(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ボス比変更ステップは、前記共振判定ステップが予め定めた所定回数だけ繰り返されて共振すると判定された場合に実行されることを特徴とする請求項1又は2に記載の遠心回転機の設計方法。
前記構造仕様決定ステップでは、前記ボス比の初期値が最低ボス比に設定され、前記ボス比変更ステップにおける前記ボス比設定範囲は、前記最低ボス比から予め定められた最高ボス比までの範囲として規定されることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の遠心回転機の設計方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、回転軸及びケーシングを分割する従来の遠心回転機の設計方法では、遠心回転機の台数が増すことにより、製造コストや設置スペースが増大するという問題がある。また、ブレードも含めて新たな形状のインペラを開発する従来の遠心回転機の設計方法では、ブレードの空力設計が難しくなり、また体積流量の異なるインペラを多数開発する必要があるため、開発コストがかさむという問題があった。
【0007】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、その目的は、ブレードの構造を変更することなく、ブレードよりも内周側の構造を変更することにより、必要とされる性能を満たしつつ回転軸の共振が生じない遠心回転機を低コストで設計する方法及び設計するシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用している。すなわち、本発明に係る遠心回転機の設計方法は、回転軸と、該回転軸に設けられ軸方向に沿って複数段のインペラとを備えた遠心回転機の設計方法であって、予め取得した重量流量及び出入口圧力比を満たすように、遠心回転機における各段のインペラの型式を含む構造仕様及び遠心回転機回転数を決定する構造仕様決定ステップと、前記構造仕様決定ステップで決定された構造仕様における前記遠心回転機の軸固有振動数を演算する軸固有振動数演算ステップと、前記軸固有振動数演算ステップで演算された前記遠心回転機の軸固有振動数と、前記構造仕様決定ステップで決定した前記遠心回転機回転数に基づいて、共振するか否か判定する共振判定ステップと、前記共振判定ステップで共振すると判定された場合に、少なくとも1段のインペラに対して、当該インペラを構成するディスクの最小径をディスクの最大径で除算した値であるボス比を、前記インペラの型式と対応して予め得られているボス比設定範囲の中で、初期値よりも高い値に設定するボス比変更ステップと、を含み、前記ボス比変更ステップでボス比を設定した場合には、前記構造仕様決定ステップで前記ボス比を設定したインペラについて、該インペラを構成するブレードの構造を変更することなく、該ブレードよりも内周側の構造を変更して当該ボス比となるように構造変更して、再度構造仕様及び遠心回転機回転数を決定し、固有振動数演算ステップ及び共振判定ステップを実行することを特徴とする。
【0009】
このような方法によれば、開発に時間やコストを要するブレードについては構造を変更することがないため、遠心回転機の設計に要する時間やコストを低減することができる。また、ボス比を変更した後に構造仕様を決定するので、ボス比変更後の遠心回転機は、予め取得した重量流量及び出入口圧力比を満たしている。更にその後、固有振動数演算ステップ及び共振判定ステップを実行するので、共振が発生しないことが確認される。
【0010】
また、本発明に係る遠心回転機の設計方法は、前記構造仕様決定ステップで決定する前記構造仕様が、インペラの段数と各段の
ディスクの最大径とを更に含むことを特徴とする。
【0011】
このような方法によれば、インペラの段数及び、各段の
ディスクの最大径を含めて適切な構造仕様の遠心回転機を設計することができる。
【0012】
また、本発明に係る遠心回転機の設計方法は、前記ボス比変更ステップは、前記共振判定ステップが予め定めた所定回数だけ繰り返されて共振すると判定された場合に実行されることを特徴とする。
【0013】
このような方法によれば、構造仕様の変更だけによって必要な性能を満たしつつ共振が発生しない遠心回転機を設計できる場合にはボス比を変更しないので、遠心回転機の設計に要する時間と手間を最小限に抑えることができる。
【0014】
また、本発明に係る遠心回転機の設計方法は、前記構造仕様決定ステップでは、前記ボス比の初期値が最低ボス比に設定され、前記ボス比変更ステップにおける前記ボス比設定範囲は、前記最低ボス比から予め定められた最高ボス比までの範囲として規定されることを特徴とする。
【0015】
