(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アルミニウム又はアルミニウム合金板からなるアウターパネルと、このアウターパネルの下面側に配置され、鋼板からなるインナーパネルと、鋼材からなり、頭部と軸部を備えるリベットと、を有し、
前記アウターパネルは、周縁部を折り曲げて形成され、熱硬化性樹脂接着剤層を介して前記インナーパネルを保持するヘム加工部を備え、
前記リベットは、前記頭部をアウターパネル表面に残して、前記軸部が前記アウターパネルの前記ヘム加工部の下面側から前記インナーパネルに向かって貫通し、
前記インナーパネルには、前記リベットと相対する位置で前記リベットの軸方向に向かう突起部が備えられ、
前記軸部先端と前記インナーパネルの前記突起部とでスポット溶接接合部が形成され、
前記インナーパネルの前記突起部と前記アウターパネルとの間に前記熱硬化性樹脂接着剤層又は前記熱硬化性樹脂接着剤層と空隙からなる断熱部が形成されていることを特徴とする異材パネル構造体。
【背景技術】
【0002】
自動車では、走行性、操作性又は燃費を向上させるために、車体の軽量化が求められている。このため、種々の自動車ボディ部品で、アルミニウム合金などのように比重の小さい材料が適用され始めている。例えば、フード(ボンネット)、ドア、トランクなどの自動車パネル構造体は、アウターパネル(外板)とインナーパネル(内板)とで構成される中空構造体であるが、これらのパネルの材料としてアルミニウム合金材の利用が検討されている。
【0003】
その場合、アウターパネル及びインナーパネルの両方をアルミニウム合金板に変更することもできるが、各パネルの要求特性に応じた特性の素材同士を組み合わせた異材パネル構造体とすることもある。具体的には、意匠性、軽量性及び衝突エネルギーの吸収性などが要求されるアウターパネルをアルミニウム合金板で形成し、形状が複雑で成形深さが深いインナーパネルを成形性に優れた鋼板で形成することが考えられる。
【0004】
アルミニウム合金製アウターパネルと鋼製インナーパネルとを用いて異材パネル構造体を製造する方法としては、例えば、アウターパネルの周縁部を折り返してインナーパネルのフランジ周縁部を挟み込むヘム加工(ヘミング加工やはぜ折加工ともいう。)によって、これらを一体化する方法がある。この方法では、通常、アウターパネルとインナーパネルとの間に、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂及びフェノール系樹脂などの熱硬化性樹脂により、電食防止のための絶縁層も兼ねた接着剤層(樹脂層)が設けられる。
【0005】
一方、前述した異材パネル構造体は、自動車ボディに組み立てられて塗装された後、170〜200℃の高温で塗装焼付(ベーキング)が行われるが、その際、アルミニウム合金製アウターパネルと鋼製インナーパネルの線膨張率の差によるヘム部のずれにより、アルミニウム合金製アウターパネル側に反りが生じる熱変形の問題が発生することがある。このような熱変形を防止する方法としては、ヘム加工によってインナーパネルとアウターパネルとを一体化する際に、パネル構造体の各コーナー部の所定の位置をフラックコアードワイヤ(FCW)で部分的にTIG溶接接合する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
上記特許文献1に記載の方法は、溶接接合部の強度が十分に確保できれば、ヘム部のずれを防止するために非常に有効である。
しかし、鋼材とアルミニウム材のような異材接合においてはTIG溶接の他、MIG用溶接、レーザ溶接、スポット溶接のいずれの溶接方法においても溶接部の、接合界面に脆い金属間化合物(例えばアルミニウムと鉄の金属間化合物であるAl
2Fe
5)が発生し、十分な接合強度が得られないことがある。
【0007】
このような金属間化合物が発生しない溶接方法として、一方の材料と同種の材料からなるリベットを用いてスポット溶接を行う方法が提案されている(特許文献2参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2に記載のリベットをアルミニウム合金製アウターパネルと鋼製インナーパネルの接合に用いた場合、リベットとインナーパネルが共に鋼材であるため接合部分においてAl
2Fe
5のような脆い金属間化合物は生じない。
