特許第5908780号(P5908780)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5908780共重合ポリエステルおよびそれからなる光学シート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5908780
(24)【登録日】2016年4月1日
(45)【発行日】2016年4月26日
(54)【発明の名称】共重合ポリエステルおよびそれからなる光学シート
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/189 20060101AFI20160412BHJP
   C08G 63/82 20060101ALI20160412BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20160412BHJP
【FI】
   C08G63/189
   C08G63/82
   C08J5/18CFD
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-106789(P2012-106789)
(22)【出願日】2012年5月8日
(65)【公開番号】特開2013-234249(P2013-234249A)
(43)【公開日】2013年11月21日
【審査請求日】2015年2月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】友成 安彦
【審査官】 内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第97/038038(WO,A1)
【文献】 特開2000−001605(JP,A)
【文献】 特開平08−003295(JP,A)
【文献】 特開平08−041219(JP,A)
【文献】 特開平06−035115(JP,A)
【文献】 特開平06−308665(JP,A)
【文献】 特開平04−168148(JP,A)
【文献】 特開2013−234248(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/189
C08G 63/82 −63/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸成分がナフタレンジカルボン酸単位を65〜75mol%およびテレフタル酸単位を35〜25mol%からなり、ならびにジオール成分がエチレングリコール単位からなる共重合ポリエステルであって、コバルト元素、マンガン元素、リン元素およびゲルマニウム元素を含有し、その含有量が下記式(1)〜(4)を同時に満たす共重合ポリエステル。
2 ≦ Co ≦ 20mmol% (1)
10 ≦ Mn ≦ 60mmol% (2)
0.7 ≦ P/(Co+Mn) ≦ 1.5 (3)
30 ≦ Ge ≦ 50mmol% (4)
[但し、上記数式中のCo、Mn、PおよびGeの各元素は共重合ポリエステルを構成する酸成分に対する含有量を表す。]
【請求項2】
溶融重合によって得られる共重合ポリエステルであって、固有粘度([η])が下記式(5)を満たし、かつガラス転移温度が100〜110℃である請求項1に記載の共重合ポリエステル。
0.55dL/g≦[η]≦0.95dL/g (5)
【請求項3】
請求項1または2に記載の共重合ポリエステルを成形してなるシート。
【請求項4】
共重合ポリエステルの屈折率が1.625〜1.635である請求項3に記載のシート。
【請求項5】
共重合ポリエステルの全光線透過率が80%以上である請求項3〜4いずれかに記載のシート。
【請求項6】
共重合ポリエステルの荷重たわみ温度が80℃以上である請求項3〜5いずれかに記載のシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複屈折が低く、耐熱性や耐薬品性に優れた透明樹脂に関するものである。本発明で得られた共重合ポリエステルは、スマートフォンなどのタッチパネル部材に好適に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンに代表されるタッチパネル材料にアクリルやポリカーボネートなど透明性に優れた樹脂を用いる研究開発が精力的に行われている。近年普及が著しいスマートフォンのタッチパネル部材には耐熱性や透明性、耐薬品性の他に低複屈折性も要求される。しかし、アクリルやポリカーボネート樹脂は透明性に優れるものの耐薬品性が低いことから、食品油などで汚れた手で触れるとタッチパネル部が汚染され光学部材としての機能を損なう恐れがある(例えば、特許文献1〜3参照。)。また、ポリカーボネート樹脂では成形時に起きる分子配向によって複屈折が大きくなるために光学部品としての機能を損なう場合がある。さらに電子機器の小型化や軽量化に伴い熱を発生する駆動部が細密化されることから、光学部品には耐熱性も要求されるが、アクリル樹脂では耐熱性が不足する。一方、耐熱性や耐薬品性を有するポリエステル樹脂は製造されているものの、相溶性が低いため透明性に劣ることや(例えば、特許文献4〜5参照。)、共重合比率が最適でないために複屈折性が大きくなるといった問題がある(例えば、特許文献6〜7参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−152120号公報
