(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、図面について、本発明の一実施の形態を詳述する。
【0020】
<1.第1の実施の形態>
[1−1.薬剤投与装置の構成]
図1に示すように、薬液投与装置1は、使用者の皮膚に貼り付けることにより保持されて使用される携帯型の装置であり、上側が開口し内部に空間が設けられた下筐体部2と該下筐体部2の開口に嵌合する上筐体部3により扁平な略直方体形状に形成される。
【0021】
薬液投与装置1の大きさは、使用者の皮膚に貼り付けることができる程度にまで小型化されていればよいが、例えば横32mm、縦44mm、高さ11mmの略直方体形状が挙げられる。
【0022】
下筐体部2には、両面テープ等でなる貼付部4が底面2Aに設けられる。薬液投与装置1は、貼付部4が使用者の皮膚に貼り付けられることにより該使用者に保持される。
【0023】
薬液投与装置1は、下筐体部2の底面2Aに、内部に充填された薬液を使用者の体内へ投与するために該使用者の皮膚を穿刺する針やカニューレ等でなる穿刺部5と、内部に設けられた薬液貯蔵部7(
図2)に薬液を注入するための注入路である注入部6とが設けられる。
【0024】
薬液投与装置1は、
図2に示すように、下筐体部2と上筐体部3とで形成される空間に注入部6、薬液貯蔵部7、基板部8及び送出部9が配される。
【0025】
薬液貯蔵部7は、柔軟性を有する材料より形成された容器である。薬液貯蔵部7を構成する材質としては、例えば、ポリオレフィンを含むものであるのが好ましい。
軟質バッグの形成材料として、特に好ましいものとして、ポリエチレンまたはポリプロピレンに、スチレン−ブタジエン共重合体やスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体等のスチレン系熱可塑性エラストマーあるいはエチレン−プロピレン共重合体やエチレン−ブテン共重合体、プロピレン−αオレフィン共重合体等のオレフィン系熱可塑性エラストマーをブレンドし柔軟化した軟質樹脂を挙げることができる。薬液貯蔵部7の容器の容量は、特に限定されるものではないが、小型化などを考慮するとたとえば2mLの容積のものが挙げられる。
【0026】
薬液貯蔵部7には、薬液が注入部6を介して外部から充填される。薬
液貯蔵部7に貯蔵される薬液としては、例えばインスリンや各種ホルモン、モルヒネなどの鎮痛薬、あるいは抗炎症薬剤などが挙げられる。基板部8は、電源電力を供給する電源部44(
図5)や送出部9を制御する回路などが配される。
【0027】
送出部9は、
図2、
図3及び
図4に示すように、ピストン11、CPU41(
図5)の制御に応じて該ピストン11を往復駆動させる駆動部12、薬液貯蔵部7から穿刺部5まで薬液が流れる流路を形成する流路部13、一端が流路部13に接続され他端から挿入されるピストン11が内部で摺動されるシリンダ14、薬液を一方向のみに通過させる一方向弁15を含む構成とされる。
【0028】
ピストン11は、駆動部12により駆動されてシリンダ14内で所定のストロークで摺動する。ピストン11の材質としては、例えば、ステンレス鋼、銅合金、アルミ合金、チタン材、ポリプロピレンやポリカーカーボネートなどの熱可塑性エラストマー等が挙げられ、その外径は例えば、0.8mm程度である。また、ピストン11はシリンダ14内を摺動することにより一定量の薬液を送液するが、そのストロークは例えば2mm程度である。
【0029】
流路部13は、流入路を形成する吸込管13Aと、温度検出部16内部を通過する検出管13Bと、流出路を形成する送出管13Cと、流路部13をシリンダ14へと接続するための接続管13Dと、該検出管13Bと該接続管13Dとを接続するための接続管13Eとにより構成される。
【0030】
吸込管13Aは、一端が薬
液貯蔵部7と接続され、他端が接続管13Dと接続される。検出管13Bは、一端が送出管13Cと接続され、他端が接続管13Eと接続される。送出管13Cは、一端が穿刺部5と接続され、他端が検出管13Bと接続される。接続管13Dは、端部がそれぞれ吸込管13A及び接続管13Eと接続され、中央部分にシリンダ14が接続される。接続管13Eは端部がそれぞれ接続管13D及び検出管13Bと接続される。
【0031】
検出管13Bはピストン11が一往復する際に薬液MSが充分に移動するように内部の断面積が構成されており、例えば内径0.4mmのパイプ(好ましくはステンレス金属製のパイプ)で構成されている。吸込管13A、送出管13C及び接続管13Eは内径が1mm以下のパイプ(好ましくはステンレス金属)で構成されている。検出管13B、送出管13C及び接続管13Eは一体として構成してもよいが、このとき断面積は検出管13Bの断面積に合わせるものとする。
【0032】
吸込管13Aと接続管13Dとの間には、弾性変形可能な例えばゴム製の所謂アンブレラ弁でなり、薬液を吸込管13Aから接続管13Dへ一方向のみに通過させる一方向弁15Aが設けられる。接続管13Dと接続管13Eとの間には、薬液を接続管13Dから接続管13Eへ一方向のみに通過させる一方向弁15Bが設けられる。
【0033】
シリンダ14は、ピストン11の外径より大きな内径で、一端が接続管13Dと接続され、他端側からピストン11が挿入され内部で摺動する。シリンダ14の内径とピストン11の外径との差は、例えば0.01mm程度である。
【0034】
送出部9は、薬液貯蔵部7から外部に薬液を送出する際、
図3に示すように、ピストン11を最も押し込まれる位置(以下、最押込位置とも呼ぶ)から最も引き戻される位置(以下、最引戻位置とも呼ぶ)までシリンダ14内で摺動させ(以下、この摺動方向を引戻方向とも呼ぶ)、薬液貯蔵部7に貯蔵された薬液を吸込管13A及び接続管13Dを介してシリンダ14内に吸い出す。
【0035】
送出部9は、ピストン11が最引戻位置に移動されると、
図4に示すように該ピストン11を最引戻位置から最押込位置までシリンダ14内を摺動させ(以下、この摺動方向を押込方向とも呼ぶ)、シリンダ14の内部に吸い出された薬液を接続管13D、接続管13E、検出管13B、送出管13C及び穿刺部5を介して使用者の体内に送出する。
【0036】
送出部9は、ピストン11を一往復させる動作で約1μLの薬液を使用者の体内に投与でき、この動作を設定された周期及び間隔で繰り返し行うことにより、所望の投与速度及び投与量で薬液を使用者に投与できる。
【0037】
実際上薬液投与装置1は、24時間を通して微量ずつ薬液を使用者に間欠的(例えば6分に1回)に投与するベーサルモードと、食事の前や高血糖時等にまとまった量の薬液を使用者に追加投与するボーラスモードとの2種類の投与モードで動作する。
