特許第5908839号(P5908839)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5908839超音波感受性物質を含む腫瘍増殖抑制剤および腫瘍増殖抑制剤と低出力超音波を用いた腫瘍増殖抑制方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5908839
(24)【登録日】2016年4月1日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】超音波感受性物質を含む腫瘍増殖抑制剤および腫瘍増殖抑制剤と低出力超音波を用いた腫瘍増殖抑制方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 41/00 20060101AFI20160414BHJP
   A61K 31/409 20060101ALI20160414BHJP
   A61K 31/352 20060101ALI20160414BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20160414BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20160414BHJP
   A61K 31/28 20060101ALI20160414BHJP
【FI】
   A61K41/00
   A61K31/409
   A61K31/352
   A61P35/00
   A61K45/00
   A61K31/28
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-531890(P2012-531890)
(86)(22)【出願日】2011年8月30日
(86)【国際出願番号】JP2011069590
(87)【国際公開番号】WO2012029771
(87)【国際公開日】20120308
【審査請求日】2014年9月1日
(31)【優先権主張番号】特願2010-192916(P2010-192916)
(32)【優先日】2010年8月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】514221148
【氏名又は名称】芝口 浩智
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100062144
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 葆
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(72)【発明者】
【氏名】芝口 浩智
(72)【発明者】
【氏名】水流 弘文
【審査官】 山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】 KINOSHITA et al.,Mechanism of Porphyrin-Induced Sonodynamic Effect:Possible Role of Hyperthermia,RADIATION RESEARCH,2006年,Vol.165,p.299-306
【文献】 水流弘文他,新しいポルフィリン誘導体DEG-Mn-DP-Hを用いた癌の超音波力学療法,超音波医学,2010年 4月15日,Vol.37 Supplement,S468 83-AP-001
【文献】 岩瀬他,新規ポルフィリン誘導体DCPH-P-Na(I)の音響化学的活性化によるアポトーシス誘導,応用薬理,2010年 8月13日,Vol.78,No.5/6,p.45
【文献】 YANAGISAWA et al.,PHAGOCYTOSIS OF ULTRASOUND CONTRASR AGENT MICROBUBBLES BY KUPFFER CELLS,Ultrasound in Med. & Biol.,2007年,Vol.33,No.2,p.318-325
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 41/00
A61K 31/28
A61K 31/352
A61K 31/409
A61K 45/00
A61P 35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
[I]:
【化1】
