【実施例】
【0047】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、後述する実施例に限定されるものではない。
【0048】
<ポリアセタール樹脂組成物の原料>
〔1.ポリアセタール樹脂(A)〕
・ポリアセタール樹脂ホモポリマー(A−1)
攪拌羽根を具備する重合反応器をn−へキサンで満たし、該重合反応器に、ホルムアルデヒドガス(水分量:110ppm)と、重合触媒(ジメチルジステアリルアンモニウムアセテート)と、分子量調節剤(無水酢酸)とを、夫々連続的にフィードし、重合反応させて粗ポリアセタール樹脂ホモポリマーを得た。このときの重合反応温度は、58℃とした。
【0049】
この条件で得られた粗ポリアセタール樹脂ホモポリマーを、ヘキサンと無水酢酸との1対1混合溶媒で満たした反応容器に投入し、150℃で2時間、粗ポリアセタール樹脂ホモポリマーの不安定末端をエステル化処理した。このときのポリマーと混合溶媒(ヘキサンと無水酢酸の1対1混合溶媒)との質量比(スラリー濃度)は、混合溶媒(ヘキサンと無水酢酸との1対1混合溶媒)100に対して、ポリマーを20とした。
【0050】
粗ポリアセタール樹脂ホモポリマーの末端安定化処理終了後、反応容器から混合溶媒(ヘキサンと無水酢酸の1対1混合溶媒)とポリアセタール樹脂ホモポリマーとを取り出し、フレッシュのn−ヘキサン溶媒を加えてポリアセタール樹脂ホモポリマーを繰り返し洗浄し、無水酢酸を洗い落とした。当該洗浄は、ポリアセタール樹脂ホモポリマー中の無水酢酸濃度が10ppm以下になるまで繰り返した。
【0051】
その後、安定化したポリアセタール樹脂ホモポリマーを、120℃で3時間、−700mmHgの条件で減圧乾燥し、ポリアセタール樹脂ホモポリマーから洗浄に用いたn−へキサン溶媒を除去した。更に、ポリアセタール樹脂ホモポリマーを、120℃に設定した加熱式乾燥機を用いて5時間乾燥し、ポリアセタール樹脂ホモポリマー中に含まれる水分を除去した。その後、室温まで冷却し、ポリアセタール樹脂ホモポリマー(A−1)を得た。得られたポリアセタール樹脂ホモポリマー(A−1)について、メルトフローレート値(以下「MFR値」とも記す。)とホルムアルデヒド発生量とを後述の方法により測定した。当該測定結果を表1に示す。
【0052】
・ポリアセタール樹脂ホモポリマー(A−2〜A−4)
粗ポリアセタール樹脂の末端安定化条件を変更した以外は上記ポリアセタール樹脂ホモポリマー(A−1)と同様にして、ホルムアルデヒド発生量が異なるポリアセタール樹脂ホモポリマー(A−2〜A−4)を製造した。この時の末端安定化時間は、ポリアセタール樹脂ホモポリマー(A−2)の製造においては1時間とし、ポリアセタール樹脂ホモポリマー(A−3)の製造においては45分とし、ポリアセタール樹脂ホモポリマー(A−4)の製造においては30分とした。得られたポリアセタール樹脂ホモポリマー(A−2〜A−4)について、MFR値とホルムアルデヒド発生量とを後述の方法により測定した。当該測定結果を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
〔2.ポリアセタール樹脂(A)のメルトフローレート値(以下「MFR値」とも言う)測定方法〕
ASTM D1238に従い、東洋精機(株)製、MELT INDEXERを用いて、シリンダー温度190℃、荷重2.16kgでMFR値を測定した。
【0055】
〔3.ポリアセタール樹脂(A)のホルムアルデヒド発生量測定方法〕
