(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1に記載の金属パイプの接合装置において、前記接合ツールを該接合ツールの中心軸方向に押圧した際に発生する反力に抗し、前記金属パイプの内周面上を転動する反力受けローラを備える金属パイプの接合装置。
請求項1又は2に記載の金属パイプの接合装置において、前記筐体が、前記保持具と前記押圧部が一端部に取り付けられた前部筐体と、前記第1の駆動部が内蔵された後部筐体とを備え、前記前部筐体と前記後部筐体が偏心及び偏角を許容するオルダム軸継手で連結され、
前記第1の駆動部と該第1の駆動部の回転力を伝達する回転軸が偏角を許容する自在軸継手で連結されている金属パイプの接合装置。
請求項1〜9のいずれか1項に記載の金属パイプの接合装置を前記金属パイプ内に挿入し、該金属パイプの内部から摩擦撹拌接合により前記金属パイプ同士を突合せ接合する金属パイプの接合方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
硫化水素などが多量に含まれる天然ガス等の流体を輸送する配管では、配管内面が高腐食環境となるため、配管として用いる金属パイプの端面同士の突合せ接合において配管内面に開口する欠陥が存在すると、該欠陥を起点とする応力腐食割れが生じることがある。
【0008】
一方、金属パイプの内面からアーク溶接を行うと、前記欠陥の発生を防止できるが、溶接時に発生したスパッタが配管内面に付着し、スパッタを起点とする応力腐食割れが生じることがある。このため、溶接後のスパッタ除去の作業が必要となる。
【0009】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、金属パイプ同士を突合せ接合する際、金属パイプの内面に開口欠陥を生じさせず、且つ接合時におけるスパッタも発生させない、金属パイプの接合装置及びそれを用いた金属パイプの接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る金属パイプの接合装置は、同軸上に並べられた金属パイプの端面同士を接合する金属パイプの接合装置であって、2つの金属パイプの端面間の被接合部に押し込まれるプローブが先端に形成された接合ツールと、前記接合ツールを該接合ツールの中心軸方向に移動可能に保持する保持具と、
前記中心軸に対して位置をずらされた状態で前記保持具に接続され、前記保持具を介して前記接合ツールを前記中心軸回りに回転させる第1の駆動部とを有する摩擦撹拌部と、
前記第1の駆動部を介さずに前記保持具に接続され、前記保持具を介して前記接合ツールを該接合ツールの中心軸方向に押圧し、前記プローブを前記被接合部に圧入する押圧部と、前記第1の駆動部が内蔵され、前記保持具と前記押圧部とが一端部に取り付けられた筒状の筐体と、前記筐体を介して
前記保持具および前記押圧部を回転させることで前記接合ツールを前記金属パイプの内周面に沿って円周方向に移動させる第2の駆動部を有する円周方向移動部とを備える、金属パイプを該金属パイプの内部から摩擦撹拌接合により接合する金属パイプの接合装置である。
【0011】
この接合装置は、プローブを先端に有する接合ツールをその中心軸回りに回転させる第1の駆動部と、接合ツールを該接合ツールの中心軸方向に押圧する押圧部と、接合ツールを金属パイプの内周面に沿って円周方向に移動させる第2の駆動部とを備えている。金属パイプ内に本接合装置を挿入し、第1の駆動部を駆動して接合ツールをその中心軸回りに回転させながら、押圧部で接合ツールを該接合ツールの中心軸方向に押圧してプローブを被接合部に押し付けることにより、プローブと被接合部の間に摩擦熱が発生して被接合部が軟化し、被接合部中にプローブが埋没する。そして、プローブ周辺の材料がプローブの回転に引きずられる形で塑性流動を起こす。接合ツールの回転数と押圧力を維持した状態で第2の駆動部を駆動させ、接合ツールを金属パイプの内周面に沿って円周方向に移動させることにより、金属パイプ同士が塑性流動によって一体化され接合される。
【0012】
また、本発明に係る金属パイプの接合装置では、前記接合ツールを該接合ツールの中心軸方向に押圧した際に発生する反力に抗し、前記金属パイプの内周面上を転動する反力受けローラを備えることを好適とする。
【0013】
当該構成によれば、押圧部で接合ツールを押圧し、プローブを被接合部に押し付けた際に発生する反力を反力受けローラで受けることができるので、接合ツールを押圧した状態を維持しつつ、金属パイプの内周面に沿って円周方向に接合ツールを安定的に移動させることができる。
【0014】
また、本発明に係る金属パイプの接合装置では、前記筐体が、前記保持具と前記押圧部が一端部に取り付けられた前部筐体と、前記第1の駆動部が内蔵された後部筐体とを備え、前記前部筐体と前記後部筐体が偏心(平行誤差)及び偏角(角度誤差)を許容するオルダム軸継手で連結され、前記第1の駆動部と該第1の駆動部の回転力を伝達する回転軸が偏角を許容する自在軸継手で連結されていてもよい。
【0015】
金属パイプは真直度の公差内で軸芯と異なる方向に曲がっている場合がある。そのため、本発明に係る金属パイプの接合装置の中心軸と金属パイプの軸芯を一致させた場合でも、金属パイプの接合箇所では、接合ツールを金属パイプの内周面に沿って円周方向に移動させる際の回転軸と金属パイプの軸芯との間に角度差が生じ、以下のような問題が発生するおそれがある。
a.一部の反力受けローラが金属パイプの内面に当接せず、反力モーメントが発生する。