で表される[7,12-ビス(1-(2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ)エチル)-3,8,13,17-テトラメチルポルフィリン-2,18-ジプロピオナト]マンガンと音響キャビテーション現象増強物質とを含むことを特徴とする腫瘍増殖抑制剤。
【請求項2】
[II]:
【化2】
で表される13,17-ビス(1-カルボキシエチル)-8-[2-(2,4-ジクロロフェニル-ヒドラゾノ)エチリデン]-3-エテニル-7-ヒドロキシ-2,7,12,18-テトラメチルクロリン・ジナトリウム塩と音響キャビテーション現象増強物質とを含むことを特徴とする腫瘍増殖抑制剤。
【請求項3】
請求項1または請求項に記載の腫瘍増殖抑制剤であって、前記音響キャビテーション現象増強物質が、ガス封入バブル(気泡)であることを特徴とする腫瘍増殖抑制剤。
【請求項4】
請求項に記載の腫瘍増殖抑制剤であって、前記ガス封入バブルが、マイクロバブルまたはナノバブルであることを特徴とする腫瘍増殖抑制剤。
【請求項5】
請求項または請求項に記載の腫瘍増殖抑制剤であって、前記ガス封入バブルが、ソナゾイド(sonazoid)またはレボビスト(levovist)であることを特徴とする腫瘍増殖抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、超音波感受性物質を含む腫瘍増殖抑制剤および腫瘍増殖抑制剤と低出力超音波を用いた腫瘍増殖抑制方法に関するものである。更に詳細には、この発明は、超音波感受性物質と音響キヤビテーション現象増強物質を含む腫瘍増殖抑制剤および腫瘍増殖抑制剤を低出力超音波で活性化して腫瘍増殖を抑制する腫瘍増殖抑制方法ならびに超音波感受性物質と音響キヤビテーション現象増強物質との併用による低出力超音波力学抗がん療法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
がん治療における三大療法は、外科療法、化学療法ならびに放射線療法である。これらの療法は、いずれも高い治療効果は認められるものの、侵襲的であることや、強い副作用のために治療の中断がしばしば余儀なくされるという問題がある。そこで、非侵襲的ながん治療を考えたとき、超音波エコー検査に用いられるような低出力の超音波を応用することは非常に有望である。この観点から、これまで、主にPhotofrinなどの光感受性物質が超音波による音響キヤビテーション現象によっても活性化されることから、これらの光感受性物質と低出力超音波とを併用した低出力超音波による非侵襲的治療が、特にがん治療に応用されてきた(例えば、非特許文献1、2参照)。しかしながら、光線力学療法で光感受性物質を使用する場合にすでに問題になっているように、低出力超音波療法において光感受性物質を患者に投与する場合でも、光による皮膚過敏症などの副作用を予防するために、患者をほぼ2週間もの長期間に亘って暗室に隔離することが余儀なくされるなど、患者のQOLが著しく損なわれるという問題が指摘されている。また、光感受性物質の超音波による活性化は、一般的に光による活性化に比べて低いという問題もある。
【0003】
一方、低出力の超音波は、光に比べて生体の深部まで到達する利点があり、胎児のエコー診断にも使用されていることからも分かるように安全性が高いが、それ単独ではがん治療の効果は期待できない。現在、低出力超音波と、ナノバブル/マイクロバブルやナノ粒子などとの併用により、音響キャビテーション現象を利用した低出力超音波の遺伝子治療や薬物伝達システム(DDS)への応用が進められているが、ナノ粒子などの生体内での安定性など様々な問題があり、未だ実用化にはほど遠い段階である。
【0004】
このように、低出力超音波を低侵襲的ながん治療に応用するためには、光に反応しない超音波感受性物質の開発と治療目的局所での超音波の効果増強など多くの問題を解決しなければならない。
【0005】
上述したような課題を解決するために、本発明者らは、光にほとんど反応せずに超音波によって活性化する超音波感受性物質と低出力超音波との併用によるがんに対する作用効果を調べた。その結果、in vitroにおいては極めて著名な効果(強力な細胞傷害活性)が得られたけれども、担がん動物を用いたin vivo実験系においては、有意ではあるものの、in vitroの結果から期待されるような強力な腫瘍増殖抑制効果が認められなかった(非特許文献3)。 これは、腫瘍組織において、超音波感受性物質が低出力超音波によって充分に活性化されなかったためだと考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Yumita N., et al., Jpn. J. Cancer Res., vol. 80, pp.219-222 (1989)
