【実施例】
【0058】
実験A
酢酸メチル(48.05g)と酢酸(48.42g)と酢酸ルテニウム溶液(12.28g)と水(13.86g)と沃化メチル(13.31g)とが充填されたオートクレーブでベースライン実験を行った。触媒溶液はイリジウム溶液(5.25重量%Ir)と酢酸(8.71g)とで構成した。イリジウムとルテニウムとの大凡の比は1:4とした。一酸化炭素吸収に基づく反応の速度は11%酢酸メチルの計算反応組成にて19.6モル/リットル/hであると測定され、実質上全ての酢酸メチルが消費されるまで絶えず低下した。酢酸の変換率は消費酢酸メチルに基づき99.66%であった。プロパン酸先駆体の分析は467.8ppmの全プロパン酸生成を示した。体温排気オフガスにおけるガス副生物はH
2(3.6ミリモル)とCO
2(8.0ミリモル)とCH
4(12.6ミリモル)とであった。冷却反応混合物は明瞭に観察しうる量の固形分を示した。これら結果を表1に示す。
【0059】
実施例1
酢酸メチル(48.05g)と酢酸(57.2g)と酢酸ルテニウム溶液(12.2g)と水(13.83g)と沃化メチル(13.34g)と妖化リチウム(0.11g)とが充填されたオートクレーブにて実験Aを反復した。触媒溶液はイリジウム溶液(5.25重量%Ir)で構成した。酢酸への変換率は消費酢酸メチルに基づき98.58%であった。冷却反応混合物には7日後でも沈殿物は観察されなかった。その結果を表1に示す。
【0060】
実施例2
酢酸メチル(48.05g)と酢酸(57.2g)と酢酸ルテニウム溶液(12.2g)と水(13.83g)と沃化メチル(13.34g)と妖化リチウム(0.0561g)とが充填されたオートクレーブにて実験Aを反復した。触媒溶液はイリジウム溶液(5.25重量%Ir)で構成した。酢酸への変換率は消費酢酸メチルに基づき98.94%であった。数日後でさえ冷却反応混合物には沈殿物が観察されなかった。その結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
表1から見られるように、沃化物化合物は触媒系に対し顕著な可溶化作用を有し、カルボニル化速度における顕著な低下が生じなかった。
【0063】
実験B
酢酸メチル(48.06g)と酢酸(58.03g)と酢酸ルテニウム溶液(24.35g)と水(12.01g)と沃化メチル(13.30g)とが充填されたオートクレーブにてベースライン実験を行った。触媒溶液はイリジウム溶液(5.25重量%Ir)で構成した。一酸化炭素吸収に基づく反応の速度は11%酢酸メチルの計算反応組成にて22.2モル/リットル/hであると測定され、実質上全ての酢酸メチルが消費されるまで着実に減少した。酢酸への変換率は消費酢酸メチルに基づき98.80%であった。プロピオン酸先駆体の分析は399.7ppmの全プロピオン酸生成を与えた。冷却反応混合物は著量の明瞭な可視沈殿物を示した。その結果を表2に示す。
【0064】
実施例3
酢酸メチル(48.14g)と酢酸(58.08g)と酢酸ルテニウム溶液(24.34g)と水(12.00g)と沃化メチル(13.33g)と沃化リチウム(0.1076g)とが充填されたオートクレーブにて実験Bを反復した。酢酸への変換率は酢酸メチル消費に基づき98.55%であった。数日後でさえ冷却反応混合物には沈殿物が観察されなかった。その結果を表2に示す。
【0065】
実施例4
酢酸メチル(48.13g)と酢酸(58.02g)と酢酸ルテニウム溶液(24.35g)と水(12.02g)と沃化メチル(13.30g)と沃化リチウム(0.052g)とが充填されたオートクレーブにて実験Bを反復した。触媒溶液はイリジウム溶液(5.25重量%Ir)で構成した。酢酸への変換率は消費酢酸メチルに基づき98.63%であった。数日後でさえ冷却反応混合物には沈殿物が観察されなかった。その結果を表2に示す。
【0066】
実施例5
酢酸メチル(48.01g)と酢酸(58.03g)と酢酸ルテニウム溶液(24.34g)と水(12.05g)と沃化メチル(13.34g)と沃化リチウム(0.0333g)とが充填されたオートクレーブにて実験Bを反復した。触媒溶液はイリジウム溶液(5.25重量%Ir)で構成した。酢酸への変換率は消費酢酸メチルに基づき98.81%であった。数日後でさえ冷却反応混合物には沈殿物が観察されなかった。その結果を表2に示す。
【0067】
実施例6
