特許第5908722号(P5908722)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大成建設株式会社の特許一覧 ▶ ニチアス株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5908722-無機質繊維飛散防止処理方法 図000002
  • 特許5908722-無機質繊維飛散防止処理方法 図000003
  • 特許5908722-無機質繊維飛散防止処理方法 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5908722
(24)【登録日】2016年4月1日
(45)【発行日】2016年4月26日
(54)【発明の名称】無機質繊維飛散防止処理方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/63 20060101AFI20160412BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20160412BHJP
【FI】
   C04B41/63
   E04G23/02 Z
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-289093(P2011-289093)
(22)【出願日】2011年12月28日
(65)【公開番号】特開2013-136490(P2013-136490A)
(43)【公開日】2013年7月11日
【審査請求日】2014年10月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000110804
【氏名又は名称】ニチアス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113804
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 敏
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 公一
(72)【発明者】
【氏名】大山 能永
(72)【発明者】
【氏名】瀬水 昇
(72)【発明者】
【氏名】常谷 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】黒坂 和弥
【審査官】 佐溝 茂良
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−156150(JP,A)
【文献】 特開2006−063299(JP,A)
【文献】 特開昭53−045325(JP,A)
【文献】 特開2007−295942(JP,A)
【文献】 特開2010−235435(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 41/00−41/72
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物に用いられる鉄骨製の梁あるいは柱の表面を耐火被覆するための、無機質繊維を含有する、湿式吹付け耐火被覆材の表面に浸透剤を浸透及び固化させ、更にその表面を難燃性の塗材で塗膜することにより、耐火被覆材からの無機質繊維の飛散を防止する無機質繊維飛散防止処理方法において、前記耐火被覆材の内部に浸透しきれない浸透剤が前記耐火被覆材の表面に残存し、前記耐火被覆材の表面に付着する粒状物又は同表面に形成される凹凸を覆うように被覆して被覆材の表面に平滑面を形成し、その上に塗材を積層させることで、浸透剤と難燃性の塗材が面接触して塗材と耐火被覆材の表面の密着性が向上するプライマー効果を奏するとともに、浸透剤が難燃性の塗材のアンカーの役目を果たすアンカー効果を奏して耐火被覆材表面を2重保護し、
浸透剤として、重合度500〜2000、ケン化度70〜95モル%、溶液濃度1〜8%、溶液粘度5〜500cPのポリビニルアルコールを使用するとともに、
難燃性の塗材が、合成樹脂エマルジョンと難燃剤と無機充填材とからなる固形分を35重量%以上〜80重量%以下含有し、その比率は合成樹脂エマルジョン5〜20重量%、難燃剤20〜60重量%、無機充填剤5〜60重量%とすることを特徴とした無機質繊維飛散防止処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、無機質繊維、特に石綿を含有する湿式吹付け耐火被覆材又は成型板耐火被覆材から無機質繊維、特に石綿が飛散することを防止するものである。
