(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5908066
(24)【登録日】2016年4月1日
(45)【発行日】2016年4月26日
(54)【発明の名称】表面特性に優れた高強度高靭性線材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20160412BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20160412BHJP
C21D 8/06 20060101ALI20160412BHJP
【FI】
C22C38/00 301Y
C22C38/60
C21D8/06 A
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-510257(P2014-510257)
(86)(22)【出願日】2012年5月11日
(65)【公表番号】特表2014-518942(P2014-518942A)
(43)【公表日】2014年8月7日
(86)【国際出願番号】KR2012003720
(87)【国際公開番号】WO2012157902
(87)【国際公開日】20121122
【審査請求日】2014年1月7日
(31)【優先権主張番号】10-2011-0045353
(32)【優先日】2011年5月13日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ドン−ヒュン
(72)【発明者】
【氏名】イ、 ユー−ファン
(72)【発明者】
【氏名】チョ、 ヒュン−クン
【審査官】
松本 陶子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−250767(JP,A)
【文献】
特開昭63−307251(JP,A)
【文献】
特開2003−105496(JP,A)
【文献】
特開昭62−274058(JP,A)
【文献】
特開平05−171262(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C21D 8/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.25〜0.45%、Si:0.1〜0.2%、Mn:0.1〜0.7%、Sb:0.005〜0.02%を含み、残部Fe及び不可避不純物からなり、
Sb酸化物を含み、前記Sb酸化物はSb2O5を含む、
表面特性に優れた高強度高靭性線材。
【請求項2】
前記Sb酸化物の平均粒径は、20〜50nmである、請求項1に記載の表面特性に優れた高強度高靭性線材。
【請求項3】
前記Sb酸化物は、単位面積(μm2)当たり50〜100個が分布している、請求項1に記載の表面特性に優れた高強度高靭性線材。
【請求項4】
前記線材の微細組織は、面積率40%以上がフェライトであり、残りがパーライトである、請求項1に記載の表面特性に優れた高強度高靭性線材。
【請求項5】
前記フェライトの平均粒度は10〜20μmであり、パーライトの平均粒度は20〜25μmである、請求項4に記載の表面特性に優れた高強度高靭性線材。
【請求項6】
前記線材の表面にスケールが20〜150μmの厚さで形成されている、請求項1に記載の表面特性に優れた高強度高靭性線材。
【請求項7】
前記線材の引張強度が600〜900MPaであり、延伸率が25%以上である、請求項1に記載の表面特性に優れた高強度高靭性線材。
【請求項8】
重量%で、C:0.25〜0.45%、Si:0.1〜0.2%、Mn:0.1〜0.7%、Sb:0.005〜0.02%含み、残部Fe及び不可避不純物からなる鋼を再加熱する段階と、
前記再加熱された鋼を900〜1100℃で線材圧延する段階と、
前記線材圧延の後に0.5〜2℃/sの冷却速度で冷却する段階
とを含み、
前記冷却された線材は、Sb酸化物を含み、前記Sb酸化物はSb2O5を含む、
表面特性に優れた高強度高靭性線材の製造方法。
【請求項9】
