(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、本発明の一実施形態に係るゴルフクラブセット及びゴルフクラブシャフトセットを示す概念図である。同概念図では、左(右)から右(左)に向かうに連れてゴルフクラブ及びゴルフクラブシャフトの番手が大きく(小さく)なるように描いている。
【0023】
本実施形態のゴルフクラブセットは、5番アイアン5I、6番アイアン6I、7番アイアン7I、8番アイアン8I、9番アイアン9I及び10番アイアン(ピッチング)10I(P)を有するアイアンクラブセットである。各アイアンクラブは、シャフトの先端部と基端部にヘッドとグリップをそれぞれ固定して構成されている。
【0024】
5番アイアン5Iを構成するヘッド、シャフト、グリップにそれぞれ5H、5S、5Gの符号を付している。以下ではシャフト5Sを5番シャフトと呼ぶ。
6番アイアン6Iを構成するヘッド、シャフト、グリップにそれぞれ6H、6S、6Gの符号を付している。以下ではシャフト6Sを6番シャフトと呼ぶ。
7番アイアン7Iを構成するヘッド、シャフト、グリップにそれぞれ7H、7S、7Gの符号を付している。以下ではシャフト7Sを7番シャフトと呼ぶ。
8番アイアン8Iを構成するヘッド、シャフト、グリップにそれぞれ8H、8S、8Gの符号を付している。以下ではシャフト8Sを8番シャフトと呼ぶ。
9番アイアン9Iを構成するヘッド、シャフト、グリップにそれぞれ9H、9S、9Gの符号を付している。以下ではシャフト9Sを9番シャフトと呼ぶ。
10番アイアン10Iを構成するヘッド、シャフト、グリップにそれぞれ10H、10S、10Gの符号を付している。以下ではシャフト10Sを10番シャフトと呼ぶ。
このように本実施形態のゴルフクラブセットは、5番シャフト5S、6番シャフト6S、7番シャフト7S、8番シャフト8S、9番シャフト9S及び10番シャフト10Sを有するアイアンシャフトセットである。
【0025】
表1は、本実施形態のゴルフクラブセット及びゴルフクラブシャフトセットの各種パラメータを示している。
クラブ長さLは、番手が大きくなるに連れて、減少(漸減)している。
ヘッド重量W
Hは、番手が大きくなるに連れて、増加(漸増)している。
シャフト重量W
Sは、番手が大きくなるに連れて、増加(漸増)している。
シャフト重心位置GCLは、シャフト全長に対してシャフト重心位置がシャフト先端から何%の位置にあるかで表現している。シャフト重心位置GCLは、番手が大きくなるに連れて、シャフト先端側に徐々に(番手が1つ大きくなる度にシャフト全長の0.5%ずつ)移動している。
グリップ重量W
Gは、番手にかかわらず、一定である。
クラブ重量W
Tは、番手が大きくなるに連れて、増加(漸増)している。
【表1】
【0026】
図2は、ゴルフクラブのクラブ慣性モーメント(MOI[kg・cm
2])の算出方法を説明するための概念図である。
同図に示すように、ゴルフクラブのクラブ慣性モーメントMOI
Tは、当該ゴルフクラブを構成するヘッド、シャフト、グリップの慣性モーメントMOI
H、MOI
S、MOI
Gの総和によって算出される。(MOI
T=MOI
H+MOI
S+MOI
G)
ヘッド慣性モーメントMOI
Hは、ヘッド重量W
Hに、クラブ基端部からヘッド重心位置までの距離L
Hを二乗したものを乗じることによって算出される。(MOI
H=W
H×(L
H)
2)
シャフト慣性モーメントMOI
Sは、シャフト重量W
Sに、クラブ基端部からシャフト重心位置までの距離L
Sを二乗したものを乗じることによって算出される。(MOI
S=W
S×(L
S)
2)
グリップ慣性モーメントMOI
Gは、グリップ重量W
Gに、クラブ基端部からグリップ重心位置までの距離L
Gを二乗したものを乗じることによって算出される。(MOI
G=W
G×(L
G)
2)