【背景技術】
【0002】
石綿の飛散を防止するための技術として、石綿を多く含む乾式吹付け材料には、表面に薬剤を吹き付け浸透固化させる方法が一般的に行われてきた(特許文献1等)。乾式吹付け耐火被覆材の場合、密度が低くスカスカのため、非常に浸透し易い可燃性の有機材料を使用しても少量で簡単に吹付け厚さ全体に亘って浸透し固化する。そして、無機材料である石綿との比率が非常に低くなるため、有機材料であっても耐火性から生じる問題は無かった。
【0003】
また、特許文献2には、成型板耐火被覆材である石綿ボードに対してポリビニルアルコール水溶液を含浸させて、石綿の粉塵化を防止する処理方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−48484号公報
【特許文献2】特開昭64−42376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
建築物等の耐火被覆材として使用されていた石綿の吹付け技術には、大きく分けて「乾式吹付け」のものと「湿式吹付け」のものがある。上記した特許文献1は「乾式吹付け」に係るものである。
これに対して「湿式吹付け」に対する石綿の飛散防止技術はこれまでほとんど確立されておらず(「乾式吹付け」は歴史が古く、建物の解体等で対応する必要性が高かった)、また「湿式吹付け」や「成型板耐火被覆材」の場合は表面が「乾式吹付け」と比較して著しく硬いため、石綿を封じ込めるために乾式吹付けで使用していた従来の封じ込め方法(技術)をそのまま適用できない。
【0006】
そこで、本願発明はこのような事情を考慮してなされたもので、「乾式吹付け」と比較して著しく硬く液体が浸透しにくい湿式吹付け耐火被覆材或いは同じく硬く液体が浸透しにくい成型板耐火被覆材に対して、それに含有される無機質繊維(特に石綿)を確実に封じ込めることに優れた無機質繊維飛散防止処理技術の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明の無機質繊維飛散防止処理技術は、従来(乾式吹付け)と異なる湿式吹付け耐火被覆材又は成型板耐火被覆材の場合にも、それに含まれる無機質繊維(例えば石綿)の封じ込め効果を確実なものとすることができる処理技術である。
ここで、上記「耐火被覆材」は、主に鉄骨梁や柱などの躯体の耐火被覆に使用されるものであるが、これに限定されるものではない。
また、上記「無機質繊維」は、湿式吹付け耐火被覆材又は成型板耐火被覆材に含有される無機質繊維であり、石綿の他にロックウールやガラスウールなども含まれる。
【0008】
本願発明の第1の発明は、建物に用いられる鉄骨製の梁あるいは柱の表面を耐火被覆するための、無機質繊維を含有する、湿式吹付け耐火被覆材の表面に浸透剤を浸透及び固化させ、更にその表面を難燃性の塗材で塗膜することにより、耐火被覆材からの無機質繊維の飛散を防止する無機質繊維飛散防止処理方法において、前記耐火被覆材の内部に浸透しきれない浸透剤が前記耐火被覆材の表面に残存し、前記耐火被覆材の表面に付着する粒状物又は同表面に形成される凹凸を覆うように被覆して被覆材の表面に平滑面を形成し、その上に塗材を積層させることで、浸透剤と難燃性の塗材が面接触して塗材と耐火被覆材の表面の密着性が向上するプライマー効果を奏するとともに、浸透剤が難燃性の塗材のアンカーの役目を果たすアンカー効果を奏して耐火被覆材表面を2重保護し、浸透剤として、重合度500〜2000、ケン化度70〜95モル%、溶液濃度1〜8%、溶液粘度5〜500cPのポリビニルアルコールを使用するとともに、難燃性の塗材が、合成樹脂エマルジョンと難燃剤と無機充填材とからなる固形分を35重量%以上〜80重量%以下含有し、その比率は合成樹脂エマルジョン5〜20重量%、難燃剤20〜60重量%、無機充填剤5〜60重量%とすることを特徴とした無機質繊維飛散防止処理方法である。
【0009】
ポリビニルアルコールについては、重合度が500未満であると固化した浸透剤の強度が弱くなり、また2000を超えるとポリビニルアルコールの溶液粘度が500cpを越えるため浸透剤が浸透し難くなる。好ましくは、重合度1700〜2000である。