b.金属パイプの内面に対してプローブを適切な角度、例えば垂直に押し付けられず、接合部の品質不良が発生する。
c.プローブの押し付け位置が接合位置から外れ、金属パイプの円周方向で接合されない箇所が発生する。
【0016】
当該構成では、筐体を前部筐体と後部筐体に分割し、前部筐体と後部筐体とをオルダム軸継手で連結すると共に、第1の駆動部と該第1の駆動部の回転力を伝達する回転軸とを自在軸継手で連結しているので、金属パイプが途中で曲がっていても、これら軸継手部で金属パイプの公差を吸収することができる。そのため、上記問題の発生を抑制できる。
【0017】
また、本発明に係る金属パイプの接合装置では、前記接合ツールのトラベル角を調節する第1の調節機構と、前記接合ツールのワーク角を調節する第2の調節機構と、を備えることが好ましい。
【0018】
前記第1の調節機構は、前記接合ツール、前記保持具及び前記押圧部と前記筐体との間に配される板部と、前記板部と前記筐体とを締結するボルトとを備え、前記板部には、前記ボルトを挿通する長孔が形成され、前記長孔により、前記プローブの先端を支点とした前記板部の前記筐体に対する回動が許容される構成とすることが好ましい。
【0019】
前記第2の調節機構は、前記被接合部の角度を測定する第1のセンサと前記接合ツールの角度を測定する第2のセンサとを備える角度検出手段と、前記角度検出手段から入力された値に基づき前記ワーク角を算出する演算手段と、前記演算手段の算出結果に基づき、前記接合ツールの中心軸の傾きを調節するアクチュエータとで構成されていても良い。この場合、前記アクチュエータは、前記オルダム軸継手に設けられ、前記筐体の中心軸方向に前記アクチュエータを駆動することにより、前記接合ツールの中心軸の傾きを調節する構成とすることが好ましい。
【0020】
当該構成では、接合ツールの中心軸の角度を、プローブの先端を支点として自在に変更することが可能である。このため、接合ツールと被接合部との接触角(トラベル角、ワーク角)を、適正値となるように調節した上で摩擦撹拌接合を行うことができる。そのため、上記bのような問題が生じ、バリの発生、肉厚の減少、グルーブと呼ばれる加工痕の発生を抑制でき、良好な接合品質を実現できる。
【0021】
また、本発明に係る金属パイプの接合装置では、前記金属パイプ同士の接合線と前記接合ツールの進路とのずれを補正する第3の調節機構を備えることが好ましい。
【0022】
前記第3の調節機構は、前記接合線を検出する第3のセンサと、前記第3のセンサの検出値に基づき前記被接合部と前記接合ツールの進路とのずれ量を算出する演算手段と、前記ずれ量に応じて前記接合ツールの進路を変更する方向転換部と、を備えていても良い。
【0023】
当該構成では、接合ツールの進路と接合線とがずれている場合でも、第3の調節機構91により接合ツール22の進路を補正することができる。また、カメラ92と演算手段を用いて繰り返し接合ツールの進路と接合線(接合箇所)とのずれを検出し、補正をして接合線上でプローブを回転させることができる。このため、上記cのような問題が生じて接合強度が落ちることが防止される。その結果、高い接合精度を得られる。
【0024】
また、本発明に係る金属パイプの接合方法では、上述の金属パイプの接合装置を前記金属パイプ内に挿入し、該金属パイプの内部から摩擦撹拌接合により前記金属パイプ同士を突合せ接合する。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、プローブを先端に有する接合ツールをその中心軸回りに回転させる第1の駆動部、接合ツールを金属パイプの内周面に沿って円周方向に移動させる第2の駆動部、並びに接合ツールを該接合ツールの中心軸方向に押圧する押圧部とを備えた金属パイプの接合装置及びそれを用いた金属パイプの接合方法なので、金属パイプの内部から摩擦撹拌接合により該金属パイプ同士を突合せ接合することができる。そのため、金属パイプ同士を突合せ接合する際、金属パイプの内面に開口欠陥が生じることがなく、接合時におけるスパッタも発生せず接合後の後処理が不要となる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態について説明する。
【0028】
[第1の実施の形態に係る金属パイプの接合装置]
本発明の第1の実施の形態に係る金属パイプの接合装置10(以下では、単に「接合装置」と呼ぶことがある。)の側断面を
図1に、接合装置10を金属パイプ11の軸方向から見た断面を
図2に示す。
なお、以下では、説明の便宜上、金属パイプ11はその管軸(軸芯)が水平方向となるように配置されているものとし、金属パイプ11の管軸方向に沿った突合せ接合部側(
図1では左側)を「前」側、その反対側を「後」側と呼ぶ。また、管軸に直交する方向において、接合装置の停止時にプローブ21が位置する側を「下」側、その反対側を「上」側と呼ぶことにする。
【0029】
接合装置10は、金属パイプ11同士を金属パイプ11の内部から摩擦撹拌接合により突合せ接合する装置であり、被接合部12(
図2参照)に圧入されるプローブ21が先端に形成された接合ツール22をその中心軸R回りに回転させる摩擦撹拌部20と、接合ツール22を中心軸R方向(金属パイプ11の半径方向外側)に押圧し、プローブ21を被接合部12に圧入する押圧部35と、接合ツール22(プローブ21)を金属パイプ11の内周面に沿って円周方向に移動させる円周方向移動部40とを備えている。
【0030】