しかし、この方法をアルミニウム合金製アウターパネルのヘムに適用した場合、スポット溶接で生じるリベット先端の溶融部の熱がアルミニウム材に伝わり、アウターパネルに膨出部分が生じ、パネル製品の外観を著しく損なう場合があった。
自動車ボディ用部材では、外観が重視されるため、接合強度だけでなく、アウターパネルの外観性を劣化させない接合方法が求められている。
【0010】
そこで、本発明は、ヘム加工部におけるアウターパネルとインナーパネルのずれ、パネル反りの発生が抑制され、かつアウターパネルの外観性が優れた異材パネル構造体を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る異材パネル構造体は、
アルミニウム又はアルミニウム合金板からなるアウターパネルと、このアウターパネルの下面側に配置され、
鋼板からなるインナーパネルと、
鋼材からなり、頭部と軸部を備えるリベットと、を有し、前記アウターパネルは、周縁部を折り曲げて形成され、
熱硬化性樹脂接着剤層を介して前記インナーパネルを保持するヘム加工部を備え、前記リベットは、前記頭部をアウターパネル表面に残して、前記軸部が前記アウターパネルの前記ヘム加工部の下面側から前記インナーパネルに向かって貫通し、前記インナーパネルには、前記リベットと相対する位置で前記リベットの軸方向に向かう突起部が備えられ、
前記軸部先端と前記インナーパネルの前記突起部とでスポット溶接接合部が形成され、前記インナーパネルの前記突起部と前記アウターパネルとの間に
前記熱硬化性樹脂接着剤層又は
前記熱硬化性樹脂接着剤層と空隙からなる断熱部が形成されているものである。
前記リベットは、頭部及び軸部の少なくとも一方が前記アウターパネルにかしめられていてもよい。
この場合、前記リベットには、前記アウターパネルと接触する部分に、前記インナーパネルよりも抵抗率が高い皮膜が設けられていてもよい。
また、前記リベットは、例えば前記インナーパネルのコーナー部に接合されていてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ヘム加工部におけるアウターパネルとインナーパネルのずれ、パネル反りの発生を抑制しつつ、アウターパネルの膨出部の形成も抑制することができるため、外観性に優れた異材パネル構造体が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について、添付の図面を参照して、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0015】
[異材パネル構造体の熱変形の機構]
図1A及び
図1Bはパネルの焼付塗装時の熱膨張収縮による異材パネル構造体の変形の工程を模式的に示す図であり、
図1Aは構造体全体を示す模式図であり、
図1Bはそのヘム加工部を示す拡大断面図である。
図1Aに示す異材パネル構造体101は、アウターパネル102がアルミニウム合金板により形成されており、インナーパネル103が鋼板により形成されている。
即ち、アウターパネル102は、インナーパネル103よりも線膨張率が大きい。
【0016】
このため、
図1Bに示すように、塗装焼付の際の加熱により、アウターパネル102の折り曲げられた部分が熱膨張によりパネル外側方向に向かって大きくずれて、インナーパネル103を挟み込んでいた位置からずれてはみ出すずれ変形、所謂「ヘムずれ」が生じる。一方、アウターパネル102とインナーパネル103の間に塗布された接着剤層105は、塗装焼付の際の加熱により熱硬化が開始するため、ヘム加工部104が大きくずれた状態でインナーパネル103に接着固定される。
【0017】
そして、焼付塗装終了後にアウターパネル102が収縮し、この現象がアウターパネル102の線長の変化となり、
図1Aに示すような異材パネル構造体101のアウターパネル102に、上側に向かう反りが生じる原因となる。アウターパネル102にこのような反りが生じると、異材パネル構造体101の全体又はコーナー部に変形が生じるため、形状精度が高い自動車パネルを得ることは困難である。
【0018】
[全体構成]
そこで、本発明者は、ヘム加工部の変形を抑制するため、ヘム加工部におけるアウターパネルとインナーパネルとのヘムずれを防止すべく、脆い金属間化合物を発生させずに高い接合強度を得ることができるリベットを用いたスポット溶接方法を適用することとした。
図2Aはリベットを用いて異材パネル構造体をスポット溶接する際の構成を模式的に示す図である。
【0019】
