特許第5909014号(P5909014)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5909014接合部材の製造方法及び接合部材製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5909014
(24)【登録日】2016年4月1日
(45)【発行日】2016年4月26日
(54)【発明の名称】接合部材の製造方法及び接合部材製造装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 31/00 20060101AFI20160412BHJP
   B23K 11/02 20060101ALI20160412BHJP
   B23K 11/36 20060101ALI20160412BHJP
   B23K 11/16 20060101ALI20160412BHJP
【FI】
   B23K31/00 C
   B23K11/02 510
   B23K11/36 330
   B23K11/16
   B23K31/00 B
【請求項の数】10
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-115808(P2015-115808)
(22)【出願日】2015年6月8日
【審査請求日】2015年6月30日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000103976
【氏名又は名称】オリジン電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097320
【弁理士】
【氏名又は名称】宮川 貞二
(74)【代理人】
【識別番号】100131820
【弁理士】
【氏名又は名称】金井 俊幸
(74)【代理人】
【識別番号】100100398
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 茂夫
(74)【代理人】
【識別番号】100155192
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 美代子
(72)【発明者】
【氏名】角谷 康雄
(72)【発明者】
【氏名】押野 勇樹
【審査官】 篠原 将之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/147439(WO,A1)
【文献】 特開平11−197853(JP,A)
【文献】 特開昭56−123328(JP,A)
【文献】 特開2009−125801(JP,A)
【文献】 特開2014−084504(JP,A)
【文献】 特開2004−017048(JP,A)
【文献】 特開2012−223815(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/00
B23K 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼きが入り得る金属材料で形成された第1の部材と、金属材料で形成された第2の部材と、を接合した接合部材を製造する方法であって;
前記第1の部材の接合対象部分と前記第2の部材の接合対象部分とを接触させて前記第1の部材及び前記第2の部材を配置する接触配置工程と;
前記第1の部材及び前記第2の部材の接合対象部分を加熱して溶接する溶接工程と;
前記溶接工程が行われた後の前記第1の部材に対して割れの発生を抑制する措置を施す割れ抑制措置工程と;
前記第1の部材と前記第2の部材とが溶接された部分を電磁加熱によって焼き戻す電磁加熱工程とを備え;
前記溶接工程は、前記第1の部材及び前記第2の部材の接合対象部分を加圧しながら抵抗溶接を行うことであり;
前記割れ抑制措置工程は、前記第1の部材と前記第2の部材とが溶接された部分に電流を流して加熱して予備的な焼き戻しを行うことで構成された;
接合部材の製造方法。
【請求項2】
前記電磁加熱工程は、誘導加熱コイルを用いた誘導加熱で行われ、前記第1の部材と前記第2の部材との接合面の外周を構成する一辺の近傍に前記誘導加熱コイルを配置して、最初に前記一辺に対向する対向辺側の前記接合面の焼き戻しを行い、以後に前記誘導加熱コイルの出力を前記対向辺側の前記接合面の焼き戻しを行ったときよりも低下させた状態で前記一辺側の前記接合面の焼き戻しを行うように構成された;
請求項1に記載の接合部材の製造方法。
【請求項3】
前記電磁加熱工程は、誘導加熱コイルを用いた誘導加熱で行われ、前記第1の部材と前記第2の部材との接合面の外周を構成する一辺の近傍と、前記接合面の前記一辺に対向する対向辺側の近傍と、にそれぞれ前記誘導加熱コイルを配置して、前記一辺の近傍に配置された前記誘導加熱コイルで前記一辺側の前記接合面の焼き戻しを行い、前記対向辺の近傍に配置された前記誘導加熱コイルで前記対向辺側の前記接合面の焼き戻しを行うように構成された;
請求項1に記載の接合部材の製造方法。
【請求項4】
焼きが入り得る金属材料で形成された第1の部材と、金属材料で形成された第2の部材と、を接合した接合部材を製造する方法であって;
前記第1の部材の接合対象部分と前記第2の部材の接合対象部分とを接触させて前記第1の部材及び前記第2の部材を配置する接触配置工程と;
前記第1の部材及び前記第2の部材の接合対象部分を加熱して溶接する溶接工程と;
前記溶接工程が行われた後の前記第1の部材に対して割れの発生を抑制する措置を施す割れ抑制措置工程と;
前記第1の部材と前記第2の部材とが溶接された部分を電磁加熱によって焼き戻す電磁加熱工程とを備え;
前記電磁加熱工程は、誘導加熱コイルを用いた誘導加熱で行われ、前記第1の部材と前記第2の部材との接合面の外周を構成する一辺の近傍に前記誘導加熱コイルを配置して、最初に前記一辺に対向する対向辺側の前記接合面の焼き戻しを行い、以後に前記誘導加熱コイルの出力を前記対向辺側の前記接合面の焼き戻しを行ったときよりも低下させた状態で前記一辺側の前記接合面の焼き戻しを行うように構成された;