酢酸メチル(48.04g)と酢酸(58.03g)と酢酸ルテニウム溶液(24.37g)と水(12.45g)と沃化メチル(13.34g)と沃化リチウム(0.0115g)とが充填されたオートクレーブにて実験Bを反復した。触媒溶液はイリジウム溶液(5.25重量%Ir)で構成した。酢酸への変換率は消費酢酸メチルに基づき98.50%であった。冷却反応混合物は僅かに濁ったが、固形物は肉眼検出されなかった。その結果を表2に示す。
【0068】
実施例7
酢酸メチル(48.03g)と酢酸(46.79g)と酢酸ルテニウム溶液(24.39g)と水(12.51g)と沃化メチル(13.31g)と酢酸マグネシウム四水塩(0.114g)とが充填されたオートクレーブにて実験Bを反復した。触媒溶液はイリジウム溶液(5.25重量%Ir)で構成した。酢酸への変換率は消費酢酸メチルに基づき99.2%であった。冷却反応混合物は僅かに濁ったが、固形物は肉眼検出されなかった。その結果を表2に示す。
【0069】
【表2】
【0070】
表2から見られるように、実施例3〜7にて沃化物化合物の添加は触媒系に対し顕著な安定化作用を有する。更に、安定化用化合物を添加しなかった実験AおよびBと比較して、反応速度における顕著な減少は存在しなかった。実施例6にて、沃化リチウムをLi:Irのモル比0.05:1で用いた場合、触媒系に対する安定化作用も得られたが、この作用はより高いLi:Ir比におけるよりも顕著でなかった。実施例7は、カルボニル化反応にて沃化物化合物を発生しうる化合物(この場合は酢酸マグネシウム)の使用が触媒系に対し顕著な安定化作用を有することを示す。
【0071】
実験C〜Gおよび実施例8〜23の一般的実験方法
使用した装置を
図1に示す。
図1を参照して、装置は攪拌一次カルボニル化反応器(1)と二次カルボニル化反応器(2)とフラッシュタンク(3)と蒸留カラム(図示せず)とで構成した。
【0072】
オフガスを洗浄すべく使用した市販級メタノールを6リットル一次反応器(1)にてイリジウムカルボニル化触媒およびルテニウム促進剤の存在下に2.76x10
6N/m
2の圧力および190℃の温度にてカルボニル化した。一次反応器(1)には撹拌器/プロペラ(4)およびバッフルケージ(図示せず)を装着して、液体反応体と気体反応体との緊密混合を確保した。一酸化炭素を、撹拌器(4)の下に装着されたスパージ(5)を介し一次反応器(1)に供給した。一次反応器(1)への鉄侵食を最少化するため、一酸化炭素をカーボンフィルタ(図示せず)に通過させた。熱油を循環させるジャケット(図示せず)は、一次反応器(1)における反応液を一定反応温度に維持することができた。液体反応組成物を近赤外分析およびガスクロマトグラフィーにより分析した。不活性物をパージするため、高圧オフガスを一次反応器(1)からライン(6)を通して除去した。これを凝縮器(図示せず)に通過させた後、圧力を弁(7)を介し低下させると共に、これを洗浄システムに供給すべく低圧オフガスと混合した。液体反応組成物を一次反応器(1)からスチルウェル(8)を下降し第2反応器(2)を介しおよび次いでライン(9)を介して反応器レベル制御の下でフラッシュタンク(3)中へ抜き取った。フラッシュタンク(3)にて、液体反応組成物を1.48x10
5N/m
2の圧力までフラッシュ効果させた。得られた蒸気と液体との混合物を分離した。触媒リッチな液体をライン(10)およびポンプ(図示せず)により一次反応器(1)まで戻すと共に、蒸気をデミスタ(12)に通過させ、次いで蒸気として蒸留カラム(図示せず)に直接導入した。
【0073】
二次反応器(2)は直径2.5cm、長さ30cmのパイプで構成すると共に、連携した配管と共に一次反応器(1)の約8%の容積を有した。このパイプをフラッシュライン(9)に並列配置すると共に、ライン(14)を介し追加一酸化炭素の供給部を設けた。二次反応器(2)を一次反応器(1)とほぼ同じ圧力にて操作した。
【0074】
デミスタ(12)からの蒸気を蒸留カラム(図示せず)に流入させ、ここで酢酸を蒸気から回収すると共に一酸化炭素からなる低圧オフガスを排気する前に洗浄器(図示せず)に移した。
【0075】
触媒沈殿の程度を近赤外分光光度法により液体反応組成物と一緒に測定した。ベースライン吸光度(1日当たりの吸光単位(au/1日)にて測定)における増大は沈殿の量に直接相関することが判明した。
【0076】
実験C
図1を参照して説明した装置および方法を使用し、メタノールを一次反応器(1)にて20モル/リットル/hの速度(低温脱ガス反応容積に基づく)でカルボニル化させた。一次反応器(1)における液体反応組成物は約7重量%の沃化メチルと12重量%の酢酸メチルと5重量%の水と約76重量%の酢酸と1250ppmのイリジウムと2720ppmのルテニウムとで構成した。液体反応組成物を第2反応器(2)にて190℃の緩和な温度および約27x10