【非特許文献2】Miyoshi N., et al., Radiat. Res., vol. 143, pp.194-202 (1995)
【非特許文献3】Hachimine, K., et al., Cancer Sci., vol. 98, no.6, pp.916-920 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明者らは、低出力超音波を用いたがん療法で腫瘍組織において超音波感受性物質が充分に活性化する方法を鋭意研究した結果、超音波感受性物質に低出力超音波を照射するに当たって、超音波による音響キャビテーション現象を増強する物質(以下、音響キャビテーション現象増強物質ともいう)を併用することにより、担がん動物を用いたin vivo実験系においても、超音波によって超音波感受性物質が充分に活性化されて有意な腫瘍増殖抑制効果が得られることを見出して、この発明を完成した。
【0008】
したがって、この発明は、1つの形態として、超音波感受性物質と音響キャビテーション現象増強物質とを含む腫瘍増殖抑制剤を提供することを目的としている。
【0009】
この発明は、別の形態として、超音波感受性物質と音響キャビテーション現象増強物質とを含む腫瘍増殖抑制剤に対して低出力の超音波を照射して腫瘍増殖を抑制することからなる腫瘍増殖抑制方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、この発明は、1つの形態として、光には実質的に反応しない超音波感受性物質と音響キャビテーション現象増強物質とを含む腫瘍増殖抑制剤を提供する。
【0011】
この発明は、好ましい態様として、超音波感受性物質が、ポルフィリン誘導体またはキサンテン誘導体であることからなる腫瘍増殖抑制剤を提供する。
【0012】
この発明は、更に好ましい態様として、ポルフィリン誘導体が、式[I]:
【0014】
【化2】
で表される13,17-ビス(1-カルボキシエチル)-8-[2-(2,4-ジクロロフェニル-ヒドラゾノ)エチリデン]-3-エテニル-7-ヒドロキシ-2,7,12,18-テトラメチルクロリン・ジナトリウム塩であることからなる腫瘍増殖抑制剤を提供する。
【0015】
この発明は、別の好ましい態様として、音響キャビテーション現象増強物質が、低出力超音波で音響キャビテーション現象を惹起するガス封入バブル(気泡)、例えばマイクロバブルまたはナノバブルであることからなる腫瘍増殖抑制剤を提供する。
【0016】
この発明は、別の更に好ましい態様として、音響キャビテーション現象増強物質が、ソナゾイド(sonazoid)またはレボビスト(levovist)であることからなる腫瘍増殖抑制剤を提供する。
【0017】
この発明は、別の形態として、超音波感受性物質と音響キャビテーション現象増強物質とを含む腫瘍増殖抑制剤に低出力超音波を照射することによって腫瘍増殖を抑制することからなる腫瘍増殖抑制方法を提供する。
【0018】
この発明は、好ましい態様として、超音波感受性物質が、ポルフィリン誘導体またはキサンテン誘導体であることからなる腫瘍増殖抑制方法を提供する。
【0019】
この発明は、更に好ましい態様として、ポルフィリン誘導体が、式 [I]:
【0020】
【化3】
で表される[7,12-ビス(1-(2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ)エチル)-3,8,13,17-テトラメチルポルフィリン-2,18-ジプロピオナト]マンガン(DEG)または式 [II]:
【0021】
【化4】
で表される13,17-ビス(1-カルボキシエチル)-8-[2-(2,4-ジクロロフェニル-ヒドラゾノ)エチリデン]-3-エテニル-7-ヒドロキシ-2,7,12,18-テトラメチルクロリン・ジナトリウム塩であることからなる腫瘍増殖抑制方法を提供する。
【0022】
この発明は、別の好ましい態様として、音響キャビテーション現象増強物質が、低出力超音波で音響キャビテーション現象を惹起するバブル(気泡)、例えばマイクロバブルまたはナノバブルであることからなる腫瘍増殖抑制方法を提供する。
【0023】
この発明は、別の更に好ましい態様として、音響キャビテーション現象増強物質が、ソナゾイド(sonazoid)またはレボビスト(levovist)であることからなる腫瘍増殖抑制方法を提供する。
【0024】
