(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態に係る管体について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0023】
また、以下では、塗装対象物として、受口を有する鉄製の管体(一例として、水道用のダクタイル鋳鉄管)を例に挙げて説明する。なお、塗装対象物となる管体の材質は、粉体塗装が可能であれば、鉄に限定されるものではない。たとえば、塗装対象物は、鉄製以外の金属製の管体であってもよい。また、粉体塗装は、外部から電荷を与えて粉体を帯電させる静電粉体塗装であってもよいし、外部から電荷を与えないことで粉体を帯電させない粉体塗装であってもよい。
【0024】
<A.管体の概要>
図1は、管路および管体の構造を説明するための図である。
図1を参照して、管路2000は、管体900と管体900Aとが連結されたものである。
【0025】
管体900,900Aは、耐震機能を有するダクタイル鉄管(継手)である。なお、管体900,900Aは一般的なダクタイル鉄管であるが、説明の便宜上、以下に管体900,900Aの構成について説明する。
【0026】
管体900,900Aは、一方の管体900Aの挿口921が他方の管体900の受口910に挿し込まれることによって、互いに連結される。管体900と管体900Aとは同じ構造を有する。
【0027】
より詳しくは、管体900,900Aは、ロックリング720と、ロックリングホルダ730と、管体900Aにおける挿口921の先端に設けられた突起部922とによって、地震などにより地盤変動が生じても、挿口921が受口910から離脱することを防止している。また、管体900Aの先端が管体900の底部940に当たることにより、管体900Aの挿口921が管体900に入り込み過ぎないように規制されている。ゴム輪710は、管体900,900Aの内部を通る液体(一例として、水)あるいはガス等の外部への漏れを防止している。
【0028】
以下では、説明の便宜上、管体900,900Aのうち、管体900に着目して説明する。
【0029】
<B.塗装システムの構成>
図2は、塗装装置1によって管体900の受口910の内周面に対して粉体塗装を行なうための塗装システム1000の構成の一例を表した図である。
図2を参照して、塗装システム1000は、塗装装置1と、被塗装対象物としての管体900と、回転装置800とを備えている。塗装装置1は、粉体吐出機構10と、駆動装置20と、制御装置30と、粉体供給装置40と、ホース50とを備えている。
【0030】
粉体吐出機構10は、ノズル11と、ランス16とを含む。ランス16は、ノズル11に粉体を供給するための配管(塗料供給管)である。ノズル11は、ランス16の先端に備え付けられている。ノズル11は、管体900の受口910における凹凸形状の内周面に粉体を吐出する。
【0031】
駆動装置20は、粉体吐出機構10を固定するための筐体21と、筐体21を移動可能に支持する支持台22とを備える。支持台22は、管体900の軸方向(つまり、X軸方向)に筐体21を往復移動させるための駆動機構を有している。粉体吐出機構10は、筐体21の移動に伴って、筐体21と同じ方向および速度で移動する。
【0032】
制御装置30は、駆動装置20に指令を送ることにより、筐体21の移動方向、移動速度、および移動距離を制御する。つまり、制御装置30は、粉体吐出機構10の移動方向、移動速度、および移動距離を制御する。なお、筐体21の移動方向、移動速度、および移動距離は、管体900の寸法等に応じて、塗装装置1のユーザによって予め設定される。移動速度の制御については、後述する。また、制御装置30は、粉体供給装置40に対して、粉体の供給開始および供給停止を指示する。
【0033】
制御装置30は、矢印Aの方向(X軸正の方向)および矢印B(X軸負の方向)の方向に筐体21を移動させる。より詳しくは、制御装置30は、ノズル11が管体900の受口910に入り込み、その後、ノズル11が受口910から出てくるように、筐体21を支持台22に対して移動させる。