このような方法によれば、最初の設計時においてはボス比を最小として、より高性能の遠心回転機を設計可能とするとともに、最初の設計時において共振が発生しないようにすることができない場合に、ボス比の変更幅を十分大きく確保することができるので、性能を満たす範囲で共振が発生しないような条件を容易に選択することが可能となる。
【0016】
また、本発明に係る遠心回転機の製造方法は、上記の遠心回転機の設計方法で、遠心回転機の構造を設計する設計工程と、該設計工程で設計された前記構造仕様で、前記遠心回転機における回転軸、該回転軸に取付けられるインペラ及び該インペラを収容しつつ前記回転軸を回転可能に支持するケーシングを含む各遠心回転機部材を製造する部材製造工程と、部材製造工程で製造された前記遠心回転機部材を組み立てる部材組立工程とを備えることを特徴とする。
【0017】
このような製造方法によれば、遠心回転機を構成する遠心回転機部材を製造し、それらを組み立てることによって遠心回転機を製造することができる。
【0018】
また、本発明に係る遠心回転機の設計システムは、予め取得した重量流量及び出入口圧力比を満たすように、遠心回転機における各段のインペラの型式を含む構造仕様及び遠心回転機回転数を決定する構造仕様決定手段と、前記構造仕様決定手段で決定された構造仕様から演算される前記遠心回転機の軸固有振動数と、前記構造仕様決定手段で決定した前記遠心回転機回転数に基づいて、共振するか否か判定する共振判定手段と、前記共振判定手段で共振すると判定された場合に、少なくとも1段のインペラに対して、当該インペラの型式と対応して予め得られているボス比設定範囲の中で、
当該インペラを構成するディスクの最小径をディスクの最大径で除算した値であるボス比を初期値よりも高い値に設定し、構造仕様決定手段に出力するボス比変更手段と、を備え、前記構造仕様決定手段は、前記ボス比変更手段から前記ボス比が出力されると、前記ボス比を設定したインペラについて、該インペラを構成するブレードの構造を変更することなく、該ブレードよりも内周側の構造を変更して当該ボス比となるように構造変更して、再度構造仕様及び遠心回転機回転数を決定し、前記共振判定手段は、再度共振するか否か判定することを特徴とする。
【0019】
このような構成によれば、開発に時間やコストを要するブレードについては構造を変更することがないため、遠心回転機の設計に要する時間やコストを低減することができる。また、ボス比変更手段がボス比を変更した後に、構造仕様決定手段が構造仕様を決定するので、ボス比変更後の遠心回転機は、予め取得した重量流量及び出入口圧力比を満たしている。更にその後、共振判定手段が固有振動数の演算と共振するか否かの判定を実行するので、共振の発生しないことが確認される。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る遠心回転機の設計方法及び遠心回転機の設計システムによれば、ブレードの構造を変更することなく、ブレードよりも内周側の構造を変更することにより、必要とされる性能を満たしつつ回転軸の共振が生じない遠心回転機を低コストで設計することができる。
また、本発明に係る遠心回転機の製造方法によれば、低コストで所望の性能を満たす遠心回転機を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[遠心圧縮機の構成]
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態について説明する。まず、本発明の実施形態に係る遠心回転機の設計方法及び遠心回転機の設計システムによって設計する遠心回転機の構成について説明する。本実施形態では、本発明に係る遠心回転機の一例として遠心圧縮機を例に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る遠心圧縮機1を示す概略断面図である。遠心圧縮機1は、軸線Lに沿って配されたロータ2と、このロータ2を収容するケーシング3と、を備えている。
【0023】
(ロータ)
ロータ2は、
図1に示すように、不図示のモータ等によって駆動側端部が回転駆動される回転軸21と、この回転軸21の軸方向中央部に所定間隔で固定された複数のインペラ22と、を有している。
【0024】
インペラ22は、遠心力を利用してガスを圧縮する役割を果たすものである。このインペラ22は、
図1に示すように、円盤状のディスク221と、このディスク221の表面に突出して設けられた複数枚のブレード222と、を有している。このうち、ディスク221は、軸方向視で略円形に形成され、その中心部が軸方向一方側へ突出してなるボス部221aが設けられている。これにより、ディスク221の軸方向一方側の面は、外周側から内周側に向かうに従って径方向から軸方向へ向かうように湾曲形成されている。本発明では、ディスク221の最大径を「インペラ外径D2」と定義し、ディスク221の最小径すなわちボス部221aの先端部における径を「ボス径Db」と定義する。そして、ボス径Db/インペラ外径D2を「ボス比」として定義する。