前記冷却する段階の後、伸線する段階をさらに含む、請求項8に記載の表面特性に優れた高強度高靭性線材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造用鋼、特に、冷間鍛造を要するボルト、タイロッド等の自動車用部品に用いられる線材及びこれを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ほとんどの構造用鋼は、熱間加工後に再加熱、焼入れ、焼き戻しされて強度と靭性を高めて用いる調質鋼(heat treated steel)である。これに対し、非調質鋼は、調質鋼とは逆の性質を持つ鋼であり、熱間加工後に熱処理されなくても、熱処理された材質とほぼ同じ靭性と強度が得られる鋼である。非調質鋼という用語は韓国と日本で用いられ、英語では、no heat treated steelといい、微量の合金を添加して材質を作ることからマイクロアロイ鋼(micro alloyed steel)ともいう。
【0003】
一方、高強度鋼は、焼き戻し処理されて製造されるため、900MPa以上の引張強度及び優れた延性をもって衝撃特性が求められる部品に適用されることを目標とするものである。しかしながら、ほとんどの鋼は、強度が高くなると延性が低くなるため、その適用に限界がある。
【0004】
また、線材圧延時に必然的に生じる鉄酸化物の場合、線材製造後、伸線時に表面欠陥をもたらして品質を低下させる恐れがあるため、酸洗等の後工程により線材の表面の鉄酸化物(スケール)層を除去しなければならないという工程上の問題がある。したがって、線材製造時のスケール制御のために線材熱間圧延前にウォータースプレー又は熱間スカーフィングが行われているが、このウォータースプレー又は熱間スカーフィングによるスケール除去により工程単価が上昇する問題は未だ解決していない。
【0005】
一方、非調質鋼、特に、高強度高延性の非調質鋼を製造するためには、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)等の合金元素の添加と共に、圧延及び冷却中の加速化による制御圧延・冷却工程が必須である。このような制御圧延・冷却工程は、粒度が微細な線材が得られるため、優れた強度と延性を有する線材を製造することができるという長所を有するが、合金元素の価格上昇及び工程上の多くの変更による工程単価上昇の問題を必然的にもたらすため、その適用に限界がある。
【0006】
これに関連する技術としては、日本特開2010‐242170号がある。この特許は、Cr、V、Ti、Bの添加及び急冷後に熱処理によりベイナイト線材を製造しているが、工程単価の上昇及び冷却装置の追加設置の問題を有している。また、日本特開2010‐222680号は、初期のオーステナイト組織を制御するためにAl、Cu、Ni、Mo、V等を添加し、制御圧延及び冷却工程により高強度の非調質線材を製造しているが、更なる設備を必要とすることから、工程費用が必然的に上昇するという問題を有している。また、日本特開1998‐008209号は、フェライトとパーライトで構成される高強度高靭性線材を製造する上で、Cr、V等の合金元素の添加が必須であるが、冷間加工性の向上のための高価な合金元素が添加されなければならないため、その効率性が低下するという短所を有している。
【0007】
前述したように、高強度高靭性線材の製造のための引張強度向上及び表面のスケール低減は未だに達成されていない。また、非調質線材に関する特許が日本で何件か出願されたが、未だに高価な合金元素の添加及び制御圧延・冷却工程を必要とするため、価格競争力の確保が不可能であり、特に、表面のスケール除去に関する問題がある。
【0008】
一方、酸化物を形成する低価合金元素の添加による酸化物制御により、合金元素による結晶粒の微細化効果を得ようと、世界有数の鉄鋼メーカーで研究が行われている。しかしながら、ほとんどの酸化物形成元素は、高価であり、合金鉄と同量で添加されなければならないため、その技術開発速度が遅い。
【0009】
