【実施例】
【0030】
以下で示す潤滑油組成物をそれぞれ調製し、実施例1、参考例1及び比較例1とした。基油は、POE VG68を用いた。
【表1】
*TATP:トリアリールチオホスフェイト
*TPP:トリフェニルホスフェイト
*TCP:トリ−m−トルイルホスフェイト及びトリ−p−トルイルホスフェイトの混合物
*BHT:2,6−ジターシャリーブチルヒドロキシトルエン
*BTA:N,N−ビス(2−エチルヘキシル)−4−メチルベンゾトリアゾール−1−メチルアミン及びN,N−ビス(2−エチルヘキシル)−5−メチルベンゾトリアゾール−1−メチルアミンの混合物
*酸捕捉剤B:デシルグリシジンエステル
*酸捕捉剤A:オクチルグリシジルエーテル
*酸捕捉剤C:N,N’−ビス(ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド
【0031】
実施例1、参考例1及び比較例1の潤滑油組成物を、ルームエアコン用ロータリー圧縮機の密閉系内で長時間循環させ、経時的な流量プロファイルを測定した。ロータリー圧縮機の上部軸受、ロータ、及び下部軸受は、鉄(SCM)製とした。詳細な条件は以下に示す。
冷媒:R410A
キャピラリーチューブ:銅製、φ1.1×500mm、3本
運転時間:1000時間
吐出圧力(飽和温度):3.25MPa(54.4℃)
吸入圧力(飽和温度):0.89MPa(7.2℃)
吐出ガス温度:120℃
膨張弁前温度:46.1℃
【0032】
図1に、各潤滑油組成物を循環させたときの流量及び時間の関係を示す。同図において、横軸が時間、縦軸が流量である。比較例1の潤滑油組成物を循環させた場合、流量は一旦2.0kg/minから2.2kg/minまで上昇したが、150時間を過ぎたあたりから徐々に低下し、500時間が経過した時点で1.9kg/min以下となった。一方、実施例1及び参考例1の潤滑油組成物をそれぞれ循環させた場合、流量は2.5kg/minから徐々に低下したが、1000時間が経過した時点でも2.3kg/minを維持していた。なお、
図1において実施例1及び参考例1のプロファイルの前半で流量が1.8kg/minまで下がっている部分は、電源をON/OFFしたときの推移であり、本検討の結果に影響するものではない。
【0033】
各潤滑油組成物を上記条件で循環させた後、キャピラリーチューブを長手方向に沿って切断し、断面を光学顕微鏡で観察した。比較例1では、キャピラリーチューブ内壁が茶褐色に変化し、析出物(酸化銅)が観察された。一方、実施例1及び参考例1では、キャピラリーチューブ内壁は金属光沢を残しており、析出物は認められなかった。
【0034】
各潤滑油組成物を上記条件で循環させた後、圧縮機の摺動部材(上部軸受/ロータ/下部軸受)を分解し、摺動部での銅メッキの発生の有無を目視で確認した。その結果、参考例1では銅メッキが発生したが、実施例1及び比較例1では銅メッキの発生は認められなかった。
【0035】
上記結果から、参考例1は、キャピラリーチューブの詰まりを抑制できるが、摺動部などにおいて銅メッキを発生させることが確認された。これは、参考例1の潤滑剤がSを含有していないことにより潤滑性が低下したことに起因すると考えられる。一方、実施例1は、キャピラリーチューブの詰まりを抑制するとともに、摺動部などにおける銅メッキの発生も抑制できた。
【0036】
次に、表2、表3、及び表4に示すように、種類の異なる潤滑剤を独立して含む潤滑油組成物1〜14、潤滑油組成物15〜23、潤滑油組成物24〜27、及び実施例1をそれぞれ調製し、潤滑性評価試験を実施した。潤滑剤以外の添加物及び基油は、実施例1と同様の組成とした。
【0037】
【表2】