合部材の製造方法。
【請求項5】
焼きが入り得る金属材料で形成された第1の部材と、金属材料で形成された第2の部材と、を接合した接合部材を製造する方法であって;
前記第1の部材の接合対象部分と前記第2の部材の接合対象部分とを接触させて前記第1の部材及び前記第2の部材を配置する接触配置工程と;
前記第1の部材及び前記第2の部材の接合対象部分を加熱して溶接する溶接工程と;
前記溶接工程が行われた後の前記第1の部材に対して割れの発生を抑制する措置を施す割れ抑制措置工程と;
前記第1の部材と前記第2の部材とが溶接された部分を電磁加熱によって焼き戻す電磁加熱工程とを備え;
前記電磁加熱工程は、誘導加熱コイルを用いた誘導加熱で行われ、前記第1の部材と前記第2の部材との接合面の外周を構成する一辺の近傍と、前記接合面の前記一辺に対向する対向辺側の近傍と、にそれぞれ前記誘導加熱コイルを配置して、前記一辺の近傍に配置された前記誘導加熱コイルで前記一辺側の前記接合面の焼き戻しを行い、前記対向辺の近傍に配置された前記誘導加熱コイルで前記対向辺側の前記接合面の焼き戻しを行うように構成された;
合部材の製造方法。
【請求項6】
前記溶接工程は、前記第1の部材及び前記第2の部材の接合対象部分を加圧しながら抵抗溶接を行うことであり;
前記割れ抑制措置工程は、前記溶接工程における加圧を維持することで構成された;
請求項4又は請求項5に記載の接合部材の製造方法。
【請求項7】
焼きが入り得る金属材料で形成された第1の部材と、金属材料で形成された第2の部材と、を接合した接合部材を製造する装置であって;
前記第1の部材に接触させる第1の電極と;
前記第2の部材に接触させる第2の電極と;
前記第1の電極に接触した前記第1の部材の接合対象部分と、前記第2の電極に接触した前記第2の部材の接合対象部分と、が接触して接合された部分に対して誘導加熱を行う誘導加熱コイルと
前記第1の電極及び前記第2の電極への電流の供給並びに前記誘導加熱コイルへの電流の供給を制御する制御装置とを備え;
前記誘導加熱コイルは、前記第1の部材と前記第2の部材とが接合された部分に対する誘導加熱が行われる際に、前記第1の電極と前記第2の電極との間に配置されるように構成され;
前記制御装置は、前記第1の電極に接触した前記第1の部材の接合対象部分と前記第2の電極に接触した前記第2の部材の接合対象部分とを接触させて相互に接触した前記接合対象部分を加圧しながら前記第1の電極と前記第2の電極との間に電流を流して前記接合対象部分を溶接し、前記第1の部材と前記第2の部材との接合面への加圧を維持しながら、前記接合面の外周を構成する一辺の近傍に前記誘導加熱コイルを配置して、最初に前記一辺に対向する対向辺側の前記接合面の焼き戻しを行い、以後に前記誘導加熱コイルの出力を前記対向辺側の前記接合面の焼き戻しを行ったときよりも低下させた状態で前記一辺側の前記接合面の焼き戻しを行うように構成された;
接合部材製造装置。
【請求項8】
前記制御装置は、
前記接合面の外周を構成する一辺の近傍に前記誘導加熱コイルを配置して、最初に前記一辺に対向する対向辺側の前記接合面の焼き戻しを行い、以後に前記誘導加熱コイルの出力を前記対向辺側の前記接合面の焼き戻しを行ったときよりも低下させた状態で前記一辺側の前記接合面の焼き戻しを行うことに代えて、
前記接合面の外周を構成する一辺の近傍と、前記接合面の前記一辺に対向する対向辺側の近傍と、にそれぞれ前記誘導加熱コイルを配置して、前記一辺の近傍に配置された前記誘導加熱コイルで前記一辺側の前記接合面の焼き戻しを行い、前記対向辺の近傍に配置された前記誘導加熱コイルで前記対向辺側の前記接合面の焼き戻しを行うように構成された;
請求項7に記載の接合部材製造装置。
【請求項9】
焼きが入り得る金属材料でリング状に形成された第1の部材と、金属材料で円柱状に形成された第2の部材と、を接合した接合部材を製造する装置であって;
前記第1の部材に接触させる第1の電極と;
前記第2の部材に接触させる第2の電極と;
前記第1の電極に接触した前記第1の部材の接合対象部分と、前記第2の電極に接触した前記第2の部材の接合対象部分と、が接触して接合された部分に対して誘導加熱を行う誘導加熱コイルとを備え;
前記誘導加熱コイルは、前記第2の部材の外径よりも一回り大きい径に巻かれた第1の誘導加熱コイルと、前記第1の誘導加熱コイルよりも小さい径に巻かれて前記第1の誘導加熱コイルの下方に配置された第2の誘導加熱コイルとを有すると共に、前記第1の誘導加熱コイル及び前記第2の誘導加熱コイルが、前記第1の部材と前記第2の部材とが接合された部分に対する誘導加熱が行われる際に、前記第1の電極と前記第2の電極との間に配置されるように構成された;
接合部材製造装置。
【請求項10】
請求項7乃至請求項9のいずれか1項に記載の接合部材製造装置によって前記接合部材を製造する方法であって;
前記第1の部材と前記第2の部材とを前記接合部材製造装置に配置する部材配置工程と;
前記第1の電極と前記第2の電極との間に電流を流す電極通電工程と;
前記誘導加熱コイルに電流を流すコイル通電工程とを備える;
接合部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は接合部材の製造方法及び接合部材製造装置に関し、特に接合部材の溶接部分に割れが発生することを抑制する接合部材の製造方法及び接合部材製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