よって、今後の自動車産業の発展速度を鑑みると、非調質鋼が有する基本的な熱処理省略による工程単価の低減、微量の酸化物形成元素の添加による価格競争力の確保、及びスケール低減による表面欠陥抑制型線材についての固有権利の確保が必須である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、高い強度と靭性を有し、表面酸化物の生成を抑制し、均一な酸化物の形成により優れた表面特性を有する線材、及びこれを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、重量%で、Sbを0.005〜0.02%含む表面特性に優れた高強度高靭性線材が提供される。
【0012】
また、本発明によれば、重量%で、Sbを0.005〜0.02%含む鋼を再加熱する段階と、上記再加熱された鋼を700〜1100℃で線材圧延する段階と、上記線材圧延の後に0.5〜2℃/sの冷却速度で冷却する段階と、を含む表面特性に優れた高強度高靭性線材の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、高強度高靭性及び表面欠陥抑制型線材を製造する上で、微量のSb添加により、酸化物の形成による結晶粒の微細化により引張強度及び延性を増加させ、加熱炉及び熱間圧延のような高温環境下での鉄酸化物の成長を抑制し、均一な鉄酸化物を形成させて最終的なスケールの厚さをより薄くすることができる。
【0014】
本発明により製造された線材は、需要が多く、機械部品の軽量化及び高性能化のための高強度高延性線材を製造するための基盤技術となる。本発明は、高価な合金元素の省略が可能となるため、競合企業に比べて優れた価格競争力を確保し、引張強度及び表面品質にも優れた非調質鋼線材の製造方法を提供する。本発明は、その他の工程条件に制約のない新たな製造方法においても非常に重要な基盤技術となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、実施例の従来鋼と発明鋼1の微細組織写真である。
【
図2】
図2は、実施例の発明鋼1のSb酸化物を観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0017】
本発明では、線材の製造時、Sbを微量含有するため、Sb酸化物を用いた組織制御により、オーステナイトの粒度の成長を抑制し、線材の表面の酸化物の形成を調節して、強度と靭性を向上させ、線材の表面の鉄酸化物(スケール)の形成を抑制し、薄くて均一な酸化物を形成させて表面欠陥を低減させることができる。
【0018】
まず、本発明の線材について詳細に説明する。
【0019】
本発明の線材は、重量%で、アンチモン(Sb)を0.005〜0.02%含む。上記Sbは、本発明で最も核心的な役割をする元素であり、オーステナイトマトリックス内にSb酸化物(主に、Sb
2O
5)を形成することにより、結晶粒界の成長を抑制し、鉄酸化物の形成を抑制して線材の表面をきれいにする。
【0020】
上記Sbの含量が0.005%未満の場合には、酸素との反応量が足りなくて熱力学的に十分なSb酸化物が形成されないため、Sb金属状態で固溶体を形成することができず、酸化物の形成が困難となるという問題があり、0.02%を超える場合には、酸素親和力を形成することが可能な量を超える量のSbが添加されて溶質原子状にオーステナイトマトリックス内に溶出されるため、伸線時に破断の原因となると共に冷間圧造性が急激に低下するという問題がある。したがって、その含量を制限しなければならない。
【0021】
一方、本発明の線材は、Sb以外の析出物元素が添加されないことを特徴とする。上記析出物元素としては、代表的に、Ti、Nb、V等がある。TiとSbとが複合添加される場合は、溶鋼中の酸素がTiと先に反応してTiO
2を析出させるため、Sb酸化物が効果的に生成されずに結晶粒の微細化効果が得られない。また、Nb又はVが添加される場合は、オーステナイト結晶粒を微細化することはできるが、価格上昇が不可避であり、また、上記Nb又はVと酸素との反応性が良いため、Sb酸化物を形成する上で障害として作用して効果的な結晶粒の微細化効果が得られない。
【0022】
一方、本発明の線材は、上記Sb以外の他の成分に特別な制限はなく、通常の構造用線材の成分であれば良い。好ましい組成範囲の一例として、上記Sb以外に、重量%で、C:0.25〜0.45%、Si:0.1〜0.2%、Mn:0.1〜0.7%を含む。
【0023】
上記成分を限定する理由は、下記の通りである。
【0024】