【特許文献2】特開2010−230832号公報
【特許文献3】特開2008−163194号公報
【特許文献4】特許第3616522号公報
【特許文献5】特開平08−309833号公報
【特許文献6】特許第3267902号公報
【特許文献7】特開平10−245433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決するために検討した結果達成されたものであって、優れた耐熱性、耐薬品性、さらには高屈折率、低複屈折を有する共重合ポリエステルおよびそれからなるシートを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、このような問題点を解決するために、鋭意検討したところ、酸成分がナフタレンジカルボン酸単位を65〜75mol%およびテレフタル酸単位を35〜25mol%からなり、ならびにジオール成分がエチレングリコール単位からなる共重合ポリエステルであって、コバルト元素、マンガン元素、リン元素およびゲルマニウム元素を含有し、その含有量が下記式(1)〜(4)を同時に満たす共重合ポリエステルならびにそれからなるシートであることを見出し、本発明に到達した。
2 ≦ Co ≦ 20mmol% (1)
10 ≦ Mn ≦ 60mmol% (2)
0.7 ≦ P/(Co+Mn) ≦ 1.5 (3)
30 ≦ Ge ≦ 50mmol% (4)
[但し、上記数式中のCo、Mn、PおよびGeの各元素は共重合ポリエステルを構成する酸成分に対する含有量を表す。]
【発明の効果】
【0006】
本発明の共重合ポリエステルは耐熱性、透明性、耐薬品性、さらには高屈折率、低複屈折に優れているため、スマートフォンなどのタッチパネル部材に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明のポリエステルとしては、酸成分がナフタレンジカルボン酸単位を65〜75mol%およびテレフタル酸単位が35〜25mol%含有する。テレフタル酸単位が35mol%を超えると耐熱性が低くなるため好ましくない。また、テレフタル酸単位が25mol%未満であると本発明の共重合ポリエステルの複屈折が大きくなるために光学部材に用いることが出来なくなる。より好ましい共重合率の範囲はナフタレンジカルボン酸単位が68〜75モル%、テレフタル酸単位が32〜25モル%であり、更に好ましくはナフタレンジカルボン酸単位が70〜75モル%、テレフタル酸単位が30〜25モル%である。ナフタレンジカルボン酸単位としては、2,6−ナフタレンジカルボン酸単位であることが好ましい。なお、本発明の奏する効果を阻害しない範囲で他のジカルボン酸成分が共重合されていても良い。そのようなジカルボン酸成分としては、ジカルボン酸としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルチオエーテルジカルボン酸、ベンゾフェノンジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ベンゾフェノンジカルボン酸、ジフェニルメタンジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸を挙げることができる。なおこれらのエステル形成性を有する誘導体であっても良い、具体的には、ジカルボン酸の炭素数1〜6のジアルキルエステル、ジフェニルエステル、ジカルボン酸ハライド(ジカルボン酸ハロゲン化物)である。
【0008】
本発明においてグリコール成分としてエチレングリコール単位を用いるが、エチレングリコール単位の一部を例えば1,2−プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、デカメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4−ジヒドロキシシクロヘキサン、1,1−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、p−(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、4,4’−(2−ヒドロキシエトキシ)ビフェニル、2,2−ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン酸、ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシエトキシフェニル)スルホン酸等の他の二官能性化合物の1種以上で置換して10重量%未満の範囲で共重合せしめたコポリマーであってもよい。更にトリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、没食子酸、トリカルバリル酸、ペンタエリスリトール、テトラキス(ヒドロキシメチル)メタン等の3以上のエステル形成性官能基を有する化合物、またはメタノール、エタノール、ヘキサノール、オクタノール、デカノール、ドデカノール、フェノール、ナフトール、カプロン酸、カプリル酸、カプロン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、安息香酸、ナフトエ酸、ビフェニルモノカルボン酸等の1のエステル形成性官能基を有する化合物が少量共重合されていても良い。