摩擦撹拌部20は、円柱状の接合ツール22と、接合ツール22の中心軸Rと同軸とされ、接合ツール22の一端面から突出するプローブ21と、接合ツール22を保持する保持具25と、保持具25を介して接合ツール22を中心軸R回りに回転させる第1モータ30(第1の駆動部)とを備えている。
【0031】
接合ツール22及びプローブ21には、金属パイプ11を構成する被接合部材及び炭素鋼材の融点より高い温度において金属パイプ11よりも強度の大きな、例えば多結晶立方晶窒化ホウ素(PCBN)や、PCBNとタングステン複合材料との合金材などが使用される。
【0032】
保持具25は、接合ツール22が嵌入される嵌入穴(図示省略)を一端面の中心部に有する概略円柱状のチャック部材23と、チャック部材23に外嵌され、中心軸Rを回転軸として回転可能とされた円筒部材24とを有している。プローブ21、接合ツール22、チャック部材23、及び円筒部材24は、中心軸Rを共通の中心軸としている。
円筒部材24の内面には、中心軸R方向に延在する突条部24aが形成されている。チャック部材23は、突条部24aをガイドとして円筒部材24内を中心軸R方向に移動可能とされると共に、円筒部材24と一緒に回転する。
【0033】
押圧部35は、円筒部材24の直上に設置されチャック部材23を中心軸R方向に移動させてプローブ21を被接合部12に圧入する油圧シリンダ37と、被接合部12にプローブ21を圧入した際に発生する反力に抗し、金属パイプ11の内周面上を転動する複数の反力受けローラ38とを備えている(
図2参照)。
油圧シリンダ37のロッド36の先端部は、チャック部材23の上端に接続された円筒状の接続部材23a内に挿入されている。ロッド36の先端部と接続部材23a(チャック部材23)は玉軸受33を介して連結されており、チャック部材23が回転した際にロッド36が回転しない機構になっている。
なお、反力受けローラ38は、金属パイプ11の半径方向に移動可能とされている。
【0034】
円周方向移動部40は、保持具25と押圧部35が一端部(前面部)に取り付けられた円筒状の筐体41と、筐体41の他端側(後面側)に配置され、筐体41をその中心軸Sを回転軸として回転させる第2モータ44(第2の駆動部)とを備えている。
【0035】
筐体41の内部には、保持具25を接合ツール22の中心軸R回りに回転させる第1モータ30が設置されている。第1モータ30は、シャフト(図示省略)が筐体41の中心軸S上に位置するように設置されており、ベベルギア27が装着された回転軸28が連結部材29を介してシャフトに接続されている。なお、中心軸Sと中心軸Rは直交し、且つ同一平面内に存在する。
一方、筐体41の外周面には、金属パイプ11の内周面上を転動し、金属パイプ11の半径方向に移動可能とされた従動ローラ42が取り付けられている。
【0036】
保持具25を構成する円筒部材24は、筐体41の前面に取り付けられた外殻部材31で覆われている。円筒部材24と外殻部材31の間には、中心軸Rを回転軸として円筒部材24が回転できるように円錐ころ軸受32が介装されている。また、円筒部材24の外周面には、第1モータ30の回転力を伝達するベベルギア27と噛合するベベルギア26が環装されている。
第1モータ30が駆動すると、第1モータ30に連結された回転軸28の回転力は、ベベルギア27からベベルギア26を介して円筒部材24に伝達され、円筒部材24はチャック部材23と共に中心軸Rを回転軸として回転する。
なお、外殻部材31の外面には、金属パイプ11の内周面上を転動し、金属パイプ11の半径方向に移動可能とされた従動ローラ39が取り付けられている(
図2参照)。
【0037】
第2モータ44は、シャフト(図示省略)が筐体41の中心軸S上に位置するように、支持部材45により金属パイプ11内に固定されている。また、筐体41と第2モータ44とは、連結部材43を介して接続されている。
第2モータ44が駆動すると、筐体41並びに筐体41の前面に取り付けられた保持具25及び押圧部35が中心軸Sを回転軸として回転する(
図2参照)。即ち、プローブ21(接合ツール22)が金属パイプ11の内周面に沿って円周方向に移動する。
【0038】
次に、上記構成を有する接合装置10を用いて金属パイプ11同士を接合する方法について説明する。
(1)金属パイプ11の端面同士が突き合わされた接合面(金属パイプ11の管軸と直交する面)内に接合ツール22の中心軸Rが位置するように、接合装置10を金属パイプ11内に挿入する。その際、接合装置10に設けられた反力受けローラ38、従動ローラ39、42、及び支持部材45を金属パイプ11の半径方向内側に引っ込めておく。
(2)接合ツール22の中心軸Rを金属パイプ11の接合面内に配置した後、反力受けローラ38、従動ローラ39、42、及び支持部材45を金属パイプ11の半径方向外側に移動させる。そして、反力受けローラ38及び従動ローラ39、42を金属パイプ11の内周面に当接させると共に、筐体41の中心軸Sが金属パイプ11の管軸上に位置するように、第2モータ44を支持部材45で金属パイプ11内に固定する。
【0039】
(3)第1モータ30を駆動して接合ツール22をその中心軸R回りに回転させると共に、油圧シリンダ37のロッド36を移動させて被接合部12にプローブ21を押し付けて、被接合部12中にプローブ21を埋没(圧入)させ、被接合部12に塑性流動を発生させる。接合ツール22の回転数と押圧力を維持しながら、第2モータ44を駆動して接合線(金属パイプ11の端面同士を突合せた部分)に沿ってプローブ21(接合ツール22)を移動させることにより、金属パイプ11の内周面側の接合を行う。
【0040】