しかしながら、
図2Aに示すように、リベット106を用いたスポット溶接により、ヘム加工部におけるアウターパネル102とインナーパネル103の接合を行うと、溶融部107の熱が反対側のアウターパネル102に伝播し、アウターパネル102が部分的に軟化する。この方法では、溶接用電極108a,108bとアウターパネル102との間に板状の中間電極109を挟んで溶接しても、
図2Bに示すようにアウターパネル102の熱軟化部102aが外側に向かって凸状に膨らむことがある。これにより、アウターパネル102の外観が劣化し、溶接後に膨出部分102bを平らに削るなどの作業が必要となる。
【0020】
そこで、本実施形態の異材パネル接合体では、溶接接合する際に、アウターパネルへの熱影響を抑制するため、リベットが接合される部分はインナーパネルとアウターパネルとの間に接着剤層又は接着剤層と空隙からなる断熱部を設け、溶接時の熱がアウターパネルに伝達されないようにした。具体的には、本実施形態の異材パネル構造体は、第1の金属材料からなり、折り曲げ加工により周縁部に折り曲げ部が形成されたアウターパネルと、第1の金属材料とは材質が異なる第2の金属材料からなり、端部がアウターパネルの折り曲げ部により挟持されているインナーパネルと、インナーパネルと同種の金属材料からなり、頭部と軸部とを備え、軸部が折り曲げ部の端部においてアウターパネルを貫通し、先端がインナーパネルに溶接接合されている1又は複数のリベットを有する。そして、インナーパネルにはリベットとの接合部分に中空状の突起部(凸部ともいう。)が形成されており、この突起部により、インナーパネル(リベットが溶接されている箇所)と、アウターパネルとの間に接着剤層又は接着剤層と空隙からなる断熱部を形成するように構成されている。
【0021】
図3は異材パネル構造体の一例であるエンジンフードを示す底面図である。
図4は本実施形態の異材パネル構造体のヘム加工部4を示す断面図である。
図3に示すように、本実施形態の異材パネル構造体1は、アウターパネル2の周縁部に折り曲げられ、この折り曲げ部によりインナーパネル3の端部が挟持されて、ヘム加工部4が形成されている。なお、本実施形態の異材パネル構造体1は、
図3に示すフード(ボンネット)の他、トランクやドアパネルなどの自動車ボディ用の各種部材に適用することができる。そして、当然ながら、これらのパネル用途に応じて、その立体形状や平面形状及びヘム加工の施工範囲は異なる。
【0022】
[アウターパネル2]
アウターパネル2は、車体外側に向かって全体に3次元の円弧状に湾曲している平板状部材であり、例えばアルミニウム板又はアルミニウム合金板を、プレス成形などの各種成形方法を用いて、所定形状に成形することにより得られる。
【0023】
アウターパネル2に用いるアルミニウム合金は、強度、成形性及び耐食性など、適用する車体構造の要求特性に応じて適宜選択することができ、例えばJIS規格やAA規格で規定される3000系、5000系、6000系及び7000系などのアルミニウム合金が使用できる。自動車などの車体を軽量化するため、薄肉化の観点からは、高強度で成形性にも優れたアルミニウム合金が好ましい。
【0024】
具体的には、6N01、6016、6111及び6022などのように、組成におけるシリコンとマグネシウムの比(=Si/Mg)が1以上で、Mgに対してSiを過剰に含有しているSi過剰型の6000系アルミニウム合金が好ましい。これらの6000系アルミニウム合金板は、アウターパネル2に成形する際は、強度(耐力)を低くして成形性を確保し、その後の塗装焼付け処理において、150〜180℃の低温で10〜50分という短時間の人工時効処理によって、時効硬化して強度(耐力)が高くなる特性(ベークハード性、BH性)を有する。
【0025】
前述したアルミニウム合金材は、冷間圧延や熱間押出後に、溶体化処理及び焼き入れ処理(質別記号T4)やその後の時効処理(質別記号T6等)、過時効処理(質別記号T7)などが施されて、アウターパネル2のプレス成形素材となる。
【0026】
一方、アウターパネル2用のアルミニウム合金板の厚さ(板厚)は、自動車ボディの軽量化、強度、剛性及び成形性などのアウターパネル2としての要求特性の兼ね合いから、一般に、0.5〜3mmの範囲から適宜選択される。ここで、アルミニウム合金板の厚さが薄すぎる場合、自動車部材としての必要な強度や剛性を確保できないことがある。一方、アルミニウム合金板の厚さが厚すぎると、自動車ボディの軽量化ができず、ヘム加工も難しくなる。
