキタケの薬用価値が最も豊富な部分である。
【0004】
台湾民間医学では、ベニクスノキタケは解毒、下痢、嘔吐症状の軽減、消炎、肝臓関係疾病の治療及び抗ガン等の作用を有すると考えられている。ベニクスノキタケは一般の食用、薬用の茸類と同様に、多くの複雑な成分を有しており、既知の生理活性成分には、トリテルペノイド(triterpenoides)、多糖体(polysaccharides,たとえば、β−Dグルカン)、アデノシン(adenosine)、ビタミン(たとえばビタミンB、ニコチン酸)、タンパク質(免疫グロブリンを含む)、スーパー・オキサイド・ディスムターゼ(superoxide dismutase,SOD)、微量元素(たとえば、カルシウム、リン、ゲルマニウム)、核酸、ステロール、及び血圧安定物質(たとえば、アントディア酸)等がある。これらの生理活性成分は、抗腫瘍、免疫力増強、抗アレルギー、抗病原菌、抗高血圧、血糖値を下げる及びコレステロール値を下げる等の多くの効果を有することが知られている。
【0005】
ベニクスノキタケの多くの成分中、トリテルペン類化合物は最も多く研究されており、トリテルペン類化合物は三十個の炭素元素が結合してなる六角形或いは五角形の天然化合物の総称であり、ベニクスノキタケの有する苦みは、トリテルペン類由来である。1995年に、Cherng氏等は、ベニクスノキタケ子実体抽出物中に、三種類の新規なエルゴスタン(ergostane)を骨格とするトリテルペン類化合物、すなわち、アントシンA(antcin A)、アントシンB(antcin B)、アントシンC(antcin C)が含有されることを発見した(非特許文献1)。Chen氏等は、エタノールでベニクスノキタケ子実体を抽出した後に、zhankuic acid A、zhankuic acid B、zhankuic acid Cの三種類のトリテルペン類化合物を発見した(非特許文献2)。このほか、Chiang氏等は、1995年に、子実体抽出物中に、このほかの三種類の、それぞれセスキテルペンラクトン類 (sesquiterpene lactones) と二種類のビスフェノール誘導体とされる新たなトリテルペン類化合物を発見し、これはすなわち、アントロシン(antrocin)、4,7−ジメトキシ−5−メチル−1,3−ベンゾジオクソール(4,7−dimethoxy −5−methyl−1,3−benzodioxole)、及び2,2',5,5'−テラメトキシ−3,4,3',4'−バイ−メチレンジオキシ−6,6'−ジメチルビフェニル(2,2',5,5'−teramethoxy−3,4,3',4'−bi−methylenedioxy−6,6'−dimethylbiphonyl)である(非特許文献3)。1996年には、Cherng氏等は、同様の分析方法で、再度4種類の新たなトリテルペン類化合物、すなわち、アントシンE(antcin
E)、アントシンF(antcin F)、メチルアントシネートG(methyl antocinate G)、メチルアントシネートH(methyl antocinate H)を発見した(非特許文献4)。Yang氏等は、二種類のエルゴスタン(ergostane)を骨格とする新規な化合物zhankuic acid D、zhankuic acid E、及び3種類のラノスタン(lanostane)を骨格とする新規な化合物、すなわち、15α−アセチル−デハイドラサルファレニック酸(15α−acetyl−dehydrasulphurenic acid)、デハイドロエブリコイック酸(dehydroeburicoic acid)、及びデハイドラサルファレニック酸(dehydrasulphurenic acid)を発見した(非特許文献5)。そのうち、ある成分は、続いてAMPK及びTORメッセージ伝達経路に対して重要な役割を果たす可能性があることが発見され、AMPKの活性化及びmTORシグナル伝達転写翻訳経路に対する抑制により、ガン細胞サイクル中G1期に対する良好なコントロールを達成し、完全にガン細胞サイクルの進展を遮断し、一連のガン細胞のアポトーシスを形成する。
【0006】