第1の実施の形態に係る金属パイプの接合装置10によれば、プローブ21を先端に有する接合ツール22をその中心軸R回りに回転させる第1モータ30、接合ツール22を金属パイプ11の内周面に沿って円周方向に移動させる第2モータ44、並びに接合ツール22を該接合ツール22の中心軸R方向(金属パイプ11の半径方向外側)に押圧する押圧部35を備えているため、金属パイプ11の内部から摩擦撹拌接合により金属パイプ11の端面同士を接合することができる。そのため、金属パイプ11同士を接合する際、金属パイプの内面に開口欠陥が生じることがなく、接合時におけるスパッタも発生せず接合後の後処理が不要となる。
【0041】
また、この接合装置10によれば、押圧部35で接合ツール22を押圧し、プローブ21を被接合部12に押し付けた際に発生する反力を反力受けローラ38で受けることができるので、接合ツール22を押圧した状態を維持しつつ、金属パイプ11の円周方向に接合ツール22を安定的に移動させることができる。
【0042】
[第2の実施の形態に係る金属パイプの接合装置]
本発明の第2の実施の形態に係る金属パイプの接合装置18の側断面を
図3に示す。なお、第1の実施の形態に係る接合装置10と同じ構成要素には同じ符号を付し、説明を省略する。
【0043】
接合装置18では、第1モータ30のシャフトと第1モータ30の回転力を伝達する回転軸28が、偏角を許容する自在軸継手14で連結されており、第1モータ30のシャフトの中心軸と回転軸28の中心軸とがなす角度が可変とされている。なお、偏角は、第1モータ30のシャフトと回転軸28がなす角度のことである。
【0044】
また、接合装置18では、第2モータ44によって回転させられる筐体46が、保持具25と押圧部35が一端部に取り付けられた筒状の前部筐体46aと、第1モータ30が内蔵された筒状の後部筐体46bとから構成されている。そして、前部筐体46aと後部筐体46bは、偏心及び偏角を許容するオルダム軸継手13で連結されている。なお、偏心とは、前部筐体46aの中心軸と後部筐体46bの中心軸が同一直線上にないことをいい、偏角は、前部筐体46aの中心軸と後部筐体46bの中心軸とがなす角度のことである。
【0045】
偏心及び偏角を許容するオルダム軸継手13の斜視図及び分解斜視図を
図4A、
図4Bに示す。
オルダム軸継手13は、一端面に2つの第1突起部15aが形成された円柱状の第1ハブ15と、一端面に2つの第2突起部16aが形成された円柱状の第2ハブ16と、これら第1ハブ15及び第2ハブ16の間に配置された円柱状のスライダ17と、を備えている。
第1ハブ15、スライダ17及び第2ハブ16は、金属パイプ11の管軸に沿って、この順序で同軸上に並ぶように配置されている。この際、第1ハブ15及び第2ハブ16は、第1突起部15a及び第2突起部16aをそれぞれスライダ17側に向けた状態で配置されている。
スライダ17における両端面のうち、第1ハブ15側に向いた一端面には、第1突起部15aが嵌合する第1溝17aが形成され、第2ハブ16側に向いた他端面には、第2突起部16aが嵌合する第2溝17bが形成されている。
【0046】
一対の第1突起部15aは、その先端部が第1ハブ15の中心軸に沿ってスライダ17側に向けて突出するように形成されており、第1ハブ15の中心軸を挟んで第1ハブ15の半径方向に向かい合うように配置されている。
一対の第2突起部16aは、その先端部が第2ハブ16の中心軸に沿ってスライダ17側に向けて突出するように形成されており、第2ハブ16の中心軸を挟んで第2ハブ16の半径方向に向かい合うように配置されている。
なお、第1ハブ15及び第2ハブ16は、一対の第1突起部15aと一対の第2突起部16aとがスライダ17の円周方向に沿って交互に且つ等間隔で並ぶように、スライダ17を間に挟んで配置されている。
一対の第1突起部15aの先端部は、それぞれ側面視円形状に膨出した円板状に形成されている。その際、一対の第1突起部15aの先端部は、第1ハブ15の中心軸を挟んで面同士が対向し合うように形成されている。一対の第2突起部16aの先端部も、一対の第1突起部15aと同様に形成されている。
一方、スライダ17に形成された第1溝17a及び第2溝17bは、それぞれ溝底部側が第1突起部15a及び第2突起部16aの形状に対応した側面視円形状に形成されている。従って、2つの第1溝17aにおける溝底部側の中心を、スライダ17の半径方向に沿って互いに貫く第1仮想線Xと、2つの第2溝17bにおける溝底部側の中心を、スライダ17の半径方向に互いに貫く第2仮想線Yとは、スライダ17の端面と平行な面内において十字状に直交する。
そして、第1突起部15aの先端部が第1溝17a内に嵌合し、第2突起部16aの先端部が第2溝17b内に嵌合することで、第1ハブ15、スライダ17及び第2ハブ16は各端面間に隙間をあけた状態で連結されている。
【0047】
なお、第1突起部15a及び第2突起部16aの基端部は、
図5に示すように、第1ハブ15及び第2ハブ16の端面に形成された凹陥部15b、16bにそれぞれ挿入されている。そして、これら第1突起部15a及び第2突起部16aの基端部と凹陥部15b、16bの底面との間には、スプリング19が圧縮された状態で介装されている。これにより、第1突起部15a及び第2突起部16aは、それぞれスライダ17方向に付勢されている。
【0048】