【0025】
このように構成されるインペラ22は、ケーシング3の内部に収容され、そのディスク221の中心部に回転軸21が挿通されて固定されている。これにより、インペラ22は、回転軸21の回転に伴ってこれと一体的に回転するようになっている。そして、インペラ22を構成する複数枚のブレード222同士の間の隙間が、ガスが流通する流路4として構成されている。尚、本実施形態では、回転軸21の軸方向に沿って6段のインペラ22を所定間隔で設けているが、インペラ22の段数はこれに限られず、適宜設計変更が可能である。
【0026】
(ケーシング)
ケーシング3は、
図1に示すように、略円筒形状を有し両端が開口されたケーシング本体31と、このケーシング本体31の軸方向一端部に固定されたスラスト軸受32と、ケーシング本体31の軸方向両端部に固定された一対のジャーナル軸受33と、を有している。
【0027】
スラスト軸受32は、回転軸21を軸方向に受ける役割を果たすものである。このスラスト軸受32は、
図1に示すように、ケーシング本体31の一端側に取り付けられた軸受ケース34の内部に収容され、回転軸21の軸方向一端部を、軸回りには回転可能に且つ軸方向へは僅かに移動可能な状態で支持している。
【0028】
ジャーナル軸受33は、回転軸21を径方向に受ける役割を果たすものである。一対のジャーナル軸受33は、
図1に示すように、その一方がケーシング本体31の一端側における軸挿通孔に嵌合して設けられ、その他方がケーシング本体31の他端側に取り付けられた軸受ケース35の内部に収容されている。そして、これら一対のジャーナル軸受33が、回転軸21の軸方向両端部を軸回りに回転可能にそれぞれ支持している。
【0029】
[遠心圧縮機の設計システム]
次に、本発明の実施形態に係る遠心圧縮機1の設計方法を使用する遠心圧縮機1の設計システムについて説明する。
図2は、本発明の実施形態に係る遠心圧縮機1の設計システムの機能構成を示すブロック図である。遠心圧縮機1の設計システムは、ROMやRAM等からなる記憶部11と、キーボードやマウス等からなる入力部12と、液晶画面等からなる表示部13と、MPU等からなる制御部14と、を備えている。
【0030】
記憶部11は、過去に化学プラント等で使用された遠心圧縮機1のタイプに関する実績情報を、テーブル形式で複数格納している。
図3は、記憶部11が格納するテーブルTの一例を示す図である。テーブルTには、遠心圧縮機1のタイプ名、ガス組成(Comp)、入口温度(T1)、入口圧力(P1)、ガスの重量流量(G)、出入口圧力比(Pr)、インペラ段数(Z)、各段のインペラ22の型式、回転数(N)、各段のインペラ22の外径(D2i)・・・等の仕様データが、互いに関連付けられた形で格納されている。尚、記憶部11がタイプデータを格納する形式としては、テーブル形式に限定されず、関連付けて格納可能な任意の形式を用いることができる。
【0031】
入力部12は、遠心圧縮機1に必要とされる性能に関する情報をユーザが入力可能に構成されている。ここで、ユーザが入力可能なデータとしては、ガス組成(Comp)、入口温度(T1)、入口圧力(P1)、ガスの重量流量(G)、出入口圧力比(Pr)等が挙げられる。
【0032】
制御部14は、
図2に示すように、圧縮機タイプ決定手段141と、構造仕様決定手段142と、出入口圧力比算出手段143と、性能判定手段144と、CAD作図手段145と、軸固有振動数算出手段146と、共振判定手段147と、共振判定回数カウント手段148と、ボス比変更回数カウント手段149と、ボス比変更手段150と、軸ケーシング分割手段151と、新インペラ開発手段152とを有している。尚、本明細書において「CAD」とは、Computer Aided Design(コンピュータ支援設計)を意味している。
【0033】
圧縮機タイプ決定手段141は、
図2に示すように、入力部12から、遠心圧縮機1に必要とされる性能情報が入力される。また、圧縮機タイプ決定手段141は、記憶部11から、遠心圧縮機1のタイプに関するテーブルTが入力される。そして、圧縮機タイプ決定手段141は、必要とされる性能を満たすような圧縮機タイプをテーブルTから選定し、構造仕様決定手段142に対して出力する。
【0034】
構造仕様決定手段142は、
図2に示すように、圧縮機タイプ決定手段141から、前述のように選定した圧縮機タイプが入力される。また、構造仕様決定手段142は、性能判定手段144から、出入口圧力比(Pr)が必要とされる性能条件を満たさない旨が入力される。更に、構造仕様決定手段142は、共振判定回数カウント手段148から、共振判定を行った回数が予め定めたn回に達していない旨が入力される。また、構造仕様決定手段142は、軸ケーシング分割手段151から、回転軸21及びケーシング3を分割した旨が入力される。また、構造仕様決定手段142は、新インペラ開発手段152から、新しい形状のインペラ22を開発する旨が入力される。