【0027】
表2は、本実施形態のゴルフクラブセットを構成する各ゴルフクラブのクラブ慣性モーメント(MOI[kg・cm
2])を示している。
【表2】
【0028】
表2に示すように、本実施形態のゴルフクラブセットは、5番アイアン5I〜10番アイアン10Iのうちの1本を選択して基準ゴルフクラブとしたとき、当該基準ゴルフクラブと残りの任意のゴルフクラブが次の条件式(1)を満足している。
(1)0.995X<Y<1.005X
但し、
X:基準ゴルフクラブのクラブ慣性モーメント(MOI[kg・cm
2])、
Y:残りの任意のゴルフクラブのクラブ慣性モーメント(MOI[kg・cm
2])、である。
【0029】
すなわち、本実施形態のゴルフクラブセットは、5番アイアン5I〜10番アイアン10Iのクラブ慣性モーメントが、いずれのゴルフクラブを基準としたときにも±0.5%の範囲内に揃えられている(集約されている)。
【0030】
条件式(1)を満足することにより、ゴルフクラブの番手にかかわらず、プレイヤーにとって好適な安定したスイング感覚を得ることができる。
条件式(1)の上限を上回っても下限を下回っても、ゴルフクラブの番手によるクラブ慣性モーメントのばらつきが大きくなりすぎて、プレイヤーにとって好適な安定したスイング感覚を得るのが難しくなってしまう。
【0031】
上記の作用効果は、次の条件式(1’)を満足することでより顕著に得ることができる。この条件式(1’)は、5番アイアン5I〜10番アイアン10Iのクラブ慣性モーメントが、いずれのゴルフクラブを基準としたときにも±0.2%の範囲内に揃えられている(集約されている)ことを意味している。
(1’)0.998X<Y<1.002X
【0032】
また、表2からは、5番アイアン5I〜10番アイアン10Iのヘッド慣性モーメントMOI
H、シャフト慣性モーメントMOI
S、グリップ慣性モーメントMOI
G、クラブ慣性モーメントMOI
Tの間に、次のような関係があることが分かる。
グリップ慣性モーメントMOI
Gは、クラブの番手にかかわらず一定(略一定で少しだけずれていてもよい)となっている。
ヘッド慣性モーメントMOI
Hは、クラブの番手が大きくなるに連れて減少している。
シャフト慣性モーメントMOI
Sは、クラブの番手が大きくなるに連れて増加している。
そして、クラブの全番手を通じて、ヘッド慣性モーメントMOI
Hの減少分とシャフト慣性モーメントMOI
Sの増加分が略相殺されることで、クラブ慣性モーメントMOI
Tが略同一となっている。
【0033】
ゴルフクラブシャフトセット及びシャフト単体に注目すると、5番シャフト5S〜10番シャフト10Sは、その番手が大きくなるに連れて、シャフト重量が増加し且つシャフト重心位置がシャフト先端側に移動している。
【0034】
これを実現するために、本実施形態では、シャフト先端側に、クラブの番手が大きくなるに連れて重量が増加する金属円筒と金属箔を埋め込む技術を採用している。
【0035】
以下では、
図3−
図8を参照して、5番シャフト5S〜10番シャフト10Sの詳細構造を説明する。5番シャフト5S〜10番シャフト10Sは、強化繊維に熱硬化性樹脂を含浸させたプリプレグを複数層巻回し熱硬化させてなるFRP(Fiber Reinforced Plastics:繊維強化プラスチック)製である。
【0036】
5番シャフト5S〜10番シャフト10Sは、共通する構成要素(シート長さとシート重量は異なる)として、内層側から外層側に向かって順に、プリプレグP1、P2、P3、P4、P5、P6、P7を有している。
プリプレグP1は、シャフト先端部に巻かれる先端部分層であり、繊維方向がシャフト長手方向と平行をなす0°プリプレグである。
プリプレグP2、P3は、シャフト全長に巻かれる全長層であり、繊維方向がシャフト長手方向に対して対称(本実施形態では±45°)をなすバイアスプリプレグである。