第1ハブ15の第1突起部15aがスライダ17の第1溝17aに沿ってスライドすることで第1溝17a方向(第1仮想線X方向)の偏心を吸収し、第1ハブ15の第1突起部15aがスライダ17の第1溝17aの第1仮想線X回りに回動することで第1溝17a回り(前記第1仮想線X回り)の偏角を吸収する。同様に、第2ハブ16の第2突起部16aがスライダ17の第2溝17bに沿ってスライドすることで第2溝17b方向(第2仮想線Y方向)の偏心を吸収し、第2ハブ16の第2突起部16aがスライダ17の第2溝17bの第2仮想線Y回りに回動することで第2溝17b回り(前記第2仮想線Y回り)の偏角を吸収する。
【0049】
上記構成により、接合装置18では、金属パイプ11が途中で曲がっていても、オルダム軸継手13及び自在軸継手14で金属パイプ11の公差を吸収することができる。そのため、金属パイプ11の接合箇所において、接合ツール22を金属パイプ11の内周面に沿って円周方向に移動させる際の回転軸と金属パイプ11の軸芯との間に角度差が生じることがない。
【0050】
[第3の実施の形態に係る金属パイプの接合装置]
本発明の第3の実施の形態に係る金属パイプの接合装置50の側断面を
図6に示す。なお、第2の実施の形態に係る接合装置18と同じ構成要素には同じ符号を付し、説明を省略する。
【0051】
接合装置50は、トラベル角及びワーク角の調節機構を備える点で第2の実施の形態に係る接合装置18と異なっている。即ち、接合装置50は、接合ツール22の中心軸Rと被接合部12との接触角度を、中心軸Sに直交する面内、及び中心軸Sと中心軸Rを通る面内(中心軸S及び中心軸Rが延在し合う面内)で調節する機構を備えている。以下、これらの調節機構について詳述する。
【0052】
図7Aは、トラベル角を調節する第1の調節機構61を示す図であり、
図6の接合ツール22及び後述する板部62を軸方向前側から見た図である。トラベル角とは、接合ツール22の中心軸Rと、プローブ21と被接合部12との接点における被接合部12の接線方向と、のなす角を指す。つまり、第1の調節機構61は、中心軸Sに直交する面内における中心軸Rの傾き角度を調節することで、トラベル角を調節する。
【0053】
第1の調節機構61は、接合ツール22、保持具25及び押圧部35と前部筐体46aとの間に配される円環状の板部62と、板部62と前部筐体46aとを接続するボルト63と、を備える。
【0054】
板部62は、板部62より前側(
図6の左側)に配された接合ツール22、保持具25、押圧部35、即ち被接合部12にプローブ21を押し付けて被接合部12に塑性流動を発生させる部材と連結されている。例えば、板部62は、円錐ころ軸受32を介して保持具25を覆っている外郭部材31に対して連結されている。これにより、接合ツール22、保持具25及び押圧部35は、板部62を介して前部筐体46aに連結されている。
第1の調節機構61では、前部筐体46aと板部62とをボルト63を用いて締結することにより、円周方向移動部40に対する接合ツール22の相対位置を、中心軸Sに直交する面内で調整することが可能とされる。
【0055】
板部62には、ボルト63を挿通するための複数の長孔62aが形成されている。これら複数の長孔62aは、板部62の円周方向に間隔をあけて形成されている。各長孔62aは、2つの平行な円筒面を含む曲面で画定される。この円筒面は、プローブ21の先端Tを通り中心軸Sと平行な中心軸を有する。
つまり、各長孔62aは、中心軸Sに直交する面内においてプローブ21の先端Tを支点とした板部62の回動を許容するように、その回動方向に沿って長く形成されている。この際、各長孔62aは、その形成位置に応じて(プローブ21の先端Tからの距離に応じて)、延在する長さが異なっている。
【0056】
このような第1の調節機構61では、
図7Bに示すように、プローブ21の先端Tを支点として、長孔62aが形成された範囲だけ板部62を回動することができ、前部筐体46aに対する板部62の固定位置を調節することが可能である。
【0057】
具体的には、長孔62aに挿通した複数のボルト63を前部筐体46aの不図示のボルト孔に緩めた状態で螺合させた後、プローブ21の先端Tを支点として板部62を回動させる。これにより、中心軸Sに直交する面内で接合ツール22の中心軸Rの傾きが変わり、トラベル角が摩擦撹拌接合に適した角度となるように前部筐体46aと板部62との相対位置が調節される。その後、ボルト63を締め付けて板部62を前部筐体46aに固定することにより、接合に適した角度にトラベル角を維持することができる。
【0058】
次に、ワーク角を調節する第2の調節機構71について説明する。ワーク角とは、接合ツール22の中心軸Rと、プローブ21と金属パイプ11との接点における金属パイプ11の半径方向とのなす角を指す。即ち、ワーク角とは、被接合部12と金属パイプ11の管軸とを通過する法線と、接合ツール22の中心軸Rとのなす角度であり、法線に対する接合ツール22の傾き度合いを示す角度である。
第2の調節機構71は、中心軸S及び中心軸Rを通る面内で接合ツール22の中心軸Rの角度を変更する。
図6、
図8A及び
図8Bに示すように、第2の調節機構71は、アクチュエータ78と、角度検出手段81と、演算手段85とを備える。
【0059】
図6を参照して、角度検出手段81について説明する。角度検出手段81は、第1のセンサ82と、第2のセンサ83とを備える。第1及び第2のセンサ82、83はそれぞれ、金属パイプ11(被接合部12)の角度と接合ツール22の角度を測定するものである。
【0060】