2つの部材を溶接する際に、一対のローラ電極を被溶接部の重ね合わせ代に沿って加圧・通電しながら走行させるマッシュシーム溶接がある。マッシュシーム溶接の、溶接に時間がかかるという問題を解決する溶接方法として、溶接部分を僅かに重ねておき、2つの被溶接物の間に加圧力をかけた状態で溶接電流を流すものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−17048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
加熱して溶接する手法では、被溶接物に、浸炭焼き入れ鋼等の高炭素鋼を含む場合、溶接した箇所が固く脆い焼き入れ組織に変化し、割れが発生する可能性がある。
【0005】
本発明は上述の課題に鑑み、2つの部材を溶接した際に接合部分に焼きが入った場合でも、製造された接合部材に割れが発生することを抑制する接合部材の製造方法及び接合部材製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明に係る接合部材の製造方法は、例えば図3を参照して示すと、焼きが入り得る金属材料で形成された第1の部材Dと、金属材料で形成された第2の部材Eと、を接合した接合部材C(例えば図2(C)参照)を製造する方法であって;第1の部材Dの接合対象部分Dfと第2の部材Eの接合対象部分Efとを接触させて第1の部材D及び第2の部材Eを配置する接触配置工程(図3(A)参照)と;第1の部材D及び第2の部材Eの接合対象部分を加熱して溶接する溶接工程(図3(C)参照)と;溶接工程が行われた後の第1の部材Dに対して割れの発生を抑制する措置を施す割れ抑制措置工程と;第1の部材Dと第2の部材Eとが溶接された部分を電磁加熱によって焼き戻す電磁加熱工程(図3(D)参照)とを備える。
【0007】
このように構成すると、溶接工程によって接合部分に焼きが入った場合に、電磁加熱によって焼き戻すことができ、溶接された部分の割れの発生を抑制することができる。
【0008】
また、請求項1に記載の発明に係る接合部材の製造方法は、例えば図3を参照して示すと、溶接工程は、第1の部材D及び第2の部材Eの接合対象部分を加圧しながら抵抗溶接を行うことである
【0009】
さらに、請求項1に記載の発明に係る接合部材の製造方法は、以下のように構成されている。
【0010】
つまり、請求項1に記載の発明に係る接合部材の製造方法は、割れ抑制措置工程は、第1の部材と第2の部材とが溶接された部分に電流を流して加熱して予備的な焼き戻しを行うことで構成されている。
【0011】
このように構成すると、溶接と電磁加熱とを別の場所で行うことが可能となり、工程の自由度を上げることができる。
【0012】
また、請求項4に記載の発明に係る接合部材の製造方法は、例えば図3及び図4を参照して示すと、焼きが入り得る金属材料で形成された第1の部材Dと、金属材料で形成された第2の部材Eと、を接合した接合部材C(例えば図2(C)参照)を製造する方法であって;第1の部材Dの接合対象部分Dfと第2の部材Eの接合対象部分Efとを接触させて第1の部材D及び第2の部材Eを配置する接触配置工程(図3(A)参照)と;第1の部材D及び第2の部材Eの接合対象部分を加熱して溶接する溶接工程(図3(C)参照)と;溶接工程が行われた後の第1の部材Dに対して割れの発生を抑制する措置を施す割れ抑制措置工程と;第1の部材Dと第2の部材Eとが溶接された部分を電磁加熱によって焼き戻す電磁加熱工程(図3(D)参照)とを備え;電磁加熱工程(図3(D)参照)は、誘導加熱コイル23を用いた誘導加熱で行われ、第1の部材Dと第2の部材Eとの接合面の外周を構成する一辺Snの近傍に誘導加熱コイル23を配置して、最初に一辺Snに対向する対向辺Sf側の接合面Jfの焼き戻しを行い、以後に誘導加熱コイル23の出力を対向辺Sf側の接合面Jfの焼き戻しを行ったときよりも低下させた状態で一辺Sn側の接合面Jnの焼き戻しを行うように構成されている。
【0013】
このように構成すると、1回の誘導加熱コイルの設置で接合面全体の焼き戻しを行うことができる。
【0014】
また、請求項5に記載の発明に係る接合部材の製造方法は、例えば図3及び図5を参照して示すと、焼きが入り得る金属材料で形成された第1の部材Dと、金属材料で形成された第2の部材Eと、を接合した接合部材C(例えば図2(C)参照)を製造する方法であって;第1の部材Dの接合対象部分Dfと第2の部材Eの接合対象部分Efとを接触させて第1の部材D及び第2の部材Eを配置する接触配置工程(図3(A)参照)と;第1の部材D及び第2の部材Eの接合対象部分を加熱して溶接する溶接工程(図3(C)参照)と;溶接工程が行われた後の第1の部材Dに対して割れの発生を抑制する措置を施す割れ抑制措置工程と;第1の部材Dと第2の部材Eとが溶接された部分を電磁加熱によって焼き戻す電磁加熱工程(図3(D)参照)とを備え;電磁加熱工程は、誘導加熱コイル23、23Aを用いた誘導加熱で行われ、第1の部材Dと第2の部材Eとの接合面の外周を構成する一辺Snの近傍と、接合面の一辺Snに対向する対向辺Sf側の近傍と、にそれぞれ誘導加熱コイル23、23Aを配置して、一辺Snの近傍に配置された誘導加熱コイル23で一辺Sn側の接合面Jnの焼き戻しを行い、対向辺Sfの近傍に配置された誘導加熱コイル23Aで対向辺Sf側の接合面Jfの焼き戻しを行うように構成されている。
【0015】
このように構成すると、接合面の一辺側と対向辺側とを同時に焼き戻すことができ、電磁加熱工程の所要時間を短縮することができる。
また、請求項6に記載の発明に係る接合部材の製造方法は、例えば図3を参照して示すと、請求項4又は請求項5に記載の接合部材の製造方法において、溶接工程は、第1の部材D及び第2の部材Eの接合対象部分を加圧しながら抵抗溶接を行うことであり;割れ抑制措置工程は、溶接工程における加圧を維持することで構成されている。
このように構成すると、溶接と電磁加熱とを連続して行うことが可能となり、生産性を向上させることができる。
【0016】