【0034】
粉体供給装置40は、ホース50によってランス16に接続されている。これにより、塗装装置1は、ノズル11から粉体を吐出することが可能となる。
【0035】
回転装置800は、管体900の周方向に管体900を回転させる。より詳しくは、回転装置800は、一例として、管体900を矢印Cの方向に一定速度で回転させる。これにより、塗装装置1は、粉体を管体900の受口の内周面の全域に吐出することが可能となる。
【0036】
<C.粉体の吐出>
図3は、粉体塗装時における粉体の吐出状態を説明するための図である。
図3を参照して、管体900の受口910の内周面951は、凹凸形状をしている。その一方、受口910に連続する直部920の内周面952は、凹凸形状を有していない。以下、受口910の内周面951の構造について、詳しく説明する。
【0037】
内周面951には、複数の凹部が形成されている。具体的には、内周面951には、ゴム輪710のヒール部7101(
図4参照)が収容される凹部991と、ゴム輪710のバルブ部7102(
図4参照)が収容される凹部992と、ロックリング720およびロックリングホルダ730が収容される凹部993とが形成されている。
【0038】
凹部991は、管体900の受口910の開口側(手前側)に壁面961を有し、管体900の奥側に壁面962を有する。また、凹部991は、壁面961と壁面962との間に底面971を有する。凹部992は、管体900の開口側に壁面963を有し、管体900の奥側に壁面964を有する。また、凹部992は、壁面963と壁面964との間に底面972を有する。凹部993は、管体900の開口側に壁面965を有し、管体900の奥側に壁面966を有する。また、凹部993は、壁面965と壁面966との間に底面973を有する。
【0039】
壁面961,962,964,966は、管体900の軸方向に垂直な断面に略平行である。底面971,972,973は、管体900の軸方向に垂直な断面に対して略垂直である。
【0040】
壁面963は、ゴム輪710の変形等を考慮して、管体900の軸方向に垂直な断面に対して、所定の角度傾いている。より具体的には、凹部992の底面と壁面963とのなす角度が鈍角となるように、壁面963は当該断面に対して傾斜している。
【0041】
壁面965は、ロックリング720に対して、管体900の軸の中心方向への力を作用させるために、管体900の軸方向に垂直な断面に対して、所定の角度傾いている。より具体的には、凹部993の底面と壁面965とのなす角度が鈍角となるように、壁面965は当該断面に対して傾斜している。
【0042】
以上のように、受口910の内周面951には、各々が2つの壁面(立ち上がり部)を有する、複数の凹部991,992,993が存在する。
【0043】
凹部992、993にある各2つ壁面のうち、管軸方向受口開口側の壁面963、965が、底面となす角度が鈍角となるように傾斜しているのは、挿口921、より詳しくは挿口先端の突起部922がゴム輪710の内周面を通過するときの挿入力(挿入に必要な力)を低減させるために拡径変形し壁面963に当接するゴム輪に無理な力が発生しないようにすることや、地震時などで挿口を受口から離脱させようとした力が作用したときに壁面965に当接するロックリングをより縮径させるようにすることがその理由である。
【0044】
一方、受口開口寄りの凹部991の2つの壁面961、962がいずれも管軸に直交する平面となっているのは、凹部991に受口内周面に装着されるゴム輪710のヒール部と称する矩形断面の環状部分が嵌め込まれ、ゴム輪710の内周面を挿口921が通過するときに管軸方向奥方向きの力を受けるゴム輪710を所定の位置に留めるよう凹部991の両壁面961、962でヒール部を確実に把持することがその理由である。
【0045】
このような理由から、凹部の各2つの壁面のうち、管軸方向奥側の壁面と開口側壁面とでは傾斜角度が異なっており、管軸方向奥側の壁面が管軸に垂直な壁面となっている場合が多い。
