【文献】
田崎和江、服部竜哉、岡美登子、飯泉滋,“微生物関与による淡水性マンガンノジュールの初期生成”,地質学雑誌,日本,日本地質学会,1995年 1月,第101巻,第1号,87−98ページ
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、この手法には問題点がある。前述のように、川床の石に沈着した金属は基本的にその後も沈着したままであるから、単に試料を分析するだけでは、その沈着が過去に起きたものなのか、それとも最近起きたものなのかを判断することができない。つまり、金属の沈着時期を特定することが難しい。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、現在起きている河川等の水路の底への金属の沈着状況を精度良く調査するための装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述の目的を達成するための本発明の一つは、水路の底における金属の沈着状況を調査するための装置であって、前記水路を流れる水が上端開口から流入し、流入した水を貯留する貯水槽と、前記貯水槽と連通する連通部を備え、前記連通部を介して前記貯水槽から水が流入するとともに、上端開口から水が排出される試験槽と、金属が付着する素材で表面が構成され、前記試験槽の内部に配置されて当該試験槽を流通する水に浸漬される板状の試験部材とを備え、前記貯水槽の上端開口の高さは前記試験槽の上端開口の高さよりも高く設定され、前記連通部は、前記試験槽の上端開口の高さよりも低い位置に設けられていることを特徴とする。
【0009】
本発明の装置によれば、水路の水は貯水槽を経て試験槽に貯留されるので、試験槽の内部に浸漬された試験部材の表面には、水路の水に含まれる金属成分が付着される。したがって、この試験部材の表面を顕微鏡で観察したり成分分析を行ったりすることで、付着された金属の種類や量を求め、これにより現在の金属の沈着状況を推定することができる。このように、本発明の装置によれば、現在起きている河川等の水路の底への金属の沈着状況を正確に調査することができる。
【0010】
また、本発明の装置は前記のように、貯水槽の上端開口の高さが試験槽の上端開口の高さよりも高く設定されているので、貯水槽及び試験槽が満水になると両槽に所定の水頭差が生じ、貯水槽から試験槽には一定量の水が流れるようになる。したがって、本発明によれば、水路の流量の変化に関係なく、例えば季節、天候、調査位置の違い等に関係なく、常に一定流量の水に基づく金属の沈着状況を調査することができる。これにより、現在の金属の沈着状況を客観的かつ正確に調査することができる。
【0011】
また、本発明の他の一つは、前記試験槽の内部に入射される外光を遮る遮光部材を備えることを特徴とする。
【0012】
試験槽の内部に入射される外光を遮る遮光部材を備えることにより、試験部材に藻類等が付着することを防ぐことができる。試験部材に藻類が付着していると、藻類と金属との区別が付きにくくなり、金属の付着状況を正確に判定できなくなるおそれがある。そこで遮光部材を設けておくことにより、付着した金属の種類やその量を正確に判定することができる。
【0013】
また、本発明の他の一つは、前記貯水槽は、前記水路から流れてくる水に含まれる夾雑物を取り除く夾雑物除去部を備えることを特徴とする。
【0014】
夾雑物を取り除く夾雑物除去部を備えているので、夾雑物が試験部材に付着して金属の種類やその量を判定する妨げになることを防ぐことができる。
【0015】
また、本発明の他の一つは、前記試験部材は光透過性を有する光透過性素材からなることを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、試験部材に付着した金属を視覚的に観察する場合、その付着金属を容易に発見することができる。これにより、付着金属の種類やその量を容易に推定することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、河川等の水路の底への金属の沈着状況を正確に調査することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<構成>
図1、2は、本実施形態に係る沈着状況調査装置10の構成を説明する図である。
図1、2に示すように、沈着状況調査装置10は、河川等の水路から分岐された取水路3の放水口4付近に設けられる。水路は、例えば、その底が黒色を呈しているような河川である。沈着状況調査装置には、そのような水路の水が流れている取水路3からの水が流入する。