上記目的を達成するために、請求項7に記載の発明に係る接合部材製造装置は、例えば図1に示すように、焼きが入り得る金属材料で形成された第1の部材Dと、金属材料で形成された第2の部材Eと、を接合した接合部材C(例えば図2(C)参照)を製造する装置であって;第1の部材Dに接触させる第1の電極11と;第2の部材Eに接触させる第2の電極12と;第1の電極11に接触した第1の部材Dの接合対象部分Df(例えば図2(B)参照)と、第2の電極12に接触した第2の部材Eの接合対象部分Ef(例えば図2(B)参照)と、が接触して接合された部分に対して誘導加熱を行う誘導加熱コイル23とを備え;誘導加熱コイル23は、第1の部材Dと第2の部材Eとが接合された部分に対する誘導加熱が行われる際に、第1の電極11と第2の電極12との間に配置されるように構成されている。
【0017】
このように構成すると、第1の電極及び第2の電極を用いて接合対象部分を接合した際に焼きが入った場合に、誘導加熱コイルによる誘導加熱によって焼き戻すことができ、接合された部分の割れの発生を抑制することができる。
さらに、請求項7に記載の発明に係る接合部材製造装置は、例えば図1図3及び図4を参照して示すと、第1の電極11及び第2の電極12への電流の供給並びに誘導加熱コイル23への電流の供給を制御する制御装置50を備え;制御装置50は、第1の電極11に接触した第1の部材Dの接合対象部分Dfと第2の電極12に接触した第2の部材Eの接合対象部分Efとを接触させて相互に接触した接合対象部分を加圧しながら第1の電極11と第2の電極12との間に電流を流して接合対象部分を溶接し、第1の部材Dと第2の部材Eとの接合面への加圧を維持しながら、接合面の外周を構成する一辺Snの近傍に誘導加熱コイル23を配置して、最初に一辺Snに対向する対向辺Sf側の接合面Jfの焼き戻しを行い、以後に誘導加熱コイル23の出力を対向辺Sf側の接合面Jfの焼き戻しを行ったときよりも低下させた状態で一辺Sn側の接合面Jnの焼き戻しを行うように構成されている。
また、請求項8に記載の発明に係る接合部材製造装置は、例えば図4及び図5を参照して示すと、請求項7に記載の接合部材製造装置において、制御装置50(例えば図1参照)は、接合面の外周を構成する一辺Snの近傍に誘導加熱コイル23を配置して、最初に一辺Snに対向する対向辺Sf側の接合面Jfの焼き戻しを行い、以後に誘導加熱コイル23の出力を対向辺Sf側の接合面Jfの焼き戻しを行ったときよりも低下させた状態で一辺Sn側の接合面Jnの焼き戻しを行うことに代えて、接合面の外周を構成する一辺Snの近傍と、接合面の一辺Snに対向する対向辺Sf側の近傍と、にそれぞれ誘導加熱コイル23、23Aを配置して、一辺Snの近傍に配置された誘導加熱コイル23で一辺Sn側の接合面Jnの焼き戻しを行い、対向辺Sfの近傍に配置された誘導加熱コイル23Aで対向辺Sf側の接合面Jfの焼き戻しを行うように構成されている。
また、請求項9に記載の発明に係る接合部材製造装置は、例えば図1及び図5に示すように、焼きが入り得る金属材料でリング状に形成された第1の部材Dと、金属材料で円柱状に形成された第2の部材Eと、を接合した接合部材C(例えば図2(C)参照)を製造する装置であって;第1の部材Dに接触させる第1の電極11と;第2の部材Eに接触させる第2の電極12と;第1の電極11に接触した第1の部材Dの接合対象部分Df(例えば図2(B)参照)と、第2の電極12に接触した第2の部材Eの接合対象部分Ef(例えば図2(B)参照)と、が接触して接合された部分に対して誘導加熱を行う誘導加熱コイルとを備え;誘導加熱コイルは、第2の部材Eの外径よりも一回り大きい径に巻かれた第1の誘導加熱コイル23と、第1の誘導加熱コイル23よりも小さい径に巻かれて第1の誘導加熱コイル23の下方に配置された第2の誘導加熱コイル23Aとを有すると共に、第1の誘導加熱コイル23及び第2の誘導加熱コイル23Aが、第1の部材Dと第2の部材Eとが接合された部分に対する誘導加熱が行われる際に、第1の電極11と第2の電極12との間に配置されるように構成されている。
【0018】
また、請求項10に記載の発明に係る接合部材の製造方法は、例えば図1及び図3を参照して示すと、請求項7乃至請求項9のいずれか1項に記載の接合部材製造装置1によって接合部材C(例えば図2(C)参照)を製造する方法であって;第1の部材Dと第2の部材Eとを接合部材製造装置1に配置する部材配置工程(図3(A)参照)と;第1の電極11と第2の電極12との間に電流Iを流す電極通電工程(図3(C)参照)と;誘導加熱コイル23に電流を流すコイル通電工程(図3(D)参照)とを備える。
【0019】
このように構成すると、第1の電極及び第2の電極を用いて接合対象部分を接合した際に焼きが入った場合に、誘導加熱コイルによる誘導加熱によって焼き戻すことができ、接合された部分の割れの発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、接合された部分に焼きが入った場合に、電磁加熱によって焼き戻すことができ、接合された部分の割れの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施の形態に係る接合部材製造装置の概略構成図である。
図2】(A)は第1部材及び第2部材の斜視図、(B)は第1部材及び第2部材の断面図、(C)は接合部材の断面図である。
図3】本発明の実施の形態に係る接合部材の製造方法の手順を示す概略図である。
図4】(A)は高周波誘導加熱による焼き戻し状況を示す部分断面図、(B)は溶接完了部の部分断面斜視図である。
図5】本発明の実施の形態の変形例に係る接合部材製造装置の加熱コイルまわりの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、各図において互いに同一又は相当する部材には同一あるいは類似の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0023】