【0038】
[1−2.温度検出部の構成]
温度検出部16は、流路部13においてピストン11よりも薬液が流れる方向の下流側である検出管13Bの外部に取り付けられた、サーミスタでなる加熱温度検出子17と、該加熱温度検出子17よりも下流側において検出管13Bの外部に取り付けられた、サーミスタでなる温度検出子18とにより構成される。
【0039】
加熱温度検出子17と温度検出子18とは、互いに所定間隔を空けて検出管13Bに配される。加熱温度検出子17は、所定時間間隔でサーミスタに電流を流すことでジュール熱を発生させ、検出管13B内の薬液MSを加熱する加熱動作を繰り返し、熱マーカMKを形成する。それと同時に加熱温度検出子17は、温度によって抵抗値が変化するサーミスタの抵抗値を測定して、該加熱温度検出子17が設けられた位置における検出管13Bの温度を検出する。
【0040】
温度検出子18は、温度によって抵抗値が変化するサーミスタの抵抗値を測定し、該温度検出子18が設けられた位置における検出管13Bの温度を検出する。
【0041】
ここで、送出部9においては、加熱温度検出子17と温度検出子18との距離をセンサ間距離Lと、温度検出部16における検出管13Bの内部の断面積を流路断面積Aと、ピストン11が一往復する際に薬液MSを押し出す量をボリュームストローク
量Vとしたとき、(1)式が成り立つよう構成されている。
【0042】
[数1]
3×L×A≧V≧L×A……(1)
【0043】
これにより薬液投与装置1は、加熱温度検出子17により薬液MSを加熱し該加熱温度検出子17近傍の検出管13B内部に形成した熱マーカMKを、ピストン11の1回の押込動作により温度検出子18まで届かせることができる。
【0044】
因みにボリュームストローク
量Vに対しセンサ間距離Lが小さいと、温度検出部16は、加熱温度検出子17と温度検出子18との間の温度差が検出し難くなってしまう。
【0045】
実際上薬液投与装置1においては、センサ間距離Lを4mmと、流路断面積Aを0.125mm
2と、ボリュームストローク
量Vを1μLとしている。
【0046】
[1−3.薬液投与装置の電気的構成]
薬液投与装置1は、
図5に示すように、CPU(Central Processing Unit;判断部)41、ROM(Read Only Memory)42、RAM(Random Access Memory)43、電源部44、インターフェース部(I/F部)45、報知部46、駆動部12、加熱温度検出子17及び温度検出子18がバス47を介して接続される。
【0047】
CPU(判断部)41、ROM42、RAM43、電源部44及び報知部46は、基板部8上(図示せず)に配される。電源部44は電池が適応される。報知部46は、音声で報知するためのスピーカや、光で報知するためのLEDなどが適応される。
【0048】
インターフェース部45は、上筐体部3又は下筐体部2に配され使用者の入力命令を受け付けるボタン(図示せず)等が適応される。またインターフェース部45の代わりに無線による通信を行うためのアンテナ及び通信回路からなる通信部を搭載し、本ポンプとは別体となる操作部(図示せず)から無線通信による入力命令を受け付ける方式でもよい。
【0049】
CPU41は、ROM42に格納された基本プログラムをRAM43に読み出して実行することより全体を統括制御すると共に、ROM42に記憶された各種アプリケーションプログラムをRAM43に読み出して実行することにより各動作工程の各種処理・判断(判定)を実行する。使用者は薬液投与装置1を操作し、制御部であるCPU41に指令を出すことで、CPU41は基本プログラムを読み出し、駆動部12を制御することで使用者へ薬剤が投与される。
【0050】
CPU41は、加熱温度検出子17を制御することにより該加熱温度検出子17を構成するサーミスタを加熱する。このとき加熱に用いる電力は例えば1mWから5mW程度である。
【0051】
加熱温度検出子17及び温度検出子18は、サーミスタの抵抗値を測定してそれぞれ加熱温度検出子17及び温度検出子18が設けられた位置における検出管13Bの温度を検出し、それぞれ上流温度検出信号SU及び下流温度検出信号SLとしてCPU41に送出する。
【0052】
CPU41は、加熱温度検出子17から上流温度検出信号SUを受信することにより、加熱温度検出子17が検出した温度を取得する。
【0053】
またCPU41は、温度検出子18から下流温度検出信号SLを受信することで、温度検出子18が検出した温度を取得する。
【0054】
実際上CPU41は、駆動部12を制御し、ベーサルモードにおいては6分に1度、ピストン11を最引戻位置から最押込位置まで0.5秒かけて移動させ、押込動作を行わせる。
【0055】
CPU41は、ピストン11の押込動作の約10秒前から約5秒後まで、加熱温度検出子17及び温度検出子18からそれぞれ上流温度検出信号SU及び下流温度検出信号SLを取得する。
【0056】
本実施の形態においてCPU41は、加熱温度検出子17及び温度検出子18からそれぞれ上流温度検出信号SU及び下流温度検出信号SLの取得を開始する(すなわち温度測定を開始する)と同時に、該加熱温度検出子17を加熱させ、該上流温度検出信号SU及び下流温度検出信号SLの取得を終了する(すなわち温度測定を終了する)と同時に、該加熱温度検出子17の加熱を終了させる。
【0057】
[1−4.温度検出パターン]
流路においては、ピストン11が押込動作を行った際、正常に薬液が流動する状態や、気泡が混入した状態や、閉塞した状態等の様々な状態が起こり得る。以下では、そのような様々な状態における、上流温度検出信号SU及び下流温度検出信号SLの特性曲線を示す温度検出パターンについて、流路の状態と共に説明する。
【0058】
[1−4−1.薬液流動状態の温度検出パターン]
図6に示す温度検出パターンPT1は、流路に気泡が混入せず、且つ閉塞が発生していない正常な状態である薬液流動状態における温度検出パターンである。
【0059】
温度検出パターンPT1においては、横軸が温度測定開始からの秒数を、縦軸が温度(度)を示している。また、測定開始から10秒後の時点においてピストン11が押込動作を行っており、以降の本実施の形態による温度検出パターンについても同様である。
【0060】
CPU41は、加熱温度検出子17を加熱させることにより上流温度検出信号SUが上昇するが、ある程度の温度上昇が行われると加熱温度検出子17および加熱温度検出子17によって暖められた箇所からの放熱と加熱温度検出子17による加熱とのバランスにより加熱を続けても温度が上昇せず、該上流温度検出信号SUが所定の温度を保つ平衡状態になる(温度安定状態)。