【0027】
[インナーパネル3]
インナーパネル3は、断面ハット状(断面形状がハット型又はHAT型などともいう。)の部材であり、例えば鉄板又は鋼板などの鉄合金板を、プレス成形などの各種成形方法を用いて、所定形状に成形することにより得られる。また、
図4に示すように、インナーパネル3には、少なくともリベット6が接合される部分に、中空状の突起部3aが形成されている。
【0028】
図5A〜Gはインナーパネル3に形成される突起部3aの形状例を模式的に示す斜視図である。インナーパネル3の突起部3aは、中空状であれば、その外形は特に限定されるものではなく、例えば
図5Aに示す円錐状、
図5Bに示す円錐台形状、
図5Cに示す錐台形状、
図5Dに示す角柱状、
図5Eに示すドーム形状、
図5Fに示すビード形状など、種々の形状を適用することができる。
【0029】
また、突起部3aの高さも、特に限定されるものではなく、適用部材に応じて適宜選択することができるが、0.1〜2.0mmが好ましく、0.3〜1.5mmがより好ましい。突起部3aの高さをこの範囲にすることにより、
図4に示すように、突起部3aとアウターパネル2との間に接着剤層又は接着剤層と空隙からなる断熱部8が設けられ、溶接接合時に溶融部7の熱がアウターパネル2に伝播することを防止することができると共に、スポット溶接により接合する場合は、電極による押圧力がアウターパネル2に加わることを防止することもできる。
【0030】
一方、インナーパネル3に用いられる鋼板は、その表面に、汎用される亜鉛系やアルミニウム系の被覆層がめっきなどで被覆されていてもよいし、裸材であってもよい。本実施形態の異材パネル構造体に用いる鋼材は、従来の鋼製インナーパネルと同様に、安価な軟鋼板を用いることもできるが、高張力鋼(ハイテン)やステンレス鋼などの冷延鋼板も適用することが可能である。
【0031】
また、鋼板の厚さ(板厚)も、自動車ボディの軽量化、強度、剛性及び成形性などのインナーパネル3としての要求特性の兼ね合いから、0.3〜3mmの範囲で適宜選択することができる。ただし、鋼板の厚さが薄すぎると、自動車部材としての必要な強度や剛性を確保できないことがあり、また、鋼板の厚さが厚すぎると、自動車ボディを軽量化することが困難となる。
【0032】
[ヘム加工部4]
図4に示すように、ヘム加工部4は、アウターパネル2の周縁部をヘム曲げ(折り曲げ)することによって形成されており、このヘム加工部4により、アウターパネル2がインナーパネル3に接着剤層9を介して結合されている。尚、接着剤層9については後に説明する。
【0033】
[リベット6]
図6A〜Dはリベットの構造例を示す断面図であり、
図7A〜Dはインナーパネルの突起部とリベットの組合せを模式的に示す断面図である。また、
図8及び
図9はリベットの取り付け方法をその工程順に示す模試断面図である。
図6A〜Dに示すように、リベット6は頭部6aと軸部6bとで構成されている。なお、リベット6の形状は特に限定されるものではなく、
図6A及び
図6Dに示すように先端が円錐状となっていてもよく、また
図6B及びCに示すように先端が平面状になっていてもよい。また、頭部6a及び軸部6bの形状及び大きさも、用途や方法に応じて、適宜選択することができる。
【0034】
更に、リベット6とインナーパネル3の突起部3aとの組み合わせも、特に限定されものではなく、例えば、突起部3aが円錐状又は角錐状の場合は、
図7A及び
図7Bに示すように、先端が円錐状及び平面状のいずれの形状のリベット6も使用することが可能である。また、突起部3aが円錐台形状又は錐台形状の場合は、
図7Cに示すように先端が円錐状のリベット6を突起部3aに接触させて溶接することもできるが、
図7Dに示すようにリベット6の先端を突起部3aに押し込んだ状態で溶接することもできる。
【0035】
リベット6は、インナーパネル3と同種の金属材料で形成されたものを用いる。これにより、接合部に脆い金属間化合物が形成されることがないため、高い接合強度を維持することができる。なお、リベット6とインナーパネル3との接合強度が低いと、ヘムずれを十分に防止することができなくなる。また、例えばインナーパネル3が鋼材で形成されている場合は、リベット6も軟鋼などの鋼材で形成することで、既存の鋼材スポット溶接ラインを用いてスポット溶接を行うことができる。
【0036】
