【実施例1】
【0018】
本実施の形態の実施例1に係る電動サーボプレス機械100は、
図1、
図2に示すように、ワークに対してプレス加工を施すスライド110を往復直線運動させるための「回転運動−往復直線運動変換機構」の一つであるクランク軸120を含むクランク機構(偏心軸などを利用した機構とすることもできる)が備えられている。
【0019】
このクランク軸120にはメインギヤ130が一体的に取り付けられ、該メインギヤ130には、ドライブギヤ140とブレーキ用ギヤ210が噛合している。
【0020】
ドライブギヤ140の回転軸には、本電動サーボプレス機械100の駆動源である電動サーボモータ160が回転連結されていると共に、ドライブギヤ140と電動サーボモータ160の間には、クラッチ機構150が介装されている。
【0021】
クラッチ機構150は、電磁クラッチ機構その他の各種のクラッチ機構を採用することができるが、例えば、機械式クラッチ機構を採用することができる。
【0022】
なお、機械式クラッチ機構は、例えば、
図2に示すように、プレス制御部500からの制御信号に従って、クラッチ電磁弁151を作動させてクラッチシリンダ152内にエアを供給することでスプリング(図示せず)の付勢力に抗して摩擦要素153をディスク154に押圧させて動力を伝達する接続状態とする一方、クラッチ電磁弁151を作動させてクラッチシリンダ152内のエアを解放することでスプリングの付勢力により摩擦要素153をディスク154から離間させて切断状態とするクラッチ機構とすることができる。
【0023】
また、本実施例においては、ブレーキ用ギヤ210には、ブレーキ機構200が取り付けられている。
ブレーキ機構200は、電磁ブレーキ機構その他の各種のブレーキ機構を採用することができるが、例えば、機械式ブレーキ機構を採用することができる。
【0024】
機械式ブレーキ機構は、例えば、
図2に示すように、プレス制御部500からの制御信号に従って、ブレーキ電磁弁201を作動させてブレーキシリンダ202内のエアを排気することでスプリング(図示せず)の付勢力に抗するエア圧を解放(レリース)し、前記スプリングの付勢力を介して摩擦要素203をディスク204に押圧させてブレーキ用ギヤ210延いてはメインギヤ130を制動するブレーキ機構とすることができる。
【0025】
かかる構成を備えた本実施例に係る電動サーボプレス機械100では、通常停止時には、プレス制御部500によるサーボコントローラを介した電動サーボモータ160の運転制御により運転停止されるが、非常停止信号が発せられる緊急時(非常時)などの急停止時には、プレス制御部500では、電動サーボモータ160の駆動電源をオフする一方、クラッチ機構150を介してドライブギヤ140と電動サーボモータ160の回転連結を切断して電動サーボモータ160を動力伝達経路から切り離すと共に、ブレーキ機構200を作動させてブレーキ用ギヤ210延いてはメインギヤ130更にはスライド110を制動することで、電動サーボプレス機械100を急停止させるようになっている(
図3の制御フローチャートのステップ1(S1)〜ステップ4(S4)参照)。
【0026】
そして、急停止後に、運転を復帰させて再び通常のプレス加工を再開させる際には、本実施の形態においては、以下のような処理が行われる。
【0027】
すなわち、このような復帰の際には、一旦電動サーボモータ160を動力伝達経路から切り離したことから、切断状態のクラッチ機構150からスライド110までの動力伝達経路の回転体(クランク軸120)の回転角度位置と、電動サーボモータ160の出力回転軸の回転角度位置と、の間に位相ずれが生じる場合がある(
図3のタイムチャート参照)。
【0028】
この位相ずれを修正して復帰させる必要があるが、そのような復帰方法の一例としては、例えば、電動サーボモータ160を制御するプレス制御部500が、電動サーボモータ160のモータ軸エンコーダ161からの情報に基づき取得した電動サーボモータ160の回転角度位置情報(内部データ)を、クランク軸エンコーダ121により実際に取得されるクランク軸120の回転角度位置情報と一致するように、そのズレ分を修正するといった手法を採用することができる(
図3の制御フローチャートのステップ8(S8)参照)。
【0029】
ここにおいて、モータ軸エンコーダ161及びプレス制御部500が、本発明に係るサーボモータ回転角度位置情報取得手段に相当し、クランク軸エンコーダ121及びプレス制御部500がスライド側回転体回転角度位置情報取得手段に相当している。
また、プレス制御部500が、本発明の制御装置に相当する。
【0030】
なお、当該手法の場合には、プレス制御部500の内部データのみの変更であるため、後述するもう一つの復帰方法のように、電動サーボモータ160を実際に動かして位相合せを行うといった動作は必要ない。
