(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5908730
(24)【登録日】2016年4月1日
(45)【発行日】2016年4月26日
(54)【発明の名称】ろ過モジュール
(51)【国際特許分類】
B01D 63/00 20060101AFI20160412BHJP
【FI】
B01D63/00
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-3098(P2012-3098)
(22)【出願日】2012年1月11日
(65)【公開番号】特開2012-157857(P2012-157857A)
(43)【公開日】2012年8月23日
【審査請求日】2015年1月6日
(31)【優先権主張番号】特願2011-3397(P2011-3397)
(32)【優先日】2011年1月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507365204
【氏名又は名称】旭化成メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】荒牧 昌作
(72)【発明者】
【氏名】岩本 健太郎
【審査官】
池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭53−135891(JP,A)
【文献】
実開平02−081624(JP,U)
【文献】
実開昭57−169401(JP,U)
【文献】
特開昭54−015397(JP,A)
【文献】
特開昭57−180405(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00−71/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分離膜が収容される円筒状の本体ハウジングと、前記本体ハウジングの開口部に取り付けられるヘッダーと、前記本体ハウジングと螺合し、前記ヘッダーを前記本体ハウジングの軸方向に押し込んで前記本体ハウジングに着脱可能に固定する固定用ナットと、前記ヘッダーと前記本体ハウジングとの間に配置されるOリングと、を備えるろ過モジュールにおいて、
前記固定用ナットは、円形の開口部と、前記ろ過モジュールの内圧が大気圧を超える状況下で前記ヘッダーの変形を抑止する変形抑止部を備えており、
前記変形抑止部は、前記固定用ナットに形成された内側突出部によって構成され、
前記ヘッダーのうち前記ろ過モジュールの内圧が軸方向に作用する圧力投影部分の少なくとも一部を押さえており、
前記ヘッダーの外側面の外周付近には、前記内側突出部に合わせた形状の段部が形成され、
前記段部のうち前記変形抑止部によって押さえられる押さえ部は、前記ハウジングの開口部に対して平行な面で構成され、
前記ヘッダーの内側面は、前記ハウジングの開口部に対して傾斜しており、
前記圧力投影部分のうち、前記変形抑止部によって押さえられる押さえ部分の投影面積S2と、当該変形抑止部によって押さえられていない非押さえ部分の投影面積S1との比S2/S1が25%から300%の範囲内にある、ろ過モジュール。
【請求項2】
前記ヘッダーの前記軸方向への全投影面積と前記非押さえ部分の投影面積S1との差分を面積S3とした場合に、前記ヘッダーの前記圧力投影部分の投影面積S0に対する当該差分面積S3の比S3/S0が25%から175%の範囲内にある、請求項1に記載のろ過モジュール。
【請求項3】
前記ヘッダーの前記圧力投影部分の面積が少なくとも28cm2である、請求項1または2に記載のろ過モジュール。
【請求項4】
当該ろ過モジュールの内圧の最大値が少なくとも0.2MPa(絶対圧力)である、請求項1から3のいずれか一項に記載のろ過モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ろ過モジュールに関する。さらに詳述すると、本発明は、筒状の本体ハウジングの開口部にヘッダーを取り付ける構造のろ過モジュールの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
分離膜を用いたろ過モジュールが、例えば血液から所定成分を除去して血液を浄化する血液浄化療法などの医療分野や、水浄化処理分野などにおいて利用されている。
【0003】
このようなろ過モジュールとして、例えば、数百本〜数万本の中空糸膜をハウジング内に収容するという構造から、筒状等の本体ハウジングの開口部にヘッダーを着脱できるようにしたものが利用されている(特許文献1、2参照)。また、水密な構造とするため、本体ハウジングとヘッダーとの間にOリングを介在させるモジュールもある(特許文献3参照)。