【0061】
また、CPU41は過度の温度上昇による薬液MSへの影響を防ぐため、所定の温度に達した場合、上流温度検出信号SUが該所定の温度を保つ(温度安定状態)よう加熱温度検出子17を制御することも可能である。
【0062】
温度検出パターンPT1においては、温度測定開始と同時に加熱温度検出子17が加熱動作を開始することにより、温度安定状態に向かって加熱温度検出子17近傍の検出管13B内部の薬液MSが徐々に加熱されていく。これにより上流温度検出信号SUの温度は徐々に上昇し、
図6(B)の状態Aに示すように加熱温度検出子17が設けられた位置の薬液MSにおいて熱マーカMKが生成される。
【0063】
ピストン11の押込動作直前(9秒時点)においても上流温度検出信号SUの温度は上昇し続けており、一定となっていない(以下この状態を温度安定前状態とも呼ぶ)。
【0064】
一方温度検出子18近傍には熱マーカMKは存在しないため、下流温度検出信号SLの温度は、ピストン11の押込動作直前においても測定開始時とほぼ同様となっている。
【0065】
10秒時点においてピストン11により押込動作が行われると、
図6(B)の状態Bのように、薬液MSの移動に伴って熱マーカMKが下流側に移動する。
【0066】
このとき、検出管13Bにおける加熱温度検出子17近傍においては、加熱されていない薬液MSが上流側から流れこむため、温度検出パターンPT1に示すように上流温度検出信号SUの温度は26.86度から26.79度まで約0.08度急低下する。
【0067】
一方検出管13Bにおける温度検出子18近傍においては、熱マーカMKが通過するため、温度検出パターンPT1に示すように下流温度検出信号SLの温度は26.6度から26.7度まで約0.1度急上昇する。
【0068】
このときも加熱温度検出子17により薬液MSは加熱され続けているため、温度検出パターンPT1に示すように、その後上流温度検出信号SUの温度は温度安定状態に向かって再び上昇していく(状態C)。
【0069】
一方検出管13Bにおける温度検出子18近傍においては、薬液MS中の熱マーカMKが熱拡散するため、下流温度検出信号SLの温度は平常時の温度に向かって徐々に低下していく。
【0070】
なお、温度測定が完了すると(15秒時点)、加熱温度検出子17は加熱動作を終了し、それ以上薬液MSを加熱しないようにする。
【0071】
このように、温度安定前状態における薬液流動状態においては、徐々に上昇していた上流温度検出信号SUがピストン11の押込動作の直後に急低下した後に再び徐々に上昇する一方、下流温度検出信号SLが急上昇して徐々に低下する温度変化を示す。
【0072】
すなわち、ピストン11の押込動作の直後に、上流温度検出信号SUにおいては温度低下部分が現れ、下流温度検出信号SLにおいては温度上昇部分が現れることとなる。
【0073】
[1−4−2.気泡変化状態の温度検出パターン]
図7に示す温度検出パターンPT2は、ピストン11の押込動作の際、加熱温度検出子17が設けられた位置における検出管13B内が薬液MSで満たされた状態から気泡ARが存在する可能性がある状態に変化した温度検出パターンである。
【0074】
上流温度検出信号SUの温度は温度測定開始時点から徐々に上昇していく。これにより、
図7(B)の状態Aに示すように、温度検出パターンPT2におけるピストン11の押込動作直前(9秒時点)の流路部13において加熱温度検出子17近傍の薬液MSは加熱されて熱マーカMKが生成される。
【0075】
このとき、加熱温度検出子17よりも上流部分には気泡ARが混入している。また、熱マーカMKよりも上流側には、加熱されていない薬液MSが存在している状態となっている。
【0076】
10秒時点においてピストン11により押込動作が行われると、検出管13Bにおける加熱温度検出子17近傍を加熱されていない薬液MSが通過するため、一旦上流温度検出信号SUの温度は26.9度から26.88度までやや低下する(11秒時点)。その後、
図7(B)の状態Bのように、加熱温度検出子17が設けられた位置の検出管13B内部は、液体でなる薬液MSではなく空気でなる気泡ARとなる。
【0077】
気泡ARは薬液MSよりも熱伝導率が低いため、薬液MSと比べて、加熱温度検出子17から発生した熱は気泡ARには伝達し難い。
【0078】
このため上流温度検出信号SUの温度は、該加熱温度検出子17が発生させ気泡ARに吸収されない発熱により急上昇する。その後上流温度検出信号SUは、ピストン11の押込動作前とほぼ同様の温度変化率で温度安定状態に向かって再び上昇していく。
【0079】
一方下流温度検出信号SLの温度は、熱マーカMKが温度検出子18近傍の検出管13B内部を通過するため、薬液流動状態と同様に急上昇した後、熱拡散により平常時の温度に向かって徐々に低下していく。
【0080】
このように、気泡変化状態の場合、薬液MSに対する気泡ARの混入のタイミングによっては、熱マーカMKの上流側に温められていない薬液MSが存在する場合がある。
【0081】
このような場合、徐々に上昇していた上流温度検出信号SUがピストン11の押込動作の直後にやや低下するものの、その後は急上昇し徐々に上昇していく一方、下流温度検出信号SLは薬液流動状態と同様に急上昇して徐々に低下する温度変化を示す。
【0082】
一方で、気泡が存在する可能性がある状態に変化した場合、薬液MSに対する気泡ARの混入のタイミングによっては、熱マーカMKの上流側に温められていない薬液MSが存在しない場合がある。
【0083】
このような場合、上流温度検出信号SUは温度検出パターンPT2(
図7)とは多少異なり、ピストン11の押込動作の直後にやや急低下することなく急上昇する一方、下流温度検出信号SLは薬液流動状態と同様に急上昇して徐々に低下する温度変化を示す。
【0084】
すなわち、ピストン11の押込動作の直後に、上流温度検出信号SUにおいては温度急上昇部分が現れ、下流温度検出信号SLにおいては温度上昇部分が現れることとなる。
【0085】
[1−4−3.気泡が存在する可能性がある状態に変化した場合の温度検出パターン]
図8に示す温度検出パターンPT3は、気泡が存在する可能性がある状態に変化した状態(温度検出パターンPT2(
図7))の後に、ピストン11がさらに押込動作を行うことにより上流側の気泡ARが下流側へ移動し、ピストン11の押込動作前時点で加熱温度検出子17が設けられた位置の検出管13B内部が気泡ARとなっている状態である気泡が存在する可能性がある状態に変化した状態における温度検出パターンである。
【0086】