【0020】
同図に示すように、沈着状況調査装置10は、貯水槽20と、貯水槽20と連通する試験槽30とを含んで構成されている。
【0021】
貯水槽20は、その上端が開口した直方体形状の水槽であり、例えば樹脂板やコーティングが施された金属板で作製される。この貯水槽20の上端開口24には、取水路3から放出された水が流入される。
【0022】
試験槽30もまた、その上端が開口した直方体形状の水槽であり、貯水槽20の側面22を外側から囲むように設けられている。試験槽30の全高は、貯水槽20の全高よりも小さい。そして、
図2にも示すように、試験槽30の底面31は、貯水槽20の底面23よりも符号Hで示す高さだけ上方の位置に設けられている。一方で、試験槽30の上端開口32の高さは、貯水槽の上端開口24の高さよりも符号hで示す高さだけ下方の位置に設けられている。この符号hで示す高さが、満水時における水頭差に相当する。
【0023】
図1に示すように、貯水槽20の側面22には開口34が設けられている。この開口34は、連通部に相当する部分であり、貯水槽20と試験槽30とを連通する。この開口34を通じて、取水路3からの水は、貯水槽20から試験槽30へと流入される。
【0024】
開口34は横長矩形状をしており、その開口下縁34aは、底面31と同じ高さか、多少高い位置に形成されている。一方、開口上縁34bは、試験槽30の上端開口32よりも低い位置に形成され、この開口上縁34bには流路区画部材35が取り付けられている。この流路区画部材35は、断面コ字状の部材であり、鉤括弧状に屈曲した流路を区画する。このため、流路区画部材35の片側半部は貯水槽20側に、残りの半部は試験槽30側に配置されている。
【0025】
また、試験槽30内には、試験部材ホルダー40が設けられている。試験部材ホルダー40は、底面31に立設された支持部材43によって、試験槽30内における高さ方向の中間位置に位置付けられている。言い換えれば、試験部材ホルダー40の上端高さは、少なくとも試験槽30の上端開口32よりも低く定められている。さらに、試験部材ホルダー40は、その内部に収容空間41を有しており、収容空間41内には試験部材42が収容される。
【0026】
試験部材ホルダー40の表面の各所には不図示の開口、具体的には、試験部材42よりもサイズの小さい開口が設けられている。この開口を通じて収容空間41には、試験槽30に貯留された水が流通する。また、試験部材ホルダー40は、図示しない開閉機構を備え、この開閉機構により試験部材42は試験部材ホルダー40から自由に出し入れが可能となっている。
【0027】
なお、
図3に試験部材42の構造を示した。同図に示すように、試験部材42は長方形をした板状部材であり、表面が金属成分(酸化金属類等)を付着する性質を備える素材で作製されている。この試験部材42は、例えば、ポリエチレン、アルミナ、ガラス、アクリル等といった素材からなる。
【0028】
図2に示すように、貯水槽20には遮光部材45が設けられている。遮光部材45は、2つの平板45a、45bを鉤括弧状に組み合わせてなる部材である。平板45aは貯水槽20の側面22における、上端開口32よりも上方の位置に、側方へ向けて取り付けられている。このとき平板45bは、下方に向けて取り付けられる。遮光部材45は、例えば着色加工を施したポリエステル等の遮光性を有する素材からなり、上方から入射してくる外来光(太陽光等)を平板45a、及び平板45bによって遮る。
【0029】
一方、貯水槽20の側面21には、夾雑物蓄積容器46が取り付けられている。夾雑物蓄積容器46は、その上面が開口した直方体形状の容器である。また、貯水槽20の上方には、平板状の部材であるフィルタ47が取り付けられている。フィルタ47は傾斜を付けた状態で取り付けられており、その一辺47aは側面21の上辺に固定され、他方の辺47bは、側面22の上辺に立設された柱部材25の上端に支持されている。これによりフィルタ47の傾斜面(上面)は、放水口4に向けて斜めに固定されている。なお、フィルタ47としては樹脂製の網材が用いられる。
【0030】
<使用方法>
次に、沈着状況調査装置10の使用方法について、沈着状況調査装置10における水の流れを示した
図4を参照しつつ説明する。
【0031】