この発明は、別の更に別の好ましい態様として、低出力超音波が、音響キャビテーション現象を惹起し超音波感受性物質を励起するものであることからなる腫瘍増殖抑制方法を提供する。
【発明の効果】
【0025】
この発明は、超音波感受性物質を、エコー診断に用いられる程度の低出力の超音波の使用により活性化して腫瘍障害活性をin vivoで著しく増強することができ、がん治療においては抗腫瘍効果を有している。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】DEGとソナゾイド投与後超音波処置をした場合と非処置の場合との比較効果を示す図(実施例1)。
図2】DEG単独投与後超音波処置をした場合と非処置の場合との比較効果を示す図(比較例1)。
図3】担がんマウスにDEGを腫瘍内投与した後、超音波治療直後、1週間後および3週間後の腫瘍を観察した結果を示す図(実施例1)。
図4】担がんマウスの特定部位(皮下腫瘍)における腫瘍サイズを経時的に測定した結果を示す図(実施例2)
図5】担がんマウスの特定部位(皮下腫瘍)における癌抑制効果を示す図(実施例2)。
【発明を実施するための形態】
【0027】
この発明は、1つの形態として、超音波感受性物質と音響キャビテーション現象増強物質とを含む腫瘍増殖抑制剤を提供する。この発明に係る腫瘍増殖抑制剤は、低出力超音波を照射することにより音響キャビテーション現象増強物質の音響キャビテーション現象が増強されて超音波感受性物質を励起して、生体の腫瘍増殖を抑制する効果がある。
【0028】
この発明の腫瘍増殖抑制の活性成分である超音波感受性物質としては、低出力超音波の照射により活性化されて、腫瘍増殖抑制効果を奏することができる物質であればいずれも使用することができ、例えば、ポルフィリン誘導体またはキサンテン誘導体などを1つの例として挙げることができる。
【0029】
これら超音波感受性物質のうち、ポルフィリン誘導体としては、例えば、式[I]:
【0030】
【化5】
で表される[7,12-ビス(1-(2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ)エチル)-3,8,13,17-テトラメチルポルフィリン-2,18-ジプロピオナト]マンガン(DEG)または式 [II]:
【0031】
【化6】
で表される13,17-ビス(1-カルボキシエチル)-8-[2-(2,4-ジクロロフェニル-ヒドラゾノ)エチリデン]-3-エテニル-7-ヒドロキシ-2,7,12,18-テトラメチルクロリン・ジナトリウム塩などが好ましい。
【0032】
この発明に使用される超音波感受性物質は、光には実質的に反応しない、つまり、光にはほとんど反応しないかもしくは完全に反応しないが、超音波には反応する物質を意味している。
【0033】
また、この発明に使用できる音響キャビテーション現象増強物質としては、例えば、ナノバブルやマイクロバブル等のガス封入バブルなどが挙げられ、その具体例としては、例えば、ソナゾイドやレボビストなどが挙げられる。
【0034】
さらに、この発明の腫瘍増殖抑制方法に使用される低出力超音波は、この発明の腫瘍増殖抑制剤を活性化できる程度の低出力の超音波であれば特に制限されるものではなく、例えば、0.1〜10.0 W/cm2、0.1〜5.0 MHz程度の範囲の超音波であるのが好ましい。なお、MI値では、2未満の超音波であるのが好ましい。ちなみに、ソナゾイド造影での推奨値はMI値として0.2〜0.3である。
【0035】
この発明に係る腫瘍増殖抑制剤は、超音波感受性物質と音響キャビテーション現象増強物質の他に、通常、投与形態に合った製剤用担体と組み合わせて当該技術分野で慣用されている常套手段によって製剤化するのがよい。その投与形態としては、特に限定されるものではなく、経口でも、非経口でも投与可能であり、その投与形態に合わせた剤型で投与される。経口投与可能な剤型としては、例えば、糖衣錠、フィルムコーテイング剤等の錠剤、カプセル剤、顆粒剤、乳剤、粉剤、乳剤、懸濁剤、シロップ剤などの経口剤が挙げられる。非経口投与可能な剤型としては、例えば、皮下、静脈、筋肉、腹腔内等の注射剤、点滴剤などの非経口剤が挙げられる。また、超音波感受性物質自体の形状にしても、投与形態に合った形状であれば、特に限定されるものではなく、例えば、粉状、粒子状(ナノ粒子状を含む)、液状などの形状であってもよい。
【0036】