ポリアセタール樹脂(A)3gをステンレス製の円筒型容器に投入し、このステンレス容器を230℃で窒素雰囲気状態にした加熱炉に設置した。該加熱炉から放出されるガスを0.1mol/リットルの亜硫酸ナトリウム水溶液に吸収させた。該亜硫酸ナトリウム水溶液を1/10規定の硫酸で滴定し、ホルムアルデヒド発生量の経時変化を求めた。求めたホルムアルデヒド発生量をグラフにプロットし、3つの異なるホルムアルデヒド発生速度を求めた。なお、第1の発生速度は、ポリアセタール樹脂が完全溶融していない初期の段階であるので、ポリアセタール樹脂表面に存在するホルムアルデヒド量を示す。第2のホルムアルデヒド発生速度は、ポリアセタール樹脂が溶融した状態から熱分解するまでの領域(第2領域)であり、ポリアセタール樹脂の不安定末端基から放出されるホルムアルデヒドを示す。第3のホルムアルデヒド発生速度は、ポリアセタール樹脂の熱分解の領域であり、ポリマーの主鎖分解によって発生するホルムアルデヒドを示す。これらの事実は、各領域の分子量分布をGPCにて測定することにより確認した。
【0056】
本実施例では、第2領域のホルムアルデヒド発生速度(傾き)を切片方向に伸ばし、その切片(交点)から、ポリアセタール樹脂(A)の不安定末端基から放出されるホルムアルデヒド発生量を求めた。
【0057】
〔4.ポリアセタール樹脂に配合した各種添加剤〕
本実施例で使用したカルボン酸モノ(ジ)ヒドラジド化合物(B)、ホルムアルデヒド捕捉能力を有する含窒素化合物(C)、酸化防止剤(D)を以下に示した。
【0058】
[カルボン酸ヒドラジド化合物(B)]
カルボン酸ヒドラジド化合物(B)として、下表2に示すカルボン酸ヒドラジド化合物(BI〜BVIII)を用いた。
【0059】
【表2】
【0060】
[ホルムアルデヒド捕捉能力を有する含窒素化合物(C)]
ホルムアルデヒド捕捉能力を有する含窒素化合物(C)として、以下のアクリルアミド重合体(C−1)を用いた。
【0061】
・アクリルアミド重合体(C−1):アクリルアミドとN,N‘−メチレンビスアクリルアミドとの共重合体によって得られた、1級アミド基量が45モル%、還元粘度が0.55、平均粒子径が2.5μmのポリ−β―アラニン共重合体。
【0062】
なお、アクリルアミド重合体(C−1)の1級アミド基量は、以下のとおり測定した。まず、アクリルアミド重合体(C−1)を、水酸化カリウム水溶液に添加し加熱した。その後、一級アミド基をアンモニアで加水分解し、水酸化ナトリウム水溶液で中和滴定することで、アクリルアミド重合体(C−1)の1級アミド基量を定量した。また、アクリルアミド重合体(C−1)の還元粘度は、アクリルアミド重合体(C−1)を蟻酸に溶解させ、得られた溶液を用いて、オストワルド粘度計により測定した。オストワルド粘度計における恒温槽の温度は、35℃±1℃とした。さらに、アクリルアミド重合体(C−1)の平均粒子径は、アクリルアミド重合体をエタノールに混合し、得られた懸濁液を粒子径測定装置にかけることにより測定した。
【0063】
[酸化防止剤(D)]
酸化防止剤(D)として、以下の酸化防止剤(D−1)を用いた。
【0064】
・酸化防止剤(D−1):トリエチレングリコール−ビス−(3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート)。
【0065】
〔5.各種添加剤配合方法〕
ポリアセタール樹脂(A)に、カルボン酸ヒドラジド化合物(B)、ホルムアルデヒド捕捉能力を有する含窒素化合物(C)、酸化防止剤(D)を所定量添加し、ヘンシェル攪拌混合機で混合して各種添加剤配合物を得た。攪拌混合時の条件は、以下の通りとした。
【0066】
[攪拌混合条件]
・攪拌混合機の容量 : 10リットル。
・攪拌翼回転数 : 860rpm。
・攪拌混合機のジャケット温度 : 60℃以下とした。
・攪拌混合機内の圧力 : 窒素で5kPaに保った。
・攪拌混合時間 : 2分間。
【0067】
〔6.溶融混練方法:押出し条件〕
上記5で得られた各種添加剤配合物を、下記条件に設定したベント付き2軸押出し機に投入し溶融混練し、ポリアセタール樹脂組成物を得た。尚、造粒時の押出し機ホッパー内は、窒素で5kPaの微加圧状態とした。
【0068】
[2軸押出し機の設定条件等]
・押出し機 : 池貝製PCM30φ2軸押出し機(ベント付き)
・シリンダー設定温度 : 205℃
・スクリュー回転数 : 100rpm
・吐出量 : 10kg/hr
・ベント圧 : −700mmHg減圧
【0069】
〔7.成形品中への炭化物及び変性物の混入率の定量方法、並びに金型汚染性評価〕