すなわち、クラッチ機構150を接続状態にする前に、電動サーボモータ160のモータ軸エンコーダ161からの情報に基づき取得した電動サーボモータ160の回転角度位置情報(内部データ)を、クランク軸エンコーダ121により実際に取得されるクランク軸120の回転角度位置情報と一致するように、そのズレ分を修正し、その後にクラッチ機構150を接続状態とすることができる一方、クラッチ機構150を接続状態にした後に、電動サーボモータ160のモータ軸エンコーダ161からの情報に基づき取得した電動サーボモータ160の回転角度位置情報(内部データ)を、クランク軸エンコーダ121により実際に取得されるクランク軸120の回転角度位置情報と一致するように、そのズレ分を修正することもできる。
【0031】
ところで、切断状態のクラッチ機構150からスライド110までの動力伝達経路の途中にはスプラインやギヤのバックラッシが存在するため、一旦切り離した電動サーボモータ160側とドライブギヤ140(クランク軸120)側とをクラッチ機構150により接続した場合には、バックラッシ分だけ、クランク軸の回転角度位置(スライド110の位置)と、電動サーボモータ160の回転角度位置と、の間に誤差(位相ずれ)が生じてしまう場合がある。
【0032】
このため、本実施例では、例えば、ギヤを回転方向または逆転方向に押し当てることによりバックラッシの遊び分が無い状態を作り出し、その状態で位相を合せることができる構成とした。
【0033】
すなわち、本実施例では、ギヤ同士を当ててバックラッシによる遊び分が無い状態を作り出すために、切断状態のクラッチ機構150からスライド110までの動力伝達経路の回転体(クランク軸120)の回転方向に負荷を付与するようにしている。
具体的には、一般的なプレス機械は、スライド重量に起因するフレス運転中の動力伝達経路や電動サーボモータ160への負担を軽減することを目的に、スライドを懸垂してスライドの重量を相殺するためのバランスシリンダを装備しているので、急停止後の復帰の際に、
図3に示すようなバランスシリンダ112を、スライド110を引き上げるように動作させて、切断状態のクラッチ機構150からスライド110までの動力伝達経路の回転体(クランク軸120)に回転方向の負荷を与え、これにより動力伝達経路内のギヤ同士を当てることで、当該回転方向におけるバックラッシの遊びが無い状態を作り出す(
図3の制御フローチャートのステップ6(S6)、ステップ7(S7)参照)。
【0034】
このとき、スライド110が下降中に停止した場合と上昇中に停止した場合とでは、負荷をかけた際に、当たる歯面が変化する。バランスシリンダの懸垂力でスライドを上昇させようとすると、その懸垂力はクランク軸の回転力に変換される。プレス運転中のクランク軸の回転方向を正転方向とし、その反対の回転方向を逆転方向とした場合、クランク軸が下死点手前の位置にある場合(スライド下降中に停止した場合)は、スライドを上昇させようとする力はクランク軸を逆転方向に回転させるトルクに変換される。これに対しクランク軸が下死点過ぎの位置にある場合(スライド上昇中に停止した場合)は、スライドを上昇させようとする力はクランク軸を正転方向に回転させるトルクに変換される。すなわち、一つの歯において、時計回転方向の歯面が当たるか、反時計回転方向の歯面が当たるのかは、スライド110が下降中に停止した場合と上昇中に停止した場合とで異なる。
【0035】
そのため、本実施例に係るプレス制御部500では、クランク軸エンコーダ121からの情報に基づいて、スライド110が下降中であるのか上昇中であるのかを認識し、スライド110が下降中の値を正とした場合、急停止の際にスライド110が上昇中に停止していた場合はバックラッシの角度分(ズレ分)をプラスして位相合せを行うようになっている。これにより、より精度の高い位相合わせを行うことができる。
【0036】
図3の制御フローチャートを用いて詳細に説明すると、非常停止信号が発せられ急停止した後に通常運転(プレス加工)へ復帰させる場合、プレス制御部500では、以下のような処理を行うようになっている。
【0037】
ステップ(図ではSと記す)1で、非常停止信号が入力される。作業者による非常停止ボタンのマニュアル操作や、自動検知システムが危険領域内に人が侵入したことを検知した場合などに、非常停止装置から非常停止信号がプレス制御部500へ入力される。
【0038】
ステップ2では、プレス制御部500からクラッチ機構150へオフ(切断)信号を送り、クラッチ機構150では、ドライブギヤ140と電動サーボモータ160の回転連結を切断して電動サーボモータ160を動力伝達経路から切り離す。
【0039】