まず図1を参照して、本発明の実施の形態に係る接合部材製造装置1を説明する。図1は、接合部材製造装置1の概略構成図である。接合部材製造装置1は、第1の部材(以下「第1部材D」という)に接触させる第1の電極(以下「第1電極11」という)と、第2の部材(以下「第2部材E」という)に接触させる第2の電極(以下「第2電極12」という)と、溶接電源15と、誘導加熱コイル(以下「加熱コイル23」という)と、コイル電源25と、これらを収容する筐体30と、制御装置50とを備えている。ここで、接合部材製造装置1の詳細な説明に先立って、接合部材製造装置1で製造される接合部材の構成を例示する。
【0024】
図2(A)は、第1部材D及び第2部材Eの斜視図である。図2(B)は、第1部材D及び第2部材Eの断面図である。図2(C)は、接合部材Cの断面図である。接合部材Cは、第1部材Dと第2部材Eとが溶接された部品である。本実施の形態では、第1部材Dがリング状に形成されており、第2部材Eが円柱状に形成されているとして説明する。第1部材Dは、厚い円板状の中心に、円柱状の中空部分Dhが形成されている。第1部材Dの円板の外周と中空部分Dhの円周とは、同心円となっている。第1部材Dは、端面Dsと中空部分Dhとの角部が面取りされて第1接合面Dfが形成されている。第1接合面Dfは、第1部材Dの接合対象部分に相当する。第1部材Dは、本実施の形態では、リング状に形成された低炭素鋼に対して、表面が浸炭処理された浸炭鋼で構成されている。このため、第1部材Dは、内部は軟らかくて粘り強い組織であり、表面は硬くて加熱されたときに焼きが入り得る部材となっている。ここで、焼きが入り得るとは、所定の条件を充足したときに焼きが入る程度の炭素を含有することであり、典型的には溶接する際の加熱で焼きが入るが、溶接前に(例えば浸炭鋼製造工場で)加熱されて既に焼きが入っていてもよい。所定の条件は、例えば溶接機の仕様や第1部材Dとする材料種によって異なる。
【0025】
第2部材Eの外径は、第1部材Dの中空部分Dhの直径よりも一回り大きく形成されている。第2部材Eは、端面と側面との角部が面取りされて第2接合面Efが形成されている。第2接合面Efは、第2部材Eの接合対象部分に相当する。第2接合面Efは、第1部材Dの第1接合面Dfと面で接触するように形成されている。第2部材Eは、本実施の形態では、鋳鉄で構成されている。接合部材Cは、本実施の形態では、第1接合面Dfと第2接合面Efとが固相接合されることで構成されている。固相接合は、融点以下の温度で行う溶接であり、本実施の形態では抵抗溶接により行われている。本実施の形態では、リング状に形成された第1接合面Dfと、第2接合面Efとの接合が全周にわたってほぼ均一に行われる。このようなリングの部材を含む接合の特徴を例示すると、位置決めが容易で治具が簡単、接合面の形状が簡単で加工コストが安価、接合が短時間で完了してサイクルタイムが短い、熱歪みが少なく接合後の寸法精度を得やすいことが挙げられる。接合部材Cは、ギヤやシャフト等の大型駆動系部品として利用することができる。
【0026】
再び図1に戻って接合部材製造装置1の説明を続ける。接合部材製造装置1は、第1部材D及び第2部材Eに対して、第1電極11及び第2電極12を用いて抵抗溶接を行うことができるように構成されている。第1電極11は、上面に、第1部材Dが接触する第1接触面11tが形成されている。第1接触面11tは、典型的には平坦に形成されている。第1電極11は、典型的には、第1接触面11tが水平になるようにして筐体30の底面に配置されている。第2電極12は、第1電極11の上方に配置されており、下面に、第2部材Eが接触する第2接触面12tが形成されている。第2接触面12tは、典型的には平坦に形成されている。第2電極12は、第2接触面12tが水平になるようにして、電極支持具(不図示)に支持されている。電極支持具(不図示)に支持された第2電極12は、上下に移動することができ、また、第1電極11に対して押圧することができるように構成されている。第1電極11及び第2電極12は、溶接電源15に電気的に接続されている。
【0027】
溶接電源15は、第1電極11及び第2電極12に電流を供給する装置である。溶接電源15は、本実施の形態では、商用交流電源や交流発電機等の交流電源に接続されており、交流電源から受電した交流電力を昇圧し整流する電源ユニットと、電気エネルギーを蓄電及び放電するコンデンサと、電源ユニット及びコンデンサから供給される電流を大電流に変換する溶接トランスと、溶接トランスの上流側に設けられたスイッチ部品とを有している。溶接電源15は、コンデンサに充電したエネルギーを瞬時に放電することができるように構成されている。このため、溶接電源15を用いた溶接では、短時間で大電流を得ることができ、熱影響の少ない溶接が可能となっている。また、溶接電源15では、入力電源(交流電源)が比較的小さい容量で足りる。溶接電源15は、第1電極11及び第2電極12に供給する電流の大きさを適宜設定することができるように構成されている。
【0028】
加熱コイル23は、第1部材Dと第2部材Eとが溶接された部分に対して高周波誘導加熱を行うためのものである。高周波誘導加熱は、電磁加熱の一形態である。加熱コイル23は、円柱状の第2部材Eの外径よりも一回り大きい径に巻かれている。ここでいう一回り大きいとは、第2部材Eに接触することがなく、加熱コイル23に電流を流すことによって生じる渦電流の作用を、第1部材Dと第2部材Eとの溶接部分に及ぼすことができる大きさである。加熱コイル23は、コイル支持具(不図示)に支持されて、第1電極11と第2電極12との間に配置されている。コイル支持具(不図示)に支持された加熱コイル23は、第1電極11と第2電極12とを結ぶ仮想直線に沿って(本実施の形態では上下に)移動することができるように構成されている。加熱コイル23は、コイル電源25に接続されている。コイル電源25は、加熱コイル23に流す電流を発生させる装置である。コイル電源25は、本実施の形態では、商用交流電源や交流発電機等の交流電源に接続されており、交流電源から受電した交流電流をインバータ等により高周波の電流に変換する高周波電流発生部を含んでいる。コイル電源25は、加熱コイル23に流す電流の周波数、大きさ、時間を適宜設定することができるように構成されている。