【0035】
そして、構造仕様決定手段142は、
図2に示すように、圧縮機タイプ決定手段141から入力された圧縮機タイプに基づいて、インペラ22の段数(Z)、各段のインペラ22の型式、回転数(N)、各段のインペラ22の外径(D2i)を構造仕様として決定し、出入口圧力比算出手段143に対してそれぞれ出力する。また、構造仕様決定手段142は、CAD作図手段145に対し、各段のインペラ22についての構造仕様をそれぞれ出力する。更に、構造仕様決定手段142は、決定した遠心圧縮機1の回転数(N)を共振判定手段147に対して出力する。
【0036】
出入口圧力比算出手段143は、
図2に示すように、構造仕様決定手段142から、前述のようにインペラ22の段数(Z)、各段のインペラ22の型式、回転数(N)、各段のインペラ22の外径(D2i)が入力される。そして、出入口圧力比算出手段143は、性能判定手段144に対し、算出した出入口圧力比(Pr)を出力する。
【0037】
性能判定手段144は、
図2に示すように、出入口圧力比算出手段143から、前述のように出入口圧力比(Pr)が入力される。そして、性能判定手段144は、出入口圧力比算出手段143から入力された出入口圧力比(Pr)が、遠心圧縮機1に必要とされる性能を満たしているか否かを判定する。そして、性能判定手段144は、CAD作図手段145に対し、遠心圧縮機1が必要とされる性能を満たしている旨を出力する。また、性能判定手段144は、構造仕様決定手段142に対し、遠心圧縮機1が必要とされる性能を満たしていない旨を出力する。
【0038】
CAD作図手段145は、
図2に示すように、構造仕様決定手段142から、前述のように各段のインペラ22についての構造仕様がそれぞれ入力される。また、CAD作図手段145は、性能判定手段144から、前述のように遠心圧縮機1が必要とされる性能を満たしている旨が入力される。更に、CAD作図手段145は、共振判定手段147から、共振が生じない旨が入力される。また、CAD作図手段145は、ボス比変更手段150から、変更後の新たなボス比が入力される。
【0039】
そして、CAD作図手段145は、
図2に示すように、軸固有振動数算出手段146に対し、作図したCAD図面データを出力する。また、CAD作図手段145は、表示部13に対し、作図したCAD図面データを出力する。
【0040】
軸固有振動数算出手段146は、
図2に示すように、CAD作図手段145から、作成されたCAD図面データが入力される。そして、軸固有振動数算出手段146は、このCAD図面から各部の寸法を採寸し、これに基づいて回転軸21の軸固有振動数を算出する。そして、軸固有振動算出手段146は、算出した軸固有振動数を共振判定手段147に対して出力する。
【0041】
共振判定手段147は、
図2に示すように、軸固有振動算出手段146から、回転軸21の軸固有振動数が入力される。また、共振判定手段147は、構造仕様決定手段142から、遠心圧縮機1の回転数(N)が入力される。そして、共振判定手段147は、入力された両者に基づいて、回転軸21に共振が発生するか否かを判定する。また、共振判定手段147は、CAD作図手段145に対し、共振が発生しない旨を出力する。また、共振判定手段147は、共振判定回数カウント手段148に対し、共振発生について判定を行った旨を出力する。
【0042】
共振判定回数カウント手段148は、
図2に示すように、共振判定手段147から、共振発生について判定を行った旨が入力される。そして、共振判定回数カウント手段148は、判定回数を1だけ増加させた上で、共振判定を行った回数が予め定めたn回に達したか否かを判定する。その結果、共振判定回数カウント手段148は、構造仕様決定手段142に対して、共振判定を行った回数がn回に達していない旨を出力する。一方、共振判定回数カウント手段148は、ボス比変更回数カウント手段149に対し、共振判定を行った回数がn回に達した旨を出力する。
【0043】
ボス比変更回数カウント手段149は、
図2に示すように、共振判定回数カウント手段148から、共振判定を行った回数がn回に達した旨が入力される。そして、ボス比変更回数カウント手段149は、ボス比を変更した回数が予め定めたm回に達したか否かを判定する。その結果、ボス比変更回数カウント手段149は、ボス比変更手段150に対し、ボス比を変更した回数がまだm回に達していないことを出力する。一方、ボス比変更回数カウント手段149は、軸ケーシング分割手段151に対し、ボス比を変更した回数がm回に達した旨を出力する。
【0044】
ボス比変更手段150は、