ステップ3では、電動サーボモータ160の駆動電源をオフする。
【0040】
ステップ4では、プレス制御部500からブレーキ作動信号をブレーキ電磁弁201へ送り、ブレーキ機構200を作動させてブレーキ用ギヤ210延いてはメインギヤ130更にはスライド110を制動することで、電動サーボプレス機械100を急停止させる。
【0041】
ステップ5では、非常停止解除ボタン等が操作された場合や自動検知システムによる異常検知が解消された場合に、それを受けてプレス制御部500では、急停止を解除して、復帰動作へ移行する。
【0042】
ステップ6では、流体式アクチュエータなどから構成されるバランスシリンダ(バランサ)112の内圧を所定に増加して、スライド110延いては動力伝津経路に必要な負荷を与える。
【0043】
ステップ7では、ステップ6により、一定方向へ必要な負荷を与えることで、動力伝達経路内の遊びやバックラッシの無い状態を作り出す。
【0044】
ステップ8では、電動サーボモータ160内のモータ軸エンコーダ161からの情報に基づき取得した電動サーボモータ160の回転角度位置情報(内部データ)に対して、クランク軸エンコーダ121により実際に取得されるクランク軸120の回転角度位置情報と一致するようにズレ分を補正する。
【0045】
ステップ9では、クラッチ機構150へオン(接続)信号を送り、クラッチ機構150では、ドライブギヤ140と電動サーボモータ160の回転連結を接続して電動サーボモータ160を動力伝達経路に接続した接続状態とする。
【0046】
ステップ10では、電動サーボモータ160の駆動電源をオンする。
【0047】
ステップ11では、ブレーキ機構200を解除してブレーキ用ギヤ210延いてはメインギヤ130更にはスライド110に対する制動を解除する。
【0048】
ステップ12では、バランスシリンダ(バランサ)112の内圧を通常運転時における値に制御して、復帰運転に備える。
【0049】
このような処理を行うことで、プレス制御部500は、急停止後の通常制御へ復帰することになる。なおステップ8とステップ9とは順序を入れ替えても良い。
【0050】
このように、本実施例によれば、動力伝達経路の途中にクラッチ機構150及びブレーキ機構200を備え、急停止時には、クラッチ機構150を解放して電動サーボモータ160の駆動伝達を断つと同時に、ブレーキ機構200を作動させる構成であるため、電動サーボモータ160を停止する部品から除外して停止の際のイナーシャを減少させることができるため、ブレーキ容量を小さくすることができ、以ってブレーキの大容量化などを回避することができる。
【0051】
また、本実施例によれば、急停止後の通常運転等への復帰の際に、クラッチ機構150により電動サーボモータ160とクランク軸120(スライド110)との回転連結を解いた場合に生じる電動サーボモータ160とクランク軸120との間の位相のずれを修正することができるので、復帰後のプレス作業を円滑なものとすることができると共に、他の装置設備と連携してシステム化されているプレス加工ラインの他の装置設備との協働作業を円滑なものとすることができる。
【0052】
すなわち、本実施例によれば、比較的簡単かつ安価な構成でありながら、電動サーボモータにより動力伝達経路を介してスライドを駆動する電動サーボプレス機械であって、動力伝達経路にクラッチ機構とブレーキ機構とを備え、例えば急停止の際に、クラッチ機構により電動サーボモータを動力伝達経路から切り離すと共に、ブレーキ機構を作動させてスライドを停止させるものにおいて、再びクラッチ機構により電動サーボモータを動力伝達経路に接続する際に、電動サーボモータ側とスライド側との間の位相のずれを無くすことができ、以って円滑に通常運転へ復帰させることができる電動サーボプレス機械を提供することができる。
【0053】
なお、切断状態のクラッチ機構150からスライド110までの動力伝達経路におけるバックラッシが小さい場合には、これらを考慮しない構成も想定することができ、その場合には、
図3の制御フローチャートのS6、S7は省略可能である。
【0054】
また、マニュアル作業により、切断状態のクラッチ機構150からスライド110までの動力伝達経路におけるバックラッシが無い状態を作り出すこともでき、例えば、メインギヤ130などに対して回転方向に作業者が負荷を掛けることができる場合においては、
図3の制御フローチャートのS6、S7はマニュアル作業に置き換えることも可能である。
【実施例2】
【0055】
実施例2は、実施例1に対して、急停止後の通常運転への復帰のさせ方が相違するのみであるので、その部分についてのみ説明する。
すなわち、実施例2の復帰方法は、