温度測定開始時点において、加熱温度検出子17近傍の検出管13B内部は気泡ARとなっているため、該加熱温度検出子17の発熱は該気泡ARには伝達せず、該気泡ARの温度はほとんど上昇しないが、上流温度検出信号SUの温度は、該加熱温度検出子17が発生させ気泡ARに吸収されない熱により上昇していく(
図8(B)の状態A)。
【0087】
10秒時点においてピストン11により押込動作が行われると(
図8(B)状態B)、加熱温度検出子17近傍の検出管13B内部の気泡ARは温められていないため、上流温度検出信号SUは、急激な温度変化をしないまま、ピストン11の押込動作前とほぼ同様の温度変化率で温度安定状態に向かって上昇していく。
【0088】
一方下流温度検出信号SLは、温められていない気泡ARが上流側から移動してくるだけであるため、ピストン11の押込動作前からほぼ温度変化をせずに一定の温度となっている。
【0089】
このように、ピストン11の押込動作前において既に加熱温度検出子17が設けられた位置の検出管13B内部に気泡ARが位置している気泡状態の場合、ピストン11の押込動作を行っても、徐々に上昇していた上流温度検出信号SUは大きな温度変化をすることなくそのまま上昇する一方、下流温度検出信号SLもまた大きな温度変化をしない。
【0090】
[1−4−4.閉塞状態の温度検出パターン]
図9に示す温度検出パターンPT4は、流路が閉塞した状態である閉塞状態における温度検出パターンである。
【0091】
温度検出パターンPT4においては、温度測定開始と同時に加熱温度検出子17が加熱動作を開始することにより、温度安定状態に向かって加熱温度検出子17近傍の検出管13B内部の薬液MSが徐々に加熱されていく。これにより上流温度検出信号SUの温度は徐々に上昇し、
図9(B)の状態Aに示すように加熱温度検出子17近傍における薬液MSにおいて熱マーカMKが生成される。
【0092】
一方温度検出子18近傍には熱マーカMKは存在しないため、下流温度検出信号SLの温度は、ピストン11の押込動作直前においても測定開始時とほぼ同様となっている。
【0093】
10秒時点においてピストン11により押込動作が行われると、流路は閉塞しており、流路部13内を薬液MSが移動しないため、上流温度検出信号SUは、急激な温度変化をしないまま、ピストン11の押込動作前とほぼ同様の温度変化率で温度安定状態に向かって上昇していく。
【0094】
一方下流温度検出信号SLは、熱マーカMKが上流側から移動してこないため、ほぼ温度変化をせずに一定の温度となっている。
【0095】
このように、流路が閉塞している閉塞状態の場合、上述した気泡状態と同様に、ピストン11の押込動作を行っても、徐々に上昇していた上流温度検出信号SUは大きな温度変化をすることなくそのまま上昇する一方、下流温度検出信号SLもまた大きな温度変化をしない。
【0096】
[1−5.閉塞検出処理]
上述したように薬液投与装置1では、穿刺部5が使用者の体動などで変形したり、薬液が変性したりするなどして穿刺部5や流路部13等の流路が閉塞し、薬液が使用者に正確に投与できなくなる可能性がある。
【0097】
そこでCPU41は、上流温度検出信号SU及び下流温度検出信号SLの温度変化を基に穿刺部5や流路部13が閉塞しているか否かを検出する閉塞検出処理を実行し、流路の閉塞を検出する。
【0098】
CPU41は、ROM42に格納された閉塞検出アルゴリズムが搭載された送液プログラムをRAM43に展開し、閉塞検出処理を実行する。CPU41は閉塞検出処理を実行する際、
図10に示すように、温度測定部51、駆動制御部52、流路状態判定部53、流路状態記憶部54及び報知制御部55として機能する。
【0099】
薬液投与装置1では、注入部6を介して外部から薬液貯蔵部7に薬液が充填された後、貼付部4が使用者の皮膚に貼り付けられると共に穿刺部5が使用者の皮膚に穿刺され、インターフェース部45を介して投与量及び投与速度等が入力される。
【0100】
CPU41は入力された投与量および投与速度に基づき、ピストン11の押込動作を行う時間を決定する。さらに温度測定部51によって加熱温度検出子17の加熱を開始する時間を決定する。加熱温度検出子17の加熱を開始するタイミングは具体的にはピストン11の押込動作を行う時間よりも事前加熱時間T1(例えば10秒)だけ前である。
【0101】
温度測定部51は、加熱温度検出子17及び温度検出子18からそれぞれ上流温度検出信号SU及び下流温度検出信号SLの取得を開始すると共に、加熱温度検出子17の加熱を開始させる。
【0102】
温度測定部51が加熱温度検出子17の加熱を開始させてから事前加熱時間T1(例えば10秒)が経過すると、駆動制御部52は駆動部12を制御し、駆動部12を介してピストン11の押込動作を開始させる。
【0103】
なお押込動作開始の際、ピストン11は最引戻位置にあるが、仮にピストン11が最引戻位置にない場合には、駆動制御部52の制御に基づいてピストン11を最引戻位置まで移動させてから押込動作を開始させるようにしてもよい。
【0104】
流路状態判定部53は、ピストン11の押込動作の際、閉塞状態が発生しておらず、且つ流路に気泡の混入がない(薬液流動状態(
図6))か否かを判定する。
【0105】
具体的には流路状態判定部53は、温度測定部51が取得した上流温度検出信号SUにおいて、ピストン11が押込動作を行った時点から1秒以内に、閾値である0.05度を超える温度低下部分が存在するか否かを検出する。
【0106】
さらに流路状態判定部53は、温度測定部51が取得した下流温度検出信号SLにおいて、ピストン11が押込動作を行った時点から1秒以内に、閾値である0.05度を超える温度上昇部分が存在するか否かを検出する。
【0107】
流路状態判定部53は、上流温度検出信号SUにおいて閾値を超える温度低下部分が存在し、且つ下流温度検出信号SLにおいて閾値を超える温度上昇部分が存在する場合、穿刺部5及び流路部13には閉塞は発生しておらず、正常な薬液流動状態(
図6)であると判定する。
【0108】
このように流路状態判定部53は、上流温度検出信号SUの温度が急上昇すると共に下流温度検出信号SLが急低下するといった、互いに逆方向への温度変化を検出することにより、環境温度変化等の外乱があっても、正確に薬液流動状態を検知することができる。
【0109】
流路状態判定部53が現在は薬液流動状態であると判定した場合、流路状態記憶部54は、今回のピストン11の押込動作においては流路状態が薬液流動状態であることを示す流路状態情報を記憶する。
【0110】
一方流路状態判定部53は、上流温度検出信号SUにおける閾値を超える温度低下部分か、又は下流温度検出信号SLにおける閾値を超える温度上昇部分のいずれか一方でも存在しなかった場合、流路に閉塞が発生したか、又は気泡が混入した可能性があると判定する。