同図に示すように、貯水槽20の上端開口24には、放水口4から排出された水5が流入される。貯水槽20の上部に設けられたフィルタ47は、水5は通すが、水5と共に落下してくる夾雑物6は通さず、この夾雑物6はフィルタ47の傾斜面を辿って夾雑物蓄積容器46に落下して蓄積される。
【0032】
水5の流入により貯水槽20の水量が増加し、やがてその水位が試験槽30の底面31の高さを超えると、貯水槽20の水は開口34を通じて試験槽30に流入する。そして、試験槽30の水位が試験槽30の上端開口32の高さを超えると、水は、上端開口32から越流して排出され、試験槽30の周囲の空間48を落下する。排出された水は所定の排水路に導かれる。
【0033】
ところで、貯水槽20には随時、取水路3から水が流入しているが、この流入した水の全量が試験槽30に流入するわけではない。これは、貯水槽20と試験槽30の間に設けられた流路区画部材35によって、貯水槽20から試験槽30に流入する水の量が規制されているためである。すなわち、試験槽30に流入する量よりも多くの量の水が貯水槽20に流入すると、貯水槽20の上端開口24からも水が溢れることになる。
【0034】
そして、貯水槽20及び試験槽30の双方が満水となると、貯水槽20の水の水圧と試験槽30の水の水圧との間には一定の水頭差hが生じ、これにより、貯水槽20から試験槽30には水頭差hに基づく一定量の水が流れるようになる。これにより、試験部材ホルダー40内の試験部材42は、常に貯水槽20からの一定量の水流を受け続けることになる。言い換えれば、試験槽30に流入する量よりも多くの量の水を貯水槽20に流入させることで、一定流量の水を試験部材42に接触させることができる。このような状態に達したら、所定期間(例えば1時間)、待機する。
【0035】
所定期間経過後、沈着状況調査装置10を他所に移動させ、試験部材ホルダー40から、収容されていた試験部材42を取り出す。そして、取り出した試験部材42の表面に金属が付着しているか否かを確認する(例えば光学顕微鏡で観察する)。もし金属の付着が確認できた場合、その金属は、水路の水に含まれる金属に由来し、その金属は、水路の底部における呈色原因になっていると考えられる。そこで、その付着した金属の種類やその付着量を確認することで、水路の底部の着色が現在進行していることなのか、また、着色がどの程度の速さで進行しているのか等を推定することができる。
【0036】
このように、本実施形態の沈着状況調査装置10によれば、当該沈着状況調査装置10に設けられた試験部材42に付着した金属の種類や付着量を求めることで、水路の底における現在の金属の沈着状況を容易に推定することができる。
【0037】
また、本実施形態の沈着状況調査装置10は、貯水槽20の上端開口24の高さが試験槽30の上端開口32の高さよりも高く設定されているので、貯水槽20及び試験槽30が満水になると貯水槽20及び試験槽30の間には所定の水頭差hが生じ、貯水槽20から試験槽30には一定量の水が流れるようになる。したがって、本実施形態の沈着状況調査装置10によれば、水路(河川等)の流量の変化に関係なく、例えば季節、天候、調査位置の違い等に関係なく、一定流量の水に基づく金属の沈着状況を調査することができる。これにより、水路における現在の金属の沈着状況を客観的かつ正確に調査することができる。
【0038】
また、本実施形態の沈着状況調査装置10は、試験槽30の内部に入射される外光を遮る遮光部材45を備えていることにより、試験部材42に藻類等が付着することを防ぐことができる。試験部材42に藻類が付着していると、藻類と金属との区別が付きにくくなり、金属の付着状況を正確に判定できなくなるおそれがある。そこで遮光部材45を設けておくことにより、付着した金属の種類やその量を正確に判定することができる。
【0039】
また、水路から流れてくる水に含まれる夾雑物6を取り除くフィルタ47を備えているので、夾雑物6が試験部材42に付着し、付着した夾雑物6が金属の種類やその量を判定する妨げになることを防ぐことができる。
【0040】
<<素材比較試験>>
前述のように、沈着状況調査装置10における試験部材42には、ガラス、アクリル等、様々な素材のものを使用することが考えられるが、どのような素材のものが沈着状況の調査に適しているかを検証するため、以下のような試験(以下、素材比較試験という)を行った。この素材比較試験では、素材の異なる複数種類の試験部材を準備し、各試験部材を河川に浸漬させてその呈色状況や、試験部材に付着した物質の元素分析を行った。
【0041】
図5は、試験装置50の構成を説明する図である。具体的には、(a)は試験装置50の斜視図、(b)は試験装置の側面図、(c)は試験装置の平面図である。