またケン化度が70未満であると固化した浸透剤の強度が弱くなり、95を超えるとポリビニルアルコールの溶液粘度が500cpを越えるため浸透剤が浸透し難くなる。好ましくは、ケン化度80〜95モル%である。
さらに溶液濃度が1%未満であると固化した浸透剤の強度が弱くなり、溶液濃度が8%を超えるとポリビニルアルコールの溶液粘度が500cpを越えるため浸透剤が浸透し難くなる。好ましくは、溶液濃度3〜5%である。
加えて溶液粘度が5cp未満であると固化した浸透剤の強度が弱くなり、また重合度が2000を超えるとポリビニルアルコールの溶液粘度が500cpを越えるため浸透剤が浸透し難くなる。
【0010】
「難燃性の塗材」を構成する無機充填材としては、二酸化チタン,難燃剤としては、硫酸カルシウム,水酸化アルミニウム、水酸化マグネムシウム等の粉末のうち1又は2つ以上の組合せからなるものが好ましい。
ここで、難燃剤のうち金属水酸化物は、加熱されると脱水分解し、その際の吸熱により温度の上昇を抑制する効果を有しており、水酸化アルミニウムは、脱水温度が約300°C、水酸化マグネシウムは、脱水温度が約380°Cであるため、両者を併用した場合には脱水分解が2段階で進行し、合成樹脂が燃焼しはじめる300〜400°C間の温度上昇の抑制効果が長続きし、より確実なものとなる。この結果、防火性能が向上する。
「難燃性の塗材」を構成する含有物の比率については、合成樹脂エマルジョン5〜20重量%、難燃剤20〜60重量%、無機充填剤5〜60重量%とするのが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本願発明によれば、以下のような効果を有する。
(1)無機質繊維を含有する湿式吹付け型又は成型板型の耐火被覆材の表面に浸透剤を浸透及び固化させ、更にその表面を難燃性の塗材で塗膜することで、耐火被覆材が2重に保護されて耐火被覆材からの無機質繊維の飛散を確実に防止できる。すなわち、耐火被覆材の内部に浸透しきれない浸透剤が前記耐火被覆材の表面に残存し、前記耐火被覆材の表面に付着する粒状物又は同表面に形成される凹凸を覆うように被覆して、浸透剤と難燃性の塗材が面接触することで、難燃性の塗材と耐火被覆材の表面の密着性が向上するとともに(プライマー効果)、浸透剤が難燃性の塗材のアンカーの役目を果たし(アンカー効果)、耐火被覆材表面を確実に被覆できる。換言すれば、被膜は、被着体に強固に接着し、適度な柔軟性によって、衝突などの物理的衝撃に対し損傷を受け難い。
(2)浸透剤として、重合度500〜2000、ケン化度70〜95度、溶液濃度1〜8%、溶液粘度5〜500cPのポリビニルアルコールを使用したことで、硬く液体が浸透しにくい湿式吹付け型又は成型板型の耐火被覆材にも浸透し固化することで、耐火被覆材に含まれる無機質繊維(例えば石綿)を確実に封じ込めること(拘束)ができる。
(3)難燃性の塗材が、合成樹脂エマルジョンと難燃剤と無機充填材とを含有することで、形成される塗膜の強度・耐候性に優れ確実に耐火被覆材の表面を保護できるとともに、火災時における多量の煙や有害ガスの発生を防止できる。
(4)難燃性の塗材は、固形分を35重量%以上〜80重量%以下含有することで、耐火被覆材の表面に適度な厚さの塗膜(保護膜)を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本願発明の実施形態を示す説明図(A:浸透剤なし、B:浸透剤あり)。
図2】(a)試験装置の構造図(b)試験体Aの断面図(c)試験体Bの断面図
図3】(a)無機質繊維飛散防止処理の試験結果を示す図(b)耐久性の試験結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本願発明の無機質繊維飛散防止処理構造を図示したものである。
図1(A)及び図1(B)に示すように、鉄骨梁や柱などの躯体(図示省略)に、硬く液体が浸透しにくい湿式吹付け耐火被覆材10(以下「耐火被覆材10」という)が被覆されている。
図1(A)では、この耐火被覆材10に浸透剤を浸透・固化させずに難燃性の塗材40を塗布させた状態を示す。これによると、耐火被覆材10の表面に付着している塵埃等からなる粒状物20と難燃性の塗材40が直接に接触するので、点接触になってしまう(密着性が弱い)。
これに対して図1(B)では、耐火被覆材10に浸透剤30を浸透・固化させた本願発明を示す。これによると、耐火被覆材10の内部に浸透しきれない浸透剤30が耐火被覆材10の表面に残存し、耐火被覆材10の表面に付着している粒状物20を覆うように被覆して、難燃性の塗材40が浸透剤30と面接触する(密着性が高い)。