図2に示すように、ボス比変更回数カウント手段149から、ボス比を変更した回数がm回に達していない旨が入力される。また、ボス比変更手段150は、記憶部11から、インペラ22の流量係数(φi)と遠心圧縮機1の効率(ηi)との関係について型式ごとに保持しているグラフが入力される。そしてボス比変更手段150は、CAD作図手段145に対し、変更後の新しいボス比を出力する。
【0045】
軸ケーシング分割手段151は、
図2に示すように、ボス比変更回数カウント手段149から、ボス比を変更した回数がm回に達した旨が入力される。また、軸ケーシング分割手段151は、構造仕様決定手段142に対し、回転軸21及びケーシング3を分割した旨を出力する。
【0046】
新インペラ開発手段152は、
図2に示すように、ボス比変更回数カウント手段149から、ボス比を変更した回数がm回に達した旨が入力される。また、新インペラ開発手段152は、構造仕様決定手段142に対し、新しい形状のインペラ22を開発する旨を出力する。
【0047】
尚、本実施形態のCAD作図手段145及び軸固有振動数算出手段146に代えて、ユーザが手作業にて、インペラ22の構造仕様に基づいてCAD図面を作図し、CAD図面の各部を採寸した結果から軸固有振動数を算出するようにしてもよい。
【0048】
また、本実施形態の圧縮機タイプ決定手段141に代えて、ユーザが手作業にて、記憶部11からテーブルTの情報を入力部12から性能情報をそれぞれ取得し、それに基づいて遠心圧縮機1のタイプを決定して構造仕様決定手段142に入力するようにしてもよい。
【0049】
次に、本発明の実施形態に係る制御部14において実行される処理の流れについて説明する。
図4は、制御部14での処理の流れを示すフローチャートである。遠心圧縮機1の設計の処理が開始されると、
図2に示す制御部14では、まず構造仕様決定ステップが実行される。この構造仕様決定ステップとは、遠心圧縮機1に必要とされる性能を満たすように、遠心圧縮機1を構成する各段のインペラ22の構造仕様をそれぞれ決定するとともに、遠心圧縮機1の回転数(N)を決定するステップである。
【0050】
構造仕様決定ステップについて詳細に説明すると、まず
図2に示す圧縮機タイプ決定手段141が、遠心圧縮機1に必要とされる性能として、ガスの重量流量(G)、出入口圧力比(Pr)、ガス組成(Comp)、入口温度(T1)、及び入口圧力(P1)に関する情報をそれぞれ取得する(S1)。ここで、出入口圧力比(Pr)とは、流路4における出口部と入口部との圧力比を意味している。そして、圧縮機タイプ決定手段141は、取得した情報に応じて、
図2に示す記憶部11が保持するテーブルTを参照することにより、遠心圧縮機1のタイプを決定する(S2)。このテーブルTとは、過去の同種の化学プラント等で使用された遠心圧縮機1において、インペラ22の形状に関する実績を蓄積したものである。
【0051】
次に、
図2に示す構造仕様決定手段142が、入力された遠心圧縮機1のタイプに基づいて、必要とされる性能であるガスの重量流量(G)及び出入口圧力比(Pr)を満たすようにして、各段のインペラ22の構造仕様を仮決めするとともに、遠心圧縮機1の回転数(N)を決定する(S3)。ここで、本実施形態におけるインペラ22の構造仕様とは、インペラ22の段数(Z)、各段のインペラ22の型式、及び各段のインペラ22の外径(D2i)を意味している。
【0052】
次に、
図2に示す出入口圧力比算出手段143が、仮決めした各段のインペラ22の構造仕様に基づいて、遠心圧縮機1の出入口圧力比(Pr)を算出する(S4)。より詳細に説明すると、まず出入口圧力比算出手段143は、以下の式(1)に基づき、1段目のインペラ22の入口密度(ρ1)を、次の式(1)により算出する。尚、この式(1)におけるfρとは、所定の関数を意味している。
ρ1=fρ(comp,P1,T1)・・・・・式(1)
【0053】
次に、出入口圧力比算出手段143は、算出した入口密度(ρ1)を次の式(2)に代入することにより、1段目のインペラ22の入口体積流量(Q1)を算出する。
Q1=G/ρ1・・・・・式(2)
【0054】
また、出入口圧力比算出手段143は、遠心圧縮機1の回転数(N)と1段目のインペラ22の外径(D21)とを次の式(3)に代入することにより、1段目のインペラ22の周速(U21)を算出する。
U21=N/60・π・D21・・・・・式(3)
【0055】
そして、出入口圧力比算出手段143は、式(2)で求めた入口体積流量(Q1)、式(3)で求めた周速(U21)、及び外径(D21)をそれぞれ次の式(4)に代入することにより、1段目のインペラ22の流量係数(φ1)を算出する。尚、式(4)において「D21^2」とは、D21の二乗を意味している。
φ1=Q1/(π/4×D21^2×U21)・・・・・式(4)
【0056】