【0042】
同図に示すように、試験装置50は、試験容器51と、試験容器51に収容される矩形板状の試験部材52とからなる。
【0043】
試験容器51は、底面部材53、周壁部材54、一対の柱部材55(55a、55b)、及び上枠部材56を含んで構成されている。このうち底面部材53は横長矩形の平板状部材であり、その上面には、複数の試験部材52が板厚方向に並べられた状態で立設されている。
【0044】
周壁部材54は、底面部材53の周縁に沿って立設された部材であり、底面部材53に立設された試験部材52を側方から支持する。なお、周壁部材54を構成する周壁のうち、底面部材53の長手方向(X軸方向)の部分である一対の壁部54a、54bの下部には、一対の開口部57(57a、57b)が設けられている。一方、底面部材53の短手方向(Y軸方向)の部分である一対の壁部54c、54dの上端には一対の柱部材55(55a、55b)が立設されている。
【0045】
上枠部材56は、柱部材55の上面に支持された枠型の部材であり、その枠の大きさは、周壁部材54の周の大きさと略一致させてある。
図5(c)に示すように、この上枠部材56の長手方向の枠部56a、56bには、相対する2つの凹部58が形成され複数の嵌合構造59を構成している。各凹部58は、長手方向の枠部56a、56bの内側の面に沿って設けられている。凹部58の形状は、試験部材52の端部の形状と略一致させており、この一対の凹部58と、試験部材52の端部52aとの位置をあわせて、試験部材52を上方から挿入することで、試験部材52は、試験容器51に固定された状態で立設される。
【0046】
なお、この試験容器51には、把持部61が取り付けられている。把持部61は試験容器51の上方に設けられており、把持部61の下端61aは柱部材55に取り付けられている。
【0047】
<試験方法>
次に、試験方法について説明する。
図6に、素材比較試験の試験条件をまとめた図を示した。同図に示すように、この素材比較試験では、試験部材52として、ガラス、アクリル、アルミナ、及びポリエチレンの長方形板材を用いた。試験部材52の寸法は、いずれの場合も、縦26mm×横76mm×厚さ2〜3mmの長方形板材とした。また、後述するように、試験期間(浸漬期間)は約1ヶ月とした。
【0048】
素材比較試験においては、試験装置50を以下のように用いた。
図7に示すように、試験装置50の把持部61に吊設部材62(例えば針金)の一端を巻き付けて試験装置50を吊り下げ、その状態で、当該試験装置50を河川8の川床に沈めた。
【0049】
図8は川床に沈めた試験装置50の様子を説明する図である。同図に示すように、河川の川床63に沈めた試験装置50に対しては、上流からの水流9が流れてくる。試験部材52の表面には、この水流9中に含まれる金属成分(酸化金属類等)が付着していく。このような状態で試験装置を約1ヶ月放置した。なお、吊設部材62の他端は河岸の所定位置に固定しておき、試験装置50が流されないようにしておいた。そして、試験装置50を沈めてから1ヶ月後、当該試験装置50を河川8から引き上げ、試験部材52の表面観察及び分析を行った。
【0050】
図9は、試験部材52の観察、分析方法を説明する図である。同図に示すように、光学顕微鏡により、ガラス、アクリル、ポリエチレン、アルミナの試験部材52の表面を観察した。また、アルミナの試験部材52については、EDS(Energy Dispersive x-ray Spectroscopy)による表面分析を行った。
【0051】
なお、アルミナの試験部材52に対してEDSを用いたのは、アルミナが電子線に強い性質を有しているためである。さらに、河川の流水には表面分析の妨げとなる藻類等の生物類が浮遊している可能性があるところ、これらの生物類にはアルミニウムがほとんど含まれていない。そのため、アルミナの試験部材52を用いて観察しても、生物類の有無の判断に支障が少ないからである。
【0052】
また、アルミナの他にはガラスも電子線に強いが、ガラスはケイ素、ナトリウム、カルシウムを主成分とするため、これらの成分と、生物由来のケイ素、ナトリウム、カルシウムとの区別が付きにくい。この点においてアルミナは、EDS分析に適しているといえる。また、電子線に強いアルミナの試験部材52の場合はSEM(Scanning Electron Microscope)を用いることもできる。
【0053】
<観察結果>