【0004】
ところで、ヘッダー自体を本体ハウジングに螺合させて取り付ける構造のろ過モジュールにおいては、ヘッダーを回しながら取り付ける際にOリングに捻(ねじ)れ、縒(よ)れ、これらに起因する歪みを生じさせてしまうことがあり、そうすると、Oリングによる水密機能が十分に発揮されなくなるおそれがある。そこで、従来、本体ハウジングの開口部に螺合する固定用ナットを用い、本体ハウジングに対してヘッダーを相対回転させないようにして、Oリングを共回りさせずに取り付けるようにした構造のろ過モジュールが提案されている(例えば特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4369840号公報
【特許文献2】特開昭52−138071号公報
【特許文献3】特許第4147846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のろ過モジュールにおいては、内圧作用時におけるヘッダーの破損について十分に検討されていない。
【0007】
そこで、本発明は、当該モジュール内の圧力が高い場合にもヘッダーの変形や該変形に起因する破損を抑止することができるろ過モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決するべく本発明者は種々の検討を行った。近時、ろ過所要時間の短縮等を図るため従前よりも高い内圧を作用させて液体をろ過するようにしたろ過モジュールが提案されている。このようなろ過モジュールにおいては例えばヘッダーに対して従前よりも高い軸方向(ろ過モジュールの中心軸の方向)圧力が作用することになるが、これまで、高い内圧がヘッダーに及ぼしうる影響について十分に検討がなされてきたとは言い難い。また、耐久力を向上させる観点だけからすれば単純にヘッダー等の厚みを増やすことも考えられるが、重量や材料費等の面からすれば好ましい手段ではない。これらの点を踏まえてさらに検討を重ねた本発明者は、かかる課題の解決に結び付く新たな知見を得るに至った。
【0009】
かかる知見に基づく本発明は、分離膜が収容される筒状の本体ハウジングと、該本体ハウジングの開口部に取り付けられるヘッダーと、本体ハウジングと螺合し、ヘッダーを本体ハウジングの軸方向に押し込んで本体ハウジングに着脱可能に固定する固定用ナットと、ヘッダーと本体ハウジングとの間に配置されるOリングと、を備えるろ過モジュールにおいて、固定用ナットは、当該ろ過モジュールの内圧が大気圧を超える状況下でヘッダーの変形を抑止する変形抑止部を備えており、該変形抑止部は、ヘッダーのうち当該ろ過モジュールの内圧が軸方向に作用する圧力投影部分の少なくとも一部を押さえており、該圧力投影部分のうち、変形抑止部によって押さえられる押さえ部分の投影面積S2と、当該変形抑止部によって押さえられていない非押さえ部分の投影面積S1との比S2/S1が25%から300%の範囲内にある、というものである。
【0010】
一般にろ過モジュールの材質には樹脂が用いられているところ、従来程度の内圧下においては何ら問題のない樹脂製ヘッダーであっても、高い内圧(例えば3気圧程度)の状況下では変形を来たし、場合によっては破損に至るおそれがある。この点、本発明にかかるろ過モジュールにおいては、固定用ナットに形成されている変形抑止部が、ヘッダーにおいて内圧が軸方向に作用する圧力投影部分(軸方向への圧力作用部分)の少なくとも一部を押さえることによって当該ヘッダーの変形や該変形に起因する破損を抑止する。
【0011】
また、このろ過モジュールにおいては、本体ハウジングに対してヘッダーを軸方向に押し込んで固定するので、これらの間に介在するOリングに歪みを生じさせることがない。したがって、高い内圧が作用する状況下においてもヘッダーと本体ハウジングとの間を液密に保持することができる。
【0012】
このようなろ過モジュールにおいては、ヘッダーの軸方向への全投影面積と非押さえ部分の投影面積S1との差分を面積S3とした場合に、ヘッダーの圧力投影部分の投影面積S0に対する当該差分面積S3の比S3/S0が25%から175%の範囲内にあることが好ましい。
【0013】
また、本発明にかかるろ過モジュールにおいては、ヘッダーの圧力投影部分の面積が少なくとも28cm
2であることが好ましい。
【0014】
また、本発明にかかるろ過モジュールにおいて、当該ろ過モジュールの内圧の最大値が少なくとも0.2MPa(絶対圧力)である場合が望ましく、さらに好適には0.25MPa(絶対圧力)以上であることが好ましい。