【0111】
流路に閉塞が発生したか、又は気泡が混入した可能性があると判定した場合、流路状態判定部53は、流路部13において加熱温度検出子17よりも上流側に位置する気泡が、ピストン11の押込動作で該加熱温度検出子17が設けられた位置に移動することにより、気泡変化状態(
図7)となったか否かを判定する。
【0112】
具体的には、温度検出パターンPT2(
図7)に示すように、上流温度検出信号SUにおいて、ピストン押込動作時点の温度を温度Tsと、該ピストン押込動作時点よりも所定a秒(例えば2秒)前の温度を温度Tbとすると、ピストン押込動作時点から所定t秒(例えば2秒)後の温度である予想温度Texpは、(2)式により予想される。
【0113】
[数2]
Texp=Ts+t×(Ts−Tb)/a……(2)
【0114】
すなわち、予想温度Texpは、ピストン押込動作時点以前の所定a秒間の温度変化の傾き(温度変化率)と、ピストン押込動作時点後の所定秒数(t秒)と、ピストン押込動作時の温度Tsとに基づき求められる。
【0115】
流路状態判定部53は、ピストン押込動作から所定t秒後の上流温度検出信号SUの測定温度Tと、予想温度Texpとを比較する。測定温度Tから予想温度Texpを減算した値が所定閾値Tth(例えば0.05度)以上である場合、流路状態判定部53は、現在温度測定を行っている際に行われたピストン押込動作により、加熱温度検出子17が設けられた位置の検出管13Bの中身が薬液から気泡へと変化した(気泡が存在する可能性がある状態に変化した状態)と判定する。
【0116】
流路状態判定部53が現在は気泡が存在する可能性がある状態に変化した状態であると判定した場合、流路状態記憶部54は、今回のピストン11の押込動作においては流路状態が気泡が存在する可能性がある状態に変化した状態であることを示す流路状態情報を記憶する。
【0117】
ところで、温度検出パターンPT2のように、薬液の移動に対する気泡混入のタイミングによっては、ピストン押込動作後に、上流温度検出信号SUの温度が一旦やや低下する場合がある。
【0118】
これに対し流路状態判定部53は、ピストン押込動作から2秒後の上流温度検出信号SUの測定温度Tと予想温度Texpとを比較するため、該上流温度検出信号SUの一時的な温度の落ち込みの影響を受けることなく、気泡が存在する可能性がある状態に変化した状態を正確に検出することができる。
【0119】
一方流路状態判定部53が、現在は気泡が存在する可能性がある状態に変化した状態であると判定しない場合、このことは今回の温度測定における温度検出パターンが、気泡が存在する場合の温度検出パターンPT3(
図8)か、閉塞状態の温度検出パターンPT4(
図9)かのいずれかであることを意味する。
【0120】
上述したように、気泡が存在する場合の状態の温度検出パターンPT3と閉塞状態の温度検出パターンPT4とは、特性曲線が類似している。このため流路状態判定部53は、繰り返し行われる温度測定のうち、今回の1回の温度測定時の温度検出パターンのみに基づいただけでは、気泡が存在する場合の状態であるか閉塞状態であるかを判定することが困難である。
【0121】
そこで流路状態判定部53は、流路状態記憶部54に記憶された流路状態情報を参照することにより、前回温度測定時の流路状態を確認する。
【0122】
ところで、加熱温度検出子17が設けられた位置の検出管13B内に気泡ARが位置する場合、該加熱温度検出子17が発熱しても、上述したように熱が気泡にほとんど伝達せず、検出管13Bの外部が発熱する。
【0123】
この状態でピストン押込動作がされ、流路部13内の気泡が下流側に移動したとしても、該気泡が温められているわけではないため、上流温度検出信号SU及び下流温度検出信号SLには、大きな温度変化は発生しない。
【0124】
このため前回の温度測定時が気泡が存在する可能性がある状態であった場合、このことは、今回の温度測定時において上流温度検出信号SUに温度変化部分が存在しない理由が、前回の温度測定時において検出した気泡が原因であるため、現在は気泡が存在する状態であり、流路が閉塞しているわけではないことを意味する。
【0125】
流路状態判定部53が現在は気泡が存在する状態であると判定した場合、流路状態記憶部54は、今回のピストン11の押込動作においては流路状態が気泡が存在する状態であることを示す流路状態情報を記憶する。
【0126】
このように、今回の温度測定時において薬液流動状態又は気泡が存在する可能性がある状態と判定された場合、温度測定部51は、インターフェース部45を介してボーラスモードが設定されているか否かを判定する。
【0127】
また、今回の温度測定時において薬液流動状態又は気泡が存在する可能性がある状態のいずれでもないと判定され、前回の温度測定時が気泡が存在する可能性がある状態であったと判定された場合も同様に、温度測定部51は、インターフェース部45を介してボーラスモードが設定されているか否かを判定する。
【0128】
本実施の形態においてはボーラスモードにおけるピストン押込動作の時間間隔は約3秒から5秒と設定されている。このため、今回のピストン押込動作の後、事前加熱時間T1の10秒間が経過する時点より前の時点において、次回のピストン押込動作が行われる。
【0129】
このため、ボーラスモードが設定されている場合、温度測定部51は、次回のピストン押込動作における温度測定に備えて、加熱温度検出子17の加熱を継続する。
【0130】
一方ピストン押込動作がされた後の事前加熱時間T1以内に次回のピストン押込動作が予定されていない場合、温度測定部51は加熱温度検出子17の加熱を終了する。薬液投与装置1は、次回のピストン押込動作が始まる直前までは加熱温度検出子17を加熱しないことにより、消費電力を低減することができる。
【0131】
一方、流路状態判定部53が、前回の温度測定時の流路状態が、気泡が存在する可能性がある状態ではなく、かつ気泡が存在しない状態ではないと判断した場合、流路が閉塞状態(
図9)であることを意味する。
【0132】
このとき駆動制御部52は駆動部12の動作を停止させる。また報知制御部55は、報知部46を制御し、穿刺部5や流路部13が閉塞している旨を報知部46を介して使用者に通知する。
【0133】
[1−6.閉塞検出処理手順]
次に、上述した閉塞検出処理の手順について
図11に示すルーチンRT1のフローチャートを用いて説明する。CPU41は、加熱温度検出子17の加熱を開始させると共に、該加熱温度検出子17及び温度検出子18からそれぞれ上流温度検出信号SU及び下流温度検出信号SLの取得を開始する(ステップSP1及びSP2)。