プリプレグP4、P5、P6は、シャフト全長に巻かれる全長層であり、繊維方向がシャフト長手方向と平行をなす0°プリプレグである。
プリプレグP7は、シャフト先端部に巻かれる先端部分層であり、繊維方向がシャフト長手方向と平行をなす0°プリプレグである。
【0037】
5番シャフト5S〜10番シャフト10Sは、最内層のシャフト先端部に埋め込まれた金属円筒MCを有している。金属円筒MCは、例えば、鉄、アルミニウム、タングステン等の材料から構成されている。金属円筒MCは、クラブの番手が大きくなるに連れてその重量が増加する(5番シャフト5Sでは4.95g、6番シャフト6Sでは5.50g、7番シャフト7Sでは6.05g、8番シャフト8Sでは6.60g、9番シャフト9Sでは8.25g、10番シャフト10Sでは10.45g)。
【0038】
5番シャフト5S〜10番シャフト10Sは、プリプレグP3とプリプレグP4の間に介在させて、シャフト先端部に巻かれる先端部分層である金属箔MF1を有している。
8番シャフト8S〜10番シャフト10Sは、金属箔MF1に加えて、プリプレグP4とプリプレグP5の間に介在させて、シャフト先端部に巻かれる先端部分層である金属箔MF2を有している。
金属箔MF1と金属箔MF2は、例えば、銅、ステンレス、アルミニウム等の材料から構成されている。
金属箔(5番シャフト5S〜7番シャフト7Sでは金属箔MF1、8番シャフト8S〜10番シャフト10Sでは金属箔MF1と金属箔MF2)は、クラブの番手が大きくなるに連れてその重量が増加する(5番シャフト5Sでは1.07g、6番シャフト6Sでは1.91g、7番シャフト7Sでは2.87g、8番シャフト8Sでは4.41g、9番シャフト9Sでは5.99g、10番シャフト10Sでは7.69g)。
【0039】
金属円筒MC並びに金属箔MF1及び金属箔MF2を用いた技術によれば、シャフト重量とシャフト重心位置を、クラブの番手にかかわらず、比較的自由に設定することができ、従って、ゴルフクラブセット全体のクラブ慣性モーメントを略一定にする(揃える)ことができる。本出願人は、このような技術に関する発明について、特許出願を行い、特許権を取得している(例えば、特開2012−110498号公報、特開2013−220285号公報、特許第4880063号公報等)。
【0040】
図9は、本発明によるゴルフクラブセットのクラブ慣性モーメント、本発明によるゴルフクラブセットのヘッド単体のヘッド慣性モーメント、及び、従来のスチール製のゴルフクラブセットのクラブ慣性モーメントを比較可能に示した図である。
【0041】
表3、表4は、従来のスチール製のゴルフクラブセットを示す表1、表2に対応する表である。
【表3】
【表4】
【0042】
図9及び表3、表4に明らかなように、従来のスチール製のゴルフクラブセットは、シャフト重量Wsとシャフト重心位置GCLがクラブの番手にかかわらず一定であり、クラブの番手が大きくなるに連れてクラブ慣性モーメントが減少している。これに対し、本発明によるゴルフクラブセットは、その番手が大きくなるに連れてシャフト重量が増加し且つシャフト重心位置がシャフト先端側に移動しており、クラブの全番手を通じてクラブ慣性モーメントが略一定となるように揃えられている(集約されている)。
【0043】
図10は、本発明によるゴルフクラブシャフトセットのシャフト慣性モーメント、従来のスチール製のゴルフクラブシャフトセットのシャフト慣性モーメント、及び、従来のカーボン製のゴルフクラブシャフトセットのシャフト慣性モーメントを比較可能に示した図である。
【0044】
表5、表6は、従来のカーボン製のゴルフクラブセットを示す表1、表2に対応する表である。
【表5】
【表6】
【0045】