次に、試験部材52の観察結果について説明する。
図10〜13(10A、10B、10C、11A、11B、11C、12A、12B、13A、13B)は、試験部材52の光学顕微鏡写真である。このうち
図10(10A〜10C)は試験部材52がガラスの場合の光学顕微鏡写真である(写真のスケールバーは30μm)。同図に示すように、浸漬後の試験部材52の表面には、約20μm程度の大きさの茶色の粒子71の付着が確認され(
図10A、10B)、一部には薄い茶色のコーティング72も観察された(
図10C)。また、
図11(11A〜11C)は試験部材52がアクリルの場合の光学顕微鏡写真であるが(写真のスケールバーは30μm)、これもガラスの場合と同様に、浸漬後の試験部材52の表面に約20μm程度の大きさの茶色の粒塊73の付着が確認され(
図11A)、一部には薄い茶色のコーティング74が観察された(
図11B、11C)。なお、コーティング74の中心に、管形状を有する繊維状の付着物(約500μm)が確認されたが、少なくとも生物に由来するような細胞構造は見られなかった。
【0054】
図12(12A、12B)、
図13(13A、13B)はそれぞれ、試験部材52がアルミナ、ポリエチレンの場合の光学顕微鏡写真であるが(写真のスケールバーは300μm)、これらの場合も、ガラス、アクリルの場合と同様に、茶色の着色部75が観察された。
【0055】
次に、EDSによる観察結果について説明する。
図14は、試験部材52がアルミナの場合のEDSスペクトルである。同図に示すように、試験部材52からは、ケイ素、鉄、マンガンが検出された。
【0056】
<検討>
本試験で使用した試験部材52のいずれにも、茶色の粒子が観察された。この粒子は、マンガン酸化菌であるメタロゲニウム(マンガン酸化構造体)により生成された二酸化マンガンであると思われる。すなわち、本試験では、測定場所の上流から流れてきた水(河川水)にマンガンイオン(Mn
2+)が含まれており、このマンガンイオンが、測定場所に着生しているマンガン酸化菌によって二酸化マンガン(MnO
2)に酸化されたものと考えられる。
【0057】
また、沈着試験を行ったのは、微生物の活動がそれほど活発とはいえない水温の低い11月であった。また、1ヶ月という短期間で沈着試験を行ったにも拘わらず、マンガンの沈着が確認された。このことから、試験部材52を浸漬して行う金属の沈着状況の調査は、簡便かつ有効な方法であると考えられる。
【0058】
なお、
図10、11に示したように、ガラス、アクリルの試験部材52では、光学顕微鏡によるマンガンの着色の確認が特に容易であった。これは、ガラス、アクリルが透明であり光を透過するからである。したがって一般に、光透過性を有する素材を試験部材52として用いた場合は、マンガン等の金属の沈着を光学顕微鏡の透過光観察によって容易に発見することができると考えられる。これにより、付着金属の種類やその量を容易に推定することができる。
【0059】
一方、ポリエチレン、及びアルミナは不透明な素材であるため、透過光観察ができないことから,高倍率での観察が困難であったが,
図12、13に示したように、不明確ながらマンガンの沈着状況を観察することができた。
【0060】
また、アルミナは、
図14に示したようにEDSによる表面分析が可能であった。これは、前述のようにアルミナが電子線に強いためである。このように、アルミナの試験部材52を用いれば高倍率での金属の観察が可能となる。
【0061】
なお、以上の野外調査(素材比較試験)と同様の試験を、水質、水温がほぼ同じである水力発電所のダム直下の地点、及び発電所の放流地点において同時期に行ったところ、本試験とは金属の付着量に大きな差違が見られた。このことは、金属の付着量は水温、水質以外の他の要素、例えば水流の速さや懸濁物の量に大きく依存することを示唆している。したがって、異なる場所で沈着状況を調査してその沈着量の違いを調べる場合は、水流の速さや懸濁物の量などの条件を同一にしておくことが好ましいと考えられる。
【0062】
このことに鑑みると、本実施形態の沈着状況調査装置10は、一定の大きさの夾雑物を取り除くフィルタを備え、また、貯水槽から試験槽への水の流速を一定にする構造を備えていることから、これをどのような場所で用いても河川等の水路における金属の沈着状況を客観的かつ正確に判定することができると考えられる。
【0063】
以上の実施形態の説明は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれる。