(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の炭素繊維束は、高分子成分を主とするサイジング剤が付着した炭素繊維束である。そして高分子成分が少なくとも変性ポリアミド系高分子及び/またはポリビニルアルコール系高分子を含み、かつ硬度が70g以下であることを必須とする。
【0014】
本発明の炭素繊維束としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系、石油・石炭ピッチ系、レーヨン系、リグニン系など、何れの炭素繊維であっても良いが、工業規模における生産性及び機械特性の観点からは、PAN系炭素繊維であることが好ましい。炭素繊維の平均直径としては、5〜10μmのものが好ましい。炭素繊維の平均直径が5μm未満であると、炭素繊維束が嵩高くなり、複合材料中の炭素繊維の体積分率を高めることが困難となり、機械強度の優れた複合材料となりにくい傾向にある。一方、炭素繊維の平均直径が10μmを超えると、炭素繊維前駆体繊維の耐炎化または不融化処理を十分に完了させることが困難となり、最終的に得られる炭素繊維の機械物性が低下する傾向にある。平均直径のより好ましい範囲としては、6〜9μmの範囲である。
【0015】
本発明では、炭素繊維束を構成するモノフィラメントの本数としては特に制限は無いが500本以上であることが通常で有り、1000本以上であることが好ましい。繊維束を構成するモノフィラメントの本数が少ない場合、炭素繊維束の柔軟性が増すことでハンドリング性が向上するものの、炭素繊維の生産性が著しく低下する。一方、60000本を超えると、炭素繊維前駆体繊維の耐炎化または不融化処理を十分に完了させにくく、最終的に得られる炭素繊維の機械物性が低下する傾向にあるため、一般的には60000本以下が好ましい。さらに繊維束を構成するモノフィラメント本数のより好ましい範囲としては3000〜40000本、更には5000〜30000本の範囲である。
【0016】
また、炭素繊維束とサイジング剤との親和性を高める目的で、サイジング処理前の炭素繊維束の炭素繊維表面に含酸素官能基を導入した炭素繊維であることも好ましい。
本発明の炭素繊維束は、その表面にサイジング剤が付着しているものであり、そのサイジング剤が高分子成分を主とするものであり、高分子成分が少なくとも変性ポリアミド系高分子及び/またはポリビニルアルコール系高分子を含むことを必須とする。高分子成分を主とするとは、乾燥後のサイジング剤の主成分が高分子成分からなるものであり、好ましくは60wt%以上が高分子成分であることが好ましい。また、サイジング剤としては、水及び/またはアルコールに高分子成分を溶解したものであることが好ましい。
【0017】
そして本発明に用いられるサイジング剤中の高分子成分は、少なくとも変性ポリアミド系高分子及び/またはポリビニルアルコール系高分子を含むことが必要である。このようなサイジング剤が付着していることにより、本発明の炭素繊維束は後に補強材として用いる際にマトリックス成分を構成する樹脂との高い親和性を確保することができ、補強性能に優れた炭素繊維束となる。
【0018】
より具体的に本発明に好ましく使用される変性ポリアミド系高分子を最初に例示すると、例えばナイロン6をホルムアルデヒドとメタノールで反応させて、アミド基の水素原子の一部をメトキシメチル基に置換した変性ナイロン6や、この変性ナイロン6に親水性モノマーであるアクリル酸をグラフト重合することで、水に分散できるタイプに変性したポリアミド樹脂や、オキシアルキレン基を有するジアミンとジカルボン酸の塩に、ラクタムを共重合させて得られる水に分散できるタイプのポリアミド樹脂などを挙げることが出来る。これらの中でも特に、ナイロン6をホルムアルデヒドとメタノールで反応させて、アミド基の水素原子の一部をメトキシメチル基に置換した変性ナイロン6は、メトキシメチル基がナイロン6の結晶性を阻害し、アルコールに可溶となり好ましい。このような変性ナイロン6を高分子成分として用いた場合には、変性ナイロン6が低い表面張力のアルコール中に分子レベルで溶解するため、高分子溶液がより容易に炭素繊維ストランド内部にまで拡散し、炭素繊維の表面には、均質にサイジング剤が付着することとなる。
【0019】
また、本発明にてサイジング剤中の高分子成分として好ましく使用されるもう一方の成分であるポリビニルアルコール系高分子は、ポリ酢酸ビニルをけん化した高分子であり、使用する際には、ポリビニルアルコール系高分子を水、アルコール、または水とアルコールの混合溶液に溶解させて用いることが好ましい。そのようにすることにより、上述の変性ナイロン6の高分子溶液と同様に、炭素繊維表面に均質にサイジング剤を付着させることが出来るのである。このポリビニルアルコール系高分子のけん化度としては50〜100モル%の範囲であることが好ましい。このような範囲からけん化度が外れると、水やアルコールに溶解した高分子溶液の炭素繊維表面への濡れ性が低下する傾向にある。ポリ酢酸ビニルのより好ましいけん化度の範囲は50〜80モル%である。
【0020】
本発明の炭素繊維束の表面にサイジング剤が存在した場合、高分子成分として含有される変性ポリアミド系高分子は、分子鎖内に多数のアミド基を持つもので有り、もう一方のポリビニルアルコール系高分子は、分子鎖内に多数の水酸基を持つ特徴を有している。そしてこれらの官能基は、炭素繊維表面の官能基とのファンデルワールス力による相互作用、または炭素繊維表面に存在する官能基と反応するため、炭素繊維表面との親和性、接着性を向上させる効果を有する。また、変性ポリアミド系高分子中のアミド基やポリビニルアルコール系高分子中の水酸基は、最終的に繊維補強樹脂複合体を形成したときに、マトリックスである熱可塑性樹脂の極性箇所と相互作用したり、反応し、複合体の物性向上に寄与する。
【0021】
本発明では、サイジング剤として変性ポリアミド系高分子及び/またはポリビニルアルコール系高分子を含むことを必須としており、このサイジング剤を用いた本発明の炭素繊維束は補強用繊維として優れた性能を発現するのである。なお本発明では、変性ポリアミド系高分子とポリビニルアルコール系高分子を、それぞれ単独で用いても良いし、二つ以上を組み合わせて使用することも出来る。
【0022】
これら変性ポリアミド系高分子またはポリビニルアルコール系高分子を含むサイジング剤は、炭素繊維束の表面に均質に付着したものであることが好ましい。そのように均質に付着させる方法としては特に限定されるものではないが、例えばこれら高分子成分を水、アルコールまたはそれらの混合溶液に溶解させて高分子溶液とし、炭素繊維束をその高分子溶液に浸漬させた後、溶剤を乾燥させる方法などを例示することが出来る。なお、炭素繊維束にサイジング剤を付着させる方法としては、高分子粒子を溶媒に分散させたエマルジョンを使用する方法が一般的である。しかし、この方法では、炭素繊維束を構成する各モノフィラメントの繊維−繊維間の隙間が狭い場合、高分子粒子を炭素繊維束に均一に付着させることが難しいといった問題があり、本発明の炭素繊維束を製造する方法としては、高分子成分が水及び/またはアルコールに溶解したサイジング剤を用いることがより好ましい。溶解したサイジング剤の成分は、炭素繊維束を構成する各モノフィラメントに均質に拡散させることが出来、炭素繊維束の表面に均一にサイジング剤が付着するからである。
【0023】
サイジング剤の固形分付着量としては0.01wt%以上2wt%未満であることが好ましい。サイジング剤の付着量が0.01wt%未満の場合、熱可塑性樹脂をマトリックスとした複合材料を作製しようとすると、マトリックスと炭素繊維との表面接着性が低下する傾向に有り、複合材料の機械特性が低くなりやすい。一方、サイジング剤の付着量が2wt%を超えると、逆にマトリックスと炭素繊維との接着性に悪影響を及ぼす傾向にある。サイジング剤の付着量のさらに好ましい範囲は0.1wt%以上1.5wt%未満、特に好ましくは0.15wt%以上0.5wt%未満である。なお、ここで言うサイジング剤含有量とは、高分子溶液に浸漬させた炭素繊維束から溶剤を除去した後に残る固形分のことで有り、高分子以外に界面活性剤、ビニルエステル等の添加剤も含んだものである。
【0024】
炭素繊維束の表面にサイジング剤を付着させる際の、サイジング用の高分子溶液の濃度としては、0.01〜10重量%の範囲にすることが好ましい。高分子溶液に占める高分子の含有量が低すぎると、炭素繊維束を構成する各モノフィラメントに付着するサイジング剤の量が少ないために、炭素繊維束の収束性が低下してしまうだけでなく、炭素繊維と熱可塑性樹脂との接着性、親和性を高めることが出来ず、機械強度の良好な複合材料を得ることが困難となる傾向にある。一方、高分子の含有量が高すぎると、高分子溶液の粘度が高くなり、炭素繊維束を構成する各モノフィラメントにまで高分子溶液を均等に拡散させることが難しくなる傾向にある。より好ましい高分子溶液濃度の範囲は、0.05〜5重量%であり、0.1〜1重量%の範囲が更に好ましい。
【0025】
そのような高分子溶液に炭素繊維束を浸漬させる具体的な方法としては、例えばスプレー法、ローラー浸漬法、ローラー転写法などが挙げられる。これら方法を単独もしくは組み合わせて使用しても良い。これら浸漬法の中でも、生産性、均一性に優れる方法として、ローラー浸漬法が好ましい。高分子溶液に炭素繊維束を浸漬する際には、高分子溶液浴中に設けられた浸漬ローラーを介して、開繊と絞りを繰り返した場合、特に炭素繊維束の中にまで高分子溶液を含浸させることができる。本発明における炭素繊維束に対するサイジング剤の付着量は、高分子溶液の濃度や、絞りローラーの調整などによって調整を行うことが可能となる。
【0026】
このような高分子溶液は好ましくは水及び/またはアルコール中に高分子成分を溶解したものであるが、特にはアルコール類であることが好ましい。特にメタノール、エタノール、プロパノールが経済的であり特に好ましい。また、アルコール類を水と任意の割合で混ぜて、高分子溶液の溶媒として用いることも可能である。
【0027】
本発明の炭素繊維束は、上記のようなサイジング剤が付着した多数のフィラメントからなる炭素繊維束であるが、同時にその硬度が70g以下であることが重要である。ここで炭素繊維束の硬度とは、一般にハンドルオメータ法と呼ばれる測定法で得られる硬度であり、スリット溝が設けられた試験台に炭素繊維束をのせ、ブレードにて溝の一定深さ(8mm)まで試験片を押し込むときに発生する抵抗力(g)を硬度とする。さらには本発明の炭素繊維束の硬度は30g〜70gの範囲であることが好ましく、さらには35g〜65gの範囲であることが好ましい。
【0028】
炭素繊維束の硬度が70gを超えると、炭素繊維束のワインダーでの巻き取り性、及び炭素繊維束の開繊性が著しく低下し、本発明の効果を発揮しない。一方、柔らかすぎる場合も、炭素繊維束の収束性が著しく低下し、実用的でなくなる傾向にある。このような炭素繊維束の硬度は、例えば総フィラメント数や、界面活性剤、ビニルエステルなどの添加量によって調整することができる。
【0029】
本発明では好ましくは、サイジング剤が界面活性剤またはビニルエステルを含有するものである。このような界面活性剤やビニルエステルの添加は、サイジング剤が高分子成分だけで構成される場合に比べ、炭素繊維束の柔軟性を増加し、ワインダーでの巻き取りを可能にするだけでなく、炭素繊維束の開繊性を顕著に高める効果がある。
【0030】
好ましい界面活性剤またはビニルエステルの含有量としては、界面活性剤であれば、変性ポリアミド系高分子やポリビニルアルコール系高分子から構成される高分子成分100重量部に対して、0.01重量部以上50重量部未満であることが好ましく、ビニルエステルであれば、高分子成分100重量部に対して、0.01重量部以上100重量部未満であることが好ましい。
【0031】
本発明で好ましく用いられるこのような界面活性剤としては、従来公知の親水性部分がイオン性(カチオン性・アニオン性・双性)のものと非イオン性(ノニオン性)のものの何れも使用することが可能である。なかでも、熱可塑性樹脂の分解を促進させる金属、ハロゲンなどの対イオンを含まないノニオン系界面活性剤が好ましく、特にサイジング剤として用いる場合には20℃で液体であるノニオン系界面活性剤が好ましい。本発明で使用するノニオン系界面活性剤として好ましい化合物として例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテルが挙げられる。またこれらの界面活性剤は1種単独または2種以上を混合して用いることができる。
【0032】
界面活性剤の添加量としては、変性ポリアミド系高分子及び/またはポリビニルアルコール系高分子100重量部に対して、0.01重量部以上50重量部未満であることが好ましい。この範囲内では、開繊性が高く、またマトリックス樹脂に対する界面活性剤の量が少ないために、本発明の炭素繊維束を用いた各種材料の機械的物性を低下させにくいものとなる。さらには界面活性剤の含有量の上限値としては40重量部が好ましい。得られる炭素繊維束の開繊性の観点からは、界面活性剤の含有量の下限値は、0.01重量部が好ましく、0.1重量部が更に好ましい。
【0033】
このような界面活性剤を本発明の炭素繊維束に用いた場合には、サイジング剤が炭素繊維に付着する際に、界面活性剤も同時に炭素繊維表面に付着し、サイジング剤中の水やアルコールなどの溶剤を除去することによって、炭素繊維束の柔軟性を向上させる効果がある。
【0034】
また本発明では、サイジング剤がビニルエステルを含有するものであることも好ましく、そのようなビニルエステルとしては、化合物主鎖の末端にビニル基、アクリレート基、メタクリレート基等の高反応性二重結合をもつ化合物を挙げることでき、芳香族系、脂肪族系いずれの化合物も選択可能である。特に耐熱性、可撓性の観点から、2−メタクリロイロキシエチル2−ヒドロキシプロピルフタレート、2−(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチル−フタル酸、ネオペンチルグリコール(メタ)アクリル酸安息香酸エステル、ビスフェノールA(メタ)アクリル酸エステル、アルキレンオキサイド付加ビスフェノールA(メタ)アクリル酸エステル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(メタ)アクリル酸付加物、アルキレンオキサイド付加ビスフェノールAジグリシジルエーテル(メタ)アクリル酸付加物が好ましく、ビスフェノールA(メタ)アクリル酸エステル、アルキレンオキサイド付加ビスフェノールA(メタ)アクリル酸エステル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(メタ)アクリル酸付加物、アルキレンオキサイド付加ビスフェノールAジグリシジルエーテル(メタ)アクリル酸付加物がさらに好ましい。
【0035】
このようなビニルエステルの添加量としては、サイジング剤中の変性ポリアミド系高分子やポリビニルアルコール系高分子などの高分子成分100重量部に対して、0.01重量部以上100重量部未満であることが好ましい。このような範囲内であれば開繊性が担保でき、またマトリックス樹脂に対するビニルエステルの量も十分少なく、本発明の炭素繊維束を用いた各種材料の機械的物性を低下させることが少ないために好ましい。ビニルエステルの含有量の上限値は100重量部が好ましく、80重量部がさらに好ましい。得られる炭素繊維束の開繊性の観点から、ビニルエステルの含有量の下限値は、0.01重量部が好ましく、0.1重量部が更に好ましい。
【0036】
このようなビニルエステルを本発明の炭素繊維束に用いた場合には、サイジング剤が炭素繊維に付着する際に、ビニルエステルも同時に炭素繊維表面に付着し、サイジング剤中の水やアルコールなどの溶剤を除去することによって、炭素繊維束の柔軟性を向上させる効果がある。
【0037】
なお、炭素繊維束に付着したサイジング剤中の水やアルコールなどの溶剤を除去するには、熱処理や風乾、遠心分離などのいずれの方法を用いても良いが、中でもコストの観点から熱処理が好ましい。熱処理の加熱手段としては、例えば、熱風、熱板、ローラー、赤外線ヒーターなどを使用することができる。この熱処理(乾燥処理)の温度としては、炭素繊維表面温度が50〜200℃程度となるような条件で、水分およびアルコール成分を除去することが好ましい。また、温度条件としては50〜200℃の間で段階的に昇温させることも好ましい。このような温度領域であれば、高分子や炭素繊維束を劣化させることなく、目的の炭素繊維束を得ることができる。さらには100℃以上の高温条件で処理することで、炭素繊維とマトリックスとの接着を阻害する界面活性剤などの揮発成分を除去することが好ましい。
【0038】
このような本発明の炭素繊維束は、例えば炭素繊維束に、変性ポリアミド系高分子及び/またはポリビニルアルコール系高分子を含む高分子成分を主とする高分子溶液であるサイジング剤を付与し、加熱乾燥する方法により製造することができる。さらには高分子溶液であるサイジング剤には、界面活性剤及び/またはビニルエステルを含むことが好ましく、またはサイジング剤が水及び/またはアルコールに高分子成分を溶解したものであることが好ましい。
【0039】
このような本発明の炭素繊維束は、高分子からなるサイジング剤が炭素繊維束乃表面に均質に付着しており、柔軟であるために作業性に優れワインダーでの巻き取り性や開繊性などに優れた炭素繊維束となる。
【0040】
また、もう一つの本発明である複合材料は、このような本発明の炭素繊維束と樹脂からなるものである。炭素繊維束としては、長さ2mm〜100mmの短繊維からなる炭素繊維を用いた短繊維補強複合材料とすることもできるし、長繊維を用いた長繊維補強複合材料としても良い。樹脂としては熱可塑性樹脂であることが好ましい。
本発明の炭素繊維束を用いた複合材料は、複合化させるマトリックス樹脂の含浸が十分に行われ、また強度ムラなどが少ない高品位なものとなる。
【0041】
このような複合材料に使用するマトリックス樹脂としては、熱可塑性樹脂であることが好ましく、より具体的にはアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、それらの共重合体など)、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリプロピレン、高密度ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルイミド、ポリスチレン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンなどを挙げることが出来る。また、機械的特性向上のために、上記熱可塑性樹脂にその他のエラストマーもしくはゴム成分を添加した樹脂であっても良い。これらの中でも、ポリアミドが成形品の力学特性、成形サイクルの速さの観点から好適である。
【0042】
また複合材料に占める樹脂の含有量としては、全体体積の40〜90体積%であることが好ましい。樹脂の含有量が多すぎると、炭素繊維の含有量が低下するため、複合材料の機械特性も低下する傾向にある。一方、樹脂の含有量が少なすぎると、複合材料の機械特性は向上しやすいものの、成形性が低下する傾向にある。複合材料に占める樹脂の含有量の範囲としては45〜95体積%であることがより好ましい。
【0043】
通常、これら炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材料に使用するマトリックス樹脂は、一般に炭素繊維との親和性が低く、複合材料の機械強度を十分に引き出すのが難しいといった問題があった。しかし本発明の炭素繊維束は、変性ポリアミド系高分子及び/またはポリビニルアルコール系高分子を含むサイジング剤が均等に炭素繊維表面に付着しているため、これらの樹脂との接着性、親和性が高くなり、特に熱可塑性樹脂の強化材として好適に使用することができるのである。そして本発明の炭素繊維束を使用した複合材料は、機械強度に優れた炭素繊維強化樹脂複合材料となる。特に、複合材料成形時に熱溶融した場合、熱可塑性樹脂であれば速やかに繊維ストランド内部にまで含浸させることができるため、成型工程時間の短縮化を図ることが可能となり、特に好ましい。
【0044】
また複合材料にしようする炭素繊維束としては、ランダムマットや、一軸配向炭素繊維複合材料、織物などの各種の形態で使用することが出来る。なお複合材料には、本発明の目的を損なわない範囲で各種の添加剤を含んでも良いことは言うまでも無い。また、炭素繊維束に加えて、それ以外に炭素繊維単糸や、1種類以上の樹脂を用いても良い。
【0045】
例えばこのような複合材料としてランダムマットによる製造方法を採用した場合、上記のような本発明の炭素繊維束を長さ2mm〜100mmにカットした短繊維と樹脂とからなるランダムマットとし、成形することにより製造することができる。またランダムマットとする場合には、樹脂の形状としては、繊維状、粉末状、又は粒状の形状であることが好ましい。
【0046】
このような短繊維補強複合材料の場合には、炭素繊維束のカット長が2mm未満であると、アンカー効果を十分に発現しにくく、複合材料の機械特性が低下する傾向にある。一方、100mmを超えると、炭素繊維束が嵩高くなるために、炭素繊維の含有率を高めることが困難になり、結果として複合材料の機械特性が低下する傾向にある。炭素繊維束のカット長の特に好ましい範囲は3〜60mmである。
【0047】
さらにここで複合材料に用いる炭素繊維束としては、開繊したものであることが好ましい。特には、カットする前にあらかじめ炭素繊維束を開繊することが好ましい。
炭素繊維束を開繊させる方法は特に限定されるものではないが、好ましくは丸棒で繊維をしごく方法、気流を用いる方法、超音波等で繊維を振動させる方法等を挙げることが出来る。炭素繊維束に空気を吹き付けることで繊維束を開繊させる方法では、開繊の程度を空気の圧力等により適宜コントロールすることができる。これらの開繊工程に供する繊維は連続繊維でも不連続繊維でもよい。上記の開繊工程を経ることで、開繊された炭素繊維束を得ることが出来る。
【0048】
また、特にランダムマットとして用いる場合には、炭素繊維束が開繊されたものであり、その開繊率が40%以上であることが好ましい。ここで開繊率とは、炭素繊維束に圧縮空気を流し吹き付けた後の、小さい幅となる繊維束の重量割合で評価したものである。具体的な測定方法としては、本発明では炭素繊維束を長さ20mmにカットし、炭素繊維投入口直径20mm、かつ吹き出し口直径55mm、かつ管の長さが投入口から吹き出し口まで400mmであるテーパ管内に導入し、テーバ管に導入する圧縮空気圧力が0.25MPaであるようにして圧縮空気を流すことで、吹き付けた後の繊維全体中に存在する幅0.6mm未満の繊維束の重量割合を開繊率として評価した。このように開繊率を定義した際に、本発明の開繊された炭素繊維束は、開繊率が40%以上であることが好ましい。開繊率は得ようとする炭素繊維製品により適宜選択できるが、好ましくは45〜90%であり、より好ましくは45〜80%である。
【0049】
もっとも好ましい本発明の炭素繊維束の用途の一つは、上記のようなランダムマットに用いることである。ランダムマットとしては、より具体的には繊維長2mm〜100mmの開繊された炭素繊維束と、樹脂とを含んだ複合材であり、炭素繊維が25〜3000g/m
2の目付けを有し、かつマット面内において、強化繊維が特定の方向に配向しておらず、無作為な方向に分散して配置されているものであることが好ましい。ランダムマットに使用する樹脂としては特に限定されないが熱可塑性樹脂であることが好ましく、中でも、ポリアミド樹脂が成形品の力学特性、成形サイクルの速さの観点から好適である。
【0050】
特に、本発明の炭素繊維束のように、変性ポリアミド系高分子やポリビニルアルコール系高分子が付着した炭素繊維束を用いて、ポリアミド樹脂をマトリックスとした複合材料を作製した場合、これら高分子の分子鎖内のアミド基や水酸基と、ポリアミド樹脂の反応性末端基(アミン末端やカルボン酸末端)が加熱処理で反応し、強固な結合を形成する。このため、優れた機械特性を有する複合材料を得ることが出来る。また、本発明のサイジング剤が付着した炭素繊維束を用いて、ポリアミド樹脂をマトリックスとした複合材料を作製した場合、炭素繊維表面のサイジング剤とポリアミド樹脂との高い親和性のために、優れた機械特性を持つ複合材料を得ることが出来る。
【0051】
このような複合材料に特に好ましく用いられるポリアミド樹脂としては、6−ナイロン、66−ナイロン、610−ナイロン、11−ナイロン、12−ナイロン、6/66共重合ナイロン、6/610共重合ナイロン、6/11共重合ナイロン、6/12共重合ナイロン、6/66/12共重合ナイロン等が好ましく挙げられる。これらの重合体または共重合体は、単独であっても2種以上の混合物であってもよい。
【0052】
なお、マトリックスとなる樹脂は樹脂だけではなく無機フィラーを含有していても良い。無機フィラーとしては、タルク、珪酸カルシウム、ワラストナイト、モンモリロナイトや各種の無機ナノフィラーを挙げることができる。また、必要に応じて、耐熱安定剤、帯電防止剤、耐候安定剤、耐光安定剤、老化防止剤、酸化防止剤、軟化剤、分散剤、充填剤、着色剤、滑剤など、従来から樹脂に配合されている他の添加剤を、配合することもできる。
【0053】
このような本発明の炭素繊維束を用いたランダムマットは、例えば次のような具体的な工程を経て製造することが可能である。
1.炭素繊維束をカットする工程、
2.カットされた炭素繊維束を管内に導入し、空気を繊維に吹き付ける事により、繊維束を開繊させる工程、
3.開繊させた炭素繊維を拡散させると同時に、繊維状、粉末状、又は粒状の熱可塑性樹脂とともに吸引しつつ、炭素繊維と熱可塑性樹脂を同時に散布する塗布工程、
4.塗布された炭素繊維および熱可塑性樹脂を定着させる工程。
【0054】
本発明の炭素繊維束は、炭素繊維の開繊程度を適切にコントロールすることが可能であり、特定本数以上の炭素繊維束で存在するものと、それ以外の開繊された炭素繊維を特定の割合で含むランダムマットとし、物性の優れた複合材料とすることが容易である。開繊程度を適切にコントロールすることにより、種々の用途、目的に適したランダムマットを提供することができるのであり、適切な開繊率のランダムマットを作製することにより、炭素繊維と樹脂をより緻密に密着させ、高い物性を達成することが可能となるのである。
また、本発明の炭素繊維束は、一軸配向炭素繊維複合材料として用いることも好適な用途の一つである。
【0055】
このような本発明の炭素繊維束と樹脂からなる一軸配向炭素繊維複合材料は、炭素繊維束を引き揃えた後、溶融した熱可塑性樹脂と接触させることで得ることができる。この際に用いられる熱可塑性樹脂は、上記のランダムマットの項で記載したものを使用することが出来る。一軸配向炭素繊維複合材料は、複数の一軸配向炭素繊維複合材料を積層してなるものとしても良い。一軸配向炭素繊維複合材料層を製造する方法はとくに限定はなく、例えばプルトリュージョン法などを採用するのも良い方法である。プルトリュージョン法で得られる一軸配向炭素繊維複合材料の場合、炭素繊維は熱可塑性樹脂に十分含浸した状態で得ることが出来る。炭素繊維束を熱可塑性樹脂で固めたストランドを得て、これを切断することにより炭素繊維と熱可塑性樹脂からなる長繊維ペレットを得ることもできる。切断前の複合材料の形状は円柱状、あるいは角柱状であることが好ましい。
【0056】
また、熱可塑性樹脂による含浸を抑え、半含浸の層としても良く、例えば熱可塑性樹脂からなるシートの上に炭素繊維束を一方向に引き揃えて、必要により加熱プレスする方法等で好ましく得ることができる。シート状としたときの厚さとしては、40〜3000μmであることが好ましい。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前、後記の主旨を逸脱しない範囲で変更実施することは、全て本発明の技術範囲に包含される。なお、本発明の実施例は、下記に示す方法で評価した。
【0058】
<サイジング剤の付着量>
サイジング剤の付着量は、1.0mの炭素繊維束を2本採取し、これらを窒素雰囲気下10℃/分で550℃に昇温後、同温度で10分間焼成し、重量減少した分をサイジング剤の付着分として以下の式(1)で算出した。
サイジング剤の付着量[%]=(焼成前重量−焼成後重量)/焼成後重量×100・・・(1)
【0059】
<サイジング剤の付着状態>
サイジング剤を付着した炭素繊維束の表面SEM像の窒素マッピング(株式会社堀場製作所製:エネルギー分散型X線分析装置「EMAX ENERGY EX−450」)を実施した。次に、炭素繊維束の両表面にグラファイトの粘着シートを0.1MPaの圧力で貼り付けた後、粘着シートの片方を剥がして、剥がした粘着シートに張り付いた炭素繊維表面の窒素マッピングを実施した。この操作を5回繰り返して、窒素マッピング像を比較することで、炭素繊維束内部のサイジング剤の付着状態を確認した。
【0060】
<繊維束の開繊率>
開繊された炭素繊維束の開繊率は、炭素繊維束を20mmにカットし、炭素繊維投入口直径20mm、かつ吹き出し口直径55mm、かつ管の長さが投入口から吹き出し口まで400mmであるテーパ管内に導入し、テーバ管に導入する圧縮空気圧力が0.25MPaであるようにして圧縮空気を流すことで、吹き付けた後の繊維全体中に存在する幅0.6mm未満の繊維束の重量割合で評価した。
【0061】
<サイジング剤の含浸性>
ガラス製の容器の底から5cmの高さまでサイジング剤溶液を入れた。繊維方向に1cmに裁断した未サイジングの炭素繊維束を着液させ、着液後の炭素繊維束表面の濡れ具合、炭素繊維束がガラス容器の底に沈むまでの時間を計測することで、サイジング剤溶液の含浸性を評価した。
【0062】
<炭素繊維束の硬度>
炭素繊維束の硬度は、JIS L−1096 E法(ハンドルオメータ法)に準じ、HANDLE−O−Meter(大栄科学精機製作所製「HOM−200」)を用いて測定した。硬度測定に用いる試験片の長さは10cm、幅はフィラメント数1600本で1mmとなるように炭素繊維束を開繊調整した。また、スリット幅は10mmに設定した。このスリット溝が設けられた試験台に試験片となる炭素繊維束を1本乗せ、ブレードにて溝の一定深さ(8mm)まで試験片を押し込むときに発生する抵抗力(g)を測定した。炭素繊維束の硬度は3回の測定の平均値から得た。
【0063】
<複合材料成型板の曲げ物性>
複合材料成形板から、幅15mm×長さ100mmの試験片を切り出し、JIS K7074に準拠した中央荷重とする3点曲げにて評価した。支点間距離を80mmとしたr=2mmの支点上に試験片を置き、支点間中央部にr=5mmの圧子にて、試験速度5mm/分で荷重を与えた場合の最大荷重および中央たわみ量を測定し、曲げ強度および曲げ弾性率とした。
【0064】
<高分子粒子の粒子径>
エマルジョン中のポリマー粒子の凝集性は、レーザ回折式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製「LA−500」)を用い、超音波で3分処理後の平均粒子径(D50;累積50%粒子径)で評価した。
【0065】
[実施例1]
〈炭素繊維束の作成〉
未サイジングの炭素繊維束(東邦テナックス株式会社製、「テナックスSTS−24K N00」、直径7μm×24000フィラメント、繊度1.6g/m、引張強度4000MPa(408kgf/mm
2)、引張弾性率238GPa(24.3ton/mm
2))を準備した。
一方、サイジング剤用の高分子溶液として、N−メトキシメチル化ナイロン6(ナガセケムテックス株式会社製「F−30K」)0.5重量部をエタノール99.5重量部に溶解させて、0.5重量%に調整した高分子溶液に、20℃で液体のノニオン系界面活性剤であるポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤(花王株式会社製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル「エマルゲン103」)0.15重量部を溶解させた。この高分子溶液は20℃で無色透明であった。また、上記の未サイジングの炭素繊維束を繊維方向に1cmに裁断し、この高分子溶液に着液させると、直に炭素繊維ストランド表面が濡れて、約2秒で5cmのガラス容器の底に沈み、炭素繊維束への高分子溶液の含浸性は非常に良好であることを確認した。
次に、この高分子溶液の浴に、上記の未サイジングの炭素繊維束を連続的に浸漬させ、フィラメント間に高分子溶液を拡散させた。次いで120℃〜150℃の乾燥炉に約120秒間通し、乾燥し、幅約15mmの炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束の硬度は56gであり、サイジング剤の付着量は炭素繊維重量100重量部に対して、0.45重量部であった。また、サイジング剤を付着した炭素繊維束の表面SEM像の窒素マッピングと、グラファイトの粘着シートで5回炭素繊維束の表面を剥いだ後に得られる粘着シートに張り付いた炭素繊維表面の窒素マッピング像の比較から、窒素原子の存在比率は変わらず、炭素繊維束の表面だけでなく内部にも均等にサイジング剤が付着していた。
また、テーパ管内にφ1mmの穴を5ヶ所あけ、外側より0.25MPa圧力をかけ、圧縮空気を繊維束に直接吹き付けることにより開繊しつつ、テーパ管出口の下部に設置したテーブル上に散布した。得られた炭素繊維束について開繊率を測定したところ、51%の高い開繊率が得られた。
【0066】
〈炭素繊維強化複合材料の作成〉
得られた炭素繊維束を16mmにカットし、マトリックス樹脂として、ポリアミドパウダー(PA6樹脂パウダー、ユニチカ株式会社製「A1030FP」)を用意し、炭素繊維の供給量を600g/min、ポリアミドの供給量を730g/minにセットしてテーパ管内に導入した。
テーパ管内で空気を炭素繊維に吹き付けて繊維束を部分的に開繊しつつ、ポリアミドパウダーとともにテーパ管出口の下部に設置したテーブル上に散布した。散布された炭素繊維およびポリアミドパウダーを、テーブル下部よりブロワにて吸引し、定着させて、厚み5mm程度の炭素繊維ランダムマットを得た。
得られた炭素繊維ランダムマットを、260℃に加熱したプレス装置にて、3MPaにて5分間加熱し、繊維と樹脂の全目付け2700g/m
2、厚み2.0mm、繊維体積含有率35Vol%の炭素繊維ランダムマット複合材料成型板を得た。得られた成形板に未含浸部はなく、曲げ物性は、曲げ強度505MPa、曲げ弾性率28GPaとの優れたものであった。
【0067】
[実施例2]
〈炭素繊維束の作成〉
実施例1と同じ未サイジングの炭素繊維束(東邦テナックス株式会社製、「テナックスSTS−24K N00」を用意した。
一方、サイジング剤用の高分子溶液として、水100重量部とエタノールの900重量部の混合溶液に、N−メトキシメチル化ナイロン6(ナガセケムテックス株式会社製「F−30K」)4.5重量部とポリビニルアルコール(クラレ株式会社製「PVA205」)0.5重量部を溶解させて、0.5重量%に調整した高分子溶液を作製した。この高分子溶液は20℃で無色透明であった。また、繊維方向に1cmに裁断した未サイジングの上記炭素繊維束を高分子溶液に着液させると、直に炭素繊維束表面が濡れて、約2秒で5cmのガラス容器の底に沈み、炭素繊維束への高分子溶液の含浸性は非常に良好であることを確認した。
次に、この高分子溶液の浴に、上記の未サイジングの炭素繊維束を連続的に浸漬させ、フィラメント間に高分子溶液を拡散させた。これを120℃〜150℃の乾燥炉に約120秒間通し、乾燥し、幅約15mmの炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束の硬度は54gであり、サイジング剤の付着量は炭素繊維重量100重量部に対して、0.3重量部であった。また、サイジング剤を付着した炭素繊維束の表面の窒素マッピング像を比較したところ、炭素繊維束内部の窒素原子の存在比率は変わらず、炭素繊維束の表面だけでなく内部にも均等にサイジング剤が付着していることを確認した。
また、テーパ管内にφ1mmの穴を5ヶ所あけ、外側より0.25MPa圧力をかけ、圧縮空気を繊維束に直接吹き付けることにより開繊しつつ、テーパ管出口の下部に設置したテーブル上に散布した。得られた炭素繊維束について上述した方法で開繊率を測定したところ、53%の高い開繊率が得られた。
【0068】
〈炭素繊維強化複合材料の作成〉
得られた炭素繊維束を16mmにカットし、マトリックス樹脂として実施例1と同じポリアミドパウダー(ユニチカ株式会社製「A1030FP」)を用意し、実施例1と同様に厚み5mm程度の炭素繊維ランダムマットを得た。
得られた炭素繊維ランダムマットを、実施例1と同様にプレス、繊維と樹脂の全目付け2700g/m
2、厚み2.0mm、繊維体積含有率35Vol%の炭素繊維ランダムマット複合材料成型板を得た。得られた成形板に未含浸部はなく、曲げ物性は、曲げ強度515MPa、曲げ弾性率30GPaとの優れたものであった。
【0069】
[実施例3]
〈炭素繊維束の作成〉
実施例1と同じ未サイジングの炭素繊維束(東邦テナックス株式会社製、「テナックスSTS−24K N00」を用意した。
一方、サイジング剤用の高分子溶液として、水1000重量部にポリビニルアルコール(クラレ株式会社製「PVA205」)5重量部、20℃で液体のノニオン系界面活性剤であるポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤(花王株式会社製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル「エマルゲン103」)0.5重量部を溶解させて、0.55重量%に調整した高分子溶液を作製した。高分子溶液は20℃で無色透明であった。また、繊維方向に1cmに裁断した未サイジングの上記炭素繊維束を高分子溶液に着液させると、直に炭素繊維束表面が濡れて、約2秒で5cmのガラス容器の底に沈み、炭素繊維束への高分子溶液の含浸性は非常に良好であることを確認した。
次に、この高分子溶液の浴に、上記の未サイジングの炭素繊維束を連続的に浸漬させ、フィラメント間に高分子溶液を拡散させた。これを120℃〜150℃の乾燥炉に約120秒間通し、乾燥し、幅約15mmの炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束の硬度は52gであり、サイジング剤の付着量は炭素繊維重量100重量部に対して、0.36重量部であった。また、サイジング剤を付着した炭素繊維束の表面の窒素マッピング像を比較したところ、炭素繊維束内部の窒素原子の存在比率は変わらず、炭素繊維束の表面だけでなく内部にも均等にサイジング剤が付着していることを確認した。
また、テーパ管内にφ1mmの穴を5ヶ所あけ、外側より0.25MPa圧力をかけ、圧縮空気を繊維束に直接吹き付けることにより開繊しつつ、テーパ管出口の下部に設置したテーブル上に散布した。得られた炭素繊維束について上述した方法で開繊率を測定したところ、57%の高い開繊率が得られた。
【0070】
〈炭素繊維強化複合材料の作成〉
得られた炭素繊維束を16mmにカットし、マトリックス樹脂として実施例1と同じポリアミドパウダー(ユニチカ株式会社製「A1030FP」)を用意し、実施例1と同様に厚み5mm程度の炭素繊維ランダムマットを得た。
得られた炭素繊維ランダムマットを、実施例1と同様にプレス、繊維と樹脂の全目付け2700g/m
2、厚み2.0mm、繊維体積含有率35Vol%の炭素繊維ランダムマット複合材料成型板を得た。得られた成形板に未含浸部はなく、曲げ物性は、曲げ強度503MPa、曲げ弾性率28GPaとの優れたものであった。
【0071】
[実施例4]
〈炭素繊維束の作成〉
実施例1と同じ未サイジングの炭素繊維束(東邦テナックス株式会社製、「テナックスSTS−24K N00」を用意した。
一方、サイジング剤用の高分子溶液として、水1000重量部にポリビニルアルコール(クラレ株式会社製「PVA205」)10重量部を溶解させて、1重量%に調整した高分子溶液を作製した。高分子溶液は20℃で無色透明であった。また、繊維方向に1cmに裁断した未サイジングの上記炭素繊維束を高分子溶液に着液させると、直に炭素繊維束表面が濡れて、約10秒で5cmのガラス容器の底に沈み、実施例1〜3よりは若干劣るものの、炭素繊維束への高分子溶液の含浸性は良好であることを確認した。
次に、この高分子溶液の浴に、上記の未サイジングの炭素繊維束を連続的に浸漬させ、フィラメント間に高分子溶液を拡散させた。これを120℃〜150℃の乾燥炉に約120秒間通し、乾燥し、幅約15mmの炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束の硬度は60gであり、サイジング剤の付着量は炭素繊維重量100重量部に対して、0.5重量部であった。
また、テーパ管内にφ1mmの穴を5ヶ所あけ、外側より0.25MPa圧力をかけ、圧縮空気を繊維束に直接吹き付けることにより開繊しつつ、テーパ管出口の下部に設置したテーブル上に散布した。得られた炭素繊維束について上述した方法で開繊率を測定したところ、57%の高い開繊率が得られた。
【0072】
〈炭素繊維強化複合材料の作成〉
得られた炭素繊維束を16mmにカットし、マトリックス樹脂として実施例1と同じポリアミドパウダー(ユニチカ株式会社製「A1030FP」)を用意し、実施例1と同様に厚み5mm程度の炭素繊維ランダムマットを得た。
得られた炭素繊維ランダムマットを、実施例1と同様にプレス、繊維と樹脂の全目付け2700g/m
2、厚み2.0mm、繊維体積含有率35Vol%の炭素繊維ランダムマット複合材料成型板を得た。得られた成形板に未含浸部はなく、曲げ物性は、曲げ強度493MPa、曲げ弾性率26GPaとの優れたものであった。
【0073】
[実施例5]
〈炭素繊維束の作成〉
実施例1と同じ未サイジングの炭素繊維束(東邦テナックス株式会社製、「テナックスSTS−24K N00」を用意した。
一方、サイジング剤用の高分子溶液として、N−メトキシメチル化ナイロン6(ナガセケムテックス株式会社製「F−30K」)0.5重量部をエタノール99.5重量部に溶解させて、0.5重量%に調整した高分子溶液を作製した。次いで、ビニルエステルを含有した水性エマルジョン(昭和電工株式会社製「Ripoxy」)を水で希釈して、0.5重量%の水性エマルジョンを調整した。上述の高分子溶液と水性エマルジョンを1:1の比率で混合させて、サイジング剤を含有する高分子溶液を調整した。このサイジング剤を含有する溶液は20℃で半透明であった。また、繊維方向に1cmに裁断した未サイジングの上記炭素繊維束を高分子溶液に着液させると、直に炭素繊維束表面が濡れて、約3秒で5cmのガラス容器の底に沈み、実施例1〜3よりは若干劣るものの、炭素繊維束への高分子溶液の含浸性は良好であることを確認した。
次に、この高分子溶液の浴に、上記の未サイジングの炭素繊維束を連続的に浸漬させ、フィラメント間に高分子溶液を拡散させた。これを120℃〜150℃の乾燥炉に約120秒間通し、乾燥し、幅約15mmの炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束の硬度は48gであり、サイジング剤の付着量は炭素繊維重量100重量部に対して、0.42重量部であった。また、サイジング剤を付着した炭素繊維束の表面の窒素マッピング像を比較したところ、炭素繊維束内部の窒素原子の存在比率は変わらず、炭素繊維束の表面だけでなく内部にも均等にサイジング剤が付着していることを確認した。
また、テーパ管内にφ1mmの穴を5ヶ所あけ、外側より0.25MPa圧力をかけ、圧縮空気を繊維束に直接吹き付けることにより開繊しつつ、テーパ管出口の下部に設置したテーブル上に散布した。得られた炭素繊維束について上述した方法で開繊率を測定したところ、60%の高い開繊率が得られた。
【0074】
〈炭素繊維強化複合材料の作成〉
得られた炭素繊維束を16mmにカットし、マトリックス樹脂として実施例1と同じポリアミドパウダー(ユニチカ株式会社製「A1030FP」)を用意し、実施例1と同様に厚み5mm程度の炭素繊維ランダムマットを得た。
得られた炭素繊維ランダムマットを、実施例1と同様にプレス、繊維と樹脂の全目付け2700g/m
2、厚み2.0mm、繊維体積含有率35Vol%の炭素繊維ランダムマット複合材料成型板を得た。得られた成形板に未含浸部はなく、曲げ物性は、曲げ強度508MPa、曲げ弾性率26GPaとの優れたものであった。
【0075】
[比較例1]
〈炭素繊維束の作成〉
実施例1と同じ未サイジングの炭素繊維束(東邦テナックス株式会社製、「テナックスSTS−24K N00」を用意した。
一方、サイジング剤用の高分子溶液として、N−メトキシメチル化ナイロン6(ナガセケムテックス株式会社製「F−30K」)をエタノールに溶解させて、3重量%に調整した高分子溶液を作製した。この高分子溶液は20℃で無色透明であった。また、繊維方向に1cmに裁断した未サイジングの上記炭素繊維束を高分子溶液に着液させると、直に炭素繊維束表面が濡れて、約2秒で5cmのガラス容器の底に沈み、炭素繊維束への高分子溶液の含浸性は良好であることを確認した。
次に、この高分子溶液の浴に、上記の未サイジングの炭素繊維束を連続的に浸漬させ、フィラメント間に高分子溶液を拡散させた。これを120℃〜150℃の乾燥炉に約120秒間通し、乾燥し、幅約15mmの炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束の硬度は105gと硬く、サイジング剤の付着量は炭素繊維重量100重量部に対して、1.7重量部であった。なお、サイジング剤を付着した炭素繊維束の表面の窒素マッピング像を比較したところ、炭素繊維束内部の窒素原子の存在比率は変わらず、炭素繊維束の表面だけでなく内部にも均等にサイジング剤が付着していることを確認した。
また、テーパ管内にφ1mmの穴を5ヶ所あけ、外側より0.25MPa圧力をかけ、圧縮空気を繊維束に直接吹き付けることにより開繊しつつ、テーパ管出口の下部に設置したテーブル上に散布した。得られた炭素繊維束について上述した方法で開繊率を測定したところ、わずか5%であり殆ど開繊していなかった。
【0076】
〈炭素繊維強化複合材料の作成〉
得られた炭素繊維束を16mmにカットし、マトリックス樹脂として実施例1と同じポリアミドパウダー(ユニチカ株式会社製「A1030FP」)を用意し、実施例1と同様に厚み5mm程度の炭素繊維ランダムマットを得た。
得られた炭素繊維ランダムマットを、実施例1と同様にプレス、繊維と樹脂の全目付け2700g/m
2、厚み2.0mm、繊維体積含有率35Vol%の炭素繊維ランダムマット複合材料成型板を得た。得られた成形板はマトリックス樹脂中への炭素繊維束の分散が不均一であり、曲げ物性は、曲げ強度122MPa、曲げ弾性率8GPaと低い物性値に過ぎなかった。
【0077】
[比較例2]
〈炭素繊維束の作成〉
実施例1と同じ未サイジングの炭素繊維束(東邦テナックス株式会社製、「テナックスSTS−24K N00」を用意した。
一方、サイジング剤用の水性エマルジョン用に、ナイロン6/ナイロン66=90/10(重量比)の二元共重合ポリアミド樹脂120gと、水179.6gおよび水酸化ナトリウム0.4gとを攪拌し、ポリアミド樹脂水性分散液を取り出した。得られたポリアミド樹脂水性分散液の樹脂濃度は、全量100重量部に対して40重量部であった。さらに、ポリアミド樹脂水性分散液300gに水11820gを室温で撹拌しながら追加し、ポリアミド粒子が分散した水性エマルジョンを得た。この水性エマルジョンの超音波処理後のポリアミド粒子の平均粒子径は0.7μmであったが、30分放置後の平均粒子径は75μmとなり、ポリアミド粒子の凝集が認められた。
また、繊維方向に1cmに裁断した未サイジングの上記炭素繊維束を水性エマルジョンに着液させて、その含浸性を評価したが、120秒経過しても炭素繊維束はエマルジョンに浸漬されることなく液面に浮いた状態であり、エマルジョンの含浸性は不良であった。
次に、このエマルジョンの浴に、上記の未サイジングの炭素繊維束を連続的に浸漬させ、フィラメント間にポリアミド粒子を拡散させた。これを120℃〜150℃の乾燥炉に約120秒間通し、乾燥し、幅約15mmの炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束の硬度は78gであり、得られた炭素繊維束中のサイジング剤の付着量は、炭素繊維重量100重量部に対して、0.6重量部であった。また、サイジング剤を付着した炭素繊維束の表面SEM像の窒素マッピングと、グラファイト粘着シートで炭素繊維束の表面を剥いだ後に得られる粘着シートに張り付いた炭素繊維表面の窒素マッピング像を比較したところ、粘着シートの剥ぐ回数(0〜5回)に伴い窒素原子の存在比率が低下していた。すなわち炭素繊維束の表層から内部に向かうにつれてポリアミド粒子由来の窒素元素濃度が低下していることが判明した。
【0078】
〈炭素繊維強化複合材料の作成〉
得られた炭素繊維束を16mmにカットし、マトリックス樹脂として実施例1と同じポリアミドパウダー(ユニチカ株式会社製「A1030FP」)を用意し、実施例1と同様に厚み5mm程度の炭素繊維ランダムマットを得た。
得られた炭素繊維ランダムマットを、実施例1と同様にプレス、繊維と樹脂の全目付け2700g/m
2、厚み2.0mm、繊維体積含有率35Vol%の炭素繊維ランダムマット複合材料成型板を得た。得られた成形板には一部未含浸部があり、曲げ物性は、曲げ強度280MPa、曲げ弾性率18GPaであった。