【0009】
エステル交換法により本発明の共重合ポリエステルが重合される場合、好ましくは酸成分であるナフタレンジカルボン酸の低級ジアルキルエステル(具体的には2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステル)およびテレフタル酸の低級ジアルキルエステル(具体的にはジメチルテレフタレート)とグリコール成分であるエチレングリコールに、本発明の共重合ポリエステルを構成する酸成分の合計量、好ましくは本発明の共重合ポリエステルを構成するジカルボン酸成分の合計量に対して2〜20mmol%のコバルト元素を含有するようにコバルト化合物が、および10〜60mmol%のマンガン元素を含有するようにマンガン化合物が、含まれている事が必要である。このコバルト化合物とマンガン化合物はエステル交換反応触媒として添加する事が好ましいが酸化防止剤、色相安定剤その他の安定剤として添加されていても良い。
【0010】
ここで、コバルト化合物を添加しめる目的の1つは、エステル交換反応触媒の効果に加えて、色相悪化の原因である共重合ポリエステルの黄色化を抑制するものである。添加量が2mmol%未満ではこの効果が発現せず、20mmol%を超えると色相が灰色化し、色相の悪化をもたらしてしまい好ましくない。より好ましくは上記の含有量が2.5〜15mmol%の範囲で添加することである。マンガン化合物についてはその合計量が60mmol%を超えると、マンガン化合物をエステル交換触媒として添加した場合に、触媒残渣による析出粒子の影響によって成形した際に白化現象がみられ、透明性がそこなわれる。逆に10mmol%未満ではエステル交換反応が不十分になるばかりか、その後の重合反応も遅くなり好ましくない。より好ましくは上記の含有量が20〜50mmol%の範囲で添加することである。
【0011】
さらに、エステル交換触媒を失活させるためにリン化合物を添加する。リン化合物の添加量(モル比)をコバルト化合物とマンガン化合物の合計添加量に対して0.7〜1.5の範囲とする必要がある。すなわち0.7≦P/(Co+Mn)≦1.5を満たす必要がある。このモル比が0.7未満であると、エステル交換触媒が完全に失活せず、熱安定性が悪く、その影響で共重合ポリエステルが着色したり、成形時の物性低下をもたらす不都合ガある。逆に、1.5を越えると共重合ポリエステルの熱安定性に劣ることがあり、好ましくない。より好ましくは上記の当該比率が1.0〜1.4となるように添加することである。
【0012】
本発明において用いられるマンガン化合物およびコバルト化合物は例えば酸化物、塩化物などのハロゲン化物、炭酸塩、カルボン酸塩として用いることが可能である。これらの中でも酢酸塩、すなわちマンガン化合物は酢酸マンガンとして、コバルト化合物は酢酸コバルトとして添加することが好ましい。
【0013】
上記のリン化合物は、例えばトリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート(ブチル基がn−ブチル、sec−ブチルまたはt−ブチル基である場合をすべて含む。以下同じ。)、トリヘキシルホスフェート、トリス(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリフェニルホスフェート、ジメチルホスフェート、ジエチルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジヘキシルホスフェート、ビス(2−エチルヘキシル)ホスフェート、ジフェニルホスフェート、モノメチルホスフェート、モノエチルホスフェート、モノブチルホスフェート、モノヘキシルホスフェート、モノ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、モノフェニルホスフェート、モノメチルホスフィン酸、モノエチルホスフィン酸、モノブチルホスフィン酸、モノヘキシルホスフィン酸、モノ(2−エチルヘキシル)ホスフィン酸、モノフェニルホスフィン酸、モノメチルホスホン酸、モノエチルホスホン酸、モノブチルホスホン酸、モノヘキシルホスホン酸、モノ(2−エチルヘキシル)ホスホン酸、モノフェニルホスホン酸、カルボメトキシメタンホスホン酸、カルボエトキシメタンホスホン酸、カルボプロポキシメタンホスホン酸、カルボプトキシメタンホスホン酸、カルボメトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸、カルボエトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸、カルボプロトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸およびカルボブトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸、もしくはこれらカルボアルコキシホスホン酸のジメチルエステル、ジエチルエステル、ジプロピルエステルおよびジブチルエステルまたは正リン酸もしくは亜リン酸を挙げることができる。好ましくはトリメチルホスフェートである。