【0134】
加熱開始から事前加熱時間T1(例えば10秒)が経過すると(ステップSP3)、CPU41は、駆動部12を介してピストン11の押込動作を開始させる(ステップSP4)。
【0135】
CPU41は、取得した上流温度検出信号SU及び下流温度検出信号SL(温度検出パターン)に基づき、薬液流動状態(上流温度検出信号SUに温度低下部分が、下流温度検出信号SLに温度上昇部分が発生した)であるか否かを判定する(ステップSP5及びSP6)。
【0136】
CPU41は、薬液流動状態であると判定した場合(ステップSP6でYES)、流路状態を記憶し(ステップSP8)、事前加熱時間T1(例えば10秒)以内にピストン11の押込動作を開始させる予定があるか否かを判定する(ステップSP12)。
【0137】
CPU41は、事前加熱時間T1以内にピストン11の押込動作を開始させる予定があると判定した場合(ステップSP12でYES)、加熱温度検出子17の加熱を継続させ、次回のピストン11の押込動作を開始させる(ステップSP13)。
【0138】
一方CPU41は、事前加熱時間T1以内にピストン11の押込動作を開始させる予定がないと判定した場合(ステップSP12でNO)、加熱温度検出子17の加熱を終了させて(ステップSP14)温度測定を終了し(ステップSP15)、次回の温度測定開始まで待機する。
【0139】
ところでCPU41は、薬液流動状態でないと判定した場合(ステップSP6でNO)、気泡が存在する可能性がある状態(上流温度検出信号SUにおける測定温度Tが予想温度Texpよりも閾値Tth以上)であるか否かを判定する(ステップSP7)。
【0140】
CPU41は、気泡が存在する可能性がある状態
と判定した場合(ステップSP7で
YES)、流路状態を記憶する(ステップSP8)。さらにCPU41は、事前加熱時間T1以内にピストン11の押込動作を開始させる予定があるか否かを判定し(ステップSP12)、上述と同様の処理を行う。
【0141】
一方CPU41は、気泡が存在する可能性がある状態
でないと判定した場合(ステップSP7で
NO)、上流温度検出信号SUがピストン11の押込動作によっても大きく温度変化していないため、気泡が存在する可能性がある状態か閉塞状態である可能性があることを示しており、ピストン11を押込動作した際、気泡が存在する状態か閉塞状態であったか否かを判定する(ステップSP9)。
【0142】
一方CPU41は、閉塞検出処理において閉塞状態であると判定した場合(ステップSP9でYES)、すなわち、閉塞検出処理において上流温度検出信号SUが大きく温度変化していない場合は、流路が閉塞しているためであることを意味する。
【0143】
CPU41は、駆動部12の動作を停止させると共に、流路が閉塞している旨を使用者に通知し(ステップSP10)、温度測定を終了して(ステップSP11)処理を終了する。
【0144】
[1−7.動作及び効果]
以上の構成において薬液投与装置1は、薬液が貯蔵される薬液貯蔵部7から使用者の体内へ該薬液を送出するための流路部13と一端が接続されたシリンダ14内部でピストン11が摺動することにより該薬液を使用者の体内に送出する。
【0145】
薬液投与装置1は、温度測定を開始すると同時に、加熱温度検出子17を加熱させ、事前加熱時間T1経過後にピストン11の押込動作を開始させる。
【0146】
薬液投与装置1は、ピストン11の押込動作を行った際に、流路が薬液流動状態又は気泡が存在する可能性がある状態であると判定した場合、流路は閉塞していないと判断し、次回のピストン11の押込動作を行う。
【0147】
次に、薬液投与装置1は、ピストン11の押込動作を行った際に、流路が閉塞状態の可能性があると判定した場合、次のピストン11の押込動作を行わずに、流路が閉塞している旨を使用者に通知する。
【0148】
これにより薬液投与装置1は、人体に影響がない程度の気泡状態を閉塞状態と誤判断してピストン11の押込動作を中止してしまうことを防ぎ、薬液の投与を継続することができる。
【0149】
また薬液投与装置1は、今回のピストン11の押込動作における閉塞状態を気泡状態と誤判断することなく、直ちにピストン11の押込動作を中止させることができる。
【0150】
さらに薬液投与装置1は、温度測定を開始すると同時に加熱温度検出子17を加熱させ、温度測定を終了すると同時に加熱を終了させる、すなわち繰り返し行われるピストンの押込動作の時間間隔よりも短い時間だけ加熱温度検出子17を加熱するようにした。
【0151】
これにより薬液投与装置1は、加熱温度検出子17を常時加熱する場合と比べて、無駄な電力を消費することを防ぎ、消費電力を低減することができる。
【0152】
以上の構成によれば、薬液投与装置1は、ピストン11の押込動作の度に、上流温度検出信号SU及び下流温度検出信号SLの温度変化に基づき流路の状態を検知し、流路が閉塞している可能性があると検知した場合、ピストン11の前回の押込動作において、加熱温度検出子17が設けられた位置における検出管13B内が薬液で満たされた状態から気泡が存在する状態に変化したとき、ピストン11の次回の押込動作を継続させる。これにより薬液投与装置1は、流路に気泡が混入した状態を、流路が閉塞した状態と誤判定することなく、薬液投与を継続することができる。かくして薬液投与装置1は、一段と使い勝手を向上し得る。
【0153】
<2.第2の実施の形態>
[2−1.閉塞検出処理]
第2の実施の形態による薬液投与装置101は、第1の実施の形態による薬液投与装置1とは異なる閉塞検出処理を実行し、それ以外の部分は薬液投与装置1と同一である。
【0154】
図10との対応部分に同一符号を付した
図12に示すように、CPU141は、閉塞検出処理を実行する際、温度測定部51、駆動制御部52、流路状態判定部53、流路状態記憶部54、報知制御部55及び閉塞状態計数部56として機能する。
【0155】
第2の実施の形態によるCPUの機能的構成は、第1の実施の形態によるCPUの機能的構成(
図10)と比べて、閉塞状態計数部56が追加されている。
【0156】
閉塞状態計数部56は、流路が閉塞していると流路状態判定部53が判定した場合、温度測定時において閉塞状態を検出した回数を示す閉塞状態回数を、初期値である0回から1増やす。
【0157】
繰り返し行われるピストン11の押込動作の度に行う温度測定において、流路が閉塞状態と判定されると、閉塞状態計数部56は閉塞状態回数を1ずつ増加させていく。また、流路が閉塞状態ではないと判定されると、閉塞状態計数部56は閉塞状態回数を初期値である0回に戻す。すなわち閉塞状態計数部56は、流路の閉塞状態が継続的に発生している場合、温度測定毎に閉塞状態回数を1ずつ増加させていく。