第1のセンサ82は、金属パイプ11の外周面に取り付けられたリング84の外周面に取り付けられている。このリング84は、2つの半割りリングから構成され、各半割リングのフランジ(不図示)を対向させてボルト等により2つの半割リングを締結することで、金属パイプ11の接合線の外周面に取り付けられている。これにより金属パイプ11が突合せられた状態で、リング84によって固定されているため、接合ツールを金属パイプに押圧した際に押圧に伴い被接合部がラッパ状に広がることを抑制できる。第1のセンサ82は、リング84の外周面のうち、接合装置50の停止状態における接合ツール22の位置と反対側(上側)に設置される。第2のセンサ83は、接合ツール22近傍、具体的には外殻部材31に取り付けられている。
【0061】
第1のセンサ82は、金属パイプ11の角度(重力方向に対する金属パイプ11の管軸(または半径方向)の角度)を測定する。第2のセンサ83は、接合装置50の設置角度(重力方向に対する中心軸S(またはR)の角度)を測定する。第1及び第2のセンサ82、83としては、例えば角度センサや、光切断法などにより形状を計測するセンサを用いることができる。測定された角度は、第1、第2のセンサ82、83から演算手段85に送信される。
【0062】
演算手段85は、第1及び第2のセンサ82、83により測定された角度の差分に基づいて、ワーク角を算出する。そして、演算手段85は、算出したワーク角に基づき、次に説明するオルダム軸継手73のアクチュエータ78を駆動する。これによりワーク角が調節される。
【0063】
図8A及び
図8Bは、オルダム軸継手73を説明するための斜視図及び分解斜視図である。オルダム軸継手73は、第2の実施の形態に係るオルダム軸継手13と同様に、第1ハブ75と、第2ハブ76と、スライダ77とで構成されている。第1ハブ75は、オルダム軸継手13の第1ハブ15と同じ構成であり、その一端面に一対の第1突起部75aが設けられている。
【0064】
第2ハブ76には、中心軸に沿って延びる凹陥部76aが形成されている。この凹陥部76aにはアクチュエータ78が嵌合固定されている。
【0065】
アクチュエータ78は、第2ハブ76の中心軸に沿って延びる円筒状のシリンダチューブ78aと、このシリンダチューブ78a内を摺動するピストン78bと、シリンダチューブ78aと接続された不図示の油圧ポンプとを備える油圧シリンダである。油圧ポンプを駆動してシリンダチューブ78a内の油圧を変化させることにより、ピストン78bは第2ハブ76の中心軸に沿って往復移動する。
なお、アクチュエータ78としては、油圧シリンダに限定されず、例えばエアシリンダや電動アクチュエータを用いてもよい。ピストン78bの先端部は、第2の実施の形態における第2突起部16aの先端部と同様の形状とされている。
【0066】
第2ハブ76には、第2ハブ76の中心軸を挟んで凹陥部76aとは半径方向の反対側に位置する部分に、第2突起部76bが設けられている。第2突起部76bは、第1突起部75aやピストン78bと異なり、第2ハブ76と一体に形成されている。第2突起部76bの先端部は、第2の実施の形態における第2突起部16aの先端部と同様の形状とされていると共に、第2の仮想線の軸上に位置するように貫通孔が形成されている。
【0067】
スライダ77には、第1突起部75aが嵌合する2つの第1溝77a、ピストン78bが嵌合する第2溝77b、第2突起部が固定される凹部77cが形成されている。このうち、第1溝77a及び第2溝77bは、第2の実施の形態のオルダム軸継手13の第1溝17a、第2溝17bと同じ形状である。
従って、2つの第1溝77aの中心を結ぶ線が第1仮想線X’とされ、第2溝77bと凹部77cの中心を結ぶ線が第2仮想線Y’とされ、これら両仮想線はスライダ77の端面と平行な面内で十字状に直交する。
【0068】
凹部77c内には、該凹部77c内に第2突起部76bの先端部を配置させた際に、第2突起部76bの貫通孔に対応する位置にボルト孔が形成されている。ボルト76cを第2突起部76bの貫通孔に挿通させ、凹部77cのボルト孔と螺合させることで、第2ハブ76とスライダ77とが連結される。このとき、第2突起部76bは凹部77cに完全に固定されるのではなく、上下方向の動きや凹部77cに対する傾きが許容された状態で取り付けられる。なお、ボルト76cの代わりにピンを用いても良い。
【0069】
以上のようなオルダム軸継手73は、第2突起部76bと接合ツール22との位置が、接合装置50の円周方向において一致するように取り付けられている。
図9に示すように、プローブ21を被接合部12に配置した状態でアクチュエータ78が駆動されることにより、中心軸R及びSを通る面内で、オルダム軸継手73の軸方向端面が前側または後ろ側に傾く。
この結果、接合ツール22の中心軸Rが、プローブ21の先端Tを支点として前側または後側に傾く。つまり、被接合部12と金属パイプ11の管軸とを通過する法線に対する接合ツール22の傾きを変化させて、ワーク角を調節することができる。
【0070】
次に、上記の第1の調節機構61及び第2の調節機構71を備える接合装置50におけるトラベル角及びワーク角を調節する方法について説明する。
(1)はじめに、接合装置50を金属パイプ11の外部に設置した状態で、トラベル角が適正範囲内となるように第1の調節機構61を用いて調節を行う。この適正範囲は、接合ツール22(プローブ21)の形状や、金属パイプ11の材質等の接合条件から決定される。接合装置50の実際のトラベル角は、金属パイプ11の形状や接合装置50の形状から求められる。トラベル角が適正範囲内となるように、プローブ21の先端Tを支点として板部62を回動させることにより、板部62の前部筐体46aに対する取り付け位置を調節し、ボルト63により板部62を前部筐体46aに固定する。