上記6で得られたポリアセタール樹脂組成物を下記成形条件で連続成形し、得られた成形品中に存在する炭化物及び変性物を目視観察し、該炭化物及び変性物の混入率を求めた。尚、該炭化物及び変性物の混入率は、1つの成形品(1kg)中に存在する炭化物及び変性物の個数を点数表記したものである。
【0070】
また、ポリアセタール樹脂組成物を下記成形条件で連続成形する際の金型汚染性については、下記判定基準に従って評価した。
【0071】
(a)成形条件
・射出成形機 : 東洋精機製Ti-30G
・シリンダー設定温度 : 230℃
・金型設定温度 : 80℃
・成形サイクル : 射出/冷却=10/5秒
・金型サイズ : 30mm×12mm×2mmの鏃型
(流動末端先端部にガス抜き部設置)
・成形ショット数 : 10,000ショット
(b)金型汚染性判定基準
・金型キャビティ内外、ガス抜き部の何れも汚れなし : 0
・金型ガス抜き部に、僅かに汚れがある : 1
・金型キャビティの1/5程度の範囲で汚れあり : 2
・金型キャビティの1/2程度の範囲で汚れあり : 3
・金型キャビティ内外の全体に汚れがある : 4
・金型キャビティ全体に汚れがあり、不織布で拭いても汚れが落ちない : 5
【0072】
[実施例1]
ポリアセタール樹脂(A−1)100質量部に対して、カルボン酸ヒドラジド(BII)を0.1質量部、アクリルアミド重合体(C−1)0.1質量部、酸化防止剤(D−1)0.1質量部を、上記5及び6のとおり、添加配合し、溶融混練してポリアセタール樹脂組成物を得た。得られたポリアセタール樹脂組成物を用いて、上記7のとおり、10,000ショットまで連続成形して成形品を得た。上記7のとおり、該連続成形の過程での、成形品中に存在する炭化物及び変性物の混入率を定量し、同時に金型汚染性も評価した。当該結果を表3に示した。
【0073】
[実施例2〜5]
カルボン酸ヒドラジド化合物(B)の種類を、表3に示すとおり変更した以外は、実施例1と同様の操作を行った。結果を表3に示した。
【0074】
[実施例6〜11]
カルボン酸ヒドラジド化合物(BII)の添加量を、表3に示すとおり変更した以外は、実施例1と同様の操作を行った。結果を表3に示した。
【0075】
[実施例12〜14]
ポリアセタール樹脂(A)の種類を、表3に示すとおり変更した以外は、実施例1と同様の操作を行った。結果を表3に示した。
【0076】
[比較例1]
ポリアセタール樹脂(A−3)100質量部に対して、アジピン酸ジヒドラジド(BVI)を0.1質量部、アクリルアミド重合体(C−1)0.1質量部、酸化防止剤(D−1)0.1質量部を、上記5及び6のとおり、添加配合し、溶融混練してポリアセタール樹脂組成物を得た。得られたポリアセタール樹脂組成物を用いて、上記7のとおり、10,000ショットまで連続成形して成形品を得た。上記7のとおり、該連続成形の過程での、成形品中に存在する炭化物及び変性物の混入量を定量し、同時に金型汚染性も評価した。当該結果を表4に示した。
【0077】
[比較例2、3]
カルボン酸ヒドラジド化合物(B)の種類を、表4に示すとおりセバシン酸ジヒドラジド化合物(BVII)、ドデカ二酸ジヒドラジド化合物(BVIII)に変更した以外は、比較例1と同様の操作を行った。結果を表4に示した。
【0078】
[比較例4]
カルボン酸ジヒドラジド化合物(B)を無添加とした以外は、比較例1と同様の操作を行った。結果を表4に示した。
【0079】
[比較例5]
酸化防止剤(D)を無添加とした以外は、比較例1と同様の操作を行った。結果を表4に示した。
【0080】
[比較例6]
ホルムアルデヒド捕捉能力を有する含窒素化合物(C)を無添加とした以外は。比較例1と同様の操作を行った。結果を表4に示した。
【0081】
【表3】
【0082】
【表4】
上記表3及び4の評価結果から明らかなように、本実施形態のポリアセタール樹脂組成物は、長時間連続成形した際の、炭化物及び変性物の発生抑制と金型汚染性とが改善されることが判った。