現在、多くの実験より、ベニクスノキタケ抽出物は、前述の効果を有することがわかっており、且つその含有する成分もまた、続々と分析されている。しかし、ベニクスノキタケ抽出物中に、その他の、抗ガン活性を有するか或いはその他の医療用途の化合物は発見されておらず、更なる実験研究が待たれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Cherng, I.H., and Chiang, H.C. 1995. Three new triterpenoids from Antrodia cinnamomea. J. Nat. Prod.58:365-371
【非特許文献2】Chen,C.H.,and Yang, S.W.1995. New steroid acids from Antrodia cinnamomea,-a fungus parasitic on Cinnamomum micranthum. J.Nat. Prod.58:1655-1661
【非特許文献3】Chen,C.H.,Wu, D.P., Cherng, I.W., and Ueng,C.H. 1995. A sesquiterpene lactone, phenyl and biphenyl compounds from Antrodia cinnamomea. Phytochemistry 39:613-616
【非特許文献4】Cherng,I.H., Wu,D.P., and Chiang,H.C. 1996. Triteroenoids from Antrodia cinnamomea. Phytochemistry. 41:263-267
【非特許文献5】Yang,S.W., Shen,Y.C., and Chen,C.H. 1996. Steroids and triterpenoids of Antrodia cinnamomea -a fungus parasitic on Cinnamomum micranthum. Phytochemistry.41:1389-1392
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の一つの目的は、ベニクスノキタケに含まれる式(I)で示される化合物を提供することにある。
【0009】
【化1】
【0010】
そのうち、R1は、水素或いはアセチル基とされ、R2は
【0011】
【化2】
或いは
【0012】
【化3】
とされる。
【0013】
好ましくは、そのうちの該化合物のR1は水素、R2は
【0014】
【化4】
とされ、それは式(II)で表示される。
【0015】
【化5】
【0016】
好ましくは、そのうち該化合物のR1はアセチル基、R2は
【0017】
【化6】
とされ、それは、式(III)で表示される。
【0018】
【化7】
【0019】
好ましくは、そのうち該化合物のR1は水素、R2は
【0020】
【化8】
とされ、それは、式(IV)で表示される。
【0021】
【化9】
【0022】
本発明のまた一つの目的は、上述の化合物の腫瘍生長抑制における用途を提供することにあり、そのうち、該腫瘍は、肺腺ガン、結腸ガン、前立腺ガン、及び肝ガンのいずれかとされる。
【0023】
本発明のもう一つの目的は、一種のベニクスノキタケより抽出した抽出物を提供することにあり、該抽出物は、以下のステップにより抽出されて得られる。すなわち、ベニクスノキタケ菌糸体、子実体或いはそれらの混合物を、10倍量のアルコールで二回抽出した後、合併して濃縮し粗抽出物を得て、該粗抽出物をジクロルメタン/水(1:1)で分配抽出を3回行ない、これによりジクロルメタン層及び水層に分け、ジクロルメタン層を取り出してシリカゲルカラムクロマトグラフィーでn−ヘキサン/ジクロルメタン(1:4)、ジクロルメタン、メタノール/ジクロルメタン(5:95)の溶媒で分離して該抽出物を得る。
【課題を解決するための手段】
【0024】
請求項1の発明は、ベニクスノキタケに含まれる化合物において、該化合物は、式(I)で示され、
【0025】
【化10】
そのうち、R1は、水素或いはアセチル基とされ、R2は
【0026】
【化11】
或いは
【0027】
【化12】
とされることを特徴とする、化合物としている。
【0028】
請求項2の発明は、請求項1記載の化合物において、該化合物のR1は水素、R2は
【0029】
【化13】
とされ、該化合物は、以下の式(II)、