【0046】
なお、凹部991は、一般的には、「ヒール部収容部」と称されている。凹部992は、一般的には、「バルブ部収容部」と称されている。
【0047】
<D.連結状態の詳細>
図4は、管路2000における管体900と管体900Aとの連結状態を説明するための図である。
図4を参照して、挿口921が管体900の受口910に挿し込まれると、ゴム輪710が変形し、ゴム輪710のバルブ部7102に力が作用し、バルブ部7102の先端部が凹部992に入り込む。なお、ゴム輪710のヒール部7101は、凹部991に留まっている。
【0048】
このような状態で、管体900と管体900Aとによる構成される管路2000の内部に液体(典型的には、水道水)が流れると、凹部993には液体が流れ込む。また、凹部992にも、ゴム輪710のバルブ部7102で埋められた領域を除き、液体が流れ込む。なお、ゴム輪710により、管体900,900A内を流れる液体が管体900,900Aの外部に流れ出すことを防止できる。
【0049】
また、上述したように、管体900,900Aは、ロックリング720と、ロックリングホルダ730と、突起部922とによって、地震などにより地盤変動が生じても、挿口921が受口910から離脱することを防止している。たとえば、地盤変動により管体900と管体900Aとが相対的に移動することにより、突起部922がロックリング720に対して力を作用させた場合、ロックリング720は、壁面965に接触する。
【0050】
<E.塗装の概要>
図5は、塗装の概要を説明するための図である。
図5を参照して、管体900に対する塗装は、一例として4回の塗装工程を含む。
【0051】
以下では、説明の便宜上、内周面951を複数の内周面に区分して説明する。具体的には、内周面951を、受口910の開口側から直部920の方に向かい、内周面951α、内周面951β,内周面951γ,内周面951δとする。なお、内周面951δと直部920の内周面952とは連続している。内周面951αは、凹部991を形成している。内周面951βは、凹部992と凹部993とを形成している。
【0052】
1回目の塗装に先立ち、粉体塗料の溶融温度となるまで管体900を加熱(前加熱)する。1回目の塗装として、受口910の内周面951γ,951δと直部920の内周面952とに対して、粉体塗装で下塗りを行なう。当該下塗りを、「補助塗装」とも称する。2回目の塗装として、直部920の内周面952に対して、粉体塗装を行なう。以下では、当該2回目の塗装を、「直部粉体塗装」とも称する。
【0053】
3回目の塗装として、受口910の内周面951β、951γに対して、粉体塗装を行なう。以下では、当該3回目の塗装を、「受口粉体塗装」とも称する。3回目の塗装が終了した後、粉体塗装により形成された粉体塗膜を硬化させるため、管体900を再度加熱する。4回目の塗装として、受口910の内周面951αに対して、溶剤系塗料(液体塗料)で塗装を行なう。
【0054】
このような塗装により、受口910の内周面951の耐久性の向上を図っている。また、管体900を用いて管路2000(
図4)を構成した場合、液体と接する領域に対しては粉体塗膜が形成されており、溶剤系塗料による塗膜は形成されていないため、溶剤系塗料の臭気が管路2000の内部に漂う虞はない。よって、塗装後の乾燥を長時間せずとも、溶剤系塗料の臭気を有する虞をなくすことができる。
【0055】
<F.塗装および塗料の詳細>
本発明者は、粉体塗装による塗膜(粉体塗膜)に割れが生じる箇所および割れが生じる原因を検討したところ、受口910に形成したロックリング720およびロックリングホルダ730を収容する凹部993と、凹部993に収容されるロックリング720における接触箇所(壁面965と接触する部分)の粉体塗膜に割れが生じる場合があることを見出した。また、本発明者は、粉体塗膜の割れは、挿口921を接合した後の抜け出しによる衝撃がロックリング720を通じて粉体塗膜に加わった際に生じるものであり、受口910の粉体塗膜の硬度(硬さ)に起因しているものであろうとの考えの下に、直部920の粉体塗膜と比較して硬度の低い粉体塗膜を少なくとも受口910の凹部993に形成することにより、粉体塗膜の割れを抑制した受口910の粉体塗膜を形成できることを見出した。そこで、管体900の構成を以下のとおりとした。