*TPP:トリフェニルホスフェイト
*TCP:トリ−m−トルイルホスフェイト及びトリ−p−トルイルホスフェイトの混合物
*TATP:トリフェニルチオホスフェイト、モノ−(m又はp−ターシャリーブチルフェニル)−ジフェニルチオホスフェイト、ジ−(m又はp−ターシャリーブチルフェニル)−モノフェニルチオホスフェイト、及びトリ−(m又はp−ターシャリーブチルフェニル)チオホスフェイトの混合物
*TOP:トリオクチルホスファイト
*TOlP:トリオレイルホスフェイト
*DOlPi:ジオレイルハイドロジェンホスファイト
【0038】
【表3】
【0039】
【表4】
【0040】
潤滑性評価試験は、Falex潤滑試験機を用い、以下の条件で実施した。なお、本試験では、バブリング開始直後に加熱を開始した。
吹き込み:R410A 10L/hr
回転数:290rpm(滑り速度 0.1m/s)
開始温度:60℃
荷重:250lbs(T)
時間:20分
バブリング時間:20分
電流:60mA
【0041】
図2に、表2の潤滑油組成物を用いた潤滑性評価試験の結果を示す。同図において、縦軸が摩耗量である。
図2によれば、硫黄−リン系の潤滑剤を用いた潤滑油組成物9の摩耗量が3.60mg、正リン酸系の潤滑剤を用いた潤滑油組成物10〜13の摩耗量が4.50mg〜5.30mg、亜リン酸系の潤滑剤を用いた潤滑油組成物14の摩耗量が0.10mgとなった。これにより、潤滑油組成物全量に対して同じ含有率であれば、硫黄元素を含む方が潤滑性の高い潤滑油組成物となることが確認された。また、亜リン酸エステルを含む潤滑油組成物の潤滑性も高かった。亜リン酸エステルは正リン酸エステルより活性が極めて高いため、金属と反応して摩耗を抑制する被膜を造る効果が高くなったものと考えられる。しかしながら、硫黄元素や亜リン酸エステルを含む潤滑油組成物は、配管の詰まりを発生させる恐れがある。
【0042】
図2によれば、潤滑油組成物1及び潤滑油組成物3の摩耗量は3.50mgであった。これにより、TCPまたはTPPの含有率を2倍にすることで、硫黄を含まない潤滑剤を用いた潤滑油組成物あっても、硫黄−リン系の潤滑剤を用いた潤滑油組成物9と同等の潤滑性を示すことが確認された。また、潤滑油組成物1、潤滑油組成物5、及び潤滑油組成物7を比較すると、潤滑剤の含有率を4重量%まで高くすることで、摩耗量は2.0mg以下となった。一方、2種類の正リン酸系の潤滑剤が混在する潤滑油組成物2、潤滑油組成物4、潤滑油組成物6、及び潤滑油組成物8の摩耗量は、それぞれ1.95mg、1.95mg、0.90mg、及び1.90mgとなった。これにより、潤滑油組成物全量に対して同じ含有率であれば、2種類の正リン酸系の潤滑剤を含有させた方が、より潤滑性の高い潤滑油組成物となることが確認された。
【0043】
図3に、表3の潤滑油組成物を用いた潤滑性評価試験の結果を示す。同図において、縦軸が摩耗量である。潤滑油組成物15、及び潤滑油組成物16の摩耗量は3〜3.5mgであった。潤滑剤を2種類混合した潤滑油組成物6、潤滑油組成物17〜23及び実施例1は摩耗量が3よりも低くなった。また、
図3によれば潤滑材の含有率は高いほど、摩耗量は低下した。潤滑油組成物22では、摩耗量が1.5mg以下となったが、この潤滑油組成物はTPPの含有率が2.0重量%も配合されているため、海洋汚染防止法の規制により実機で使用することはできない。一方、潤滑油組成物6では、TPPの含有率が1.0重量%であったが、TCPを2.0重量%配合することにより、摩耗量を1.5mg以下とすることができた。
【0044】
図4に、表4の潤滑油組成物を用いた潤滑性評価試験の結果を示す。同図において、横軸がリン含有量、縦軸が摩耗量である。