【0030】
【化14】
で表されることを特徴とする、化合物としている。
【0031】
請求項3の発明は、請求項1記載の化合物において、該化合物のR1はアセチル基、R2は
【0032】
【化15】
とされ、該化合物は、以下の式(III)、
【0033】
【化16】
で表されることを特徴とする、化合物としている。
【0034】
請求項4の発明は、請求項1記載の化合物において、該化合物のR1は水素、R2は
【0035】
【化17】
とされ、該化合物は、以下の式(IV)、
【0036】
【化18】
で表されることを特徴とする、化合物としている。
【0037】
請求項5の発明は、請求項1記載の化合物において、腫瘍生長抑制の用途に用いられ、該腫瘍は、肺腺ガン、結腸ガン、前立腺ガン、肝ガン及び乳ガンのいずれかとされることを特徴とする、化合物としている。
【発明の効果】
【0038】
これにより、本発明の新化合物アントロカモール LT1(Antrocamol LT1)、アントロカモール LT2(Antrocamol LT2)、とANCA−E、ANCA−E−D、及び、ANCA−E−D−3等の抽出物は、肺腺ガン、結腸ガン、前立腺ガン、及び肝ガン及び乳ガンに対して頗る良好な抗ガン活性を有し、アントロカモール LT3はすなわち、腺ガン、結腸ガン、前立腺ガン、及び肝ガンに対して頗る良好な抗ガン活性を有する。これにより、これら化合物及び抽出物は腫瘍生長抑制の用途に用いられ得て、並びにさらに抗ガン薬剤へと発展させられる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本発明のアントロカモール LT1(Antrocamol LT1)の構造鑑定結果である。
図2】本発明のアントロカモール LT1(Antrocamol LT1)の構造鑑定結果である。
図3】本発明のアントロカモール LT1(Antrocamol LT1)の構造鑑定結果である。
図4】本発明のアントロカモール LT2(Antrocamol LT2)の構造鑑定結果である。
図5】本発明のアントロカモール LT2(Antrocamol LT2)の構造鑑定結果である。
図6】本発明のアントロカモール LT2(Antrocamol LT2)の構造鑑定結果である。
図7】本発明のアントロカモール LT3(Antrocamol LT3)の構造鑑定結果である。
図8】本発明のアントロカモール LT3(Antrocamol LT3)の構造鑑定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
<ベニクスノキタケ成分の抽出>
ベニクスノキタケ(アントロディア カンフォラータ,Antrodia Camphorata)菌糸体、子実体或いは両者の混合物1.0kgを、10倍量のアルコールで2回抽出し、合併濃縮して粗抽出物約230g(LT−E)を得る。粗抽出物を、ジクロルメタン/水(1:1)で三回分配抽出し、ジクロルメタン層約102.6g(LT−E−D)及び水層約127.4g(LT−E−W)を得る。ジクロルメタン層6.0gを取り、シリカゲルカラムクロマトグラフィーでn−ヘキサン/ジクロルメタン(1:4)、ジクロルメタン、メタノール/ジクロルメタン(5:95)の溶媒で分離し、ANCA−E−D−1、ANCA−E−D−2、ANCA−E−D−3、ANCA−E−D−4の4層に分ける。
【0041】
<ベニクスノキタケ抽出物の抗ガン活性>
それぞれA549細胞株(肺腺ガン)、CT26細胞株(結腸ガン)、DU145細胞株(前立腺ガン)、HepG2細胞株(肝ガン)、MDCK細胞株(腎ガン)、PC3細胞株(前立腺ガン)、MDA−MB−231細胞株(乳ガン)、MCF−7細胞株(乳ガン)に対して、細胞生存試験(MTT cell viability assay)を行ない、結果は以下の表1〜8に示す。
【0042】