【0071】
(2)トラベル角の調節後、接合ツール22が被接合部12と接触するように、接合装置50を金属パイプ11の内部に設置する。この時、金属パイプ11の外周面上にはリング84が取り付けられ、リング84には第1のセンサ82が取り付けられている。また、第2センサ83が外殻部材31に取り付けられている。この状態で、油圧シリンダ37のロッド36を移動させて被接合部12にプローブ21を押し付ける。
(3)次いで、ワーク角が適正範囲内となるように第2の調節機構71を用いて調節する。この適正範囲は、接合ツール22(プローブ21)の形状や、金属パイプの材質により決定され、予め演算手段85に入力されている。第1のセンサ82と第2のセンサ83とで測定した角度を、演算手段85に送信する。演算手段85において、入力された角度に基づきその時点におけるワーク角が求められる。
【0072】
(4)演算手段85で得られたワーク角が予め入力された適正範囲内である場合には、アクチュエータ78をロックし、ピストン78bが動かないように規制する。これに対して、演算手段85で得られたワーク角が予め入力された適正範囲内でない場合は、演算手段85においてワーク角と適正範囲とのずれ量を算出する。演算手段85はそのずれ量に基づきアクチュエータ78を駆動し、ワーク角が適正範囲となるように調節する。(3)におけるワーク角の算出以降の手順を繰り返し行いワーク角が適正範囲内となった場合には、アクチュエータ78をロックし、ピストン78bが動かないように規制する。
(5)第1の実施の形態の方法により、接合装置50を駆動し、金属パイプ11同士を接合する。
【0073】
第3の実施の形態に係る金属パイプの接合装置50によれば、接合ツール22の中心軸Rの角度を、プローブ21の先端Tを支点として自在に回動することが可能である。このため、接合ツール22と被接合部12との接触角(トラベル角、ワーク角)を、適正値となるように調節した上で摩擦撹拌接合を行うことができる。これにより、特殊な形状の接合ツールを用いることなく、バリの発生や肉厚の減少、加工痕の発生を抑制できる。また、金属パイプ11に管軸方向の反りや、被接合部がラッパ形状である等の形状不良がある場合にも、プローブ21と被接合部12とを適切な角度(ワーク角、トラベル角)で接触させることができる。この結果、良好な接合品質を実現できる。
【0074】
なお、第3の実施の形態における第2の調節機構71は上記の構成に限定されない。例えば、オルダム軸継手73は、一つのアクチュエータ78を備えているが、第2突起部76bの代わりに凹陥部76aをもう一つ設け、そこに第2のアクチュエータ78を取り付けても良い。また、第1及び第2のセンサ82、83の設置位置は
図6に示す位置に限定されず、金属パイプ11や接合ツール22の角度を測定できる位置であれば良く、それぞれ被接合部12の近傍や接合ツール22の近傍に配置されていれば良い。但し、第1のセンサ82と第2のセンサ83とで、重力方向に対し角度を測る方向(例えば、軸方向、半径方向等)を同じ方向とすることが好ましい。この場合、演算手段85において、第1、第2のセンサ82、83で測定した値の差分の計算のみでワーク角を得ることができる。
【0075】
[第4の実施の形態に係る金属パイプの接合装置]
本発明の第4の実施の形態に係る金属パイプの接合装置90の側断面を
図10に示す。なお、第3の実施の形態に係る接合装置50と同じ構成要素には同じ符号を付し、説明を省略する。
【0076】
接合装置90は、摩擦撹拌接合中にプローブ21の位置と被接合部12(接合線)との位置を補正する第3の調節機構91を備える点で第3の実施の形態に係る接合装置50と異なっている。即ち、接合装置90は、金属パイプ11の内周面において、プローブ21の位置を補正する第3の調節機構91を備えている。以下、
図10〜12を参照し、第3の調節機構91について詳述する。
【0077】
第3の調節機構91は、カメラ92、方向転換部93、及び不図示の演算手段を備えている。
カメラ92は、接合線を検出するセンサとして、接合ツール22の進路上、即ち、接合ツール22の進行方向前方に配置されている。カメラ92で撮影された画像は、不図示の演算手段(第3の実施の形態の演算手段85と兼用しても良い)に入力される。演算手段は、この入力された画像から、接合ツール22の進路が接合線から外れているか否かを判定し、その結果に基づき方向転換部93を操作する。ここで、接合ツール22の進路とは、その瞬間における回転中心が維持された状態で接合ツール22が金属パイプ11の内周面を移動した場合のプローブ21の先端Tの進路を指す。
【0078】
方向転換部93は、ステアリング用ローラ94と、ラック96と、ピニオン95と、不図示のモータとで構成される。ステアリング用ローラ94は、プローブ21の先端の進行方向を調整するものである。なお、本実施の形態では、4つの反力受けローラ38のうち、接合ツール22の進行方向において接合ツール22に近い側(
図10の右側)に位置する2つを、ステアリング用ローラ94として利用している。このため、ステアリング用ローラ94は、被接合部12にプローブ21を押し付けた際に発生する反力を受ける反力受けローラとしても機能する。
【0079】
ピニオン95は、不図示のモータに接続され、モータの回転が入力される。ピニオン95は、金属パイプ11の管軸に平行に往復移動可能に配置されたラック96と噛み合うように配置され、ピニオン95とラック96とでラックアンドピニオン機構が構成される。ラック96の両端部にステアリング用ローラ94がそれぞれ接続されており、ラック96がその長手方向(金属パイプ11の管軸方向)に移動することにより、ステアリング用ローラ94の向きが変更される。