図4の制御フローチャートのステップ108〜111(S108〜111)に示すように、例えば、電動サーボモータ160を制御するプレス制御部500が、電動サーボモータ160を駆動して、電動サーボモータ160内のモータ軸エンコーダ161からの情報に基づき取得される電動サーボモータ160の回転角度位置情報が、クランク軸エンコーダ121により実際に取得されるクランク軸120の回転角度位置情報と一致するまで、クランク軸120(切断状態のクラッチ機構150からスライド110までの動力伝達経路の回転体)に対して電動サーボモータ160を相対回転させてから、クラッチ機構150を接続状態とするといった手法を採用している。
【0056】
具体的には、
図4の制御フローチャートに示したように、
ステップ101〜ステップ107により、
図3のステップ1〜ステップ7と同様の処理を行う。
【0057】
続くステップ108では、ステップ109での処理に備えて、電動サーボモータ160の駆動電源をオンする。
【0058】
ステップ109では、プレス制御部500は、クランク軸エンコーダ121の検出信号に基づき取得されるクランク軸回転角度位置情報からクランク軸換算現在位置を取得する一方で、モータ軸エンコーダ161の検出信号に基づき取得される電動サーボモータ160の回転角度位置情報からモータ軸換算現在位置を算出し、これら2つの現在位置データから両者の位相差をキャンセルすることができる目標位置を生成し、サーボコントローラへ目標位置指令を出力し、電動サーボモータ160を実際に回転させる。
【0059】
ステップ110では、現在位置の更新を行い、クランク軸換算現在位置とモータ軸換算現在位置とが一致したか否かを判断し、両者が一致するまで、ステップ109、110を繰り返す。
【0060】
ステップ111では、クラッチ機構150へオン(接続)信号を送り、クラッチ機構150では、ドライブギヤ140と電動サーボモータ160の回転連結を接続して電動サーボモータ160を動力伝達経路に接続した接続状態とする。
【0061】
ステップ112では、ブレーキ機構200を解除してブレーキ用ギヤ210延いてはメインギヤ130更にはスライド110に対する制動を解除する。
【0062】
ステップ113では、バランスシリンダ(バランサ)112の内圧を通常運転時における値に制御して、復帰運転に備える。
【0063】
このような処理を行うことで、プレス制御部500は、急停止後の通常制御へ復帰することになる。
【0064】
このような、実施例2によれば、実施例1と同様、動力伝達経路の途中にクラッチ機構150及びブレーキ機構200を備え、急停止時には、クラッチ機構150を解放して電動サーボモータ160の駆動伝達を断つと同時に、ブレーキ機構200を作動させる構成であるため、電動サーボモータ160を停止する部品から除外して停止の際のイナーシャを減少させることができるため、ブレーキ容量を小さくすることができ、以ってブレーキの大容量化などを回避することができる。
【0065】
また、実施例2によれば、実施例1と同様、急停止後の通常運転等への復帰の際に、クラッチ機構150により電動サーボモータ160とクランク軸120(スライド110)との回転連結を解いた場合に生じる電動サーボモータ160とクランク軸120との間の位相のずれを修正することができるので、復帰後のプレス作業を円滑なものとすることができると共に、他の装置設備と連携してシステム化されているプレス加工ラインの他の装置設備との協働作業を円滑なものとすることができる。
【0066】
すなわち、実施例2によっても、実施例1と同様、比較的簡単かつ安価な構成でありながら、電動サーボモータにより動力伝達経路を介してスライドを駆動する電動サーボプレス機械であって、動力伝達経路にクラッチ機構とブレーキ機構とを備え、例えば急停止の際に、クラッチ機構により電動サーボモータを動力伝達経路から切り離すと共に、ブレーキ機構を作動させてスライドを停止させるものにおいて、再びクラッチ機構により電動サーボモータを動力伝達経路に接続する際に、電動サーボモータ側とスライド側との間の位相のずれを無くすことができ、以って円滑に通常運転へ復帰させることができる電動サーボプレス機械を提供することができる。
【0067】
なお、切断状態のクラッチ機構150からスライド110までの動力伝達経路におけるバックラッシが小さい場合には、これらを考慮しない構成も想定することができ、その場合には、
図4の制御フローチャートのS106、S107は省略可能である。
【0068】
また、マニュアル作業により、切断状態のクラッチ機構150からスライド110までの動力伝達経路におけるバックラッシが無い状態を作り出すこともでき、例えば、メインギヤ130などに対して回転方向に作業者が負荷を掛けることができる場合においては、
図4の制御フローチャートのS106、S107はマニュアル作業に置き換えることも可能である。