【0015】
さらに、本発明にかかるろ過モジュールにおいて、固定用ナットに形成された内側突出部によって変形抑止部が構成されていることも好ましい。
【0016】
さらに、本発明にかかるろ過モジュールにおいて、固定用ナットに形成された内側突出部、および固定用ナットの開口部に形成された補強部によって変形抑止部が構成されていることも好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、当該モジュール内の圧力が高い場合にもヘッダーの変形や該変形に起因する破損を抑止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】ろ過モジュールの形態例を示す縦断面図である。
【
図2】ろ過モジュールを構成するヘッダー、固定用ナット等およびこれらの周辺の構造を示す(A)半裁部分の平面図と(B)縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
図1等に、本発明にかかるろ過モジュール1の一実施形態を示す。本実施形態におけるろ過モジュール1は、本体ハウジング2、ヘッダー3、固定用ナット4、Oリング5等を有している。
【0020】
本体ハウジング2は、分離膜(ここでは例えば中空糸膜6)を収容する筒状のハウジングで、本実施形態においては軸方向(当該筒状ハウジングの中心軸に沿った方向)の両端が開口した筒状に形成されている。両開口部21には、Oリング(密封部材)5を介在させた状態でヘッダー3が取り付けられる。また、本体ハウジング2の外周面には、ろ過を行うために液体などを通過させるためのポート103、104が設けられている。ポート103、104は、コネクター(図示省略)を介して液体流通ラインと接続されている。
【0021】
ヘッダー3は、上述の本体ハウジング2と分離成形されており、本体ハウジング2の開口部21に取り付けられて固定される。ヘッダー3の中央には、ろ過モジュール1に対して、液体などを通過させるポート101(またはポート102)が設けられている。ポート101、102は、コネクター(図示省略)を介して液体流通ラインと接続されている。また、ヘッダー3の外周付近には、固定用ナット4の内側突出部41に合わせた形状の段部31が形成されている(
図3参照)。ヘッダー3の本体ハウジング2を向く面の外周付近には、Oリング5を介在させるための凹部32が形成されている。
【0022】
固定用ナット4は、本体ハウジング2の開口部21にヘッダー3を着脱可能な状態で固定する内側突出部41付きの環状部材である。本実施形態の固定用ナット4は、本体ハウジング2の開口部21に螺合するように設けられており、螺合する際、内側突出部41でヘッダー3を軸方向に押し込み本体ハウジング2に固定する(
図2(B)等参照)。固定用ナット4の内周面には、本体ハウジング2の開口部21と螺合するねじ部42が形成されている(
図4等参照)。固定用ナット4の外周の形状は特に限定されないが、例えば本実施形態では作業者が手で回転させて本体ハウジング2に着脱する際の作業性を考慮して正12角形等の多角形状としている(
図5参照)。
【0023】
上述のヘッダー3や固定用ナット4は例えば樹脂製であるが、材質は特に限定されない。同様に、ヘッダー3や固定用ナット4の形状も特に限定されない。例示すれば、ヘッダー3、固定用ナット4の厚みは1〜10mm、材料の曲げ強さは200〜2000kg/cm
2であるが、対象とする液体や適用状況等に応じて適宜変更しうる。
【0024】
本体ハウジング2内には、多数の中空糸膜6が設けられている。中空糸膜6は、本体ハウジング2の軸方向に沿って配置され、本体ハウジング2の一端付近から他端付近まで延びている。本体ハウジング2内の軸方向の両端付近には、それぞれ中空糸膜6を支持する支持部材23が設けられている。支持部材23は、例えば本体ハウジング2の内部形状に適合する円盤状に形成され、中空糸膜6の端部を支持しつつ、各支持部材23の外側の空間A(ポート101、102が開口する空間)と、2つの支持部材23の内側の空間Bとを遮断している(
図1参照)。中空糸膜6の両端は、ポート101,102に通じる空間Aにそれぞれ開口している。したがって、例えばポート101又はポート102から流入した液体は、中空糸膜6の管内を通り、中空糸膜6の側壁を通過した液体が2つの支持部材23の間の空間Bに流出するようになっている。この中空糸膜6の側壁を通過する際に、液体から所定の物が分離される。空間Bに流出した液体は、本体ハウジング2に周壁に設けられているポート103、104から排出される。ポート103、104は、2つの支持部材23の間の空間Bに通じている。したがって、例えば中空糸膜6を通過した分離後の液体をポート103、104から排出することができる。本実施形態のポート103、104は、例えば円管状に形成され、その先端の開口端部には、環状のフランジ部が形成されている。なお、フランジの他に、フェルール、ニップル、ネジなどを使用できる。