上述の細胞株を、それぞれ適当な培養液中で24時間培養する。増生後の細胞を、PBSで一度洗浄し、並びに一倍のトリプシン−EDTAで細胞を処理し、その後、1200rpmで5分間遠心分離し、細胞を沈殿させて上澄み液を捨てる。その後、10mlの新培養液を加え、軽く揺すって細胞を再度懸濁させ、さらに細胞を96孔マイクロプレート内に分けて置く。試験時には、各孔内にそれぞれ0.01〜200μg/mlのベニクスノキタケ抽出物を加え、37℃、5%のCO2 下で48時間培養する。その後、遮光の環境下で、各孔内に2.5mg/mlのMTTを加え、4時間反応させた後、さらに各孔内に100μlのlysis bufferを入れて反応を終了する。最後に、酵素免疫測定装置で570nm吸光波長下で、その吸光値を測定し、これにより細胞の生存率を計算し、並びにその50%阻害濃度(すなわちIC50値)を推算し、全ての実験データはいずれも平均値±標準誤差で表示する。実験データはペアt検定(paired−t test)で統計分析を行なう。p値が0.05より小さいのは統計学上の差異と見なされる。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
【表3】
【0046】
【表4】
【0047】
【表5】
【0048】
【表6】
【0049】
【表7】
【0050】
【表8】
【0051】
表1〜8中、0〜25%の細胞が生存すれば:+/−、25〜50%の細胞が生存すれば:+、50〜75%の細胞が生存すれば:++、75〜100%の細胞が生存すれば:+++、100%より多くの細胞が生存すれば:++++と表示する。溶剤はDMSOとされ、そのIC50は2.34%であり、薬物のDMSOに希釈する含有量が2.34%とされる時、細胞の50%の死亡をもたらし得て、ここでは薬物を100μg/mlのDMSOに希釈する含有量は0.5%とされる。ANCA−E、ANCA−E−W、ANCA−E−D−1、ANCA−E−D−2、ANCA−E−D−3、ANCA−E−D−4はそれぞれ異なるベニクスノキタケ抽出物である。
【0052】
以上の各表の結果は、そのうちのANCA−E−D−2、ANCA−E−D−3、ANCA−E−D−4は各種の異なるガン細胞の生長に対して比較的良好な抑制効果を有することを示している。たとえば、そのうち、ANCA−E−D−2及びANCA−E−D−3は、A549細胞株(肺腺ガン)、CT26細胞株(結腸ガン)、DU145細胞株(前立腺ガン)、HepG2細胞株(肝ガン)、MDCK細胞株(腎ガン)、PC3細胞株(前立腺ガン)、MDA−MB−231細胞株(乳ガン)、MCF−7細胞株(乳ガン)に対して、その他のグループと比較すると、相対的に比較的良好な抑制効果を有している。ANCA−E−D−4はANCA−E−D−2及びANCA−E−D−3よりもやや低いものの、各種の腫瘍細胞に対して、一定の抑制効果を有している。これにより、これら抽出物は、肺腺ガン、結腸ガン、前立腺ガン、及び肝ガン及び乳ガンのいずれかの腫瘍生長抑制の用途に用いられ得て、並びにさらに、そのうちの有効な単一成分を純化することができる。
【0053】
<ベニクスノキタケ抽出物よりアントロカモール LT1(Antrocamol LT1)、アントロカモール LT2(Antrocamol LT2)、及びアントロカモール LT3(AntrocamolLT3)を製造する>
上述の結果により、ANCA−E−D−2及びANCA−E−D−3に対して、さらに純化を行ない、ANCA−E−D−3層に対して、C18逆相カラムクロマトグラフィーを行ない、80%MeOH/H2Oで、18.75分付近で、
新規な化合物 アントロカモール LT1(Antrocamol LT1)約150mgを得て、
ANCA−E−D−2層に対して、C18逆相カラムクロマトグラフィーを行ない、80%MeOH/H2Oで、25.10分付近で、
別の新規な化合物 アントロカモール LT2(Antrocamol LT2)約170mgを得て、 80%MeOH/H2Oで、14.5分でアントロカモール LT3(1)(Antrocamol LT3)約180mgを得た。
【0054】
アントロカモール LT1(Antrocamol LT1)の構造鑑定結果は以下のとおりである。
アントロカモール LT1(Antrocamol LT1)は無色の液体産物であり、分析の結果、該化合物の分子式はC24385、分子量は406であり、完全な名称は、4-ヒドロキシ-5-[9-ヒドロキシ-3,7,11-トリメチルドデカ-2,6,10-トリエニル]-2,3-ジメトキシ-6-メチル-シクロヘックス-2-エノン (4-hydroxy-5-[9-hydroxy-3,7,11-trimethyldodeca-2,6,10-trienyl]-2,3-dimethoxy-6-methyl-cyclohex-2-enone)であり、その構造式は、以下の式(II)に示されるとおりである。