【0158】
駆動制御部52は、閉塞状態回数が閾値である5回よりも小さい場合、流路が閉塞状態であっても、駆動部12の動作を停止させず継続させる。
【0159】
一方駆動制御部52は、閉塞状態回数が閾値である5回以上となった場合、駆動部12の動作を停止させる。
【0160】
[2−2.閉塞検出処理手順]
次に、閉塞検出処理の手順について、
図11との対応部分に同一符号を付した
図13に示すルーチンRT2のフローチャートを用いて説明する。ルーチンRT2は、ルーチンRT1(
図11)と比べてステップSP16及びSP17が追加されている。なおステップSP1〜SP15まではルーチンRT1と同様であるため、説明を省略する。
【0161】
CPU41は、気泡が存在する可能性がある状態
と判定した場合(ステップSP7で
YES)、流路状態を記憶する(ステップSP8)。さらにCPU41は、事前加熱時間T1以内にピストン11の押込動作を開始させる予定があるか否かを判定し(ステップSP12)、上述と同様の処理を行う。
【0162】
一方CPU41は、閉塞検出処理において閉塞状態であると判定した場合(ステップSP9でYES)、すなわち、閉塞検出処理において上流温度検出信号SUが大きく温度変化していない場合は、流路が閉塞していると判断し、閉塞状態回数を1加算し(ステップSP16)、該閉塞状態回数が閾値(例えば5回)未満である場合(ステップSP17でNO)、ステップSP12以降の処理を行う。
【0163】
一方CPU141は、閉塞状態回数が閾値(例えば5回)以上である場合(ステップSP17でYES)、駆動部12の動作を停止させると共に、流路が閉塞している旨を使用者に通知し(ステップSP10)、温度測定を終了して(ステップSP11)処理を終了する。
【0164】
このように薬液投与装置101は、閉塞状態と判定した際に直ちにピストン11の動作を停止させることなく、複数回連続で閉塞状態と判定された場合にピストン11の動作を停止させる。
【0165】
これにより薬液投与装置101は、何らかのエラーが発生したために閉塞状態と誤判定してしまった場合に直ちにピストン11の動作を停止させてしまうことを防ぎ、閉塞状態が確実に発生している場合にのみ、ピストン11の動作を停止させることができ、使い勝手を向上させることができる。
【0166】
<3.第3の実施の形態>
第3の実施の形態による薬液投与装置201は、第1の実施の形態による薬液投与装置1とは異なる閉塞検出処理を実行し、それ以外の部分は薬液投与装置1と同一である。
【0167】
本実施の形態においてCPU241は、温度測定を開始する1分前から加熱温度検出子17を加熱させることにより、ピストン11の押込動作前において、上流温度検出信号SUの温度を温度安定状態まで上昇させてほぼ一定の温度を保っている(以下この状態を温度安定化後状態とも呼ぶ)。
【0168】
またCPU241は、温度測定を終了した後も、該加熱温度検出子17の加熱を終了させず、次の温度測定まで継続させる。
【0169】
[3−1.温度検出パターン]
[3−1−1.薬液流動状態の温度検出パターン]
図14に示すように、温度検出パターンPT11においては、加熱温度検出子17近傍の検出管13B内部の薬液MSは十分に加熱され、上流温度検出信号SUはピストン11の押込動作直前(7秒時点)において一定の温度となっている。
【0170】
8秒時点においてピストン11により押込動作が行われると、熱マーカMKが下流側に移動するため、温度検出パターンPT1(
図6)と同様に、上流温度検出信号SUには温度低下部分が現れる一方、下流温度検出信号SLには温度上昇部分が現れる。
【0171】
[3−1−2.薬液流動状態及び気泡が存在する可能性がある状態の温度検出パターン]
図15に示す温度検出パターンPT12は、薬液流動状態の後に気泡が存在する可能性がある状態に変化した場合の温度検出パターンである。温度検出パターンPT12は、10秒時点と18秒時点とにそれぞれ1回ずつピストン11の押込動作が行われている。
【0172】
温度検出パターンPT12においては、加熱温度検出子17近傍の検出管13B内部の薬液MSは十分に加熱され、上流温度検出信号SUはピストン11の1回目の押込動作直前(9秒時点)において一定の温度となり、
図15(B)の状態Aに示すように、加熱温度検出子17近傍の薬液MSには熱マーカMKが生成される。このとき、加熱温度検出子17よりも上流部分には気泡ARが混入している。
【0173】
10秒時点においてピストン11により1回目の押込動作が行われると、熱マーカMKが下流側に移動するため、温度検出パターンPT11(
図14)と同様に、上流温度検出信号SUには温度低下部分が現れる一方、下流温度検出信号SLには温度上昇部分が現れる。
【0174】
その後上流温度検出信号SUの温度は徐々に上昇すると共に、下流温度検出信号SLの温度は徐々に低下していく。
【0175】
このとき流路部13には、ピストン11の1回目の押込動作により、気泡ARが加熱温度検出子17の近傍上流まで運ばれている。またピストン11の2回目の押込動作直前(17秒時点)の流路部13は
図15(B)の状態Bに示すように、加熱温度検出子17近傍の薬液MSは加熱され、熱マーカMKが生成されている。
【0176】
このとき、熱マーカMKが形成された部分よりも上流側には、
図7(B)の状態Aとは異なり、加熱されていない薬液MSが無い状態となっている。すなわち、熱マーカMKは薬液MSを介さずに、上流側に位置する気泡ARに直接接している。
【0177】
18秒時点においてピストン11により2回目の押込動作が行われると、
図15(B)の状態Cのように、加熱温度検出子17が設けられた位置の検出管13B内部は、薬液MSではなく気泡ARとなるため、上流温度検出信号SUの温度は、気泡ARに吸収されない熱で急上昇し、その後はピストン11の押込動作前とほぼ同様の温度変化率で再び上昇していく。
【0178】
一方下流温度検出信号SLの温度は、温度検出子18が設けられた位置の検出管13Bを熱マーカMKが通過するため、薬液流動状態と同様に急上昇した後、熱拡散により平常時の温度に向かって徐々に低下していく。
【0179】
このように、気泡が存在する可能性がある状態の場合、薬液MSに対する気泡ARの混入のタイミングによっては、熱マーカMKの上流側に温められていない薬液MSが存在しない場合がある。
【0180】
このような場合、上流温度検出信号SUがピストン11の押込動作の直後にやや急低下することなく急上昇する一方、下流温度検出信号SLは薬液流動状態と同様に急上昇して徐々に低下する温度変化を示す。
【0181】
[3−1−3.気泡が存在する可能性がある状態の温度検出パターン]