次に出入口圧力比算出手段143は、
図2に示す記憶部11がインペラ22の流量係数(φi)と遠心圧縮機1の効率(ηi)との関係について型式ごとに保持している複数のグラフから、1段目のインペラ22の型式に該当するグラフを選択する。ここで、
図5は、インペラ22のボス比が遠心圧縮機1の性能に及ぼす影響を示したグラフであって、(a)はボス比が効率ηiに及ぼす影響を、(b)はボス比が圧力係数μiに及ぼす影響をそれぞれ示している。尚、図における実線はボス比が最低ボス比に設定される場合を、破線はボス比が最高ボス比に設定される場合をそれぞれ示している。本実施形態では、構造仕様決定ステップにおいては、ボス比は最低ボス比に設定されている。出入口圧力比算出手段143は、
図5(a)に示すグラフに対し、式(4)で算出した流量係数(φ1)を当てはめることにより、遠心圧縮機1の効率(η1)を決定する。
【0057】
同様に出入口圧力比算出手段143は、
図2に示す記憶部11がインペラ22の流量係数(φi)と遠心圧縮機1の圧力係数(μi)との関係について型式ごとに保持している複数のグラフから、1段目のインペラ22の型式に該当するグラフを選択する。ここで、
図5(b)は、1段目のインペラ22の型式に該当するものとして選択した流量係数(φi)と圧力係数(μi)との関係を示すグラフである。尚、図における実線はボス比が最低ボス比に設定されている場合を、破線はボス比が最高ボス比に設定されている場合をそれぞれ示しており、構造仕様決定ステップにおいては、ボス比は最低ボス比に設定されている。出入口圧力比算出手段143は、この選択したグラフに対し、式(4)で算出した流量係数(φ1)を当てはめることにより、遠心圧縮機1の圧力係数(μ1)を決定する。
【0058】
次に、出入口圧力比算出手段143は、式(3)で求めた周速(U21)、及び
図5(b)のグラフから決定した圧力係数(μ1)をそれぞれ次の式(5)に代入することにより、1段目のインペラ22のヘッド(H1)を算出する。尚、式(5)において「U21^2」とは、U21の二乗を意味している。
H1=U21^2/g×μ1・・・・・式(5)
【0059】
次に、出入口圧力比算出手段143は、式(5)で求めたヘッド(H1)、及び
図5(a)のグラフから決定した効率(η1)をそれぞれ次の式(6)に代入することにより、1段目のインペラ22の圧力比(Pr1)を算出する。尚、この式(6)におけるfρとは、所定の関数を意味している。
Pr1=fρ(comp,P1,T1,H1,η1)・・・・・式(6)
【0060】
また、出入口圧力比算出手段143は、式(5)で求めたヘッド(H1)、及び
図2(a)のグラフから決定した効率(η1)をそれぞれ次の式(7)に代入することにより、1段目のインペラ22の温度比(Tr1)を算出する。尚、この式(7)におけるftとは、fρとは異なる所定の関数を意味している。
Tr1=ft(comp,P1,T1,H1,η1)・・・・・式(7)
【0061】
そして、出入口圧力比算出手段143は、1段目のインペラ22での圧力(P1)、及び式(6)で求めた1段目のインペラ22の圧力比(Pr1)をそれぞれ次の式(8)に代入することにより、2段目のインペラ22での圧力(P2)を算出する。また、出入口圧力比算出手段143は、1段目のインペラ22での温度(T1)、及び式(7)で求めた1段目のインペラ22の温度比(Tr1)をそれぞれ次の式(9)に代入することにより、2段目のインペラ22での温度(T2)を算出する。
P2=P1×Pr1・・・・・式(8)
T2=T1×Tr1・・・・・式(9)
【0062】
その後、出入口圧力比算出手段143は、式(1)から式(9)までの計算を各段のインペラ22について実行する。そして、出入口圧力比算出手段143は、各段のインペラ22について求められた圧力比Pr1,Pr2,Pr3,・・・Przを次の式(10)にそれぞれ代入することにより、遠心圧縮機1についての出入口圧力比(Pr)を算出する。
Pr=Pr1×Pr2×Pr3・・・×Prz・・・・・式(10)
【0063】
次に、
図3に示すように、
図2に示す性能判定手段144が、算出された出入口圧力比(Pr)は必要とされる性能を満たしているか否かを判定する(S5)。その結果、遠心圧縮機1は必要とされる性能を満たしていないと判断した場合(S5:No)、S3へ戻ってインペラ22の構造仕様及び遠心圧縮機1の回転数(N)を再度決定し、出入口圧力比(Pr)を算出して必要とされる性能を満たしているか否かを判定する処理を繰り返す。一方、S5の判定において遠心圧縮機1は必要とされる性能を満たしていると判断した場合(S5:Yes)、S6の処理へと進む。
【0064】
ここで、S5からS3へ戻ってインペラ22の構造仕様及び遠心圧縮機の1の回転数(N)を再度決定する場合、その優先順位としては高い方から、各段のインペラ22の型式、各段のインペラ22の外径(D2i)、遠心圧縮機1の回転数(N)、インペラ22の段数(Z)の順番とする。