【0014】
更に本発明の共重合ポリエステルには、共重合ポリエステルを構成する酸成分に対して30〜50mmol%のゲルマニウム元素を含有するようにゲルマニウム化合物が含まれている必要がある。このゲルマニウム化合物は共重合ポリエステルの重合反応触媒として添加されていることが好ましい。より好ましくは、重合反応触媒としては、色相の面から非晶性の二酸化ゲルマニウムを用いることである。二酸化ゲルマニウムの添加量としては30mmol%未満では重合反応性が低くなって生産性が悪く、50mmol%を超えると熱安定性が劣って成形時の物性低下および色相悪化を招くことがあり好ましくない。より好ましくは上記の含有量が32〜40mmol%の範囲で添加することである。なお上記のような二酸化ゲルマニウムは濃度が0.5〜5重量%のエチレングリコールに分散又は溶解した液体として添加することが好ましい。
【0015】
前述の種々の触媒および安定剤の添加時期は、コバルト化合物、マンガン化合物についてはエステル交換反応開始時点からその初期の間にすべてを添加するのが好ましい。一方、リン化合物についてはエステル交換反応が実質的に終了した後、固有粘度が0.3dL/gに達する迄に添加することが出来る。ゲルマニウム化合物についてはリン化合物を添加する10分以上前に、更に固有粘度が0.2dL/gに達する迄に添加する。
【0016】
上記においては、いわゆるエステル交換法により共重合ポリエステルを製造する例を挙げたが、対応するジカルボン酸、すなわちナフタレンジカルボン酸およびテレフタル酸をジカルボン酸成分として、ジオール成分としてエチレングリコールを用いるエステル化法によって本発明の共重合ポリエステルが重合される場合も同様に、上記の各元素の含有量が所定の数式を満たす場合には本発明に該当することは言うまでもない。
【0017】
本発明の共重合ポリエステルにおいては、機械物性の観点から溶融重合によって得られた共重合ポリエステルの固有粘度[η]が下記式(5)を満たすことが好ましい。
0.55dL/g≦[η]≦0.95dL/g (5)
固有粘度が0.55dL/gより低いと機械的強度に劣り、0.95dL/gより高いと重合釜から押し出せなくなる可能性があるばかりか、成形流動性が低下して成形加工性に劣り強いては色相が悪化する。より好ましくは共重合ポリエステルの固有粘度[η]が0.60〜0.85dL/gであることである。
【0018】
本発明により得られる共重合ポリエステルのガラス転移温度は、成形品の物性の点から100℃以上が好ましい。ガラス転移温度が100℃以下であれば、成形品の耐熱性に劣り好ましくない。なおガラス転移温度をこの値の範囲にするためには、共重合ポリエステルを製造する際の共重合率によってこのガラス転移温度の値の範囲を達成することができる。より好ましくは共重合ポリエステルのガラス転移温度が103℃以上であることである。本発明により得られる共重合ポリエステルの荷重1.80MPaにおける荷重たわみ温度は、成形品の物性の点から80℃以上が好ましい。荷重たわみ温度が80℃以下であれば、成形品の耐熱性に劣り好ましくない。なお荷重たわみ温度をこの値の範囲にするためには、共重合ポリエステルを製造する際の共重合率によってこの荷重たわみ温度の値の範囲を達成することができる。より好ましくは共重合ポリエステルの荷重1.80MPaにおける荷重たわみ温度が81℃以上であることである。
【0019】
本発明における共重合ポリエステルからなるシートまたはフィルムは、例えば射出成形法、圧縮成形法、射出圧縮成形法、押出成形法など任意の方法により成形される。本発明における共重合ポリエステルから形成されたシートまたはフィルムの25℃、波長589nmにおける光の屈折率が1.625〜1.635であることが好ましい。上述したポリエチレンナフタレートとポリエチレンテレフタレートの共重合率によって、この屈折率の値の範囲を達成することができる。より好ましくは共重合ポリエステルからなるシートまたはフィルムの25℃、波長589nmにおける光の屈折率が1.627〜1.633であることである。本発明における共重合ポリエステルから形成されたシートは、全光線透過率が80%以上であることが好ましい。更には85%以上であることが好ましい。全光線透過率が80%より低いと、シートとして使用することは困難である。ポリエチレンナフタレートとポリエチレンテレフタレートの共重合率によって、この透過率の値の範囲を達成することができる。より好ましくは共重合ポリエステルからなる厚さ1mmのシートの全光線透過率が85%以上であることである。また、本発明のシートは、光学ひずみが小さいことが好ましい。一般的なナフタレンジカルボン酸タイプのポリエステルからなるシートは光学ひずみが大きく、成形条件によりその値を低減することは可能である場合もあるが、通常その条件幅は非常に小さく、したがって成形が非常に困難である。一方で本発明の共重合ポリエステルは、樹脂の配向により生じる光学ひずみが小さく、また成形ひずみも小さいため、成形条件を厳密に設定しなくても良好な光学素子を得ることができる。
【0020】