【0029】
筐体30は、第1電極11、第2電極12、溶接電源15、加熱コイル23、コイル電源25等の接合部材製造装置1を構成する機器を収容している。このように構成されていることで、接合部材製造装置1を、1つのユニットとして運搬しやすくなっている。筐体30には、第1部材D及び第2部材E並びに接合部材Cを出し入れする開口31が形成されている。
【0030】
制御装置50は、接合部材製造装置1の動作を制御する装置である。制御装置50は、電極支持具(不図示)及びコイル支持具(不図示)とそれぞれ信号ケーブルで接続されており、第2電極12及び加熱コイル23を個別に上下に移動させることができるように構成されている。また、制御装置50は、溶接電源15と信号ケーブルで接続されており、第1電極11及び第2電極12への電流の供給の有無及び供給する電流の大きさを制御することができるよう構成されている。また、制御装置50は、コイル電源25と信号ケーブルで接続されており、加熱コイル23への電流の供給の有無及び加熱コイル23に流す電流の周波数、大きさ、時間を制御することができるように構成されている。制御装置50は、典型的には筐体30の内部又は外側で筐体30に取り付けられているが、筐体30から離れた場所に設置されて接合部材製造装置1を遠隔で操作するように構成されていてもよい。
【0031】
次に図3を参照して本発明の実施の形態に係る接合部材の製造方法について説明する。図3は、接合部材Cの製造の手順を示す概略図である。以下に説明する接合部材Cの製造方法は、これまで説明した接合部材製造装置1で行われることとする。つまり、以下の説明は、接合部材製造装置1の作用の説明を兼ねている。なお、接合部材Cの製造は、接合部材製造装置1を作動させること以外の手法で行うことも可能である。以下の接合部材の製造方法の説明において、接合部材製造装置1及び接合部材Cの詳細な構成に言及しているときは、適宜図1及び図2を参照することとする。
【0032】
筐体30の内部に第1部材D及び/又は第2部材Eが入っていないとき、第2電極12及び加熱コイル23は筐体30内の上部で待機している。接合部材Cの製造を開始するに際し、まず、第1部材D及び第2部材Eを開口31から筐体30内に入れる。このとき、まず、第1部材Dを、第1接合面Dfを上に向けて第1電極11の第1接触面11tに載置し、次に、第2部材Eを、第2接合面Efを第1接合面Dfに接触させて第1部材Dに載置する(接触配置工程:図3(A)参照)。このようにして、第1部材D及び第2部材Eが接合部材製造装置1に配置される(部材配置工程)。第1接触面11tに第1部材D及び第2部材Eを載置したら、制御装置50は、コイル支持具(不図示)を介して加熱コイル23を下降させて、加熱コイル23の内部に第2部材Eが通った状態で、第1部材Dの端面Dsと第2部材Eの側面とが交わった部分の近傍に加熱コイル23を配置する。このとき、加熱コイル23は、第1部材D及び第2部材Eに接触しないように配置される。
【0033】
次に、制御装置50は、電極支持具(不図示)を介して第2電極12を下降させて、第2電極12の第2接触面12tを第2部材Eに接触させ、さらに第2部材Eを下方に押圧して第1部材Dに向けて加圧する(図3(B)参照)。次に、制御装置50は、第1接合面Dfと第2接合面Efとの接触した部分を加圧しつつ、溶接電源15を起動して、第1電極11と第2電極12との間に電流Iを流し(電極通電工程)、第1接合面Dfと第2接合面Efとの接触した部分を溶接する(溶接工程:図3(C)参照)。ここで行われる溶接は、金属材料で形成された第1部材Dと第2部材Eとの接触抵抗によって発生するジュール熱によって接合する抵抗溶接である。本実施の形態では、溶接電源15にコンデンサが含まれていて電気エネルギーを瞬時に放出するため、短時間(例えば数十ミリ秒)で比較的大きな電流が得られ、第1接合面Dfと第2接合面Efとが固相接合される(以下、第1接合面Dfと第2接合面Efとの溶接が完了した部分を「溶接完了部F」という)。このとき、溶接完了部Fの第1接合面Df側は、溶接時の加熱によって焼きが入った状態になる。焼きが入ると、硬度が上がるが(例えばビッカース硬さ800程度)、衝撃に弱くなるので、割れが生じるおそれがある。
【0034】
従来は、焼きが入ることに起因して割れが発生する可能性が生じることを排除するために、焼きが入り得る浸炭層を、接合する部分及びその周辺だけ除去していた。しかし、浸炭層は非常に硬いため、浸炭層の除去には多大な手間がかかっていた。接合部の焼き入れを防ぐための代替えの手法として、浸炭する際に浸炭層が形成されないようにする防炭処理があるが、防炭処理にも多大な工数がかかる。このように、接合する部分に浸炭層が形成されないようにするには多大な手間がかかるため、接合する部分に浸炭層が形成されたまま溶接したうえで、焼き入れによる割れの発生を抑制することを考えると、溶接で接合した後に接合部に再度電流を流して焼き戻しを行うことが挙げられる。しかし、接合部に再度電流を流して焼き戻しをしても、製品としての接合部材Cに求められる硬さまでビッカース硬さが下がらない場合がある。本発明者らは、接合する部分に浸炭層が形成されたまま溶接して焼きが入った場合でも、以下の処理を行うことにより、接合部を製品としての接合部材Cに求められる硬さまで下げることができることを見出した。以下に、本実施の形態に係る接合部材の製造方法における溶接に続く工程を説明する。
【0035】