炭素(C)は、鋼材の強度確保のための元素である。上記Cの含量が0.25%未満の場合は、強度確保が容易ではなく、0.45%を超える場合は、圧延又は伸線工程時にクラック又は破断が発生する原因となる可能性がある。
【0025】
ケイ素(Si)は、フェライト内に固溶されて母材の強度を強化させる効果を有する元素である。上記Siの含量が0.1%未満の場合は、固溶による強度増加効果が足りず、0.2%を超える場合は、冷間鍛造時に加工硬化効果が増大して靭性が低下する恐れがある。
【0026】
マンガン(Mn)は、鋼の強度を増加させ、圧延性を増加させ、脆性を減少させる効果を有する元素である。上記Mnの含量が0.1%未満の場合は、強度補償効果が弱く、0.7%を超える場合は、強度増加による硬化現象が深化する可能性がある。
【0027】
しかしながら、本発明は上記成分以外の他の成分の添加を排除するわけではなく、残部はFeと不可避不純物からなる。
【0028】
本発明の線材は、Sb酸化物を含み、上記Sb酸化物の形態は、主に、Sb
2O
5である。上記Sb酸化物は、結晶粒界析出によって結晶粒成長を抑制するドラッグ効果により粒界の成長を抑制し、フェライトとパーライト結晶粒の微細化により線材の引張強度と延性を増加させ、且つ加熱炉及び熱間圧延のような高温環境下での鉄酸化物の成長を抑制して均一な鉄酸化物を形成させることにより、最終的なスケールの厚さを低下させて表面欠陥を抑制するという技術的効果がある。
【0029】
上記Sb酸化物の平均粒径は、20〜50nmであることが好ましい。上記Sb酸化物は、結晶粒成長の抑制によるフェライトとパーライトの粒径制御のためのものであり、結晶粒界のピンニング効果を上げるためにはそのサイズが20〜50nmであることが好ましい。
【0030】
上記Sb酸化物は、線材に単位面積(μm
2)当たり50〜100個含まれることが好ましい。上記Sb酸化物が単位面積当たり100個を超えて含まれる場合には、結晶粒界のみならず結晶粒の内部からも析出するため、強度が上昇しすぎて延性が減少するという問題があり、50個未満含まれる場合には、ピンニング効果が弱くて強度が低下するという問題がある。したがって、上記Sb酸化物は、単位面積(μm
2)当たり50〜100個含まれることが好ましい。
【0031】
本発明の線材の微細組織は、フェライトとパーライトを含むことが好ましく、面積率
40%以上がフェライトであり、残りがパーライトである。
【0032】
上記フェライトの平均粒度は10〜20μmであり、パーライトの平均粒度は20〜25μmであることが好ましい。
【0033】
上記微細組織の分率は、強度と延性の相関関係を有する。即ち、フェライト分率が高いほど延性が高くなり、平均粒度の小さいフェライトが面積を多く占める場合には強度と延性が同時に増加するため、粒度と分率を制限することが好ましい。
【0034】
フェライトの粒度が20μmを超える場合は、結晶粒度のサイズが大きくて延性が増加するが、十分な強度補償効果が得られず、10μm未満の場合は、超微細結晶粒に変わり、強度増加による延性低下が不可避になる。したがって、上記フェライトの平均粒度は15〜20μmであることが好ましい。
【0035】
また、フェライトの分率が
40%未満の場合は、強度上昇による延性を補償することができない。したがって、上記フェライトの分率は
40%以上であることが好ましい。
【0036】
本発明の線材は、その表面に鉄酸化物(スケール)が20〜150μmの厚さで形成されていることが好ましい。上記スケールの厚さが20μm未満の場合には、線材の表面とスケールとの結合力が非常に強いため、スケール除去のためのその他の設備、例えば、ウォータースプレー等が必要とされ、また、熱間スカーフィング等の設備を用いたスケール除去時にもスケールの厚さが薄すぎて線材の表面に欠陥が発生する可能性がある。上記スケールの厚さが150μmを超えて厚すぎる場合には、スケール除去時間及びスケール除去のための工程条件を要するため、工程単価の上昇をもたらし、仮に上記工程が行われるとしても、スケールが厚すぎるため、表面がきれいな線材が得られない。
【0037】