【0080】
次に、接合装置90における第3の調節機構91を用いた接合ツール22の進行方向の補正方法について説明する。
(1)第3の実施の形態と同じ方法により、接合ツールのトラベル角及びワーク角を調節する。
(2)第1の実施の形態と同じ方法により、接合ツール22をその中心軸R回りに回転させると共に、被接合部12にプローブ21に押し付けて被接合部12中にプローブ21を埋没(圧入)させ、塑性流動を発生させる。
【0081】
(3)第2モータ44を駆動し、プローブ21(接合ツール22)を金属パイプ11の内周面に沿って円周方向に移動させる。このとき、プローブ21が360度回転して接合線を全て接合し終えるまで、以下の操作(3−1)〜(3−3)を繰り返す。
(3−1)プローブ21(接合ツール22)の進行方向前方に配置されたカメラ92で接合線を撮影し、撮影したデータ(画像)を演算手段に送信する。
(3−2)演算手段は、入力されたデータに基づき、プローブ21(接合ツール22)の進路と接合線とのずれ量を算出する。
【0082】
(3−3)ずれがない、またはずれ量が無視できる場合は、(3−1)に戻る。一方、ずれが無視できない程度に生じている場合は、方向転換部93を駆動してずれを無くす方向にプローブ21(接合ツール22)の進路を変更する。
具体的には、演算手段がモータを制御して該モータを必要な回転量だけ回転させ、ピニオン95に伝達されたモータの回転をラックアンドピニオン機構によりラック96の直線運動に変換させる。これにより、ステアリング用ローラ94の向きを変更でき、プローブ21(接合ツール22)の進路を変更することができる。このとき、
図12に示すように、プローブ21(接合ツール22)の進路の変更に合せてオルダム軸継手73の第1ハブ75が移動するので、プローブ21の進路の中心のずれを、第1ハブ75とスライダ77との接続部で吸収することができる。
なお、ステアリング用ローラ94の向きが変更された後、(3−1)に戻る。
【0083】
第4の実施の形態に係る金属パイプの接合装置90によれば、接合ツール22の進路と接合線とがずれている場合でも、第3の調節機構91により接合ツール22の進路を補正することができる。また、カメラ92と演算手段を用いて繰り返し接合ツール22の進路と接合線とのずれを検出し、適宜そのずれを補正をしながら、接合線上に沿ってプローブ21を確実に走行(回転)させることができる。このため、プローブ21と接合線とが一致しない状態で摩擦撹拌接合が行われることを防止でき、接合線とプローブ21とが一致しない状態で摩擦撹拌接合が行われて接合強度が落ちることが防止される。その結果、良好な接合品質を実現できる。
【0084】
また、接合装置90では、ステアリング用ローラ94に反力受けローラの機能を持たせたことにより、両者を別々に設ける必要がない。そして、ステアリング用ローラ94に反力が負荷されることにより、ステアリング用ローラ94が金属パイプ11の内周面を滑ることが抑制されるため、第3の調節機構91による補正が適切に行われる。
【0085】
なお、第3の調節機構91における方向転換部93は上述の構成に限定されない。例えば、
図13A、13Bに示すように、第3の実施の形態におけるオルダム軸継手73において2つの第1突起部75aの代わりにアクチュエータ98を備えるオルダム軸継手93Aで構成しても良い。
【0086】
オルダム軸継手93Aは、第1ハブ97と、第2ハブ76と、スライダ77とを備え、第2ハブ76及びスライダ77はオルダム軸継手73と同じ構成である。第1ハブ97は、2つのアクチュエータ98を備えており、このアクチュエータ98は第2ハブ76のアクチュエータ78と同じ形状及び構成を有し、アクチュエータ98のピストン98bの先端がそれぞれスライダ77の第1溝77aに嵌合する。
【0087】
次に、このオルダム軸継手93Aを備える第3の調節機構を用いた接合ツール22の進行方向の補正方法について説明する。この第3の調節機構では、プローブ21が360度回転して接合線を接合し終えるまでに次の操作を繰り返す。
(1)プローブ21(接合ツール22)の進行方向前方に配置されたカメラ92で接合線を撮影したデータを演算手段に送信する。
(2)演算手段では、入力されたデータに基づき、プローブ21(接合ツール22)の予想される進路と接合線とのずれ量を算出する。
【0088】
(3)ずれがない、またはずれ量が無視できる場合は、(1)に戻る。ずれが無視できない程度に生じている場合は、オルダム軸継手93Aのアクチュエータ98を駆動してずれを無くす方向にプローブ21(接合ツール22)の進路を変更する。具体的には、演算手段で2つのアクチュエータ98の必要な駆動量を算出し、アクチュエータ98を駆動する指示をする。2つのアクチュエータ98が駆動されて、第1ハブ97の向きが変更される(
図12参照)。その結果、プローブ21(接合ツール22)の進路が変更される。その後(1)に戻る。
【0089】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、上記実施の形態では、第2の駆動部を金属パイプ内に配置しているが、筐体と第2の駆動部とを連結するシャフトを長くして第2の駆動部を金属パイプ外に配置してもよい。また、第4の実施の形態では第3の調節機構を、第3の実施の形態の第1及び第2の調節機構と組み合わせて用いているが、第3の調節機構を第2の実施の形態に組み合わせて、第3の調節機構単独で用いる構成としても良い。