図10及び表5、表6に明らかなように、従来のスチール製のゴルフクラブシャフトセット及び従来のカーボン製のゴルフクラブシャフトセットは、クラブの番手が大きくなるに連れてシャフト慣性モーメントが減少している。これに対し、本発明によるゴルフクラブシャフトセットは、クラブの番手が大きくなるに連れてシャフト慣性モーメントが増加しており、従来のスチール製のゴルフクラブシャフトセット及び従来のカーボン製のゴルフクラブシャフトセットと全く逆の特性を示している。
【0046】
図11は、本発明の第1態様(上述の態様)によるゴルフクラブシャフトセットの各シャフトの重量、及び、本発明の第2態様によるゴルフクラブシャフトセットの各シャフトの重量を比較可能に示した図である。
【0047】
表7、表8は、本発明の第2態様によるゴルフクラブセットを示す表1、表2に対応する表である。
【表7】
【表8】
【0048】
本発明の第2態様によるゴルフクラブセットは、その番手が大きくなるに連れてシャフト重量が増加し且つシャフト重心位置がシャフト基端側(手元側)に移動する。そして番手毎のシャフト重量の増加量を大幅に引き上げることで、クラブの全番手を通じてクラブ慣性モーメントが略一定となるように揃えられている(集約されている)。
【0049】
この第2態様では、第1態様と比べて、番手が大きいゴルフクラブシャフトひいてはゴルフクラブの重量が極端に大きくなり、番手が異なるゴルフクラブシャフトひいてはゴルフクラブの重量差が極端に大きくなってしまう。
すなわち、第1態様は、シャフト重量とシャフト重心位置の双方を番手毎に絶妙な調整量でシフトしていくので、第2態様と比べて、番手が大きいゴルフクラブシャフトひいてはゴルフクラブの重量を小さく抑え、番手が異なるゴルフクラブシャフトひいてはゴルフクラブの重量差を小さく抑えることができる(この点で第1態様が第2態様よりも優れていると言える)。
しかし、この第2態様であっても、クラブの全番手を通じてクラブ慣性モーメントが略一定となるように揃えられている(集約されている)ので、ゴルフクラブの番手にかかわらず、プレイヤーにとって好適な安定したスイング感覚を得ることができる。
【0050】
以上の実施形態では、本発明のゴルフクラブセット及びゴルフクラブシャフトセットをアイアンクラブセット及びアイアンシャフトセットに適用した場合を例示して説明した。しかし、本発明のゴルフクラブセット及びゴルフクラブシャフトセットは、ウッドクラブセット及びウッドシャフトセットにも同様に適用可能である。
【0051】
以上の実施形態では、本発明のゴルフクラブセット及びゴルフクラブシャフトセットを、5番アイアンから10番アイアンまでの6本のアイアンクラブ及びアイアンシャフトに適用した場合を例示して説明した。しかし、本発明のゴルフクラブセット及びゴルフクラブシャフトセットは、番手が異なる複数本のゴルフクラブ及びゴルフクラブシャフトを有する限りにおいて適用可能である。例えば、5番アイアンから10番アイアンまでの6本のアイアンクラブ及びアイアンシャフトに加えて(あるいは代えて)、0番アイアンから4番アイアンまでの5本のアイアンクラブ及びアイアンシャフトの一部または全部を使用してもよい。
【0052】
以上の実施形態では、複数本のゴルフクラブシャフトのシャフト先端側に、その番手が大きくなるに連れて重量が増加する金属円筒と金属箔を埋め込んだ場合を例示して説明したが、金属円筒と金属箔のいずれか一方だけを埋め込む態様も可能である。あるいは、5番アイアンと6番アイアンには、金属円筒と金属箔のいずれも埋め込まず、7番アイアン〜10番アイアンには、その番手が大きくなるに連れて重量が増加する金属円筒と金属箔の少なくとも一方を埋めむような態様も可能である。
【解決手段】番手が異なる複数本のゴルフクラブを有するゴルフクラブセットにおいて、前記複数本のゴルフクラブのうちの1本を選択して基準ゴルフクラブとしたとき、当該基準ゴルフクラブと残りの任意のゴルフクラブが次の条件式(1)を満足することを特徴とするゴルフクラブセット。