【0056】
(1)管体900は、耐震構造を有する受口910と、受口910に連続する直部920とを備える。受口910の内周面951には、ロックリング720を収容するための凹部993(収容部)が形成されている。凹部993には、上述した3回目の塗装による粉体塗膜(以下、「受口粉体塗膜」とも称する)が形成されている。直部920の内周面952の少なくとも一部(
図4の場合には全部)には、上述した1回目および2回目の塗装による粉体塗膜(以下、「直部粉体塗膜」とも称する)が形成されている。管体900においては、受口粉体塗膜の硬度が、直部粉体塗膜の硬度よりも低い。
【0057】
粉体塗膜の硬度が高いほど、粉体塗膜に傷がつきづらいという性質を有する。つまり、粉体塗膜の硬度が低いほど、粉体塗膜に傷がつき易いという性質を有する。そのため、管体900の内周面に形成する粉体塗膜の硬度は、傷を防止し、傷を起点とする剥がれ等の問題を防止する観点から、高くするのが一般である。
【0058】
本実施の形態では、上記の一般的な構成とは逆に、管体900における凹部993の粉体塗膜の耐衝撃性を高めるため、受口粉体塗膜の硬度を、直部粉体塗膜の硬度よりも低くした。換言すれば、受口910の粉体塗膜には、直部920における粉体塗膜と異なり、耐衝撃性の観点から直部920における粉体塗膜よりも硬度が低い粉体塗膜を形成している。
【0059】
このように、直部920の内周面952の粉体塗膜の硬度と受口910の内周面951の粉体塗膜の硬度とを異なる特性とすることにより、粉体塗装による塗膜を形成したとしても、受口910の部分(特に、凹部993)での粉体塗膜の割れを防止しつつ、直部920は従来と同等の防食性などの粉体塗膜の特性を確保した管体900を得ることができる。
【0060】
(2)詳細については後述するが、直部粉体塗膜の硬度に対する受口粉体塗膜の硬度の比の値は、0.95以下であることが好ましい。当該比の値を0.95以下とすることによって、受口粉体塗膜の割れを効果的に防止することができる。より好ましくは、直部粉体塗膜の硬度に対する受口粉体塗膜の硬度の比の値は、0.90以下である。さらに好ましくは、直部粉体塗膜の硬度に対する受口粉体塗膜の硬度の比の値は、0.80以下である。
【0061】
また、直部粉体塗膜の硬度に対する受口粉体塗膜の硬度の比の値は、0.70以上であることが好ましい。当該比の値を0.70以上とすることによって、受口粉体塗膜の硬度が極端に低くならない。そのため、「直部粉体塗膜に比べて、受口粉体塗膜が傷つき易かったりする」といった問題の発生を抑えることができる。
【0062】
(3)詳細については後述するが、受口粉体塗膜の硬度は、10.0以上かつ22.0以下であることが好ましい。硬度が10.0よりも低い場合には、粉体塗膜の強度が不足して塗膜が傷つき易く、剥離などが生じやすくなり、硬度が22.0よりも高い場合には、粉体塗膜の割れが生じやすくなるためである。より好ましくは、受口粉体塗膜の硬度は、15.0以上かつ17.5以下である。なお、本実施の形態における「硬度」とは、JIS Z 2244の規定に準じて、マイクロビッカース硬度計を用いて測定されるビッカース硬さを意味している。
【0063】
(4)直部粉体塗膜における硬度は、20.0以上かつ30.0以下であることが好ましい。硬度が20.0よりも低い場合には粉体塗膜が傷つき易く、硬度が30.0よりも高い場合には粉体塗膜の塗布性が低下するためである。塗布性が低下すると、粉体を均一に塗布することが困難となるとともに、粉体塗膜の耐衝撃性が低くなり脆くなる。
【0064】