【0055】
【化19】
【0056】
アントロカモール LT1(Antrocamol LT1)構造鑑定データ(図1図3):
1H−NMR(400 MHz,CDCl3):δ1.12(3H,d,J=7.2Hz),1.61(3H,s),1.64(3H,s),1.66(3H,s),1.68(3H,s),1.72(1H,m),1.98−2.30(8H),2.51(1H,dq,J=11.6,7.2Hz),3.62(3H,s),4.02(3H,s),4.33(1H,d,J=2.8Hz),4.35(1H,dt,J=9.2,4.0Hz),5.09(1H,d,J=8.4Hz),5.14(1H,t,J=7.2Hz),5.15(1H,t,J=7.2Hz),13C−NMR(100 MHz,CDCl3):δ12.17(q),15.95(q),16.19(q),18.13(q),25.72(q),25.93(t),26.78(t),39.41(t),39.98(d),43.29(d),47.94(t),58.81(q),60.48(q),65.35(d),67.24(d),121.64(d),127.64(d),128.42(d),132.03(s),134.99(s),135.97(s),137.42(s),160.82(s),197.15(s)。
【0057】
アントロカモール LT2(Antrocamol LT2 )は無色の液体産物であり、分析の結果、該化合物の分子式はC26406、分子量は448であり、完全な名称は、4-アセトキシ-5-[9-ヒドロキシ-3,7,11-トリメチルドデカ-2,6,10-トリエニル]-2,3-ジメトキシ-6-メチル-シクロヘックス-2-エノン (4-acetoxy-5-[9-hydroxy-3,7,11-trimethyldodeca-2,6,10-trienyl]-2,3-dimethoxy-6-methyl-cyclohex-2-enone)であり、その構造式は、以下の式(III)に示されるとおりである。
【0058】
【化20】
【0059】
アントロカモール LT2(Antrocamol LT2)構造鑑定データ(図4図6):
1H−NMR(400 MHz,CDCl3):δ1.18(3H,d,J=7.2Hz),1.54(3H,s),1.64(3H,s),1.67(3H,s),1.69(3H,s),1.72(1H,m),1.80−2.40(8H),2.50(1H,dq,J=11.6,7.2Hz),3.65(3H,s),3.98(3H,s),4.36(1H,m),5.10(1H,t,J=6.8Hz),5.12(1H,d,J=8.0Hz),5.20(1H,t,J=6.4Hz),5.72(1H,t,J=3.2Hz),13C−NMR(100 MHz,CDCl3):δ12.80(q),15.96(q),16.09(q),18.14(q),20.93(q),25.72(q),26.19(t),26.76(t),39.47(t),41.25(d),42.98(t),48.12(t),59.65(q),60.67(q),65.53(d),68.98(d),120.74(d),127.42(d),128.25(d),131.74(s),134.70(s),137.31(s),137.56(s),158.21(s),169.73(s),196.84(s)。
【0060】
アントロカモール LT3(Antrocamol LT3 )は無色の液体産物であり、分析の結果、該化合物の分子式はC24385、分子量は406であり、完全な名称は、(4R,5R,6R)-4-ヒドロキシ-5-[(2E,6E,9E)-11-ヒドロキシ-3,7,11-トリメチルドデカ-2,6,9-トリエニル]-2,3-ジメトキシ-6-メチル-シクロヘックス-2-エノン)((4R,5R,6R)-4-hydroxy-5-[(2E,6E,9E)-11-hydroxy-3,7,11-trimethyldodeca-2,6,9-trienyl]-2,3-dimethoxy-6-methyl-cyclohex-2-enone)であり、その構造式は、以下の式(IV)に示されるとおりである。