更に、スポット溶接により溶接接合する場合は、リベット6のアウターパネル2と接触する部分に、鋼材などのインナーパネル3を構成する材料よりも抵抗率が高い材料からなる皮膜が設けられていることが好ましい。このような高抵抗の皮膜を設けることにより、スポット溶接時の溶接電流が、アウターパネル2に分流し、溶接部の電流が低下することを防止できる。
【0037】
リベット6に設けられる高抵抗皮膜の具体例としては、亜鉛、鉛及びアルミニウムなどの比較的抵抗率が高い金属を含む皮膜、ポリエステル系樹脂やシリコーン系樹脂などの合成樹脂を含む皮膜、鉄の酸化皮膜(黒皮)、無電界Ni−Pめっき皮膜などが挙げられる。リベット6に設けられる高抵抗皮膜は、ディスゴ(登録商標)、ジオメット(登録商標)及びラフレ(登録商標)などの市販の表面処理剤を用いて形成された絶縁皮膜でもよい。
【0038】
更に、リベット6の頭部6a及び/又は軸部6bは、アウターパネル2にかしめられていることが好ましい。リベット6、アウターパネル2にかしめ締結することにより、溶接前は、溶接工程までの搬送時にリベット6が外れることがなくなり、溶接後は接着剤層9が経時劣化してもアウターパネル2との最低接合強度を維持することができる。
【0039】
かしめ締結は、例えば
図8A及び
図8Bに示すようにリベット6をアウターパネル2に打ち込んで、頭部6aに被締結材(アウターパネル2)を塑性流動させてもよいし、予め被締結材(アウターパネル2)に下穴をあけておき、リベット6の頭部6aに被締結材(アウターパネル2)を塑性流動させてかしめてもよい。又は、
図9A〜Cに示すように、打ち抜き治具11a,11bによりアウターパネル2の一部2aを打ち抜くことにより形成された下穴に、この下穴よりも径の小さい軸部6bを有するリベット6を挿入して、軸方向に据えこみを行って軸部6bを太らせることにより、アウターパネル2とかしめ締結
することもできる。
【0040】
[接着剤層9]
本実施形態の異材パネル構造体は、
図4に示すように、アウターパネル2とインナーパネル3との間に接着剤層9が設けられている。そして、アウターパネル2の周縁部を折り返す際は、接着剤層9を介して、インナーパネル3のフランジの周縁部を挟み込み一体化する。これにより、アウターパネル2の周縁部、インナーパネル3のフランジの周縁部が、接着剤層9を介して組み合わされた積層構造のヘム加工部4が形成され、異材パネル構造体として一体化される。
【0041】
接着剤層9を形成する際は、ヘム加工(ヘミング加工、特にフラットヘム加工)において、アウターパネル2の周縁部を折り返し、インナーパネル3のフランジ周縁部を挟み込む前に、これに対向するアウターパネル2の周縁部の内側領域に熱硬化性樹脂接着剤を塗布すればよい。その際、熱硬化性樹脂接着剤は、アルミニウムと鉄との異材同士が直接接触して生じる電食を防止することができ、かつ、異材同士(異材パネル構造体)の接合強度を高めるため、アウターパネル2の周縁部全体に亘って(囲むように)塗布することが好ましい。
【0042】
接着剤層9を形成する熱可塑性樹脂接着剤としては、自動車ボディパネルの塗装焼付け硬化時に硬化して、パネル構造体としての要求接着強度を発揮できるものであればよく、例えばエポキシ樹脂系接着剤、ポリエステル樹脂接着剤及びフェノール樹脂接着剤などが挙げられる。
【0043】
[溶接方法]
リベット6とインナーパネル3は、溶接により接合する。異材パネル構造体のような複合構造では、塗装焼付硬化時に、アルミニウムと鋼との線膨張率の差に起因して、アルミニウム合金製アウターパネル2のヘムずれや、それに伴って生じる拘束されたアウターパネル2の熱変形が問題となる。アウターパネル2の熱変形を抑制するためには、アウターパネル2のヘムずれを防止することが有効であり、例えば各コーナー部5などのように、所定の箇所を点状に溶接し、アウターパネル2とインナーパネル3とを相互に固定しておくことにより、パネル材料の熱膨張収縮に伴う移動を抑えることができる(
図3参照)。
【0044】
ここで、リベット6の軸部6bの先端とインナーパネル3との溶接は、抵抗スポット溶接で行う。抵抗スポット溶接は、インナーパネル3とアウターパネル2との間に接着剤層9が存在していても、電極を圧着して接合部の接着剤層9を排除しつつ溶接することができるため、接合強度の点で好適である。
【0045】
なお、スポット溶接を行う場合、アウターパネル2の表面平滑性を確保するため、アウターパネル2側に板を当てながら溶接することが好ましい。その際、用いる板は、鋼板などの熱伝導性が高い材料からなる若しくは冷媒を通流させる流路を備えるパネル又はブロック部材が好ましい。