5N/m
2の圧力で40〜60秒の滞留時間により更にカルボニル化させた。
【0077】
追加一酸化炭素を二次反応器に供給して、フラッシュタンクから出る不揮発性成分における一酸化炭素の濃度を40モル%に維持した。その結果を表3に示す。
【0078】
実験D
実験Cの手順を反復したが、ただしCOを第2カルボニル化反応器に供給しなかった。その結果を表3に示す。リチウムをカルボニル化反応器に添加しなかった。
【0079】
実験E〜G
実験CおよびDの手順を反復したが、ただしカルボニル化反応器におけるRu:Ir比を6:1のモル比まで増大させると共に、二次カルボニル化反応器中へ供給したCOの量を変動させた。その結果を表3に示す。リチウムは実験E〜Gにてカルボニル化反応器に添加しなかった。
【0080】
実施例8〜23
実験C〜Gの手順を反復したが、ただし種々の量のリチウムを第1カルボニル化反応器に添加した。その結果を表3に示す。
【0081】
【表3】
【0082】
図2は、低圧オフガス一酸化炭素濃度およびルテニウム濃度の変動における触媒系に対する沃化リチウムの安定化作用をグラフで示す。グラフにおけるデータポイントは、上表3における各実験の結果から得た。汚染(fouling)速度が0.001au/1日より大である場合、固形物形成が生ずると仮定した。
【0083】
グラフから見られるように、本発明による安定化用化合物の使用は(a)所定のルテニウム濃度につき低圧オフガス一酸化炭素濃度を顕著な触媒系沈殿物を生ぜしめることなく低下させることができ、更に(b)低圧オフガスにおける所定の一酸化炭素濃度につき触媒促進剤の濃度を顕著な触媒系沈殿物を生ぜしめることなく増大させることができる。
【0084】
実験HおよびI、並びに実施例24〜32の一般的実験方法
実験は全て、金属ケージにより包封されると共に強化キャビネットにケーシングされた30mlのガラス反応容器からなるフィッシャー・ポーター装置を用いて行った。容器のヘッドにおける単一ポートをステンレス鋼配管により圧力計に接続した。この装置にはレリーフ弁と液体試料採取システムと洗浄ポートと入口マニホールドとを装着した。反応混合物を磁気攪拌棒により攪拌した。ガラス反応容器を油浴に浸漬して加熱した。
【0085】
実験H
イリジウムとルテニウム(1.0g)とからなる触媒系沈殿物の既知量および合成カルボニル化反応溶液(25.0g)をフィッシャー・ポーター装置のガラス反応容器に移した。次いでこの装置を組み立てると共に、20分間にわたり約6x10
5N/m
2にて圧力試験した。次いで容器を窒素で3回フラッシュさせた。次いで反応混合物を190℃および130℃の温度まで2x10
5N/m
2の窒素下に24時間にわたり加熱した。得られた溶液を30℃未満まで冷却し、圧力解除し(必要ならば)、4400rpmにて5分間にわたり遠心分離した。得られた溶液の試料をX線蛍光(XRF)によりイリジウム濃度およびルテニウム濃度につき分析し、合成カルボニル化反応溶液の組成を表4に示す。実験の結果を表5に示す。
【0086】
実験I
実験Hを反復したが、ただし合成触媒循環溶液(CRS)を合成カルボニル化反応溶液の代わりに使用した。合成触媒循環溶液の組成を表4に示し、実験の結果を表6に示す。
【0087】
【表4】
【0088】
実施例24〜26
実験Hを反復したが、ただしフィッシャー・ポーター装置への合成カルボニル化反応溶液の添加に先立ち、沃化リチウムの所定量を溶液に添加した。実験の結果を表5に示す。
【0089】
【表5】
【0090】
実施例27〜29
実験Iを反復したが、ただしフィッシャー・ポーター装置への合成触媒循環溶液の添加に先立ち、沃化リチウムの所定量を溶液に添加した。実験の結果を表6に示す。
【0091】
【表6】
【0092】
表4および5を点検から判るように、カルボニル化および触媒循環の各溶液への沃化リチウムの添加はカルボニル化反応(表4)および触媒循環溶液(表5)の両者における触媒系沈殿物の再溶解を支援する。
【0093】
実施例30〜32
実験Iを反復したが、ただしフィッシャー・ポーター装置への合成触媒循環溶液の添加に先立ち、所定量の沃化物安定化用化合物を溶液に添加した。添加した安定化用化合物の詳細を表7に示す。更に実験の結果をも表7に示す。
【0094】
【表7】
【0095】
実施例30〜32と実験Iとの比較は、沃化リチウム以外の安定化用化合物も触媒系沈殿物の溶解を支援しうることを示す。