本発明における共重合ポリエステルから形成されたシートの表面には、必要に応じ、反射防止層あるいはハードコート層といったコート層が設けられていても良い。反射防止層は、単層であっても多層であっても良く、有機物であっても無機物であっても構わないが、無機物であることが好ましい。具体的には、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタニウム、酸化セリウム、酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム等の酸化物あるいはフッ化物が例示される。
【実施例】
【0021】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。なお、共重合ポリエステルの各種の物性は以下の手法により分析・評価を行った。
【0022】
(ア)固有粘度([η]):
共重合ポリエステル試料のテトラクロロエタン:フェノ−ル=4:6の混合溶媒を用いた溶液から35℃にて測定した。
【0023】
(イ)H−NMRスペクトル測定:
本発明により得られた共重合ポリエステル中の共重合率は、日本電子製JEOLA−600を用いて600MHzのH−NMRスペクトルを測定し算出した。
【0024】
(ウ)ガラス転移温度(Tg)測定:
25℃で24時間減圧乾燥した共重合ポリエステルを示差走査型熱量計(DSC)を用いて昇温速度10℃/分で昇温しながら測定した。測定試料はアルミニウム製パン(TA Instruments社製)に約10mg計量し、窒素雰囲気下で測定した。
【0025】
(エ)Col−b(色相):
本発明により得られた共重合ポリエステルを、170℃×3時間窒素雰囲気下で熱処理後、カラーマシン社製CM−7500型カラーマシンで測定した。
【0026】
(オ)共重合ポリエステル中の各元素の含有量:
共重合ポリエステルの成形品から蛍光X線(理学製、Rataflex RU200)で定法により測定した。
【0027】
(カ)荷重たわみ温度:
本発明により得られた共重合ポリエステルをISO 75の方法に従い測定を行った。
【0028】
(キ)屈折率:
共重合ポリエステルから成形したフィルムについてATAGO製DR−M2のアッベ屈折計を用いてその厚さ方向の屈折率を測定した。
【0029】
(ク)全光線透過率:
1mm厚の成形片を日本電色(株)製のMDH−300Aを用いてその成形片の厚さ方向の全光線透過率を測定した。
【0030】
(ケ)複屈折(光学ひずみ):
共重合ポリエステルから成形したレンズを二枚の偏光板の間に挟み直行ニコル法で後ろからの光漏れを目視することにより評価した。評価は、○:殆ど光漏れがない、×:光漏れが顕著であるとした。
【0031】
(コ)耐薬品性テスト:
得られた共重合ポリエステルチップを射出成形し、厚み3mmの平板状の成形品を得た。その成形品をアセトン中に23℃で48時間浸漬させた際に成形品の外観に変化があったかどうか確認した。外観変化(白化、膨潤など)が見られなかった場合を○、そうでなかった場合を×とした。
【0032】
[実施例1]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステル(以下、NDCと略記することがある)75重量部、ジメチルテレフタレート(以下、DMTと略記することがある)25重量部、エチレングリコール(以下、EGと略記することがある)53重量部とを酢酸コバルト四水塩(以下、Coと略記することがある)を2価ジカルボン酸のモル数に対して総量として6ミリモル%、酢酸マンガン四水和物(以下、Mnと略記することがある)を2価ジカルボン酸のモル数に対して総量として30ミリモル%をエステル交換触媒として用いエステル交換反応させ、非晶性二酸化ゲルマニウム(以下、Geと略記することがある)のEG1%溶液を2価ジカルボン酸のモル数に対して総量として35ミリモル%を添加したのち、5分後にトリメチルホスフェート(以下、Pと略記することがある)を2価ジカルボン酸のモル数に対して総量として33ミリモル%を添加しエステル交換反応を終了せしめた。次に、引き続き高温高真空下で重縮合反応を行い、その後チップカッターによりストランド型のチップとした。得られた共重合ポリエステルの固有粘度は0.63dL/gであった。また、これらの得られた共重合ポリエステル品質および各評価結果について併せて表1および表2に示した。
【0033】
[実施例2、比較例1〜5]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステル、ジメチルテレフタレート、酢酸コバルト四水塩、酢酸マンガン四水和物、トリメチルホスフェート、非晶性二酸化ゲルマニウム、三酸化アンチモンの添加量、添加比率を表1に示す様に変更する以外は、基本的に実施例1と同様に行った。また、これらの得られた共重合ポリエステル品質および各評価結果についても併せて表1および表2に示した。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明により得られた共重合ポリエステルは耐熱性、透明性、耐薬品性、さらには高屈折率、低複屈折に優れているため、スマートフォン、タブレット(コンピュータ)などのタッチパネル部材に好適に用いることができる。それゆえ、光学シートに関連する産業界全般において非常に有意義な発明であるが、特にパーソナルコンピュータや携帯型電子端末の事業において非常に有意義である。