(5)管体900の内周面951,952に粉体塗膜を形成するための塗料としては、熱硬化性の粉体塗料であり、エポキシ樹脂、硬化剤、顔料(無機質充填剤)など、一般的な粉体塗料を用いることができる。
【0065】
上記顔料について具体的に例示すると、体質顔料は、塗料の性状を調整するために用いられる顔料であり、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、含水珪酸マグネシウム(タルク)、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム(石膏)、珪藻土、マイカ(雲母粉)、クレー(カオリン)、シリカ等、塗料用として従来公知のものの中から適宜選択して使用することができる。また、着色顔料は、塗料を彩色するために用いられる顔料であり、酸化チタン、酸化鉄、チタンイエロー等の複合酸化物等の無機顔料やアゾ系顔料、キナクリドン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属キレートアゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、アンスラキノン系顔料、ジオキサジン系顔料、スレン系顔料、インジゴ系顔料等の有機顔料及びカーボンブラック顔料等の中から任意のものを1種もしくはそれ以上を組み合わせて使用することができる。さらに、上記成分の他に、一般的に粉体塗料に用いられている公知の分散剤、流れ性調整剤、シランカップリング剤、消泡剤、流動性添加剤、艶消し剤等も必要に応じて配合することができる。
【0066】
(6)硬度の高い体質顔料を塗料に加えて、塗膜中に存在させることで、塗膜の強度を向上させることができる。したがって、粉体塗膜の強度を向上させるためには、体質顔料の濃度を高めることが好ましい。しかしながら、発明者は、体質顔料の濃度を高めて粉体塗膜の硬度を高めた場合には、衝撃時における粉体塗膜の割れが生じやすくなることを見出した。この原因は以下によるものと推察される。
【0067】
粉体塗膜を形成するエポキシ樹脂中に硬度の高い体質顔料が分散することで、体質顔料を介して、エポキシ樹脂層の割れが伝播しやすくなる。その結果、粉体塗膜の硬度は高まるものの、粉体塗膜の耐衝撃性が低下し、割れが生じやすくなると推察される。
【0068】
以上より、受口粉体塗膜の体質顔料濃度は直部塗膜の体質顔料濃度よりも低いことが好ましい。
【0069】
(7)受口粉体塗膜の体質顔料濃度は、0wt%(重量パーセント濃度)以上かつ35wt%以下であることが好ましい。より好ましくは、受口粉体塗膜の体質顔料濃度は、0%wt%以上かつ20wt%以下である。受口粉体塗膜中に体質顔料を含まないことが、さらに好ましい。受口粉体塗膜中の体質顔料濃度が35wt%よりも大きいと、粉体塗膜の硬度が高くなり、粉体塗膜の割れが生じやすくなるためである。
【0070】
(8)受口粉体塗膜に体質顔料を含める場合、体質顔料の粒径は、30μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましい。理由は、体質顔料の粒径を小さくすることで、粉体塗膜の割れが生じにくくなるためである。なお、粉体塗膜の硬度は上述した体質顔料の割合、体質顔料の粒径、エポキシ樹脂の材質などによって調整可能である。
【0071】
(9)直部粉体塗膜は、厚く形成することにより粉体塗膜の安定性が高まるため、厚く形成することが好ましい。その一方、受口粉体塗膜は、厚くなり過ぎると、凹部991にゴム輪710を収容することが困難となり、凹部993にロックリング720およびロックリングホルダ730を収納することが困難となる。したがって、受口粉体塗膜の厚みは、直部粉体塗膜の厚みよりも薄いことが好ましい。なお、管体900がダクタイル鋳鉄管である場合には、受口粉体塗膜および直部粉体塗膜は、300μm以上の膜厚が目標値とされている(JIS G 5528)。
【0072】