この発明の腫瘍増殖抑制剤の製剤化に使用可能な製剤用担体としては、例えば、炭酸カルシウム、カオリン、炭酸水素ナトリウム、乳糖、澱粉類、結晶セルロース、タルク、グラニュー糖等の賦形剤、デキストリン、ゴム類、アルコール化澱粉、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、プルラン等の結合剤、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、クロスポピドン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、部分アルファー化澱粉等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、澱粉、安息香酸ナトリウム等の滑沢剤、タール色素、カラメル、三二酸化鉄、酸化チタン、リボフラビン類等の着色剤、甘味類、香料等の矯味剤、亜硫酸ナトリウム等の安定剤、パラベン類、ソルビン酸等の保存剤などが使用できる。
【0037】
この発明の腫瘍増殖抑制剤は、その他の医薬、特に抗がん剤などと組み合わせて投与することもできる。この場合の投与方法としては、腫瘍増殖抑制剤の製剤中にその他の医薬も一緒に含有して投与する方法でも、または腫瘍増殖抑制剤とその他の医薬とを別個に投与する方法でもよい。
【0038】
また、この発明の腫瘍増殖抑制剤の投与量は、投与経路、症状、患者の年齢、体重などや超音波照射量、照射時間などによっても適宜変えることができる。さらに、その投与量は、腫瘍増殖抑制剤中の超音波感受性物質の有効濃度が超音波の照射時間中体内で保持される量であれば特に制限されず、その腫瘍増殖抑制剤の種類などに応じて適宜変えるのがよい。
【0039】
さらに、この発明における低出力超音波の照射量と照射時間は、腫瘍増殖抑制剤の投与量、投与経路、症状、患者の年齢、体重などによって適宜変えるのがよい。
【実施例1】
【0040】
担がん動物として、SCIDマウスにヒト胃がん細胞株MKN-74を皮下に播種し、腫瘍直径が約20 mm に増殖したところで超音波治療を行った。超音波治療は、超音波感受性物質としてポルフィリン誘導体([7,12-ビス(1-(2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ)エチル)-3,8,13,17-テトラメチルポルフィリン-2,18-ジプロピオナト]マンガン(DEG)を、音響キャビテーション現象増強物質としてソナゾイド(sonazoid)を用いて、低出力超音波を2 W/cm2、1 MHzおよび50% duty cycleの条件下で10分間照射して行った。この超音波治療は、超音波感受性物質(5μM)と音響キャビテーション現象増強物質(16μL)とを生理食塩水(300μL)に懸濁し、腫瘍内投与後、直ちに超音波を照射した。超音波治療直後、1週間後および3週間後の腫瘍を観察したところ、一度の処置により3週間後に劇的な腫瘍の退縮が認められた。その結果を図1および図3に示す。
【0041】
[比較例1]
実施例1と実質的に同様にして、DEG単独を用いて超音波処置を行った。その結果を比較例として図2に示す。
【実施例2】
【0042】
本実施例は、特定部位(皮下腫瘍)における癌抑制効果を示している。マウス皮下にヒト胃癌細胞株MKN-74 を〜5 × 106個播種した後、腫瘍の長径が5 mm程度に成長した時点で、超音波感受性物質DEG(5 μM)と超音波増感剤ソナゾイド(Szd; 16 μl)のPBS 懸濁溶液(200 μl)を腫瘍内に投与し、直ちにSonitron 1000 にて1 W/cm2, 1 MHz, 50% duty cycle の条件で超音波を10 分間照射した。超音波照射を3回隔日にて行い(図4の矢印、↑)、腫瘍のサイズを測定した。
【0043】
その結果、未処置群(図5上段右図)およびSzd 併用によるSDT 群(図5中段左図)では、腫瘍サイズに差はなかったが、Szd とDEG を併用したSDT では3例(図5中段右図および下段左・右図)中2例(図5下段左・右図)において著効を示し、効果の少なかった1例を含めても有意な抗腫瘍効果となり、皮下腫瘍において有効であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0044】
この発明は、超音波感受性物質ならびに音響キャビテーション現象増強物質を併用して、エコー診断に利用されている程度の低出力の超音波を利用することにより抗腫瘍効果を奏することができることから、従来の光感受性物質を利用した光線力学療法に比べて、患者のQOLの著しい改善をすることができるという効果がある。したがって、この発明は、がん治療において、低出力超音波を利用した低侵襲的な新たながん治療を開発するものと期待できる。
図1
図2
図3
図4
図5