【0065】
続いて、
図2に示す制御部14では、軸固有振動数演算ステップが実行される。この軸固有振動演算ステップとは、作図されたCAD図面から回転軸21の固有振動数を算出するステップである。
【0066】
軸固有振動数演算ステップについて詳細に説明すると、まず
図2に示すCAD作図手段145が、上述のように構造仕様を決定した各段のインペラ22を回転軸21に沿って配置することにより、CAD図面を作図する(S6)。
【0067】
次に、
図2に示す軸固有振動数算出手段146が、作図されたCAD図面に基づいて各部の寸法を採寸する。そして、その採寸結果に基づいて、軸固有振動数算出手段146が回転軸21の軸固有振動数を算出する(S7)。
【0068】
尚、本実施形態では、CAD図面の作図(S6)をCAD作図手段145が実行し、軸固有振動数の算出(S7)を軸固有振動数算出手段146が実行している。しかし、これらS6とS7の処理に関しては、このような自動的な実行に代えて、性能判定手段144で性能を満たしていると判定された構造仕様に基づいてユーザが手作業にて行い、算出した軸固有振動数を入力するようにしてもよい。
【0069】
続いて、
図2に示す制御部14では、共振判定ステップが実行される。この共振判定ステップとは、回転軸21の軸固有振動数及び遠心圧縮機1の回転数(N)に基づいて、回転軸21が共振するか否かを判定するステップである。
【0070】
共振判定ステップについて詳細に説明すると、
図2に示す共振判定手段147は、軸固有振動数算出手段146が算出した軸固有振動数、及び構造仕様決定手段142が決定した遠心圧縮機1の回転数(N)が、次の式(11)を満たしているか否かを判定することにより、回転軸21が共振するか否かを判定する(S8)。ここで、αとは、API(American Petroleum Institute)617規格2.6.2中に規定されたSM(Seperation Margin)を意味している。
|軸固有振動数/回転数−1|>α・・・・・式(11)
【0071】
そして、S8における判定において、回転軸21が共振しないと判断した場合(S8:No)、
図2に示すCAD作図手段145がCAD図面データを表示部13に出力した後、そのまま処理が終了する。
【0072】
一方、S8における判定において、回転軸21が共振すると判断した場合(S8:Yes)、
図2に示す共振判定回数カウント手段148が、共振判定を行った回数がn回目に達しているか否かを判定する(S9)。その結果、共振判定を行った回数がn回目に達していないと判断した場合(S9:No)、S3へ戻ってインペラ22の構造仕様及び遠心圧縮機1の回転数(N)を再度決定した後、その後の処理を繰り返す。
【0073】
他方、S9における判定において共振判定を行った回数がn回目に達したと判断した場合(S9:Yes)、
図2に示すボス比変更回数カウント手段149が、ボス比の変更を行った回数がm回目に達しているか否かを判定する(S10)。
【0074】
そして、S10における判定の結果、ボス比変更回数カウント手段149が、ボス比の変更を行った回数がm回目に達していない(S10:No)と判断した場合、
図2に示すボス比変更手段150がボス比を初期値から変更する(S11)。より詳細には、
図5(a)(b)に示すように、ボス比の初期値は最低ボス比(実線で図示)に設定されている。ボス比変更手段150は、最低ボス比から最高ボス比(破線で図示)までの間として予め定められたボス比設定範囲において、
図5に二点鎖線で示すように、ボス比を最低ボス比よりも若干高い値に設定する。
【0075】
尚、ボス比の初期値は本実施形態のように最低ボス比に限られず、ボス比設定範囲内で任意の値に設定することができる。しかし、本実施形態のように初期値を最低ボス比に設定すれば、最初の設計時においてはボス比を最低として、より高性能の遠心圧縮機1を設計可能とするとともに、最初の設計時において共振が発生しないようにすることができない場合に、ボス比の変更幅を十分大きく確保することができるので、性能を満たす範囲で共振が発生しないような条件を容易に選択することが可能となる。
【0076】
その後、
図4においてS3へ戻り、ボス比を変更したインペラ22について、ブレード222の構造を変更することなく、ブレード222より内周側のボス径Db(
図1を参照)を含んだ構造仕様を変更することにより、インペラ22を変更後のボス比とする。これにより、開発に時間やコストを要するブレード222については変更することがないため、必要とされる性能を満たしつつ、回転軸21の共振が生じない遠心圧縮機1を短時間且つ低コストで設計することができる。
【0077】
そして、その後はS4以降の処理を繰り返す。この時、S4にて出入口圧力比(Pr)を算出するために、