図16に示す温度検出パターンPT13は、気泡ARが流路内に混入する状態である気泡変化状態における温度検出パターンである。
【0182】
温度検出パターンPT13は、温度検出パターンPT12におけるピストン11の2回目の押込動作の際と比べて、流路部13における薬液MSの移動に対する気泡AR混入のタイミングが異なっている。
【0183】
温度検出パターンPT13においては、加熱温度検出子17近傍の検出管13B内部の薬液MSは十分に加熱され、上流温度検出信号SUはピストン11の押込動作直前(9秒時点)において一定の温度となり、
図16(B)の状態Aに示すように、加熱温度検出子17近傍の薬液MSには熱マーカMKが生成される。
【0184】
また温度検出パターンPT2(
図7)と同様に、熱マーカMKよりも上流側には、加熱されていない薬液MSが存在している状態となっている。
【0185】
10秒時点においてピストン11により押込動作が行われると、加熱温度検出子17が設けられた位置の検出管13Bを加熱されていない薬液MSが通過するため、一旦上流温度検出信号SUの温度はやや低下する。その後は温度検出パターンPT2と同様に上流温度検出信号SUの温度は急上昇し、ピストン11の押込動作前と同様に一定の温度となる。
【0186】
このように、気泡が存在する可能性がある状態の場合、薬液MSに対する気泡ARの混入のタイミングによっては、熱マーカMKの上流側に温められていない薬液MSが存在する場合がある。
【0187】
このような場合、一定の温度となっていた上流温度検出信号SUがピストン11の押込動作の直後にやや急低下するものの、その後は急上昇する一方、下流温度検出信号SLは薬液流動状態と同様に急上昇して徐々に低下する温度変化を示す。
【0188】
すなわち、ピストン11の押込動作の直後に、上流温度検出信号SUにおいては温度急上昇部分が現れ、下流温度検出信号SLにおいては温度上昇部分が現れることとなる。
【0189】
[3−1−4.気泡状態の温度検出パターン]
図17に示す温度検出パターンPT14は、気泡が存在する可能性がある状態(温度検出パターンPT13(
図16))の後に、ピストン11がさらに押込動作を行うことにより上流側の気泡ARが下流側へ移動し、ピストン11の押込動作前時点で加熱温度検出子17が設けられた位置の検出管13B内部が気泡ARで満たされている状態である気泡状態における温度検出パターンである。
【0190】
温度検出パターンPT14においては、加熱温度検出子17が設けられた位置の検出管13B内部は気泡ARであるため、気泡ARに吸収されない加熱温度検出子17の発熱により、上流温度検出信号SUはピストン11の押込動作直前(9秒時点)において一定の温度となる。
【0191】
10秒時点においてピストン11により押込動作が行われると、温度検出パターンPT3(
図8)と同様に、上流温度検出信号SU及び下流温度検出信号SLは、急激な温度変化をせず一定の温度を保つ。
【0192】
[3−1−5.閉塞状態の温度検出パターン]
図18に示す温度検出パターンPT15は、流路が閉塞した状態である閉塞状態における温度検出パターンである。
【0193】
温度検出パターンPT15においては、加熱温度検出子17近傍の検出管13B内部の薬液MSは十分に加熱され、上流温度検出信号SUはピストン11の押込動作直前(9秒時点)において一定の温度となる。
【0194】
10秒時点においてピストン11により押込動作が行われると、温度検出パターンPT4(
図9)と同様に、上流温度検出信号SU及び下流温度検出信号SLは、急激な温度変化をせず一定の温度を保つ。
【0195】
このように、第3の実施の形態においても、第1の実施の形態と同様に、気泡状態と閉塞状態とにおける温度検出パターンは互いにほぼ同様の特性曲線となっている。
【0196】
[3−2.閉塞検出処理]
第3の実施の形態による薬液投与装置201は、第1の実施の形態による薬液投与装置1と同様の閉塞検出処理を実行することにより、上述した温度検出パターンPT11乃至PT15に基づき、流路が薬液流動状態、気泡が存在する可能性がある状態、気泡が存在する状態又は閉塞状態のいずれの流路状態であるかを判定する。
【0197】
このように薬液投与装置201は、温度安定化後状態において温度測定を行うことにより、温度安定前状態において温度測定を行う場合と比べて、温度測定を安定的に行うことができる。
【0198】
<4.他の実施の形態>
なお上述した実施の形態においては、加熱温度検出子17をサーミスタで構成する場合について述べた。本発明はこれに限らず、加熱と温度検出とが同時に行える種々の素子で構成しても良い。
【0199】
また上述した実施の形態においては、温度検出子18をサーミスタで構成する場合について述べた。本発明はこれに限らず、温度検出が行える種々の素子で構成しても良い。
【0200】
さらに上述した実施の形態においては、加熱温度検出子17により加熱と温度検出とを行うようにしたが、本発明はこれに限らず、加熱と温度検出とをそれぞれ別々の素子により行っても良い。その場合、加熱を行う素子と温度検出を行う素子とは、互いに近接して配置することが望ましい。
【0201】
さらに上述した実施の形態においては、上流温度検出信号SU及び下流温度検出信号SLに基づき、流路状態を判定する場合について述べた。本発明はこれに限らず、上流温度検出信号SUのみに基づき、流路状態を判定しても良い。
【0202】
流路が薬液流動状態か否かを判定する場合は、上流温度検出信号SUの温度低下部分及び下流温度検出信号SLの温度上昇部分の両方を検出する方が正確に流路状態を判定できるが、上流温度検出信号SUの温度変化のみに基づく場合、処理を簡略化できる。
【0203】
また上述した実施の形態においては、穿刺部5と流路部13が別々に構成されている場合について述べたが、薬液貯蔵部7から外部まで薬液が流れる流路を流路部として一体形成するようにしてもよい。
【0204】
さらに上述した実施の形態においては、判断部としてのCPU41と、薬液貯蔵部としての薬液貯蔵部7と、流路部としての流路部13と、シリンダとしてのシリンダ14と、ピストンとしてのピストン11と、加熱子としての加熱温度検出子17と、温度検出子としての加熱温度検出子17及び温度検出子18と、流路状態判定部としての流路状態判定部53とによって、薬液投与装置としての薬液投与装置1、101及び201を構成する場合について述べた。
【0205】
本発明はこれに限らず、その他種々の構成でなる判断部と、薬液貯蔵部と、流路部と、シリンダと、ピストンと、加熱子と、温度検出子と、流路状態判定部とによって、液投与装置を構成するようにしても良い。