図4によれば、摩耗量は、潤滑油組成物中のリン含有量が増えるに従い低下した。一方、リン含有量が2.7mg/gを超えると摩耗量は上昇に転じた。リン含有量が3.5mg/gでは、摩耗量が1.5mgであった。これにより、潤滑剤を添加することで、摩耗量を低下させる効果が得られ、潤滑油組成物中のリン含有量は、3.5mg/g以下が好ましいことが確認された。
【0045】
次に、表5に示す潤滑油組成物をそれぞれ調製し、実施例2〜実施例5、参考例2及び比較例2とした。基油は、POE VG68を用いた。
【表5】
【0046】
実施例2〜5、参考例2及び比較例2について、熱化学安定性試験及び潤滑性評価試験を実施した。
熱化学安定性試験は、シールドグラスチューブ(SGT)を用い、JIS K 2211に準じて実施した。詳細な実験条件を以下に示す。
冷媒:R410A
封入量:1g/5g(油面5mm)
温度:200℃
期間:3日間
水分:50ppm以下
触媒(Fe、Cu、及びAl):各80mm
酸化銅(CuO):60mm×2(触媒同様磨いた銅を800℃×10分加熱)
2−エチルヘキサン酸:4000ppm(外割 0.4質量%)
【0047】
潤滑性評価試験は、Falex潤滑試験機を用い、以下の条件で実施した。なお、本試験では、バブリング開始直後に加熱を開始した。
吹き込み:R410A 10L/hr
回転数:290rpm(滑り速度 0.1m/s)
開始温度:60℃
荷重:250lbs(T)
時間:20分
バブリング時間:20分
電流:60mA
【0048】
図5に、熱化学安定性試験及び潤滑性評価試験の結果を示す。なお、詳細な数値は、表5に記載した。同図において、横軸が評価した潤滑油組成物、縦軸(左)がCu析出量、縦軸(右)が摩耗量、棒がCu析出量、■プロットが摩耗量である。
【0049】
図5によれば、Cu析出量は、参考例2で最も多かった。また、実施例2〜実施例5のCu析出量は比較例2よりも少なかった。なかでも実施例2及び実施例5は、特にCu析出量が少なかった。摩耗量は、比較例2及び参考例2がそれぞれ2.6mg及び2.7mgであり、実施例2〜実施例5はいずれも比較例2と同等またはそれ以下となった。上記結果によれば、実施例2〜実施例5は、硫黄−リン系の潤滑剤を含む潤滑油組成物と同等以上の潤滑性を示すとともに、Cuの析出も低減できる。
【0050】
次に、潤滑油組成物中における金属不活性剤の含有量を変化させ、SGT試験により銅メッキ発生量を測定した。詳細な試験条件を以下に示す。
SGT:大
試験油:実施例2の潤滑油組成物(ただし、金属不活性剤の含有量は0ppm〜700ppm)
冷媒:R410A
封入量:1g/5g(油面5mm)
温度:200℃
期間:3日間
水分:50ppm以下
触媒(Fe、Cu、及びAl):各80mm
酸化銅(CuO):60mm×2(触媒同様磨いた銅を800℃×10分加熱)
2−エチルヘキサン酸:4000ppm(外割 0.4質量%)
【0051】
表6に、上記結果を示す。
【表6】
*BTA:N,N−ビス(2−エチルヘキシル)−4−メチルベンゾトリアゾール−1−メチルアミン及びN,N−ビス(2−エチルヘキシル)−5−メチルベンゾトリアゾール−1−メチルアミンの混合物(金属不活性化剤)
【0052】
図6に、金属不活性化剤の添加量と銅メッキ発生量との関係を示す。同図において、横軸がBTAの添加量、縦軸が銅メッキ発生量である。
図6によれば、金属不活性化剤の添加量が多くなるにつれて、銅メッキ発生量は低下した。上記結果によれば、金属不活性化剤の添加量は、100ppm以上、好ましくは300ppm以上、更に好ましくは500ppm以上とすることで、銅メッキの発生量を抑制することができる。