制御装置50は、第1接合面Dfと第2接合面Efとの溶接が終了しても、溶接完了部Fへの加圧を維持する。このことで、溶接完了部Fの応力が解放されて焼き入れ部に割れが生じてしまうことを抑制している。つまり、溶接終了後も溶接完了部Fへの加圧を維持することは、割れ抑制措置工程に相当する。制御装置50は、割れ抑制措置工程を行いつつ、コイル電源25を起動して、加熱コイル23に電流を流し(コイル通電工程)、溶接完了部Fに渦電流Qを生じさせ、溶接完了部Fに対して高周波誘導加熱を行う(電磁加熱工程:図3(D)参照)。溶接完了部Fを高周波誘導加熱することにより、溶接完了部Fの焼き戻しが行われる。制御装置50は、コイル電源25から加熱コイル23に供給する電流の周波数、大きさ、時間を調節し、溶接完了部Fが、製品としての接合部材Cに求められる硬さまで下がる熱量を加えて溶接完了部Fの焼き戻しを行う。このとき、溶接完了部Fの奥行き(加熱コイル23から溶接完了部F最遠部までの距離)が大きいと、適切な焼き戻しができない可能性がある。本実施の形態では、以下のような手順で、溶接完了部Fに対する高周波誘導加熱を行うこととしている。
【0036】
図4(A)は高周波誘導加熱による焼き戻し状況を示す部分断面図、図4(B)は溶接完了部Fの部分断面斜視図である。加熱コイル23は、第1部材Dの端面Dsと第2部材Eの側面との境界線を形成する一辺Snの近傍に配置されている。第1部材Dの中空部分Dhの面と第2部材Eの端面との境界線を形成する対向辺Sfは、溶接完了部Fのうちで加熱コイル23から最も遠くに存在している。加熱コイル23による高周波誘導加熱を行う際、制御装置50は、まず、コイル電源25の出力を比較的高くして、対向辺Sf側の溶接完了部Fを含むその周辺の領域(以下「対向辺側領域Jf」という)を、焼き戻しに適した温度に加熱して、対向辺側領域Jfの焼き戻しを行う。このとき、一辺Sn側の溶接完了部Fを含むその周辺の領域(以下「一辺側領域Jn」という)は、対向辺側領域Jfよりも温度が高くなり、典型的には焼き戻しは行われず、焼き入れされる場合がある。制御装置50は、対向辺側領域Jfの焼き戻しが完了したら、一旦コイル電源25の出力を停止して、一辺側領域Jnを焼き入れ状態とする。次いで、制御装置50は、一辺側領域Jnが焼き戻しに適した温度となるようにコイル電源25の出力を上げ、一辺側領域Jnを焼き戻しに適した温度に加熱して、一辺側領域Jnの焼き戻しを行う。通常、コイル電源25の出力は、対向辺側領域Jf焼き戻しを行うときよりも、一辺側領域Jnの焼き戻しを行うときの方が小さくなる。このように、本実施の形態では、一辺Snの近傍に配置した1つの加熱コイル23により、溶接完了部F全体の焼き戻しを行うことができる。なお、高周波誘導加熱は、誘導電流による直接加熱であるため、通常の焼き戻しと比較して短時間で焼き戻しが終了する。また、高周波誘導加熱は、局所的な加熱が可能であるため、溶接完了部F付近だけを加熱して焼き戻しを行い、その周囲の浸炭層に影響を及ぼさないようにすることができる。換言すれば、例えば、炉などで焼き戻しを行うと、長時間要するうえに、硬さが必要な部分(例えば歯車の歯の部分)までもが焼き戻しされてしまうことになるが、高周波誘導加熱によればこのような悪影響が及ぶことを回避することができる。
【0037】
再び図3を主に参照して接合部材の製造方法の説明を続ける。高周波誘導加熱による溶接完了部Fの焼き戻しが終了したら、制御装置50は、電極支持具(不図示)を介して第2電極12を上昇させ、溶接完了部Fに対する加圧を解放する。溶接によって焼き入れされた溶接完了部Fは、その後に高周波誘導加熱による焼き戻しが行われたため、加圧を解放しても割れの発生を回避することができる。次いで、制御装置50は、コイル支持具(不図示)を介して加熱コイル23を上昇させる(図3(E)参照)。その後、開口31を介して、製造された接合部材Cを筐体30から取り出す。
【0038】
以上で説明したように、本実施の形態に係る接合部材製造装置1及び接合部材の製造方法によれば、第1接合面Dfと第2接合面Efとが接触した部分を溶接して焼きが入った場合に、焼きが入った部分を高周波誘導加熱によって焼き戻すので、溶接完了部Fを製品としての接合部材Cに求められる硬さまで下げつつ割れの発生を抑制することができる。
【0039】
次に図5を参照して、本発明の実施の形態の変形例に係る接合部材製造装置1Aを説明する。図5は、接合部材製造装置1Aの加熱コイルまわりの断面図である。接合部材製造装置1Aは、前述の接合部材製造装置1(図1参照)の構成に加えて、加熱コイル23Aを備えている。つまり、接合部材製造装置1Aは、誘導加熱コイルを2つ備えている。加熱コイル23Aは、前述の接合部材の製造方法における高周波誘導加熱による焼き戻しの際に対向辺Sfの近傍となる位置に配置されている。換言すれば、加熱コイル23Aは、第2部材Eの第2接合面Efが第1部材Dの第1接合面Dfに接触し、この第1部材Dが第1電極11に載置された状態のときに、第2部材Eの端面よりも下方で第1部材Dの中空部分Dhに配置されている。加熱コイル23Aは、信号ケーブルでコイル電源25(図1参照)と接続されている。制御装置50(図1参照)は、加熱コイル23とは別個に、加熱コイル23Aへの電流の供給の有無及び加熱コイル23Aに流す電流の周波数、大きさ、時間を制御することができるように構成されている。接合部材製造装置1Aの上記以外の構成は、接合部材製造装置1(図1参照)と同様である。
【0040】