【0025】
ここで、固定用ナット4には、ヘッダー3の変形を抑止する変形抑止部が形成されている。例えば本実施形態では、ヘッダー3のうち当該ろ過モジュール1の内圧が軸方向に作用する部分(本明細書では圧力投影部分という)の一部を上述した内側突出部41の少なくとも一部によって抑える構成としている(
図2において、内側突出部41のうち変形抑止部として機能する部分を符号41aによって示している)。変形抑止部は、当該ろ過モジュール1の内圧が大気圧を超える状況下(特に高圧の状況下)においてヘッダー3が変形するのを抑止する。
【0026】
固定用ナット4に形成される変形抑止部41aの具体的形状は特に限定されることはないが、変形抑止効果を十分に奏しうるものであることが好ましい。例えば本実施形態では、ヘッダー3のうち当該ろ過モジュール1の内圧が軸方向に作用する圧力投影部分(
図2において半径R0で示す円形部分)のうち、変形抑止部41aによって押さえられる押さえ部分(幅がR2の環状部分)の投影面積S2と、当該変形抑止部41aによって押さえられていない非押さえ部分(半径R1の円形部分)の投影面積S1(=π(R1)
2)との面積比S2/S1が25%から300%の範囲内となるように変形抑止部41aを形成している(
図2(A)、
図2(B)等参照)。面積比S2/S1が少なくとも25%である変形抑止部41aによれば、高い内圧(一例として0.2MPa(絶対圧力)以上)の状況下でもヘッダー3の変形や該変形に起因する破損を抑止する。また、面積比S2/S1が25%から300%の範囲内となるように形成された変形抑止部41aは、特に、ヘッダー3の圧力投影部分の面積が少なくとも28cm
2であり、内圧の最大値が少なくとも 0.45MPa(絶対圧力)である本実施形態のごときろ過モジュール1に適用して好ましい。しかも、この変形抑止部41aは固定用ナット4の一部に形成されているものであり、ヘッダー3の変形抑止のための他部材を要しない。ちなみに、R1=R2のとき、面積比S2/S1は300%となる。
【0027】
加えて、本実施形態のろ過モジュール1においては、本体ハウジング2に対してヘッダー3を軸方向に押し込むようにして固定するので、これらの間に介在するOリング5に、共回りに起因する歪みを生じさせることがない。したがって、高い内圧が作用する状況下においてもヘッダー3と本体ハウジング2との間を液密に保持することができる。
【0028】
また、このようなろ過モジュール1において、ヘッダー3の軸方向への全投影面積S(=πR
2)と非押さえ部分の投影面積S1(=π(R1)
2)との差分(換言すれば、幅がR−R1の環状部分の面積)を面積S3とした場合に、ヘッダー3の圧力投影部分の投影面積S0(=π(R0)
2)に対する当該差分面積S3の比S3/S0が25%から175%の範囲内にあることが好ましい。このような固定用ナット4によれば、高い内圧が作用した場合にもヘッダー3全体の持ち上がりを抑え、液密状態を保持することができる。
【0029】
上述した実施形態では分離膜の一例として中空糸膜6を挙げて説明したがこれは好適例に過ぎない。本発明の適用が可能な分離膜としては、この他、平膜型、スパイラル型、プリーツ型、管状型などが挙げられる。
【0030】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述した実施形態では固定用ナット4に形成された内周円形状の内側突出部41の一部を変形抑止部41aとして機能させたが、当該変形抑止部41aの形状はこのような内周円形(あるいは環状)のものに限られることはないし、ヘッダー3の外周付近を押さえるものに限られることもない。例示すれば、固定用ナット4の開口部の一部分と他の部分とを繋ぐように形成された帯状部分や突出部分などの補強部によってヘッダー3の変形をさらに抑止するようにした構成とすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、医療分野や水浄化処理分野などにおいて利用されるろ過モジュールに適用して好適である。
【符号の説明】
【0032】
1…ろ過モジュール、2…本体ハウジング、3…ヘッダー、4…固定用ナット、5…Oリング、6…中空糸膜(分離膜)、41…内側突出部、41a…変形抑止部