【0014】
従って、図1(B)に示す無機質繊維飛散防止処理構造を備えることにより、硬く液体が浸透しにくい耐火被覆材において、難燃性の塗材と耐火被覆材の表面の密着性が向上するとともに(プライマー効果)、浸透剤が難燃性の塗材のアンカーの役目を果たし(アンカー効果)、耐火被覆材表面の2重保護により耐火被覆材からの無機質繊維の飛散を確実に防止できるようになる。
【0015】
以下に、本願発明の実施例について説明する。
【実施例】
【0016】
<石綿飛散防止効果の試験>
本願発明の一実施例による無機質繊維飛散防止処理の試験結果について説明する。なお、現在では無機質繊維として「石綿」が入手できないため、本試験では石綿と性状が近い「岩綿」を使用している。図2(a)は試験装置の構成図である。試験装置は、試験体1を収容する、概ね気密な収容箱2と、収容箱2内の微細な粉塵の数を測定するパーティクルカウンタ3と、試験体1にエアーを吹き付けるノズル4と、ノズル4へエアーを供給するコンプレッサ5と、を備える。
【0017】
本実施例では試験体1として2種類の試験体A、Bを用い、それぞれ異なる無機質繊維飛散防止処理を施した。試験体Aは150mm×300mm×3mmの鋼板に石綿を模擬するものとして岩綿を成分として湿式吹付ロックウールを50mmの厚さで吹き付けて一定期間養生して岩綿含有物としたものである。図2(b)は試験体Aの断面を示す。一方、試験体Bは試験体Aの表面に深さ6mmの直線的な切り込みを7本施したものである。図2(c)は試験体Bの断面を示す。これは、既設建築物等に用いられている石綿含有物が、その表面に傷、ひび割れ等が存在する場合を想定している。
【0018】
無機質繊維飛散防止処理Xは、浸透剤を試験体の表面に浸透・固化させ、更にその表面を難燃性の塗材で被覆したものである。
・飛散防止処理X
始めに、重合度1700、ケン化度87モル%、溶液濃度4%、溶液粘度5.4cPのポリビニルアルコールを4重量%含有する浸透剤を試験体の全面に浸透深さを略5mmとして、浸透・固化させ、更に、その上に、合成樹脂エマルジョンとして変性アクリル樹脂を20重量%(変性アクリルエマルジョンとして40重量%)、無機充填材として二酸化チタン、難燃剤として水酸化アルミニウム及び硫酸カルシウムなどを合計60重量%含有する難燃性の塗材を試験体の全面に塗布して塗膜を形成した。
【0019】
そして、各試験体A、Bにそれぞれ飛散防止処理Xを施して、試験体表面にノズル4から風速12〜15m/sでエアーを10分間吹きつけ、パーティクルカウンタ3により収容箱2内の粉塵数をそれぞれ計測した。また、比較例として、収容箱2内に試験体を収容しない場合及び試験体Aについて、上記の飛散防止処理Xを行わない場合についてもそれぞれ収容箱2内の粉塵数をそれぞれ計測した。試験結果を図3(a)に示す。
【0020】
飛散防止処理を施した場合、飛散防止処理を施していない場合よりも著しく粉塵数が小さく、また、収容箱2内に試験体を収容しない場合とほとんど粉塵数が変わらないことから、硬く液体が浸透しにくい湿式吹付ロックウールにおいても浸透剤が浸透し数値的には石綿を模擬した岩綿が全く飛散していないことが確認された。
【0021】
<耐久性の試験>
次に、上記無機質繊維飛散防止処理による耐久性の試験について説明する。この耐久性試験では、上記の飛散防止処理Xを施した上記の試験体A、B並びに上記の飛散防止処理Xの施されていない試験体Aを対象とした。そして、気温60℃、湿度95%の多湿環境下に16時間置き、その後、気温60℃、湿度30%の乾燥環境下に8時間置く工程を1サイクルとして、これを10サイクル繰り返し、その後、上記の飛散防止効果の試験を行った。試験結果を図3(b)に示す。
【0022】
飛散防止処理Xを施した場合、飛散防止処理を施していない場合よりも著しく粉塵数が小さく、また、収容箱2内に試験体を収容しない場合とほとんど粉塵数が変わらないことから、数値的には飛散防止効果が全く損なわれていないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本願発明は、硬く液体が浸透しにくい湿式吹付け型又は成型板型の耐火被覆材の無機質繊維(例えば石綿)の飛散防止(封じ込め)処理技術として広く利用できるものである。
【符号の説明】
【0024】
10 耐火被覆材
20 粒状物
30 浸透剤
40 難燃性の塗材
図1
図2
図3