図5を使用して変更後のボス比に対応する遠心圧縮機1の効率(ηi)や圧力係数(μi)を決定する際には、最低ボス比の曲線と最高ボス比の曲線を用いて補間すればよい。
【0078】
一方、S10における判定の結果、ボス比変更回数カウント手段149が、ボス比の変更を行った回数がm回目に達している(S10:Yes)と判断した場合、
図2に示す軸ケーシング分割手段151が回転軸21及びケーシング3をそれぞれ複数に分割する(S12)。その後、
図4においてS3に戻り、インペラ22の構造仕様及び遠心圧縮機1の回転数(N)を決め直した後、S8において回転軸21が共振しないと判断されるまで、S4以降の処理を繰り返す。
【0079】
或いは、S10における判定の結果、ボス比変更回数カウント手段149が、ボス比の変更を行った回数がm回目に達している(S10:Yes)と判断した場合、
図2に示す新インペラ開発手段152が、新たな形状のインペラ22を新規に開発する。より詳細には、
図5に示される最高ボス比のグラフより更に大きいボス比が必要な場合、新インペラ開発手段152は、ブレード222の形状を修正することにより新たなインペラ22を開発する(S12)。その後、
図4においてS3に戻り、新たなインペラ22の構造仕様及び遠心圧縮機1の回転数(N)を決め直した後、S8において回転軸21が共振しないと判断されるまで、S4以降の処理を繰り返す。
【0080】
以上の設計方法によって設計工程を実施した後に、当該設計工程で設計された構造仕様の遠心圧縮機1を製造していく。具体的には、上記構造仕様を満たす遠心圧縮機1の各部材を製造する部材製造工程と、該部材製造工程で製造された部材を組み立てる部材組立工程とを備える。
【0081】
部材製造工程で製造される各部材とは、
図1に示す各部材であり、例えば、回転軸21、インペラ22、ケーシング3、軸受などである。回転軸21は、例えば、所定の材質で形成された鋼材を切削加工することなどにより製造される。また、インペラ22は、ディスク221、ブレード222、及びシュラウドの各部分を、それぞれ別体として製造して組み付ける場合や、一体的に製造する場合がある。
【0082】
インペラ22の上記各部分を別体として製造する場合には、それぞれの形状と対応する母型を鍛造、鋳造などで製造した後に、細部については切削加工等で仕上げることにより製造される。この際、例えばディスク221、ブレード222、及びシュラウドの全てが別体として製造されるのではなく、ディスク221とブレード222、またはブレード222とシュラウドとが一体的に製造される場合もある。そして、製造された各部分を、溶接、ろう付け等により接合することによりインペラ22として製造される。また、一体的に製造する場合には、インペラ22の形状と対応する母型を鍛造、鋳造などで製造した後に、流路4となる部分を機械切削や放電加工により切削加工することにより形成する。
【0083】
また、ケーシング3は、鋳造などにより形成される。組立上、半割れとなるように二つに分けて製造され、以下の部材組立工程において一体的に組み立てられる。
【0084】
部材組立工程では、例えばまず回転軸21に対してインペラ22を焼き嵌めなどにより一体となるように組み付ける。さらに、回転軸21の両端に軸受けを組み付ける。次に、ケーシング3の半割れの一方において、一体となった回転軸21、インペラ22及び軸受けを組み付ける。最後に、ケーシング3の他方を一方に組み付けることで完成する。
【0085】
以上説明したように、本実施形態に係る遠心圧縮機1の設計システムによれば、ボス比を変更したインペラ22について、ブレード222の構造を変更することなく、ブレード222より内周側のボス径Db(
図1を参照)を含んだ構造仕様を変更することにより、インペラ22を変更後のボス比とする。これにより、開発に時間やコストを要するブレード222については変更することがないため、必要とされる性能を満たしつつ、回転軸21の共振が生じない遠心圧縮機1を短時間且つ低コストで設計することができる。
【0086】
なお、上記部材製造工程及び部材組立工程は、一般的な圧縮機の製造工程を示すものであり、その他、シール構造や吸気構造等、様々な構造を構成する部材が部材製造工程で製造され、部材組立工程で組み付けられる。
【0087】
尚、本発明に係る遠心回転機としては、本実施形態で説明した遠心圧縮機1に限定されず、遠心ポンプ等であってもよい。
【0088】
また、以上説明した全ての処理を設計システムが実行することに代えて、ユーザが手作業にて行うようにしてもよい。
【0089】
尚、上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ、或いは動作手順等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。