典型的には上述の接合部材製造装置1Aを用いて行われる、本発明の実施の形態の変形例に係る接合部材の製造方法では、前述の接合部材の製造方法(図3参照)における高周波誘導加熱を行う際(図3(D)参照)に、1つの加熱コイル23のみではなく、2つの加熱コイル23、23Aで、同時に高周波誘導加熱を行う。このとき、加熱コイル23は主として一辺側領域Jnの加熱を行い、加熱コイル23Aは主として対向辺側領域Jfの加熱を行う。つまり、制御装置50は、一辺側領域Jnを焼き戻しに適した温度に加熱するように加熱コイル23に流す電流の周波数及び/又は大きさ及び/又は時間を制御すると共に、対向辺側領域Jfを焼き戻しに適した温度に加熱するように加熱コイル23Aに流す電流の周波数及び/又は大きさ及び/又は時間を制御する。このようにして、本変形例では、一辺側領域Jn及び対向辺側領域Jfの焼き戻しを同時に行うことで、高周波誘導加熱による焼き戻し(電磁加熱工程)の所要時間を短縮することができる。本変形例に係る接合部材の製造方法の、上述した高周波誘導加熱による焼き戻し以外の工程は、図3に示した製造方法と同様である。なお、本変形例に係る接合部材の製造方法も、接合部材製造装置1Aを作動させること以外の手法で行うことも可能である。
【0041】
以上の説明では、第1部材D及び第2部材E(以下「ワーク」という場合もある)の溶接を行う際に用いられる第1電極11及び第2電極12並びに溶接電源15(以下「電極等」という場合もある)と、ワークの高周波誘導加熱を行う際に用いられる加熱コイル23(及び加熱コイル23A)並びにコイル電源25(以下「加熱コイル等」という場合もある)とが、1つの筐体30に収容されているとしたが、両者を1つの筐体30に収容せずに、ワークの溶接と高周波誘導加熱とを別の場所で行うこととしてもよい。この場合、ワークを電極等の場所から加熱コイル等の場所に搬送するために溶接完了部Fに対する加圧を解放する前に、溶接電源15を起動して溶接完了部Fに再度電流を流して予備的な焼き戻しを行うとよい。予備的な焼き戻しを行うことにより、溶接完了部Fに対する加圧を解放しても、焼き入れされた溶接完了部Fに割れが生じてしまうことを抑制することができる。つまり、溶接完了部Fに再度電流を流して予備的な焼き戻しを行うことは、割れ抑制措置工程に相当する。ワークの溶接と高周波誘導加熱とを別の場所で行うことができることとすると、接合部材の製造方法における工程の自由度を上げることができる。
【0042】
以上の説明では、第2電極12が第1電極11の上方に配置されているとしたが、第1電極11と第2電極12との上下を入れ替えて、第1電極11が第2電極12の上方に配置されることとしてもよい。第1電極11が第2電極12の上方に配置されている場合、第1接触面11tが下方を向き、第2接触面12tが上方を向くこととなり、接合部材Cを製造するに際し、第2接触面12tの上方に配置された加熱コイル23の中に第2部材Eを通したうえで第2部材Eを第2接触面12t上に載置し、その第2部材Eの上に第1部材Dを載置して、第1電極11を下降させて抵抗溶接を行い、次いで、加熱コイル23によって誘導加熱を行うこととなる。このとき、加熱コイル23は、第2部材Eに第1部材Dが載置された後に一辺Snの近傍に移動させることとしてもよく、第1部材Dが載置された第2部材Eが第2接触面12tに載置されたときに一辺Snの近傍となる位置にあらかじめ固定されていてもよい。また、第1電極11及び第2電極12の配置は、上下に離れるものに限らず、水平方向に離れるものであってもよく、この場合は、第1電極11及び/又は第2電極12並びに加熱コイル23を、水平方向へ移動可能に構成することとなる。
【0043】
以上の説明では、溶接電源15が、コンデンサに充電したエネルギーを瞬時に放電することができるように構成されていることとしたが、コンデンサ式以外の溶接機で用いられる電源構成であってもよい。
【0044】
以上の説明では、第1部材Dがリング状に形成され、第2部材が中実の円柱状に形成されているとしたが、第2部材Eは中実のみならず中空であってもよく、あるいは、第1部材D及び/又は第2部材Eの形状はこれら以外の形状であってもよい。また、第1部材Dが浸炭鋼であるとしたが、浸炭処理されていなくても溶接によって焼きが入ることがある高炭素鋼で構成されていてもよい。また、第1部材Dは、溶接によって焼きが入るとしたが、溶接する前から焼きが入っている材料を用いて接合部材Cを製造してもよい。また、第1部材Dと第2部材Eとが異種金属であるとしたが、同種の金属であってもよい。また、第2部材Eが鋳鉄であるとしたが、第2部材Eも焼きが入り得る材料で形成されていてもよい。
【0045】
以上の説明では、第1接合面Dfと第2接合面Efとの溶接が、抵抗溶接であるとしたが、レーザ溶接や電子ビーム溶接等の、抵抗溶接以外の溶接であってもよい。レーザ溶接や電子ビーム溶接等の抵抗溶接以外の溶接であっても、第1部材Dに焼きが入り得る。
【0046】
以上の説明では、溶接完了部Fの焼き戻しを行う際の電磁加熱が高周波誘導加熱であるとしたが、高周波以外の電磁波を用いた誘導加熱等であってもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 接合部材製造装置
11 第1電極
12 第2電極
23 加熱コイル
C 接合部材
D 第1部材
Df 第1接合面
E 第2部材
Ef 第2接合面
Jf 対向辺側領域
Jn 一辺側領域
Sf 対向辺
Sn 一辺
【要約】
【課題】部材を溶接した際に接合部分に焼きが入っても割れが発生することを抑制する接合部材の製造方法及び接合部材製造装置を提供する。
【解決手段】接合部材の製造方法は、第1の部材Dの接合対象部分Dfと第2の部材Eの接合対象部分Efとを接触させて第1の部材D及び第2の部材Eを配置し、第1の部材D及び第2の部材Eの接合対象部分を加熱して溶接し、溶接後の第1の部材Dに対して割れの発生を抑制する措置を施し、第1の部材D及び第2の部材Eの溶接部分を電磁加熱によって焼き戻す。接合部材製造装置は、第1の部材Dに接触させる第1の電極11と、第2の部材Eに接触させる第2の電極12と、第1の部材Dの接合対象部分Dfと第2の部材Eの接合対象部分Efとが接触して接合された部分に誘導加熱を行う誘導加熱コイル23とを備え、誘導加熱コイル23は、誘導加熱が行われる際に、第1の電極11と第2の電極12との間に配置される。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
図5