したがって、スケールの厚さを20〜150μmとすると、適切な厚さのスケールによってスケール自体を用いた伸線が可能となり、スケールの除去によるきれいな表面の線材を製造することができる。
【0038】
本発明の線材は、引張強度が600〜900MPa、延伸率が25%以上であることが好ましい。
【0039】
次に、本発明の線材の製造方法について詳細に説明する。
【0040】
本発明の線材を製造するために、まず、重量%で、Sbを0.005〜0.02%含む鋼を再加熱する。上記再加熱は、均質化処理のためのものであり、その温度が1100℃以上であることが好ましい。
【0041】
その後、上記再加熱された鋼を熱間圧延する。上記熱間圧延は、線材熱間圧延であり、900〜1100℃の温度範囲で行われることが好ましく、800〜1050℃の温度範囲で行われることがより好ましい。上記熱間圧延時の圧延温度が900℃未満の場合には、2相領域で圧延が行われることにより強圧下が発生し、組織が急激に圧延されて酸素の拡散速度が十分にならないため、Sb酸化物の析出が容易ではなく、1100℃を超える場合には、圧延時にSb酸化物の完全固溶は可能であるが、効果的な結晶粒界内の分散が容易ではないため、析出物のサイズが大きくなる可能性がある。
【0042】
次に、上記圧延により製造された線材を0.5〜2℃/sの冷却速度で冷却する。上記冷却速度が0.5℃/s未満の場合には、析出されたアンチモン酸化物間の表面エネルギー低下のための時効現象により、組織が延伸されたフェライトとパーライトで構成されると共にそれぞれの結晶粒の方向性が異なってしまい、組織異方性による衝撃値と延性の低下とをもたらす。また、時効現象により、圧延された(as rolled)線材の強度が自然に上昇して延性が低下する可能性がある。上記冷却速度が2℃/s以上の場合には、中炭素鋼であるにもかかわらず、線材内のマルテンサイト変態点の低下によりマルテンサイトが表面に形成されて脆性が現れる可能性がある。したがって、上記冷却速度を制限することが好ましい。
【0043】
冷却速度の低下による時効現象により組織異方性が現れる可能性があり、2℃/sを超える場合には線材に低温組織であるマルテンサイトが形成されるため、0.5〜2℃/sの冷却速度で冷却することが好ましい。
【0044】
さらに、上記線材に伸線を行って伸線材を製造することもできる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。下記実施例は、本発明の理解のためのものであり、これにより本発明が限定されるものではない。
【0046】
(実施例)
表1の組成を満たす鋼を用意し、1100℃で溶体化処理してから、950℃で10/s及び0.6の変形率で変形(strain)を加えた後、2℃/sの冷却速度で冷却し、10〜80%に伸線して線材を製造した。
【0047】
【表1】
【0048】
従来鋼と発明鋼1の微細組織を光学顕微鏡で観察してそれぞれ
図1(a)及び(b)に示した。
図1に示されているように、従来鋼は、フェライトとパーライト組織で構成されているが、フェライト分率が40%未満であり、組織のサイズが約35〜50μmである。これに対し、発明鋼1は、フェライト分率が40%以上であり、組織のサイズも20〜25μmと微細である。
【0049】
また、発明鋼1のSb酸化物を観察して
図2(a)に示した。
図2(a)に示されているように、Sb酸化物は、ナノサイズの酸化物を形成しており、また、単位面積当たり50〜100個が分布されている。本発明は、上記のように微細なSb酸化物が適正な個数で分布されているため、結晶粒界のピンニング効果によって初期のオーステナイト結晶粒の粒成長を抑制してフェライトの粒度を小さくし、微細フェライトの増加によって高い強度と靭性を確保することができることが分かる。
【0050】
上記表1で製造された線材を伸線して伸線材を製造し、伸線量による引張強度と延伸率を測定し、その結果を表2及び
図3に示した。
【0051】
【表2】
【0052】
上記表2及び
図3を参照すると、本発明による発明鋼は、伸線量が増加すると、強度が増加すると共に優れた延伸率が確保される。即ち、本発明による発明鋼は、80%の伸線時にも25%以上の延伸率が確保されるのに対し、従来鋼や比較鋼は、強度の増加率が低く、延伸率も急激に低下することが分かる。