(10)本実施の形態で利用する粉体塗料の製造は、一般的な粉体塗料の製造方法で製造することができる。このようにして得られる粉体塗料は、予め加熱された管体900に対して、スプレー塗装、静電スプレー塗装、スクリューフィーダー塗装、振りかけ塗装等の方法を用いて塗装することができる。
【0073】
また、管体900は、静置した状態、もしくは回転させながら塗装することができる。さらに、予め加熱する方法としては、ガス炉、電気炉、遠赤外線炉等の予熱炉を用いる間接的に加熱する方法、電磁誘導加熱、高周波加熱、バーナー加熱等の直接的に加熱する方法等を用いることができる。また、粉体塗膜形成のための硬化方法としては、予熱された管体900の保有する顕熱を利用した温度放冷硬化や後硬化炉を用いた加熱硬化が可能である。
【0074】
(11)管体900においては、受口粉体塗膜の硬度と直部粉体塗膜の硬度とを異ならせている。受口粉体塗膜の硬度と直部粉体塗膜の形成手順としては、上述したように直部粉体粉体塗膜を形成した後に受口粉体塗膜を形成させてもよいし、あるいは、受口粉体塗膜を形成した後直部粉体塗膜を形成させてもよい。受口粉体塗膜を形成した後に直部粉体塗膜を形成させた場合には、受口粉体塗膜の形成時に直部に受口粉体塗膜が付着することを防止できる。
【0075】
なお、受口粉体塗膜を形成する範囲は、少なくともロックリング720およびロックリングホルダ730を収容するための凹部993(ロックリング収容部)に塗布されていればよい。好ましくは、上述したように、凹部993よりも受口端部側に存在する凹部992(バルブ部収納部)についても粉体塗装することが好ましい。凹部992は、管路2000を流れる液体に接触するため、耐久性を向上させ、かつ腐食を防ぐ効果があるためである。また、上記においては、凹部991(ヒール部収納部)に対して溶剤系塗料で塗装を行なった例を挙げているが(上記の4回目の塗装)、凹部991に対しても粉体塗装を行なってもよい。
【0076】
(12)膨出部918は必要に応じてライナを収納するのみである。それゆえ、膨出部918においては、粉体塗膜が厚くなっても許容可能である。また、粉体塗膜の端部は厚みの調整が困難である。したがって、凹部993における粉体塗膜の厚みを調整容易とするために、
図5に基づいて説明したように、受口粉体塗膜が凹部993よりも直部920側にある膨出部918(
図5参照)の一部(内周面951γ)まで形成されていることが好ましい。
【0077】
(13)管体900とは別途形成されるロックリング720にも粉体塗装による粉体塗膜(以下、「ロックリング粉体塗膜」と称する)が形成されており、ロックリング粉体塗膜の硬度に対する受口粉体塗膜の硬度の比の値は、0.95以下であることが好ましく、0.70以上であることが好ましい。ロックリング粉体塗膜よりも受口粉体塗膜の方を柔らかくすることによって、ロックリング粉体塗膜の割れを抑制することが可能となるためである。
【0078】
<G.実施例および比較例>
以下、実施例および比較例に基づいて管体900を詳細に述べる。ただし、下記の実施例および比較例は、本発明を制限するものではない。なお、以下では、管体900として鋳鉄管を用いている。また、管体900の呼び径(管の内径)は、100mmである。
【0079】
(1)第1の実施例
エポキシ樹脂に体質顔料としてシリカ(粒径20μm)を5wt%含んだ粉体塗料を200℃±30℃に加熱した呼び径100mmの管体900の受口910の内周面951に噴射し、管体900の保有する熱で粉体塗料を溶融させた上で粉体塗膜を硬化させた。形成された受口粉体塗膜の厚みは、300μm以上であった。
【0080】
(2)第2の実施例
エポキシ樹脂に体質顔料としてシリカ(粒径20μm)を16wt%含んだ粉体塗料を200℃±30℃に加熱した呼び径100mmの管体900の受口910の内周面951に噴射し、管体900の保有する熱で粉体塗料を溶融させた上で粉体塗膜を硬化させた。
【0081】
(3)第3の実施例
エポキシ樹脂に体質顔料としてシリカ(粒径20μm)を27wt%含んだ粉体塗料を200℃±30℃に加熱した呼び径100mmの管体900の受口910の内周面951に噴射し、管体900の保有する熱で粉体塗料を溶融させた上で粉体塗膜を硬化させた。