【0046】
リベット6とインナーパネル3とを溶接接合する際は、高熱の溶融部7が形成されるが、本実施形態の異材パネル構造体では、インナーパネル3の接合部分に前記突起部3aが形成されている。このため、前記突起部3aの裏面には、アウターパネル2との間に接着剤層又は接着剤層と空隙からなる断熱部8が形成される。更に、前記突起部3aは中空状に形成されているため、前記接着剤層又は接着剤層と空隙からなる断熱部8は厚く形成される。これにより、アウターパネル2への熱伝達が遮断又は著しく小さくなる。その結果、アウターパネル2の軟化が低減されるため、リベット6の先端の押込みによるアウターパネル2の膨出を抑制することができる。
【0047】
本実施形態の異材パネル構造体では、リベット6によりインナーパネル3とアウターパネル2とが固定されているため、ヘム加工部4におけるずれや反りの発生を抑制することができる。また、本実施形態の異材パネル構造体は、インナーパネル3のリベット6が接合される部分に、中空状の突起部3aを形成し、インナーパネル3とアウターパネル2との間に接着剤層又は接着剤層と空隙からなる断熱部8を設けているため、溶接時の熱がアウターパネル2に直接伝達されることがなくなる。これにより、アウターパネル2に軟化部分が生じ難くなるため、アウターパネル2に膨出する部分が発生しなくなり、手直しなどを行わなくても、外観性に優れた自動車パネルを製造することが可能となる。
【実施例】
【0048】
次に、本発明の実施例により、本発明の効果について具体的に説明する。
<実施例1>
本実施例においては、先ず、アルミニウム合金板(AA6022、板厚1.2mm、幅300mm)に対し、
図6Aに示す形状の軟鋼製のリベットの軸部を
図8A及び
図8Bに示す方法で、貫通させて、当該リベットの頭部をかしめ締結し、アウターパネルを成形した。
【0049】
そして、リベットが締結されたアウターパネルに接着剤を塗布し、インナーパネルとしてのGA鋼板(板厚0.8mm、幅300mm)を重ね合わせた後、アウターパネルを折り曲げてインナーパネルを接着剤の層を介して挟み込むようにヘム加工を行った。その後、インナーパネルのリベットの軸部先端と相対する位置に、円錐状の突起部(高さ0.8mm、円錐の根元直径2mm)を設けた。
そして、1対の電極でリベットとアウターパネルとを挟み、加圧力を5kN〜300kN、電流値を1kA〜10kA、通電時間を10ミリ秒〜400ミリ秒とし、鋼板側のナゲット溶融径が2〜3mmとなるように調整しながら、スポット溶接を行った。この時、実施例1のインナーパネルとアウターパネルとの間には約0.5mmの断熱部が形成されていた。
<比較例>
比較例1として、突起部の無いインナーパネルをアウターパネルのヘム加工部で接着剤の層を介して挟み込み、実施例と同じリベットを打ち込んだものを準備した。
また、比較例2として、リベットを打ち込まずに接着剤のみでアウターパネルにインナーパネルを接合したものを準備した。
【0050】
<スポット溶接部のアウターパネル外観観察結果>
溶接後のアウターパネル外面を3D形状測定装置(VECCO社製 WYCO NT9300)で計測した。
その結果、実施例1および溶接を行っていない比較例2ではアウターパネルに膨出部は生じず、接合部分のアウターパネルの表面の凹凸は15μm以下であり良好な平滑性が確認された。
一方、比較例1はアウターパネル(リベットの反対側)に膨出部が生じ表面に40μmの凹凸が生じていた。
【0051】
<ヘムずれの有無>
実施例1、比較例1および2のヘム加工後のヘム加工継手(接合体)を試験炉内で170℃×20分加熱した後、取り出して冷却後ヘム加工部のずれ(加熱前後のヘム加工部の位置ずれ)の有無を確認した。
実施例1、比較例1のヘム加工継手ではヘムずれは生じなかったが、比較例2では約10mmのヘム加工部のずれが生じていた。
【0052】
<継手強度>
実施例1、比較例1の溶接後のヘム加工継手を幅30mmで切り出して引張り試験片を作成し、アウターパネルのヘム加工部の端部とインナーパネルとをチャッキングして、リベットの軸に対して垂直方向(一軸方向)に引張り、継手の破断状態を確認した。
その結果、引張強度は実施例1、比較例1ともに3kNを示した。又、破断位置は溶接金属部ではなくGA鋼材側で母材破断(ボタン状破断)しており、良好な継手強度が得られていることが確認された。