【0061】
【化21】
【0062】
アントロカモール LT3(Antrocamol LT3 )構造鑑定データ(図7図8):
1H−NMR(400 MHz,CDCl3):δ1.14(3H,d,J=7.2Hz),1.29(6H,s),1.56(3H,s),1.63(3H,s),1.70(1H,m),2.02(2H,m),2.08(2H,t,J=6.4Hz),2.21(2H,t,J=7.6Hz),2.51(1H,dq,J=11.2,7.2Hz),2.64(1H,d,J=5.2Hz),3.64(3H,s),4.05(3H,s),4.32(1H,d,J=3.2Hz),5.08(1H,t,J=6.8Hz),5.14(1H,t,J=6.4Hz),5.57(2H,m);13C−NMR(100 MHz,CDCl3):δ12.32(q),16.14(q),16.14(q),26.35(t),26.95(t),29.85(q),39.63(t),40.24(d),42.20(t),43.40(d),52.29(q),60.59(q),67.88(d),70.76(d),121.14(d),124.78(d),125.22(d),134.04(s),135.84(s),137.77(s),139.17(d),160.59(s),197.21(s)。
【0063】
以上のアントロカモール LT1(Antrocamol LT1)、アントロカモール LT2(Antrocamol LT2)、及びアントロカモール LT3(Antrocamol LT3)は互いに似た構
造を有し、その一般式は、以下の式(I)のように表される。
【0064】
【化22】
【0065】
そのうち、R1は、水素或いはアセチル基とされ、R2は
【0066】
【化23】
或いは
【0067】
【化24】
とされる。
【0068】
上述の各抽出物及び化合物は、前述の実験方法により、細胞生存試験(MTT cell viability assay)を行ない、分析装置を利用して570nm吸光波長下で、その吸光値を測定し、これにより細胞の生存率を計算し、並びにその50%阻害濃度(すなわちIC50値)を推算し、アントロカモール LT1(Antrocamol LT1)、アントロカモール LT2(Antrocamol LT2)、及びアントロカモール LT3(Antrocamol LT3)の抗ガン活性を測定し、並びにANCA−E、ANCA−E−D、及びANCA−E−D−3と比較する。全ての実験データはいずれも平均値±標準誤差で表示する。実験データはペアt検定(paired−t test)で統計分析する。p値が0.05より小さいのは統計学上の差異と見なされる。並びにその50%阻害濃度(IC50)は、以下の表9のように整理される。
【0069】
【表9】
【0070】
IC50は半分抑制される時の抑制剤の濃度を指す。IC50値は、通常、薬物誘導細胞アポトーシスの能力をバランシングするのに用いられ、すわなち、誘導能力が強いほど、数値は低くなる。表中の結果から、新化合物アントロカモール LT1(Antrocamol LT1)、アントロカモール LT2(Antrocamol LT2)、とANCA−E、ANCA−E−D、及び、ANCA−E−D−3等の抽出物は、肺腺ガン、結腸ガン、前立腺ガン、肝ガン及び乳ガンに対して頗る良好な抗ガン活性を有し、アントロカモール LT3はすなわち、腺ガン、結腸ガン、前立腺ガン、及び肝ガンに対して頗る良好な抗ガン活性を有する。これにより、これら化合物及び抽出物は腫瘍生長抑制の用途に用いられ得て、並びにさらに抗ガン薬剤へと発展させられる。
【0071】
本発明の提供する、ベニクスノキタケに含まれる化合物及びその用途は、確実に産業上の利用価値を有する。しかし、以上に記述したことは、本発明の好ましい実施例の説明にすぎず、並びに本発明を限定するものではなく、本発明に提示の精神より逸脱せずに完成されるその他の同等の効果の修飾或いは置換は、いずれも本発明の権利請求範囲内に属する。
図1
図2
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図4
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図8