【0082】
(4)第4の実施例
エポキシ樹脂に体質顔料としてシリカ(粒径20μm)を31wt%含んだ粉体塗料を200℃±30℃に加熱した呼び径100mmの管体900の受口910の内周面951に噴射し、管体900の保有する熱で粉体塗料を溶融させた上で粉体塗膜を硬化させた。
【0083】
(5)第1の比較例
エポキシ樹脂に体質顔料としてシリカ(粒径20μm)を36wt%含んだ粉体塗料を200℃±30℃に加熱した呼び径100mmの管体900の受口910の内周面951に噴射し、管体900の保有する熱で粉体塗料を溶融させた上で粉体塗膜を硬化させた。
【0084】
(6)第2の比較例
エポキシ樹脂に体質顔料としてシリカ(粒径20μm)を40wt%含んだ粉体塗料を200℃±30℃に加熱した呼び径100mmの管体900の受口910の内周面951に噴射し、管体900の保有する熱で粉体塗料を溶融させた上で粉体塗膜を硬化させた。
【0085】
(7)第3の比較例
エポキシ樹脂に体質顔料としてシリカ(粒径20μm)を59wt%含んだ粉体塗料を200℃±30℃に加熱した呼び径100mmの管体900の受口910の内周面951に噴射し、管体900の保有する熱で粉体塗料を溶融させた上で粉体塗膜を硬化させた。
【0086】
図6は、耐衝撃性試験を説明するための図である。
図6を参照して、第1〜第4の実施例および第1〜第3の比較例に示した管体900の各々について、
図5に示したように粉体塗装を行った受口910に対して挿口921を接合して管路2000を構成した。試験装置3000によって、各管路2000について10回ずつ300kNの抜け出しによる衝撃力Fを瞬間的に加え、試験後の凹部993(ロックリング収容部)の粉体塗膜および、ロックリング720の粉体塗膜(厚さ:100μm、硬度:22.7)の状態を観察した。なお、衝撃力Fは300kNに到るまでの時間が0.2秒以下となるようにした。各試験とも2回繰り返し実験した。また、同様の条件で、500kNにおける衝撃試験も行った。
【0087】
図7は、各実施例および各比較例に関し、主として、粉体塗膜の硬度の測定値と、耐衝撃性試験の試験結果とを説明するための図である。
【0088】
硬度の測定条件は、以下のとおりである。
(i)「JIS Z 2244 ビッカース硬さ」の試験方法に準じる。
【0089】
(ii)荷重50gf、保持時間15秒
(iii)HV測定機器名:(株)アカシ製 MVK
図7を参照して、第1〜第4の実施例の管体900における凹部993の壁面965の粉体塗膜は300kNの衝撃試験を行なっても割れが確認できないのに対して、第1〜第3比較例の管体900における壁面965の粉体塗膜は300kNの衝撃試験を行なうと割れが確認された。
【0090】
第2および第3の比較例においては、ロックリング720の粉体塗膜についても割れが確認された。また、第3の比較例については壁面965における粉体塗膜の剥離が確認された。第1の実施例については、500kNの衝撃試験を行なっても割れが確認されなかった。第2の実施例については、500kNの衝撃試験を行なうと、壁面965における粉体塗膜の表面のみに割れが確認された。
【0091】
このように、第1〜第4の実施例の管体900の粉体塗膜は、衝撃による割れが生じにくいものであることが分かった。
【0092】
今回開示された実施の形態は例示であって、上記内容のみに制限されるものではない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【解決手段】管体900は、耐震構造を有する受口910と、受口910に連続する直部920とを備える。受口910の内周面951には、ロックリング720を収容するための凹部993が形成されている。凹部993には、受口粉体塗膜が形成されている。直部920の内周面952の少なくとも一部には、直部粉体塗膜が形成されている。受口粉体塗膜の硬度は、直部粉体塗膜の硬度よりも低い。